前編
#1
あの嫦娥の1件から、一年経った。私は、あの一件後、巫女から、嫦娥追いの狐の弾幕情報を知りたく、博麗神社の元へ何度かその情報を貰いに行ったことがある。思えば、あれ以来、地上には出たことがない。そもそも、地上嫌いの私が、ここまで頻繁に出たのも、自分でも今になって驚いているが。
幻想郷内は大変なことになってるらしい。''波''を感じて能力が変わるという、摩訶不思議なことが起きたそうだ。地霊殿には、今のところ何も変化がないので、関係ない話だが。
そもそも間欠泉の一件以降、地上が怨念の塊みたいなものと感じてしまい、余程物事に囚われない限り、地上に出る気が失せてしまった。別に私が悪くもないはずが、一方的にボコボコにされてしまったので、仕方ないと思って欲しい。まぁ、今はこうして自分の能力を応用して、スペルカードのコピーを頼まれることも多くなり、サンプルも貰えるのだから、研究も進めている。多忙ではあるが、何か物足りない。地上への憧れがまだあるというのか。
その報が来てしばらくして、第三の眼がゆっくりと瞑り始めた。異変の影響が時間差で来たのだろう。恐らく、もう相手を心読することはできない……が、私にとっては、むしろ朗報かもしれない。今まで、この能力に対してコンプレックスを抱いていたのだから。
妹は大丈夫だろうか。最悪なのは、再び
そう思っているうちに妹が帰ってきた……が、彼女の第三の眼は、明らかに眼が充血してる。眼の赤に眼を覆う全体の青。妹には申し訳ないが、気味が悪い。
「お姉ちゃーん……。」
と、泣き寄るこいし。
「……こいし、どうかしたの?何か嫌なことでもあったのかしら?」
念の為、聞いてみる。
「それが……突然……め、眼が開いて……。遊んでただけなのに……知らない人の声が聞こえて……。」
私は、彼女を抱いて、ただただ頭を撫でる事しかできなかった。
知らない人の心の声が聞こえるのは、私の(異変前の)能力でもよくあった。私は、長年この能力と付き添っていたので、深く考えなかったが、こいしや人間には辛いことなのであろう。地上にいたから私より早く効いてしまったのだろう。精神も崩れかかっている。これ以上の質問は避けよう。まぁ、異変の影響なのは分かった。ただ、これを放置すると、こもりがちになってしまう。異変を私の手で、迅速に対処せねば。
そういえば、能力が変わったとは言えど、自分自身、どんな能力なのだろうかと辺りを見渡した。すると、見覚えのない魔法陣が一対。
「何なの……これ?」
*
(魔法陣なら、どこかと繋がってるはず。何か出してみよう。)
そう思い、私は、手を縦に振ってみた。何も起きない。ならば、と今度は魔法陣に念じてみた。すると、細長い物体が勢いよく飛び出し、前方の壁に刺さった。黒い鎖みたいだ。ただ、出したは良いものの、引っ張っても戻らない。引き戻すよう念じてみると、むしろ自分の方が壁に引き寄せられた。靴がやられる。
今ので感覚は分かった。つまり、この一対の鎖を使って移動ができるということだ。更に良い事に、引き上げる速度が速いため、ほぼ直線的に移動できる。確信がついた。つい、ニヤけてしまう。
(これは幻想郷でも最強級なのかもしれない……!)
