BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
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では、どうぞ!
「え?今日はギターの練習はいいの?」
「うん。ごめん、おたえ。私、この課題終わらせて行かなくちゃいけないところがあるんだ……」
時は遡って家庭科室。香澄はおたえに事情を話し、課題に集中したい旨を伝える。どうしても、今日だけはギターと向き合うわけにはいかなかった。
他に向き合うべき相手が、香澄にはいる。彼女の元へ、急いで向かわなくては。
「……もしかして、今日のお昼休みの?」
「うん……。私の大切な友達なんだ」
そう、大切なんだ。なのに私は、どうして気づくことができなかったんだろう。
いつも通りに見えていただけで、本当は違っていたんだ。もっとちゃんと、有咲の事を見ていたら……。
「だから、今日はごめん……。ギターはまた、時間ある時に教えてほしいんだ」
「そんなの気にしないで。ギターならいつでも練習できるけど、あの子の事は今じゃないといけない。そうなんでしょ?」
「早く行って、直接謝らないといけないんだ……。私のせいで、悲しませちゃったから」
「だったら、早く終わらせようよ。私も今日は、課題モードで行くから」
「おたえ……ありがと」
自分が周りを見ていなかったせいで、有咲は。私の頭の中には、申し訳なさと自分への情けなさが隙間なく満たされていた。
早く会って話がしたい。まだ何を話すかなんて決めてないけど、有咲と仲直りはしたい。許してもらえるかは分からないけど、謝りたいんだ。いつまでも、有咲とあのままは嫌だから。
こんな形で傷つけて……私、最低だな……。
「さぁ、香澄。早く始めよう。時間がないんでしょ?」
「……うん!」
私たちはすぐにナップザック作りを始めた。言葉は交わさず、手元の作業に集中する。単調な工程の繰り返しで、根を上げそうになってしまう。
けど、そんな事は言ってられない。私は何度も喝を入れ、弱りそうになる気持ちを奮い立たせる。有咲の苦しみに比べたら、こんなの何ともないんだ。
「……よし、できた」
それから十分ほど。私はようやく、ギターケースを完成させた。ギターに気を取られていなかったら、こんなにも早く終わっていたなんて。
「それ、貸して」
「おたえ?」
「ギターケース。私も終わったから、香澄の分も出しに行ってくる。……待っているんでしょ?」
おたえは手を差し出して、私を待っている。私の事を気遣ってくれたことが嬉しくて、思わず抱き着きそうになるのを我慢する。
私はすぐにギターケースをおたえに託し、荷物を持って家庭科室を出る。走ってはいけない廊下を全速力で駆け抜け、すぐに昇降口に。靴を履き替え、校門を抜け出した。
「有咲、待ってて……!今行くから……!」
「香澄ちゃ~ん!」
と、私の事を呼ぶ声が聞こえて、辺りを見渡す。近くの電柱から顔をのぞかせ手を振るのは、りみりんだった。私は急ぐ気持ちを抑えて、りみりんの元に向かう。
「りみりん!課題、終わらせてきたよ!今から有咲の家に……!」
「私も、香澄ちゃんが来るの待ってたんだ。翔君、先に有咲ちゃんを追いかけて行ったから、多分家にいるんだと思うけど……」
「なーくん……!うん、急ごう!」
りみりんと合流して、私はまた走り出す。有咲に会いたい。話がしたい。そんな私のために、何かしようと動いてくれる人がいる。ぐるぐるとせめぎ合う気持ちが背中を押し、スピードは上がっていく。
何を話せばいいのか。何を伝えたら、許してくれるのか。どんな思いで向き合えば、私の気持ちは届いてくれるのか。
どうしたら、有咲はまた、笑ってくれるのか。
「…………」
「かっ、香澄ちゃん!もうすぐだよ!」
後ろから必死についてくるりみりんの声で、私は今、有咲の家のすぐ近くまで来ていることに気が付く。
結局、悩んでも答えは出なかった。話す事は何も決まらなかった。
「翔君、有咲ちゃん!」
「遅かったな、りみ。それに……」
有咲の家の門をくぐり、私はすぐに二人の姿を視界に捉える。
ようやく会えた。会って話がしたかったんだ。そんな有咲の表情は、何か吹っ切れたようにも見える。ここに来るまで、なーくんと何かあったのかもしれない。
「有咲……!」
「……香澄」
私は切れた息を落ち着かせてから、有咲に近づく。でも、いざ目の前にしても、言葉は上手くまとまらない。
悪かった事、許してほしいこと。これからも仲良くしてほしい事。言いたいことはたくさんある。それをうまく言葉にすることが、難しいんだ。
なら、どうすればいい?
