BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
はい、すみません。思ったよりも時間がかかってしまいました。まだまだ終わりが見えない物語なので、がんばっていきます。
さて……今回は、少し1期の話から離れます。つまり、オリジナル回です。だから時間かかったのもあるんですが。
香澄たちが蔵の掃除をしている途中の、ちょっとした日常のエピソードだと思ってもらえたらいいかな。詰め込みすぎて長くなってしまったけど……。
では、どうぞ。
「はぁ!?今日は手伝えないって、どういうことだよ!?」
「ちょ、うるさい!耳元で大声出すな!」
昨日と同じように有咲の家に向かう俺と香澄。香澄は蔵の掃除の手伝い。だが、俺は別の目的があった。
もちろん、俺も掃除を手伝う必要はある。まだ昨日できなかった分が残っているからな。重い荷物は、さすがにこいつらに任せるわけにもいかないし。だが、今日はどうしても外せない用事が入ってしまった。
俺が蔵に来たのは、別の用事が入ったことに対して一言断りを入れておこうと思ったからだ。目的の場所も、ここからなら近いしな。それが終われば、すぐに出ていくつもりだ。
「今日は残りの荷物を一気に片付けるって話だっただろ!?お前がいねぇと終わんないんだけど!?こいつじゃぜってー当てにならないし!」
「そんな事ないよ、有咲!ほら、何人か集まったらもんじゃ焼きが何とかって……」
「でたらめすぎるだろ。3人寄れば文殊の知恵、だな」
「そう、それ!」
いや、まず人数が2人しか残らない時点でアウトだと思うんだけどな。それに、もんじゃって何だよ。食い意地強いな。
「言いたいことはわかったが、それでも無理だな。香澄もそこまで力ないし、こんな引きこもりじゃ戦力にもならないだろ」
「かもしんねーけど、言い方に悪意あんだろ!?」
ギャーギャー怒鳴りだしたが、本当の事だから仕方ない。まず重い荷物の件もあるし、香澄と2人じゃいつまで経っても終わらない。
「手伝えないことは悪かったよ。けど、ちょっと妹に頼まれてな。どうしても行きたい場所があるんだと」
「えっ、どこどこ?」
「ショッピングモール。一緒に行きたい店があるんだってさ」
美羽とは前からよく一緒に遊びに出かけることはある。中学の時も、休みの日は俺が付き添いに行くことも多かったし。
ま、そうやって頼られてるってのは……悪い気はしないよな。
「ふーん、お前妹もいんの?」
「私もいるよ!」
「お前には聞いてねぇ!」
こいつら、本当に仲いいな。毎日来ているだけの事はあるな。
「……はぁ。しゃーねーな。用があるなら、止めるのも悪いしな」
「あれ、意外と素直だな。もっとツンケンすると思ってたんだけど」
「う、うるせーよ!さっさと出て行けよ!」
プイとそっぽを向いて、有咲はふてくされる。もう少しかまってやりたいが、美羽との待ち合わせもある。そろそろ行かないとな。
「じゃあ、香澄。俺はもう行くよ。このツンデレの相手でもしてやってくれ」
「ちょ、誰がツンデレだ!」
「ツンデ……?よくわからないけど、なーくんがいなくても、掃除は頑張るよ!」
ツンデレわからないのかよ。
「……にしても、どうするよ。力だけが取り柄の奴もいなくなるし、今日できる事も限られてくるぞ?どっかの誰かがいなくなったせいで」
「おい、棘むき出しの発言止めてくれよ」
「ふん。さっきのお返しだっつーの」
絶対2割増しだった気がするんだが。有咲は下をべーッと出し、してやったりのようだ。可愛げのない奴だ。
「私たちにできる事だけでもやっておこうよ!そうすれば、早く終わるって!」
「そうは言っても、こいつがいねぇと結局は何もできねぇんだよ。軽いのは、もう大方片付いたし」
「そっか……。あ、じゃあさ!」
香澄が手を叩き、蔵を出ようとする俺を呼び止める。遠巻きに話は聞こえていたが、内容はよくわかっていない。
「何だよ?本当に美羽が待って――」
「だったら、私も行く!有咲も!今日は掃除も休みにして、たまには息抜きって事で!!」
「「……はい?」」
***
「……んで、毎度毎度私も巻き込まれると」
「それが香澄にかかわった奴の末路だ。諦めて受け入れろ」
「悟ったような事言いやがって……」
