まるで【小鬼】のような……   作:沙希斗

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「モンスターハンター」の世界で「小鬼」といえば、やはりこいつでしょう。
(ただし、MHWは除く)

書いていく内に視点がころころ変わってしまったので、もしかしたら混乱する人もいるかもしれません。


※本当にグロいので、そのつもりで読んで下さい。


まるで【小鬼】のような……

   

 

 

 

 冷たく硬い地面の感覚に気付いて目を開けた彼女は、自分がどうやら洞窟に寝かされているのだと理解した。

 というのも、目に映ったものが鍾乳石だったからである。

 見回しながらそろそろと起き上がろうとして、全身が疼いて崩れる。

 

 呻きつつ、そうかと彼女は思い出した。

 そして同時に戦慄に怯え、とにかく逃げようと這いずろうとした。

 

 だがそんな気配を察したものが何事か言いながら近付くと、仲間に声を掛け、耳障りな声を発しながら彼女の防具を剥ぎ、転がし、弄んだ。

 

 

新人PTが行方不明になったという連絡を受けて捜索のために【沼地】に来ていたハンターは、洞窟の暗がりで身の毛もよだつ光景を目にして縮み上がった。

 見付けた一人は体中をズタズタに裂かれ、夜目でも見える程に体の一部や防具の切れ端が至る所に『転がっていた』。

 

 しかし肉食の【モンスター】に食い散らかされた訳では無いようだった。

 何故なら【彼ら】が付けたような牙の痕が一切無かったからである。

 

 代わりに切れ味の悪い刃物で切り刻まれた痕が無数にあった。

 更に言うと、どうもそういう武器だけで攻撃してここまでの『残骸に』なってしまったらしいと分かった。

 

 若い男と思われる『それ』には武器が無かった。

 ハンター用の武器種のみならず、【剥ぎ取り用ナイフ】や【投げナイフ】の類いも見当たらなかった。

 体や防具は『残っていた』事を見ると、どうやら何者かが武器だけ奪って行ったらしかった。

 『残っていた』物はご丁寧にひっくり返したりして念入りに調べた形跡があり、なのにそこまでしていたのにポーチの中身は手を付けられていないようだった。

 

 という事は、相手の目的は武器を奪う事だけだったのだろうか?

 

 だがおかしな点があった。

 傷から言ってどう見ても(切れ味は悪いにしろ)人間の武器で攻撃されたとしか思えない形状をしているのだが、もし【人間】だったとしたら、ここまで惨たらしい殺し方をするだろうか?

 

 もしそうだったとしたら悪魔の所業としか思えない。

 

 ただ武器を奪う目的だけなら、例え集団で襲い掛かったにしても致命傷を与えれば気が済んでいるはずなのだ。

 一人の男をここまで徹底的に攻撃する必要は無い。

 もしも憎くて堪らないというような事があったとしても、防具も体も、内臓も含めてそこら中にぶちまける程ズタズタにするだろうか?

 

 

 楽しんでやがる。

 

 彼はそう思った。

 きっと犯人は嬲り殺す事を楽しんでいるのだ、と。

 

 

 そんな悍ましさに吐き気を催しながら、更に奥に進む。

 だが、本当はもうこれ以上進みたくないと彼は思っていた。

 奥に進む程に更に凄惨な光景が待っているとしか思えなかったからである。

 

 そして、予想は当たってしまった。

 

 奥に『転がされていた』のは若い女だった。

 しかし彼女は幸いな事に『綺麗な形を保っていた』。

 保ってはいたのだが、防具は全て剥ぎ取られていた。

 

 今度はハッキリとその姿が浮かび上がっており、夜目で見る必要が無かった。

 ご丁寧に大きな【ライトクリスタル】の結晶塊の前に転がっていたからである。

 そのまるで祭壇に祀られているかのような姿を見て、しかし彼は神々しいと思うどころか絶句していた。

 

 何故なら、その祭壇であるかのような場所が、血の海になっていたからである。

 

