BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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……え?


ちょ、ちょまま、ちょっと待って、ちょっと!?(冗談抜きで)

評価10ついてる!?えぇ!?9でも驚きなのに、10ついたよ!?マジ!?

いや、気に入っていただけたのなら何よりです。本当にありがとうございます!嬉しいです!お気に入りして下さった方々も、ありがとうございます!

そんなわけで浮かれたのか、今回は長いです(いつも言ってる気が) 正直言うと、区切りがつかなかっただけなんですが(え)

まだランダムスターすら手にしてないほど動きは遅いですが、まぁ2期と合わせてこんな感じだったなぁ……と懐かしんでもらえたらいいかな。

では、どうぞ。


phrase9 活路を開く武器

放課後。部活や帰路に着く生徒が大勢いる中、俺は正門を出てバイト先へと向かおうとしていた。香澄たちと一緒に行った、SPACEだ。

 

「今日は2組ライブがあるって話だから、少し遅くなるな……ん?」

 

俺の目の前を歩く生徒たちの中に、見慣れた姿が。桃色のポニーテール。間違いない、沙綾だ。

 

俺はまだ気づかれていないことを確認して、ゆっくりと近づく。そして、後ろから静かに肩を叩いた。

 

「よっ、沙綾」

 

「うわぁっ!?し、翔!?脅かさないでよ……」

 

予想以上の反応で、つい笑ってしまった。それに対して、沙綾はすねてしまったのかムスッと頬を膨らませる。

 

「アハハ、悪い悪い。あんなに驚かれると、俺もからかい甲斐があったって言うか……」

 

「む~。今度私からも絶対に仕返しするからね?」

 

「お手柔らかにな」

 

こんなことで張り合うなんて、沙綾も案外子供みたいな一面があるんだな。普段はもっと、落ち着いた雰囲気って言うか……。どっちかって言うと、お姉さんみたいな存在感があるんだよな。

 

「あれ、翔って家こっちだっけ?香澄と同じ電車通学でしょ?」

 

「今日はバイトなんだ。この辺りにある、SPACEってライブハウスでさ」

 

「……そうなんだ。ライブハウスでバイトをね」

 

「あぁ。沙綾は家の手伝いだろ?しかも毎日だし、大変じゃないか?」

 

「大変かって聞かれたら、確かに大変かも。うち、結構人気あるからね」

 

りみもチョココロネ買いに行くって言ってたな。にしても、今日のチョココロネの紙袋には驚かされたけど。

 

それだけ沙綾の家のパンは旨いってことなんだよな。うわ、ますます気になるんだが。

 

「人気か……だったらなおさら大変だろ?放課後すぐに帰って手伝いなんてさ」

 

「そんなことないよ。心配してくれて、ありがと」

 

空色の瞳を俺に向け、太陽のような笑顔を見せる。思えば、沙綾と二人きりになるのは初めてな気がするな。少しドキドキしてきたかも。

 

「そっちはどうなの?ライブハウスのバイトって、楽しい?」

 

「俺が音楽好きだってのもあるし、楽しく仕事してるよ。バイト仲間に花女の生徒もいてさ。そいつとも仲良くやってるし」

 

今日は非番だったと思うから、会えることはないが……かなり天然で、言動が香澄以上にわからない奴。でも、仕事はきっちりこなしてくれるし、一応面白いから、何だかんだで憎めないんだよな、あいつは。

 

「へぇ。いいバイトだね」

 

「あぁ。けど、やっぱ大変ではあるけどな。今日も2組ライブが入って、割とハードみたいだし」

 

「そっか……。あ、だったらうちのパン持ってく?差し入れってことで、喜んでくれるんじゃない?」

 

「えっ、持ってくって……」

 

それは、俺にパンを無償でくれると言っていると言う事だ。いくら沙綾がいいと言っても、さすがに少し遠慮してしまう。

 

