煌めく隠岐紅音の世界から   作:紅島涼秋

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 当作品は、「小説家になろう」投稿作品である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」の二次創作となります。
あらすじ
 隠岐紅音(秋津茜)と陽務楽郎(サンラク)の恋愛SS。秋津茜中学3年生の夏に家族旅行とともに旅狼のオフ会が決行されることになった。二人の仲はどうなるのか?
クターニッド後、旅狼所属済み。オフ会という原作の過去改変にあたります。

 作者である硬梨菜様の作品、いつも楽しく拝読しています。
【注意事項】
 秋津茜可愛すぎて滅びた。という気持ちから書きました。秋津茜と陽務楽郎の恋愛SSです。
 原作である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」とは一致しない設定などもありますが、ご容赦願えればと想います。
 基本的なゲーム部分に詳細な物は無いので、人間関係の設定だけ目をつむっていただければ幸いです。
 最初と途中入るシリアス成分のせいでい秋津茜の性格が光属性ではないかもしれません。そのため、秋津茜に曇りは要らぬというタイプの方はこれを見なかったことにしてくだされば幸いです。ちょっと恋愛につなげるために挟んでしまいました……。
 秋津茜中学3年生の夏に家族旅行で旅狼のオフ会が決行されることになりました。そういう設定で物語を動かしますので、原作の過去改変にあたってしまうと思います。
 文章はほぼ「ですます」で独白みたいな状態です。

 ハーメルン投稿未熟のため不手際等ありましたら申し訳ございません。随時理解次第改善していきますので、ご容赦願えれば幸いです。


煌めきはあなたと共に駆けて

 朝の日差しの下で、アスファルトの道を一定のペースで私は走っていた。カレンダー上は春と言われている月の空気は朝でもまだ寒い。

 未来の自分は今の私をどう見るだろう。

 そう考えて、私は"今の自分"から"過去の自分"を振り返る。

 華奢な体に暗い顔をして私を見つめる"私"。でも、今の私はそんな昔の私を尊敬する。歩きだそうとしたから。

 これから私は何を見つけられるだろうか。その答えは、きっと――。

 住宅街を抜けて、高台の上に立てられた学校の校門の前にたどり着く。

 高台にあるここからの景色は、結構好きだった。頑張らないと見れなかったものだから。けど、これも今日で見納め。

 広がる山々は碧く輝き、鳥が空を舞う。

 

 世界はこんなに煌めいている。

 

 

     φ

 

 先輩方にSNSで連絡したのは気まぐれでした。

 偶然ペンシルゴンさんがサンラクさんの住んでいる都市についてお話されたので、私は近く家族旅行でそちらに行きます! と言ったら、ペンシルゴンさんがすごい嬉しそうにオフ会なるものをセッティングしてくれました。

 私はちょっとだけ迷いましたが、ここで踏み出さないのは違うんじゃないかと思ってスケジュールを確認して参加を表明しました。私のお祝いで旅行を組んでくれた両親には悪いのですが、オンラインゲームの中でいつも顔を合わせて楽しくさせてもらっている方たちと直に顔を合わせて話せるというのは、私にとって良いものになるのではないかと思ったからです。

 ペンシルゴンさんはスケジューリングを整えるのが得意なのか、私のスケジュールに合わせてみんなの予定を組み上げていきます。けれど、やはり予定が合わず一部来れない方もいました。

 また不思議なのは、オイカッツォさんとサンラクさんについては参加の可否ではなく、参加決定で話しをされていたことなのですが、きっと仲良しなのでしょう。少しだけ羨ましいです。これがきっと昔からの腐れ縁の以心伝心というものではないでしょうか。

 私はまだまだそういう付き合いが長い友人はいないのです。

 家族も一生懸命説得しました。とりあえず旅狼のトップ三名の写真をペンシルゴンさんが送ってくださり、変な人達――じゃないですよと説得しました。ペンシルゴンさんはゲームアバターとそのままなのは驚きました。もしかして、私と一緒で嬉しくて素顔で登録してしまったのでしょうか?

