俺ームアームズに乗ってオルフェンズ世界で無双する話   作:FAパチ組み勢

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古戦場や四象、闘滅、討滅士ガチャの爆死と色々やってましたがなんとか更新出来ました。
※いつも誤字脱字報告ありがとうございます。


用語解説:テイワズ/タントテンポ

木星/月に拠点を構える複合企業であり、その実態は指定暴力団体のそれ。和風洋風の違いはあれども、そのマフィアとしての力を背景に商売に精を出している。
色々と組織が大きくなってきたせいで、獅子身中の虫がいるのも共通点。
最近トップ同士が義兄弟の契りを交わした。




陸:不死者の眼光 ーレヴァナントアイー

 

 火星へと戻った一同(テイワズ、タントテンポ関係者付き)は、久し振りの社屋を前にして漸く『帰って来られた』と実感を抱いた。

 基地全体を囲むように設置された鉄製のバリケードが開き、その中へと足を踏み入れる一同。

 

「さて」

 

 若社長がそう前置きを一つ置いて、全員を振り返った。

 

「今日は遠征組はオフだ。部屋で寝るのも、遊びに行くのも好きにしろ。ただし、解ってんな?」

「堅気と揉めるな。ギャラルホルンとも構えるな。それでも外にいく場合は、必ず全員「アレ」一式を持って行くこと。いいな!?」

 

 若社長の隣に立ったオルガがそう言うと、

 

『『『うーす』』』

 

 まばらではあるが、了承の返事が上がる。

 

「んじゃ、解散。今日はアトラちゃんが唐揚げにするって言ってたから、食いたいヤツは晩飯前には戻れよー」

『『『了解!』』』

 

 こうして、鉄華団遠征組は基地散っていった。

 ビスケットは祖母に帰還の報告をしにクリュセに行くらしいが、それ以外は基地へと向かう。

 

「ふわぁーあ……しっかし古い方の基地、もうすっかり無くなったなぁ」

「だな。新しい基地も半分くらいは出来てるし、かなり早くねぇか?」

 

 大欠伸をするシノとユージンがそんな話をしている。

 事実、旧社屋であるCGSの基地は既に解体が終了しており、新しい施設の建築も進んでいた。

 建設に勤しむ多種多様なロボットたち。彼らの存在があってこその建築スピードだと言える。

 それに混じって働く待機組が、遠征組が戻ってきた事に気付く。

 

「あ、若社長と団長たちだ!」

「お帰りなさーい!」

「若社長ー。デクスターさんが戻ってきたら相談したい事があるってさー!」

「レースの件どうなりました!?」

「団長! 今度シミュレーター見て下さい!!」

「あ、狡ぃぞテメェ! 俺もお願いします!!」

「ユージン、若社長や団長の脚を引っ張らなかったかー?」

「なんか言ったかコラァ!?」

 

 茶々を入れた年少組をユージンが追い掛ける。

 それをシノが指を差して爆笑していた。

 ここが民兵組織とは思えないような穏やかな雰囲気に、マクマードとテッドは内心驚いていた。

 タービンズの面々も同じだ。

 少年たちから視線を向けられるが、そこにあるのは警戒や敵意ではない。全く無いワケではないが、しかしそれよりも遠征組に話しかける人間の方が多かった。

 

「……まあ、ウチはこんな感じですわ。泊まるってんなら客間でも用意させますけど、余り期待はせんで下さいよ」

 

 そう言って、龍治はマクマードやテッドに告げる。

 

「ま、そうだな。俺らだって無理言ってんのは承知してらぁ」

「おうよ」

 

 二人はそう言うが、もしここにテイワズやタントテンポの幹部がいれば、無理をしてでもクリュセ区内の高級ホテルに泊まらせようとしただろう。

 組織のトップである以上、そうする事は寧ろ当然だ。

 こうしていち民兵組織の基地を闊歩している現状がおかしいと言えた。

 事実どこか名瀬は疲れた様子でマクマードたちから付かず離れずの距離を確保している。

 

「そうですか。……あ、そうだ。ダンテ!」

 

 ふと思い出した若社長は、少し先を歩いていたダンテを呼び止める。

 

「うっす。どうしました若社長?」

「お前、電子戦の成績良かったよな」

「……あー、まあ。他の連中に比べたらマシですけど」

 

 照れた様子で頭を掻くダンテ。

 だが実際に、電子戦において彼の右に出る者は団内には存在しない。

 

「いや、それ以前に結構自主的に勉強とかしてるじゃねぇか。そういうの俺は評価するぞ」

「あざっす。でも……それがいったい?」

「そこでだ。お前用の機体を一つ、組み上げようかと思ってるんだがよ」

 

 専用機。

 その言葉が周囲の人間の脳裏を過ぎる。

 

「え?」

 

 ダンテは意味が解らず困惑の声を上げた。

 

「だから電子戦や強襲・偵察用の機体があるんで、それをお前に使って貰いたいんだが……どうだ?」

「いや、どうだ、って……」

「お前パイロット志望だろ? 基礎教練も悪い成績じゃねぇから、他にも色々と勉強はして貰うが」

 

 タービンズの面々は、この赤髪のオールバックの青年の思わぬ一面を聞いて驚いた顔を見せた。

 正直に言えばとてもそうは見えないからだ。

 シノと同じお調子者の一人だと彼女たちは思っていたのである。

 

