俺ームアームズに乗ってオルフェンズ世界で無双する話   作:FAパチ組み勢

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 お久しぶりです。
 マガツキ・崩天RE2発売を受けて、テンションが爆上がり中だったり。


 俺ームアームズ案、有難う御座いました。
 もし他にも「こんなのがあるよ!」という方は感想欄にお願いします。


 ※モビルアーマーがどうしてこうも現存しているのか?
  過去の人間が地球を捨てて脱出する為に建造したタカマガハラとは別の都市内包型工廠戦艦が奪われているから。


拾壱:大地を駆ける狼 ージャイヴ/セカンドジャイヴー

「リミッター?」

 

 敵を眼前に、三日月は過去の出来事を思い返していた。

 若社長よりガンダムフレームの特徴をレクチャーされていた時の事だ。

 

「ああ、俺の育ての親がガンダムフレームに詳しくてな。聞いた話じゃ、ガンダムフレームには特殊なシステムが組み込まれていたらしい」

「システム?」

「後先考える余裕が無かったらしいな。パイロットを使い潰すくらいに機体を強化しないと勝ち目がなかったんだと」

「それで出会い頭のリミッター解除?」

「そうだな。しかもモビルアーマーの上位クラスは、そんなガンダムフレーム単体でも厳しいくらい強かったそうだ」

 

 眉唾だと思っていたが、しかし若社長が持ってきた教導シミュレーターの最高ランクは確かにキツい。少し前だったら終わった頃には疲労で身体が動かなかった程だ。

 

「でも、今なら大丈夫だと思うけど」

「……アレなぁ」

 

 苦笑する若社長に何か含むものを感じた。

 

「なに? まだ上があるの?」

 

 直感的に気付いた。

 なのでそう訊ねると、頷かれる。

 

「あると言えば「ある」な」

「どんなの?」

 

 キツいけども最近は最高難易度のシミュレーターでも勝ち星が拾えるようになってきた。

 別口で鍛えるものがあるならやってみたい、そう三日月が訴えると、

 

「……まあ、いいか」

 

 そう言って手渡されたのは、『ガンダムフレーム用の教導マニュアル』だった。

 内容は現行のものではあったが、一つだけ違った。

 全てリミッターが外れた状態での戦闘であった事だ。

 最初は最低難度の戦闘でも、想定外の重度の疲労が襲ってきた。

 更に阿頼耶識システムの場合だと、反動で半身不随や意識が戻ってこずに死んでしまった事例もあったとか。

 故にこのシミュレーターは、阿摩羅識システム適合者のみに使用が推奨されるモノだそうだ。

 

「阿摩羅識システムは、機体からの情報を体内にあるナノマシンで形成された補助脳を経由して肉体にフィードバックされる。で、負荷が掛かれば掛かった分だけ強化される。つまり脳や身体へのダメージを軽減するし、使えば使う程に補助脳は個人と機体に最適化されていく。簡単に言えば相性が良くなっていくワケだな」

 

 若社長の説明を受けて、三日月は納得した様子で頷く。

 道理で何度もシミュレーターをバルバトスに乗って使う度に疲労が軽減されていく筈だ。

 

「……いやー、それでもそのスピードは尋常じゃないんだけどな」

 

 昭弘などもこのシミュレーターを使ってグシオンとの相性を上げている。

 三日月から事情を聞いて、自分もと土下座されて請われてしまっては仕方ない。きちんと休憩を挟む事と、休むことで阿摩羅識の更新に当てるようにと言い聞かせられた。休む事にも理由があると説明されては仕方ない。

 こうして、MSG鉄華団のガンダム乗り二人はリミッターが強制的に解除された状態での機体の使い方を学んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 対モビルアーマー戦闘の経験は、確かにシミュレーターのみだ。

 実戦経験に劣るものかもしれない。しかし三百年だ。最早当時の戦争を知る者はいない。

 そう言った意味では、この戦闘はある種の試金石でもあった。

 

 数多くの技術者や協力者たちが作り上げたという阿摩羅識システム、そしてフレームアームズが、本当にモビルアーマーに対抗出来る戦力だと世間に示す。

 オルガはそう言っていた。

 

 三日月は突貫しながら思う。

 徐々にその全貌が見えてくるこのモビルアーマー、本当に若社長よりも強いのか?

 肌に感じる威圧感は確かにある。だがそれは、若社長よりも弱く薄いように感じられたからだ。模擬戦を通じて浴びせられたヴェスパーファルクスに乗った若社長の殺気や威圧感は、こんなモノじゃない。

 例え相手がモビルスーツよりも目測で三倍から四倍は大きく見えようとも、その程度では怯むような感性は持ち合わせていなかった。

 確かにその重さだけでも脅威だろう。あの巨体に踏まれれば圧殺は免れない。事実、踏み潰されたグレイズの残骸がカメラに映る。生体反応が無いことから、パイロットは生きてはいないと推察出来た。……そう言えば、追われていたあのオッサンはどうなっただろうか?

 昔の仲間であるギャラルホルンか、あのモビルアーマーに殺されているのなら、事が終わり次第で線香の一つでも上げてやろう。

 死んだら皆、仏とやらになるらしいのだから。

 

 そう思いながら、白刃が煌めく。

 高速で敵に接近するバルバトス。背面のブースターは、三日月の意思に従っていたがある一定の距離まで近付いた瞬間に、それは起きた。

 バルバトスの持つ刀は、三日月の想定よりも鋭く速く、敵の頭を斬り落とそうとしたからだ。リミッターが強制的に解除されたのだ。

 強化された慣性制御装置のせいもあり、三日月が気付いた時には、

 

「  は?  」

 

 眼前に機械の顔があった。

 

 距離を詰めすぎた。

 

 構えた刀を振り下ろすよりも速く、機体はモビルアーマーに接近したのである。

 咄嗟に手にした刀(マクマードからの贈り物)の柄で殴り付けたが、装甲を凹ませただけだ。

 山のように盛り上がった背中に幾つもある砲台がバルバトスに向けられる。

 

「やば」

 

 即座に後方へ飛ぶ。

 しかしその速度は尋常ではなかった。即座にビームや実体弾の攻撃を避けて、こちらに接近してきたグシオンの隣へ着地した。

 

「……ここまで敏感になるのか」

 

 リミッターとやらが、どれだけこの機体を人間が扱い易いレベルまで性能を落としてくれていたのかがよく分かった。

 下手に全開にすれば、肉体が挽き肉になっていてもおかしくないレベルの負荷だ。

 

