BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
しばらくは上手く時間取れそうなので、更新頻度もあがると思います。期待してください。
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では、どうぞ。
「有咲ー、お待たせー!」
「呼んでない!しつこい!何でそこまで毎日付きまとうんだよ!?」
「有咲といろんな話したいんだもん!あ、ギターの事もあるけど……」
「ふん、結局はそこですか。話がしたいとか、ただの都合のいい理由に過ぎないってことだ」
「ち、違うのに……」
数週間が経った。香澄は欠かさずに有咲の家に出入りするようになり、蔵の片付けを進めていった。最初は口数が少なかったが、少しずつ話す回数も増えている。
と言っても、香澄が一方的に話しているのを、有咲が適当に相槌を打つだけだが。
「あっそ。どっちにしたって、あのギターはもう渡さねーよ。もう50万超えたからな」
「ごっ!?」
さらに膨れ上がる金額。これでは、ギターを買う選択肢はまず放棄しなくてはいけない。そんな大金を用意できるつては、いくら人脈を広げるのが上手い香澄とは言っても、まずどこにもない。
「ま、そんでも手伝うってのなら別に止めねーけど。人手がある方が、こっちも楽だし」
「……うん、わかった。ギターだけが目的じゃないし、だからってまだ諦めたわけじゃないから」
「そうですか。強がって見せたところで、同情なんかしねーけど。さてと、次がこいつ……って、くそ!また重いもんかよ!」
「手伝うよ、有咲!……って、何これ重い!重すぎるよ!?」
香澄がサポートに回るが、2人掛かりでも上がらない。これでは、いくら時間がかかったところで永遠に動かせそうにない。荷物はまだまだあると言うのに。
「ぜぇ、ぜぇ……。や、やべぇな。ここに来て、とうとう強敵出現かよ……」
「どうしよう、有咲。これじゃあ、荷物が――」
「言われなくてもわかってるっつーの!けど、困ったな。せめて力のあるやつがいてくれたら、こいつもどうにかできるんだけどな……」
「近くにそんな人いないの?」
「いるかよ、そんな都合のいい知り合い。引きこもりなめんな」
それは威張れるのかどうか。だが、この状況では八方塞がりなのは間違いない。香澄も有咲も、少し心が折れかけていた。
「くっそ……。ここまで来ておいて……」
「……あっ!私、そう言う人知ってる!」
「本当か!?……あ」
思わず喜んで、香澄に詰め寄る有咲。だが、そんな姿を見せてしまったことに恥ずかしくなり、すぐにそっぽを向いて距離を取る。
「有咲、顔真っ赤になったね~」
「う、うるせぇ!で、そいつはどこにいんだよ?ここに来れるんだろうな!?」
「今日は何もなかったと思うから、多分大丈夫!待ってて、すぐ電話するよ!」
腕を組んで、頑なに香澄と目を合わせようとしない有咲。きっと、トマトみたいに顔を染めているんだろう。そんな有咲の姿に、香澄がほほえましい笑顔を向けていたことは、有咲は知らない。
***
「……で、何で俺が呼ばれる!?」
「だって、力持ちな知り合いって、なーくんしかいなかったんだも~ん!」
「こいつかよ……」
さて、俺は今、あの市ヶ谷とか言う奴の蔵の中にいる。今日はバイトもないし、家に帰ってゆっくりしようかと思いながら、駅で電車を待っていた。
そんな時だ。俺のスマホに入った一通の着信。相手は香澄。その時点で何か嫌な予感はしていたが、無視するわけにもいかない。すぐに電話に出ると、香澄からのSOSが。
で、俺は二度目となる蔵にお邪魔し、香澄と合流。いきなり泣いて抱き着かれることになり、俺の貴重な休日は、こうして奪われることになりました。
「んで、何するんだよ」
「この荷物!片付けるの手伝ってくれない?」
「そう言う事か。ま、頼まれたのなら引き受けるしかないな。女の子だけに力仕事させるわけにもいかないだろ」
「やったー!ありがと~なーくん!」
協力するって言っちゃったからな。香澄も喜んでいるみたいだし、ここは男の出番だ。せっかくの休日だったが、返上してやるとしましょうかね。
「それで、あんた……市ヶ谷、だったか。事情はよく知らないが、ここを片付けるって言うなら協力させてもらうよ。これでもバイトで鍛えてるから、戦力にはなると思うぜ。よろしくな」
「……ふん。別に誰だろうと、こいつをどうにかしてくれるなら、私はそれでいいし」
「んなっ……!」
こいつ、やっぱり態度悪いな!前から薄々思っていたが、どうもこいつとは反りが合いそうにない!突っかからないと気が済まないのかよ!?