「今、タブレットに機体のデータや装備の一覧を送っておいたから、気に入ったんなら返事を聞かせろ」

「あ、うっす」

「良かったなぁダンテ!」

 

 チャドがダンテに笑顔で話し掛ける。

 元ヒューマンデブリ組一人が好いと評判のチャドは、仲間が評価されて嬉しい様子だ。

 ダンテ自身はどこか呆然とした顔でタブレットを眺めている。

 そんな彼を思い思いに仲間たちが尻を蹴っていく。嫉妬と激励の意味を込めた蹴りだ。

 

「あだ!? ちょ、なんだ!? 痛い! 止めろお前ら!!」

「よーし、今日はダンテの祝いだ!」

『『『うーす!!』』』

 

 オルガがそう叫び、団員たちはそれに唱和する。

 

「あ、こら三日月返せ!!」

「ふーん……こういう機体か」

 

 その隙を突いて、三日月がダンテからタブレットを奪取し、若社長から送られた機体データを眺めているとダンテは慌てて取り返そうと掴みかかる。

 しかしそれはオルガやシノ、ユージンが三人がかりでブロックした。

 だから三日月は、苦笑するビスケットやチャドと共にじっくりとダンテが乗るかもしれない機体の概要を本人よりも先に見たのだが、三人共揃って困惑の表情を浮かべるではないか。

 

「……うーん。きちんと扱えるダンテ? これ、かなり難しい機体だよ」

 

 学のあるビスケットですらそう思う程度にはこの機体は特殊らしい。

 

「……これ、電子戦一本のお前じゃ無理なんじゃ」

 

 チャドが憐れむような顔でそうダンテに言う。さっきとは百八十度態度が変わっていた。

 

「ふざけんな! 俺の機体だぞ!! カンペキに扱い熟してやるわ! なんなら今からシミュレーターで特訓したって良い――」

「良く言った」

 

 ガチムチな腕が、ダンテの肩に回される。昭弘だ。

 

「丁度俺も、グシオンの外装が決まった所だからよぉ。一丁百本勝負やろうじゃねぇか」

 

 笑顔だが、どこか凄みを感じる圧を漂わせた昭弘に、ダンテは二の句が継げなかった。

 それもそうだろう。

 歳星に滞在中、マクマードに三日月と昭弘が気に入られたせいで、ガンダムフレームの装甲の完全再現プロジェクトが発足してしまったからだ。

 しかし当初、三日月と昭弘はこれを固辞した。自前の製造工場が基地にある以上、借りを作るつもりは無かったのである。

 だが、マクマード以上に機体の復元に情熱を燃やす人物がいた。

 歳星でモビルスーツ工房を営む老整備長だ。

 彼は、実は希少なガンダムフレームのファンでもあったのである。

 その熱意は尋常ではなく、マクマードからガンダムフレームの件を聞いたその日から三日月と昭弘を口説いて回った程だ。

 そして、今回の火星訪問にも無理矢理付いてきた。

 歳星での復元は出来なかったが、彼はMSG本社での復元を二人から勝ち取ったのだ。

 そのせいで昭弘は、機体が出来上がるまで暇になったのである。

 

「いやいや。お前、あのラフタって人とシミュレーターでやってただろ? 俺とやる暇なんてあるのか?」

 

 若干顔を青くしてダンテがそう言うと、

 

「……いや、それがよ」

「昨日もヘロヘロになるまで付き合ったのよ。勘弁してよ」

 

 後ろからラフタにそう言われる。

 最初にシミュレーターに誘ったのはラフタの方ではあったが、しかし昭弘の底無しの体力にノックアウトされたのだ。

 疲れた様子のラフタを見て、このガチムチ体力馬鹿の凄まじさにダンテは改めて戦慄する。

 

「いや、いやいや昭弘。俺はこれから若社長に言われた通りに勉強しなきゃならんのよ。そ、そう何度もお前とバトる暇は無かったり……」

「無いワケじゃねぇんだろ?」

「そりゃ、まあ……」

 

 口籠るダンテ。

 しかし彼は即座に道連れを作った。

 

「そうだ! チャド、お前も付き合え!!」

「ええ!?」

「お前だってパイロット適正あるんだし、今後何が起きるか解らねぇんだ。地力を底上げするのは良い事だと思うぜ!?」

 

 それに援護射撃を加えるユージン。

 

「確かにな。チャドも戦闘班だし、いずれは機体にも乗るだろうし。……あ、俺も操舵出来る人間増やしとかねぇと」

 

 『操艦する人間が増えれば自分も機体に乗れるかもしれない』という下心がユージンにはあったのだ。

 

「おいおい、今日はオフだぞ。せめてシミュレーターは明日にしろ」

 

 若社長が呆れた様子で窘める。

 

「仕事の事が気になるのも解るけど、お前ら休みの日は休め。これは社長命令だからな」

 

 普通に考えれば休日は誰だって嬉しいだろう。

 しかし鉄華団の面々は、仕事が楽しいのだ。

 無闇矢鱈と理不尽に殴られず、知りたい事を勉強し、美味いメシを食い、身体を鍛える事が出来る。

 この日常を護る為ならなんでもやる。

 そう思っている団員/社員ばかりだ。

 