「大きくて重い相手か……昭弘、どう?」

『グシオンの初陣相手にゃ丁度良い』

 

 ゆっくりと砂色の装甲を纏ったガンダムフレームが近付いてくる。

 ガンダムグシオン・リベイク。

 “焼き直し”を意味する名を付けられた昭弘・アルトランドの愛機だ。

 だが、その姿は史実を踏襲しているとしても内部は違う。

 バルバトスもそうだが、胴体以外はフレームアームズ用のアーキテクトが流用されているからだ。故に動力はエイハブツインリアクターをメインとし、フレームアームズの動力であるUEユニットを補助に使っていた。

 

『しっかし、ありゃあ……亀か?』

「カメ? ……ああ、確かに」

 

 物を知らない少年兵だったが、だからと言ってずっと学の無いままではない。

 若社長が勉強を推奨した事で遅々としたスピードだが、三日月も勉強はしていたからだ。

 クーデリアが来たこの一ヶ月は他の勉強嫌い共と一緒に、彼女から色々と教わりもした。地球に生息しているという動物についても少しは学んだ。

 

「アレって、リクガメってやつかな?」

『ああ、動物を模してんのか……なんでまた?』

 

 呑気な二人だが、警戒は怠っていない。

 モビルアーマーによって少なくない人間が殺されているらしいのだ。

 油断する理由は無かった。

 しかし、少し観察し過ぎたようだ。

 

「ん」

『うお!?』

 

 亀のようなモビルアーマーは、その口からビームを放射する。どうやら小手調べのつもりらしい。

 それを三日月は甘んじて受ける事にした。バルバトスより、『あの程度ならどうとでもなる』と太鼓判を押された気がしたからだ。

 結果として、塗装されたナノラミネートアーマーによる耐ビームコーティングによってビームは拡散された。

 しかし、

 

「あー……周りに散るんだ、ビーム」

『被害が馬鹿にならねぇな』

 

 機体によって散らされたビームは、無秩序に周囲に拡散する。融解した地面や岩肌を見て、三日月はこのモビルアーマーをクリュセに近付けてはいけないと確信した。流れ弾となったビームで、市街地が蹂躙される光景がありありと脳裏に浮かんだ。

 それにモビルスーツは、エイハブリアクターの電波障害のせいで市街地への侵入を禁止されている。同サイズのフレームアームズも、事実はどうあれ電波障害を引き起こすものとして受け入れられないだろう事は想像に難しくない。

 もしも突破され市街地への侵入を許せば、少なくない死人が出るはずだ。そうなれば色んな連中が、若社長とウチに色々と難癖を付けてくるとオルガは言っていた。そうでなくともギャラルホルンと敵対している現状だ。下手を打てばどうなるか分かったものではない。

 逃がさずにここで仕留める。

 それこそが最適解だ。

 

 

 

 あの巨体のせいで、ゆっくり動いているように見えるが、かなりの速度でモビルアーマーはクリュセに近付いている。

 何かされるより早い内にさっさとスクラップにしてしまおう。

 情報は既に若社長から貰っているのだ。

 あのモビルアーマーが、()()()()()()()()()さっさと片付けなければ。

 場合によっては無理も無茶も無謀もやってみせるが、既に相手の情報は丸裸だ。懸念しなければならないのは、いつもよりも暴れるであろうこの相棒(ガンダム)だけなのだから。

 

「リミッターが完全に外れての戦闘は初めてだしね、無理はしないでやってみよう」

『そうだな。そういう意味じゃ、あの野郎は渡りに船か』

 

 いつもと違って繊細且つ大胆な操縦をしなければならない。

 三日月は刀を、昭宏は斧を構えながら、そう思った。

 

「んじゃ」

『応』

 

 端的に一言。

 それだけで二機のガンダムはモビルアーマーへと肉薄する。近接武器しか持たないバルバトスは兎も角、グシオンには銃口下にナイフが備え付けられた組み換え式の銃剣であるツインリンクマグナムを背面に装備しているが、どうやらそれを使うつもりはないらしい。

 もしこれが人が乗るモビルスーツが相手ならば、銃剣は通用するかもしれない。

 しかし相手はAIだ。

 最適解を求め、それを実行する事に躊躇いがない。

 だからこそ、距離を空けるのは下策だ。

 その隙に敵が逃げて、その先にクリュセがあれば任務は失敗だ。モビルアーマーはさっさと人を殺して回りクリュセは瓦礫の山へと変わるだろう。

 故に今回の手段は、近接戦闘でリミッターの切れたガンダムのパワーで押し切る事にしたのである。

 グシオンのパワーによって装甲が(ひしゃ)げるデュナミス。

 斧の柄を伸ばし――ハルバードを手にしたグシオンの攻撃は、鈍重なモビルアーマーにあっさりと通った。

 三日月もまた、刀の刃を立て装甲を斬り裂いていく。

 苛烈なパワーでハルバードを振り回しラッシュを掛けるグシオンと、

 

「おらおらおらおらおらぁあああああああああああああっ!!」

「チェストォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 示現流特有の猿叫と呼ばれる独特の発声と共に一刀が振り下ろされる。

 元々三日月は無言で剣を振っていたのだが、ある日にふと映像にある剣士との違いに気付いたからだ。

 映像にあったのは七十を超えているかもしれない老齢の剣士。

 しかしその剣士は、裂帛の気合を込めた叫びと共に、巻藁を真っ二つにしてみせた。

 それを観て、何度か三日月も見様見真似で巻藁を真っ二つにしたが、何かが違う。

 映像を細かく調べてみても分からなかった。

 だから仕方なく、同じように吠えて剣を振ってみたのだが――これが意外とキツい。だが、微かに威力と鋭さが増したのが三日月にも分かった。

 それからだ。

 三日月が周囲から引かれようとも猿叫込みで立木打ちをし始めたのは。

 まさしく気でも狂ったのか、と思われたが――正しい修行法だと若社長に言われたので真似をする奴らも増えてきた。タカキもその一人だった。

 そうなれば三日月の隣で一緒に立木打ちをする人間は徐々に増え、今ではMSG示現流道場はかなりの人数が在籍するようになっていった。

 ……大多数の人間が叫ぶので、防音設備をかなり更新しなければならなくなったのは笑い話だが。

 そんな事を思い返す程度には、三日月には余裕があった。

 口や砲身からのビームや砲弾がクリュセのある方向に行かないように上手く立ち回っているつもりだが、予期せぬ流れ弾の心配もある。

 そうならないように、チャドを筆頭にTC障壁で諸々を受け止める部隊が、離れた位置で戦況を見守っている。随伴しているダンテは、レヴァナントアイによる撮影を行っていた。後で各経済圏や自治区の重鎮、有力者にモビルアーマーの脅威を伝える為の証拠として活用する為だ。