 

 近寄るのも憚られるような場所に躊躇した彼だが、意を決して近付く。

 遠目で見て確信はしていたが、やはり既に彼女の息は無かった。

 

 体中に痣と切り傷がある。

 その上に強姦を試みた痕まであった。

 

 恐らく気が済むまで弄んで犯して、挙句の果てに殺したのだろう。

 

 彼女の両目は、潰されていた。

 そして、血と交じった涙の痕があった。

 

 苦悶に歪んだままで固まっている彼女の表情に憤怒を露わにしつつ、彼女の身体をそっと持ち上げる。

 そのまま担ごうとしていると、周りで一気に殺気が膨らんだ。

 

 ぎくりとなって見回すと、いつの間にか小さな人型に囲まれていた。

 【彼ら】は老いさらばえた枯れ木のような緑褐色の肌を持ち、奇妙な面を被っていた。

 

 きっきっきぃ!

 

 その内の一匹が片手を天に向けて上げ、叫んだ。

 よく見るとその手には、折れた武器が握られている。

 それだけではなく、どうも【彼ら】全部が似たように切れ味の悪そうな武器を持っていた。

 そうしてそれを合図にするかのように、【彼ら】はそれぞれで耳障りな甲高い声を発しながら一斉に向かって来た。

 

 

 

「……悔しいです……。連れて帰れません、でした……っ!」

 【医務室】に赴いた【ギルドマスター】は、全身包帯だらけで悔し涙に咽ぶ男の話を聞いていた。

 

「――では、【チャチャブー】で間違い無いのじゃな?」

 

「はい。あの集団は間違い無く【チャチャブー】でした。【小鬼】とも呼ばれる【ゴブリン】に似てなくもなかったですが、【ゴブリン】なるものは御伽話や小説の類いでしか今の所見た事がありませんからね」

「そうじゃのぉ……」

 

「それらの話で出て来るものを読むと、性格的には【チャチャブー】も【小鬼】のようですが。……むしろ『小鬼そのもの』とも言えるでしょうね」

「あ奴らほど残忍な奴らは儂も知らん。……もっとも、生活区域に近寄らなければ何ら被害は無いはずなんじゃが――」

 

「やはり、新人が知らずに洞窟内の生活区域に入った。と見るしかないのでしょうね……。残念な事ですが」

「そうなるのぉ……。じゃが、こればっかりは各自で気を付けてもらうより他は無いからのぉ」

 

「通達は常に出されてますもんねぇ」

「んむ……」

 

 

 

 しかし数日後、再び似たような事件が起こった。

 それで「どうも【チャチャブー】が活発化、もしくは大繁殖しているのではないか?」となり、間引きの依頼が頻繁に出されるようになった。

 

 そんな中、【密林】の洞窟内で【チャチャブー】に追われ、死に物狂いで逃げ惑っている二人がいた。

 

 彼女らもまだハンター駆け出しの恰好をしていた。

 そして一人を半ば引き摺るようにして、彼女はまろびながら逃げていた。

 

 必死の形相は恐怖に歪み、涙でぐちゃぐちゃになっている。

 それでも歩みを止めないのは、仲間を見捨ててしまったという負い目があったからである。

 

 彼女のPTは既に二人が犠牲になっていた。

 そしてその一人に「私達が引き付けている間に逃げて」と懇願され、身を引き裂かれる思いでここまで逃げて来たのだ。

 

 が、足がもつれ、とうとう転んでしまった。

 

「ごめんなさいっ」

 その日に組んだPTだったが大怪我をした一人を気遣う彼女。

 しかし先程から逃げながらも【応急薬】やら【回復薬】やらなけなしの【回復薬グレート】やらを掛けてはいるのだが、回復する兆しが無い。

 

 それどころか血を吐いたりして、ますます容体が悪化しているように見えた。

 

「なんで!? どうしてっ!?」

 彼女はパニックになっていた。

 今まで回復系が怪我に効かないなどという事は無かったからである。

 