後、もう一つすることがある。スペルカードの作成である。大体のスペカは、札と同じ大きさの紙に手をかざすなり何なりすると、自然にカードが生成されていく。だから異変後、能力変化者は新しいスペルカードがいつの間に、と思っているだろう。
私のスペカの研究で分かった事だが、スペルカードは、ある程度、法則性を持って生成される。自機中心に拡散するもの、ホーミング、速度・弾量……という風に、弾幕展開に関しても多くの基礎記号でスペカは形成されている。その基礎記号を全て解読し、全種のカードを作成するのが、当面の私の目標だ。
さて、手をかざす。6枚並べたうち、紋が出てきたのは2枚のみだった。しかも、今までのスペカと違う。というのも、弾幕自体を示すような記号が見つからないのである。むしろ、スペカには魔法陣が4つ描写されてるものや、双剣を表す記号があった。近接型と見て取れよう。端に、何かヘブライ語のようなもので書かれていた。辞書を用いて解読すると、それぞれ、
4つの陣の方に「懺悔の鎖」
双剣の方に「洗礼と霊魂の鎖」
と、書いてあることが分かった。外界にあるユダヤ教の十二天使の一人、「ウリエル」のことを指しているのだろうか。上のは、なんとなく想像がつくが、下のは、双剣を扱えるのは分かるも、他は全くだ。なんだかわくわくして、またニヤけてしまった。今まで、戦闘の殆どを、コピーしたスペカで
文々。の天狗から新聞を貰った。今夜、博麗神社に集まって欲しいとのことらしい。どうやら彼女も、能力が変化してしまって、今までの飛行ができずに不満気味である。どうやら、空気を扱えるようになったという。普段は、地上を嫌っているので、こういうのにはあまりに行きたくないのだが、妹のため、また情報収集のため、今回に限り、
「……分かりました。行きます。」
と答えた。紙、スペカを描くための筆とインキ、そしてスペカに関するノート……、と最低限のものは用意した。異変が解決するまでここに戻らないように。妹は、ペットらに任せた。訪問者には絶対応対するな、と教えているものの、精神衰弱者と鳥頭がいるから、信用ならない。ましてや、身内に裏切られると、自分の家が荒れてしまうので、余計面倒だ。外に錠でもかけておこう。
……地上に出るのは一年ぶりだ。
#2
地下世界にいると、どうも時間感覚が狂ってしまう。外に出ると、もう既に日も傾き始めており、肌寒い。確か、午後7時に始まると新聞には書いてあった。
深い森を抜けると、人里に入った。こいしは、いつもここで遊んでいたのだろうか?中を横切ろうとすると、子供がひょこっと出てきた。そしてこう問いかける。
「こいしおねーちゃん知らない?さとりおねーちゃんなら知ってるでしょ?」
私は、言葉を詰まらせてこう言った。
「……お姉ちゃんにも分からない。でも大丈夫。私が代わりに見つけてあげるから、こいしちゃんの事は心配しないで。ほら、もう夕方だし。」
これが精一杯だった。こいしは、あの''波''の後、遊んでいた子供に何も言わずに帰ってきたという事になる。もちろん、そんなことは言えない。心の声が聞こえるのが、彼女にとってどれだけ切実な悩みだったのか……。
それを深く自問自答しているうちに、長い階段が見えて来た。神社に向かうには、最後長い階段を上らなければならない。そこで、周囲に人がいないことを確認し、例の鎖の能力を使ってみることにした。鎖を鳥居の上部に突き刺す。それを魔法陣が引き上げると、身体が持ってかれるように鳥居に引き寄せられ、斜め上に直線移動した。数秒だった。幸い、上にいた人は、霊夢を取り囲んで見てなかったようだ。そういえば、引き上げる時、「ジャラジャラ」という音が鳴ったが、それは聞こえなかったのだろうか?面倒事に巻き込まれないように、第三の眼を隠し、あえて人混みに隠れるような場所に座った。
いつもは、宴会が開かれたりする時に一同会すというのはあったというが、こういう話題で集められるというのは珍しいという。もちろん、ここで今回の異変の対応という堅い話をするというのは、大半の人が慣れて無く、ピリピリしてる人もいれば、困惑している人もいる。確かに、普通なら、あの魔法道具使いや、あと1人連れて行って解決するが、各地の長をわざわざ呼んできたということは、犯人探しでもやるのだろうか?
呼んだ本人がやってきた。7時より遅れている気がするが、なぜ決めた本人が時間にルーズ過ぎるのだろうか。
「話題は当然知ってるでしょうねえ…。」
私含む一同は黙りこむ。間を開けて永遠亭の賢者が答える。
「ええ。あの''波''は、中々強いものでしたよね。」
確かに、と他も同調する。当然、地下にいた私は強かったのかどうか分からないが。
「やはり感じてたのね…。ていうことは、ここにいる全員が能力変化者どういうことでいいのかしら?」
「そうともいかないな。」
そう言ったのは、魔法道具使いだった。さらに、今度は人形使いがこう言う。
「確かに、私達は''波''を感じた。けれど、魔理沙の八卦炉が使えなくなったというのも、私が人形を使えなくなったというのもないわけなのよ……。」
「ということは、魔法能力者は弾かれたということねえ……。」
まあ、魔法は発現ではなく、修得するものと考えれば無理はない。つまり、魔法は個性ではない。そう考えると、能力変化者は、発現する者、すなわち個性がある者という事になる。
巫女がそう言うと、今度は何の能力に変化したかと聞き始めた。固有能力が変化してない人を犯人だと思っているだろうか?
