囚われし妖怪の運命紀行   作:震顫

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ポンチョと女優帽は、16、7世紀のオランダ人の格好をイメージしています。




11月16日

 その日、例の如く図書館に訪れると、帽子置きを見て、何か悩んでいました。

「あのー、地上に出かけるんですか?」

ぬし様は、肩をビクッとしながらも、平然を保ち、

「いいえ、地底で済むから、服装に迷ってね」

と、振り向いて答えてくれました。

「え?いつも、身分を隠すような(女優帽と黒ポンチョの)恰好じゃないんですか?」

「えぇ。煙たがられるけど、多少は」

「まぁ……昔は嫌われていたって聞きましたし……」

これを言うと、ぬし様は顔をしかめました。

()()()()ではなくて?」

(やはり、そう来たか!)

という具合に、(アタイ)はこう答えました。

「今は1人増えたじゃないですか――少なくとも、私が!」

ぬし様は、若干対応に困りながらも、

「……えぇ、そうね」

と、笑顔で頷いてくれました。

(よかった、大分私も認められてきてきたのか!)

 しかし、ぬし様の顔は歪んだままです。そこで、私は思い切って一つ提案をしてみました。

「だったら、着てけばいいんじゃ。迷っているのは、らしくないですよ」

ぬし様は、少しためらいましたが、

「……それもそうね」

と、帽子とポンチョを装備して、私と共に図書館を後にしました。

 

 地底世界は、地霊殿に向かう道中に、常々、異様な雰囲気を感じます。まさに“異世界”の言葉がふさわしいです。

「こんな世界より、地上の方が楽しいでしょう?」

ぬし様は、そう言って空笑いしました。

「いえ。常に暑くて、むしろ好環境ですよ」

望ましくない回答をしてしまったのか、ぬし様は、キョトンとした後、

「そ、そう……なの……」

と、卒ない返答をしました。

(そんなに嫌いなのかな?自分の住む地が)

私を察したのか、すぐに、

「安心できるのは、地霊殿(自分の家)だけ、だから……」

と弱々しいながら、補充しました。

 市街地は、紐で連なった提灯が、大通りを煌々と照らしてくれます。

「地下なのに、随分と明るいですね」

「まぁ、逆に地下だから、ここまで照らさないといけないんだけどねぇ」

ぬし様は、優しく微笑んでくれました。

「これも、ぬし様の施策で?」

「……まぁ、そんな感じね」

ぬし様は、何か後ろめたい顔をして、そう言いました。

 その後、ぬし様は食材の類を買っていきました。その最中、私は地上での出来事と照らし合わせ、違和感を覚えました。

(あれ、そう言えば、ぬし様の顔が、笑ってない……)

ぬし様なら、お世辞でも笑うはず。ここまで無表情なのは、故郷のはずなのに、それを歓迎していないようでした。

 

 

 帰っている途中、ぬし様が唐突に口を開きました。

「もしかして、分かった?私が嫌われている理由」

重い空気に、私は、黙り続けるしかできませんでした。すると、ぬし様が、笑みを零しました。

「私ってね……フフッ、上にも下にも嫌われてるのよ。能力で」

「え、でも、その能力ってもう――」

「風評被害って知ってる?」

食い気味に話す――もしかしたら、何かを紐解いたのかもしれない。私は、ただただ、それに怯えていました。

「一度ついた印象って、何か自分で行動を起こさないと変えられないの。でも、『鎖を操る程度の能力(この能力)』を秘密にしておかなければならない。――ジレンマを抱えてるの、私」

「ぬ、ぬし様――」

「いいのよ。今から嫌になっても」

 暫く、沈黙が続きました。確かに、いくら異変を解決したとはいえ、性格までは変わらない。多少自己嫌悪に陥ってもおかしくないはずです。はっきり言って、ぬし様は根暗です。しかし一方で、何かに向かうような意志も感じて……。多分、それに私は惹かれたんだと思います。今まで感じたことのない、未知の“好奇心”に。

「――前評判なんか、どうでもいいんです。」

「え?」

「私は、前評判からは大きく“性格が変わった”、そう信じます」

「……ピース」

まだ信じ切ってないようだったので、私は、そこに更に念を押しました。

「ほら、今日は忌避されてませんでしたよね!?」

結果は、良い方に転がりました。

「……それも、そうね」

ぬし様は泣きかけつつも、それを抑えて笑顔で答えました。

 ぬし様との関係が成熟したと感じた瞬間の1つでした。




11月16日

案外、女優帽にポンチョって顔も服装も隠れるから使いやすい、と改めて感じたこの日。
地底世界でも人ごみの中にしっかり溶け込めていたし、最初は嫌だったけど、いいこと気づかせてくれた。
ピースには感謝したい。そして、影の鱗片を見せてしまった事は申し訳なく思う。
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