 

 そんな時、風を切る音がしたと思ったら二の腕に痛みが走った。

 

 短い悲鳴を上げてそこを押さえようとした彼女は、そこに長い棘のようなものが突き刺さっているのを見た。

 そして暗がりから、耳障りな甲高い声を発しながら近付いて来たものを見た。

 

「きゃあああぁっ!!!」

 とうとう【チャチャブー】に追い付かれたという事実に絶叫する彼女。

 逃げようとしたが腰が抜けてしまい、その場に座り込んでガチガチと歯を鳴らす事しか出来ていない。

 

 その内股の間から黄色っぽい液体が滲み出たのを見た【チャチャブー】は、まるで嘲笑しているかのようにそんな仕草をして声を上げた。

 

 と、そんな中洞窟の出口があると思われる方から音がした。

 

「ひっ!?」

 仲間が現れたと思い、息を飲む彼女。

 が、反応した【チャチャブー】は明らかに嫌悪感を抱いたようで、隣にいた仲間に何やら合図した。

 

 ヒュッ!

 

 再び風切り音がして、【彼】の口元(奇面の中)から自分に刺さったと同じ長い棘が飛び出したのを彼女は見た。

 つまり、【吹き矢】を使っているらしい。

 

 しかし直後に聞こえたのは刺さる音では無く、叩き落とすような音だった。

 

 そしてやや間があって、ゆっくりとした音が近付いて来、それは足音だと分かった。

 重々しいそれとともに、徐々に姿が見えるようになる。

 

 それを見た彼女は再び息を飲んだ。

 

 人の形はしているが、黒く、刺々しい姿をしていたからである。

 恐らくハンターだろうという事は分かるのだが、大きく、威圧感のあるその姿は【モンスター】にも見える。

 怯えて見上げていると、【チャチャブー】が襲い掛かって行った。

 

「逃げ――」

 言い掛けた彼女の耳にぐしゃりという何かが潰れたような音が届く。

 そして目の前に落されたのは、頭を潰された【チャチャブー】の死体だった。

「ひっ! ひいぃっ!」

 恐怖に慄いている彼女は、低い呟くような声を聞く。

 

「……。まずは、一匹……」

 それは、まるで肉食獣が唸るような男の声だった。

 

「二匹、三匹……」

 続いて潰れたような音と共に、数える声が漏れる。

 そうやって数えながら次々に【チャチャブー】の頭を潰していた彼は、静かになったのを知って「ふん、こんなものか……」と呟いた。

 

 

「……あ、ああぁ……」

「怖がらんでも良い」

 のしのしと近付いた彼に怯えて砕けた腰のまま逃げようとして、そう声を掛けられる。

 

「……。やはり、毒だな……」

 無言のまま刺さっていた吹き矢を抜かれて痛みでビクつくと、そう呟かれて「え!?」となった。

「【チャチャブー】は毒武器を使う事がある。これを飲んでおけ」

 【解毒薬】を渡されて慌てて飲むと、「ほれこれも」と【回復薬グレート】を渡された。

「ありがとう……ございます……」

 戸惑いながらもお礼を言っていると、脇に倒れていた一人の状態を見ていた彼がこう言った。

 

「これは、もう駄目だな……」

 

「そ……、そんなのって……!」

「毒が回り切っている。こうなってはもう【解毒薬】では助からん」

「そんな! まだ息はありますっ! すぐに連れて帰って――」

「無駄だ。この様子では帰るまで持たん。苦しみを長引かせるだけだ」

 その時、擦れてかなり聞き取りにくかったが、弱々しい声が聞こえた。

 

「……ろ、し……て……」

 

「……。承知した」

 そう言った彼は腰から【剥ぎ取り用ナイフ】を引き抜くと、躊躇無く喉に突き立てた。

 苦しんでいた彼女は涙を溢れさせながら何か言いたげに口を動かし、それから目の光が消えた。

 