「でも若社長、休みって言っても何すればいいの? 娯楽なんてココにあると思ってる?」

 

 三日月がそう言うが、しかし若社長は親指を立てて宣言する。

 

「舐めるな三日月。福利厚生は社長の仕事だって言っただろうが。基地を探索してみな。色々と用意してるからよ」

 

 厄祭戦を乗り越えたかつての文化のデータもまた、旧日本は保管していた。

 様々な国の漫画、アニメ、ドラマや映画。

 音楽だって数えきれない程に保存されていた。

 身体を動かす遊びも完備され、道具だって揃っている。

 大浴場等のリラクゼーション施設すらもだ。

 

「おら、今日オフになってんのに仕事してる野郎は俺が罰ゲームを食らわすぞ。仕事があるヤツはしっかり頼むわ。勿論何かあったら報告してくれよ」

『『『はーいっ!』』』

『『『うーっす!』』』

 

 若社長は、仕事とプライベートは必ず両立させる方針を取っているのだ。

 彼は言う。

 持ち帰りやサビ残業なぞ、赦してたまるものか。

 何のためにこんな『厄祭戦の影響が残ってる火星』でAI制御サポートロボットを導入していると思っているんだ。

 社員にプライベートを満喫して貰う為だろうが。

 そんな気迫に押され、昭弘はダンテの首から腕を離した。

 

「若社長がそう言うんなら仕方ねぇ」

「「……ほっ」」

 

 安堵の息を吐くダンテとチャド。

 しかし、

 

「でも休暇が明けたらマジで訓練すっからな」

「……まあ、業務時間内ならそれでもいいか。ちゃんとサポートロボのトレーニングメニューには従えよ?」

「うっす」

 

 こうして、ダンテとチャドの強化訓練が決定した。

 肩を落とした二人を見て、周囲の少年たちが笑う。

 その笑いは伝播し、マクマードたちもまた、笑い出した。

 軍事基地の中に、朗らかな笑い声が響く。

 民兵組織なのに。

 どうしてか、その笑い声は暖かかった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 地球にて。

 ある時を境に、ギャラルホルン内では『とある噂』が静かに広まっていた。

 

 ――マクギリス・ファリド特務一尉は、ファリド家の血を引いていない。

 

 そんな噂が最近まことしやかにギャラルホルン内部で流れ始めていたのである。

 流石にそんな噂を面と向かって本人に訊けやしないが、しかしファリド家二人に注目は集まった。何故なら、その噂には『続き』があったからだ。

 

 ――彼は、イズナリオ・ファリドが秘密裏に買った男娼である。

 

 同性愛は社会情勢的に認められているが、しかし幼い子供への売春行為が認められている筈もない。

 社会的地位が高ければ高い程に、そのダメージは甚大になる。

 

 イズナリオは、ギャラルホルンの軍務を統括する『統制局』の司令官だ。

 

 初めは、イズナリオが御稚児趣味でファリド家の血を絶やす等、誰も信じはしなかった。

 だが、噂を聞いたイズナリオは表面上は取り繕ったが、裏では激怒し犯人探しを初めた。

 逆にマクギリスの方は、普段通りに職務に励んでいた。

 噂が消えない事に業を煮やしたイズナリオは、セブンスターズの会議の場において、『件の噂はファリド家を陥れようとする何者かの陰謀である』と公式見解を述べた。

 そんな彼を嘲笑うかのように、イズナリオの屋敷や別荘に住まう()()()()()()()()()()()()の姿を撮った写真が出回った。

 写真の中の幼い少年たちは、全員が金髪だった。

 そこに件の噂だ。

 それらの写真から醸し出される腐臭は、少しでも人の悪意を知る人間には容易に嗅ぎ取れる程に濃い。

 流石に情事の最中の写真は出回らなかったが、しかしゆっくりと――確実にギャラルホルン内にその『事実(うわさ)』は蔓延していった。

 

 

 

 セブンスターズいち人情家として知られるガルス・ボードウィンの耳にすらも入る程に。

 

 

 

 初めの内は彼もイズナリオが出した『冤罪』の発言を信じていた。

 なにせ自分の娘(アルミリア)の婚約者であるマクギリスの父だ。

 縁戚となるイズナリオの言い分を信じる位には彼は人が好かった。

 しかし彼も腐ってもセブンスターズの一角。

 彼には自分の家と家族を、そして親類縁者を護らなければならない義務があった。

 故に、ボードウィン家当主として、子飼いの密偵を放った。その噂の出所を探ろうと考えたのである。

 真偽を確かめなければならない、そう思ったのである。

 しかし、密偵が持ち帰ってくる情報は、噂を裏付ける物ばかり。

 今まで自分が知らなかった、否、知ろうとしなかったギャラルホルンの闇が一気に吹き出てきた。

 そうガルスには感じられた。

 次に考えたのはマクギリスの事だ。

 一方的で倒錯した劣情(あい)しか知らぬあの青年は、いったいどれ程にイズナリオを憎んでいたのだろうか。

 ただ流されるようにギャラルホルンで職務を全うする彼が、酷く憐れに思えた。

 彼には自由なぞどこにもない。

 イズナリオ・ファリドの人形。

 あの穏やかな仮面の裏で、どれ程の憎悪と憤怒が渦巻いているのやら。

 しかしこの事実を知った以上、このままイズナリオの思い通りにはしたくない。

 ボードウィン家当主としても、ガルス個人としても。

 しかし当主であるとは言えども政治工作に関してはイズナリオの方が何枚も上手だ。

 だが、完璧に思えたあの男の欠点が見えた。

 故に裏付けを取る為にガルスは、マクギリスを呼び出した。

 自分の屋敷へと。

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 屋敷の一角。

 どこか緊張した面持ちで、ガルスは待っていた。

 扉がノックされ、落ち着いた印象の青年が現れる。

 マクギリスだ。

 

