その日、例の如く図書館に訪れると、帽子置きを見て、何か悩んでいました。
「あのー、地上に出かけるんですか?」
ぬし様は、肩をビクッとしながらも、平然を保ち、
「いいえ、地底で済むから、服装に迷ってね」
と、振り向いて答えてくれました。
「え?いつも、
「えぇ。煙たがられるけど、多少は」
「まぁ……昔は嫌われていたって聞きましたし……」
これを言うと、ぬし様は顔をしかめました。
「
(やはり、そう来たか!)
という具合に、
「今は1人増えたじゃないですか――少なくとも、私が!」
ぬし様は、若干対応に困りながらも、
「……えぇ、そうね」
と、笑顔で頷いてくれました。
(よかった、大分私も認められてきてきたのか!)
しかし、ぬし様の顔は歪んだままです。そこで、私は思い切って一つ提案をしてみました。
「だったら、着てけばいいんじゃ。迷っているのは、らしくないですよ」
ぬし様は、少しためらいましたが、
「……それもそうね」
と、帽子とポンチョを装備して、私と共に図書館を後にしました。
地底世界は、地霊殿に向かう道中に、常々、異様な雰囲気を感じます。まさに“異世界”の言葉がふさわしいです。
「こんな世界より、地上の方が楽しいでしょう?」
ぬし様は、そう言って空笑いしました。
「いえ。常に暑くて、むしろ好環境ですよ」
望ましくない回答をしてしまったのか、ぬし様は、キョトンとした後、
「そ、そう……なの……」
と、卒ない返答をしました。
(そんなに嫌いなのかな?自分の住む地が)
私を察したのか、すぐに、
「安心できるのは、
と弱々しいながら、補充しました。
市街地は、紐で連なった提灯が、大通りを煌々と照らしてくれます。
「地下なのに、随分と明るいですね」
「まぁ、逆に地下だから、ここまで照らさないといけないんだけどねぇ」
ぬし様は、優しく微笑んでくれました。
「これも、ぬし様の施策で?」
「……まぁ、そんな感じね」
ぬし様は、何か後ろめたい顔をして、そう言いました。
その後、ぬし様は食材の類を買っていきました。その最中、私は地上での出来事と照らし合わせ、違和感を覚えました。
(あれ、そう言えば、ぬし様の顔が、笑ってない……)
ぬし様なら、お世辞でも笑うはず。ここまで無表情なのは、故郷のはずなのに、それを歓迎していないようでした。
*
帰っている途中、ぬし様が唐突に口を開きました。
「もしかして、分かった?私が嫌われている理由」
重い空気に、私は、黙り続けるしかできませんでした。すると、ぬし様が、笑みを零しました。
「私ってね……フフッ、上にも下にも嫌われてるのよ。能力で」
「え、でも、その能力ってもう――」
「風評被害って知ってる?」
食い気味に話す――もしかしたら、何かを紐解いたのかもしれない。私は、ただただ、それに怯えていました。
「一度ついた印象って、何か自分で行動を起こさないと変えられないの。でも、『
「ぬ、ぬし様――」
「いいのよ。今から嫌になっても」
暫く、沈黙が続きました。確かに、いくら異変を解決したとはいえ、性格までは変わらない。多少自己嫌悪に陥ってもおかしくないはずです。はっきり言って、ぬし様は根暗です。しかし一方で、何かに向かうような意志も感じて……。多分、それに私は惹かれたんだと思います。今まで感じたことのない、未知の“好奇心”に。
「――前評判なんか、どうでもいいんです。」
「え?」
「私は、前評判からは大きく“性格が変わった”、そう信じます」
「……ピース」
まだ信じ切ってないようだったので、私は、そこに更に念を押しました。
「ほら、今日は忌避されてませんでしたよね!?」
結果は、良い方に転がりました。
「……それも、そうね」
ぬし様は泣きかけつつも、それを抑えて笑顔で答えました。
ぬし様との関係が成熟したと感じた瞬間の1つでした。
11月16日
案外、女優帽にポンチョって顔も服装も隠れるから使いやすい、と改めて感じたこの日。
地底世界でも人ごみの中にしっかり溶け込めていたし、最初は嫌だったけど、いいこと気づかせてくれた。
ピースには感謝したい。そして、影の鱗片を見せてしまった事は申し訳なく思う。