ハッピーエンドのお話し。
今日は卒業式、空は雲一つない快晴で今日卒業する先輩たちを祝っているようだ。
僕は今、親友でもあり部活仲間でもある
「今日で三年生の先輩たちは卒業だね、少し寂しいなぁ」
「そうでもないよ、時々遊びに来るって言ってたし」
翼は少し寂しそうにしてるが、それでも祝いたいと言う気持ちがあるのかすぐに明るい表情に戻る。
僕も僕で寂しいと思う所はあるが、今は特に気にならなかった。
器楽部の先輩たちは今だに第三音楽室に残って、在校生の皆と喋っている。
「私ね、今日はチューナーに伝えたいことがあってここに来てもらったの」
「……何かな?」
知っている、彼女がこの後に言う言葉を。
だけど、僕はその言葉に答えることは出来ない。
だって僕は、
「あなたのことがずっと好きでした!付き合ってくだしゃい!」
少し噛んでる、相変わらずと言うか何と言うか。
全くもって彼女らしい告白の仕方に、クスリと笑いが零れる。
「も、もう!真面目に聞いてよチューナー!」
「ちゃんと聞いてるよ……返事は今の方が善いよね」
「う、うん」
翼も怖いのだろう、少し肩が震えてる。
言いたくない、言いたくないけど。
言わなかったらきっともっと苦しめてしまうから、言うんだ。
「ごめん翼、君の気持には答えられない」
「……そ、そっか、そうだよね。器楽部って可愛い子多いし、私は全然だもんね。そうだ!もしかして器楽部の中に本命居るの?ひょっとして卒業する先輩の誰かとか?」
さっきまであった空気をなかったかのように、翼は空元気を振り絞って作り笑顔をし続ける。
やめてくれ、そんなに無理しないでくれ。
君にはもっと自然な笑顔で過ごしてほしいんだ。
僕は今から真実話す、最低最悪な結末を。
「ごめん翼言葉足らずだった……僕は今日死ぬんだ、だから君の想いに答えることは出来ない」
「えっ?じょ、冗談だよね?やだなチューナー、私を慰めるためにそんな嘘つくなんて……嘘……だよね……?」
翼が僕をジッと見つめる、僕が「嘘だよ」と言うのを待っている。
僕はただ、翼の目を見続けた。
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チューナーが言った言葉が頭から離れない。
「僕は今日死ぬんだ」、たった一言だ。
この言葉が私の頭から離れてくれない。
私は待っていた、彼がいつもみたいな優しい笑顔で「嘘だよ」と言ってくれるのを。
告白の結果なんて今はどうでもいい、ただ知りたい彼がこれからも私たちの近くに居てくれるのか。
チューナーが口を開いた、でもいつもみたいな顔じゃなくて、凄く悲しそうな顔で私にこう言った。
「最近僕さ、眼鏡付けてるでしょ」
「うん。でも、それと今の話に何の関係があるの?」
チューナーの言っている言葉の意味が分からない。
嘘だ、私は何となく気付いているんだ、ただ先延ばしにしてるだけ。
チューナーがゆっくりと眼鏡を外す、すると――
「嘘……チューナー、目が……白く……」
「そう、この目はもう見えてないんだ」
嘘だ!だってさっきまで普通の目だった、なのに何で。
「さ、さっきまで普通だったよね!な、なんで?!」
何で、どうして、何があったの?
分からない、全然分からない。
彼は自嘲気味に笑って答える。
「蒼先輩はホントに天才だよ、この眼鏡普通の眼鏡の役割を果たしながら、これを掛けてる時はみんなに目のことを誤魔化せるように作られてるんだから」
「そんな……じゃあ、今は私の顔も見えてないの?」
聞きたくないのに聞いてしまう、これ以上訊いたら引き返せないと分かっているのに。
「………」
無言の肯定、イエスと捉えていいだろう。
「翼には最後まで聞いて貰おうかな、何でこうなったか」
そう言った彼は、今までに起こった全てを語り出した。
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最初に無くなったのは味覚だったかな。
無くなった日の朝は、珍しく寝坊しちゃってさ、朝ごはんを食べずに学校に来たんだ。
しかもさ、お昼ご飯も持ってくるの忘れちゃって途方に暮れてて。
そんな時に、智美に誘われて翼と一緒にお昼ご飯食べたでしょ?