 故にチャドの部隊は全員が轟雷のバリエーション機に搭乗している。

 

 格闘戦型の《漸雷》。

 砲撃戦型の《榴雷》。

 

 しかし今回は共に様々な遠距離兵装や追加装甲、盾をマシマシの状態での参戦となった。チャドは、榴雷の強化装備形態の《榴雷・改》に乗っていた。

 流れ弾が来たら叩き落とすか、盾(ないしTCS)で防ぐつもりで敵の挙動を観ていたのだが、ある事に気付いた。

 

「……おかしい、のか?」

『どうしたチャド?』

「ああ。なんかアイツ、さっきからずっと三日月たちばかりを狙ってねぇか?」

『どういう事だよ?』

「えーっとな、俺の勘違いかもしれないけど。あのモビルアーマーっていうヤツ、クリュセよりも三日月や昭宏を相手にする事を優先してねぇか? しかも、なんか手加減してるみたいに」

 

 そんな時だ。

 チャドたちは複数のエイハブウェーブを感知した。

 ギャラルホルンのグレイズだ。

 どうやら今用意出来るグレイズを全てかき集めてきたらしい。そんなメールがダンテを経由して若社長から全員に届いた。ダンテは、戦闘中で見られない三日月と明宏に状況を口頭で伝えたようだ。

 近付いてきたグレイズの一機が、勇ましい態度で外部スピーカーを通して怒鳴る。

 

『民兵共! ここからは、我らギャラルホルンがモビルアーマーの相手をする!! 貴様らでは足手纏いだ、さっさと失せ――』

 

 最後まで宣う事も出来ず、飛来した砲弾がそのグレイズに直撃する。

 しかもコックピット――つまりパイロットのいる場所のド真ん中に。

 騒然とする他のグレイズ共。

 そんな連中を観察していたモビルアーマーは、暫し硬直する。

 

『あ、当たった』

『何がしてぇんだアイツら?』

 

 どこか白けた雰囲気の中、ダンテのレヴァナントアイが何かに反応する。

 上空より未確認落下物の反応多数。

 

『この反応――上から何か落ちてくるぞ!!』

『どこにだ!?』

『あのモビルアーマーの近くと、クリュセにだ!!』

 

 ダンテの駆るレヴァナントアイの頭部装甲が開き、一つ目の髑髏のような大型のカメラが空から落下する何かを捉えた。

 その数、少なくとも二十以上。

 アレがそのままクリュセ独立自治区に落ちれば、恐らく住民は死滅する。若社長とかはなんとか生き延びそうだが、それでも少なくない人間が死ぬ筈だ。

 チャドは、その黒い肌に冷や汗を流しながら、両肩の六七式長射程電磁誘導型実体弾射出器(ロングレンジ・プラズマソリッドキャノン)と手持ち装備として持ってきた折りたたみ式の超大型火器ストロングライフルを構える。

 

「ダンテ、基地のオッサンたちにも狙撃の援護してくれるように通達しといてくれ」

『もうやってるぜ』

「流石」

 

 部下となった仲間たちも、ハンドバズーカやバーストレールガン、スナイパーライフルといった遠距離射程兵装を構え狙いを定める。

 もうモビルアーマーの近くに落ちるヤツは無視だ。全機の砲塔はクリュセに落ちようとする落下物へと向けられた。あっちは最悪三日月と明宏がなんとかしてくれる。

 ギャラルホルンのグレイズ?

 あんな芸人集団は期待するだけ無駄だ。

 

『俺が弾道予測する。全機、俺と照準をリンクしろ』

「了解」

『『『了解』』』

 

 レヴァナントアイの背中にあるレドームが動き、性能を上げた髑髏のようなカメラが高高度のターゲットを捉えた。

 更に秘密裏に火星の衛星軌道上に配備されたMSGの管制衛星より情報を得て精度を上げる。

 

『サテライトリンク――弾道計算、距離算出、照準固定』

 

 全身から汗を大量に流しながら、目まぐるしく更新される情報を捌いていくダンテ。

 チャドたちもまた、その号令を待っている。流れる汗で目が染みようとも、拭おうともせずに。

 更にMSG基地からもマルバを始めとした待機組がフレームアームズに乗って狙撃体制に入っている。お誂向きに遠距離狙撃用兵装を装備したビスケット機みたいな機体が数機あったので、そちらは基地管制が砲撃を指示するつもりのようだ。

 しかし、それを許すモビルアーマーではない。

 こちらに向けて実体弾を発射しようとして、

 

『やらせないって』

『仲間を殺るつもりなら、まずは俺を殺してからにして貰おうか!』

 

 三日月と明宏の攻撃によって砲塔がオシャカにされる。

 内部より誘爆し、背中の砲塔の殆どが使い物にならなくなった。ヤツに残されたのは、口らしき所から発射されるビームだけだ。

 

『――よっしゃ! テメェら待たせたな!!』

 

 そんな後ろの事なぞ露知らずといった様子で、ダンテは叫ぶ。

 

『任せたぜ、チャドぉ!!』

 

 照準画面とターゲットが重なる。

 

「LPSキャノン及びストロングライフル――発射ぁ!!」

 

 通信機越しに仲間たちの叫びも聞こえる。

 様々な遠距離兵装が火を吹き、遥か上空からクリュセに落ちようとした落下物を破壊していく。

 基地方向からも様々な火器が繰り出されているようだ。別方向から飛んでくる砲弾によって、落下物は原型を留める事無く吹き飛んでいくのだから。

 

「……どうだ、ダンテ?」

『目標の全消滅を確認。破片もクリュセにゃ落ちてねぇ……やりゃあ出来んじゃねぇか俺らでも!!』

 

 歓声が上がる。

 誰もが最悪の未来を防いだ事に興奮していると、

 

『あー、ちょっと皆、こっちの事忘れてない?』

 

 三日月の冷静な声。

 

『あ』

「あ」

 

 ダンテと声が重なる。

 そうだった。

 クリュセに落ちるヤツだけを吹き飛ばしただけなのだ。

 こっちに落ちてくるのを片付けなければいけない。

 

「すまん三日月、そっちはどう――」

 

