4日辺りだったであろうか、紅魔館のレミリアから、直々に手紙が届いた。どうやら、彼女の住む紅魔館へ、直接来てほしいという。妹の世話もやってくれるというので、その手紙に書かれていた予定日である今日の朝に間に合うよう、前日の夜に、妹を連れて地霊殿を出発した。
「大丈夫なの?一晩中飛ぶことになるけど」
と、こいしに尋ねると、
「全然!だってフランちゃんと遊べるんだもん!」
と元気に答えてくれた。まぁ、長い昼寝を促したので、寝てしまうことはまずないだろう。
到着したころには、既に明けの明星を迎えていた。紅魔館の門番を務める美鈴は、例の如く立ち寝をしている。そこに、瞬間で紅魔館のメイド長である咲夜が、私の目の前に現れた。門番は、ナイフを刺されて倒れている。
「お待ちしておりました。こちらへ」
彼女の案内に沿って、私達は、紅魔館の建物内に入っていった。途中、フランの部屋が見えてきたので、こいしとは、そこで離れた。
「それでは、私は妹様たちの面倒を見ておきますので」
部屋に入る前、咲夜がそう言って、私の前から姿を消した。
案内された部屋に入ると、レミリアがいた。
「フフッ、ようこそ紅魔館へ」
彼女は、歓迎の意を述べた。
「何となく、話は分かっているでしょう」
「さぁ、何の事でしょう?」
私は、あえて知らないふりをする。
「手紙には、『ここに来てほしい』という旨しか書いていなかった。それだけで分かるとでも?」
冗談を含めて、私は嘲笑する。彼女は、それを笑いで返す。
「アッハハハハハ!確かに、それだけじゃあ常人には分からないわねぇ……『常人』には」
私は、愛想笑いでそれを返す。
「ハハ……あたかも、私が『常人』ではないかのような言い方ですが?」
「そこよ」
急に、彼女の目つきが変わる。
「話を変えるけど……、何故あなたはそのポンチョを脱がないのかしら?」
内心、動揺するも、表面上は平然を保つ。
「ここが少し寒いからですよ。なんでも、冷え性なもので」
「冷え性?」
(まずい。もっと突っ込んでくるか……?)
そう考えていると、
「……そう。吸血鬼には、これぐらいがいいんだけどねぇ」
と、あっさりとその話を切り上げた。
「まぁ、いいわ。そんなのはどうでもいいわけで……パチュリーが、あなたに用があるらしいの」
そう言うと、立ち上がって私を先導し始めた。
*
到着した所には、大きな二枚扉が佇んでいた。
「さぁ、入るわよ」
ギギギッ、と開いた先に、彼女の親友はいた。
「……ついに、来たのね」
鋭い目つきを私に向けた。
「この人がパチュリーよ」
「『パッチェさん』って呼んでほしいわ」
「は、はぁ……」
いざ、この二人の視線を食らうと、少々威圧感を感じるのは私だけであろうか。まぁいい。
私は、両手をポケットに突っ込んで、こう問うた。
「で、では……パッチェさん。一体私に用、とは?」
小休止入れて、パチュリーはゆっくりと話し始める。
「最近、幻想郷でちょっとした謎があって……。夢創異変を解決したのは誰なのか、が分かっていないのよ」
(また、いつもの……)
そう考えながら、彼女の話を聞く。当然、その後には鎖を使っていた云々が続いた。
「へぇ。それで、私を。けど、関係ないですよね?」
私は、空笑いする。
「しらばっくれるつもり?」
パチュリーは笑い返す。
「なるほど。
「えぇ」
彼女の目線が、また強くなった。
「レミィから聞いた話によると……、異変発生後、あなたは滅多に来ない会合に姿を現した。そして途中から、霊夢が私たちの能力を申告しろ、と滅茶苦茶なことを言ってきた」
隣にいるレミリアは、2度頷く。
「あの場にいたほとんどの人妖は、能力を暴露したと言っていたわ。もちろん、
パチュリーは一呼吸置く。
「――それが、あなたよ」
私に、人差し指を突き付ける。まずい。ピースのような直感で話していない。
「……なら、確実な証拠ってありますよね?見せてくれません?」
「証拠?そんなの、今はないわ――これから作るのよ」
そう言うと、素早く弾幕を展開し、私に向かって放ってくる。全て自機狙いだ。
(まずい、避けなければ……!)