「いや、さすがに悪くないか?店の事だってあるだろうし……」

 

「いいの。友達なんだし、いつも仲良くしてくれてるお礼って言うか。こんな形でしか用意できないけど」

 

「お礼なんて、そんな……」

 

「素直に受け取ってよ。入学式の時だって、翔に助けられたからね」

 

沙綾がそこまで言ってくれるのなら、逆に断りづらい。俺はありがたく、沙綾の好意に甘えることにした。

 

「……わかった。じゃあ、ちょっと沙綾の家に寄らせてもらうよ。行ったこともないしな」

 

「言われてみればそうだよね。あ、でも牛込さんはいつも来てるんだよ。朝早くから、チョココロネ目当てにね」

 

「知ってる。りみ、沙綾の店のパンはおいしいんだって、前に嬉しそうに話してたからな」

 

ついさっき食べたいと思っていたパンが、こんな形で手に入るなんてな。りみの話もあるし、期待が高まる。

 

俺はひとまずSPACEに少し遅れると連絡を入れ、沙綾の家のパン屋に向かう。道中、俺はあまり沙綾と話をする機会がなかったこともあって、他愛もない話を繰り広げていた。

昔の思い出や、学校生活。いつしか話題は、お互いの趣味に関するものへと変わっていた。

 

「沙綾は、何かはまっている事とかないのか?」

 

「そうだな……。あ、野球観戦とか好きかな」

 

「や、野球!?イメージと全然違う!?」

 

もっと女子っぽい趣味を持っているのかと思っていたが、手に汗握る熱血路線の趣味だとは。意外過ぎて、開いた口が塞がらない。

 

「アハハ、よく言われるよ。何だか男の子っぽいってね」

 

「俺もそう思うからな……」

 

「翔はどうなの?男の子の趣味って私、あんまり詳しくわかんないから」

 

「そうだな、俺は……やっぱり音楽かな。ずっと身近に音楽はあったし、聞いていて楽しいからな」

 

ライブハウスをバイトに選んだのも、音楽にかかわる仕事がしたかったから。苦労は多いが、楽しさが勝るいい環境だ。

 

 

後は……また別の理由があるんだけどな。

 

 

「……音楽、か。私も音楽はよく聞くよ。ノリノリのロックとかね」

 

「やっぱ意外」

 

「そうかな……?って、じゃあ翔には私の事がどんな風に見えているの?」

 

「う~ん……何と言うか、大人なバラードでも聞いてしみじみしてるって感じ」

 

「そう言う時もあるけど……」

 

いや、あるのかよ。

 

「でも、そんなに私、想像してるほど大人ってわけじゃないと思うんだよね。はしゃぐ時ははしゃぐし、自分では子供っぽいかなって思う時もあるよ」

 

子供っぽいか……。あ、でもさっきだって子供みたいに拗ねてたな。案外、そんな沙綾の一面を俺がまだ全然見てないだけなのかもしれないな。

 

「あ、着いた。ここだよ」

 

大きく見えてきた、やまぶきベーカリーの看板。ガラス張りの外観からは、豊富な種類のパンが通行人の食欲を刺激している。てか、俺も今すぐ食いたい。腹減ってきた。

 

「外で待ってるのも何だし、中入って。これからパン持ってくるから」

 

「そうするよ。お邪魔します」

 

「店なんだから、そんなのいいよ。何か欲しいパンがあったら、そこから声かけてくれたらいいから」

 

「おう、わかった」

 

俺をパン屋の中に誘導して、沙綾は裏手へと消えていった。待っているだけなのも退屈なので、沙綾の言う通りに何かリクエストでもしようかとパンを物色。

 

あんぱん、メロンパン。あ、チョココロネもある。へぇ……色んな種類のパンがあるんだな。どれもおいしそうで、人気なのもよくわかる。

 

 

「…………」

 

 

