それはある日のこと。
今日も変わらず客を迎え、いつもと変わらぬコーヒーを出す喫茶 鉄血で、代理人はカウンターに立ち皿を拭いていた。
が、そのいつも通りの平穏は唐突に終わりを迎えるのだった。
カランカラン
「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶鉄血へ。お好きな席にお掛けください」
店の扉が開き、なんとも珍妙な一行が現れる。それなりに体格のがっしりとした男性が二名、そしてその足元を一匹のダイナゲートが付き従っている。見たところ男性の方は両方とも人間のようで、それが尚のこと不思議だった。
そんな違和感を感じていると、男の一人がサッと血相を変える。何事かと声をかけようとした瞬間、男は懐から拳銃を取り出し、銃口をこちらえと向けてきた。
「―――ッ!!!!」
「ジャベリン!?」
男・・・・ジャベリンと呼ばれたその人物は険しい表情のまま銃を構える。先ほどの動きといい、やはりそっち側に人間であるようだ。
銃を突きつけられているとはいえ、ここは下手に刺激しないほうが得策と考えた代理人は、人形であることを最大限に生かして平常を保ったまま言った。
「・・・お客様、店内での暴力行為はお控えくださいませ」
「代理人・・・
「お、おい、ジャベリン落ち着けって」
「スピア、隊長命令だ。 黙れ」
「そんな横暴な・・・・・」
もう一人の男性はスピアというらしい。そしてジャベリンと呼ばれた男が隊長のようだ・・・・・『ジャベリン』に『スピア』、どちらも『槍』という意味のある言葉なのは、コードネームか何かなのだろう。
だが、これで一つはっきりとした。どうやらこの三人(というよりも二人と一匹)も、
「あぁ、成る程。そういう事でしたか」
「・・・・・何だと?」
「お客様、詳しいことはあちらのテーブル席でお話致しましょう。 先ずはその拳銃をお下げくださいませ」
とりあえず話から、ということでこちらに敵意がないことを伝えてテーブルへと誘導しようとする。が、どうやら『あっちの代理人』とは相当因縁深いようで、逆に炎上させてしまった。
代理人の高性能カメラが、トリガーにかかった指に力が入るのを捉える。
「ふざけっ・・・・!」
≪ご主人!!!!≫
「っ・・・・・・ポチ」
≪貴方が冷静にならなくてどうするんですか?≫
「・・・あぁ分かったよ」
そのトリガーが引き絞られる前に、足元のダイナゲートが止めに入る。どうやらポチという名前のようで、しかも喋った。
喋るダイナゲートといえば、今頃ノインはどうしているだろうかとちょっとどうでもいいことを考えつつ、なんとか最悪の事態は避けられたようなので今のうちに席へと案内する。
ジャベリンは机に肘をついて項垂れているが、スピアは案外図太い神経なのか周囲を物珍しそうにキョロキョロ見ている。
「何かご注文は?」
「私は紅茶のホットで。ジャベリン、君は?」
「・・・・・ホットコーヒーを頼む」
「承りました」
メニューを聞き終え、一度カウンターへと戻る代理人。さっきまで銃を向けられたりしていたにも関わらず落ち着いたその行動は、相変わらず慣れているとしかいえない。というよりも他の客も結構慣れてしまっているようでもある・・・・・危機管理意識が下がってきているのではと心配するレベルだ。
「失礼します。ご注文のホットティーとホットコーヒーです」
「いたた・・・あぁ有り難うマスター」
「・・・・・なぁ代理人」
「言いたい事は理解しております。少々お待ちくださいませ」
言葉を遮る形で代理人はそう言い、注文されたものを並べると再び店の奥へと引っ込む。そして店の奥に保管してある、
「お待たせしました。少し、こちらの新聞をお読みください」
そう言ってテーブルの上に乗せた新聞は、どれも同じ年のもの。代理人にとってはただの新聞でしかないが、彼らのような者たちにとってはそれこそ、『世界を一変させた事件の起こった年』である。
そのため、これまでの来訪者たちから得た教訓として代理人が少しずつ集めていたのだ。
「・・・・・・・何だこりゃあ」
「凄いな、蝶事件の記事が一つも見つからないぞ。ついでにE.L.I.D関連も」
≪ご主人!ここ私達の住んでる世界じゃ無さそうです!!≫
案の定というべきか、やはり彼らが探した言葉は見つからなかったようだ。そして足元にいたポチも、この店のダイナゲートと会話(?)して情報を得たようで、表情は見えないが「信じられない!」といった感じの身振り手振りをとっている。
