BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
ま、これからも頑張るので、応援よろしくお願いします!
よろしかったら、同時投稿したヴァンガードの小説の方も見てやってください。3ヶ月ぶりなんです。見て欲しいんです(泣)
あ、今回から次回予告をつける事にしました。理由は……後にやってみたい回があったからです(何その理由)
では、どうぞ!
「じゃあね、香澄ちゃん。翔君。それから……」
「あっ、私はおたえでいいよ。おたえ、気に入ってるから」
「じ、じゃあおたえちゃん……?」
「うん。それじゃあね、りみ」
と言うわけで、その日の帰り道。駅まではりみと一緒だったが、今ちょうどりみと別れたところだ。俺たちは電車通学のため、ここから電車で帰ることになる。
「すっかり元通りの関係になったな、香澄」
「うん!私、有咲と仲直り出来て、本当によかったよ!」
一時はどうなるかと思ったが、有咲が素直になってくれたことが、解決へとつなげることができた要因だろう。香澄と向き合い、言葉をぶつけあい、より絆を深めることができたから。
「めでたしめでたし、だね」
「おたえも、今日はありがとう!」
「ううん。それは香澄が頑張ったからだよ。私は何もしてない」
「でも、ありがとうって言いたいんだよ!それに、おたえにはギターの事も色々と教えてもらってるし!」
「そう?私も楽しかったから、お礼なんていいのに」
トラブルは起こったが、たえに指導役を頼んだことは正解だったのかもしれない。結果的に香澄と有咲の仲は良くなったし、香澄もギターの経験を積むことができた。たえも何かしらの刺激を受けることができたみたいだ。
「ね、おたえ!よかったら、おたえも一緒にバンドしない?」
「え?私が、香澄と?」
唐突なバンドの誘いに、たえも驚いているようだった。本人の気持ち次第だが、俺的にはありだと思う。
たえのギターセンスは本物だ。素人の俺が見ても、経験者の美羽が見てもきっと、レベルの高さを実感する。
その技術を活かし、香澄をうまくリードしてくれたのなら。きっとバンド全体のレベルアップにつながるだろう。
……もちろん、ギター面での話だからな?
「いいんじゃないか?たえがいたら、香澄も百人力だろ」
「うん!課題は終わっちゃったけど、私もっとおたえとギター弾きたい!まだまだ教えてほしいこともあるし、おたえとギター弾いてると、キラキラドキドキできる気がするんだ!」
「私と……」
と、ちょうどそこに電車が来た。俺たちはほぼ満員の電車に乗り込み、つり革を掴んで横一列に並ぶ。
「……ありがとう。私、誰かにそんな風に言われたこと、あまりなかったから」
「そうなの?おたえ、すっごくギター上手だし、一緒にいて楽しいし!」
「香澄……」
「だから、文化祭もオーディションも一緒に出られたら、もっとキラキラドキドキできる気がする!」
文化祭って、いつの間にそんな話が出ていたんだよ。それにオーディションって……やる気みたいで嬉しいが、俺初耳だぞ?
「おいおい、文化祭なんてあいつら知ってるのか?」
「前に話したよ!目指せ、文化祭!」
「けど、オーディションって?」
「SPACEの!こっちはまだ言ってないんだけど、文化祭が終わったら受けようと思って……」
文化祭ライブを目標にするのはともかく、SPACEのオーディション受ける気でいたのか。有咲たちが知ったら、一体どんな反応が返ってくるんだろうな?
