喫茶鉄血   作:いろいろ

76 / 279
互いに遠く離れたネット上の人だと思っていたら共通の友人がいたというような感じ。

・・・そんな夢みたいな話、あったらいいですね。


第五十七話:邂逅

それはとある日の喫茶 鉄血での出来事。

 

 

「・・・・・ねぇOちゃん。」

 

「なんですかD。」

 

「あれ、ヘリアンさんだよね?」

 

「えぇ、そうですね。」

 

「・・・黙ってれば美人だよね。」

 

「本人には言わないでくださいよD。」

 

 

そんなくだらない会話が生まれるくらいには暇な店内では、代理人とDが窓際の席を見ている。そこに座って端末を眺めているのは、グリフィンでは(いろんな意味で)知らぬ者などいない有名人のヘリアントスである。

今日はどうやら仕事ではなくただの客として来ているようで、夏らしい涼しげな服装だ。そして時折微笑みながら端末を見るその姿は、ヘリアンのことをよく知らぬ者からすれば思わず見惚れてしまうものである。

 

もっとも、それはあくまで端末の中を見なかった場合ではあるが。

 

 

(へぇ、前回のUMP三姉妹モノかぁ・・・45総受けだったかな?)

 

 

そんなことを一人考えるのは、同じく窓際の席、ヘリアンの背中側の席で端末を覗き見るG11である。

ヘリアンの端末・・・彼女愛用の作業用パッドには、彼女の作品が山のように入っている。練習のためのまともな絵から、ジャパニーズ・コミケ用の作品まで。しかもそのほとんどが戦術人形を題材にしたものだ・・・彼女からすれば身内を売っているようなものである。

 

 

(まぁ一回ハッキングしたんだけどね。)

 

 

彼女がこの席でこうやって自分の作品を眺めているのはそこまで珍しくもない。どうやら過去の作品を見返すことで、新しいインスピレーションが浮かぶようだ。

そのため以前、ヘリアンが席を立った隙に中身を吸い出したことがあるのだが、さすがというか付き合いの多いAR小隊か404小隊が圧倒的に多い。

G11自身人の趣味にケチはつけないし、吸い出したのだっていざという時の取引(脅迫)材料のためだ。

 

さてそんなヘリアンだが、これだけ穏やかな表情を浮かべながらもちょっとした、本人にとっては重大な悩みがある。

 

 

(・・・いいネタがないな。)

 

 

過去の作品を流し読みしてはみたが、どうもピンとくるものがない。彼女がメインに書くのはグリフィン人形であり、あまり人間を書くことはない。また鉄血人形は最近この界隈で話題の『写本先生』なる人物が人気を独占しており、今から書き始めるにはややハードルが高い。というか立場上問題になりかねない。

 

 

(写本先生、か・・・一度会ってみたいものだな。)

 

 

一応ネット上では互いのことは認知しているが、願わくばあって直接語らいたいのだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「だぁ〜休憩〜!」

 

「お疲れ様、何か飲みますか?」

 

「んー、じゃあアイスティーで。」

 

 

仕事合間の休憩に入り、ついでにケーキも注文(こっちは自腹)したマヌスクリプトは、早速愛用の端末を開く。流石にここで絵を描くと騒がれるので描かないが、SNSで作家仲間の情報や活動報告には目を通す。

 

 

「お? 『向日葵』さんも今日は休みか。 ネタがないのは辛いねぇ。」

 

 

その中の一人、最近知り合った『向日葵さん』(ペンネーム・日陰の向日葵)のページをみていく。今日は休みだとかネタが浮かばないだとかいろいろ書いてあるのを読み進めつつ、ふとあるところで目が止まった。

 

 

『行きつけの店でコーヒーブレイク。 あ、なんかネタが浮かびそう!』

 

「・・・・・うん?」

 

 

つい数分前に投稿されたつぶやきに書かれたコメントと載せられた写真をみて、マヌスクリプト首をかしげる。写っているのはなんの変哲も無いよくあるケーキとコーヒーのセット・・・・・なのだが、そのコーヒーカップの柄に見覚えがあった。

 

 

「あれ? これってうちのやつじゃない?」

 

 

こだわってはいるがこの店にしかないと言えるメニューはそんなにない喫茶 鉄血。そんなわけでせめて食器だけでもオリジナルをということで、鉄血工造のロゴをモチーフにした絵柄の描かれた食器を使っていたりするのだが、それが写真に載っているのである。

 

思わず顔を上げて周りを見る。暑くなってきたこの時期にホットコーヒーを頼む人はそう多くない、その中でケーキまで頼んでいる人物となれば・・・・・

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

(あ、向こうも気がついたかな。)

 

 

相変わらずヘリアンの後ろで端末を覗き見るG11は、写本先生ことマヌスクリプトがヘリアンに気づいたことを確認する。この場でヘリアンとマヌスクリプトの活動内容やペンネームを知るのは彼女くらいで、それ故これから起こるであろうことを想像すると笑いがこみ上げてきそうになる。

 

さて、『向日葵さん』がヘリアンだということに薄々感づいたマヌスクリプトだが、恐る恐るといった感じで近づいていく。一応ヘリアンと面識はあるが、その第一印象はまさに仕事人間、正直こんなもの(同人作品)を書いているようには見えないのだ。

 

 

「・・・こ、こんにちはヘリアンさん。」

 

「ん? おぉマヌスクリプトか、休憩か?」

 

「えぇ、まぁ。 ここいいですか?」

 

「あぁ、構わん。」

 

 

さて役者は揃った、あとは二人がカミングアウトするのを待つだけ。G11は寝たふりをしながら黒い笑みを浮かべてじっと待つ。何気に接客以外でマヌスクリプトが敬語を使うのもレアなので、今後はそれもネタにしていこうと思う。

そんなこんなで数分、ヘリアンとマヌスクリプトは軽い世間話から入り、ついにその瞬間が訪れた。

 

 

「ところでヘリアンさん。」

 

「ん? なんだ?」

 

「・・・・・『日陰の向日葵』って、知ってます?」

 

「っ!?」

 

 

その言葉に思わず動きが止まるヘリアン。表情に出さないのは流石は上級代行官といったところだが、ピタリと止まった手や顔から動揺がうかがえる。

必死に笑いをこらえるG11・・・わずかに肩が震えているがそれに気付くものはおらず、ヘリアンとマヌスクリプトも話を続ける。

 

 

「な、なんのことだ?」

 

「えっと、その・・・・わ、私が『写本先生』です!!!」

 

(〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!)