「…………」
そんなの、決まっている。考えてもダメなら――。
「有咲……」
そのままの気持ちを、ぶつけるしかない。
「ごめん、有咲!私、有咲の事、ちゃんと見てなかった!」
「…………」
「何にも考えないで、自分の事で精一杯になってて……!有咲が離れるまで、有咲の気持ちに気づいてあげることもできなくて……本当にごめん!待っててくれたのに……」
昔から、考えることは苦手なんだ。ウジウジしてても仕方ない。頭の中に浮かんだ言葉の一つ一つを、そのままぶつけていくしかないんだ。
「これからは気を付けるよ!約束する!!」
「……香澄」
「だから、有咲……許してよ。私、このまま有咲と一生仲良くできないなんて、無理だよ……。耐えられないよ……っ!」
感情が爆発し、思わず膝をついてうなだれる。頬を熱いものが伝い、視界もぼやけてよくわからない。胸の奥も、何だか痛いんだ。
伝えられることは、全てをさらけ出して言い切った。それでダメなら……考えたくない。
でも、私はきっと諦めないんだと思う。そんな事できないし、認められないから。許してもらうまで謝り続ける。それでもダメなら、何度でも。
だって私……有咲といるのが、楽しいから。
「……契約違反」
「えっ……?」
ポツリと、有咲がつぶやく声が聞こえて、私は顔を上げる。何かを堪え、私を見下ろしている有咲が、そこにはいた。
「一緒にお昼食べるって言ったのに、どっか行く……!うちで練習するって言ったのに来ない……っ!」
「ごめん、有咲……」
「私の事放っておいて、すぐに違うところに行って……っ!バンドやりたいんだろ!?その気にさせておいて、適当に振り回すんじゃねぇよ!ちゃんと、最後まで責任取れよ……」
何かが、私の髪を濡らした気がした。拭き取ってはいけない、冷たい雫だった。
「もうしない。放っておいたりなんかしない!私バンドやりたいんだよ!有咲と、一緒に……!」
「……なら、もう一度契約。ってか、お願い」
「お願い……?」
「もう少し、いやほんの少しだけでいい。私と……これからも仲良くしてほしい。友達で、いてほしい」
有咲は横を向いてしまったから、顔は良く見えなかったけど……それって……!
「そしたら、蔵も使わせてやる。不本意だけど、バンドだって――」
「う、うん!そんなの、仲良くするに決まってるよ!それに私たち、最初から友達でしょ!」
「え……!」
改まる事でも、何でもない。私は最初から友達のつもりで。これからも友達の関係でいたいんだ。
離れそうになって、また戻ってきてほしいと願ったのは私なんだ。頼むのは私の方なのに。
「……ったく、お前は、もう、本当……っ!どうして、こうも変な事ばっか言いやが……あ~もう……っ!」
涙声になる有咲を見て、私も泣きそうになってしまう。必死に顔を隠し、目元を見せまいと躍起になる。
でも、一瞬見えた口元は、ほほ笑んでいて……。
「……ありがと、有咲」
「はっ、何がだよ……。感謝するのは、こっちだってのに……」
「えっ、それってどういう……?」
「べ、別に関係ねーよ!絶対言わねーからな!!」
***
「よかったな、香澄。有咲と仲直り出来て」
「うぅ、な~く~ん……。本当にありがと~……!」
ようやく香澄と有咲は和解し、俺たちは蔵へと場所を移していた。あのまま外にいても、特にやることもないからな。
安心して気が抜けたのか、香澄は今更俺に泣きついてくる。香澄にも非があったとはいえ、今回はとばっちり。有咲が勝手に話をこじらせただけだからな。香澄も気が気でならなかっただろう。
恥ずかしさはあったが、今回は仕方ない。抱き着かれてはいるが、俺は香澄をどかそうとせずに、軽く背中をなでてやる。
「俺じゃないだろ。香澄が頑張ったんだ」
「そうだよ。香澄ちゃん、よかったね」
「りみりんもありがと~!私、有咲に許してもらえたよ~!!」
何にせよ、あのまま離れ離れにならなくてよかった。少しは俺の言葉も、有咲に届いてくれたって事なのかな……?