けど、SPACEか……。志が高いのはいいことだが、今の香澄のレベルを考えると、悪いが恐らく……。
「「無理」」
「……へ?」
俺たちに言われた言葉の意味が理解できなかったのか、香澄はキョトンとしている。と言うより、何を言われたのか思考が追いついていないみたいだった。ポカーンとして、俺たちを見ていたからな。
「え、えっと……二人とも、何て?」
「「だから、無理だと思う」」
「む、無理ってそんな……。どうしてなの?」
納得していない香澄のために、俺たちはその理由を説明する。
「SPACEはガールズバンドの聖地でな。バイトを始めてから、オーディションに来るバンドを何組も見てきたんだ」
「どのバンドもすごかった。曲のよさとか、演奏のうまさだけじゃない。ステージに立ちたいんだって気持ちがすごく伝わってきた」
「みんな、輝いてるんだ。ライブを観ていると、自然と体が……いや、心が震えてしまう。そうさせるだけの何かを、どのバンドも持っていたんだ」
誇張しているわけじゃない。俺がこれまで見てきたバンドは、どれも体の奥底に眠る熱をたぎらせるだけの力を秘めていた。
今すぐにでも叫びだしたい。この場の熱気に身を任せて、高ぶる情熱を呼び覚ましたい。そのための原動力、言わばガソリンのような燃料に火をつけてくれる。これまでのバンドには、確かにそれだけの力があった。
けど、それだけで立つことができない場所でもある。
SPACEの舞台に立てなかったバンドは、いくらでもいた。どれだけ技術が優れていても、熱情を持っていても、あのステージに立てたバンドはほんの一握りでしかなかった。
それだけ香澄の挑もうとしている壁は、高い。
「香澄は、自分が技術でも気持ちでも、その人たちに並んでいると思う?SPACEのステージは、誰でも簡単に立てるようなものじゃないよ?」
脅しにも似た宣告だった。その実態を聞いて、さすがの香澄も怖気づいているかもしれない。
まだギターを始めて数週間でしかないんだ。技術も不足している。中途半端な気持ちでも、届く場所じゃないんだ。それを俺たちは、香澄に教えておきたかった。
「酷な話かもしれないが、それがSPACEなんだ。それだけ真剣に音楽と向き合い、解き放つ場所でもある。香澄は……その場所に立とうと思うなら、どうする?」
だからこそ、中途半端な気持ちではいけない。それは技術面だってそうだ。今の香澄には、まだまだ不足しているものが山のようにある。
だが、こんな話を聞いてもなお、香澄は香澄だった。
「いっぱい練習する!今はダメかもしれないけど、いつかその人たちのように上手になって見せるよ!」
後ろを向くことはなく、前だけを見ていた。誰に何と言われても、折れることなく進んで行くんだろうな、香澄は。そうでなくては、香澄らしくもないけどな。
「ちゃんと弾けるようになるまで、どれくらいかかる?」
「わかんないけど……でも、がんばる!」
「がんばるって、大雑把だな……」
「大雑把かもしれないけど、私はオーディション受けて、みんなでキラキラドキドキしたい!絶対に!!」
いつになるかはわからない。俺たちにも、もちろん本人にだって。果てしない道のりになる事だけがわかりきっている。
でも、そう言い切ってしまうのが香澄の凄いところだ。そこは俺が小さい時からずっと尊敬している部分でもある。芯が強いんだよな。
「…………」
だから……してはいけない期待を、俺は香澄にしてしまう。
「……じゃあ、香澄。やってみせて」
「やってって、何を?」
「私を、震えさせて」
***
「震えさせて……か」
「おたえをドキドキさせるって事だよね?」
「ドキドキか……。ま、それもそうだな」
たえと別れ、俺たちは家の最寄り駅で電車を降りて歩いているところだった。家まではもう少し距離がある。俺たちはたえを震えさせる件について話していた。
「要は、たえが納得するだけの演奏を見せたらいいんだろ?香澄は、気持ちだけは一人前だし」
「気持ちだけって言い方ひどいよ~!」
「ちょ、くっつくな!悪かったけど、本当の事だろ!?」
俺に触れる熱が、否応なしに体温を上昇させているのがわかる。夜道を歩いているはずなのに、熱くて仕方ない。
「え~?なーくん、またくっつくなって……。二人の時くらいいいでしょ?」
「そう言うセリフはカップルがするんじゃないのかよ」
「カップルか……そうなれたらいいのに」
「うん?何か言ったか?」
「う、ううん!何でもな~い!///」
何だあいつ?急にぼそぼそ話し出したと思ったら、速足で先に行くし……。俺は慌てて香澄の後を追いかけ、再び香澄と並ぶ。
「こら、先に行くなよ香澄。家の近くって言っても、夜なんだぞ?女の子が1人で歩いてたら、何があるかわからないからな」
「あ、あはは……ごめんね、なーくん」
「本当にわかってるんだろうな……」
自分の危機感ってやつをまだ認識できてないんじゃないかって思う時があるからな。香澄は割と可愛い系のポジションにいるし、そう言う目で見る奴とか……。
い、いや俺は違うからな!?ただの幼馴染ってだけだ!あぁそうだ!