ただ、俺は少し気になっていた。それは、沙綾と話していた時、俺が音楽についての話題を振った時だった。話は聞いてくれるし、沙綾の方からも話してくれた。思い返してみても、内容自体は特に違和感は感じない。

 

だが、沙綾は一瞬だけ、何かをためらったような空白の時間があった。それ以降は普通に接してくれたが、俺にはあの一瞬が引っかかって仕方がない。どうも気乗りしないような、そんな沈黙。

 

音楽が嫌いではないだろう。だったら、わざわざ俺に話を合わせて、音楽の話題を広げようとはしないはずだ。無理にでも、違う話に持ち込もうとするだろう。

 

 

だとしたら、何か音楽の事で問題があるのか……?

 

 

「ごめん!パン選ぶのに迷っちゃった!」

 

と、沙綾が紙袋を抱えて戻ってくる。あれは、前にりみが昼飯に持ってきてたものと一緒だな。

 

「いや、いいよ。そんなの気にし――って、こんなにくれるのか!?」

 

「そんな驚かなくても……それでも少ないくらいだよ?」

 

どこがだ。紙袋からはパンの一部が見えるほど、パンが詰め込まれているんだぞ。まるで限界まで袋詰めして、持って帰る気分だ。それだけのパンを、俺のためにわざわざ……何だか、そう考えると涙が出そうになった。

 

「本当、ありがとな。SPACEのみんなで、おいしくいただくよ」

 

「そんな気負う必要ないって。これは私からの差し入れなんだから」

 

「沙綾……」

 

俺は目の前の天使みたいな少女に感謝して、紙袋を受け取った。中のパンがつぶれないよう、大事に抱えて。

 

「ライブと言えば、香澄のバンド計画はどうなってるの?」

 

「ひとまずは、今日の昼に話してた感じだな。りみは加入したが、まずはメンバーだ。後は楽器か」

 

「楽器って……あのランダムスターってギター?」

 

「多分、あいつの事だからな。一度これがいいって決めたら、そこに向かって真っすぐ突っ走るし」

 

それが香澄の長所でもあるんだけどな。俺も見習うべき点だ。

 

「ってことは、香澄は今……」

 

「あぁ。沙綾の考えてる通りになってるだろうな」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ふー、こっちの荷物はこんなとこか。後はあっちのガラクタを……」

 

「あ、有咲いたー」

 

「不法侵入だっつってんだろ!」

 

沙綾の読み通り、香澄は昨日の蔵にいた。星のギターが目当てでもあったが、香澄にはもう一つ目的がある。

 

 

(さっき、みーちゃんと約束したから。バンドやるって)

 

 

有咲をバンドに誘う事。美羽の応援も受け、香澄のやる気の炎は燃え上がっていた。

 

「よかった~。早退したって聞いたから、心配しちゃった。朝もなんか変だったし」

 

「誰のせいだと思ってやがる」

 

「えっ?誰って……誰?」

 

「聞き返すなよ!」

 

苛立ちをあらわにする有咲だったが、香澄には自分の事を言われていることに気づいていない。本気で考えだす香澄を見て、有咲は渋い顔をしながら、

 

「お前だ、お前。マジでわかんねぇって顔すんな」

 

「え、私?」

 

「他に誰がいんだよ」

 

有咲は何か作業をしていたみたいだったが、香澄が来たからか休憩を始めたみたいだった。昨日よりも蔵の中は散乱していて、香澄もうかつに中に入れない。

 

「まぁいいや。んで、何の用?午後は出なくてもいい日だし、連れ戻す気なら断固拒否」

 

「出なくていいって、どういう事?」

 

「自主休講。出なくても単位とれるし。悪い?」

 

単位は取れるから勝手に休む。香澄にはよくわからなかった。けど、有咲が自分からわざと早退したのはわかる。

 

 

それが、ちょっともったいない気がすることも。

 

 

「ん~つまんなくない?友達にも会えないし、お昼一緒に食べられないし」

 