「ところでなーくん。さっきからずっと気になってたんだけど……」
「どうした?」
「あのキーボードって、どうしたの?前に来た時にはなかったけど、もしかしてゴミの中にあったの?」
「ゴミっつーな!こんな綺麗なガラクタ、どこにあるってんだよ!!」
と、タイミングよく有咲が飲み物を持って地下室に入ってきた。家の外でヒートアップして、喉が渇いていたからな。有咲が人数分の飲み物を取りに行ってくれていた。
俺たちにはジュースを。何故か有咲は一人だけ緑茶。
「好みが渋いな。じじいか」
「年寄り扱いすんじゃねーよ!」
「それで有咲、あのキーボードは?」
「えっ、あー……あれは……」
わかってはいたが、目元を泳がせて言葉に困っている。元の関係に戻ったとはいえ、有咲は有咲だ。すぐに根っこの部分が大きく変わるわけじゃない。
香澄に言い寄られて、それが香澄のためにやったことだと素直に言い出すことが恥ずかしくて。今までに何度も見てきたはずの光景も、なぜか今は俺たちを安心させていた。
「そ、その……買ったんだよ」
「えっ、有咲が!?」
「悪いかよ!お、お前、バンドやるとか言ってたし、必要かな……って」
「あ……有咲~っ!」
「わーっ!もう、すぐに抱き着いてくんな!やっぱお前、ウザくて仕方ねぇ!」
「えー!?そんなー!?」
突き放そうとしたみたいだったが、逆効果になっただけだった。香澄は抱き着く勢いを強め、有咲にしつこくまとわりつく。もっとも、有咲はまんざらでもない様子だったけど。
仲睦まじいって、この事を言うんだろうな。特にわだかまりも残さず、以前のように談笑できている。無事解決できてよかったよ。
「フフッ。有咲ちゃん、よかったね」
「よくない!笑ってないで助けてくれよ!」
「嬉しそうにしてるのに、助ける理由が見当たらないんだけど」
「どこがだよ!」
照れながら言われてもな。と、ここで香澄が話をキーボードに戻す。
「それで有咲、あのキーボード買ったって言ってたけど……」
「ん?あー、あれはな……」
「トネガワ売ったんだって~」
「えっ?あの葉っぱ売れるの!?」
「おま、トネガワなめんなよ!」
盆栽売ってまで、キーボード用の資金を確保してたのか。買ったのは前に蔵に来て知ってたが、そこまでは知らなかった。
俺たちと会う前から、有咲は盆栽が趣味だったはずだ。そいつを売るなんて、よほどの事情がないとできないだろう。
つまりは、あのキーボードに込められた思いは相当な物って事だ。
「ね、有咲!弾いてみて!」
「ふふ~ん、いいぞ」
「調子いいな」
「余計な口はさむな」
そうは言っても、キーボードに触れようとする有咲は上機嫌そのもの。まだ少し覚束ない手つきだが、俺たちに聞かせるように演奏を始めた。
「――――♪」
「すごい!」
「どーよ、音も変わる!」
「すごいすごい!有咲、キーボード上手だね!」
「うん。私もそう思うよ」
「私も!有咲ちゃん、前から練習頑張って……あれ?」
ん?今聞こえた声何だ?香澄でもないし、有咲でもないし、当然俺でもない。りみも相槌打ったのはいいが、困惑している。
「おい、今の声誰なんだ……」
「私だけど」
「うわぁぁ!?って、花園たえ!?何でここに!?」
「どうも、市ヶ谷さん」
ヌッと姿を見せたのは、あのド天然女、花園たえ。有咲も突然の事に体をのけぞらせ、尻餅をつきそうになってしまった。
「おい、たえ。お前何でここにいるんだよ。課題は終わったのか?」
「うん、香澄と一緒に終わらせてきたよ。余裕のよっちゃんだった」
「死語を使うな。それに何日も居残りしてるのにどこが余裕なんだ」
「つーか、そもそも何でうちを知ってるんだよ!?」
「あー、課題出しに行って、その時窓から香澄の姿見えたから。そっちの方に走って行ったら、香澄たちの声が聞こえて」
かなり大声で話してたからな……。近所迷惑になっていなかったらいいんだけど。
「あの、さっきはいなかったけど……?」
「さっき?香澄たちの邪魔になるかなって思ったから、おばあちゃんとおしゃべりしてた」
「何勝手にうちのばあちゃんと仲良くなってんだよ」
自由すぎるな。でも、たえなりに気を遣ってくれてたんだな。そのおかげで、円満に解決することができたし。
「おじいちゃんともお話ししたよ?」
「そう言う事じゃねーんだよ!」
「えっ、お前おじいさんいるのか?全然見ないから、てっきり……」
「勝手に殺すな!じいちゃん死んでると思ってたのか!?」
「えっ、おじいちゃん死んでるの!?じゃあ、私の話してたおじいちゃんは、一体……」
「そうじゃねーよ花園さん!あーもう、話がややこしくなる!おい、香澄!花園さんってこんななのか!?」
「うん!楽しいでしょ?」
「楽しくねーよ!」
何でたえが増えただけで会話がこんなにカオス状態になるんだよ。
「香澄、仲直りできたみたいだね。市ヶ谷さんと話してるの、楽しそう」
「……うん!私、ちゃんと仲直りしたよ!」
その言葉を聞いて安心したのか、たえは香澄に微笑みかける。これだけ見てると、本当に美人なんだけどな……中身が残念ってだけで。
「よかったね。市ヶ谷さんも、すっごく楽しそう」
「どこがだよ。見間違いじゃねーの?」
「じゃ、ごはんにしよっか。おばあちゃんが用意してくれてるって」
「話すげー飛んだな!?てか、何でうちのごはんの事情知ってんだよ!?」
どこまでフレンドリーな関係になってるんだ。たえってここに来たの、今日が初めてのはずだよな……?