「で、話を戻すぞ。とりあえず、香澄はたえを納得させるような演奏を見せるしかない。香澄に足りないのは、ハッキリ言ってまず技術だ。たえはそこのところを見たいんだろう」
「なるほどなるほど!それで?」
「俺任せかよ。……だから、まずは小規模のライブ、ってか演奏会みたいなのをやればいいと思うんだ。そこにたえを招待して、自分たちの演奏を見てもらう。どうだ?」
「うん!いいと思う!」
こいつ、全然考えてないような気がする……。
「場所とか日時は、また明日の昼にでも集まって決めた方がいいだろうな。香澄だけで決めたら、また有咲が怒ってきそうだ」
「そうだね。じゃあ、とにかくギターを練習しないといけないね!」
「けど、そうなるとたえに指導を頼むのは無理だぞ?」
「あっ、そっか……。おたえをドキドキさせるライブなんだよね」
敵に教えを乞うのも変な話だしな。だからと言って、俺もギター経験はほとんどない。教えられることも限られてくる。りみもお姉さんがギターだけど、やってるのはベースだしな……。
「俺もできる限り協力はするが、基本は自力での練習になりそうだ。指導役がいれば、香澄も効率よく練習は……あ」
「どうしたの?」
「指導役、いるじゃないか。すぐ近くに」
***
「私が香澄さんの指導役!?」
「あぁ。さっき説明したように、香澄はどうしてもギターを上達させたい。そのためには美羽、お前の力が必要なんだ」
そう、美羽だ。美羽もギターセンスはあるし、香澄よりは経験もある。ギターの知識に関して言えば、これほど優れた人材は他にいない。
俺は香澄を連れて家に帰り、そのまま美羽に事情を説明。美羽も大体は理解してくれたみたいだった。
「お願い、みーちゃん!私、どうしてもギターで納得させないといけないんだ!少しでも上手になって、ドキドキさせないといけないから……お願いします!」
「香澄さん……」
「俺からも頼む。美羽、香澄に協力してやってくれないか?」
「頼むって……そんなのいいに決まってるよ!香澄さんが、私を頼ってくれたんだよ?嬉しくて仕方ないじゃん!」
まさかの二つ返事だった。そう言ってくれて、俺の方こそ嬉しいよ。これで香澄のギタースキルは、また一つ上がっていくことだろう。
「それに、約束しましたよね。私は、香澄さんのバンド応援するって。楽しみにしてるって。だから、その手助けをするのは当然なんですよ!香澄さん!」
「み……みーちゃぁ~ん!!」
感極まったのか、香澄は喜んで美羽に飛びつく。ギターを背負ったまま抱き着かれたため、美羽は重量に耐え切れずによろめきそうになってしまう。
「うわぁっ!?香澄さん、ギター重いですよ!」
「あっ、ごめ~ん!つい嬉しくって!……あれ?みーちゃん、汗かいてる?」
「本当だ、ちょっと熱いのかな」
美羽はパタパタと手で仰ぎ、風を送る。吹き出ている汗が、頬を伝っていくのが見えた。
「あっ、そうだ香澄さん。今から練習しましょうよ。どうせ家は隣同士ですし、この家には私とお兄ちゃんしかいませんから」
「本当に!?うん、そうする!!」
こうして、早速練習が始まった。香澄は一旦荷物だけ家に置きに戻り、俺はその間に部屋に戻る。
制服から着替えてリビングに向かうと、美羽は既にギターを持ってスタンバイ。即興で何か曲を演奏しているみたいだった。
「ふぅ……今日は何か疲れたな」
「何かあったの?」
「ちょっとな……。それより、香澄の指導役、ありがとな」
「お礼なんて言われることじゃないって。私からお願いするくらいだよ?」
「……そっか」
そう言ってくれると嬉しい。俺が冷蔵庫から飲み物を取り出している傍ら、美羽は陽気に歌いながらギターを弾いていた。
……やっぱり、音楽をしている時だけは、何もないんだな。
「しっかし疲れたな……。今日は声出したからな」
「あれ?カラオケでも行ってきたの?」
「そうじゃないけど……ま、色々とあってな」
「ふ〜ん。お兄ちゃんも大変だね」
何か素っ気ないな。ま、有咲の事を説明しようと思ったら、かなり長くなってしまうからいいんだけど。
それよりも疲れた。今日は早めに風呂に入って寝るとするか。
「じゃ、香澄来たら相手してやってくれ。俺は先に風呂入ってくるから」
「そう?もうちょっと待ってたらいいのに」
「ん?何でだ?」
「何でって……香澄さんと一緒に入ったらいいじゃん」
「……え?」
一瞬、思考が止まった。美羽の言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかる。って、これじゃああの時の香澄みたいで……。
「……って、おい!何言ってんだよ!?///」
「あ!お兄ちゃん真っ赤になってる!やらし~!」
「ち、違う!からかうのはやめろ!///」
「香澄さんとのお風呂……。お兄ちゃん、何想像してたの?教えてよ~!」
「何もない!俺だって、これでも高校生だぞ!?女の子と風呂なんてそんなのーー」
「みーちゃん来たよ~!」
何でこんなタイミングで来るんだよ、香澄はぁ!?
「今日からよろしくね!あっ、なーくんもうるさくしちゃうけど、ごめんね?」
「あ、あぁ……」
それはいいんだが、今はそれどころじゃない!さっきの言葉がまだ頭の中から離れない!