 さておき、ペンシルゴンさんは楽しそうに私の両親と通話をしていただいて、説得に協力してくれました。サンラクさんやオイカッツォさんはよくペンシルゴンさんとは会話する前に倒したほうが良いと言っておられましたけれど、こんな優しい人にそんなことはできません。

 無事説得に成功した私は、旅行の日を楽しみにしていました。

 

 

 ……楽しみにしすぎました。

 私は夏の日差しを浴びながら駅前に降り立って後悔していました。

 皆さんと会う約束をしている時間よりも早く来すぎたのです。

 SNSを見ても当然「もう着きます!」と書かれてる方はいません。私は恥ずかしいので当然書いていません。

 私はうーんと悩んでから、とりあえず運動がてら歩いて散策することに決めました。旅行中はストレッチはしていますが、日課のランニングが出来ていません。けれど、今ランニングしてしまえば汗で濡れた状態で皆さんに顔を合わせることになってしまいます。

 そういうのは無しだと考えました。

 看板を見て悩んでから、とりあえず大きめのスペースを緑色で塗られた場所へ向かうことにします。近くに川も書かれており、きっと公園でしょう。

 

 

 地図の縮尺に騙されました……。かなり歩いてたどり着いた公園は、木々に囲まれて爽やかな風の香りがしていました。

 公園で走っている人がいます。そんな姿を見ると私もランニングしたくなって、なぜかその人が声を上げて足を止めました。

 

「秋津茜?」

「はい!」

 

 思わずスパッと勢いのある返事を発しましたが、私はきっと間抜けな顔をしていたに違いありません。その人はどうして私のゲームの中の名前を知っているのでしょう。そんなことを思いながらよくよく見れば、写真でお見かけた顔です!

 

「もしかしてサンラクさんですか!?」

「こっちでは陽務楽郎ね」

「あわ、すみません。あのー、私もゲームの名前じゃなくて、……隠岐 紅音です」

「あかねは変わらないんだなー」

「安直ですみません」

「良いと思うよ、俺も同じようなものだから。隠岐さんは、もしかしてもう集合する時間だったか?」

「いえいえ、全然違います。私がちょっと早く来すぎちゃいまして!」

 

 サンラクさん……いえ、陽務さんが携帯端末を見てホントだと納得していました。とてつもなく恥ずかしいです。

 あと、ゲーム内と顔が全く同じだということもバレるということを忘れていて、今気づいたのでそれも恥ずかしくなってきました。

 

「あー、とりあえず俺、家に帰るんだけど、どうする? というか、良くここまで来たね」

「えーっと、地図に騙されてしまいました! 良かったら改めて集合するときに一緒に着いて行かせてもらえれば助かります!」

「隠岐さんは元気だなぁ。良いよ、じゃあ、とりあえず家に行こうか?」

「はい! ありがとうございます」

 

 先輩に付いて雑談しながら家へ向かいます。近くにお店も無いですし、また駅まで歩いたらとても時間が掛かりそうです。

 先輩の家は一軒家でした。私はありがたく家に上げてもらって、同じ年のサンラクさんの妹さんと出くわして一悶着ありましたが、なんとか説明に成功しました。なぜかいきなり「お兄ちゃんが年下の彼女連れてきたあああ!」と大きな声で言われた時はとても焦りました。陽務さん……、妹さんも陽務さんです!

 楽郎さんが瑠美さんに無事事情を説明して、私はリビングで楽郎さんが着替え終わるのを待つ間に、瑠美さんとたくさんお話できました。モデルのお仕事をしているということで、私と違ってもっと女性らしいスタイルをしていました。同い年なのに羨ましいです!

 楽郎さんが愛飲しているライオットブラッドなるものを示されて、滔々と楽郎さんの生活についても聞かされました。うーん、確かにこれは良くないと私も思います!

 楽郎さんが着替え終わってリビングに姿を見せた時に、私は瑠美さんと一緒に徹夜の問題について楽郎さんと向き合って話しました。健全な生活が大事だと思います! ランニングもされているようなのに、勿体無いです。

 

「いやー、時間がなくて頼っちゃんだよね」

「でも、楽郎さん無理し過ぎは駄目だと思います! 体がもちません。徹夜した次の日のランは自分でも良くない結果にしかならないんです」

「隠岐さんはアスリートだなー。俺は勉強やってゲーム開始すると遅くなっちゃったりしてね」

 