「何、自慢?それとも説教?先生にでも頼まれたとか?大変だな」

 

「ち、違うよ~!私はただ、有咲と――」

 

話をしたい。昨日のライブでのキラキラドキドキを、もっと有咲と共有したいだけなのに。あ、ギターも気にはなっているかな~なんて……えへへ。

 

「冷やかしなら帰れよ。私は今、忙しいんだよ」

 

「う、ううん。まだ帰りたくない」

 

「……はぁ?お前、話聞いてたのかよ」

 

「うん、聞いてた。けど、帰りたくないよ。だって私、有咲とバンドしたくてここに来たんだから」

 

このまま引いたら、有咲の言う通りに帰るしかなくなってしまう。まだここに来て少ししか経ってないのに、そんなのは嫌だった。

 

「はぁ、お前なぁ……。つーか、そもそも何で私なわけ?もっと適任な奴なんか、探せばいくらでもいんだろ?」

 

「う~ん、そうかもしれないけど……私は有咲としたいの!」

 

「んだよそれ!だから、答えになって――」

 

 

「だって、あの時の有咲、とてもキラキラしてたから」

 

 

輝いていた。少なくとも香澄の中では、他の誰よりも。

 

「……何言ってんだよ。私が、キラキラだって?」

 

「気づいてる?有咲も、あのライブ観てすっごく夢中になってたんだよ?」

 

「私が……?」

 

「有咲、ツンケンしてるけど……音楽が好きなんだなって気持ちは、伝わってきたよ。そんな有咲とだから、私は有咲とバンドがしたいんだっ!」

 

私は知っている。無数のペンライト、湧き上がる歓声。それらを作り出すバンドの音色。魅了され、彼女たちのようにバンドをやってみたいと志した隣で……あなたも心動かされていたことに。

 

口ではなーくんと言い争ってたけど、表情は正直だった。吸い込まれるようにライブに魅了され、半開きの口から漏れだすのは、興奮を伴った吐息。

 

「は、はぁ?ふざけんなよ。そうやって私を上手く誘い込もうとしても、バンドをやる気なんて絶対にないからな」

 

「かもしれないけど、有咲がその気になるまで諦めないよ!私!」

 

「……こいつ、マジで何なんだよ」

 

しつこいにもほどがある。バンドなんて面倒で、有咲にとっては必要ない物。絶対に気持ちは傾くはずがない。そう言っているのだから、ポッキリ心が折れてくれたらいいのに。

 

だが、香澄の芯は太かった。かつての星空から感じた思いを、もう一度感じるために。そのためには、あの日香澄のように音楽に心を奪われた、有咲の力が必要だった。

 

「……あ、そうだ!ランダムスター!ね、また見せてよ!」

 

「……っ!ふん、知らねーな」

 

「え、どういう事?そこにケース置いてあるじゃん」

 

昨日と変わらない黒のケース。星のシールも貼られているし、あのギターのもので間違いないはず。いくら何でも、この状況でしらばっくれるものなのか。

 

だが有咲は、ここぞとばかりに強気に出る。狂わされた気持ちを落ち着かせるために。

 

「残念だけど、あれは近いうちに私の物じゃなくなる。商品だ」

 

「そ、それって本当なの?」

 

「ネットオークションに出したんだよ。私にとってはゴミでも、どっかの誰かにはめちゃくちゃ価値がある。昨日のあいつが教えてくれた通りだ」

 

「あいつって?」

 

「お前と一緒にいた奴。あいつ、あのギターに食いついてたじゃん。それって、価値があるからってことだろ?」

 

翔は確かに楽器には詳しい。しかも香澄は、さっき美羽からランダムスターがどれだけ高価なギターなのかを聞いている。香澄の中に、焦りが生じていた。

 

「そのギター、もうすぐ30万超えそうだしな」

 

「さ、30万……!?」

 