「……へ、へぇ~。香澄の話だと、あんたが本当に困ってるってことだから飛んできたのに、何か歓迎されてないような気がするのは何でだろう~?」
「知るかよ。ほら、手伝うって言うんなら、さっさとそこの荷物をあっちまで持って行けよ」
「人にもの頼むときは、もう少し言葉遣いに気を配った方がいいと思うけどな~」
「何?私は別に、あんたに一言でも頼んでないし。あんたが勝手に来たから、せいぜい役に立ってもら――」
「何だとー!?」
どうしてここまで罵倒されないといけないんだ!?確かに出会いは最悪で、まだあの時の事を許してもらってはいないと思うけど、これはあんまりだろ!?
「もう、有咲!手伝ってくれるんだから、ちゃんと仲良くしないとダメだよ~!」
「仲良く?……ふん。私がこいつと仲良くなんて、できるんだったら何も苦労してないっつーの」
「くっ……何か気に入らない性格だな……」
うん、もうわかった。俺はこいつとは当分仲良くなれそうにはないらしい。悲しいことだけどな。
「な、何かごめんね。なーくん……」
「香澄が謝ることじゃない。そう気を遣う必要はないって」
ピリピリした空気を感じ取ったからか、なぜか香澄が謝ってきた。俺は香澄のそんな一面を見て、心配することはないと優しくなだめる。
香澄はぶっ飛んでいて、周りなんか気にしないで突っ走るところがあるけど。いつも迷惑をかけて、自分の事しか見えてないような人に見えるかもしれないけど。実はそうじゃないんだよな。
香澄は、誰よりも周りの事を見ている。友達や仲間を大切にして、その絆を宝物のように扱っている。
それに、香澄は……何よりも、そう言った人間関係のもつれに敏感で、繊細なんだよな。
「……まぁ、別にいいか。俺は気にしてないし、会った時からずっとこんな感じだったしな。時間はまだあるけど、やるなら早くやってしまおうぜ。市ヶ谷」
「は?何普通に名前呼んでんだよ」
「香澄だって呼んでるだろ。しかも下の名前じゃん」
「あいつが勝手に呼んでるだけだし。こっちは迷惑なんだけど?」
ほう、迷惑なのか。だったらちょうどいい。さっきから散々な目に遭ってるし、ちょっと仕返しでもしてやろうか。
「……じゃ、俺もお前の事、有咲って呼んでやるよ」
「あっそ。好きに……って、は、え、何!?今何つった!?」
「だから、俺も名前で呼ぶって言ってんだよ。よろしくな、有咲」
「はぁ!?意味わかんないんだけど!?」
「早くご指示をお願いしますよ、市ヶ谷有咲さん?」
「こ、こいつ……!」
ん、何だ。意外と反応が面白いな。感情の起伏が激しいって言うか、見ていて楽しい奴だ。何だか苛ついていた気持ちもどこかに消え、俺はこいつの指示を待つことにする。
「有咲~早く手伝ってもらおうよ。時間なくなっちゃうよ?」
「そうだぞ。俺も毎日暇なわけじゃないんだし、やれることは早めにやっておかないと。な?有咲?」
「~~~~っ!あ~もう!わかったよ!うぜぇけど、蔵の掃除のためだ!おい、あんた!」
「名前は最初会った時に言っただろ。成川翔だ」
「何でもいい!まずはそこの段ボールを、あっちまで持って行って!」
半ばやけくそになりながらも、有咲は俺に指示を出す。俺は頼まれた荷物を両手で持ち上げ、指示された場所まで運んでいった。
けどこいつ、バイトで鍛えているとは言ったが、何とか持てるって感じの重さだな。中に何が入ってるんだよ……。
それに、まだまだ片付けなくてはいけない荷物は多い。ってことは、俺が呼ばれなかったら二人だけで片づけるつもりだったって事かよ!?香澄もそうだが、有咲も見かけによらずなかなかやるな……。
「私たちも、軽めの荷物を片付けよう!行こっ、有咲!」
「ちょ、引っ張んな!わかったから、もう!」
俺が重い物を片付けてる間に、香澄たちは二人でも持てる荷物を片付ける。重量ごとに役割を分担したおかげで、作業は効率よく進んで行った。その甲斐あって、何とかゴールは見えてきた。
「ふぅ……。結構きついな。二人とも大丈夫か?」
「大丈夫!でも、暗くなってきたね。今日はもう終わりかな?」