「じ、じゃあ俺はこれで――」
「ねぇ香澄さん!せっかくだし、お風呂入ってきたら?疲れてるでしょ?」
「えっ、いいの?」
お前は何を話ぶり返してるんだよ!?絶対楽しんでるだろ!?
「うん、いいよ!ちょうどお兄ちゃんも入るし、どうせなら一緒に入っちゃっても……」
「そう言う事なら、お風呂はい、って……?」
その言葉を理解した途端、香澄の顔が一瞬にして真っ赤になった。
「……~~!?///え、みーちゃん!?///」
「あはは、冗談ですよ!そんなに驚かなくてもいいじゃないですか!」
「そ、そうだよね!ビックリした~……」
「でも、そんなに驚くって事は、もしかして香澄さん、お兄ちゃんと一緒に……?」
「~~っ///」
「お、俺もう先に入るからな!!」
もうあのままリビングにいたら修羅場になりそうだったので逃げた。俺は自分の着替えを持って、浴室へと向かう。
「ったく……心臓に悪いっての……」
今日は本当、疲れる一日だ。有咲の説得の件もあるが、一番の障害がここで来るとはな……。
「……にしても、たえが香澄に出した条件、かなりハードなものだったな」
香澄のやる気次第だが、たえを納得させようと思うと一筋縄ではいかない。どこまでスキルを伸ばし、気持ちを保つことができるのか。いや、気持ちは大丈夫か。
後は、美羽の指導に賭けるとして……俺は俺で、やるべきことを進めていくか。
「さーて、さっさと風呂入るか。明日も学校だしな……」
そんな事を考えながら、俺は服を脱ぎ、風呂場の扉に手をかけて――。
「お兄ちゃん、タオル置いておく……うわっ!?///」
「え、み、美羽!?」
すぐにバタンと浴室の扉が閉まり、俺は掴みかけていた風呂場の扉から手を放す。後ろ姿だけだからよかったが、前はさすがに妹でも恥ずかしいぞ……。
「ま、まだ入ってなかったの!?」
「シャワーの音聞こえなかっただろ!?こういうことだってあるから、ノックぐらいしてくれ!」
「次からは気を付けま~す……」
全く……。俺は覗くように洋室の扉を開け、まだいるはずの妹を伺う。タオルがどうとか言ってたし、一応貰っておかないと。
「それで、タオル渡しに来てくれたんだろ?」
「あぁ、そうだった。はい、タオル」
「ありがとな」
俺は美羽の手からタオルを受け取る。ふわふわの暖かいタオルだ。すぐにでも顔をうずめたくなってしまう。
……そんなタオルが、どうして寒がっているように震えていたんだろう。
「おい、美羽」
「えっ?どうしたの、お兄ちゃん」
「お前、何か様子おかしくないか?具合悪いんじゃないのか?」
「そんなこと、ないよ。わたしは、げんきだから」
いや、嘘だ。確かに表面上はいつも通りだ。笑顔だし、持ち前の明るさは健在。パッと見ただけでも、どこも具合が悪そうには見えない。
だが……美羽はやけに汗をかいている。よく考えたら、今の時期に熱がるようなのはおかしいんだ。まだ6月にもなってないんだぞ。
今も言葉が飛び飛びになってるし、さっきのタオルは美羽の震えが伝わったものだ。何かあると疑うには、材料がそろいすぎている。
「嘘つけ!練習はいいから、早く薬飲んで――」
その言葉を言い終わる前に、固いものが激突する音が響く、扉にもたれかかるように、美羽はその場に倒れこんでいた。
「……っ!美羽!!」
「どうしたの、なーくん!今の音……みーちゃん!?」
くそ……。やはり、そうだったのか。
あの時、香澄を受け止めた時のよろめきは、決して重量の問題だけじゃなかった。あの時から既に、少しおかしかったんだ。
ほんの些細な変化。杞憂に終わればそれでいい。何もないのなら、それ以上のものは必要ないのだから。
だが……杞憂に終わらなかったら、こうなることだってある。
「香澄!悪いが救急車を!それと、母さんにも連絡してくれ!俺は服着替えるから、その間に頼む!」
「わ、わかった!」
「くそ……美羽!しっかりしろよ!美羽!!」
悲痛な俺の叫びに答えてくれる人は、ここにはいなかった。
平穏な時は、微かな予兆しか見せずに崩れ出す。
気づいたときには手遅れで。痛感した時には、静かに祈りを捧げる事しかできなくて。
病室で涙を見せる少女と、待合室で不安と戦う少年。
両者の邂逅の時は再び訪れ、少年は胸の内を語り出す。
その時、香澄は――。
次回「君の声」