喫茶鉄血   作:いろいろ

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どブラックな秩序乱流の中で数少ない癒し・・・・それがROゲートである。


第百七十一話:ROちゃん、新しいボディだよ!

戦術人形の任務は多岐に渡る。

パトロール、施設の警備、治安維持、テロ掃討、人命救助、地域住民との交流などなど・・・・・比較的安全なものから文字通り命の危険に瀕するものまで様々である。もちろん人形は常にメンタルのバックアップをとっており、たとえ機能停止するほどの損傷を受けても容易に復活することができるようになっている。

が、それでも・・・・・どこぞ(原作)の世界に比べて平和だとはいえ、なんらかの形で破壊される人形というものは少なくない。

 

 

「M16、下がって!」

 

「くそっ、どこから湧いて出たんだこの数は!」

 

『RO、状況報告を!』

 

「こちらRO! 敵の奇襲を受けました! 敵は無反動砲を所持しています!」

 

 

久方ぶりの実戦任務。

M4らが抜け、D-15が専属の指揮官として初めてとなる戦闘は、想定外の連続という事態に見舞われた。

人権団体の過激派一派の活動が活発になり、とある廃村を拠点に集結しているとの情報を受けて出動。偵察を主目的として最低限の装備のみだった彼女らを待ち構えていたのは、まるで小国の軍隊並みに武装した集団だった。

 

 

『遊軍のヘリを向かわせました、到着まであと15分!』

 

「15分か・・・・それまで弾薬が持てばいいがな!」

 

「SOP、グレネードは!?」

 

「残り2つ!」

 

 

村を離れ、森に逃げ込んで時間を稼ぐ三人。逃げる間際に見た限りでは、連中の装備は一世代も二世代も前の銃火器ばかりだった。だがそれゆえに信頼性も高いものばかりで、素人でもある程度の訓練で扱うことができると推測される。

いったいどこからこれほどの物量を手に入れたのか、本当にこの過激派だけの仕業なのか・・・・・疑問は尽きることはないが、それを考えるのはまず生きて帰ってからだ。

 

 

「うわっ!? まだ撃ってくるよ!?」

 

「大丈夫だ、この距離なら連中の装備なら当たりゃしない」

 

「えぇ、それにやはり軍務経験者ではないようですね。 このまま振り切ればなんとか・・・・・」

 

 

なんとかなる、そう言いかけたROの通信機に、D-15の切迫した声が響く。

だが叫んだはずのその声ははっきりとは伝わらず、それを打ち消すようにして独特な風を切り裂く音が響き始める。

それは言うなれば、扇風機が風を切る音に近いだろう。ただし、それを何十倍にも大きくしたものではあるが。

 

 

『新た・・・・応・・・・大き・・・・・気をつ・・・・・』

 

「っ!? この音は・・・・・」

 

「ヘリのローター・・・まさかっ!?」

 

 

三人が同時に空を見上げる。

瞬間、突風が木々を揺らし・・・・・重厚な鉄の塊が彼女らの頭上を通り過ぎた。

 

 

「攻撃ヘリ!?」

 

「ハインドか!!」

 

「こ、こんなのまであるの!?」

 

 

旧ソ連製の多目的攻撃ヘリの一つ、通称『ハインド』は機首をくるりと向けると、三人がいるであろう場所に向けて機銃を撃ち放つ。

旧世代とはいえ攻撃ヘリ、歩兵でしかない人形にとって天敵というほかない相手だ。

 

 

「二人とも走って!」

 

「言われなくとも!」

 

「うわぁあああああ!!!」

 

 

足を止めず、森の中をジグザグに走り続ける。幸いなのはヘリのパイロットも銃手もそこまで腕が良くないため、狙いも不正確で躱すこと自体は難しくはない。

だが、ヘリが誇る火力はこんなものではない。焦れたテロリストは、たった三体の人形を仕留めるには過剰すぎる火力・・・・・ロケット弾を使用したのだ。

 

 

「っ!? ROっ!」

 

「え・・・・?」

 

 

直後、ROの体は強烈な熱風に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・なるほど、そんなことが」

 

「・・・・・はい」

 

 

喫茶 鉄血の個室で項垂れるD-15に、代理人は静かに目を瞑る。

初の実戦、初の指揮で被った結果にショックを受けたD-15は、一時はメンタルに極度のストレスがかかりまるで抜け殻のようになってしまっていた。

とにかく今は時間が必要だ、ということで指揮官は臨時の休暇を出し、ダメもとで代理人に相談した結果、こうして話を聞いているということだ。

 

