囚われし妖怪の運命紀行   作:震顫

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足って二度攣ると一日は違和感感じたままになりますよね……。




11月7日

 その日、私はいつもの椅子に座らず、その近くのソファに横たわっていた。正確に言えば、座らなかったのではなく、座れなかったのだ。

「アァ……、ウゥ……」

こんな罰当たりな日は、久しぶりかもしれない。

 

 

 昨日から寝不足である。確かに、こいしと共に帰った後は、早く寝ようと思って風呂に入り、日記をつけてから就寝した。しかし、しばらくして、こいしが何時もの様に「悪夢を見た」とかでベッドに入り込んできたので、安心させるために優しく頭を撫で、あやした。普段なら、これで寝付いてくれるが、この日に限って、それに手こずってしまった。翌朝、妹に起こされて、彼女の身の回りのことを済ませ、出かけるのを見送ってからまたベッドに戻った。

 再び目が覚める。それは、腹痛による目覚めだった。

(うわ……、最悪な目覚めなんだけど……)

そう思って体を伸ばすと、両足のふくらはぎに激痛が走った。あまりの痛さに、

「ヴゥッ!」

と、私は思い切り悶絶してしまった。

 今日は何もやる気が起きなくなった。腹痛も、徐々に大きくなっていく。私は、昨日の夕食を思い出してみた。

(昨日は和食だったはず……あっ)

私は、腕を目に当てた。

(刺身か~……)

 

 痛みが多少引いてきた。ここで私は発起して、取り敢えずいつもの図書館に行こうと試みた。まず、自身で浮遊しようとしてみた、が……、

「……ヴゥッ、アァ……ッ!」

それは、却って足の攣りが酷くなる結果を生んだ。しかし、私は諦めない。

(そうだ、能力を使えば……!)

すぐに、

 

「巨腕『十二柱の巨人』」

 

を発動し、鎖の右腕を作り出す。それをドアノブに向かって飛ばす。腕に対してドアノブが小さいので、人差し指を器用に使って、これを下げる。……壊さずに開けることができた。

 次に、私は部屋から出る方法を考えた。これに関しては、すぐに思いついた。……ドアを開けたことでできた縁を、腕でしっかりと掴み、一気にそれを引き込んだ。廊下の壁にぶつけてしまうような捨て身の作戦だったが、今はそんなことを考える暇はなかった。当然、私は全身を壁に強打する。

(痛ッ……!後は……図書館へ飛ばすだけ……)

 痛みに耐えつつ、掴めそうな場所を探す。しかし、廊下にそのようなものは見当たらない。

(しょうがない……。石壁に穴が開く程度なら……)

私は腕を解き、2本の鎖を、図書館のドアを外すようにして、鎖を正面に飛ばす。……木材を射抜く音が響かなかった辺り、しっかりと壁に刺さったようだ。引っ張って安全を確認し、鎖を引き込む。案の定、ドアにぶつかる。しかも、ドアノブにだ。しかし、

(やった……!図書館だ!)

達成感に浸っていた私には、眼中にない。

 あとは簡単だった。鎖でドアノブを引き、また石壁へ鎖を飛ばして、調整してソファによじ登るだけ。ついに図書館に到着したのだ。

 

 

 達成感が冷めるも、腹痛と足の攣りは治っていない。足の攣りは、二度食らうと早々痛みは引いてくれない。下手すると一日かかる。

(今日は安静かぁ……)

じゃあ諸々はペットに頼もうかしら、と考えていると、ノック音が聞こえた。

「はいはい」

この時間の来訪者は、大体決まってた。

「お邪魔します……て、何に魘されてるんですか、ぬし様?」

言うまでもなく、ピースである。

「魘されてる……って、もしかして、音漏れてた?」

「えぇ、ドア少し空いてましたし」

しまった、と私は恥ずかしく感じた。

「足が攣ったのよ。運動不足が祟ってねぇ……」

私は空笑いした。しかし、ピースは満更でもない様子だ。

「え、ていうことは今日一日は動けないっていう事じゃないですか。私がぬし様を手伝いましょうか?」

彼女は、私の手を優しく握ってそう言った。

「……えぇ、お願いするわ」

 そう言うと、ピースはすぐ図書館に備え付けたキッチンへ向かい、料理をし始めた。見ると、時計は既に12時を過ぎていた。

(もう昼時なのね……)