僕がお弁当忘れたって言ったらさ、「だったら私のおかず少し上げる」って翼が言ってくれた。
お礼言ってからご飯食べたらさ、味がしなかったんだよね。
最初は「翼がミスしちゃったのかな?」とも思ったんだけど、翼は普通に食べてて。
そこでやっと可笑しいのが自分だって気付いた。
何とか二人にバレないように誤魔化してその日を乗り切った。
翼も可笑しいと思わなかった?
僕最近、「美味しいと思うよ」とか「良いと思うよ」とかしか言ってなかった気がするんだ。
だって、味が分からないんだからそうとしか答えようがないよ。
次に無くなったのは嗅覚だった。
朝起きてコーヒー飲んでたんだ、味は分からないから香りだけでも味わおうと思ってたんだけどさ。
全然しなかったんだ、いつもみたいな匂いが。
最初はただの鼻詰まりかなと思って、気にもしなかった。
でもね、その日の放課後。
紗彩のガーデニングのお手伝いをしてたらさ、いつもなら花の甘い匂いが分かるんだけどね、全然分からなかった。
この時にはもう、自分の死が遠くないもののように感じた。
次に無くなったのは視覚かな。
これに至ってはすぐに分かったよ、だって目が覚めたら視界に写る世界が全部ぼやけて見えたんだもん。
朝一で、学校に行った。
目の辺りに魔力を貯めて、疑似的な神経にした。
蒼先輩に事情を説明して、この眼鏡を作ってもらった。
最初の方は少し動揺してる感じがしたんだけど、五分も経たずいつもの先輩に戻って眼鏡の作成に取り掛かって貰えた。
蒼先輩にはみんなに話すべきだって言われたんだけどね、話したくなかったんだ。
話せるはずないだろう、そんなことしたらみんなを悲しませてしまう。
それだけは嫌だったから、黙っていた。
ゴメン、話が逸れたね。
えーっと、次は聴覚かな。
視覚と同じでこれもすぐに分かった。
さっきと同じ方法で耳を疑似的に使えるようにして、蒼先輩を頼った。
全くもって凄いよ、あの先輩は。
僕が聴覚が無くなるのも予知してたみたいに、専用の補聴器まで用意してくれてたんだから。
頭が上がらないよ、蒼先輩には。
最後は触覚かな。
これが無くなった時は、もう自分の死が目の前にあるように思えた。
だって、朝起きたら動かした感覚がないのに勝手に時計の目覚ましが消えてたんだよ。
この時の僕はもう、寝てる時も補聴器と眼鏡を外せなかったからね。
起きようとしたんだけど、体に上手く力が入らなかったんだ。
でも、いつの間にか体は起き上がってた。
手を握ったり開いたりして動きの確認をした。
動いてはいた、けどそれだけで感覚はなかった。
触覚が無くなったのは一週間前だったかな?
これが真実だよ。
僕はそろそろ死ぬ、翼も何となく分かったでしょう?
