煌めく隠岐紅音の世界から   作:紅島涼秋

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 当作品は、「小説家になろう」投稿作品である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」の二次創作となります。
 作者である硬梨菜様の作品、いつも楽しく拝読しています。
【注意事項】
 秋津茜とサンラクの二次創作SSです。
 原作である「シャングリラ・フロンティア~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~」とは一致しない設定などもありますが、ご容赦願えれば幸いです。
 基本的なゲーム部分に詳細な物は無いので、人間関係の設定に目をつむっていただければ幸いです。
 文章はほぼ紅音の一人称です。


空は遠く、けれど眼前に広がっている

-a

 

 学校はとても楽しくて。とても退屈なところだった。

 

 

 放課後の小学校の窓からのぞく春の空は、どこよりも青く澄んで鳥が心地よさそうに泳いでいた。明日からのGWで浮足立つクラスメイトたちは仲の良い友だちと声を掛け合いながら、教室を続々と出ていく。私はじっと手に開いた本に視線を向けていた。

「ねえ、隠岐ちゃんはどうする?」

「え! えっと」

 急に声をかけられて驚いて、言葉に詰まった。視線を向けて、その瞳から逃げるようにすぐにうつむく。先ほどまでの教室の喧騒を思えば、放課後に"みんな"で遊びに行く話だろう。一学年一クラスしかない小学校の、もう四年も顔ぶれの変わらないクラスメイト達に声をかけられたのに、私はうまく応じることができずにいた。

「隠岐ちゃん?」

「あ……、あの、私」

「隠岐ちゃんはまっすぐ家に帰らないといけないんだから誘ったらかわいそうだよ」

 くすくす笑いで教室の扉近くにいるクラスメイトが告げた。私のそばに立ち声をかけてくれたクラスメイトが困ったような声で彼女へ返答をしていることに胸が締め付けられた。

「そんな」

「あ、あの、私、帰らないとだめだから、ごめんなさい」

「やっぱりそうだよね。ごめんね」

「……うん」

 そして、彼女たちはすっぱりとすぐに教室から去っていく。廊下で響いた声が耳に届いた。隠岐ちゃんはいつも来れないんだから良いじゃん。

 私は十分な時間を待ってから、ランドセルを担いで学校を出る。帰り道を本当にゆっくりと歩いていた。

 コンクリートの地面に伸びる影は長く濃い色をしていた。たくさんの影が私を追い抜いていき、騒がしく駆けていく。

 

 家に帰ると珍しく祖父母が顔を出していた。全員から今日は無理しなかった? と質問攻めをされて、私はなんとか笑って大丈夫だったと答えて食卓を囲む。

 どうして祖父母もいるのか聞くと、今日は良いものを持ってきたと言って、大きな箱を私に見せた。

 

「これどうしたの?」

「紅音ちゃんのゴールデンウイークの気晴らしになるかと思って、持ってきたの。お父さんもお母さんもうちの田んぼの手伝いで掛かり切りになってしまうでしょ?」

 

 誕生日でもないのに、どうしてと思っていたけど、おばあちゃんからそう返ってきた。

 休日にほぼ一歩も外に出ない私のために用意してくれたんだ。本来は私も家族の田んぼを手伝う愚痴を言うクラスメイトたちみたいに、駆り出されないといけないんだ。

 ……私は申し訳なさとかいろんな感情がぐるぐると混ざりあいながらも懸命に笑った。

「ありがとう」

 

-b

 

 次の日、私はそれを取り出して必要な道具を設置する。それはちょっと古い型式のVRマシンだった。VRといっても、ゴーグル型のマウントディスプレイに映像を映すタイプで、最近話題になっている意識没入型タイプではない。部屋のあちらこちらにモーション読み取り用の機器を置いた。簡単に置けたのでほっとする。一本だけ入っていたゲームをインストールして起動する。

