彼女は、本当にすごい女の子だと思います。
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酩酊している。
大剣を振るう。一薙ぎで、魔物の片腕は斬り落とされ、赤い血がまき散らされる。
酩酊している。
頭の芯がぶれて、まるで自身が定まっていないような錯覚に陥る。
それを無視して、とどめを刺そうと体勢を低くした間際、魔物の爪が頬を掠った。頬から流れる血はきっと魔物と同じように赤い。
その僅かな痛みですら、頭の芯はぶれたまま。
刀身をひるがえして、がら空きになった魔物の脇腹を斬り裂いた。断末魔の叫びを上げて、こちらを睥睨しながら、魔物は天に消えていく。
息を切らして、大剣を背中へと収める。
――もっと強くならなくては、いけない。
繰り返してはいけない。守らなくてはいけない。もっと。もっと、と焦りがますます芯をぶれさせる。
それでも、止まれない。
ぶれたまま、歩き出そうとして、頭に衝撃が走る。痛みのあまり、うずくまった。
「こら! 何してんの、アンタは!」
顔を僅かに上げると、いつもは低い位置にある少女の顔。目を吊り上げて、怖いくらいにこちらを睨む彼女に目を瞬かせた。
「ベロニカ」
頭にあるのは、彼女の赤い杖。
それが、仄かに輝く。頬の傷が疼くように消えていくのが、分かった。
「アンタ、朝からおかしいわ。まるで一人で戦っているみたいに……ううん。その通りだわ」
独り言のように呟いたベロニカが、納得するように頷いて、杖を持っていない方の手をこちらに伸ばした。
「わっぷっ」
ぎゅっと鼻を摘ままれて、思わず呻く。
「ねえ、アンタは一人なの? それとも、あたし達がいるのが見えないのかしら」
そう言われて、目を左右に動かす。
心配そうにしている彼らの顔が次々と、【ようやく】目に入った気がした。
「この始祖の森に入ってから、アンタはずっと怖いくらいに突き進んでいって。あたし達がどの位、心配したか分かってる?」
「ごめん」
「お馬鹿さん。アンタは勇者だけど、一人で戦う必要なんてないのよ。独りで抱え込む必要もないの」
優しい声音が耳に溶け込んでいく。まるで子供に言い聞かせているようだと、思わず笑ってしまった。
彼女の方が、子供の姿だというのに。
「うん」
一番救いたい人に、今を救われた気がした。
過去に戻り、【救いたい】という想いだけに囚われ続けていたイレブンの心が、ぶれていた頭の芯が、ようやく定まったのが、分かった。
「……やっぱり、君はすごい女の子だね」
「ほら、さっさと来ないと置いていくわよ!」
イレブン、と呼ばれて、立ち上がる。
その先にある大樹。繰り返される瞬間は、もうすぐそこまで迫っている。
左手にある紋章と、あの時の彼女が救ってくれた命を胸に、イレブンは「置いていくわよ」と言いながらも、腰に手を当てて待っているベロニカと仲間達と共に歩き出した。