BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!1週間も間が空いてしまいました……すみません。

さて、さっきUAを確認したら、何と10000を突破しておりました!ありがとう!こんなにたくさん読んでいただいて嬉しいです!これからもよろしくお願いします!

と言うわけで、今回は有咲と喧嘩別れしたところからですね。が、1期とは展開がかなり違ってます。
そして今までで一番長くなりました。俺なりにかなり力を入れたので、見ていただけると嬉しいです。

前書きが長くなってしまうのは悪い癖ですね……。さぁ、本編に行きましょうか。


phrase24 素直な気持ち

「どうして、有咲があんな……」

 

有咲がいなくなってからの事。香澄はたえと一旦別れ、俺たちのところに戻ってきた。一瞬俺と目が合ったが、よくない状況を察したのか、たえは空気を読んでその場を離れてくれた。

 

どうして有咲が。香澄の中で、まだその質問に対する答えは出ていない。

 

よく言えば、それは香澄がギターに真剣に向き合っている証拠。悪く言えば、そのせいで周りに目を向けられていない証拠。

 

香澄はひどく落ち込み、さっきまであんなに楽しそうに話していたのが嘘みたいにしぼんでいた。

 

「……わからないか?」

 

「えっ……なーくんは、わかるの?」

 

「わかるよ。りみも気づいているし、沙綾だって何となくわかってる」

 

りみと沙綾が頷く。この場でわかっていなかったのが自分だけと知り、香澄は目を見開いていた。

 

「みんな、わかってるって事……!?」

 

「あぁ。香澄は、周りの事が見えていないんだ。今の香澄は、自分の事しか見えていない。真っすぐになれる姿勢は、確かに香澄のいいところだ。けど……こうなることだってある」

 

勢いが先走り、その結果すれ違いが起きてしまう。今の香澄と有咲は、そんな状態だった。

 

どちらも悪気はないのに。関係を壊したいなんて、心から思っているわけないのに。

 

「香澄は、有咲の気持ちを考えたことはあるか?」

 

「有咲の、気持ち……?」

 

「あいつは、お前を待ってる。バンドやりたいって、そのために頑張ろうとしている香澄の事を、待っててくれてるんだ」

 

香澄にとっては、わかっているのかもしれない。けど、わかった『つもり』になってるかもしれない。だから俺は、教えてあげないといけない。香澄のために。

 

「あいつは、香澄と出会って変わり始めてる。最初はろくに口も聞かなかったのに、今は全然違う。それは、有咲にとって香澄が信頼できる相手で……何だかんだで大切に思ってるからって事じゃないのか?」

 

「有咲ちゃん、いつもはバンドに興味ないって言ってるけど、本当はあるんだよ?それは多分、香澄ちゃんの影響じゃないかな?私も、香澄ちゃんのおかげでバンドやりたいって思えたから」

 

そうだ。本当は、辛かったはずなんだ。この場を離れる事も、香澄を裏切るような真似をする事も。戸山さん、と名前を呼んだ事も。

 

 

自分から、香澄との関係をなかった事にしたことも。

 

 

「そ、それは私だってわかってるよ……。有咲、素直に話してくれないけど、初めてライブ観に行ったとき、すっごくキラキラしてて……楽しそうだったんだ」

 

「だったら、もっと有咲の事見てやれ。あいつ、香澄の事を待ってるんだ」

 

「私を……」

 

一緒に練習したくて、たまらないんじゃないのか?あのキーボードだって、そう言う事なんだろ?有咲……。

 

「香澄ちゃん、この頃ずっと花園さんと一緒だったから……寂しかったのかも」

 

「ま、要すんに軽いやきもち。拗ねて飛び出して行っただけだ」

 

「そ……それじゃあ私、どうすれば……」

 

「決まってるだろ。香澄がちゃんと謝れば、許してくれるから」

 

「あ……」

 

香澄の中で、靄がかっていた疑問が晴れていく。次に何をするべきか、その答えもハッキリと見えてくる。

 