一旦俺たちは外に出て、風に当たる。汗ばんだ体には心地よく感じるな。香澄はすぐにまた蔵の中に戻り、寝転がっていたが。
「そうだな。つーか、よかったのかよ?気に入らねーけど、結局手伝ってもらったし」
「別にいいさ。今日は暇だったしな。それに、この重い荷物、もし俺がいなかったらどうするつもりだったんだよ?」
「え?そ、それは、その……え~……気合で」
「どうにかなるか」
俺でも大変だったのに。香澄が呼んでくれなかったら、先が思いやられるところだったな。
「う、うるせぇよ!何も考えてなかったんだから!……け、けど、まぁ一応助かったし。その……あ、ありがと、な」
プイと視線をそらし、有咲は顔を真っ赤にして礼を言う。気恥ずかしい気持ちはわかるが、そこまで照れる事ないだろ。
「何だよ、素直じゃないな」
「うるせーっつってんだよ!どうせお前も、こいつの肩持ってんだろ!?ギター目的で手伝ってやったんじゃねーのか!?」
「香澄がそこまで考えて俺を呼ぶなんて思うか?」
「それは……うん。思わない」
疲れ果てて蔵に大の字に倒れこむ香澄を見て、有咲はそう結論付ける。おい、香澄。お前こいつからバカ認定されてるぞ。
「な?むしろひねくれてんのは、有咲の方ってわけだ」
「な……何をー!?」
別の意味で顔を染め上げ、有咲は俺に組みかかってくる。俺は軽く抵抗していたが、こいつの性格から、ある事に気づいていた。
……こいつ、あれだ。ツンデレなんだ。
しかも、金髪のツインテール。よく見ると、膨らみも香澄とはレベルが違うくらい大きい。どこのとは言わないが。
俺は疎いからよく知らないが、何だかギャルゲーのヒロインみたいな奴じゃね?要素って言うか、そう言うのがてんこ盛りって言うか。
「もー!有咲落ち着いてよ!私は別に、ギターが目当てじゃないんだよ~!」
「嘘つけ!」
いつの間にか、香澄が乱入。寝てたんじゃないのかよ。
「嘘じゃないよ!私、さっきから有咲と掃除しながらお話しできたことの方が、すっごく嬉しいんだよ!」
「……え」
俺が荷物を片付けている横で、香澄は有咲と積極的に会話をしようとしていた。大抵は長続きしなかったり、適当にあしらわれていたんだけどな。有咲も、嫌そうな顔しかしてなかったし。
でも、無視されていたことは一度もなかった。本当に香澄に気がないなら、スルーしていれば済む話だ。香澄に対して、気がないわけではないんだ。
表向きは嫌そうでも、もしかしたら、本当の顔は……。
「あ、でもギターもちょっとは気になったりして~……」
「ほら見ろ!」
って、何を油注いでいるんだよ。突っかかってくる勢いが強くなった気がするんだが。こっちにまで飛び火来そうだな。と、思っていたんだが。
「……ったく。見たけりゃみれば?あのギター、見たいんでしょ?」
「えっ?いいの、有咲?」
「何だ?さっき以上に素直って言うか……」
「余計な口はさむな!だっ、だから、見たかったら見ていいって言ってんの!文句ある!?」
「ねーよ!てか、俺の首を絞めながら言う事じゃねぇ!放せって!」
ツンデレ全開だな。素直になったと思ったら、すぐに照れ隠しで口調も強くなるんだし。それで人に当たるのは止めてほしい。マジで死ぬわ。
「わーい、ありがと!有咲!」
「……ふん。けど、一瞬だけな?ほら、ケースはそこに――」
「もう開けようとしてますが」
「はぁ!?お、おま、人話聞けよ!」
蔵の奥の方で大切に保管されていたケースを、香澄は大事そうに抱えて外まで持ってくる。オークションに出したからか、保存はしっかりとしているみたいだ。
香澄は慎重に地面に置き、ケースのロックを外して中を見る。あの時と変わらない、深紅の星。香澄の心を掴んで魅了した、ランダムスターがそこにはあった。
「ギター、ギター……!わぁ、すごい!また会えたね、ランダムスター!」
「やっぱいつ見ても、かっこいいな。このデザインがたまらないよな」
「はい、終わりー。ってか、お前まで見ていいなんて誰も言ってねー」
「何でだよ。てか、もう少し見せてやってもいいだろ。手伝ったんだし」
「うっさい」