動こうと試みるも、地面が足を離してくれない。足が、効かない。
(あの吸血鬼、運命を……!)
彼女がずっと留まっていたのも、それが理由か。
私は、ため息をついた。どうやら、諦めないといけないらしい。
「はぁ……」
鎖を出現させ、ポケットから取り出したスペルカード、
「双剣『洗礼と霊魂の鎖』」
で、双剣を作り出す。剣は、白い気を帯びている。
できた双剣で、私は一つ一つその弾を斬り裂いていく。十数個あった弾は、1分もかからずに全て消えた。これを見たパチュリーは、私に拍手を送った。対し、私は不快感しか残らない。
(見た事あるな……こうやって窮地に立たせて正体をばらす展開。馬鹿げてる)
正に“してやられた”わけだが、今更、開き直る必要はない。
「ふーん……概要がつかめない能力ね……。面白い」
パチュリーは一人で声を漏らす。
「確かに、あの異変を解決できるような能力ね」
レミリアは、腕を組んで納得していた。私は、これに愛想笑いで対応した。この二人は、どうも面倒くさい。
*
私が、近くの椅子に座ると、パチュリーは、また話し始める。
「んで、私があなたを呼んだのは、これをやってほしくて……」
そう言って、差し出したのは、私も持っている「幻想郷七不思議全録」であった。
「私も持っていますけど、これがどうしたんです?」
「あなたには、
背筋に、何か冷えを感じる。
「は、はい?せいぜい都市伝説程度の七不思議を、検証……?」
正気なのかと、もう1回問う。
「えぇ。これを熟読していくうちに、現実味が帯びてきたの。確かに、最強のスペルカードは存在するだろうし、外界へも、理論上はほとんどが出れないわけでもない。なら、“それを止めているのはいったい何なのか?”。これを突き止めてほしいの」
「だったら、何故私が?大体、自分で動けばいいものを――」
「自分は……動けないの」
パチュリーが、食い気味に、そして語気を強めた。
「……七不思議は、便宜上の名前で、真名は『幻想郷禁断探求』。絶対に真実を求めてはいけない。実際に、これを書いた作者は、罪悪感から自殺したと言われているわ。しかも、幻想郷の根幹に関わる以上、博麗側に比較的明るい
「で、でも、あなたの興味本位に、私が巻き込まれるのは、極めてリスクが。それとも、その『禁断探求』と私とが関係あるのです?」
「そこなのよ。あなたを呼んだ理由は」
急に指摘され、私は冷や汗を掻く。
「まず、さっき見せてもらったあなたの能力は、
「私の……能力ではない?」
「少なくとも、夢創異変が解決してもなお、その状態なのは、問題視すべきね」
あたかも、私が異端のように言われている。その所為で、私は聞き手にしか回れない。
「誰かから、手が加わった能力という可能性は、大いにあるわ」
「その、抑えている張本人が、『禁断探求』に触れるかもしれない、と」
背中に感じる悪寒は、次第に強くなっていく。自分の人生の岐路が、すぐそこにある事を示しているのであろうか。
「……やってくれる?その代わり、あなたの安全は保障するわ」
「というと、私の『能力の機密保持』という事ですか?」
「そういうことよ」
確実に、私は岐路に立たされている。どうやら、夢が朽ちた先には、「劣勢のまま生き続ける」か「より一層落ちぶれる」の選択肢しかなかったようだ。どちらにせよ、最善手はない。なら、答える選択肢は……、
「――分かりました。では」
私は、パチュリーと握手をした。思えば、
「交渉成立ね。期待してるわ」
レミリアは、私たちを見てホッとしたようだ。つまり、最初から仕組まれていたという事のなのだろうか。
私は、今日最悪な一手を指してしまった。この先、どんな事があろうと、元には戻れない。だが、私にはどうでもいい。何せ、既に夢は朽ちているのだから。
11月9日
時間が遅く、今日は紅魔館でこれを書いている。
七不思議を解明してほしいとパチュリーに言われた。私はこれを快く引き受けた。たぶん、これを霊夢らは引き受けてくれないのだろう……あちら側の人間なのだから。
まあ、紅魔館は十分利用価値があると考えている。……いずれはこの借りを返してもらわなければな。