「……私、ダメだね。自分がよかったら、それでいいって。知らないうちに、そう思ってたのかな」

 

「わからない。けど、これで香澄はわかっただろ?なら、もう大丈夫さ」

 

「……うん、ありがとう、なーくん。私、有咲の事何にも考えてなくて、自分しか見えてなかったから……待っててくれたのに。……私、結局こうなんだ」

 

何も知らなかったから、失敗してしまう。失敗を知れば、きっと次は間違えない。香澄なら大丈夫だ。

 

「だったらさ、香澄。今日こそは課題終わらせて、市ヶ谷さんのところに行った方がいいんじゃないかな?」

 

「さーや……そうだね。おたえには悪いけど、私は有咲と話をしないと。このまま有咲とずっと離れ離れになるの、私嫌だから!」

 

香澄の声色に、活力が戻っていく。ようやく、香澄らしくなってきたわけだ。

 

問題は有咲だ。あの様子だと、素直に聞いてくれるかも怪しい。こう言うところは頑固っぽいからな……。

 

「……りみ」

 

「えっ?何かな、翔君」

 

「香澄が話をつける必要があるのはわかってるが、それまで何もしないわけにもいかない。俺たちも、できる限りは説得してみよう」

 

「うん……そうだね」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

どうして、私はこんなにもイライラしているのだろう。

 

「…………」

 

決まってる。全てはあいつのせいだ。あいつが、私の事をないがしろにしているからだ。

 

「向こうから振り回しておいて、結局これかよ……」

 

戸山香澄。最初に会った時から、変な奴だと思ってた。

 

いきなり蔵に現れて、勝手に人のギターに触るどころか、無許可で持ち出す始末。どんな教育受けたら、あんな風に育つのか。一度親の顔が見て見たい。

 

そこから無理矢理ライブハウスに連れ込んで、ライブを見せられて……。キラキラドキドキだっけ?意味不明な事言って、私をバンドに誘い込んできた。

 

そんなの知らねーし。私、そんなのに興味ねーし、面倒だし。大体、香澄と観たライブだって、何が楽しくて目を輝かせてたのかもよくわからなかったし。

 

 

『気づいてる?有咲も、あのライブ観てすっごく夢中になってたんだよ?』

 

 

「……っ!」

 

そんなわけない。あの時の香澄の言葉は、ただの数合わせ稼ぎに過ぎない。別に私なんて、バンドに情熱があるわけでもねーのに。

 

もっと適任な奴がいて、キーボードだって上手な奴とかいるだろ。それなのに、私を引きずり込んで、その気にさせて……挙句の果てに私を放っておくのかよ。

 

 

でも……あいつのバンドへの思いは。

 

 

「…………」

 

あぁ、くそっ!何でこうも香澄の事しか考えられないんだよ!あんな奴の事、どうでもいいはずなのに!

 

「……い……りさ」

 

 

なのに、どうしてあいつの、香澄の事を考えると……。

 

 

「ちょ……て、あ……」

 

 

こんなにも、胸の中がモヤモヤするんだよ……っ!

 

 

「聞いてるのかよ、有咲!」

 

「……っ!?」

 

誰かに肩を掴まれた。ここは人通りの多い放課後の廊下だ。私は大声を挙げそうになるのを制し、後ろを振り返る。

 

「やっと気づいたのか。呼んでも無視。目の前横切ってるのにスルー。さすがにそれはないだろ」

 

「……翔か。それに、牛込さんも」

 

言われてみれば、ここはA組の教室の近く。こいつらがいてもおかしくないのか。

 

香澄は……いないみたいだな。その事にほっとしている自分と、なぜか悲しんでいる自分がいる。

 

「何の用?練習の事?それとも他に何かある?」

 

「あの、有咲ちゃん。今日の練習についてなんだけど……」

 

「やっぱりな。別に、勝手に使ってろよ。私は自分の部屋にいるし、どうせ今日も二人だけだろ?」

 

「……いや、香澄も来るぞ。今日は課題を終わらせるって、約束したからな」

 

