方言はツールで誤魔化し。
佐賀県にある、寂れた屋敷。
其処には横たわる少女たちの姿があった。
全員が微動に動かない。
肌色は青白く、血が通っていないのがわかる。
人によれば、大きな傷跡や包帯だらけの者もいた。
当然だ。彼女たちは皆、死体なのだから。
「ほら、炬燵で寝とらんでしっかり起きて。年越し蕎麦できたばい」
同じように青白い少女がお盆に湯気が漂った蕎麦を持ってくると、動かなかった死体たちはがばりと起き上がった。
死体が何故、動くのか。
それは彼女たちがご当地アイドルグループ『フランシュシュ』のアイドル活動をしている、ゾンビィたちだからだ。
「おお、お袋。あいがとう」
「私はサキちゃんのお母さんじゃなかとよ」
「お母さん、ありがとう」
「もう、愛ちゃんも悪乗りして」
「皆さん、お疲れですね」
呆れるゾンビ1号こと源さくらの後ろで残りの年越し蕎麦を持ってきた、伝説の昭和アイドル、ゾンビ4号こと紺野純子が苦笑する。
「悪いわね。二人とも全部お願いして」
「私たちが自分から言ったことですし構いません」
「そうだね。サキちゃんとかが料理したらまた大掃除のやり直しをしないといけないからね」
「なんやとちんちく! それならオメエは料理しきるんか?」
最年少の伝説の子役、ゾンビ6号こと星川リリィの軽口に、フランシュシュリーダー、伝説の特攻隊長、ゾンビ2号こと二階堂サキがつかかった。
この二人の喧嘩はいつものことなので、余程酷くなければ放置する。
「リリィはパピィと一緒に家事をしてたから、簡単なものはできるよ」
「……ちんちくはともかく、あのおっさんが料理しとうとこ想像できんな」
以前、会ったリリィの父親を思い出したサキは、あの巨体が料理するのが信じられなかった。
「サキちゃんの言う通り、パピィはあんまり得意じゃなかったけど少しはできたよ。サキちゃんはできるの?」
「──さて、こいつらの世話がまだやったな」
「ああ! サキちゃん逃げた!」
話題が逃れるようにクリスマスプレゼントで貰った『たまごっちみっくす』をサキは手に取る。生前とは違い、画面がカラーですることが増えた最新型に貰ったときは大層喜んだ。
「そういえばあいつはまだ仕事してるの?」
「幸太郎さん? うん、まだ──って、たえちゃん! まだ、いただくしとらんけん食べたらいかんばい!」
サキとリリィのじゃれ合いを他所に、伝説の平成アイドル、ゾンビ3号こと水野愛からの問いかけを応えようとしたさくらだったが、待ち切れず自分の分の蕎麦を掠め取った伝説の山田タエ、ゾンビ0号こと山田タエを止めに入った。
「幸太郎さんはもう少し仕事をするそうです。自分のことは良いから、私たちだけで年越しをしろって言っていました」
悪戦苦闘しているさくらに見かねて、純子が代わりに答える。
幸太郎とはフランシュシュのプロデューサーであり、彼女たちをゾンビィとして現世に甦らしたらしい謎の男である。
ハチャメチャな言動にメンバーは振り回されるが、仕事ぶりは中々と有能だ。
少なくとも生前トップアイドルだった愛が同じスペックの人間に出会ったことなど、片手で数えるほどしかいない。
「ありがたいことだけど、あいつも年越しくらいゆっくりしたらいいのに」
「むしろ、ゆっくりするために今も頑張っているじゃないんですかね。今日まで皆さん忙しかったですし」
ご当地アイドルのフランシュシュであるが、その仕事量は多い。
プロデューサーである巽幸太郎がゾンビィは少しぐらい仕事をしても平気だと、普通の人間では耐えられない過剰なスケジュールを組むことが理由の一つだが、彼女たちの努力もあり、本拠地の佐賀や県外での認知度は日に日に増していた。
大規模のライブの後、クリスマスイベントに駆り出され、クリスマス当日もイベント三昧。
夜にささやかなパーティーとメンバー各々にクリスマスプレゼントがプロデューサーから贈られたが、そこからは幾つかの年末番組、年始番組に出演した。
年末年始番組は年末年始に放送するものなので、直前に収録するものが殆どだ。
生放送でないかぎり、正月にテレビで映っている人間は過去のもの。そうでなければ、多くの芸能人が年末年始を海外で過ごすことはできないだろう。
この一週間近く、フランシュシュは本拠地佐賀と地方を行ったり来たりのハードスケジュールをこなしていた。
ご当地アイドルはご当地だけで活動していいわけではない。
むしろ、自分たちの本拠地を周囲に知らしめるために、他の地方の営業も重要なのである。
現在注目のご当地アイドルという名目で東京までも赴いたが、観光する余裕などなく、今日の昼まで仕事三昧だった。
しかし、屋敷から帰ってきた彼女たちが待ち構えていたのは、大掃除である。
普段から清潔にしているが、古い建物だけあって、見えない場所の埃は多く、時間が掛った。
それでも屋敷の掃除を数時間で終えたのは普段から綺麗にしたお陰だろう。
だが、ここでゾンビィたちの限界が訪れた。最早、動きたくないと炬燵に潜り込んで倒れ伏したのが冒頭の様子である。
けれど、そのまま年越しをするのは味気ないと思ったさくらと純子がみんなのために年越し蕎麦を拵えたのだ。
みんな席に着くと、揃って「いただきます」と手を合わせる。
「ふむ。これはまた美味しゅうどすな。さくらはんたち、これは手打ちですかえ?」
優雅に蕎麦を食べたのは伝説の花魁、ゾンビ5号ことゆうぎり。
食べている仕草は上品で絵になる。逆にサキは音の鳴らしながら啜っているが、これはこれで気持ち良い食べ方だと、好まれることもあるのだ。
「そうなんやばってん、私らが打ったわけじゃなかばい」
「はい。私たちが作ろうとしたら、事前に幸太郎さんが麺を業者に準備してくれてたんですよ。私たちが作ったのは乗っている天ぷらと出汁ですね」
「成程。相変らず用意周到なお人ですなぁ。うん、この揚げもんも出汁も美味しゅうですえ」
『ありがとうございます』
ゆうぎりに習って、他のメンバーの美味しい美味しいと言ったので準備した二人はやーらしゅう笑うた。
言葉を発しないたえや、ゾンビィ犬のロメオも夢中な様子見れば、何も聞かずとも分かる。
犬に蕎麦を食べさしていいのかって?