 

「ですが、幸いROさんも重傷で済んでいるようです。 反省するのは結構ですが、過度に自分を追い詰める必要はありませんよ」

 

「で、でも・・・わ、私のせいで・・・・私が、もっとちゃんと見ていれば・・・・・」

 

「D-15さん・・・・・・・」

 

 

だが話を聞いてみても、さっきからずっとこれである。元々正義感の強いAR-15のダミー、そして彼女らの力になりたいと指揮官を志した彼女にとって、今回の失敗はあまりにも大きな出来事だったのだろう。

 

 

「やっぱり、人形が指揮官の代わりなんて無理だったんだ・・・・・私じゃ、みんなの力には・・・・・」

 

「D-15! それ以上はいけません!」

 

「代理人は知らないから、見てないからそう言えるのよ! 目の前で仲間が吹き飛ばされても、私は何もできなかったの!!」

 

 

もはや自暴自棄に陥りかけているD-15を宥めようとするも、何を言っても逆効果にしかならないと悟る代理人。しかも、これは時間をかけて治るどころか、むしろ更に悪化しかねないものだと感じたのだ。

M16らはすでに一度話をし、そしてダメだった。ROが直接言えれば話は別なのかもしれないが、ワンオフ機である彼女の修復には最低でもあと十日はかかると言われている。

 

打つ手なし、そう思われていたところに、個室のドアがノックされる。

 

 

「? 失礼します・・・・・・あら、D」

 

「あ、Oちゃん。 今大丈夫?」

 

「・・・・あまり大丈夫とは言えませんが、なにか?」

 

「少し席を外してくれないかって、この子が」

 

「この子?」

 

 

疑問を浮かべる代理人に、Dは抱えていたあるものを差し出す。一見見覚えのあるフォルムのそれを見た瞬間、代理人は驚きながらも了承した。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・私、何やってるんだろ)

 

 

代理人が席を外して、D-15はほんの少し落ち着きを取り戻すと同時に深い自己嫌悪に陥り始めた。

自分の不甲斐なさは自分がよく知っている。だがそれをいつまでも引きづり、仲間や指揮官に心配をかけるだけでなく代理人にも当たってしまった。

あまりにも子供で、あまりにも身勝手な自分がより一層惨めに見える。

 

 

(RO・・・・ごめんなさい、ごめんなさいっ)

 

『・・・・・私に謝る前に、みんなに謝ってくださいよ』

 

 

ついにROの幻聴まで聞こえ始め、いよいよ脳裏に『解体』の二文字がちらつく。

今日はもう帰ろう・・・・・と席を立ったその時、テーブルの上に何かが飛び乗ってきた。

 

 

『幻覚じゃありません! ちゃんと聞こえているはずです!』

 

「うわっ!?」

 

 

飛び乗ってきたのは、なんとも奇抜なカラーリングのダイナゲートだった。黄色という目立ちすぎるメインカラーに、背部の武装がなぜかメガホンに変わっている。しかもそのメガホン、どこか見覚えのあるデザインで・・・・・・

 

 

「・・・って、もしかしてRO!?」

 

『はい、RO635(ダイナゲート仕様)です』

 

「え・・・な、なんで・・・ダイナゲートに・・・?」

 

 

再開の喜びと見た目の困惑とが入り混じった声でそう尋ねる。

曰く、元々はボディの完成まで待つ予定だったらしいのだが、D-15があまりにも落ち込んでいる・・・・・今にも解体を申し出そうなほど危うい状態であると聞かされ、なんでもいいから素体をよこせと言い張った結果らしい。

不幸だったのは、ちょうどその日にアーキテクトが16labに来ていたことだろう。

 

 

「そう・・・・じゃあこれも、私のせいなのね」

 

『ええそうね、四つん這いだいし視界は低いし料理は食べられないしたまに蹴られるしSOPにはペットみたいに扱われるし指揮官には微妙な顔されるしM16は爆笑するし』

 

「ご、ごめんなさい・・・・」

 

『別に怒ってませんよ・・・えぇ、怒ってませんとも』

 

 

どう見ても怒っているのにあえてそう言うRO。

それを聞いてまた落ち込み始めるD-15に、ROは厳しい口調のまま続けた。

 

 

『・・・・・ですが、それ以上に、今のあなたの態度が気に入りません』

 

「・・・・・え?」

 