早めに話題を切り上げようと、私は適当に返事して歩き出す。翔が余計なことを言ったせいで、すぐに立ち止まってしまったが。そんなもの、無視すればよかったのに。

 

「……香澄?誰だよ、そいつ」

 

「有咲……!冗談もいい加減にしろよ。戸山香澄だ!」

 

「うるさいって。ここ廊下だけど?」

 

周囲がざわつき始め、翔も口を紡ぐ。こいつも、何必死になってんだか。そんなに幼馴染の女の子が大事ですか。

 

「で……あぁ、戸山さんね。あいつはもう、蔵の中には入れねーよ?」

 

「えっ!?ど、どうして、有咲ちゃん!?だって、あのキーボードは――」

 

「入れないって言ってるでしょ?何回も言わせないでくれない?」

 

牛込さんにも強く当たってしまった。それだけ、私の中でいら立ちが募っている証拠だった。

 

『香澄』と、その言葉を聞くだけで。前は何もなかったのに。心地よい鈴の音色のような、そんな響きだったのに。

 

「有咲、香澄を入れないってどういうことだよ。あいつとバンドするんじゃなかったのか?」

 

「何それ?戸山さんが勝手に言ってるだけでしょ?私には関係ねーよ」

 

「その勝手なわがままに、お前も付き合ってみようって思ったんじゃないのか?だから香澄と――」

 

「……っ、あぁもう!うるせーんだよ!香澄香澄って……その名前を呼ぶな!もう、どうだっていいんだよ!!」

 

我慢できず、私は強く吐き捨てる。さっきから香澄ばっかり……神経に障る。

 

が、気づいた時にはもう遅かった。首位から怪訝な目を向けられ、私は耐え切れずにその場を逃げ出す。

 

「あっ、ちょ……待てよ有咲!」

 

「翔君、追いかけないと!」

 

「あぁ。けど、りみは残れ。香澄の事もあるし、課題終わるまで待って、そのまま合流してくれ」

 

「うん。翔君、気を付けてね」

 

「わかってる!」

 

生徒の波をすり抜け、私は何とか昇降口へ。靴をすぐに履き替え、校門の外に出る。

 

そのまま走り続け、ある程度学校から離れることができた。これなら、もう大丈夫か。

 

「これで少しは――っ!?」

 

「待てよ!話はまだ終わっていない!」

 

「ち……!私には関係ねーんだよ!しつこいと、お前らも蔵に入れねーぞ!」

 

思っていたよりも、追い付くスピードが早い。私は逃げ続けた。普段使わない裏道や慣れない脅し文句まで使って、それでも追いかける翔から逃げた。

 

すれ違う人はどうでもいい。しつこくつきまとうあいつから、逃げられるのなら。

 

 

香澄の事で私を惑わせようとするあいつから……逃れたかったんだ。

 

 

「……はぁっ、やっと家かよ」

 

気が付けば、もう家の前にいた。こんなにも疲れて家に帰るのは久しぶりだった。

 

門をくぐり、息を整えながら家に入ろうとした時だった。

 

「……待てって、さっきから言ってんだろうが。有咲」

 

膝に手をつき、翔が家の門の前に立ったのは。私を気にもせず、ズケズケと家の敷地に入ってくる。

 

まるで、香澄と初めて出会った時のようで……。

 

「……っ。まだ追いかけてくるのかよ。しつけーぞ」

 

「そうさせるのは、お前が素直じゃないからだ。変な強がり言って、香澄を避けようとして、それが本心じゃないんだって見え透いてる。望んでもない事しやがって」

 

「はぁ?何だよそれ。まるで私の事が分かったような口ぶりだな?」

 

「当然だ。見てたらすぐわかる。お前、感情が表に出やすいからな」

 

適当な事言いやがって。こっちを言いくるめようとして言ってるだけだろ。あいつの言う事なんて、気にする必要なんてない。

 

「香澄と一緒にいる時のお前、活き活きしてるからな。あのキーボードだって、その気持ちの表れじゃないのか?」

 

「そんな事……」

 