「何の話してるの~?」
「「今目の前にいる奴の話」」
有咲の家を出てから数分後の事。俺は急遽ついてきた香澄たちと一緒に、ショッピングモールへと向かっていた。この分だと、美羽との待ち合わせには間に合う。オプションがついてしまっているが。
けど、何となく展開は読めていた。香澄がいる時点で、一緒に行きたいとか言い出すんじゃないだろうな……とか。本当にそうなったんだが。
「それって私の話!?どんな事話してたの!?」
「あーもう、近い!ウザい!いちいち気にすんな!!」
「え~?いいでしょ、有咲~!」
「ちょ、くっつくな!暑苦しい!!」
香澄の餌食になってもらったので、とりあえずこいつに任せておけばいいか。俺に抱き着かれるのは、メンタルを削られるからな……。外だし、今も何人かすれ違ってるし。
「……お前、こんな奴の相手をずっとしてきたのかよ。そこだけ尊敬する」
「『そこだけ』と言わずに、もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」
「そう言うウザいところは、やっぱ付き合い長いと似てくるんだろうな!」
それは関係ないだろうが。互いに皮肉をぶつけあっていたが、やがて有咲はハァッとため息をつき、
「つーか、マジで意味わかんないんだけど。蔵片付けねーといけないってのに……」
「嫌だったらついてこなかったらよかっただろ」
「あ……っ、そ、そんなの1人で片づけるとか疲れるだけだし!だったら仕方ねーから、付き合ってやろうってだけだ!」
とか強がっているが、俺たちが手伝わなかったらどうしていたんだよ。弱気な事なんて言ってられないと思うんだけどな。
要するに……だ。こいつ、疲れると言いながら、ただ寂しかっただけって事なんだよな~……。
「……ははっ」
「な、何だよ。いきなり笑いだして」
「いや、お前って考えることがガキみたいだと思ってな」
「は!?何言いだしてんだお前!?」
「うん。そうやって、すぐにムキになるところとか。素直じゃないところとかも、強がってる子供って感じで――」
「ちょ、止めろ!今度言ったら、残ってる分全部掃除してもらうからな!?」
「へいへい、あ・り・さ・ちゃん?」
「くうぅっ……!マジ腹立つ!後で覚えてやがれ!」
その反応もガキみたいだな。面白い。最初は嫌な奴だと思ってたが、この短期間の付き合いで印象も変わったな。
と、言ってる間に……着いたみたいだな。ショッピングモール。美羽は入り口付近で待っていたらしく、向こうから見つけて駆け寄って来てくれた。
無事に合流できたところで、早速中へ。お目当ての店に向かうことになる……はずだったんだが。
「あれ、明日香?何で美羽と一緒にいるんだ?」
「今日、急に部活休みになっちゃって。それで美羽に誘われて、一緒に来たんです」
「そうだったんだ!あっちゃんもいたなんて、驚いたよ~!」
俺もだ。明日香の手には部活道具もあるし、本当に急だったんだな。
「それで、えっと……お兄ちゃん?何で香澄さんと一緒に?後、この人は誰?」
「事情はまぁ、歩きながら話す。で、こいつは市ヶ谷有咲。クラスは違うが、同じ学年だ」
不思議そうな顔をしていたが、まぁそうなるよな。待ち合わせしたと思ったら、知らない奴と一緒に来ているんだからな。
「う~ん、話は全然見えてこないけど……どうも、初めまして!私、花女の中等部3年の、成川美羽です!お兄ちゃんがいつもお世話になってます!」
「同じく、戸山明日香です。お姉ちゃんがいつもご迷惑をおかけして――」
「い、妹!?この子が、こいつの……!?」
「えっ、有咲それってどういう事!?」
いや、香澄には悪いけど、そのまんまの意味だと思う。
とまぁ、説明は後回しにして、まずは有咲の事を紹介する。美羽に明日香も事態はわかっていなかったが、腕を組んでいる有咲の前に立ち、ペコリとお辞儀して挨拶する。
有咲も、黙っているのも悪いと思ったのだろう。組んでいた腕をほどき、一つ咳払い。姿勢を正し、口元をフッと緩めて――。
「……ごきげんよう、成川さん。戸山さん。市ヶ谷有咲です。あなたたちの事は、お二人から聞いておりますわ」
「え、ご、ごきげん……!?」
何だこの口調は!?お前、さっきまでの勢いはどこに行ったんだよ!?