『だってそうでしょう? いつまでもウジウジと凹み続けて、謝るだけで行動に移さない。 あとさっきから考えていたことが口から出ていましたが・・・・解体? 冗談も大概にしてください』

 

 

静かな口調で、しかしはっきりと怒りの感情をのせた声色で言い放つ。生真面目なROだが、ここまで感情をあらわにするような話し方は初めて聞いた。

 

 

『D-15、あなたは私たちの指揮官です・・・・が、正規の指揮官ではなくいわば部隊長のような立場です。 命令の強制力もなく、その気になれば逆らうことだってできます。 ですが、私たちはあなたの命令に従いました』

 

「でも・・・・そのせいでROが・・・・」

 

『まだ言いますか? でははっきり言いましょう・・・・それ以上うだうだ落ち込まれると、まるで私の犠牲が無駄だったようで不愉快です。 結果的に援軍によってテロは鎮圧、こちらの損害も私一人で、しかも大破で済んでいます。 あれほどの戦力に奇襲を受けたにもかかわらず、です』

 

 

前半は厳しく、そして後半は諭すように言ったROに、D-15は目を見開く。これではまるで、ROは怒っていないとでも言っているようだと。

D-15がそれに気づいたのを察したのか、ROは机の上に座り込み、口調を和らげて言った。

 

 

『なんでも一人で抱え込もうとするからですよ、D-15。 私もM16もSOPも、そして指揮官もあなたを支えてくれますから』

 

「では、私もその一人ということで」

 

 

ROが言い終わるのに合わせて入ってきた代理人がそう付け加える。その手にはケーキとコーヒーが乗ったお盆を持ち、それを手際よく置いていく。

 

 

「RO・・・代理人さん・・・・」

 

「これはサービスにしておきます。 その代わり、辛いことがあったら遠慮せずに相談すること、これが条件ですよ」

 

『もちろん、私たちにもですよ・・・・・私たちの指揮官』

 

「・・・・・・はいっ!」

 

 

そう元気よく返事をし、目尻に浮かんだ涙を拭うD-15。

これならもう大丈夫だろうと、代理人は個室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・・ところでD-15、私がこのボディで過ごさなければならない期間がどのくらいか知っていますか?』

 

「え?」

 

『元のボディが完成するのが、早くても週明け・・・・今日が火曜日ですので、最短でもあと五日はこのままなんですよ』

 

「えっと・・・・RO、やっぱり怒ってる?」

 

『それとD-15、私がこのボディに入れられて気づいたことなんですが、簡単な設定だけでメンタルモデルを移行できるらしいんですよ』

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

『私の修復が終わるまで、AR小隊の任務はないそうです・・・・・もう一人くらい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

「・・・・ま、まさか・・・・・・・」

 

『ご安心を、ほんの数分の作業です・・・・・アーキテクトさんには話を通してありますので』

 

「ROっ!?」

 

 

 

end




E.L.I.Dと夜戦が怖くて3ステージ目で足踏みしているチキン野郎です。
ついでに限定キャラもドロップしてくれないし・・・・・日課で10回は○されるスケアクロウがかわいそうになってきました。

まぁ、物資箱のための尊い犠牲ですがね


では、今回のキャラ紹介

D-15
AR小隊専属の指揮官という少々特殊な立場の人形。契約上はまだ『人形』の域を出ないが、権限では指揮官と同等となる。
初任務で受けた精神的ダメージが大きかったが、ROたちのおかげでなんとか立ち直った。
イメージ的には、某ゲームにおいてお気に入りのキャラを轟沈させてしまった提督に近いダメージ。

RO(ダイナゲート)
原作イベントのアレ。一眼見たときからビビッときたので、かなり雑な勢いで犠牲になってもらった。
原作とは違い、そこらで拾ったものではなく専用にチューンしたダイナゲートを使用しているため、戦闘面以外ではROの性能を発揮できる。
武器は背面のメガホン、近くまで行って最大音量で叫ぶという攻撃。

代理人
知り合いがダイナゲートになっても対応は変えない。
面倒見がいいを通り越して過保護気味だが、それに気づかないのは本人だけ。




過激派
やけに装備が整ったテロ集団。
chaosraven氏の『裏稼業とカカシさん』で書いていただいているコラボ話・・・・・それを逆輸入という形で、今回の装備類を与えました。
要するに・・・・・・・・軍だって一枚岩じゃないんですよね。
『裏稼業とカカシさん』での話が見たい方はこちらから↓
https://syosetu.org/novel/194706/6.html

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