 

 

とぼけるヘリアンにいよいよ我慢の限界、というか緊張に耐えられなくなったマヌスクリプトが小声で叫ぶように宣言する。

当然G11は笑ってしまうが、机に伏せることで気づかれないようにする・・・・・何もないのにプルプルと震えている時点で十分怪しいが。

 

さて、意を決したカミングアウトを行ったマヌスクリプトだが、チラッと見るとヘリアンが目を輝かせながらこちらを見ていた。

 

 

「お、おぉ! 君が・・・いや、あなたが写本先生か! まさかこんなに近くにいるとは!!」

 

「〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 

さっきまでとは打って変わってやたらと饒舌に話し始めるヘリアン、というかキャラ変わりすぎだろ。

G11もいよいよ声が抑えきれなくなってきたのか、口元に手を当ててなんとか堪える。側から見ればバレバレだが、幸い二人にはまだバレていない。

 

 

「なるほどなるほど確かに鉄血人形なら鉄血のことは詳しいはずだなぜそんなことに気がつかなかったのだろうかいやしかし本当に会えて光栄だいつも新作を楽しみにしているところで・・・・・」

 

「は、はぁ? なんでしょうか?」

 

 

堰を切ったように話しだすヘリアンに若干圧倒されながらも、そんな彼女からどんな疑問が飛んでくるのか身構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次はAR小隊で描こうと思うんだが・・・・・M16には生やすべきか?」

 

「生やしましょう、というか生やさない選択肢なんてないです!」

 

「だな!!!」

 

「ブフッ!!」

 

 

ついに吹き出してしまうG11だが、二人とも熱く話しているので気がつかない。

ヘリアンの疑問も疑問だが、それに間髪入れずに即答するマヌスクリプトもかなり手遅れ感がある。しかもヘリアンからすれば親友(ペルシカ)の娘を、マヌスクリプトからすれば上司(代理人)(M4)の姉をネタに盛り上がっているのである。

・・・・・ペルシカが助走をつけて殴りそうな案件だ。

 

 

「M16と言えばAR小隊の実質長女といっていいでしょうそんな彼女が慣れないモノに翻弄されたり妹たちに治療と称されてあんなことやこんなことされたり・・・・・描くしかないでしょ!!!」

 

「勿論だ! AR-15がため息をつきながらも興味津々で近づいてきたりROが顔を真っ赤にしながらも『これは必要なことです!』と言いながら寄ってきたりSOPが何も知らないまま段々染まっていったりM4が甲斐甲斐しく世話してくれたり・・・・・夢が広がるじゃないか!」

 

「ぷっ、くく・・・・ひひひひ・・・・」

 

 

声を出して笑えるなら床を転げ回っているくらいに限界が近づくG11。

マヌスクリプトのM16に対するイメージもそうだが、ヘリアンの頭の中も完全に腐りきっている。鼻息を荒くして息継ぎすらも忘れて語り合う二人には恐怖すら覚えるが、幸か不幸か題材にされている者が誰一人ここにいないので止めようもない。

 

その後数時間に渡り熱く語り合った二人は連絡先を交換し、後日合同作品を描くことを約束しあって御開きとなった。

数時間にわたって笑いをこらえ続けたG11は酸欠状態で机に突っ伏し、閉店までぐったりする羽目になった。

 

なお、本来一時間の休憩を無断で数倍に延長したマヌスクリプトは、代理人からのキツイ説教と小遣い削減が言い渡されたという。

 

 

 

end




原作よりもある意味残念なヘリアン女史。
そして愉悦部筆頭のG11。

グリフィンはもうダメかもしれない(今更)



さてさてでは解説

マヌスクリプト
ネットでは『写本先生』と呼ばれる、人形モノ同人界に颯爽と現れたサラブレッド。それまで数の少なかった鉄血メインを大量に描き上げ、今や鉄血モノ=写本先生とまで言われる。
純愛からハードまで幅広く対応。

ヘリアン
合コンの負け犬が余計な方向に進化を遂げた姿。ペンネームは『日陰の向日葵』(ヘリアントスは向日葵の学名)。
三次元に愛想を尽かし、二次元で性欲やら何やらを開花させ、ある意味身内とも言える戦術人形モノを描きあげる。グリフィン所属という権限を活かした細部までの書き込みが人気。
なにかと姉妹をくっつけたがる。

G11
もうお馴染みの愉悦部。
この話を匿名でAR小隊に流すのも面白そうだし、AR小隊宛に買って送るのも面白そうだと思っている。
自分がネタにされることに特に何も思っていないが、受けに回ることが多いのには不満な様子。





UMP三姉妹モノ
ちょっと前に再会を果たした三人の姿に感銘を受けたヘリアンが徹夜で休日返上で描いたもの。
再開してべったりな40とそれに嫉妬する9、二人に翻弄されながらもなんとか仲良くさせたい45の姿が描かれる。
通常版と18版がある。





たぶん今までで一番ひどい内容(笑)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。