しかも俺たちには到底見せないような満面の笑み。どこか余所余所しく、愛嬌を振りまく有咲がそこにはいた。
あ、でもそう言えば前に沙綾が言ってなかったっけ?学校では静かで、大人びているって。こいつが、猫被った方の有咲ってわけだ。略して猫有咲。大してうまくなかったな。
「あ、有咲!?何か変だよ!すごく変!熱でもあるんじゃ……」
「大丈夫ですわ。それに、私は何も変ではありませんよ?」
「そこが変!だって有咲、普段はもっと話し方違う!ムスッとしてる!」
「後はすぐ照れる。チョロい」
「チョロくなんかねーよ!……あ」
「「「「あ」」」」
***
「……アッハハハ!もうダメです、ギブギブ!」
「おま、勝手に笑ってるだけだろ!」
「だってさっきの……プッ、クク……!」
「こ、んの……!兄妹そろってマジウゼェ……!」
俺は関係ないだろうが。何はともあれ、俺たちはショッピングモールの中に。目的の店に向かいながら、香澄と有咲がいる理由を美羽と明日香に話しているところだった。
「……ふ~。落ち着いたっと。何かムキになってるところが可愛いんですよね~」
「くっ、いや待て私。ここは我慢だ。またキレたら、同じことの繰り返しになるだけだぞ」
何を悟ってんだ。とまぁ、こんな感じに仕上がっている。美羽が有咲の本性を気に入り、その反応を見た有咲が苛立ってツッコミを入れ、そしたらまた美羽が……ってループ。嫌われるよりはいいと思うんだけどな。
「ねぇ、有咲!見て見て、この服!」
「……んぁ?」
「この色合いの服って、最近流行っているよね。どう?似合ってる?」
「知らねぇし」
香澄は香澄で、服屋を物色してるし。気になる服を見つけては、有咲を読んで感想を聞いていた。完全に気のない返事だったが。
「じゃあ、こっちの模様のは?」
「別に何とも」
「この服は?」
「興味ねー」
「もう!ちゃんと聞いてよー!」
香澄のやりたいことはわかってる。何か話すきっかけを作りたいだけなんだよな。有咲の方が無関心で、空回りしてはいるんだけどな……。それでも必死になる辺り、香澄の心は折れていない。
「あ!だったら、こう言うのはどう?」
「しつけーぞ。私はそんなのは……って、何だそのヒラヒラした服!?」
ロリータファッションって奴か。このショッピングモール、そんな服まで売ってる店があったのかよ。
「いいでしょ?こう言うのって、有咲に似合うと思うんだ~!」
「似合わねーよ!そんなお人形みたいな服、誰が着るか!」
「人形……。ヤバ、想像したら普通に似合ってて笑いが……」
「起こんなくてもいいんだよ!あーもう、この妹どうにかしろ!」
「いや、俺もありだと――」
「何便乗してんだ、お前!?」
ツッコんでばかりで大変だな、こいつも。相手があの二人ならなおさらか。あ、俺もか。
けど、今のこいつ……すごく活き活きしてるよな。
「えと……大丈夫ですか?市ヶ谷さん」
「大丈夫じゃねーよ……もう!道草食ってないで、さっさと目的の店行けよ!」
「それもそうだな。もう少し楽しんでいたかったけど」
「楽しまなくていい!」
「待ってました!よ~し、行こっ!お兄ちゃん♪」
美羽に腕を掴まれ、俺は美羽の後について行く。スキップでも始めそうな上機嫌で、美羽は小走りで店に向かっていた。そんな美羽の姿を、俺はほほえましく見守っていた。
「有咲、遅いよー?早く早く!」
「走るの嫌いなんだよ!あー疲れる……」
「学校来ないで引きこもってるからだろ。もっと運動しろよ」
「またそれか!遅いもんは遅いんだから仕方ねーだろ!?」
「有咲さん、あんまり大声出すと余計に疲れますよ?」
「言わせてんのは誰だよ、畜生!」
ついに美羽まで有咲をいじりだす始末。年下になめられてしまってはどうにもフォローできない。強く生きろ。
とか言ってる間に、目的地に到着。そこはフードコートの一角にあるスイーツ店だった。そんなに並んでないし、この分だと大丈夫そうだな。俺たちは最後尾に並び、順番を待つ。
「てか、この店に入るのか?妹はわかるけど、お前が?」
「俺はこう見えて、甘党だからな。全然平気だぜ?」
「そうそう!私、中学の時もなーくんと帰りによく甘いもの食べに寄り道してたし!」
「あっそ」