「来て貰って済まないなマクギリス」

「いえ。こちらとしても渡りに船でしたので」

 

 聞けば、件の噂のせいでギャラルホルンの任務に支障が出てはならない、と無理矢理休暇を取らされたらしい。恐らくはイズナリオの手配だろう。

 

「……そうか」

「こうしてお呼び立てされたという事は……ボードウィン卿の耳にも入りましたか」

 

 頷くガルス。

 その苦い顔を見て、しかしマクギリスは己の策が上々の滑り出しをしている事に内心安堵していた。

 そう。

 この噂を流したのは誰であろう、マクギリス本人であった。

 イズナリオ本人は裏で躍起になって犯人を捜しているが、まさか愛人であった義息子がそうだとは思いもしていないようだ。

 如何に政治的手腕が優れていようとも、そういった他人の機微に疎いのが彼の特徴でもあった。

 そしてそれは、他のセブンスターズ当主たちにも言える事ではあるが。

 

「私の出生については、裏付けが取れましたか?」

 

 敢えてこちらから水を向ける。

 

「ああ。信じ難い事だが、ファリド公――いや、イズナリオは、己の性癖を優先し、栄光あるファリド家を断絶させたようだな」

 

 直接的な物言いを避けたのは、義息子になっていたかもしれないマクギリスへの情けだったのだろう。

 彼としても、目の前の青年に直接『孤児の男娼だったのか?』とは言いたくなかったのだ。それが事実だったとしても。

 

「……解っているだろうが、君とアルミリアの婚約は白紙に戻す事になる」

「そうでしょうね。寧ろ断行すれば、ボードウィン家は痛手を被るでしょう。……貴方を義父と、そう呼べなくなったのは些か寂しいですが」

 

 マクギリスの言葉を受けて、ガルスは息が詰まったような顔をした。よく見れば彼の眼は若干潤んでいるようにも見える。

 彼は一度咳払いをして、話題を変えた。もしこの話題を続けていれば号泣するのが自分でも解ったからだ。

 

「恐らく、イズナリオがこの事実を認める事はないだろう」

「でしょうな」

 

 どんなにそれが事実であろうと、それを嘘として誤魔化すだけの権力が彼にはまだあった。

 

「だが、あのような男が、栄光あるギャラルホルンの司令官としてトップに立っているなどあってはならない」

「……」

「ああ、済まんなマクギリス。お前としても言及したくはなかろう」

「ご配慮、感謝します」

 

 頭を下げるマクギリス。

 

「……だが、この件。そう易々と片付けるワケにはいかんぞ」

「そうですね」

 

 マクギリス自身もきちんと理解してはいなかったが、ギャラルホルンは民意によって成り立つ組織だ。

 民衆総てに敵意を持たれてしまえば、ギャラルホルンはその意義を喪い瓦解を余儀なくされる。

 

「しかしボードウィン卿。敢えて言わせて貰えれば、ギャラルホルンの栄光は既に地に堕ちています。統制局を初めとしたギャラルホルンの黒い噂の一つや二つ、貴方も御存知でしょう?」

「……事実だ、ということか」

 

 前々から聞いてはいたのだ。

 統制局が、態と民衆に反乱を起こさせ、それを鎮圧している――といった噂や組織内で不正が罷り通っている、と。

 確たる証拠が無かったのでガルスは噂だと思っていたが、マクギリスには確信があるようだ。

 それも当然だろう。

 横紙破りの常習者がイズナリオだったのだから。

 

「更に義父は……いえ、ファリド公は、地球経済圏にも手を伸ばしています」

「なんだと!?」

「今現在も、アーブラウのアンリ・フリュウ女史の元を訪れているようで」

 

 確かにアーブラウの情勢は昨今、荒れに荒れている。

 イズナリオがその火消しに奔走していると思っていたが、何の事はない。彼が火付け役も兼任していたのである。

 

「馬鹿な。ギャラルホルンの理念すら捨てて、それほど迄に権力に固執するのか」

「そうでなければ、カルタ・イシュー嬢の後見人など買って出はしないでしょう」

 

 セブンスターズ第一席であるイシュー家当主が病床に臥せって久しく、一人娘であるカルタの後見人がいなければギャラルホルン内部で冷飯を食う事になっただろう。

 その後見人こそがイズナリオだ。

 しかしそこには情は無く、いずれ取って替わる為の下準備に他ならない。

 それを彼女も理解しているからこそ、あそこまで苛烈に部下を鍛えているのだろう。

 実戦に出れぬ事に腐らず鍛練を積む彼女は、部隊の面々から女神のように敬愛されている。

 イズナリオとは雲泥の差だ。

 

「そして、ギャラルホルンでの立場はトップにまで登り詰め、経済圏の後ろ楯を得る、と。そこまでして何がしたいのだあの男は?」

「さて。高貴なると自認する人間の考えなど、私のような者にはとてもとても」

 