しかも、追い打ちをかけるような情報が突き付けられる。下手に手が出せる金額じゃない。香澄は、自分の表情が強張っているのを感じ取っていた。

 

「欲しいなら、あんたもオークションに参加したら?ぼさっとしてると、誰かに購入されるかもしんねーけど」

 

「う、うぅ……」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「お疲れさまでした!」

 

その日の夜。俺はようやくバイトが終わり、ロッカールームで制服に着替えていた。やはりハードだったが、沙綾からもらったパンのおかげで、スタッフ一同最後まで踏ん張ることができた。

 

「後で沙綾にメールでお礼言っておかないとな……」

 

スタッフの人も喜んでたし、俺も大満足だ。本当においしかったし、今度は普通に客として買いに行きたい。

 

俺は着替えを済ませると、ロッカールームを出る。もう客もいない通路を歩き、SPACEを後にしようとして……。

 

「……成川」

 

いつものように固い表情を振りまくオーナーに呼び止められる。さすがに無視は良くないので、振り返って頭を下げる。

 

「今日はお疲れ。成川のおかげで助かったよ」

 

「ありがとうございます」

 

「また次もよろしく頼むよ。それはそうと……」

 

視線だけで周りを確認し、オーナーは俺と正面から向き合う。まるで何かを気にするようなオーナーは、誰もいない事を確認すると、ゆっくりと俺との距離を縮めていく。

 

表情一つ変える事ないオーナーの顔が、少しづつ俺に迫る。威圧感と焦燥感、やや嫌悪感に苛まれながらも、俺は微動だにせずオーナーの接近を待つ。

 

じりじりと詰まる2人の距離。見届けるものはいない。

 

 

 

 

やがて、完全に密着しようかと言わんばかりに、両者の姿が重なって――。

 

 

 

 

「調子はどうだい?」

 

「……おかげさまで」

 

「そうか。あまり時間はないぞ?」

 

「もちろん、心得ています」

 

俺の横を通り過ぎ、すれ違いざまにオーナーは耳元でささやく。俺は短く答える事しかできずに、オーナーが去っていくのを待つ。

 

 

まだ何も変化のない現状に、俺はそろそろ動かなくてはいけないと、決意を固めながら。

 

 

「……行ったみたいだな」

 

オーナーがいなくなったのを見届け、俺はすぐさま外に出る。とりあえず、新鮮な空気を吸いたかったからな……。

 

「美羽も待ってるだろうし、早めに帰らないと……ん?」

 

突然スマホが震える。メールじゃない。誰かからの電話みたいだ。発信者は……。

 

「こいつは……香澄からか?」

 

こんな時間に電話なんて珍しいな。普段は家が隣だし、近所迷惑にならない程度に呼んでくるからな。今日はバイトだってことは香澄にも言ったし、電話してまで話したい事でもあったのか。

 

「もしも――」

 

「うわ~ん!な~く~ん!!」

 

「何だなんだ!?」

 

いきなり泣きつかれ、俺は困惑する。何かあったのは確実だが、状況がわからない。

 

「どうしよ~な~く~ん!ランダムスターが~!あ~り~さ~が~!!」

 

「わかったから落ち着け!何があったのか全然わからん!」

 

どうしてこうなった。俺は何とか香澄を落ち着かせると、何故泣いているのかについて事情を聞きだす。断片しか情報は出なかったが、何とな~く理解はした。

 

「つまり、有咲とライブとかバンドとかの話をしたくて家に行ったけど、ランダムスターがオークションに出されて、手の出せる金額じゃないくらいになってると。それで話どころじゃなくなって、今日は帰ってきましたと」

 

「そうなの!ねぇ、助けてよなーくん!」

 

「いや、無理だよ!そんな大金どこにもねぇよ!」

 

だから俺に電話してきたのかよ。香澄の中で、俺は一体何なんだ。足長じいさんとでも言うのか。

 

「で、でもバイトしてるって……」

 