 う、あんまり強く言えそうに無いです。私もリュカオーンの時もついつい遅くなったりしました。それ以外でもこっそり遅くまでゲームをしている時があります。結局説得は上手くいきませんでしたが、よほどのことが無い限りは無理しないと約束いただけました。リュカオーンやクターニッド、クソゲー(??)攻略などのレベルでなければ無理ではないらしいです。あまり変わらなかったかもしれません。

 そんな話しをしていたら、良い時間になったらしく妹さんに見送られて二人で集合場所へ向かうためのバスに乗るため歩きました。

 並んで歩いていると、楽郎さんは私が見上げなければ視線が合わないくらい背が高くて、大人の男性という感じです。

 

「あの、陽務君」

「あ、斎賀さん。ちょうど良かった一緒に行く?」

「こ、こんにちは。その、この方は」

「隠岐紅音さん、秋津茜だよ。隠岐さん、こちら斎賀玲さん」

「サイガ-0さんですか! 隠岐紅音です。斎賀さん、よろしくおねがいしますっ!」

「ふわぁ、よろしくお願い、します。あのどうしてお二人は一緒に?」

「道に迷ったら楽郎さんに助けられました!」

「ら、ららら――」

「ら?」

 

 楽郎さんに聞くと、よくあることらしいです。大事なのは時間を置くことらしいです。とりあえず三人で目的地に向かいます。斎賀さんはゲームの時とはイメージが違うので驚きました。ムキムキじゃないです。清楚なお嬢様です。

 楽郎さん達とシャンフロの話しで盛り上がり、さらに私の部活動の事で話しを聞いてもらいました。

 格闘ゲームで初めて出会った時も初心者の私に戦闘しながら教えてくれました。楽郎さんの初心者というか先輩として後輩に対するスタンスはとても優しいです。実は今までプレイしたゲームの内容をあげていくと、楽郎さんもプレイしたことがあるゲームばかりでとても盛り上がってしまいました。

 頑張ってクリアしたつもりですが、まだまだ見落としていることが多かったみたいで、プレイしてきたゲームのイメージがまた変わります。たくさんのことを教えてもらい、私の気持ちはほくほくです。

 

 オフ会の集合場所にはペンシルゴンさんやオイカッツォさんとシルヴィアさんという方が居て、楽郎さんが何故か逃げ出そうとしたので、ペンシルゴンさんに言われて追いかけて手を取りました。捕まえるなんて大層なことは出来ませんが、私が楽郎さんの手を捕まえるとあっさり足を止めてくれて、なぜか諦めた顔をしていました。

 逃げ出さないように捕まえていてとペンシルゴンさんがなぜか楽しそうに言うので私は楽郎さんと手をつないだまま合流します。……父親以外で、さらに年の近い男の人の手は私と比べると大きかったです。ドキドキしました。お店に着くまで結局繋いだままでしたが、楽郎さんは良かったのでしょうか。

 手を繋いでる間、楽郎さんの顔を見ることは出来なくて私にはわかりません。

 でも、私は嬉しくて良かったです。

 

    φ

 

 秋が過ぎてすっかり冬になりました。たくさんある写真を振り返れば、オフ会の楽しい時間が蘇ってきます。オフ会ではほとんど楽郎さんの隣に座って話してしまいましたが、楽郎さんには個別の連絡をもらえました! 聞いたら案外すぐに教えてもらえたのです。

 シャンフロや旅狼SNS以外でも、個人的にお話したいことがある時はやり取りしています。

 たまに、クソゲー(??)期間という物で連絡が取れなくなります。その時はシャンフロでも会えないので寂しいです。

 オフ会の後に悩みがあって、両親に相談しました。何度も両親と話し合いましたが、秋からずっと両親は難しい顔をしているばかりです。

 とりあえず冬休みも勉強を頑張って、受験をするつもりです。今の住んでいるところからは遠くなるので両親の説得を頑張っています。

 無駄にしたくないです。

 さらに説得方法を天音さんや魚臣さんに相談して学びました。勉強になることばかりです。

 

    φ

 

「サンラクさん」

「どした?」

「ここに行ってみませんか?」

 

 ゲームで私はサンラクさんを誘って、そこへ向かいました。

 それは海を望む街にある教会の塔のてっぺんにあるひらけた空間です。

 時間は夜で、海は黒い鏡みたいになって満月を反射していました。

 二人共軽量敏捷寄りなのでスキルを使ってこっそり駆け上がりましたが、とても高いです。きっと高所恐怖症の人はゲームとはいえ立っていられないでしょう。

 強い風が私の体を撫でてどこかへ消えていきます。

 いつも着けている狐の面を外して、素顔を晒します。ここなら誰に見られることも無いでしょう。サンラクさんも珍しくあの仮面を外してくれました。

 ……うーん、姿に関してツッコミは止めておきます。真面目な話です!