 半ば揶揄する口調ではあったが、しかしマクギリスにとっては本心だった。

 イズナリオの内心など知りたくもないが、しかし明らかに権力へのその執着は異常だったのだから。

 

「……恨んでいるのか、マクギリス」

「そう、ですね。ファリド公は、数え切れぬ程に私のような子供を食い物にしてきましたからね。……本人にとっては、その認識すら持っていないでしょうが」

 

 その言動から漏れ出る嫌悪と憎悪に、ガルスは思わず問い掛けた。

 返ってきた返答には、欠片も親子の情を感じられぬ程に乾いていたが。

 

「そうか。……今後、どうするつもりだ?」

「いずれは、ギャラルホルンの職も辞そうかと」

「煩わしいか、イズナリオの息が掛かった場所は」

「……ここでは、私は『マクギリス・ファリド』としてしか生きられません。ですが、それも夢の為ならば我慢が出来た」

「夢、だと」

「どうか子供の夢と笑って下さい。私は、バエルに乗りたかった」

「お前、それは……」

 

 愕然とした表情をするガルス。

 

「ギャラルホルンの頂点にも興味はありますが、私が憧れたのはアグニカ・カイエルという人物です。その彼が乗り、厄祭戦を戦い抜いた最強のガンダムフレーム。それに乗る事こそが我が望み、でした」

「……『でした』?」

「今はもう、そこまでの興味はありません。色々と理由や理屈を捏ね繰り廻していましたが、結局私がしたい事はたった一つだった」

「それは?」

 

 笑顔で、言った。

 

「……イズナリオ・ファリドが大事にしてきた総てをゴミのように葬りたい」

 

 結局はそこだった。

 要するに復讐なのだ。

 イズナリオはファリド家当主であり、ギャラルホルン統制局司令官としての自分に誇りを抱いている。

 だからこそ、マクギリスはイズナリオをいずれ追い落とし、自らが頂点に立とうと画策したのである。

 しかし、とある民間企業の若社長と会話し、己の本心を自覚した彼はそのプランを即座に破棄した。

 ギャラルホルンに固執するよりも、いずれ訪れるかもしれぬ『災厄』に対処しなければならない。

 今のギャラルホルンにいては、それすら儘ならないとマクギリスは思ったのだ。

 ならばこそ、幼い頃に憧れたアグニカ・カイエルのように、一から組織を立ち上げてみようと考えた。

 その過程において、状況が許せばイズナリオを殺そう。そう考え直したのである。

 この噂は、その為の下準備でもあった。

 これは正当な復讐だ、と喧伝しなければ潰されるのはこちらなのだ。

 既にこの噂は水面下で各経済圏にも流布されている。

 政治上層部ではなく、一般大衆に向けてだが。

 そのせいでイズナリオと付き合いのある政治家には疑いの眼が向けられているのは嬉しい誤算だった。

 彼らもまた、イズナリオと同様の御稚児趣味(ショタコン)ではないか、と民衆は疑いだしたのである。

 今はまだ面と向かって訊ねる人間はいないだろう。しかし噂は徐々に広がっていく。そうなれば、本人よりも先に家族が知る事になる。

 幾つかの家庭が崩壊するやもしれないが、自業自得だ。

 

「……お前にとってギャラルホルンは、その程度の価値しかないのか」

「腐敗と退廃に浸かり、既に理念は形骸化しているあの伏魔殿を人の手に取り戻したい、と考えた事もあります。しかし、あの腐敗を招いたのはセブンスターズの歴代たちだ。ならばこそ、引導を渡すにしても、刷新するにしても、セブンスターズが主導するべきです」

「先祖の尻拭いか。三百年分も淀みが溜まっているのだ。手を出す事を躊躇する人間ばかりだろうな」

 

 既にギャラルホルンから退いている自分には過ぎた行いだ。

 息子であるガエリオにその務めが果たせるとは思えない。

 アレは甘く優しい子だ。

 マクギリスと共にあれるのならそれでも良かった。追々に成長していけば良かったのだから。

 しかし近い将来、マクギリスはギャラルホルンを辞する。

 そうなってしまえば、ガエリオは誰かの傀儡となるだろう。

 矯正しきれなかった息子の選民思想とマクギリスの生い立ちは相性が悪い。

 なんとかならんものか、と頭の片隅で考える。

 しかし、今ここでどうにか出来るものではない。

 それから幾つかの事を話し合い、

 

「では、私はこれで。恐らくもう二度と、この屋敷を訪れる事はないでしょう」

「……達者でな、マクギリス」

 

 そんな事はない、とガルスは言うことも出来た。

 しかし、言えなかった。

 セブンスターズに連なるボードウィン家の当主という肩書きが、ガルスを止めたのである。

 

 

 

 こうして、マクギリスとアルミリアの婚約は白紙となった。

 

 

 

 イズナリオ・ファリドの凋落は、この時から加速していく。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが……俺の専用機」

 

 感動に打ち震えるダンテ。

 緑の装甲はフレームを最小限しか覆っておらず、軽量化された機体だと言うのは初見で解る。

 バイザーの下に髑髏のような特徴的なカメラアイをしたその機体の名は、

 

「……《レヴァナントアイ》か」

 