冷たくないか。だが、俺が甘い物好きなのは本当だ。りみにも前に話したからな。
「今日は兄妹デーって言って、この日に兄妹で来た人は限定のパフェを注文できるんですよ!」
「ふーん」
「もう少し反応してやれ」
美羽の説明によると、ここは兄妹で来店した時にだけ注文できる、特別なパフェのある店だ。大きさは通常の1.5倍ほど。だが、普通のパフェと変わらない値段で食べられる。お得な一品だ。
食べ応えは抜群らしく、前から行きたいと言っていた店らしい。しかもパフェが食べられる日は決まっているとのことで、今日一緒に行くことになった。俺も気になったからな。
「そうだったんだ。だからみーちゃん、なーくんと一緒にここに来たかったんだね」
「はい。この店には、明日香とも何回か来たことがあったんですけど、そのパフェだけは食べた事なくて。明日香もさっきその話してたから、香澄さんが来てくれて助かったって言うか」
「わーそうなんだー!今日はいっぱい食べようね、あっちゃん!」
「いや、私は……って、うわっ!すぐに抱き着かないでよ……!」
くっついてきた香澄を、明日香は手慣れた動きで押しのける。さすがは香澄の妹やってるだけあるな……。
「つか、私たち次じゃね?さっさと入らねー?」
「有咲、随分積極的だね?甘いもの食べたかったの?」
「違ぇよ!後ろに並んでいる人が困るって言ってんの!」
「と言いながら、本心はどうなんですか?」
「追い打ちかけるな!」
美羽もいじるの楽しそうだな……。しばらく遊び相手にでもなってやってくれ、有咲。
「あ、あの翔さん。美羽、あんな口きいてますけど、市ヶ谷さんって先輩なんですよね?その、失礼じゃないんですか?」
「それなら心配ないよ。今のあいつ見て、先輩らしさを感じるか?」
「え、それは……」
「ちょっと、いも――あっ、変な髪型の方の妹!何でそこでそんな反応してんだよ!?」
あ、そうか。この場に妹2人いるのか。名前で呼べばいいのに。
「ご、ごめんなさい!やっぱり失礼ですよね!」
「姉の方と違って、妹は聞き分けいいな……。わかってくれるなら――」
「いや、こいつは寂しがり屋だから、誰かに構ってもらえるのが嬉しいんだ。ん?って事は、いじられてる状況を楽しむ……もしかして、M体質?」
「バカ言ってんじゃねーぞ!?そればっかりは聞き捨てならねー!」
こいつ、ずっと大声出してるよな。よく疲れないもんだ。でも、むしろこれくらいでちょうどいいのかもしれないな。
初めて会った時に比べたら、感情を表に出す機会も増えているからな。
「ねぇ、有咲~。そんなにうるさくしたら、お店にも迷惑だよ?早く中入ろうよ?」
「な……っ、ん……!お前に正論言われると、何か腹立つな!」
香澄、ナイスプレイ。
***
「は~おいしかった~!」
「ですよね、香澄さん!兄弟がいて、本当によかったですよね~!」
「ねー!」
「……ち、ちっとも羨ましくねーからな」
「とか言いながら、急に元気なくなったのは気のせいか?」
「事あるごとに突っかかってくんな」
俺たちはパフェを堪能し、今はショッピングモールの散策中。食後の軽い運動って奴だ。
にしても旨かったな。これでもかと詰め込まれたフルーツに、その甘さを引き立てるクリーム。バニラアイスもマッチしていて、文句のつけようもない逸品だった。また来たい。
「でも、おなかいっぱいだな……。私、途中でギブアップしちゃったし」
「明日香は食が細いんだって!途中から香澄さんが1人で食べてたじゃん」
「有咲にも手伝ってもらったんだけどね。全部食べられなかったけど……」
「そこに現れたバカみたいなバケモノ兄妹。自分たちの分のパフェ食った後に、こいつらの分のパフェまで食い始めるんだからな。アホだろ」
バカだとかアホだとか、散々な言われようなんだが。3分の1くらい残った香澄たちのパフェを食べてやっただけだろ。
「えっへん」
「褒めたわけじゃねーんだぞ、妹の方」
「ほら、甘い物は別腹って言葉があるだろ」
「2人で食う量じゃなかったと思うんだけどな!」
確かに、自分たちのパフェ食べた後に、余ったパフェをたいらげたんだからな。大体……普通のパフェ基準で、2人前か?あれ、だったら案外言うほどでもないんじゃないか?