 慌てて機体を回れ右して背後を確認する。

 何かが地表に激突した音が響き、砂塵が視界を覆う。

 しかしその砂塵は一気に取り払われた。落下してきた何者かが、勢い良く何かを開いた事による風圧によって。

 そこには、様変わりしたデュナミスの姿があった。

 モビルアーマーの鈍重な装甲が剥がれ、中にいた『何か』がモビルアーマーから分離し、浮遊しているではないか。

 事前の情報で、アレが何なのかはチャドたちは知っていた。

 天使の階級における中位三隊、子の五位――力天使デュナミスの第二形態。

 装甲を排し、内部に搭載されていた浮遊型の随伴指揮官機を起動させた殲滅形態。あの力天使は、随伴する子機を全て失っていたから第一形態のままだったのだ。大量の「子機」がいなければ第二形態となっても戦力は半減している筈だったのだが――どうやら落ちてきた()()が大量の子機を抱えていたようだ。

 天使下位三隊、聖霊の八位――大天使アークエンジェル。

 大きな卵のようなソレが翼を広げると、中には虫のような小型のモビルアーマーがうじゃうじゃとひしめいているではないか。情報通りアークエンジェルは、小型モビルアーマーの輸送が主目的のようだ。

 大量の指揮官型の子機がデュナミスより離れ、更に大量の虫のような子機を統率していく。人の軍隊に置き換えれば、あの虫のような子機が兵士で、浮遊する子機が下士官といった所だろうか。であればアークエンジェルやデュナミスは士官に相当するのだろう。

 虫のような子機は、《プルーマ》と呼称されていると若社長より聞いていたが、やはりどう見ても虫にしか見えない。どこが羽根だ。

 しかしこれでデュナミスは身軽になった。

 縮ませていた四肢を伸ばし、四つ足の肉食獣のような姿へと変貌したのである。色々と無駄な贅肉を削ぎ落としスリムな体型になったようだ。

 亀に擬態していた頭部の装甲は剥がれ、口腔内のビーム砲も外れ落ちた。外れたそこには、敵を噛み砕く事に特化した牙が見える。

 先程までの遠距離砲撃を得意とした姿は無く、近接戦闘を主軸としたモビルアーマーとしてデュナミスは再臨した。

 だが、

 

『……近付いてくれるなら有り難い』

『そうだね』

 

 眼前に在るのは、未熟ながらも剣の道を邁進する鬼と、鍛えられた筋肉を武器に荒ぶる鬼。

 その程度でたじろぐ精神は持ち合わせていなかった。

 

「ほんと、頼もしいったらないねぇ」

『言っとる場合か!』

「あ。そ、そうだな。俺らは俺らで他の連中を相手しねぇといけねぇな」

 

 落下してきた新顔のモビルアーマーが三機。そして、そいつらが抱えていた兵隊共。

 ストロングライフル以外にも色々と火器は用意しているのだ。

 幾らでも相手になってやろう。

 遠距離狙撃用の銃でなくマシンガン等の中距離用の銃に持ち替えるチャド。

 仲間たちも、マシンガンやガトリングガン、近接武器を構える。

 若社長の話だとプルーマにはエイハブリアクターが搭載されてないらしい。

 デュナミスが数多く抱えていたプルーマを統括する天使下位三隊、聖霊の九位であるエンジェルから上位機にリアクターは搭載されているそうだ。とは言ってもエンジェルは最下級のモビルアーマー。リアクターは簡易量産型でモビルスーツ程の防御力はないらしい。

 なら、今日持ってきた武装でも充分通用する筈だ。

 事実、チャドのマシンガンから撃ち出される銃弾は、あっさりとプルーマを撃破していく。

 仲間たちも次々にプルーマを破壊していくが、その数はまだまだ膨大だ。

 だからつい泣き言を漏らすヤツもいた。

 

『チクショウ! シノたちはまだ戻らねぇのかよ!?』

『半壊した機体から生きてるヤツを引っ張り出してんじゃねぇか?』

『そんなもんギャラルホルンにやらせろよ!』

 

 そう言いたくなるのも無理はない。

 シノたちは、モビルアーマーに蹴散らされたグレイズを引っ張って後方へと下がっていた。

 十機近くいたグレイズは、その半分のパイロットが死に、残り半分も損傷している。損壊が一番酷かったのはそいつらではなく、犯罪者として追われていながら元同僚を庇ったクランクのグレイズだったが。そのせいでギャラルホルン側の若い男は動揺するわ取り乱すわで大変だった。

 シノが無理矢理引っ張っていかなければ、確実にあのデュナミスの砲撃で死んでいたに違いない。

 更に追加でやってきたギャラルホルンたちも、プルーマに襲われていて応戦するだけで手一杯のようだ。

 今はまだ自分たちを殺す事に躍起になっているようだが、クリュセや他の自治区、農業プラントを初めとした生産拠点を襲撃する可能性もあった。

 だから。

 自分たちが脅威である、とモビルアーマーに認識されなければならなかった。

 苛烈な攻撃はその為だ。

 しかし、攻撃が苛烈になれば消費される弾薬やエネルギーも消費し尽くせば、最終的には殴り合いになってしまう。

 若社長の言う通り、敵が撤退する事はないのだろう。何せ相手は機械だ。命令を完遂するまでは止まらない。

 全てのモビルアーマーを破壊するしか止める方法は無いのではないかという事実を改めて実感した鉄華団の面々は、冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、撤退したシノたちはと言うと。

 

「クランク二尉っ、聞こえますか? クランク二尉っ!」

「……あ、……い」

「はい、俺です。アイン・ダルトンです!」

「こ、こ……」

「外です。彼らが二尉をグレイズから救出して……」

 

 損壊したコックピットハッチをひっぺがし、シノたちによって救出されたクランクだったが、その怪我は酷いものだった。

 破損した機材の破片が腹部を傷付け、更に変形したコックピットに巻き込まれて左の手足も潰され切断する破目に。右の足首から下も血塗れで、無事なのは咄嗟に庇った右手だけだ。

 上空から落下するモビルアーマーを自前の勘を頼りに狙撃して落としたシノが戻ってくる頃には怪我人の選別は終わっていた。

 医療用の装備を装着したサポートロボットたちがクランクたち怪我人の容態を観測し、簡易的な応急手当をしながらシノのタブレットに容態を報告する。

 

「あー……こりゃまずいな」

 

 そんな呟きが聞こえたらしく、簡易的なベッドに寝かされたクランクに呼び掛けていたアインとやらが振り返る。

 

「……!?」

 

 どうやら何がまずいのか勘で理解したらしい。思わずといった表情でこちらに振り向くアイン。

 なのでシノも隠さずに伝える事にした。

 