 脚には三基のブレード・ローラーが地面に接地しており、普通の機体よりも高速で動ける。

 轟雷のようなブースターを自前で持たないような機体よりは速いが、しかしスティレットには及ばない。

 だがレヴァナントアイの真価は、地上走行能力の高さではない。

 

「オルガ、聴こえるか?」

『おう、ばっちりだ。……それで、相手の様子は?』

「眼と耳は潰した。回復するにはまだ時間がかかるぜ」

 

 目標である敵武装組織の基地では、人の戸惑う声や罵声が飛び交っているだろう。

 まさかモビルスーツと同サイズの機体が人知れずに接近し、基地機能を掌握されたとは夢にも思わなかったようだ。

 

「だが前情報とは違う事があったぞ。エイハブウェーブの反応が三つ。基地動力は別にあるみたいだし、多分モビルスーツだ」

 

 火星のあるエリアを支配する武装組織の壊滅が今回の依頼である。

 色々と阿漕な真似を繰り返しており、近隣住民にも少なくない被害が出ているそうだ。

 しかも拠点がこちらと同じく自治区郊外にあるせいで、自治区行政も手を出し辛いのが実情だった。

 そこで同じ武装組織であるMSGにお鉢が回ってきたのである。

 ヤツらが親を殺して、残された子供をヒューマンデブリとして売り払っていると知れば、鉄華団は動く。

 どんな御大層なお題目があろうとも、ガキを食い物にする外道は生かしておかない。

 提示された金額は余り高くはなかったが、残りは敵から奪えばいいのだ。

 散々っぱら他人様から奪ってきたのだから自業自得というヤツである。

 その戦闘に、ダンテは初陣としてレヴァナントアイと共に出撃した。

 偵察がてらに敵基地の無力化に成功。

 それをオルガ団長へと通達すると、轟雷やスティレット、クファンジャルが計六機やって来る。

 

『さっさと潰して帰るぞ』

 

 オルガがそう言う。

 気負いの無い態度で敵を見据える。

 修羅場を潜ったのだ。

 最早この程度の敵を相手に緊張する事はない。例えモビルスーツがいようとも。

 他の皆もそうだ。

 気安く会話をするくらいには落ち着いていた。

 

『……そう言やぁ親分さんたち、俺らの家に入り浸るぜありゃ』

『もう遅いと思うよ。若社長が出発する前に自分の部屋を用意して貰ってたみたいだし』

『マジか』

 

 タービンズ代表と若社長、オルガの三名による義兄弟の固めの盃は酌み交わされた。

 紋付き袴を着込んだ三名とスーツに羽織の団員や社員たち。

 マクマードやテッドも見守る中、厳かに儀式は進んだ。

 そして未だに、マクマードとテッドはMSGで羽を伸ばしていた。名瀬の方は仕事があるせいで火星を離れたが妻を何人か世話役として残してくれていた。その中にはラフタやアジーもいた。

 しかし寛いでもいられない。

 若社長はその後、イサリビを改修する為に宇宙へ出た。

 その矢先にこの依頼だ。

 即座に若社長へ報告し、根刮ぎ敵組織から奪う事が決定したのである。

 武器弾薬から推進剤、溜め込んでいる金品も。

 鉄屑すら売ればカネになるのだ。

 古人曰く、浜の真砂が尽きようとも、世に悪人の種は尽きぬと言う。

 

『ダンテ、お前はどうする?』

 

 カスタムされた轟雷に乗るオルガがそう問い掛ける。通常の轟雷には無いブースターが腿や肩に増設され、稼働する肩のシールド(ミサイル、グレネードランチャー装備)や背面のレールキャノンを装備している。

 手には連結されたカノン砲を持っていて、それを両手で抱えていた。

 重装備の砲撃型の轟雷だ。

 

「勿論やるさ」

 

 機体脚部の3Dホロプロジェクターを解除。迷彩によって周囲に溶け込んでいたレヴァナントアイがゆらりとその姿を現す。

 左腕にはマニュピレーターを取り外し、レーザー・マルチプライヤーという工具兼レーザー砲兼レーザーナイフの複合兵装を取り付けてあった。

 右腕には細刃のサムライソードを手にしている。

 

「相手はロディフレームだ。地上戦用にカスタマイズしてはあるけど、どう考えたって余裕だろう」

 

 三日月や昭弘のガンダムフレームや若社長のヴェスパーファルクスに比べれば、どうしたって機体性能は低い。

 それこそ自分でもなんとかなるような相手だ。

 基地の情報を根こそぎ抜き取った今、それを強く思う。

 相手は有象無象だ。

 

『ま、どうでもいいよ。やるだけだし』

『そうだな』

「おいおいお前ら、やり過ぎんなよ。売り物になる程度に原型を留めねぇと」

『そうだぞ。木っ端微塵は避けてくれ。推進剤だって買えばそれなりなんだからな』

 

 そうしている間に敵基地からモビルスーツが三機とモビルワーカーが複数出撃してくる。

 

『エイハブウェーブの反応がねぇ! それが六機……いや七機だと。テメェら、一体どんなペテンを使いやがった!?』

 

 敵の一人がそんな事を叫んだ。

 

『教えるワケねぇだろ。俺らは敵だぞ』

 

 オルガがそう返す。

 