「それに、お前が一番よくわかってるはずじゃないのか?本当は香澄と一緒にいたいんだろ?この数週間、楽しかっただろ?だから、いつも香澄の傍にいる」

 

「そんな事……っ!」

 

「香澄から逃げる必要がどこにある?自分を偽って、見せたくもない自分を演出して、それが香澄を傷つけてるんだって、どうしてお前は気づくことができないんだ!?」

 

「……っ、わかったような口ききやがって!香澄が好きだぁ?逃げてるだぁ?自分を偽ってるとか……そんな事、勝手に決めつけてんじゃねーよ!!」

 

大声で当たり散らし、抑え込んでいる感情を爆発させる。さっきから黙って聞いていれば、調子のいいこと言いやがって。

 

私にはもう、関係ないんだ。香澄なんて、赤の他人でしかない。バンドもしないし、話すことだって何もない。

 

私の声が気になり、家からばあちゃんが出てきたが、それを制して中に戻す。ここは翔と話をつけておきたいんだ。こいつは、どうせ何があっても引き下がるつもりはないだろうし。

 

私は翔に視線を戻し、真っ直ぐに眼光を送って――。

 

「……決めつけている、だと?」

 

その瞬間、私は翔のトーンが低くなるのを聞いた。そして向けられる、私への目つき。

 

怒っているのか。悲しんでいるのか。だが、どこか喜んでいるようにも見える。矛盾した感情を察知した私は、翔が今私に対して何を考えているのかわからなくなってしまう。

 

 

その目は、一体何なんだよ……?

 

 

「……お前、俺たちが初めて出会った時の事、覚えているよな?」

 

「忘れるわけねーだろ。うちの所有物を泥棒しようとした極悪人と、意味わかんねーライブ観ることになったろ」

 

出会いは最悪だった。そんな奴と、これからも関係を持っていこうとする方がおかしいだろ。私は別に、何も間違ってない。

 

「あの時のお前は、とにかく冷めていた。全然笑わないし、無愛想で面白くないし」

 

「……散々な物言いしやがって」

 

「極めつけは、お前のあの質問だ」

 

「……質問?」

 

「何で女子校なのに、花女の制服を着ていたか。有咲、確かにお前はそう俺に聞いたはずだ」

 

そう言えば、そんな事も聞いた気がする。結局聞きそびれて、後から事情は知ることになったんだ。こいつが特務生扱いで入学したって事。

 

「その話が何だよ。別に、今は関係ねーだろうが」

 

「関係あるさ。それに、俺にあの質問をしたこと自体おかしいんだ。俺の事は、入学式の時に全校生徒の前で知らされているはずだからな。中等部の生徒にもだぞ?……知らないはずがないんだよ」

 

今の話を聞く限りそうかもしんねーよ。女子校に一人、男子生徒がいるなんて、有名人どころか歴史に名を遺すくらいだ。

 

 

けど……見えない。こいつは今、どうしてこの話をしている?

 

 

「俺たちが有咲と会ったのは、それからしばらくしての事だ。もう俺の事は、普通に認知されてる時期だ。なのに、どうして俺を知らなかった?学校に行っていれば、すぐわかる事なのに」

 

「……それが、どうしたんだよ」

 

意味が分からない。この期に及んで過去の話か?それで香澄との馴れ初めでも語り聞きさせて、香澄への気持ちを再興しようとでも言うのか?

 

「くだらねーんだよ!昔の事を並べ立てて、それが何になるんだよ!お前を知らない話とか、別にどうだっていい!」

 

「…………」

 

「どうせ香澄の話に持っていくだけの、前座なんだろ!?そうやって心揺さぶって、何とかしようってわけだ。笑えるな。そんなもんに何の興味もねーよ!」

 

「……あぁ、そうだよな。だったら、単刀直入に言ってやる」

 

冷たい風が吹く。そんな中、向かい合った翔は静かに言い放つ。

 

 

「有咲。お前は……学校に行かないことが、当たり前になってたんだよな」

 

 

翔の言葉が、私に深く突き刺さる。自覚はしていたのに、何故か痛い。底冷えするような何かが、私の中を駆け巡る。

 