月の賢者は、薬が一切作れなくなった代わりに、回復魔法に近い能力を得たそうだ。紅魔館の主は、大槍は使えるものの、吸血鬼固有能力がなくなった。完璧な不老不死を手に入れたという事か。……あーっ、いちいち書いていくと、キリがなさそうだ。
こう見ると、能力が変化したとはいえど、下方修正にあたる者はいなく、むしろ強化されている。相対的に、変化がない者は不利だ。つまり、この時点で魔法能力者は対策メンバーという
*
遂に私の前にあの巫女が来た。やり方が汚いな、こいつは。
「あなたはどうなの。珍しくここにいるけど。」
「今回の異変は今までと何か違う、私にもよく分からないので、情報収集のために来たという、しょうもない理由ですよ。」
私は、微笑してこう答えた。
「何か違うのは確かなんだけどね……。で、あなたはどんな能力に化けたの?」
駄目だ。最初、嘘をついて乗り切ろうと考えていたが、あいつ特有の勘で、更に面倒なことが起きそうだ。とにかく話題を逸らしてみよう。
「そういえば、霊夢さんは何の能力を手に入れたんですか。さっきから人に聞いてばっかりで、自分のことをあまり言ってない気がするのですが。」
「後で言うわよ。そういえば、あなたなら、第三の眼を見れば充分分かるわねえ……。」
無理やり論点を変えても駄目だった。すると、巫女は、私の瞑っている第三の眼を探し始めた。私は、その腕を掴み、
「勝手にボディーチェックをするのはやめてくださいよぉ……。」
と、巫女を煽った。言うなれば、宣戦布告という所か。
そもそも、他の人の能力を聞いた辺り、私の能力が一番汎用性が高く、強力だ。つまり、ここで自分の能力を公表すると、間違いなく、「討伐してくれ」と言われる。例え私が拒否しても、だ。受け入れたら受け入れたで、仮に私が討伐したら、今度は幻想郷中でヒーロー扱いされて、いち早く家に帰れない。少なくとも天狗からは取材を申しる込まれるだろう。あくまでも、目的は妹を救うことだ。本末転倒である。
話は戻す。私のあからさまな煽りに、巫女は睨み返すばかりであった。私の第三の眼に勘づいたのか、こう言った。
「……目、瞑ってるでしょう。」
様々な感情が見え隠れする。これには、私も素直に、
「まあ、そういう所ですね。」
と認めるしか無かった。ただし、卑屈に笑って。やはり、最後まで隠し通すのは無理があったか。いや、まだ能力が知られていないからバレたとは言えないか。まだいける。
「瞑った、ということは、あのテレパシーの固有能力も失ったはず。嘘も程々にした方がいい気がするわ……。」
食い気味で私はこう返した。
「私は、ただ情報収集で地上に出てきたのですよ?それなのにそこまで他人の能力を知りたいのです?」
さらに続けて、
「目的が見え隠れしているんですよぉ……。あなたが何をしたいのか、とか。」
と付け足した。巫女は、ギクリとした。異変前の第三の眼のおかげなのか、なんだか今日は勘が冴える 。
「今、ここでそれを言ってもいいんですか?いや、言われちゃぁ困るでしょうねえ……。」
考えてた事はズバリだったようだ。
「ま、まさか、あなた……。」
巫女は、自分が見抜かれたと思って小刻みに震え始めた。自尊心を保つためなのか、震えをかなり抑えているだろう。こっちは勘だけで物を言っているが。
「ええ、ただ第三の眼の能力が私自身に移っただけですよ。」
私は、笑顔でこう言った。自分でも、これは強硬論すぎると考える程、愚弄な策であった。指先は、嘘がいつバレるのだろうかとガクガクしている。ただ、もうここまで来れば、自論で押し倒すのはもう必要ないだろう。
怖気付いたのか、巫女は、これ以上の尋問を避けた。更に、他の人から能力を聞き出すのも止めてしまった。もうこれ以上勘が冴えるのはないだろう。時計をちらっとみた。正確な時刻までは分からなかったが、短針が10を指していたのは確かだった。かれこれ3時間経過だ。
再び静まり返る。場を乱してしまったのを、私の眼中には無かった。自分の秘密を防衛できたのが相当大きかったからである。これで、心置き無く1人で黒幕を討伐できる。
