というわけで今回は焔薙 様の『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』より、ヴァルター一家のご案内です!
ここにくるまでの経緯↓
https://syosetu.org/novel/166885/498.html
ちなみにこの話は大掃除(第百三十三話)の前になります。
年の瀬も近づいたとある日、年内の営業日も残すところあとわずかになった喫茶 鉄血は今日も変わらず営業中だ。とはいえ年末ということもあって客足はまばらで、久しぶりにゆ〜ったりとした時間が流れていた。
というか、暇を持て余していた。
「暇だねーD氏」
「そうだねーマヌ氏」
「暇なのはわかりますがだらけすぎですよ二人とも。 そんなに暇なら外へ出てみては?」
「代理人、この寒さの中外に出ろなんて悪魔の所業だよ」
そんなことを言いながらカウンターの中や外をうろちょろするマヌスクリプト。皿洗いも片付けも注文も終わっていて本当に暇なのだ。
こういう時くらい、暇な時間を吹き飛ばすような出来事でも起きてくれないものかと思いながら待ってみるが、当然そんな都合よく起こるはずがない
・・・・・と、いうのはあくまで普通の喫茶店のお話で、ここはイベントの絶えない『喫茶 鉄血』である。
「あの、代理人・・・・・・」
「ん? なんですかリッパー?」
「その、外で見覚えのあるようなないような人がクルクルと回っているんですが・・・・・」
「・・・・・・・・・・うん?」
リッパーの困ったような報告に、首を傾げる代理人。まるっきり知らない顔なら不審者とかでいいのだが、知っている顔となるとリッパーが覚えていないはずもないし・・・・・と見てもいない相手にうんうんと悩んでいると、店の扉が開き誰かが入ってきた。
「こんにちは、マスターさん!」
「・・・・・もしかして、ユノちゃんですか? 大きくなりましたね」
「えへへ、やっぱりびっくりしますよね」
至って冷静にユノだと判断した代理人だが、見れば見るほどずいぶんと変わったなという感想を抱く。最後に見たのは彼女の隣に寄り添うPPKとの結婚式だが、まだ子供っぽかったあの頃よりも大人っぽくなっていた。後ろの人形たちは娘たちなのだろうが・・・・・店内の雰囲気に落ち着かない様子だ。まぁあっちでは敵対関係の鉄血ハイエンドがいればそうなるだろうが。
「そちらははじめましてですね。 喫茶 鉄血のマスターをしております代理人です」
「あ、はじめまして。 クリミナ・ヴァルターです。 こちらが娘のルピナスとステアー、シャフトです」
「「「こ、こんにちは」」」
「ふふっ、こんにちは。 さて、立ち話もなんですから席へご案内しましょうか」
久しぶりに、というか夢でしかきたことのない喫茶 鉄血に再びやってきたユノは、それはもう分かりやすくテンションが上がっていた。そして指揮官として日夜頑張り気がつけば親にまでなっていた彼女も、まだまだ子供なのである。
「ほら、ここのケーキがすごく美味しいんだよ! 好きなもの頼んでいいよ!」
メニューを広げ、娘たちに勧めるユノ。一度来たことがあるからということなのか上機嫌に勧めてくるその様子にクリミナも思わず苦笑し、それでも優しく付き合う姿は正しく夫婦と呼べるものだった。
そうして頼んだケーキと飲み物が運ばれてくると、美味しそうにしかしあっという間に平らげてしまう。娘たちも夢中で食べすすめる中で、クリミナはふと代理人に聞いてみたいことを思いついた。
「そういえば、ユノが前に来たのはいつのことなのですか?」
「いつ・・・・ご結婚される前でしたから、そのくらい前かと。 ふふっ、あの時は一人で泣いていたので心配したんですよ」
「ちょっ、マスターさん!?」