だが、腹痛のためか、食欲は全くない。良かれと思って調理しているのだろうが、私には必要ない。彼女に断りを入れようか、入れまいか。そう考えているうちに、彼女が私の方に戻ってきた。

「上手に出来たかは、自身ありませんが……」

そう言って、私の前に1つのお椀を置かれた。私は、起き上がって確認する。見ると、そこにはトロトロに煮込まれたお粥が入っていた。

「さっきから、ずっとお腹を摩っていたので、もしかしてと思って……」

ピースは、私の体調を見抜いていた。

「あ、ありがとう……」

意外な対応に、私は驚きを隠せない。しかし、それは心地よいものだった。

 差し出された木材のスプーンを使って、温かいお粥を掬って口に入れる。あっさりとした出汁味で、病人(?)には優しい食事だ。具材には、卵の他にホタテの貝柱が使われていた。

「ホタテの貝柱ねぇ。いいアクセントじゃない」

誉め言葉しか見つからなかった。

「キッチンにあった『ほんだし』って、便利ですね!今日ご主人様に教えようかなぁ……」

そう言って、ピースはもう一つのお椀を手に取り、スプーンを持って食べ始めた。

「あなたって意外に料理とかするのね。驚いたわ」

「えぇ。興味があって、週に何回かはご主人様に教えてもらってるんです!」

ピースは、誉められて体を横に揺らす。何とも微笑ましい光景だ。

 スプーンは、自分でも驚くような速さで進んだ。腹痛は、行くも地獄、退くも地獄。どうせなら、行ったほうが解決が早い。これは、その起爆剤だ。

 お粥は5分足らずで完食した。

「どうですか、お腹の調子は……?」

「えぇ、だいぶ楽になったわ」

実際に、腸内が回り始めた感触はあった。足の攣りも、辛うじて歩けるくらいには回復した。私は、ゆっくりとソファから起き上がり、重い足を引きずって図書館を出る。

「さて、長い戦いに赴こうかしら……」

 

 10分くらいかかったのであろうか、長い戦いからついに脱すことができた。

 図書館に戻ると、ピースが私の机上を整理していた。

「あ、机の上が散らかってたんで……つい」

「だ、大丈夫よ。むしろ、ありがたいわ」

日記は引き出しにしまってあるし、他に隠すものもない。ガサツだったので、助かった。

「では、続けてますね。……ぬし様は休憩しててください」

「え……いや、もうだいぶ調子が戻ってきたんだけど……」

「安静が一番です」

言葉が詰まる。このまま、あの妖精に家事云々を任せてよいのだろうか。――いや、考えるのは止めよう。お言葉に甘えて、私は少し彼女に甘えることにした。

 私は、ソファ前のテーブルに指をさす。

「じゃあ、ここにある本を片付けてほしいな~」

「分かりました!」と言ったのと同時に、数冊本を積んでから、本棚へ戻していく。

「適当に入れてっていいから」

迷いを無くすよう、念を押す。

 しっかりと意が通じたようで、ピースは問題なくやってくれた。彼女が、近くにやってきて、

「できましたよ!」

と、脱帽して顔が迫ってきたので、

「そう……、ありがとう」

と、頭を撫でた。やはり、思わず笑みを浮かべてしまう、綺麗な髪だ。

(こういう日も、悪くはない……)

 

 

 図書館の読書スペースは、十分に綺麗になった。

「……今日は、本当に助かったわ」

私は、少し起き上がり、再度礼を言う。すると、ピースが妙なことを言った。

「いえいえ、ぬし様は、ご主人様たちと同じ“家族”ですから!」

「はて?」

私は疑問に感じた。一応、一つ尋ねてみる。

「それは、私()()って事?」

ピースは、首を横に振る。

「フフッ、何言ってんですか~。妹さんもですよ」

「そう……、なら良かった」

どうやら、杞憂でしかなかったようだ。

 時計を見ると、既に5時を過ぎていた。

「そろそろ帰ったら?もうそろそろこいしも帰ってくるし。きっと後はやってくれるわ」

「そうですか。では!」

ピース脱帽したまま礼をして、図書館を後にした。ドアが閉まったのを確認し、私は、また寝込む。

「本当に……よくできた娘ねぇ……」




11月7日

ピースに悪いことをしてしまった。物事を色々やってくれて。おかげで机もだいぶ綺麗になった。ご主人さんの教育かな。
……菓子類を揃える必要があるな。別に地霊殿菓子まみれにしても、怒る人もいないし。
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