 しっとりしたBGMとともに目の前に広がるくすんだ色合いの世界。

 流れ落ちるように現れたゲームタイトルは風にさらわれてあっという間に消えていった。薄暗い木々に囲まれた広場で、私の視線は持ち上がる。

 

「なんだ……。お前、生きておったのか」

 

 そうしてすぐに掛けられた声にびくっとして、声の方へ振り向けば、そこにはお腹に刀を刺された青年が枯れ木に背中を預けてこちらを気だるそうに見ていた。

 地面に広がる血溜まりはもう広がることはなく、黒々として乾きつつあった。

 

「なんとか、……言わんか」

「あ、あ、あの、はい、すみません」

 

 また出てしまった。ゲームなのに。どうして小学校で声をかけられた時みたいに、言葉に詰まって謝ってしまうのだろう。

 しかし、私の発言に彼は力なく一笑するだけだった。

 

「主殿は、その道の先にいる、はずだ。後は任せたぞ。……ああ、この腹に刺さった刀を持って、いけ。私の鎧を豆腐のように貫いた――」

 私が何か聞こうと思って、声を出す前に、彼はもう目を閉じ首は力なく顔を伏せた。もう動くことはない。おろおろとしている私を無視して、キャラクターが自動で動いて、彼の腹に刺さっていた刀を引き抜く。

 眼前に文字が並ぶ。おそらくこれを読めばいいようだ。おそらく先程、目の前の彼に声をかけられた時も見落としたが、表示されていたのだろう。

 私の分身であるキャラクターの手が合わさる。

「南無阿弥陀仏」

 お盆の時期にお墓参りをする際に読み上げるぐらいの言葉だ。ずっと実感の伴わない言葉だった。なのに、仮想のゲームの中で私は初めてそれを読み上げる意味にしっくり来たのかもしれなかった。

 

 亡骸から踵を返し、抜身の刀を持ってまっすぐに主殿がいるという道を進む。見上げた空は徐々に白くなりだして、朝へと向かっていた。

 多くの人が踏みしめることですっかり草も生えなくなった地面はなだらかな下り坂になっており、私を明るい世界からどこか暗い淵へと連れて行こうとしているみたいだった。

 

 思ったよりも長い、枯木でできた並木通りの先に、唐突に鮮やかな色が世界を明るくした。

「青い、藤の花」

 そして、その一本の藤の木に寄り添うように、少年が立っていた。おそらく彼が主殿だろう。主殿は哀愁を抱えた瞳を私に向けた。

「……そなた、生きておったのか。存外丈夫だな」

「すみません」

「そなたが謝って何になる。それで、刀を持って私を追ってきたのは、私の首を兄上に持っていくためか?」

「いえ、あの、あ……あ」

 私はそれで言葉に詰まってしまう。画面にはちゃんと言うべき内容が文章で表示されているのに、上手く声にならなかった。向けられた瞳の色が哀愁から別のものへと変わったせいだ。

 だって、その瞳は知っている。話しかけるのも億劫な、けれど義務感から向ける瞳。

 

『ねえ、隠岐ちゃんはどうする?』

 

 私は――。

 

 結局、私はその日すぐにゲームをログアウトした。

 

-c

 

 部屋の窓から見上げた空は間際に迫る夏の足音を含みつつも、爽やかな春の香りをまだしっかりと抱いた色合いだった。

 両親たちは朝も早くに田んぼのために出かけていった。私は両親に迷惑をかけないために、両親が出かけるのに合わせて早く起きして一緒に朝食を取り、いってらっしゃいと見送るしかできない。

 

 一人ぼっちの家の中で、私は何度も電源の入ったVRゴーグルを持ち上げながら、結局装着せずにいた。本棚から一冊の本を取り出してぼんやりと広げる。読むというよりは読むふりをしているだけだ。

 何もするでもなく、時間が過ぎて、気づけば夕暮れに空が染まっていた。

 水田仕事に疲れた母親が晩ごはんを用意して、私に田んぼ仕事の疲れなどを話す。毎年毎年の習慣だから、それは愚痴というよりは日常会話だった。私は曖昧に笑ってうなづくしかない。