 

「ここに何かクエストでもあるのか?」

「ごめんなさい。クエストなんて無いです。話があってお誘いしました。

 サンラクさんは未来の自分が憧れって言ったじゃないですか」

「懐かしすぎる」

「ふふ、そうかもしれません。……私はサンラクさんとここに来たかったんです」

 

 海のうねりが見えて、波の音が聞こえてくる気がします。けれど、やっぱりそれは気のせいです。だって、風の音だけがここで私達を包んでいますから。

 

「楽郎さんは陸上部の私しか出会ってないかもしれませんけど、私、元々虚弱だったんです」

「オフ会で在った時はそんなイメージ全く無かったな」

「はい、頑張りましたから! 私は頑張る人を応援したいです」

「……ずっと思っていたけど、なぜ?」

 

 尋ねられると思っていました。けれど、尋ねられると答えに詰まってしまいました。

 私の目の前に立つ彼に私は何度も考えて来た言葉を言おうとして、ああ、これは違うんだなとその言葉を選ぶのを止めました。

 どうして楽郎さんの瞳はこんなに前を見つめられるのでしょう。

 

「私は、諦めたくない」

 

 それは私の内心。それが私の根底。

 頑張る人を応援したい。どうして?

 目的に向かう人を手助けしたい。どうして?

 今の私の言葉を、過去の"体が不調にならないようにじっと耐えていた私"が尋ねていた。

 楽郎さんは何を言うでもなく、私の言葉を待ってくれている。

 

「手を伸ばすのは憚れた。私が体調を崩せば親に迷惑がかかる。クラスメイトに迷惑がかかる。だから、諦めるしか無かった。クラスメイトが気軽に投げ出したものは私が欲しかったもの。だけど、それは私の物じゃない」

「……そうだよ、紅音がほしかったものは何だ」

「手を伸ばしたい。自分の出来る範囲、狭い世界じゃなく、楽しそうに新しいことを話すクラスメイトたちと少しでも理解したい。私は置き去りにされたくなかった。だから、私は走り出した」

 

 そう、私は走り出した。虚弱体質を治すために走って倒れて、だけどもう私は走り出していたから、足を止めることを私自身が許さなかった。

 

「親が止めたほうが良いと言っても、私はもう走り出したから!

 私は走るのを止められるよりも、応援されたかった!

 頑張れって言ってほしかった!

 何を言われても私は静止を振り切って走り続けて、私は今の私になった。

 両親は良かったって、友達も良かったって、虚弱じゃない私を褒めてくれる。

 でも、私はそれは違うと思う。

 挑戦しなかったら今の私は無かった、違いませんか?」

「それを俺に聞いて、今の、これからの隠岐紅音に大事か?」

「……はい。いいえ、大事じゃないです。そうですね。私、間違えちゃいました」

 

 初めて変わろうと思って走り出したのは、今みたいに大きな満月が空にある時でした。その時は誰も私を応援してくれなかったかもしれないけど。

 

「私は誰に何かを言われても良いです。

 せめて、私の近くで努力する人がいれば応援したい。

 目的に向かって進む人がいれば手助けしたい。

 努力を選ぶなら、私はそれを間違いだと思いません。目指すものがあるのなら、その道を私は誤りだと思いません。

 だけど、ふと立ち止まって迷った時に、偶然楽郎さんがいました。あんな質問をしたのは本当に偶然だったんけど、私は私以外から私の答えを聞きました」

「そんな大層なもんじゃないと思うけどな。みんなやめたいから、足を止めるんだ。……挑戦しない人はわかんないけどな」

「そうですね」

 

 楽郎さんはそんな風に気楽に言いました。けれど、それはどれほど高く遠い先か私にはわかりません。

 楽郎さんの視線はいつもまっすぐで強いです。シャンフロを始めてリュカオーンと戦う楽郎さんに出会った時から変わりません。でも、変わらないのに楽郎さんは前へいつも進んでいます。いつもあなたを見ていたつもりだったけど、気がつけば走り出して私の視界から居なくなっていました。追いつけないです。

 だけど、私は知っています。追いかけなくて良い。

 楽郎さんは走っている。だから、私も前へ向かって走れば楽郎さんと必ずどこかで交差する場所があると分かってます。

 初めて出会ってから、今までもずっとそうでしたから!