「ごめん……なさい……」

 見開いたままだった死体の目を閉じながら、彼女はぽろぽろと涙を零し続けた。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

「……。仲間か?」

「いいえ、今日組んだばかりでした……」

「……。そうか」

「でも、でもすぐに仲良くなれたのに……。他のみんなも……」

「他に、仲間がいたのか?」

「はい……。でも、私達を逃がすために……」

 

「この奥か?」

 俯いて涙ながらにそう零した彼女に、彼はそう言いながらそちらの方向へ顔を向けた。

「そうです」

 その返事を待つ前に、彼はもう移動を始めていた。

 

「待って下さいっ! 私も――」

「恐らくとうに殺されているだろう。かなり惨たらしい状態になっているはずだ。……見ない方が良い」

 そう言われて逡巡したが、それでも彼女は意を決して「でもっ! でも確かめないとっ! し……死んでいるならいるで、その事実を確かめないとっ!」と訴えた。

 

「……。【チャチャブー】はまだ全滅していない。付いて来るなら命の保証は出来んぞ」

「わ……っ。私だってハンターです。その覚悟は出来ています!」

「震えながら言われてもなぁ」

 喉の奥でくつくつ笑いながらそう言われ、彼女はそれでも無理に立ち上がって「こっちですっ!」と駈け出した。

 

 彼はその様子に鼻で笑うと、ゆっくりとした足取りで付いて来た。

 急いでいないのは大股で歩いていれば追い付くからであった。

 

 

「う――うえぇっ!」

 先に(というよりはほぼ同時に)到着した彼女は、案の定そこに見えた光景が目に入った途端、胃の中のものを全部外に吐き出した。

 二人分と思われる死体が、『そこら中に転がっていた』からである。

 

「……。やはりな」

 対して彼は兜の中で眉一つ動かす事無く淡々とそう言ってのけ、躊躇すらせずにずかずかと中に踏み込んだ。

 

 『転がっている』ものを踏まずには歩けなかったにもかかわらず、である。

 

「巣があるとすれば、もう少し奥か……」

 そんな事を呟きながら更に奥に入ろうとしている彼に、彼女は「待って……」と消え入るような声で言った。

「……。だから来るなと言ったのだ」

 一応立ち止まった彼は少しだけ振り返り、呆れたように言った。

 

「もう気が済んだだろう。サッサと外へ出ていろ」

 しばらくは立てないだろうなと思いつつも、彼はそう言った。

 この場所は一本道なので背後から襲われる事は無い。

 ならば一人でも帰れるだろうという判断である。

 

「……て……、手伝いますっ!」

 だが彼女は健気にもそう言った。

 

「足手纏いだ。死ぬ前に逃げておけ」

「せ……っ、せめて、この人達の仇を――」

「必要無い。それは俺一人が討つ」

「で……! ですが、この先にはきっと沢山の数の【チャチャブー】が――」

「例え数百に囲まれようと俺は後れは取らん。お前がいれば逆に巻き込んでしまう」

「ですが、それでは怪我を――」

()()()()()受ける傷など大した事は無い」

「で、では……っ。ではせめて、せめて遠くから見させて下さいっ! 決して邪魔はしませんからっ!」

 

「……。ずっと隠れていると、誓うか?」 

 あまりにしつこく食い下がる彼女に、彼はとうとう根負けしたように言った。

 

「はい。誓いますっ!」

「俺に何があってもそうすると、約束してくれるか?」

「はい。しますっ!」

()()()()、か?」

 思わず黙ってしまった彼女。

 

 だが彼はしゃがんで目線を合わせる(それでも見下ろす格好になったが)と、更に念を押した。

「俺が死んでもその場を動くな。それが出来ねぇなら今すぐに外へ出ろ」

 そして、ポーチから【モドリ玉】を出して彼女に押し付けた。

 