 

「紅音は無理しちゃだめよ」

「今はおじいちゃんとおばあちゃんがくれたのを遊んでるから大丈夫」

 嘘だった。けど、両親はほっとしたような顔をする。父親のごつごつとした皮膚の手のひらが私の頭をなでて、無理はしないようになと伝えてくる。

 私はただただそれにうなづいて見せて、両親の不安が軽減された顔を見て、安心していた。

 

 自室に戻って机の上に置いたままのVR機器を持ち上げた。機器のランプが通知を知らせていた。

 疑問に思いつつ、先ほどまで装着するつもりがなかったそれを自然と起動していた。

 起動した画面には、効果音とともに画面に大きな文字が跳ねるようにバウンドしながらこちらへ"たくさん"近づいて飛び込んでくる。同じ文章が何個も何個もあって、画面を埋め尽くしていく。

 

『さっさとログインしてゲームを進めろ!』

 

 だから、私はあわててゲームにログインした。

 まだ1日も経っていないはずなのにひどく久しぶりに感じた。離れた位置にある青い藤の花の木々、そして土がむき出しの地面。

 重くじっとりした空気が漂う空間に、刀を腰の両方に備え仁王立ちしている"変な人"がいた。

 頭の部分は深く兜をかぶっており頬当をつけているため、顔が見えない。これで体に鎧をつけていれば私は変な人だと思わなかったと思う。その人は頭だけ立派に備えて、あとは着物だった。そんなちぐはぐな人が、私を見下ろしている。

 響いたのは、男の子の声だった。

 

「はぁー、ようやくログインしたか」

「あ、……あの、すみ、すみません」

「このゲーム、人なんていないと思ったのにまさかいるとは。何年前のゲームかわかってる?」

「え、いや、えっと。もらい、物なので」

「ああ、そっか。このゲームってオンラインマルチプレイ強制なのね。ゲームスタートした時に、進行エリアとログインタイミングが合うと、強制的にパーティが組まれて一定進行までストーリー進めないと解散とかもできなくて困るわけ」

 

 もう彼が何を言っているのか訳が分からなかった。おんらいんまる、ち? 頭の中をハテナが埋め尽くしていた。彼もそれを察したのか、考え込むような仕草をして思いついたように手を叩く。

 

「俺についてきてほしい」

「え、あの、知らない人に付いて行っちゃいけないって」

「子供か!」

「え、その、四年生、で――」

「個人情報!! ぬおおお、あんたゲーム初心者なのにこんな面倒なゲームチョイスするなんて無謀だろ」

「あ、ごめ、ごめんなさい。もらい、物」

「ああ、分かった分かった。それじゃあ、もう長々と説明するのは放棄する。ゲーム初心者ならまずは習うより体験しろ、だ。だから、あんたには選択肢が二つしかない。俺と一緒に行くか、俺の後ろに離れてついてくるか、だ」

「え、それって、一緒じゃ」

「? 全然違うだろ」

「何が、ですか?」

 

 彼は私の質問に一度首をかしげてから、思いついたようにうなづく。

 

「俺と二人三脚するか、俺のマラソンを画面越しに見るかは全く違うだろ」

「あ……」

「俺とゲームしようぜ」

 

 清涼な風が私を洗うように吹き抜けていく。

 私はどんな顔をしただろう。私はなんて答えようとしただろう。

 私が何かを言おうとしたのを遮るように彼は私を急かした。

 

「ほら、行くぞー」

 

 それまで動こうとしなかった私のキャラクターは、"私の足"は、確かに一歩前へ踏み出した。

 鮮やかな青い藤の花は風に揺れて、私たちを待っている。

 




続きは頑張ります。

シャンフロの更新が楽しみです。心待ちにしております。
二次創作SSとして、前の二作と違う物になっております。
お時間いただきお読みいただき、まことにありがとうございました。
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