「家計が苦しいって話、前にしたよな!?だから花女に特務生として入学したって話も、忘れてないですかね!?」

 

無理難題を押し付けるのが上手いな……こいつは。昔からそうだったし。建前の理由が役に立ってくれてよかったよ、本当。

 

「うぅ……そこを何とかしてよ~!私、ランダムスターを使ってバンドやりたいんだよ~!」

 

30万とか、ぶっとんだ幼馴染のために出せるか。駄々こねても無理なものは無理。

 

「そうは言っても……どうしようもないぞ。30万なんて簡単に用意できるもにじゃないだろ。それに、オークションの落札が決まったら、それこそ俺たちにできる事なんて何もない」

 

「そんな事言わないでよ~!なーくんだけが頼りなんだよ~!」

 

俺だけって事は、お母さんにも断られたんだな……。だからって、こっちに頼むなよ。

 

「うぅ、私はどうしたら……」

 

「香澄……」

 

けど、珍しく弱気だな。香澄らしくない。

 

「……オークションの落札までに、どうにかするしかないだろうな。何とかして、その……ありさ?って奴を説得するか、最悪買うか」

 

「でも、どうすれば……」

 

「どうもこうも、考えて答えが出るような簡単な事じゃない。それは香澄だってわかってるだろ?」

 

「うん……」

 

まだ時間は残っている。落札がいつ決定するかは分からないが、この機会を逃せば、ランダムスターは手に入らないかもしれない。そうなる前に、少しでも足搔くしかない。

 

だが、電話越しに聞こえてくる香澄の声は、不安を含んだ後ろ向きな声だった。俺の言葉に、香澄の心は何も動いていない。

 

「打てる手が限られてるなら、その中からどうにかするしかない。今できる事から順に試していくべきだ」

 

「それはそうだけど、もしかしたら手に入らないかもしれないんだよ?そう考えると、私……」

 

「その時はその時だろ。今動くのは、そうならないようにするために必要な事だ。行動を起こすのなら、今しかない」

 

「そんな事言ったって――」

 

「……あぁ、もう!何をウジウジと悩んでいるんだ、香澄!」

 

「……っ!?」

 

俺はさすがにきつく言う事を決めた。香澄の取り柄。それは、今でこそ発揮されるべきものなのに。

 

「何を迷ってるんだ!香澄は昔から、すぐに行動に移す奴だっただろ!?どんなに無理でも、お前はまず動いた!それは、あの星空を見てからだろ!?」

 

「あ……っ!」

 

「言い続けただろ?そうやって。そいつに出会うために、お前はずっと探し続けてた。行動していた!なのに、何で今動かない?すぐそこに、香澄の求めていたキラキラドキドキが待っているんだろ!?」

 

香澄は何かあるとすぐ動いていた。それは、あの星空を見てからよく目立った。前と後では、見違えるほどに。

 

俺はそいつに振り回され、変な目に遭ったことも少なくなかったけど……香澄を変えたのは、あの星空だった。

 

 

 

動けよ、香澄。香澄らしく。

 

 

 

その先にはきっと、星が待っている。

 

 

 

「……そうだよね。私、まだ諦めない。それに、ギターも大事だけど、まだ有咲とちゃんと話してない。もっといっぱい、キラキラすること話したい!」

 

「よく言ったな。それでこそ香澄だ」

 

「うん!何だか元気出てきたよ!なーくんに話して正解だったよ!」

 

声に明るさが戻った。これで香澄は、不安で立ち止まることもないだろう。

 

だが、事態は一刻を争う。香澄の頑張りに期待はするが、それだけで解決するかと言われたら、正直分からない。俺もできる限り、サポートに回らないとな。

 

「じゃあ、なーくんもう切るね!おやすみ~!」

 

「おう。頑張れよ」

 

応援の言葉を残し、俺は電話を切る。明日からは、忙しくなりそうだ。

 

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