 

「私が振り返れば、虚弱だった頃の"私"が私を見てます。これが"私"だった。でも、今の私も私自身なんです。

 頑張ったら今の私になったから、今の私の先が分からなかった。何を目標にすれば良いんだろう。そんな風に思っていて、私はただ"私"から離れようとしただけだった」

「逃げたいだけの人間は他人の応援なんて出来ない。無償の手助けなんて出来やしない。お前は」

「私はっ」

 

 楽郎さんの優しさを遮って、でも、私は大丈夫。だって、とっくに私はもらっているから。

 

「今の私は過去の私に誇れます。そして、私は楽郎さんと同じように未来の自分に憧れたい。未来の自分が今の私になった時に、過去の私が今の自分に向けて誇れるようにありたい。だから、楽郎さんありがとう」

「なぜお礼?」

「だって、楽郎さん。あなたのいる世界はこんなに楽しいから!」

 

 私は彼の手を取って、塔から飛び出す。もう足を置く床は無い。

 浮遊感の伴う自由落下から、私はスキルを使って足を踏み出した。

 楽郎さんの持つスキルとは比べ物にならないけれど、でも、空を歩くにはきっとちょうどいい。

 楽郎さんがびっくりしている顔がとても楽しくなって笑っていたら、いきなり楽郎さんに引っ張られ、気づけば飛び降りた塔の先をも越えた遥か高い空の上だった。

 どんどんと空を駆け上がって、気づけば遠くに見える雲を眼下に収めて、私も楽郎さんも重力に捕われてすごい速度で海へ向かって落ちていく。

 黒い海の鏡に映った月が青白く輝いて、空と海から私達を照らしていた。

 きっと楽郎さんには聞こえないだろう。こんなに風がうるさいんだから。

 今言うべきことは想いじゃなくて、だから私は感謝を声に出した。

 

「ありがとうございます」

 

 あなたと出会った世界はこんなに楽しい。

 あなたと出会えた世界はこんなに輝いている。

 

   φ

 

 中学の卒業式、いろんなクラスメイトや陸上部の後輩たちから尋ねられました。みんな比較的近くの高校に通います。でも、私は違う。

 別れを惜しむ声に答えていく中で、友人が私に尋ねました。

「どうして紅音はそんな遠くの高校に進学するつもりになったの?」

 私はそれに笑顔でまっすぐ答えます。

 きっと分かってもらえない内容かもしれないけど、これが私だから!

「これが私の誇れる道だから!」

 

    φ

 

 青空の下、軽やかな風が吹いて桜を散らしている。春の日差しをいっぱい受けた通学路を私は駆け抜けていた。

 高校の制服はまだ着慣れないけれど、これが今の私だ。

 学校へたどり着けば、私は彼の後ろ姿をすぐに見つけることが出来た。なんとなくだったけど、私は運が良いみたいだ。

 思いっきり息を吸って声を発した。

「楽郎さん!」

 彼が振り向けば、驚愕の表情を貼り付けていた。それはそうだろう。こっちに来ることを相談なんてしていなかったから。

 後で怒られるかもしれないけど、私は振り向いた彼の胸の中へ思いっきり飛び込んで抱きしめる。

「楽郎さん、あなたが好きです! 大好きです。あなたと一緒に走って行きたい。だからまずはここまで来ちゃいました!」

 

 あなたのいるこの世界は、こんなにも煌めいている!

 

 




少しでも楽しんでいただければ幸いです。
お読みいただき、まことにありがとうございました。

一部加筆修正12/27 18:13
一部修正12/27 20:27
シャンフロで見るまで紅音は海を見たことがなかったため
序盤の部分 広がる海→広がる山々に訂正
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