もう手遅れだって。
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僕が話し終えると翼は立ち上がって、先程の様に空元気を振り絞って笑顔を作っていた。
「チューナー、まだ何とかなるよ!ホニャちゃんを頼ったりすれば……」
きっと彼女も分かっているのだ、でも諦めない、諦められないのだろう。
僕が生きることを。
でも、
「ホニャにも聞いたよ、でも無理だってさ。グリムゲルデさんに聞いても無理だって言われた」
「何で!何でチューナーが先に諦めるの!チューナーはこれで良いの?これで終わって良いの?」
そんな訳ない、でもこれでいいんだ。
君たちには返し切れない程のものを貰ったから。
ホニャから聞いた英雄の真実も話そう、ここまで言っってしまったらこれも言うべきだろう。
「あのね、翼。僕が死ぬ原因は英雄の魔力なんだ」
「英雄の……魔力?」
流石に困惑するよね、そこら辺も補足しよう。
「大体、英雄になったからってあんなに魔力があることが可笑しいんだ。本当なら普通の人間にはそんなものはないからね。でも、僕が英雄になる時にある契約をしたんだ」
その契約の内容はあまり分からなかったが、一つだけホニャに教えてもらった。
僕の魔力の源泉は寿命だ。
段々と翼の顔が青ざめていく。
「じゃあ……もしかして今までの戦いでチューナーは……寿命を削って?」
「……そうだね、だってそうじゃないとあの膨大な魔力に説明がつかない」
呆気からんと言う僕の言葉を聞いて、翼が叫び出す。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
流石に一気に話過ぎたかな、翼は耐えられなかったみたいだ。
僕は、彼女に近づき優しく声を掛ける。
「大丈夫だよ翼、君は悪くないし。ましてや器楽部に悪い人なんていない」
「でも、でも!チューナーは私たちの為に文字通り命懸けで戦ってくれたのに、それなのに……」
君の言いたいことは分かる、でも君たちを助けたのは僕の意志なんだ。
そこを分かって貰いたい。
「僕は昔、自分がなかったんだ」
少しだけ昔話をしよう、透明だった少年の話。
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ある所に感情が希薄な少年が居ました。
少年は良く人助けをしていました、それを親に褒められたことで少年は嬉しくなり率先して人助けをするようになりました。
数年も経つと、少年は近所で有名なお手伝いさんとして認知されました。
そんな事を続けていたある日、少年はふと気づきました、自分に色がないことに。
幾ら探しても自分の色は見当たりません、他のみんなは自分の色を持っているのに。
少年だけは透明でした。
時間が経つにつれて、少年はそのことを気にしなくなっていきました。
ですがある日、少年は運命に出会いました。
ある定期音楽会にて、いつも通り少年はスタッフに混じってお手伝いをしていました。
最初の設営を手伝った後は、自由にしていいと言われたので少年はホールに残って音楽を聴くことにしました。
その時です、「東奏学園器楽部」の演奏を聞いたのは。
少年はその演奏、いや「魔法の音」を聞いて気付きます。
驚くことに無色だった自分の色が、白く染まっていたのです。
それが分かった少年は、東奏学園の入学と器楽部への入部を決意しました。
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「もしかしてこの話って……」
「そう、僕の話。今だから言うけど、最初は打算で入ったんだ自分の色が欲しいって気持ちは本物だったけど」
翼は僕の話を聞いて、少し落ち着いたのか声質が安定している。
「でもね、みんなを調律していく内に本気で君たちを助けたいと思ったんだ」
「だったら!尚更だよ、もっと生きようよ!もっと色んなものをみんなで見て、たくさんの色を知ろうよ」
翼の主張はもっともな正論だ。
だけど、
「僕はもういいんだよ、君たちから沢山の色彩を貰った。後悔はもうないよ……」
「嘘だよ、もし本当だとしても、私は認めない。私たちは認められない……」
翼がそう言った瞬間、屋上のドアが勢いよく開く。
「そうだぞチューナー!アタシは認めないからな!」
智美だ、それ以外にも器楽部のみんなが扉が出てくる。
「済まないチューナー君、私はどうも嘘が苦手らしい」
「蒼先輩……いいえ、先輩が謝る必要ありませんよ」