ひどくないか、こいつ。問答無用でケースを閉じられ、そのまま没収される。
「でも、見せてくれただけでも私は嬉しいよ、なーくん。それに、ありがと有咲。ランダムスター、いい人に貰われるといいね」
愛でるように、有咲の抱えるケースをなでる香澄。簡単に言ってのけているが、都合よく割り切れる物じゃないはずだ。今、香澄はどんな気持ちで、その言葉を口にしたのか……。
「……何で、そんなにこのギターにこだわるわけ?あんた、バンドやりたいんでしょ?こんなギターじゃなくても、他のギターだって演奏はできるんじゃないの?何でもよくね?」
確かにな。ギターと言う、演奏道具としての立ち位置で考えるなら、有咲の意見ももっともだ。音を鳴らして、弾くことだけを求めるのなら、どんなギターだろうと構いはしない。
だがな、楽器はそんな軽いものじゃない。もっと奥深い物なんだ。楽器にもいろんな種類があるように、ギター一つとったとしても、一つとして同じ楽器は存在しないんだからな。それぞれに特徴があって、個性があるんだ。
それに、香澄にはそんな理屈以上に、思い入れがある。
「んー……そうかもしれないけど、星のシールを追いかけて出会ったギターだから、何て言うか、上手く言葉にできないんだけど……」
「運命、って奴か?」
「そう、運命!何かね、運命なんだよ!私、そんな気がしてる!このギターと出会ったことが、運命だって!」
そのギターも星の形。星に勇気づけられ、歩み続けた香澄にとって、これ以上ない運命だ。
「それだけじゃないよ。ランダムスターに出会って、SPACEでライブ観て、ずっと探していたものに会えた!キラキラドキドキできるもの、見つけちゃった!」
だから香澄は、あのギターにこだわる。星のギター、ランダムスターじゃないと……香澄の言う、キラキラドキドキには出会えない。
そんな香澄の気持ちに感化されたのか、有咲が口を開く。
「……あのシール貼ったの、私」
「えっ、そうなのか?」
「お前には言ってねーよ!」
けど、あのシールを張った張本人が、こいつだったとは。そんな有咲の話は、まだ先があった。
「昔、小学生の時にピアノ習ってて、一つ曲が弾けたら貰えたの。家に帰る途中、色んな所に……多分、好きなものに貼ってたんだと思う」
さらっと言ってるけど、それでよく今まではがされずに、ずっと残っていたな……。
「ピアノ止めちゃったの?」
「中学受験。そう言う子って、結構いるし」
少なくとも、それまではピアノに打ち込んでいたわけだ。香澄はそこを追求していく。
「ね、ピアノやってた時、キラキラドキドキしてた?」
「それ……前から言ってるけど、何だよ?キラキラって」
「気にするな、香澄語だ」
「あっそ。……まぁ、ピアノはそれなりに楽しかったけど」
「そうなんだ!だったら、もう1回やってみようよ!ピアノ!」
「は?何で今から、またピアノしねーといけないんだよ?」
「だって、楽しかったんでしょ?バンドには、キーボードのパートもあるんだって、調べたんだ。だからさ!」
へぇ、なるほどな。香澄も、なかなか考えてるじゃないか。有咲をバンドに誘う切り口、掴んだみたいだ。後は、どこまでくらいつけるか、根競べだぞ、香澄。
「私、有咲とキラキラドキドキしたい!バンド、一緒にやろう!絶対楽しいよ!」
「そ、そんなの――」
「有咲もドキドキしたでしょ?私、有咲が夢中になってたの知ってるんだから!」
「う、うるせー!しつこいと、もうギター見せねぇからな!?」
「わー!ダメー!」
とは言え、まだまだ先の話になりそうだがな。俺は言い合いになった香澄たちをその場に置いて、邪魔をしては悪いからと敷地の外に出る。
「これで、有咲をバンドに引き込む可能性はできたってことだな……ん?」
俺に目に留まったのは、壁に貼られた例の星のシール。幼い時の有咲が残した、ピアノに対して前向きに努力し、そしてピアノに打ち込んでいた証らしいが……。
「……そう言うことか」
だとしたら、何て嬉しい話だ。
香澄や俺をこの場所に導き、全ての始まりを作ってくれたのは……有咲だったって事だからな。