「霊夢さーん、月の方の確認取れましたぁ〜。」
あの天狗だ。わざわざ月まで飛んだのだろうか、あるいは何らかの交信手段があるのか……。
「そう。それで、月には影響がなかったのかしら?」
天狗はこう答えた。
「また嫦娥?を倒すために純狐さんたちが行ってたようなんですが、能力が変わった、とかそういう問題ないらしいです。ただ……。」
「ただ?」
「サグメさんがいないらしいんですよ。月の都じゃなくて、何処に行ったのか……。」
忘れてたけど、と言ったのは巫女の相棒だ。
「守矢のメンツも来てないぜ?文、ちゃんと全部行ったのか?」
天狗はこう答える。
「そういえば、あそこも行ったんですが、木々で神社が守られていて、近寄れなかったんですよ……。」
「もしかしたら、守矢神社と関係ありそうわね……。」
巫女はそう言って、急ぐように取りまとめ始めた。
「もう今日は遅いし、出発は明日にしましょう。当然、敵も出てくるでしょうし、強化されてる人達で対応にあたりましょう……。」
特有の怠け癖だ。人間には影響ないと考えたのだろう。これがあるから1人で行動したかったのだ。
「さて、もう日も跨いだし、今回はお開きよ……。」
*
会合が終わった。あの中であいつは、後で教えると言っといて、結局、最後まで自身の能力を明かさなかった。その後、誰とかは忘れたが、巫女と話しているのを盗み聞きした辺り、どうやら彼女は、物体反射能力を持ったということらしい。盗み聞きしたのがバレたのか、あいつが私を睨んできたので、私も睨み返した。
……あいつとは、完全に確執ができてしまった。このままでは私の命が危ない。逃げる様にして神社の階段を下った。
目的地は守矢神社だ。
#3
神社が関わっているということは、守矢の事だし、派手な宗教活動でもやっているんじゃないかと思った。まあ、神社に行って、元に戻すように懇願すればいい話である。長とはいえど、別に頭を下げるのには抵抗がないので、とっとと終わらせたいところだ。
そういえば、さっきから誰かがついてきている気がする。神社を出たあとからだ。このまま振り切りたいところだが、むしろ、近づいている気がする。後ろを振り向くいても誰もいない。気のせいなのか……?
「誰かいるのですか?」
人妖がいると踏まえて、こう質問した。すると、知らない声が木々の中から聞こえてくる。
「バレちゃしょうがない。」
と出てきたのは、桃のついた帽子が特徴的な人だ。
「あなた誰です?」
「比那名居天子って名よ。ていうか、私あの中にいたよね?」
…そういえば、いた気がする。確か、この天人は、私みたいに、自分の能力は変化していないと言っていた。むしろ、能力がひとつ減ってしまって、要石が動かせなくなったのだ、と。前述で、下方修正はないと断言したが、この天人に対しては、まだ隠している能力があるのでは、と疑っていた。
「突然だけど、貴方もう心読能力を持ってないでしょう?」
まさに突然だった。会って早々、あそこでついた嘘を見破られたのだから。
「あ、あなたは私に何を……。まさか、あの巫女の刺客……?」
驚いたばかりに、口調が安定しない。天人が出した答えは意外なものだった。
「え、霊夢?いやいやいや……。」
と、笑いだし、
「私、あいつの神社を人質に取っているんだよ?刺客に選ばれるくらい私のこと信頼してないぞ、あの巫女さん。」
そういえば、彼女の要石は、博麗神社の下に埋められていると言っていたか。
「じゃあ、なぜ私を追いかける必要があったんです?」
「簡単だよ。あんたの能力を確かめに来たくってね。確か……。」
彼女は、意表を突くことをを口にする。
「あんた、鎖飛ばせるでしょ。」
天人は、誰にも明かしてない今の私の能力まで当てたのだ。ここまで当てられるのは、もう固有能力しかありえないレベルだ。
「流石、正解です。もしかして異変で当てられる能力を得た、とか……。」
「そういう所みたいね。でも、あそこで言うことでもないから、隠してもいいかなー、って。」