「いじめとか、そう言う話じゃないんだろ。けど、ずっとお前は一人だった。それでいいんだって、自分に言い聞かせていたんだろ。お前、人付き合いとか苦手そうだからな」

 

「…………」

 

 

あぁ、そうだ。私は一人だった。家でも学校でも、いつも一人。それが普通だったんだ。

 

 

別に仲間外れにされてるわけじゃない。学校でも、声をかけられることはあるから。でも、私はいつからか学校に行く回数を減らし、一人になっていった。

 

 

それは、私が他人と接することが苦手だったから。

 

 

小さい時から、ずっとだった。どうしても他人行儀になってしまって、本音で話ができない。偽りの自分を演じて、仮面をつけて……そんなんで、上手く付き合いを重ねるなんてできるわけねーだろ。

 

それに、周りも気まずくなってしまう。当たり障りのない、何の面白みもない返答しかしないから。最初は普通でも、すぐにどこかぎこちなくなってしまうんだ。

 

そんな自分を見るのが嫌で、気まずい空気になるのが嫌で、私は他人から距離を取った。一人の方が気楽だって気づくには、そう時間もかからなかった。

 

誰とも言葉を交わさなくても、一人だってやっていける。最小限の行動さえとっていれば、何も困ることなんてない。そう言い聞かせて、私は今こうしているんだ。

 

「一人になる生き方を選んで、ずっと閉じこもっていたんだ、お前は。自分の世界の方が、何も考えずにいられるから。満足できるからな」

 

「……別に、一人でいる事なんて平気だし。私が望んで、こうしようと思ってるんだ。周りに合わせて生きるほど、私は器用でも何でもない」

 

「それは、本当にお前の望みなのか?」

 

「そう言ってるだろ。私は、今のままで十分なんだ。だから……放っておいてくれ。このままでいたいんだ」

 

単位も落とさない程度には学校には行っている。成績だって、今も学年でトップをキープしているんだ。

 

一人でも、距離をおいても、それが悪影響にならないのなら問題ない。誰にも文句を言われるような生き方は、私はしていない。

 

一人でいる事が間違いなのかよ?もっと周りと協調性を持って、仲良くして……それが普通なら、そうするしかないのかよ。出来ない奴の気持ちに立って、一度考えてみてくれよ。

 

 

私は……今のままでも平気なんだよ。

 

 

「……俺には、そうは思えない」

 

「……っ!?」

 

なぜ。私は言ったはずだ。なのにそれでも、否定して言葉を重ねようと言うのか。

 

「私が……っ、平気だって言ってんだろ。何否定してんだ」

 

「否定するさ。あの時の有咲は、寂しそうだったからな。今の自分が、心のどこかで満足していないことに気づいてるみたいだったから」

 

「な……っ!?」

 

さっきとは違う質感を持って、翔の言葉が私を満たしていく。心をわしづかみにされたような、強い衝動を感じた。

 

「言っただろ。お前はわかりやすいんだって。ずっと一人で、冷めてて、だから悲しそうだったんだな。キラキラドキドキなんて、してなかっただろ」

 

「それは、香澄の……」

 

「そうだ、香澄だ。お前を変えてくれたのは、他でもない香澄なんだ。強引に引っ張り出して、外の世界を見せてくれた。そこには、お前の知らなかった世界が、喜びが……たくさんあったんだ」

 

「私が、香澄に……?」

 

「一緒に昼食べたり、話したりする楽しさ。誰かと過ごす時間の充実さ。香澄はあんな奴だけど……大切な物を持ってる。そいつを共有して、お前は変わったんだ。確かに」

 

変わった、だって?そんな事簡単に言ってくれるよな。

 

あんな奴、鬱陶しいとしか思えない。こっちの気持ちなんか何も考えないで、バンドするとか言いやがって。ずっと振り回して、自分の事だけで……。

 

何もいいことなんてなかったはずだ。ギターもあいつのものになって、やりたくもねーライブに無理に付き合わされて。そんなの、こっちが大損してるだけじゃねーか。

 