「さっさと再生治療用のポッドに入れないと、死ぬかもしれねぇってさ。生きてるお仲間含めて全員」

 

 その言葉にアインは唸る。

 ギャラルホルンの同僚はまだ良い。

 火星支部のメディカルポッドを使えば一命は取り止められるだろう。今からシャトルで衛星軌道上の『方舟』へ飛び、そこから火星支部へと移送すれば、の話だが。

 しかし今はモビルアーマーとの戦闘中だ。

 シャトルが飛び立つ前に迎撃されてしまえば元も子もない。

 更に最悪な事にクランクは罪人だ。

 射殺許可も下りている以上、公的な医療施設に送るのは不可能だった。

 そんな彼が一番の重傷を負っている。

 しかも自分を庇って。

 情けなさと申し訳無さにアインが自分を呪っていると、

 

「おい、自己嫌悪してるトコ悪ぃけどよ、上司が来たみたいだぜ?」

 

 親指でシノが指す方角を見ると、特務三佐の階級章を付けた二人の青年が堅気に見えない男たちを伴ってやって来るではないか。

 監査局のファリド特務三佐とボードウィン特務三佐だ。

 反射的に敬礼をしてしまう。

 

「シノ、状況は?」

 

 そんな自分を尻目に紋付袴を着た筋骨隆々とした体格の男が、シノと呼ばれた男に話しかける。

 確か、MSGの明星社長だったか。

 式典には日本人だということで和装で参加していた映像を見た気がする。

 

「三日月と昭弘がモビルアーマーのデカブツと交戦中。チャドたちが増援のモビルアーマーっぽいのを相手にしてるぜ」

 

 タブレットを操作しながらそう言う。

 どうやら戦闘のログは逐一共有されているようで、離脱した後の様子もシノたちは把握していたらしい。

 

「ギャラルホルンのグレイズは?」

「あー……戦ってる、とは思うぜ? 怪我人だけは集めてるけど、死んだ連中の回収は無理だ」

 

 その説明を受けて、金髪のファリド特務三佐が手足の殆どを失ったクランクに目をやる。

 咄嗟に何か言おうとするが、しかしそれは彼の鋭い視線で制された。

 

「……ふむ。明星社長、迅速な判断に感謝する」

「いえいえ、特務三佐殿」

「時に……この男は誰かな?」

 

 そんな事を言う。

 隣にいるボードウィン特務三佐が怪訝そうな顔をするが、明星社長はあっさりと告げる。

 

「さあ? 知りませんね」

「……そうか。コンラッド支部長に聞いた『ある犯罪者』と似ている顔だと思っていたのだが、そんな男がギャラルホルン士官を庇う筈もないからな。他人の空似だろう」

 

 説明口調でそう告げられ、呆気に取られるアインとボードウィン特務三佐。

 明星社長は頷き、

 

「シノ、タブレット」

 

 手渡されたクランクの容態を確認し、ファリド特務三佐へ手渡す。ファリド特務三佐の横で内容を読んだボードウィン特務三佐は、顔をしかめる。

 見た目以上に重傷だと分かったようだ。

 

「……ウチの社屋には発掘したメディカルポッドがあります。こっちで身柄を預かっても?」

「構わない。掛かった費用は、彼自身が払うだろう」

 

 淡々とクランクの処遇が決められた。

 それに異を唱える事をすれば、彼は死ぬ事になるかもしれない。

 だからアインは固唾を飲んで見守る事にした。

 

「了解しました。……このままここに置いてたら死にそうだな。さっさと運ぶぞ」

「うぃーっす」

 

 シノと呼ばれた男が、自分の機体へと乗り込む。

 ピンクに近い紅紫色の機体が変形し、二輪駆動車へと姿を変える。

 そこに別の機体が医療用コンテナを持ってきて、そこへクランクを搬入すると自動的にハッチが閉まり生命維持装置が稼働し始めた。

 コンテナをバイクのシートの位置にあるリアスカートと接続させ、固定が完了する。

 

『んじゃ、最速で送ってきますわ! ついでに銃と弾薬もいるみたいなんでそっちも持ってきます』

「おう。気をつけろよ」

『了解っす! そんじゃあ鉄華団『流星隊』、出るぞお前らぁ!!』

『『『応!!』』』

 

 ノルバ・シノが率いる『流星隊』は、可変型フレームアームズにより構成される部隊だ。

 バイクへと変形する《ジャイヴ》、そのバリエーション機体である《セカンドジャイヴ》の二機種の走破性能は高く、ギャラルホルン襲撃のビラやらを各自治区にバラ撒いたのもこの部隊だった。

 故に、彼らにかかれば短時間でMSG本社へと戻り、クランクをメディカルポッドへと移送出来る。

 明星社長は、シノたちの速さを信頼していた。

 あいつらなら、さっさと怪我人を引き渡して武器弾薬を補充して戻ってくる筈だ。

 そう明星社長は確信しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて」

 

 遠ざかる機体を見送り、マクギリスがそう言って近付いてきた男たちに向き直る。

 鉄華団の軍服に着替えたオルガ団長が連れてきた二人の壮年の男。

 その正体を知っていたマクギリスは最敬礼を以て出迎えた。

 

「お初にお目にかかります、バリストン会長。それにお久し振りです、モルガトン会長」

「おう、お前さんがファリド三佐か。はじめまして」

「半年か、もっと前か。元気そうじゃねぇか」

 

 木星と月を牛耳るマフィアの首領(ドン)だと知り、ガエリオは顔を引き攣らせる。

 しかしそんな彼のリアクションを誰も気にしなかった。

 淡々とマクギリスと二人は挨拶を交わし、彼は深々と頭を下げた。

 

「この度は、火星支部の人間が引き起こした愚行について、深く陳謝します。申し訳有りませんでした」

 

 ガエリオは先程、マクギリスに言い含められていた。

 これから自分は、マフィアの人間に謝罪する、と。

 それはやってはいけない事だ。

 法の番人であるギャラルホルン、しかも監査局に属する人間がしてはいけない事だが……しなければならない事でもあった。

 マクギリスは、近々ギャラルホルンを辞職する立場の人間だ。

 故に頭を下げる事に抵抗は無かった。

 

「止してくれ。アンタに頭を下げられても俺らはどうする事も出来ねぇよ」

「……我々は、襲撃をした事実を認める事は出来ません。ですので、謝罪をするにはこの方法しかありませんでした」

 

 深く頭を下げるマクギリスの表情は伺えない。

 