「は、ははは・・・・・マジかよ」
一通り流し読みしたジャベリンは乾いた笑い声をあげると、背もたれに倒れ込むように茫然とする。残念ながらその気持ちを全て知ることは代理人にはできないが、もはや笑うしかできない・・・いや、笑ってないとやってられないのだろう。
「代理人・・・・・」
「はい」
「エスプレッソ・・・物凄く濃いめのやつ・・・・・追加注文で」
「承りました」
慰めの言葉をかけることもできないので、代理人はとりあえず注文通り、とびきり濃いのを淹れにいこうと思うのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それから少しして。
ひとまず現実を受け止められるようになったところで、改めて簡単な自己紹介をし合う。といってもあちらはコードネームでしか答えられず、こちらも紹介といっても特に話す内容もないので、本当に簡単なものだけだ。
「・・・ジャベリンさん、どうかしましたか?」
代理人がカウンターでコーヒーを淹れていると、ふと視線を感じて顔を上げる。そこでなんともいえない表情で代理人を見るジャベリンと目が合った。
「ん、あぁいや。ちょっとさっきのことを謝りたくて・・・・・」
「その事についてはお気になさらず。まぁ、変わりと言っては何ですが・・・あなた方の世界のお話をしてくれませんか?」
「それでいいなら喜んで」
それでは、と代理人は淹れたコーヒーを客の元に届け、ジャベリンたちのテーブルに向かう。
代理人が席についたところでジャベリンが話し始め、スピアとポチもその補足をしていく。蝶事件と呼ばれる異世界での事件から始まり、武器庫と呼ばれる組織のことや、向こうでの代理人たちハイエンドのこと。
そして、あっちの世界での代理人とジャベリンの関係・・・・・。
「何といいますか・・・・ジャベリンさん、貴方は随分と鉄血関係で苦労をしていますね」
「何せ現場に居たし現場に連れてかれたからな」
「そちらの私が随分と迷惑を掛けてしまい申し訳ありません。まさかそこまでバイオレンスな事を仕出かしてるとは」
「代理人が謝ることじゃない。これはうちの問題だし・・・」
ジャベリンが気を遣ってそう言う。実際、ここの代理人とあちらの代理人とでは全くの別人だし、ジャベリンの言う通り代理人が気に病むこともない。だがたとえ別人だとしても、やはり自分の同型のしでかしたことを無関係とは切り捨てられなかった。
そんなちょっと暗めの空気になってしまったところで、店の扉が開いて買い出しに行かせていたDが帰ってきた。
「ただいまOちゃん。頼まれたもの買ってきたよ~」
「おや、おかえりなさいD」
「・・・・・・・は?」
≪あれっ・・・・・代理人が二人?≫
Dを見た途端、ジャベリンとポチが固まった。なにせ代理人と・・・・・鉄血の最上級ハイエンドと瓜二つの人形が出てくればそんな反応にもなる。スピアに関してはそこまで代理人と関わっているというわけでもないからか、「あ、もう一人いるんだ」くらいに思っているのかもしれない。
「あぁ、ジャベリンさんにポチさん。彼女は私のダミーですよ」
「えっ」
≪えっ≫
「あなた方の知っている“代理人”と比べてしまえば違和感を感じてしまうのも無理はないでしょう。 D、この方達に自己紹介をお願いします」
「ん、いいよー」
Dはそう返事を返すと、三人の前まで行って軽くお辞儀をする。
「初めまして、私はOちゃん・・・じゃなくて、隣の彼女のダミーフレームです。Dって呼ばれてるので、どうぞよろしくお願いします」
「・・・ジャベリンだ。このダイナゲートはポチ、もう一人の野郎はスピアだ」
「よろしくお願いしますね、ジャベリンさん、スピアさん、ポチちゃん」
「ありがとうございます、D。休憩してていいですよ」
「はーい」
相変わらずのいい返事で店の奥へと戻っていくD。代理人自身も彼女は随分と明るい性格だと思っており、おそらくどの世界の代理人とも違うタイプなのだと推測する。そのせいか、ポチはまるでバグを起こしたかのように犬の鳴き声しか喋らなくなった。
「あー、O・・・さん?」
「今は代理人で問題ありませんよ。どうかしましたか?」
「もしかしなくとも・・・さっきのDみたいな鉄血ハイエンドモデルも居るのか?」
「いえ、彼女のような事例は私のみです。ですが・・・・・貴方の知らない鉄血ハイエンドモデルは沢山居ますね」
代理人はさらっと言うが、受け止める側のジャベリンは思わず頭を抱えてしまった。恐らく、改めて世界が違うと言うことを認識したのだろう。