「それが当たりですよ。あれはただ、対策メンバーの選定をしていただけでしたからね。」
「まぁ、あれで面倒事に巻き込まれるのは分かったな。」
良かった、同情者がいた。味方がいるだけでも充分だ。
「さて、お前の能力……ちょっと見せてくれないか?ていうか、スペカに『双剣』ってあった気がしたんだけど、修行ついでにどうさ?」
まあ、鎖を扱えるようになっただけで、双剣が扱えるようにはなってはいない。初めて使うタイミングを逃してしまいそうなので、
「是非是非。1回使ってみたかったんですよ。」
と、私は、この修行を受け入れた。
*
天人が、赤い剣を取り出す。異変後も、緋想の剣は使えるようだ。
「さあ、そちらさんもスペカで剣を出しておくれよ。能力を知りたいのよ、能力。」
何やかんやで久しぶりの戦闘だ。魔法陣を出現させ、スペルカードを発動させる。
「双剣『洗礼と霊魂の鎖』」
と。すると、双剣が、それぞれ1本づつ出てきた。2本の剣の性格が違う。一方は、白い気を纏い、もう一方は、黒い気を纏い……。
「ほぉー、片方ずつ性格が違うとは。中々珍しいスタイルだな。」
「持ったはいいんですけど、無闇に振っちゃいけませんよね、これ?」
「まぁ、まずは自分の思ったふうに振ってみな。」
そう言われたので、突っ込むが如く横に一閃。しかし、天人はそれをヒラリとかわしてしまう。その後も思うがままに双剣を振り続けるが、かわす一方だ。しまいには、剣が森の木に刺さってしまった。ふと見上げると、天人は、その剣の上に乗っている。
「うん雑だな。初めてだから仕方ないのかな?」
天人は、そう言って刺さった剣からヒョイっと降りる。
「思った通りに振ったまでですが……。」
「それにも程があってな。いいか?剣の使い方はな……、さとり、ちょっと剣借してくれ。」
と、私から黒気を纏った剣を取る。すると、天人が
「ア゛ギャァァァァ!?」
と叫ぶ。
「て、天子さん!?大丈夫ですか!?」
「でも気゛持゛ち゛ぃ゛ー……。」
なんだこいつ。マジもんのマゾかよ。まあ、体が丈夫だから、体がやられる事もないだろうな。
どうやら、天人は今ので、「あー、理解した。」らしい。
「『程度』じゃ括れない能力あるな。黒気を纏っていると、白気に対してキラーを持つ。ていうことは……。」
と、今度は白気を纏った剣を取る。天人の身体には、何ともない。
「うーん、白気は逆だな。今度は黒に対してキラーを持ってる。やっぱお前、強力な能力を持ったな。」
私がこう問いかけた。
「……どういう事ですか?」
「この双剣、うまく使いこなせば、人間以外はほぼ一撃で倒せるぞ。例えば、白は『聖』とか、『善』とかの属性。反対に、黒は『穢』とか、『悪』だな。人間は、その中間にいるから、ただの剣と化すけど。」
なるほど。さっきは天人故に食らったということか。もはや鎖を扱う能力じゃない。
「能力が分かったところで、続きやるかー。開始早々逸れてしまって悪かったな。」
「いえいえ、比較的早めに知れて安心しますよ。」
笑みで返す。
「引き続きよろしくです。」
「踏み出しが肝心なんだ。特に、飛べる人妖はね。あのひと踏みだけで常人より距離を稼げるのだから。」
と、天人は、右足を軸にして飛ぶようにして走る。
「そのままの勢いで、空気抵抗に負けずにそのまま横に振るっ!」
振った剣は大木の硬度に負けず、真っ二つに切っていく。断面が綺麗だ。
「あとは、相手の動きを予見できるうにしないといけない所ね…。まあ、これに限っては鍛錬しないとダメなんだけど。こんな感じね。ほら、今言ったことをやってごらん?」
言われた通りにやってみる。軸足を思いっきりつけて後ろに蹴るがが如く走る。その勢いに、片手剣を力いっぱいに大木の方に振る。切り抜けるかと思ったが、勢いは、半分で無くなってしまう。
「おや、単純に筋肉不足かもね。」
筋トレなんてしている暇なんてない。かといって、これでは相手に力負けしてしまう。私がそう考える内に、一つの賭けに出ることにした。
「……いや、1つだけ、加速できる方法があります。」