「何か……他にもあるのかい?」

「報復の対象に、コンラッド支部長が入っている事は察しています。ですが、それは待って頂きたいのです」

「ほお」

 

 穏やかな口調。

 しかしそれは、報復を取り止めるからではない。

 必ず「殺る」と決めているから穏やかなのだ。

 それがガエリオには分かった。

 

「彼には、詰め腹を切って貰う予定です」

 

 マクギリスの言葉を受けて、二人は顔を見合わせる。

 

「まあ、確かにその支部長さんが責任を取ってくれるんなら、俺らんトコの連中も納得してくれる、とは思うが……」

「どういう責任を取ってくれるのか、それの説明をされねぇとなぁ」

「はい、まず第一にノーマン・バーンスタイン氏の身柄は、そちらにお譲り致します。これは襲撃を受けたMSG社長である明星社長より許諾を得ていますので」

 

 思わず明星社長へ視線を向ける。

 彼は頷く事で肯定した。

 

「クーデリア嬢の護衛を請け負ってる俺らが動けば、要らん憶測がお嬢さんに降り掛かります。行方不明になって貰った方が何かと都合が良いんですよ」

「その……いいのか? それで」

「お嬢さんは知ってますよ、親父が自分を売ったって」

 

 思わず口を開けば、救いのない親娘関係が浮き彫りになった返答を受けてしまう。

 成程、マクギリスがヤクザに身柄を引き渡そうとするワケだ。最早関係の修復は不可能だとこの男は知っていたらしい。

 

「因みに、既にクリュセ議会に所属する政治家の皆さんからも承諾を得ています。代表首相がギャラルホルンと蜜月の関係だったってのは周知の事実だったようで」

「成程。だが一つ訂正させて貰いたい。彼は火星支部とだけ蜜月の仲だった、と」

 

 明星社長は頷くことでマクギリスの言葉に首肯する。

 

「まあ、それはいいですけどね。……ん? オルガ? ビスケット?」

「……マジかよそれ!?」

 

 

 慌てた様子で駆け寄ってくる太った年若い男と話していたオルガ・イツカが焦った声を上げる。

 

「どうした?」

「……ギャラルホルン火星支部が、未確認の機体の軍勢に攻められているそうっす。『方舟』に詰めてたユージンからの通信だから、多分正しいと思います」

「なんだと!?」

「……この状況から考えればモビルアーマーだろうな。幾ら火星支部の「アーレス」であろうとも、物量で攻められればどうしようもないだろう」

 

 ギャラルホルン火星支部が存在するコロニー「アーレス」は、各自治区を始めとした火星全土の治安維持の為に軍事拠点としてもそれなりの能力を有している。

 しかし、それは人間相手の場合だ。

 厄祭戦終結から三百年。

 モビルアーマーとの戦闘を想定して建造されてはいなかった筈だ。

 

「ファリド特務三佐!」

 

 慌てた様子でギャラルホルンの人間が駆け寄ってくる。

 

「コーラル支部長より通達が! 『敵勢力の脅威は如何ともし難く、これ以上の抗戦は不可能。既に少なくない機体が損失。基地機能にも甚大な被害が発生。誠に遺憾ではあるものの火星支部を放棄し、火星へと全人員を移送する。全責任は自分が取る』と!」

 

 ある意味それは、火星のギャラルホルンがモビルアーマーに敗北した、という宣言でもあった。

 

「何を馬鹿な事を……!」

「……いや、正しい判断だ」

 

 マクギリスが明星社長に目を向ける。

 

「明星社長、……そちらの戦力を当てにしてもいいだろうか?」

「こちらも死にたくはありませんからね。宇宙の方は俺が出ましょう」

 

 あっさりと、未確認のモビルアーマーがいるらしい宇宙へと上がると明星社長は言う。自殺行為だと思っているが、誰もそれに反論しない。身内である筈のオルガ・イツカたちですらそれを当然と受け止めている。

 MSGの面々が動き出す。

 誰もが自分の仕事を全うしようとしている。

 辺境の火星人だから、と内心で侮っていたガエリオだが、しかし現状では自分の方が何も出来ていない。

 式典に尽力したのは各自治区の政治家や活動家たちで、ギャラルホルンは客人として扱われたからだ。

 この絵図を描いたのも、恐らくはMSGだ。いや、客人だったマクマードたちの入れ知恵かもしれない。

 所謂意趣返しというヤツだろうか。

 まあ、そうされても仕方ない事を火星支部はやらかしたのだから、何も言い返せない。ここで文句を言うのは呆れる程に厚顔無恥な輩だけだろう。

 ……ふと、同じセブンスターズである「ある男」が脳裏に浮かんだ。アレがもしここに居たら、馬鹿な事をやらかしただろう。

 いなくて本当に良かった。

 

「では、地上へと降りてきたモビルアーマーの相手は任せて貰おう。キミ、私のグレイズを動かせるようにしておいてくれ」

「りょ、了解しました!」

「待て、俺のグレイズも頼む」

「はい!」

 

 最早事がここに至っては静観を決め込む事もないだろう。

 そんな馬鹿な選択肢を取ってしまえば、自分は父に顔向けできなくなる。

 そしてそれ以前に。

 

「……」

 

 友人だと思っていた男が、ギャラルホルンを去っていく筈の男が、こうも理想的なギャラルホルン士官として動いている。

 その事への対抗心がガエリオの中に生まれていた。

 

「……なあ、マクギリス」

「なんだ?」

 

 しかしそんな事、口に出すのは恥でしかない。

 だから、別の事を訊ねた。

 

「勝てるか?」

 

 少しだけ、マクギリスが目を見張る、

 しかし彼はふっといつものように笑って、

 

「勝つさ」

 

 マクギリスはマクマードたちに向き直ると、再び頭下げた。

 

「これ以上のお話は、三百年前の脅威を振り払ってからで宜しいでしょうか」

「そうだな……あんなブリキ共を野放しにしたら不味いよな」

「しっかりやってくれたら、考えるぜ」

「有り難う御座います」

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 急遽宇宙へと上がる無人操縦のシャトルの中。

 龍治は物思いに耽っていた。

 

 本人も半ば忘れているが、明星・龍治は転生者だ。

 

 前世では別作品のガンダムだって観た事がある。

 しかし、『鉄血のオルフェンズ』の内容は知らない。観ようとする直前に死んでしまったのだから。

 

「……(やっぱり、敵は人間だけじゃなく、モビルアーマーもだったか)」

 