蒼先輩が謝って来たが、先輩は悪くない。
悪いのは僕なんだから。
「チューナーくん……蒼さんが言ってた話本当ですか?」
菜々美の本当に心から心配する言葉が心に響く。
「チューナー、今だったらはい嘘でしたで許してあげるわ。だから言いなさい」
紗彩の少し高圧的なようで、優しい声が心に響く。
「チューナー君、どうにかならないの?一緒に頑張ろうよ!」
ひかり先輩の慰めるような言葉が心に響く。
「チューナーさん、諦めてはいけません!そう言ったのはあなたでしょう?」
結菜先輩の励ますような、試すような言葉が心に響く。
「チューナー先輩!先輩が居ないと誰が迷子の私を案内してくれるんです」
かなえの吹っ切れたような言葉が心に響く。
「調律師君、ここで逃げていったら一生恨むわよ」
さくら先輩の脅してるようで気遣っている言葉が心に響く。
最初の菜々美に続いて、次々とみんなが僕に言葉を投げかける。
やめてくれ、そんな言葉掛けないでくれ。
折角決められたのに覚悟が鈍ってしまう、まだ「生きたい」と思ってしまう。
「僕だって……僕だって!生きたいですよ!でも無理なんです、どう足掻いたってどうにもならないんですよ!」
出てしまう今までため込んできたものが。
「本当はノイズだって怖かったし!怪我するのだって嫌だった……でもみんなが傷つくぐらいならって思えるようになった自分が居て嬉しかった」
苦しかったんだ、辛かったんだ、誰かに助けてほしかったんだ。
僕は知らず知らずの内に
「死にたくない!もっとみんなと一緒に居たいよ……お願いだから僕を助けて」
言ってしまった、言わないようにしていた言葉。
「その言葉を待ってたニャチューナー!今こそお前に恩を返そう」
そう言ったホニャの声が何処からともなく聞こえてきた。
すると、目の前に夢世界に行く時のような穴が出来てそこからホニャが出てくる。
「私はお前を騙していた、だからこの命をチューナーに」
ホニャの言ってる言葉は理解できたけど納得は出来ない。
「な、何言ってるんだホニャ!君が一番器楽部の復活を夢見て……」
「それでも、お前に死なれたら意味がないのニャ。今の器楽部はお前が居てこそだ、我が愛しの英雄よ」
みんなは何も言わない、僕に全て任せているのだろう。
ホニャに最後の質問をする。
「本当に、それで良いの?」
だが、この質問にホニャはほぼノータイムで答えた。
「構わない、私の命があれば普通の人の平均寿命までは大丈夫だろう。チューナー、今までありがとう。お前と居た時間は、長いようで短かったが最高のひと時だったニャ」
そう言ったホニャは、僕の目の前まで来ると淡い粒子になって消えていく。
実態が無くなった淡い粒子は僕の中に入って来る。
体に電流を流されたような痛みが来る。
それも、数秒で終わり。
気が付くと、
「目が見える」
眼鏡を外してもみんなの顔が見えるし、補聴器を外してもみんなの声が聞こえた。
「この調子なら」と思い、思い切って鼻で息を吸う。
微かに残ったホニャの匂いがした。
多分、触覚の方も味覚の方も問題はないだろう。
「それ本当!治ったのチューナー!」
翼の声を筆頭にみんなが一斉に喜び出す、僕と一部を除いて。
僕の寿命による問題が治ったということは、すなわち。
「ホニャは死んだのか……全く最後の最後まで世話掛けちゃったかな」
目から涙が零れる、まだ生きることが出来る。
とても喜ばしいことなのに、僕の涙は止まらなかった。
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今日から新年度、学年も上がり新部長は凛先輩で副部長は春香先輩。
僕も二年生のまとめ役になった。
僕のクラスには器楽部が揃っていて、情報の伝達が速い。
「おいチューナー!今日は部活は三時までで、みんなで放課後はお花見だってさ」
「そっか、それは楽しみだね」
智美の話によると、春香先輩が「桜が綺麗なのでお花見がしたいのです」と言うと亜里砂先輩や他何人かの賛成もあり可決したらしい。
凛先輩も大変そうだ。
僕は部活の前に、屋上に来ていた。
「ホニャ、見てる?君のお陰で僕は春を迎えられたよ」
もしも僕の声が聞こえたんなら聞いて欲しい――
「君に会えて良かったよホニャ、こんな僕を選んでくれてありがとう」
これからの僕たちが紡ぐ末来の
私自身のこうなったらいいな~、程度の物ですのでご自愛ください。
因みに、誰がチューナーとくっつくかまでは決まっていないのでご自由に想像してください