「……。分かりました。死んでも隠れていると、約束します……」

 彼女はそれをそっと押し返し、震え声ながらもそう言った。

「くれぐれも、違えてくれるなよ?」

 彼はそう言って【モドリ玉】をポーチに仕舞い、奥へと足を踏み出した。

 

 

 

 進むにつれて徐々に空間が広がっていき、明るさも増していった。

 彼は「ここに隠れていろ」と囁き、明と暗の境目ぐらいの少し登った鍾乳石の入り組んだ陰に、彼女を潜ませた。

 そして「念のためにやはり持っておけ。身の危険を感じたら即使え」と、先程の【モドリ玉】を握らせた。

 

「あ、あなたは……?」

 囁いた彼女に、彼は「俺の事は一切気に掛けるな」と囁き返し、それに対して何か言おうとした相手を無視して暗がりからいきなり明るい場所へ踊り出た。

 

 

 そこは比較的開けた場所になっており、明るいのは【ライトクリスタル】の結晶が至る所に生えていたからだった。

 

 その中の、一際大きな結晶塊の前に、まるで供えるかのように赤黒い塊が置いてある。

 その周りには赤い染みが広い範囲で付いており、どう見ても血であるとしか思えない。

 赤黒い塊は遠目で何かの肉だろうと思われたが、近付くと『どうやら人らしい』と分かった。

 

「まったく。良い趣味をしてやがるぜ」

 彼は兜の中で笑みの形に口を歪めながら呟いた。

 

 一応調べようと『人らしい塊』に近寄ると、途端に殺気が膨れ上がった。

 とっくにそんな事には気付いていた彼は、囲んでいるものをゆっくりと見回してから一点に目を止め、嬉しそうに言って片膝を付くと、頭を垂れた。

「これはこれは、御拝謁賜り、恐悦至極」

 

 そこには【キングチャチャブー】が立っていた。

 

 

 

 無数の【チャチャブー】に取り囲まれている状態で、そんな無防備な姿を晒すのは自殺行為である。

 それどころか惨殺して下さいとでも言いたげな様子に、見ている彼女は正気を疑った。 

 ましてや【キングチャチャブー】がいるのだ。これで彼の死は確定したものと彼女は絶望した。

 

 しかも、彼は相手が一斉に向かって来ているというのに微動だにしていない。

 それどころか気付いてないのか敬意を示して目を閉じたままである。

 兜の隙間から覗いている目が閉じられているのが見えた彼女は、戦慄に慄きつつもそれを振り払って声を掛けようと口を開けた。

 が、既に遅く、片膝を付いて項垂れたままの彼は、無数の【チャチャブー】に覆われて見えなくなってしまった。

 

 しかし彼女が悲愴な顔で目を覆おうとしたその刹那、その【チャチャブー】が全て吹き飛んだ。

 

 何が起こったか分からなかったのは彼女だけでなく【チャチャブー】達もそうだったようで、遅れてようやく彼女と共に彼を中心とした死体が散乱しているのに気が付いた。

 『それ』は全てがひしゃげ、潰れたようになっていた。

 

 そして【彼ら】と彼女は見た。

 いつの間にか、彼が【ハンマー】を構えているのを。

 

 

 

 いきなり大勢の手下が吹き飛ばされて訳が分からなかった【キングチャチャブー】は、それらが全て潰された死体になっているのを見て驚愕した。

 だが直後に憤慨し、その怒りのままに声を上げた。

 そして手下の数に物を言わせて攻めさせた。

 が、自分達よりいくらか大きいとはいえよく見かける【ハンター】という生き物たかが一匹に、手下は次々に潰れた死体に変わっていった。

 

 相手は【ハンター】が囲まれた時によく使う、やたら眩しく暫しの間目が見えなくなる物を投げ付ける事はしていない。

 だから攻め放題のはずなのだが、攻める端から潰されていく。

 いくら四方から隙無く攻めさせても、一匹たりとも相手に攻撃が届かない。

 その不甲斐無さに苛々の頂点に達した【彼】は、瞬く間に手下の数を減らされて行くのに耐えられなくなり、とうとう自ら前に出た。

 