そんな厄介者が、私を変えてくれた?何を言い出すんだよ。あいつは、私の事を邪魔しただけなんだ。迷惑でしかなかったんだ。

 

引っ張ってくれって誰が頼んだんだよ。外に連れ出してくれなんて、いつ言ったって言うんだよ。私は、あいつの事なんか――。

 

 

『有咲―、お待たせー!』

 

 

『よかった~。早退したって聞いたから心配しちゃった。朝もなんか変だったし』

 

 

『ごめん、ちゃんと持ってなかったから……!本当にごめん……!』

 

 

『すごい……すごいすごいすごい!すごい、鳴った!すごい、すごい!』

 

 

何だよ……。何なんだよっ!?どうして……っ、あいつの事ばかり頭に浮かんでくるんだよ!?こんなの――。

 

 

『気づいてる?有咲も、あのライブ観てすっごく夢中になってたんだよ?』

 

 

「……!」

 

 

『有咲、ツンケンしてるけど……音楽が好きなんだなって気持ちは、伝わってきたよ。そんな有咲とだから、私は有咲とバンドがしたいんだっ!』

 

 

「バンド……」

 

 

違う、そうじゃない。本当は……。

 

 

「けど、お前はその喜びを邪魔されようとしている。それで無意識に、怒りが芽生えるようになったんだ」

 

「邪魔って……」

 

「花園たえ。香澄が、自分とは違う人と仲良くなっているのを見て、置いて行かれているように思ったんだよな。だから寂しくて、どうしていいかわからなくて、つい香澄に突き放した態度を取ってしまったんだよな」

 

そうだ、嬉しかったんだ。バンドに誘われて、私を必要としてくれて。

 

だからその気になって、キーボードも買って。あいつのために、何でもいいから力になってやりかった。

 

 

あいつといると、楽しかったから。

 

 

「……悔しいけど、翔の言う通りかもしれないな」

 

でも最近の私は、香澄の中で必要とされていないんじゃないかって思ってた。他の人と仲良くなって、ギターだって上手くなって。どんどん先に進んで行くのに、私だけが取り残されているようで……怖かった。

 

昔なら、きっと思いもしなかった。1人でいる事に、ここまで恐怖を覚えるなんて事は。だから、香澄に私の事を見てほしかった。

 

蔵での練習も忘れて、私の事もそっちのけで。今日の昼休みだって、勝手に私の前からいなくなったんだ。

 

……って、何だよ。それって嫉妬じゃねーか。私って見苦しいな……。

 

「有咲がそう思うのなら、もっと素直になれ。香澄から逃げるな」

 

「…………」

 

「今逃げたら、また繰り返しだ。それでいいのか?いや、よくないだろ?わかっているはずだ」

 

「…………」

 

「あの時からお前は、変われたんだ。そんな自分を否定するな。香澄によって変わった、自分を誇れ」

 

「……っ!」

 

何だよ、こいつは……。私なんかのために、ここまで言ってくれるなんて。マジで、香澄みたいじゃんか。

 

嫌だと言ってもすぐに先回りして、必死に腕を伸ばして私の事を掴もうとする。逃げても逃げても、引き込もうとして明るい言葉を向けてくる。

 

でも……その眩しさが、私には羨ましかったのかもな。私は、自分から他人の腕を振りほどいたから。それでも腕を取ってくれる、香澄のような奴に……私は心のどこかで、憧れていたんだな。

 

 

それは、翔も……。

 

 

「翔君、有咲ちゃん!」

 

「遅かったな、りみ。それに……」

 

その声で、ハッと現実に引き戻される。そこには、息も絶え絶えに疲れが見えている牛込さんが。ここまで走ってきたのか。

 

 

そして、その後ろには……。

 

 

「有咲……!」

 

 

私が今、一番顔を合わせたくないと願い、そして一番顔を合わせたいと願う張本人……。

 

 

「……香澄」

 

 

私を変えてくれた、戸山香澄が……そこにはいた。

 

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