『依頼を受けて俺らはアンタらを倒す。アンタらはそれを防ぐ。ただそれだけだ』

『声からしてガキか!? 舐めやがって!』

 

 激昂する相手を前にしても、オルガは動じない。

 テイワズやタントテンポの重鎮らの圧力を知っていれば、この程度の人間なんぞ怖くもなんともないのだ。

 

『行くぞ。各員状況開始!』

『『『了解!』』』

 

 オルガの号令と共に、各々カスタマイズされたフレームアームズが敵に襲い掛かる。

 結果は、十分と掛からずに殲滅。

 三機のモビルスーツや大量のモビルワーカーは回収され、基地もまた解体され資材となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「よぉ」

 

 その夜。

 星が瞬く空を寝転んで見上げていたダンテに、チャドと昭弘が話し掛けた。

 

「どうした二人共?」

「いや、お前が似合わないセンチな顔して夜空見上げてりゃあ、そりゃ気になるだろ」

「おう」

 

 チャドの言葉に、言葉少なく昭弘も同意する。

 

「……いや、な。ちょっと思ったんだよ」

 

 そう言って、ダンテはまた空を見上げた。

 

「これだけの力があれば、親父やお袋を護れたのにな――って」

「……お前」

「…………そうか」

 

 ダンテもチャドも、テイワズに入ろうとした馬鹿共のせいで家族を喪った。

 昭弘も理由は違えども弟共々海賊によってヒューマンデブリになった。

 故に、思うのだ。

 もしこの力が当時あれば――と。

 言って詮無い事は解っている。

 若社長にそれを言うのが筋違いだと解るくらいに分別だってあった。

 だが、それでも。

 死んだ両親を助けたかった。

 そう思ったのだ。

 

「……俺さ、今日の戦闘でモビルスーツ相手に勝っただろ?」

「雑魚だったけどな」

「そう言うなよ昭弘。でも……勝てた。危なげなく」

「ま、そうだな」

 

 チャドは同意する。

 事実ダンテは、若社長から託されたレヴァナントアイを使い熟していた。

 先行し、敵基地の情報を根こそぎ暴いたのだ。

 更にそれどころか基地の電子系統の掌握すらあっさりとこの男はやってのけた。

 その後の直接戦闘でも、ダンテはレヴァナントアイに装備したレーザー・マルチプライヤーとサムライソードで敵モビルスーツを圧倒した。

 敵の持つマシンガンを避け、ブレード・ローラーを使い急接近し、左腕のレーザーナイフと右手の剣で攻撃。ビーム兵器に強いナノラミネートアーマーだろうと、至近距離でカメラアイを焼かれればどうしようもなかった。

 その隙に右手の刀で敵を切り捨てたのだ。

 

昭弘(おまえ)や三日月は馬鹿みたいに強かったけどな」

「ああ強かったな。『俺ら要るんだろうか?』ってちょっと考えたくらいだもんな」

「……そうか?」

 

 二人はダンテよりも凄まじかった。

 タービンズとの決闘時と同じような兵装をしたフレームアームズに乗って、あっさりと残り二機のモビルスーツを殲滅したのだから。

 残り四機でモビルワーカーを蹴散らし、基地を強襲。

 あっさりと依頼を終わらせる事が出来た。

 

「で、だ。何が言いたいのかって話だが」

 

 ダンテは立ち上がり、ニヤリと笑う。

 

「俺みたいなヤツでも成長してるんだな、って話さ」

 

 昭弘とチャドの肩を組んで、ダンテは言う。

 

「今度さぁ、若社長に頼んで俺らの両親の墓を作って貰おうぜ。でさ、その墓前で報告すんだ。今迄の事とか、『今度は嫁を連れてくるよ』って」

「親父たちの墓、か」

「……ああ、そうだな。それもいいかもな」

 

 彼らの両親の遺体は既に無い。

 遺灰や骨すらも、十把一絡げに捨てられているだろう。

 だがそれでも、きっと――死んだ両親に想いは届く筈だ。

 

「そんな事考えてたのかよダンテ」

「かなり似合わねぇ」

「お前ら容赦ねぇな!?」

 

 三人は馬鹿話をしながら基地へと帰っていく。

 誰もが笑顔で。

 亡き両親を想い、生き抜くと内心改めて誓いながら。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 桜・プレッツェルという老婆がいる。

 ビスケット・グリフォンの祖母であり、『桜農園』と呼ばれるトウモロコシ農場の経営者でもある。

 その桜農園とMSGは業務提携を結んでいる。

 CGS時代から少年兵たちが手伝いに来ていた縁で、若社長から様々な野菜や果物の種を購入し、育てたそれらをMSGに納品するようになったのだ。お陰でバイオ燃料にする為に安値で買い叩かれていた当時よりも羽振りは良くなった。適正価格で買って貰えるお陰で従業員にも給料に反映出来た程だ。

 そんな農場に最近、堅気には見えないオッサン二人がよく来るようになった。

 聞けば休暇で火星に来て、今はMSGに厄介になっているんだそうだ。

 あの若社長がなんとも言えない顔をしていたので、恐らくは本拠地ではお偉いさんなのだろう。

 しかしここでは桜がトップだ。

 へりくだるつもりは毛頭に無かった。

 そんな自分の態度に長髪のお兄ちゃんが蒼い顔をしていたが、知った事ではない。

 だが、二人は自分の態度を痛く気に入り、三日月と同様に『桜ちゃん』と呼び始めたのだ。

 更にその馬鹿二人は親切心からか、農場の手伝いを申し出たではないか。

 初めはMSGの少年兵たちよりもポンコツだったが、メキメキと上達する二人。

 筋が良いとは思うが、絶対死んでも言うつもりは無い。

 