「ほう……。ならそれでやってみな。加速するもんなら何でも、ね。」
私は、もう一つのスペカを取り出した。あの、
「鎖符『懺悔の鎖』」
を。すると、魔法陣が二倍に増え、自由になった鎖が増えた。一対を森木に刺し、鎖を引いて高速で直線移動する。双剣を広げ、空気抵抗に耐えながら同時に振る。二本の大木が、綺麗に倒れる。異変前において、スペカを二枚同時に使うのは、御法度であった。しかし、この能力は、「鎖符『懺悔の鎖』」を中心に、色々な能力をカスタムできるという、吹っ切れた能力だ。この能力を幻想郷トップという理由の一つだ。つまり、「双剣『洗礼と霊魂の鎖』」は、ただの、デバフカードでしかない。
「おー、発想の転換か。やるねー。」
「これで、一つ目は完遂しましたよね?」
「もうここまで来れば、あとは対人戦を重ねるしかないからなー。でも、ありゃ全然感を読んでないからな、無理がありそうねえ……。」
「懺悔の鎖を使う前と比べないでくださいよ。そこら辺は、1度当たってから言ってください。」
と、微笑む私。それに天人は、
「しょうがない、もう少し付き合ってやるか。」
と、やれやれ顔で返事した。
「……ほれ、さっき教えた通りのことをやってみな。」
私は、一双の鎖を大木に刺して移動しながら、天人を襲った。当然、天人は、それを避けるが、鎖を引き戻して、別の方向に飛ばして対応した。やっていく内に、次どこに行くのかわかってきた気がした。いや、誘導されているのかもしれない。「ならば。」と、私は裏をかく戦法をやってみた。攻めたり避けたりのどさくさに紛れて、地面に鎖を刺す。刺さった地点に着いて、今度は引き出す鎖の反発力を利用しで上へ一気に飛ぶ。天人は、それを見上げた。今宵は満月だった。逆光で私が暗く見えたのか、天人には私の目が光って見えたらしく、
「なんだ……あれ。妖しく眩いて……?」
と呟く。その隙に、私は、また地面に鎖を刺し、双剣を併せて思いっきり振った。流石に剣術を教えられてる身で、殺すわけにはいかない。わずかに刃をそらす。天人は、急に我に帰った。拍動がこっちにも聞こえてきそうだ。
「あなた……、何者?天使………?」
相変わらず気の抜けた話し方だ。
「何を言っているんですか?ただの妖怪ですよ。まさか、幻覚でも?」
「いえ……、何か
後に天人から聞いた話だが、あの時、私は、残像ができるくらい目が光っていた。そして、幻覚なのかわからないが、翼が見えたという。その形相は、まるで、天使が降臨するかのようだった、と。
*
「私が教えられるのはここまでよ。ところで、これから守矢のとこ行くんでしょ?」
「ええ。」と私が答える。すると、天人が意味深なことを言う。
「″能力が変わっただけが異変ではない。″守矢の輩は、また別のことを考えていると思うぞ。」
「……つまりはどういう事です?」
この問いかけに、天人は、
「さっきあなたを追っかけてる途中で、何か赤い線みたいなのが見えた訳よ。何なのかなーって後ろ振り向いたら、誰かが走ってたのよ。……博麗神社に。」
と、嫌な予感を想像させることを言った。その時だった。博麗神社の方から大きく物音が鳴った。何か冷気が伝わってくる。上がって天人とその方向を確認すると、博麗神社の所だけ、どか雪が降りしきる。地面からは、ここからでも見えるような氷が突き出ている。
「ほーら、始まった。霊夢も予測が甘かったな、こりゃ。」
そして、私の方に振り向いて、
「気を付けなー。相手は能力が強化されてるんだ。鎖操れたって駆使しなきゃ意味無いからな、すぐ逆転されるぞ。」
「……分かってます。」
と、私は答えた。
「よし、その意気だ。こうやって修行したんだから、しっかり妹を助けるんだぞー。そんじゃ、私は、人里に行って被害でも確認しに行きますかね。」
そう言って、天人は、森の闇に消えていった。
″能力が変わっただけが異変ではない。″これが何を指しているのか?派手な宗教活動ではないことも滲ませていた。この言葉に、何か尋常でないものを感じる。守矢の輩は、一体何を考えているのだろうか?
……早苗め。