ゾンビィ犬だから問題ないやろ。生きている犬は知らんと。
広間で設置した炬燵の中入り、年末歌番組でこの人知っている、私たちもいつか出たいねと話し合っていれば、あと数時間で年が変わる頃合いだった。
「年を越してからしばらくして平成も終わるんだね。あっという間だったな」
「死んでた私には平成は一年も体感してませんが」
「わっちも同じですなぁ」
リリィが干渉に浸ると、純子とゆうぎりがゾンビィネタを口にする。
ゾンビィならではの呟きだ。
ゾンビィに成りたての頃は物悲しくなる一声も、今では笑って流せるほど成長している。
「来年はどがん年になるんやろう」
「さくら、うなもん決まっとるやろ。今まで以上にアイドル頑張って、まずは九州制覇! いずれは全国制覇や!」
「流石、リーダーね」
サキの意気込みを愛が称える。
最初は彼女にリーダーを任せるのは無謀かと思ったが、サキの強気な姿勢は前に進む者たちにとって大きな励ましだった。
「その為にも来年は今年以上にバンバン仕事せんと!」
「サキちゃん頑張ってね。リリィたちはお正月休み堪能するから」
「いや、私も正月休みするぞ!?」
正月休みと言っても、丸々三元日を休暇するのでなく、二日までだ。
それでも、仕事が増えたアイドルには休みが取れた方である。
「そういえば、三日からん予定て誰か聞いとー? 佐賀のイベント以外で」
ふと疑問に思ったさくらが周りに尋ねると、全員が微妙な顔を浮かべた。
「さくらが言った、三日の正月イベントを一つ行くことしか聞いてないわね」
さくらの問いかけを、愛が代表して答えた。
「その後の予定を今、幸太郎さんが詰めている最中なんでしょうね」
「あのグラサン、まだ仕事しったと!? もう、年越すで!」
「わっちらの為に頑張りますなぁ」
「巽は佐賀の為だった罵るだろうけどね」
「がう!」
リリィの言葉に賛同するかのようにたえが叫ぶ。
巽幸太郎。佐賀を救うためだと彼女たちにアイドル活動をさしている謎の男。
彼に振り回されて迷惑したことは数知れないが、それ以上に感謝する気持ちも各々あった。
言葉に出したらきっと、照れ隠しなのか破天荒な態度で流されるだろうが。
もうすぐ、年が変わる。
一年の締めくくりにフランシュシュのメンバーは揃っているが、彼らを導く男はまだ仕事をしている。
もしかしたら、年を越しても仕事をしているかもしれない。
そう考えたさくらは何だかいたたまれなくなり、少し考えると、一つの名案を思い付く。
「ねぇ、みんな! 提案があるんやけどよかと」
「さくら、多分、みんな同じこと考えたとで」
周囲を見渡すと、皆が笑っていた。
以心伝心。それを見て、みんなの考えは大凡把握できる。伊達にいつも一緒に仕事をしていない。
軽く打ち合わせをした彼女たちは炬燵から抜け出して、ある一室を目指す。
静かに、相手に気づかれないよう忍び足で。
扉の向こうからまだ仕事をしている音をサキが確認すると、全員が時計を持った愛の合図を待った。
時と来れば、全員で彼を驚かそう。
日頃から挨拶は大事だと言っているのは向こうなのだし、少しくらいこっちから驚かしても罰は当たるまい。罰が当たっても、ゾンビィなのでちょっとくらい平気だ。
もう少しで、年が変わる。
ゾンビランドサガ二次小説が少ない理由。
1、まだ未完。そうだと言ってくれ。
2、方言。作者も変換ツールで誤魔化してる。
3、どやんす
それらを踏まえても、ゾンビランドサガの小説が増えますように。
ではでは、よいお年を。