 龍治は、人と人の争いよりもモビルアーマーとの戦闘が主軸になると勝手に思い込んでいたのである。

 育ての親であるアグニカからの警告を受けた事もその考えを補強した。

 彼は知らない。

 自分が拾った孤児たちが、本当は何人も死ぬ運命にある事を。

 

 彼らの命を拾い上げたのだと、彼は知らない。

 

 しかしそれでも、分かっている事もある。

 ここでモビルアーマーを破壊しなければ、地球へクーデリアを送るという仕事も進められない。

 受けた仕事はきちんとこなす。

 これまでも、これからも。

 

「ん?」

 

 アラート。

 どうやら宇宙にいるモビルアーマーがこのシャトルをロックオンしたようだ。

 パイロットスーツに着替えていた龍治は、ヘルメットを被る。

 ハッチへと移動して、外の様子を探る。

 こういた状況も想定していた。

 だから、『保険』も用意している。

 

 カメラアイがシャトルを見据え、ビームの銃口が龍治へと向けられた。

 

 ハッチを開け、宇宙へと飛び出す龍治。

 その直後、ビームがシャトルを貫き――爆散する。

 

 

 

「時間通りだ。――相棒」

 

 

 

 黒い宇宙空間。

 そこから浮かび上がるように、黒い機体が龍治の眼前に現れた。

 六枚羽根。

 紫の結晶。

 機体の各所に流れるエネルギーライン。

 バイザーの奥に光る緑のカメラアイ。

 鋭い爪先を備えたマニュピレーターが龍治に差し出される。

 着地した主を、コックピットに迎え入れた。

 

「有り難うな、チビスケ」

 

 ――Piっ!

 

 コックピット内にあるサポートロボット用の席で操縦をして、龍治へ愛機を持ってきた『チビスケ』が電子音を上げる。

 

「さあ、往こうか。――ヴェスパーファルクス!!」

 

 黒き魔王が、咆哮する。

 マニュピレーターが拳を握りしめ、振り被った拳骨がシャトルを破壊したモビルアーマーを破壊した。

 

「モード・セレクト。イーグルハント」

 

 六枚羽根より銃とベリルソードが二つずつ分離し、合体して銃剣となる。

 それを両手に持ち、龍治はギャラルホルン火星支部へと機体を進ませた。

 道中で攻撃を加えてくるモビルアーマーを斬り、撃ち貫いていく。

 無数のモビルアーマーが、ヴェスパーファルクスを破壊しようと襲い掛かってくるが、しかしそれは鎧袖一触で逆に破壊される。

 追従するアンロックユニットと化したベリルウェポンも、モビルアーマーへ襲い掛かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりバケモンだよな若社長」

「うん」

 

 大型化した《イサリビ・アカガネ》の操縦席で、ユージンは仲間たちとそんな事を話していた。

 基本的に若社長のフレームアームズはイサリビか天城に収容されており、火星には決して下ろそうとはしなかった。

 その理由も聞いている。

 過剰な戦闘力を秘めたヴェスパーファルクスは、それだけでギャラルホルンを刺激すると分かっているからだ。

 しかし、今宇宙にはギャラルホルンの目は無い。

 火星支部の人間は、アーレスを放棄。

 生き残った全員が火星へと降りた。

 だから、今のこの宇宙は自分たちの独壇場でもあった。

 

「……ん?」

 

 そんな中。

 オペレーター席に座っている仲間が、近付いてくる二隻の船を確認した。

 

「なあ副団長、タービンズとタントテンポの船が近付いてくるぜ」

「もうかよ。予定よりも早ぇな」

 

 その二隻の船からモビルスーツとフレームアームズが飛び出してくる。

 フレームアームズの識別信号は、アミダ、ラフタ、アジーだ。

 モビルスーツの方は……

 

「お、アルジじゃん」

「ガンダムアスタロトだな」

「あ、アミダさん、フレズヴェルクに乗ってるのか」

「ラフタさんたちはラピエールとゼファーか」

 

 しかし、彼女たちが戦闘に入る前に――状況は更に動く。

 

「あ、拙い!」

「どうした!?」

「また大量のモビルアーマーが火星に落ちた!」

「「「なにぃ!?」」」

「しかも今度はクリュセだけじゃねぇ。他の自治区や軍事拠点にもだ!! つーかウチにも落ちてんじゃねぇか!?」

「若社長!」

 

 ユージンが戦闘中の若社長へとLCSで通信する。

 

『どうした?』

「モビルアーマーが火星に落ちた! 今度はウチにも!!」

『マジか。……こりゃ、ビスケットの予測が当たってたか』

「指揮官機がいるってヤツっすか?」

『多分な。火星が見えるどっかにいるんだろうが……』

 

 ユージンが仲間に指示を出す。

 

「おかしな反応がねぇか探せ!」

「「「了解っ」」」

 

 火星へと襲来したモビルアーマーたちとの決戦。

 それはまだまだ混迷を極めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

『三日月!?』

 

 昭弘の叫び。

 デュナミスの前脚が、攻撃を受け流そうとした三日月の刀を圧し折ったのだ。

 宙を舞う刀身。

 相手の武器を破壊した事を認識したモビルアーマーは、一端距離を取った。

 その様子を見て、三日月は気付いた。

 

「お前……笑ったな」

 

 その瞬間――三日月は、背面に装備していたエクステンドアームズと呼ばれる刀を操作する。鞘に仕込まれているハイドシース・カノンの銃口を向け、発砲。

 銃弾は、デュナミスの顔へと着弾する。

 

「……油断するなよ。こっちはやっと温まってきたってのに」

 

 鞘がブレイクオープンし、スラッシュエッジの刀身を外気に晒す。

 折れた刀を捨て、次を手にする。

 元々は折れやすい刀身だったらしいが、マクマードから提供されたモビルスーツ用の刀身によって強度と鋭さは上がっていると聞いていた。

 

「今度も圧し折ってみろよ。でなきゃ……斬るぞ」

 

 独特な上段、『蜻蛉の構え』と呼ばれる姿で刀を構える三日月。

 バルバトスのカメラアイが赤い光を迸らせる。

 敵の動きはそれなりに見切れてきた。このままでも十分に対処は可能だ。

 

 

 

 

 しかし、内心で三日月はこうも思っていた。

 

 

 もっと大きい刀が欲しい――と。

 

 

 

 