「おぉ! 遂に貴方様にお相手して頂けるのでしょうか?」

 嬉しそうな相手の物言いは、畏まってはいたが完全に馬鹿にした口調だった。

 

 それにますます怒りを募らせ、それを乗せて攻撃する。

 が、相手は簡単に避けてしまった。

 懸命に攻めては避けられている間、相手の兜の隙間から覗いている目は嬉し気に輝き、口の端はずっと上がっていた。

 それに苛々を募らせるも、自分の攻撃は手下同様当たらない。

 手下共々攻めてもみたが、器用に手下だけを潰して自分の攻撃だけ避けられた。

 

 

 

 何であの数を避けられるの!?

 

見ている彼女は驚愕を通り越して混乱までしていた。

 四方八方から無数に攻めて来る【チャチャブー】相手に、【閃光玉】すら使わずに闘って傷一つ負わないなんて。

 いや傷どころか相手の攻撃すら届かない。どの攻撃も届く前に相手の体ごと【ハンマー】で潰している。

 しかも彼が使っているのは長リーチや極長リーチのものではない。通常リーチの【ハンマー】である。

 なので元々広範囲の攻撃が出来ない武器種で囲まれ、四方から一気に攻められているのなら一方的に攻撃を食らってもおかしくないはずなのだ。

 

 なのに、彼は逆に一方的に攻め立てている。

 しかも、ただ一人で。

 

 しかしずっと見ている内に分かったのは、どうやら自分が知っている【ハンマー】の使い方をしていない場合がある。という事。

 今まで自分が見て来たあの武器種特有の攻撃とは違う、特殊な攻撃技をどうやら彼は持っているらしい。

 なので『溜め』による攻撃の変動に、どうも広範囲を巻き込むような叩き付けの攻撃があるらしいと分かった。

 

 と、数を減らしていく手下に業を煮やしたのか、ついに【キングチャチャブー】が進み出た。

 これは苦戦するだろうと思っていた彼女は、更に信じ難い光景を目にして呆気に取られた。

 

 嬉し気に対峙した彼は、相手の攻撃を全て避けつつ器用にも手下の【チャチャブー】のみを潰していったからである。

 

 

 

 いくら焚き付けようがすっかり怯んでしまった手下に喚き散らしていた【キングチャチャブー】だったが、自身の攻撃も当たらないため悔しいがここは退くしかないと決め、地面を掘ろうとした。

 

「逃げられると、思っているのか?」

 

 だが唸るように低いそんな声が聞こえ、恐怖で凍り付く。

 それでもとにかく逃げようと再び地面を掘ろうとすると、摘まみ上げられた。

 体格の差は大型【モンスター】程ではないにしても歴然である。しかもいくら喚こうが暴れようが、放してくれるはずがない。

 死に物狂いで持っている棍棒を投げ付けたが、相手は当たっても意に介していないようだった。

 

 相手は自分をぶら下げたまま目の高さまで持って来た。

 そこで思い付き、今だとばかりに【吹き矢】で目を狙ってみる。

 が、目に刺さる前に反対の手で防がれてしまった。

 しかし【彼】は奇面の中で笑みの形に口を歪ませた。

 絶望の雰囲気で見ていた手下共の様子も、途端に勝機を見出したような空気になる。

 

 【彼】は、勝ったと思った。

 

 

 

 【キングチャチャブー】を摘まみ上げていた彼の目を目掛けて【吹き矢】が襲い掛かり、それを反対の手で防いだのを見て一瞬安堵した彼女だったが、衝撃の事実を思い出して直後に背中に【氷結晶】を押し当てられた如くに固まった。

 そして、これでもう彼は死んでしまうのだと絶望に打ちひしがれた。

 思わず『約束』を忘れて駆け寄ろうとして、しかしそのまま再び凍り付いた。

 