「なァ兄弟。このトウモロコシ、俺の方がデカくねぇか?」

「いやいや何を言っているんだ兄弟。俺の方がデカいだろ?」

 

 じっとお互いの持つトウモロコシを見遣り、

 

「いいや俺の方がデカい」

「いやいや俺の方が」

 

 ガキみたいな口喧嘩をするような阿呆共なんぞを誰が褒めるものか。

 

「アンタら、遊んでないでさっさと仕事しな!」

「「へーい」」

 

 怒声を浴びせても動じず、相変わらずどっちがデカいだの何だのと言い合う二人。

 さっさと自分の本拠地に帰ればいいものを。

 どうせ地元じゃ誰もが頭を下げる重役なのだ。

 こんなチンケな農場になんて来る必要はないだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、二人が帰る日がやって来た。

 

「寂しくなるねぇ桜さん」

 

 従業員の一人がそんな事を言う。

 

「どうだか。いなくなって清々するよ」

「またそんな事を」

 

 ふん、と鼻息を一つ吐く。

 どうせもう二度と逢う事のない連中なんだ。誰が寂しくなるなんて言うものか。

 そんな時だ。

 

「あ、バリーさんモルガさん」

 

 馬鹿二人が顔を出したではないか。

 

「どうしたんだい? 今日帰るんだろ」

「そのつもりなんだが、桜ちゃんに言いそびれた事があってなぁ」

「こうして逢いに来たってワケさ」

 

 そして、

 

「なぁ桜ちゃん」

「……なんだい?」

「頻繁には来れねぇけどよ……また、土弄りに来てもいいかい?」

「……馬鹿だねぇ」

 

 つい、そんな言葉が口を突いた。

 

「アンタたち、帰れば企業の重役なんだろ? なんで好き好んでこんな泥塗れになる仕事をしたがるんだい」

「だからだよ桜ちゃん」

 

 モルガの馬鹿が言う。

 

「俺や兄弟の仕事はこういうのの正反対にあるんだ。そりゃあ輸送関係も仕事の一つではあるけど、農業ってのには触れてきてねぇのさ」

「だったらそれでいいじゃないか」

「……それでも、やってみてぇって思ったんだよ」

 

 バリーの馬鹿の言葉に、死んだ旦那を思い出した。

 あの人がやってみたいと言っていた野菜や果物の品種改良。

 しかしそれは夢のまま、旦那は旅立った。

 

「桜ちゃん、確かに俺も兄弟も部下を持つ身だ。でも、やりたいんだ。……まあ、下が育たにゃあ土弄りも碌に出来ねぇんだがな」

 

 後進の育成が上手く行っていない愚痴が漏れた。

 どうやら「これだ」と思えるような人材がいないらしい。

 

「なんだい、そんなに人手不足なのかい」

「……まぁ、そうだなぁ」

「中々粒の良い連中が育ってくれなくてな。良いと思えるヤツは大体別の会社に居やがる」

 

 社員の愚痴を言い始めようとする二人を、長髪のお兄ちゃんが諫める。

 

「親父、叔父貴。そろそろ」

「あんたも大変だね。こんな親父さんや叔父さんじゃ苦労するだろう?」

「いえいえ、俺が好きでしてる事ですからね」

 

 そんな孝行息子に従業員たちが感心する。

 口々に名瀬という青年に話し掛ける従業員たち。

 

「偉いねぇほんと。ウチの馬鹿息子に聞かせてやりたいくらいだよ」

「嫁さん大事にしなよ?」

「はい、ありがとうございます」

 

 桜は、そんな彼らを見て嘆息する。

 

「……良いよ、またおいで」

「お、いいのかい?」

「人手があって困らないからね。なんなら若い連中がいると力強いけど」

「任せろ桜ちゃん」

 

 そんな言葉を交わして、二人は火星を後にした。

 それから数ヵ月に一回の頻度で、二人は子飼いの部下を引き連れて桜農園へと脚を運ぶようになったのである。

 

 

 

 そんな馬鹿二人が、ヤクザの大元締めだとは、桜たちは知らない。

 

 

 

 

 

 







今回、マクギリスにスポット当てすぎたかもしれない。
いったい若s、誰がそんな事を唆したのやら……(棒)
あと一、二話くらいで原作に入ろうかと。



機体解説:RF-9 レヴァナントアイ

※解説
FA世界では、特殊部隊「SCARU」用に開発された強襲・偵察用の機体。 半径10キロ圏内の敵に電子戦を仕掛けられる。
特定の姿をしておらず、様々なパターンのレヴァナントアイが存在するらしい。
こちらもスティレット同様に強化パーツが存在する。
超ハイヒールに日本刀の装備で、某『鬼』の機体を思い出す人が多かったとか。
尚、試作の強化機体を駆るのは、FA世界のガーデルマン。FA世界のルーデル(JBW)に見つかったのが運の尽き。
月との終戦後も一緒にいるようで、腐れ縁はまだまだ終わらない様子。

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