 機体解説



 今作オリジナル

 モビルアーマー・デュナミス
 三百年前に起きた厄祭戦において人類を根絶しようとした御使いその一つ。
 天使の階級においては中位三隊「子」の五位。
 機体イメージとしては、砲撃形態はACfaのスカート付き巨大戦車ことカブラカンと動物の亀を掛け合わせたような形状。重装甲の砲撃戦用のモビルアーマー。本家アームズフォートより小さいが、それでもモビルスーツよりは巨大。
 今回のデュナミスは下士官機であるエンジェルを輸送していた。当時は自分の子機を随伴させていたが、真っ先にそれらを根刮ぎ破壊されてしまう。破滅の剣を受けて随伴機を統括する機能が破損し機能不全に陥る。
 三百年かけてオートリペア機能が働いて何とか通常戦闘が可能になった。
 この機体は砲撃戦主体ではあるが、実は装甲をパージすることが可能。砲身付きの装甲内部には格納庫が存在し、パージされた瞬間に内部にいた機体は起動する。装甲が外れると、外見はスマートな細身の機体になる。イメージとしては、メカのジンオウガ。
 高速格闘が主体となり、攻撃方法も一変する。口腔内にあったビーム砲が外れた事で噛み砕けるようになった牙、伸びた尾と爪による打撃、そして高圧放電による敵機の電装系破壊が主な攻撃。
 生身の人間に向けてビームも電撃も容赦無く放つので、もし市街地への侵入を許せば大多数の人間が死んでいた。


 モビルアーマー・アークエンジェル
 同上のモビルアーマー。
 天使の階級においてはデュナミスより二つ下の下位三隊「聖霊」の八位。
 イメージは巨大な翼を持った卵のような機体。(GEのザイゴートから女体を無くしたようなデザイン)
 主に宇宙より子機を大量に抱えて地表へ落下する事が基本戦術。
 その衝撃によって都市が壊滅した事例も多い。
 因みに、作中でもあったようにチャドたちの狙撃が成功したのはダンテのサポートのお陰。基地にいる狙撃班は管制オペレーターの手助けによってその精度を高めた。そういった外部とのリンクを使用せずに、自前の勘でなんとかした変態(ピンク)もいた。
 どういう理屈か分からないが空を飛べる。
 基本攻撃手段は限られており、格納していた子機の放出が済めば翼より有線式の羽根のような刃を大量に射出する。あとビーム。
 羽根の刃は大量に射出して絡まるのを防ぐために、複数枚しか同時に射出出来ない。
 しかし、有線を切り離せば大量の羽根が敵に降り注ぐ事になる。
 未だ作中では登場していないが、某天使の武装と似ているがこちらの方が精度は甘い。面による制圧が目的だからか。



 モビルアーマー・エンジェル
 同上のモビルアーマー。
 天使の階級、その最下位である下位三隊「聖霊」の九位。
 ACfaにおけるアームズフォート・カブラカンの自立兵器をオルフェンズ世界風にリファインしたような姿をしているが、このエンジェルもまた最下級とは言えどもモビルアーマーなのでエイハブリアクターを搭載している。こちらもどうしてか浮遊や飛行が可能。
 リアクターがある、つまりプルーマとよばれる子機たちにマイクロウェーブでエネルギーを供給し制御することが出来る。
 更にこのエンジェルは作中でも下士官として性能を発揮するようにデザインされており、中位以上のモビルアーマーより大量のプルーマを効率良く運用出来る。
 ある意味、最もプルーマの扱いが巧いモビルアーマー。
 中位以上のモビルアーマーとエンジェルと同時に戦闘する場合、兎にも角にもこの機体を破壊しなければ人類側の消耗は大きくなる。しかし下位機体なので数は多く、結局は消耗を強いられその状態で中位、上位機と連戦させられる。
 武装はレールガンとビームを切り替えられる両腕銃のみとシンプル。


 プルーマ
 イタリア語で羽根を意味する。
 武装は爪とレールガン、尾のドリル。
 機体の形状など見ると、虫にしか見えない。
 モビルアーマーのエイハブリアクターが発するマイクロウェーブにてエネルギーを供給し、指示に従う。
 上位、中位機体に大量のプルーマが付き従っているが、真に恐ろしいのはアークエンジェルやエンジェルが率いる場合である。
 戦時中、エースパイロットの乗る機体を物量戦で破壊した事も多い。ある意味モビルアーマーより多くの人を殺害した機械と言える。
 装甲は脆いが、しかしモビルアーマーの整備、修理、その為の資源回収と様々な仕事をこなす便利屋。
 並のモビルスーツよりも出力が高く、ギャラルホルンのグレイズでは一機では太刀打ちできない。


 モビルアーマー・〇〇〇〇〇
 人間を観測し観察し、情報を集約する指揮官機。
 その能力は極めて高く、宇宙から火星の情報を収集出来る。
 特別性の子機を随伴し、それらを含めて一機として活動している。
 上位機はプルーマを製造出来るプラントを所有しており、今回のプルーマは全てこの機による生産品。生産プラントは短期間での大量生産の反動で故障中。エンジェル以上の機体は宇宙のどこかにある秘密工廠でしか生産出来ない。
 今回の襲撃を立案し、人間の脅威度を再調査しようとした。
 あっさりと破壊された現行のグレイズの性能を鑑みて新たな指令を僚機たちへ通達した。





 RF-12 ジャイヴ(ウィルバーナイン)
 RF-12/B セカンドジャイヴ
 支援機「YRF-12 ジャイヴ」を改修・実戦投入した機体。
 パイロットは、頭のおかしい人こと「ジャン・B・ウィルバー少尉」。
 腕は良いが、機体をよく壊すので上層部と整備の人に嫌われている。
 そのせいで嫌がらせと懲罰目的でこの機体が送られた。
 しかし本人は痛く気に入ったようでノリノリで改修し、マニュピレーターを三本のフィンガーマチェットに替えたりとやりたい放題で戦果も上げまくる結果に。
 セカンドジャイヴはその実戦配備仕様機。
 しかし実は白のカラーリングでありながら敵役の搭乗機。
 ウィルバー少尉渾身のフィンガーマチェットは普通のマニュピレーターに戻され、光学射撃のマルチカノンとグリップにブレードが付いたブレードガン、手持ち式のマチェットが装備になった。
 どちらもバイク形態『スティンガーモード』となる事が可能。
 車輪を増やすことで三輪車にも四輪車にもなれる。
 

この作品にアームズフォートっぽいのを出してもいいですか? ネタ枠有り

  • 良いよ(魂の母)
  • 構わん(突撃野郎)
  • 良い度胸だ(子持ち戦車)
  • 人類に黄金の時代を……
  • 偽りの依頼、失礼しました

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