「本当!?えへへ。安心しておなかすいてたから、いっぱい食べるぞ~!」
「うん。すごくおいしそうだった。ほら、市ヶ谷さんと牛込さんも早く行こうよ。翔も」
「え、えっと……」
「あれ?おなかすいてないの?」
「そ、そうじゃないんだけど……」
さも自分の家のように振る舞っているが、ここは有咲の家だぞ?それに何度も言うが、たえはここに来るのが初めてのはず。どうしてここまでオープンにできるんだ。
「お、おい大丈夫なのか、有咲……」
「んなわけねーだろうが!人んちで勝手に仕切んなー!!」
***
「……本当、すみません。ごちそうになります」
「遠慮なんかいらないから、たくさん食べて行ってね」
「はい!いただきま~す!」
で、結局ごちそうしてもらう事に。俺とりみはためらっていたが、有咲のおばあちゃんの強い押しに気持ちが折れ、その好意に甘えることにした。
「皆、有咲の友達でしょ?いつも仲良くしてくれてありがとうね」
「はい、こちらこそ!」
「いつもお世話になってます」
「たえは関係ねーだろうが」
おばあちゃんの前でも平常運転かよ。さっき話してたと言ったが、その時も色々とぶっ飛んでいたんだろうな……。
てか、ご飯旨いな。昔懐かしい味と言うか、どの料理もおいしい。
「学校では有咲、どんな感じなの?」
「えっと、有咲ちゃんは……」
「人当たりが強くて、素直になれない奴です」
「てめ、翔!人聞き悪いこと言うな!」
嘘はついていない。本当のことを言ったまでだからな。有咲がいくら怒ろうと、俺は何にも悪くない。
「今みたいな感じって事だね」
「さすがたえ、わかってるな」
「えっへん」
「お前も便乗するな!」
その様子がおかしかったのか、誰からとなく笑いが起こり、広がっていく。やがて、その場の全員が笑い出し、食卓に彩りが生まれていく。仲良さそうに笑いあう有咲を見て、おばあちゃんも嬉しそうに見えた。
……次の一言がなかったら。
「おばあちゃんも嬉しいよ。有咲が友達連れてくるようになったんだから。それに、かっこいい彼氏も連れてきちゃって」
「「「「「えっ!?」」」」」
いや待て。待ってください、おばあちゃん。それはさすがに、俺としても黙っていられないんですが。
俺が有咲の彼氏?質の悪い冗談にしか聴こえませんよ?そんな可能性、絶対にないですから!
「ちょ、ばあちゃん!翔とはそんなんじゃねーから!///」
「あらあら、照れちゃって。可愛いね、有咲」
「ヒューヒュー、市ヶ谷さんアツいよー」
「止めろっつてんだろ!なぁ、花園さんを止める方法って何かないのか!?」
あったら誰も苦労しないから。その天然を楽しめるくらいにならないと、たえの相手は務まらない。
「えっ、ち、違うよね翔君?彼氏なんて、その……///」
「なーくん、どうなの!?有咲と付き合ってたりするの!?」
「お前らまで何言ってんだよ!おい、翔もなんか言えよ!」
「あ、あぁ。俺と有咲は別に、友達ってだけで……。その、お孫さんの顔を見せることはできないですが……」
「誤解を解こうとして、何ふざけてんだよ!?」
そんな有咲の反応を見たかったから。って言えば、絶対にグーで殴られるよな。この場合。
「えへへっ、おばあちゃん!有咲は普段は素っ気ないけど……」
「って、おいこら香澄。お前も何言いだしてんだ」
「でも……有咲は一緒にいて楽しいです!私、これからもずっと有咲と友達でいます!大好きです!」
おま、大好きって……。この流れで言い出すもんじゃないだろうが。それじゃあまるで――。
「はっ、はぁ!?香澄、てめ……何を告白みたいな事言ってんだよ!?///」
有咲が代弁してくれたから、まぁいいか。
「えっ、違った?」
「い、いやその……もう、何でもいい!///」
やれやれ。彼氏扱いだったり、告白紛いだったり。この団欒は、まだまだ続きそうだな。