 その瞬間、彼が【キングチャチャブー】を握り潰したからである。

 

 驚愕した手下の前に放り投げた彼は、棘のような【吹き矢】の矢を抜いてから手下を殲滅し始めた。

 まるで、何事もなかったかのように、平然と。

 彼は、この洞窟内にいる全ての【チャチャブー】を討伐し尽くすまで止まらなかった。

 

 

 

「早く! 早く解毒をっ!」

 ようやく動きを止めた彼に駆け寄り、彼女はそう叫んだ。

「ん? ――あぁ、そうだな……」

 そう答えた彼の声色は、何処か遠くを見て心ここにあらずというような、もしくは夢を見て寝言を言っているかのような、ぼんやりしたものだった。

 

 彼はただ、何もせずに立ち尽くしている。

 

「早く! 早く解毒して下さいっ!」

 そう声を掛けても反応は無い。

 そこで彼女は彼の手を掴み、導くように彼のポーチに持って行った。

 彼女は自分のポーチに【解毒薬】を入れてなかったからである。

 そこでようやく彼は気が付いたかのように、ポーチを開けようとした。

 

 が、その動作はあまりにも緩慢で、おまけに指先が震えていて開けるのも儘ならない。

 そんな様子を見かねて、彼女は彼のポーチに手を突っ込んで【解毒薬】を探り当て、彼の手に握らせた。

 

「……すまんな……」

 

 ぼんやりとした口調でそう言った彼は、ゆっくりとそれを口元に持って行った。

 しかし飲む前に蓋が開いていないのに気付き、歯でこじ開けて喉に流し込んだ。

 途中でむせつつもどうにか飲み干す事に成功した彼は、効いて来たのか少し経ってから疲れたような長い溜息を吐いた。

 

「大丈夫、ですか?」

「ああ。感謝する」

 

 ハッキリした口調で自分に向き直ってそう言った彼に、安堵の長い溜息を吐く彼女。

 途端に何故か目の前が暗くなって、「あれれ?」と言いながら倒れ込んだ。

 

 

 

「……。まだ本調子では、無いのだがな」

 それを見た彼は、苦笑いしてからくたりとなっている彼女を抱え上げた。

 そして、多少ふら付きつつも洞窟の外へ出、待機させていた【気球】で帰って彼女を【医務室】に放り込んだ。

 なんでも「今までの精神的苦痛がたたったのだろう」という事だった。

 

「貴方もふら付いているじゃないですか!」

 医療係にはそう言われたが、心配して追い縋ろうとまでしていた係を追い払いつつそこを出る。

 そのままの足で【ギルドマスター】に報告すると、部屋に帰るなりベッドに倒れ込んで死んだように寝た。     

     

 

 【キングチャチャブー】を倒したという彼の報告により、この事件は取り敢えずの終息を見る事となる。

 何故ならそれ以降、【チャチャブー】に襲われる者が激減したからである。




「ゴブリンスレイヤー」では「ゴブリン」が「弓矢」を使っているようですが、「チャチャブー」が使っているのを見た事は無いので「吹き矢」にしました。
というのも、公式の設定資料の一部の採用前のものの中に、「吹き矢を使う」という表現があったためです。

分かりにくいですが、今現在の「チャチャブー」も「奇面」の口あたりがただの穴ではなく筒状に少し伸びており、そこから「吹き矢」を使うものと思われます。
実際に使っているのはゲーム内では見た事がありませんけども。

ですが「MHFZ」の世界では今現在でも「ハロウィンイベント」などで毒武器が手に入るクエストがあるので、「彼ら」が毒武器を使う事はもしかしたらあるのかもしれません。


「ゴブリンスレイヤー」さんの武器を考えると「片手剣」が一番近いのでしょうけど、うちのキャラ(男)で使っている者がいませんでしたので「ハンマー」にしました。
いやゴブスレさんも「棍棒」をよく使って頭を潰しているみたいですし(言い訳)


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