「今度来るときは他のも食べ―あれ?何だろ、この音?」
「香澄、どうかしたか?」
「何か歌みたいなのが聞こえた気がしたんだけど……」
急に香澄が立ち止まり、周りの音に耳を傾ける。歌が聞こえると言っているが、聞こえてくるのは店内に流れる軽快なBGMくらい。後は、周囲の喧騒か。
――いや、違う。かすかに、少女の歌が耳に届いた。
「あ、本当だ。お姉ちゃんが言った通り……」
「しかもこいつは……かすかにドラムの重低音も混じってるか?」
「これってバンドだよ!多分、このショッピングモールの中でライブしてるんじゃない!?」
「えっ、バンド!?」
美羽の言う通りかもしれない。何か有名なバンドを招いて、客寄せのためのライブをさせているのかもしれないな。
「気になる!行こっ、みんな!」
「賛成!大賛成!!」
「俺も見たいかな。明日香はどうする?」
「私は……まぁ、みんなが行くなら、行こうかな……?」
「えぇ~?マジかよ、面倒くせぇ。行くんなら、お前らだけで行って来いよ」
お前はブレないな。ちょっとライブしている様子を覗きに行くだけなのに、付き合ってくれてもいいんだけどな。
「そんなー!有咲も行こうよ~!」
「行かねーって言ってんだろ!」
手で払いのけるような仕草を見せ、音とは反対側に歩き出す。だが、この場にいるのは香澄だ。ちょっと突き飛ばしたくらいでは、すぐに起き上がって捕まえられてしまうぞ?
「そんな意地悪言わないでさー!あ~り~さ~!」
「泣きつくな!駄々こねた子供か!」
「香澄さん!早くしないと終わっちゃうかも!」
「あっ、そっか!急がないと!」
美羽が走り出し、香澄も後に続く。……有咲の服を引っ張りながらな。
「ちょま、だから服!てか、結局これかよー!」
断末魔と共に消える有咲。置いて行かれた俺たちは、ゆっくり後を追うことに。
「本当、美羽は音楽好きですよね……。でも、お姉ちゃんがバンドにハマるなんて、ちょっと意外だったかも」
「ま、そうだよな。バンド始めるって話、香澄から聞いてるか?」
「もう何十回って聞かされたので、暗唱できるくらいです……」
イメージできてしまうな……その場面。明日香も見えないところで、俺以上に苦労してるって事なんだよな。お疲れ様。
「明日香は、バンドには興味……ないよな。高校受験でも忙しいだろうし。羽丘だっけ?」
「そうですけど……それはそれですよ。私、バンドってどうも自分とは無縁な気がしちゃって。もっとこう、明るくてクールっぽい人がしてるイメージがあるし、私ってどっちかって言えば大人しいから。そう言うの、向いてないんじゃないかな~って」
「そっか。でも、やる気がないならともかく、向かないかどうかで決めてしまうのは、もったいない気がするんだけどな」
俺の勝手な意見だけどな、と付け足して。別にバンドを強引にやらせようってわけじゃないし、明日香がやらないと言うなら、それでいい。
ただ、その選択が自分の可能性を狭めることに繋がってほしくない……そう思っただけだ。
「もったいない、ですか……あ、ここですね」
天井が吹き抜けになっている円状の広場。そこを囲むように、観客の姿があった。それなりに観客はいる様子だ。
俺たちは2階にいるため、上から見下ろす形になる。ちょうど香澄たちも見つけて、最善咳で下の様子を見られるポジションにつけた。
「遅いよ、なーくん!あっちゃんも!」
