その日、
(ん、口に咥えているのは……?)
直感で、見てはいけないものを見た気がしました。ぬし様の口に、た、タバコが……。
「ん、どうかした?」
「い、いえ。何でもないですよ……」
ま、まさか、ぬし様は「ヘビースモーカー」っていうのじゃ……?健康体と思っていましたが、″タバコ″という嗜好物を持っていたとは。なんか失望しました。
(い、いや待てよ……。今まではただの思い込みだったんじゃ?なら、これはただの空回りなわけだけど……)
混乱して、視点が定まりません。
そこで、私は一旦その場を離れ、気持ちを整えようと試みました。
「ちょっと……、ジュース取ってきていいですか?」
「……?別に構わないけど」
とりあえず、私は、少しぬし様から離れて、心を整えることにしました。
冷蔵庫から、オレンジジュースを取り出して、コップに注ぎます。注いだ分は一気に飲み干しました。
結論から言うと、ダメでした。
(信じられない……、信じられない……!)
台所にあった椅子に座って、私は頭を抱え込みました。むしろ、考える環境を自分で与えてしまったのです。
(あー……自分の首絞めたわぁ、これ)
椅子の前脚を浮かし始めました。
(やっぱ、直接聞いた方が早かったかな……)
すると、視界が、ひとつだけ扉が閉まっていない収納を確認しました。
(……閉め忘れたのかな?)
その扉を開けると、白い小箱がギッシリと入ってありました。
(何だろう……これ?)
「……ん?なんか閉め忘れてた?」
「ひゃえ!?」
ぬし様もやってきました。驚いて、まともな返事すらできません。
「あ、あの……これって……?」
私は、指先が震えつつ、白い小箱を指しました。
「この″菓子″?」
ぬし様は、口に咥えていた“菓子”を噛み切って、こう言いました。
「ココアシガレットよ」
「ココア……シガレット?」
ぬし様は大笑いしました。
「私が、煙草を吸っていたと?そんな、確実に不健康になる物を私は嗜まないわ。それに、こいしとかあなたにすぐバレるだろうしね」
「じゃあ、なんでココアシガレットを……?」
「いやぁー、煙草は吸いたくないけど、煙草を吸う姿に憧れてね、不健康にならない方法を探ったら、これにたどり着いたって訳」
箱の中から、ココアシガレットを取り出して、ぬし様はそう答えました。
「これも、別の意味で不健康になるけど」
そう笑いながら。
「これね、外界製なのよ」
待ってました、と言わんばかりの説明。
(こういう姿も、珍しいなぁ)
何となく、微笑ましい気もします。
説明が止まりそうになかったので、私は、人差し指を立てました。
「――1本、貰っていいですか?」
話を遮ってしまい、分が悪い気もしましたが、ぬし様は、
「一本と言わず、何本でも。何せ、ただのお菓子だからね」
と、不快を感じていないような、純粋な笑顔で、一本手渡してくれました。
とにかく、ぬし様らしい感じで内心ホッとしました。
11月15日
喫煙姿は憧れる。けど、喫煙自体は息が臭くなるし、寿命縮まりそうだから嫌いだ。そう考えると、菓子類で、しかも全年齢いけるココアシガレットは有能だ。完全に私の要望を答えてくれたのだから。
まぁ、外界の物だから少し値は張るんだけど……。