「・・・嘘じゃないな?」
「嘘ではありません。因みに・・・今日はお休みなので出勤をしていませんが、この喫茶店でも何人か居ますね」
「マジかぁ・・・・・」
≪わん・・・・・≫
今日ばかりは他のハイエンド組を休みにしておいてよかったと思う代理人だった。ただでさえ混乱しているところへ彼女たちまでいたらどうなることやら。特に、いまだに男性に対して警戒気味なフォートレスなんかと鉢合わせれば、それこそ収集がつかなくなりそうだ。
その後、代理人はカウンターへと戻りジャベリンたちは何やら気になったことがあったのか、端末を覗き込んでいた。時折聞こえてくる会話から察するに、この世界の自分たちのことを調べているのだろう。
過去で言えば、とある男とハイエンドの組み合わせがそれで一悶着起こしているので、できることなら出会わないでもらいたいのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さて、そんなこんなで時間が経ちコーヒーも飲み終えたジャベリン一行は、荷物をまとめて帰り支度となった。
「スピア、そろそろ出よう」
「ん、あぁ了解・・・・・お金はどうする?」
「俺が払うよ。代理人、お会計頼めないか?」
「あぁその件ならお構い無く」
そろそろだろう、と思って待機していた代理人がそう声をかける。これから財布を開こうかと言う時に止めるとちょっと申し訳ないが、どのみち通貨が違うはずなので先に言っておく。
「?」
「うちの慣例でして、異世界からのお客様は基本的にそちらの世界のお話をお代替わりとしております」
「そうか・・・・随分と洒落てる事をしてくれるな、代理人。ありがとう」
「お気遣いなく」
出しかけた財布をしまい、ちょっと申し訳なさそうに言うジャベリンに、代理人は微笑む。
すると、ふと何かを思い出したようにジャベリンは懐に手を入れ、一枚の名刺を差し出した。
「これは?」
「うちの会社の名刺。何か困ったら槍部隊って所を頼ってくれ、幸いにも電話番号も何もかも同じさ」
「なるほど・・・そうですね、また機会があれば頼らせて頂きます」
「まぁここでやれるのは食品や備品の運送、後はお客としてくるしか出来なさそうだが・・・・・我が武器庫の誇る槍部隊をどうぞご贔屓に」
そう言ってペコリとお辞儀をするジャベリンたち。流石はPMCとも言うべきか、こういうときはちゃっかりしている。
そんな彼らに、代理人もまた礼を言った。
「ええ。ご来店ありがとうございました・・・・・それとジャベリンさん、これを」
「ん、コーヒー豆?」
「当店のオリジナルブレンドです。元の世界でも是非」
「あぁ、ありがとう」
もはやこれも慣例になったなぁ、と思いつつ紙袋を手渡す。またのご来店を、と気軽に言える相手ではないが、それでもまた彼らが訪れる日を楽しみにする。
そんな不思議な三人が店を出て少しした頃、さっきまで見ていた顔にそっくりの三人組がやってきた。違う点があるとすれば雰囲気と、彼の目の傷がないことだろう。
代理人はフッと小さく微笑み、すぐに元の表情に戻って出迎えた。
「いらっしゃいませ、ようこそ喫茶 鉄血へ」
end
私に足りないものは、それは!
情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ!!
(タイピングの)速さが足りない!!
はい、そんな自虐は置いといて、今回はなんとも代理人に縁のあるお客様でしたね。ただし、あちらの代理人に、ですが。
彼らの行末に、幸あらんことを。
では今回もキャラ紹介!
ジャベリン
あっちの主人公的な人。槍部隊所属で、代理人含めて女難の相がある。
片目を失っているが、あっちの世界で五体満足な人間の方が少ない気がするので問題ないはず(飛躍)
スピア
槍部隊所属、女難の相もち。ここにくる前にもM200に追いかけられていた(帰っても追いかけられた)
ヤンデレホイホイ的な人。
ポチ
とある事情で喋れるようになったダイナゲート。『ご主人』と呼んだりと忠犬感が溢れる(どこぞのイケボダイナゲートとは全然違う)
電気ショックといった武装もあり、小回りが効くので大変便利だと思う。
代理人
もう銃を向けられても察するようになった。本人が気にするのは、それによって仲間が過剰に応戦してしまわないかという点だけ。
D
ジャベリンに『眩しい代理人』と思われた人。
運営さん、この娘実装してくれませんかね?