「お前らが早すぎるんだよ。少しは明日香の事も考えろ」
「……無理やり連れられた私の事も考えてくれ」
いや知らん。美羽は演奏に熱中してるみたいだし、会話に入ってくる様子はない。
が、その気持ちもわかる。耳に入るロック調のリズムは、どのパートをとっても安定感がある。歌声を引き立て、熱情が呼び覚まされるようだ。客を集めるだけの理由が、今ようやく分かった。
このバンド、実力は確かだ。それに、長年培ってきたような信頼……絆。そんな言葉で言いくるめるのも無粋な、息の合った連携がよく目立つ。
そして何よりも――。
「えぇ~?有咲嫌なの?すごくかっこよくて、ドバーッてしてるのに!」
「日本語で頼む」
「あっ、あっちゃんも見てよ!私の言ってること、わかると思うから!」
「はいはい。じゃあちょっとだ――っ!?」
眼下を見つめる明日香は、そこに広がる景色に驚きを隠せないでいた。それもそうだろう。この音を奏でていたのが……俺たちとそう歳の変わらない、5人の少女だったからだ。
豪快にドラムを叩く赤のロングヘアの少女。ベースとキーボードの少女は、可愛げのある風貌だ。ギターの少女は、どこか独特なマイペースを貫いている。だが、演奏自体は申し分ない。
そして、その中心にいるギターボーカル。赤のメッシュを入れ、ギターの音色と共にその歌声を響かせる。力強さを兼ね備えたクール性を持ちながらも、どこか幼く少女らしさを残している。
これが、ガールズバンド。俺は改めて、その姿を目に焼き付けていた。
「すごい……あの子たちも、バンドやってるんだ……!」
「かっこいいな~!明日香も……あれ、明日香?」
明日香を呼ぶ美羽の声。だが、それに反応を返すことはない。目の前で繰り広げられている演奏に、明日香は魅了されていた。
俺や香澄、美羽との驚きや興奮とはまた違う。そして、どこか見覚えのある眼差し。
それこそ、あの時の星空が見せた高鳴りのような何か。まさか、明日香は――?
「――ありがとうございました!Afterglow(アフターグロウ)でした!」
演奏が終わり、彼女たちは控室のテントに戻っていく。割れんばかりの拍手も起こり、大絶賛みたいだ。
それだけの演奏をこなす彼女たち……アフターグロウか。俺もまだ知らないガールズバンドがいるんだな。
「あれが、バンドなんだ……」
「あぁ。バラバラの音が一つになって、生まれた音色が誰かの心を動かす。音楽って、そう言うもんだ」
「かっこよかった。私も、あんな風にライブしてみたい!バンド組んで、一緒に!キラキラドキドキの音、奏でてみたいよ!」
ギターを鳴らすように、香澄は体の前で腕を動かして見せる。あれだけの演奏を見せられて、黙っていられるような性分ではないだろうしな。
「……で、何でお前は私の方を見る?」
「有咲もやろうよ!バンド!」
「もうその下り飽きたっつーの。バンドはやらねぇからな」
「いいじゃないですか!有咲さんも香澄さんに協力してやってくださいよ!」
「こいつまで!?ちょ、何を言われたところで、私はぜってーにやらねぇからなーー!?」
有咲が二人からバンドの勧誘を受け、必死で逃げている光景。見慣れたような場面が広がる中で、俺は一人、違う方に目を向けていた。
香澄がバンドへの熱をもらい、その炎を高ぶらせている横で。
「…………」
静かにバンドへの熱を呼び覚ましている者がいる事を、俺は見逃してはいなかった。