何やら暴露話が始まりそうな予感にユノが慌てて止めようとするがもう遅い。娘三人も興味津々で食いつき、さらにクリミナも普段のユノの様子を暴露しはじめたため、ユノは顔を真っ赤にしたまま耐えるほかなくなった。
そしてついでに、今の彼女たちの環境も聞くことができた。いくつか大きな作戦があったり、襲撃されたこともあったり。命の危機に瀕したことも一度や二度ではなく、そのたびに指揮官として悩んでいたことも話してくれた。
「そう・・・・そんなことが・・・・・」
「うん、きっと一人じゃ今頃壊れちゃってたかも・・・・・でも、クリミナやみんなが居てくれたからね」
彼女のことは、時々『陽だまり』と形容されることがある。それは見ている方が和んだり、ホッとできたりするその笑顔に由来するものなのだろう。
喜怒哀楽のはっきりした彼女だが、やはり笑っている顔が一番よく似合っていると思う代理人だった。
そんなこんなで時間は過ぎ、またいつものように鈴の音のような音がきこえて別れの時間を告げる。初めてのクリミナたちはまたまた戸惑っているようだったが、ユノと代理人の案内で帰り支度となる。代理人もいつも通りお土産用の紙袋を持ち出し、遠慮するユノたちにほとんど押し付けるようにして渡す。
そして帰り際、ユノは一人代理人のもとに駆け寄ると、彼女にだけ聞こえる声でこんな報告をしてきた。
「実はですね・・・まだ確定じゃないし、診断を受けたってわけじゃないんだけど。家族がまた増えそうなんです、多分だけど、でも間違いないって気がして」
優しくお腹をさすりながら言うユノに、代理人は驚きつつもニコッと微笑む。代理人は彼女の境遇を妹であるノアからも聞いており、だからこそ一人の女性としての道も進んでいるユノに心からお祝いするのだった。
「では、次はその新しい家族ともいらして下さいね」
「うん、でもその場合また長い間会えないから、少し大きくなってから来るかも?」
そう、次はいつ来られるかわからない。もしかしたらこれが最後かもしれない。そんな彼女たちだが、それでも『次』の約束を交わすのだ。
「ご無理はなさらずに、でもお待ちしております。 ・・・・・・あっ、ユノちゃん、あの端末は!?」
店を出るユノたちを見送りつつ、ふと思い出した代理人はノアが置いて帰ってしまった端末をもって飛び出す。だがユノは手を振りながら、
「もしかしたら、繋がるかもしれないし写真が送れるかもしれないから置いておく!!大丈夫、中に重要なものは入ってないから!!!」
というちょっと的外れなことを言ってそのまま去ってしまう。そういうことではないんですが・・・と思いつつも仕方なしに預かり、また戸棚に戻しておく。
(お気遣いは感謝しますが・・・・・次は必ず持って帰ってもらいますよ、ユノちゃん)
持っていれば次もまた会える、そんな人形らしからぬ淡い期待を抱きながら、代理人は静かに微笑むのだった。
end
今年はあと一話だと言ったな、あれは嘘だ。
ということで、せっかく来ていただいたのでお返しの話を書かせていただきました!短くなってしまったけど許してちょ!
ではでは今回のキャラ紹介
ユノ・ヴァルター
S09P基地の若き指揮官。クリミナことPPKの嫁。
この世界における日帰り異世界組の第1号、すべては彼女から始まった。結構来ているイメージはあるけど実はこれが2回目、前に来たときよりも色々と成長した。
毎回通貨が違うので無銭飲食だが、近況報告とかが代金の代わりになっている。
クリミナ・ヴァルター
ユノの旦那。ワルサーPPK。
かつての恋愛クソ雑魚感はとうになくなり、二人して糖分を撒き散らす甘々夫婦。
ユノちゃんが子供っぽい分、彼女は大人びている気がする。
ルピナス、ステアー、シャフト
ユノ、クリミナ夫婦の娘たち。それぞれもちろん戦術人形だが、何も知らなければ本当に親子に見える。
代理人
無銭飲食の見逃しは個人経営だからできることである。
彼女の中でユノはすでに常連客扱いである。