BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
今回は完全にオリジナル!かなり書くのに苦労したんで、話がよくわからなくなってるかもですが……暖かく見てください。お願いします。
それでは、どうぞ!
あなたは、いつになったら笑ってくれるのか。
ベッドに横たわるあなたの横顔は、何も変わらない。どこを見ているのか、何を考えているのか、あたしにはわからない。
「美空……」
声をかけても、何も答えてくれない。あの真っ直ぐで、明るくて、あたしを広い世界に連れ出してくれたあなたは……いなくなってしまった。
あたしは今でも、あの事件を忘れたわけじゃない。
全てが180度変わってしまって、これまで当たり前だった関係が、知らない間に崩れていく。
「…………」
透き通った銀髪を、あたしは掬って撫でてみる。サラサラとして、綺麗で……そこから覗く美空の目を見るのが、あたしは辛い。
あの時、あたしはどうしたらよかったのか。今でもわからなくなる時がある。
「こころ様、そろそろお時間です」
「……もう少し、待ってくれないかしら。すぐ行くわ」
きっと黒服ね。夜中まで美空に付き添えるように協力してもらってたけど、ここまでみたい。
だから、最後に一つだけ。
「……笑ってよ、美空」
あなたの笑顔が見たい。そのためにあたしはバンドを作った。あなたの教えてくれた音楽で、世界を笑顔にするために。
そんな音楽の力を教えてくれたのも、あなただったのに。
「……あら?」
そんな時だった。一台の救急車が、サイレンを鳴らしながらこの病院に向かって来ていたのは。
***
俺たちは、すぐに病院へと向かった。
遅い時間帯だった事もあり、すぐに救急車を呼んだ。美羽の付き添いには俺と、香澄も来てくれた。
三人で救急車に乗り込み、病院へと向かう。香澄の家族も、事情を理解したのか病院まで来てくれることに。
前に運ばれた病院と同じだったため、医師もすぐに状況を理解してくれた。検査が行われ、俺たちは待合室へと移動する。
そこから母さんも合流。仕事で疲れ切っているだろうが、そんな様子は一切見せずに美羽の無事を祈る。香澄の母さんと明日香も、俺たちと一緒に検査が終わるのを待っていてくれた。
「……くそ」
俺は何もできず、待つことしかできない。不安な気持ちをどうにかしたくて、俺は待合室を離れて深夜の病院を歩いた。
大丈夫だ。これまでだって、何とか乗り越えてきたんだ。今回だって……。
「……美羽」
ダメだ。そんな気持ちで割りきれるものじゃない。俺は結局、別の待合室でじっと時間を過ごしていた。
患者たちも病室に戻り、シンと静まった待合室。ただ、時間だけが過ぎていく。暗い室内と静寂が、俺の中で不安を広げて希望を押しつぶしていく。
「美羽」
じっとしていられない。すぐにでも立ち上がり、駆け出し、美羽の元に向かいたい。声をかけて、返事が聞きたい。今すぐに、美羽の笑い声が聞きたい。笑顔が見たい。
「美羽……!」
どうして、美羽だけなんだ。俺も美羽と、病気の苦しみを分かち合いたかった。いや……そもそも俺じゃダメだったのか。
音楽が大好きで、明るくて。友達からも好かれて、いつも学校の事を俺に楽しそうに話してくれて。
ちょっとふざけてからかってくる事もあるけど、悪い所なんて何一つない。見つけたくても、何も見つけられない。
ギターなんて、独学で上手くなったくらいの努力家なんだぞ。好きな事には一途に取り組む集中力があって。
なのに病気は、どうして美羽を……ふざけるな……っ!
俺を苦しめろよ。俺を痛めつけろよ。美羽が無事なら、俺はどうなってもいい。
なぁ……何で俺を選ばなかったんだよ?何で美羽が病気で苦しまないといけないんだよ!?
「…………」
まだ検査が終わる気配はない。長引いているのか。何かトラブルでもあったのか。
ここまで時間をかけなくてはいけないほど、美羽の容態は深刻なものなのか。
もしかしたら、助からないのか。
「……っ!?」
嫌だ、怖い。何を考えているんだ。そんな事、あっていいはずがない。俺はかぶりを振り、ネガティブな思考を振り落とす。
だが、時間が経てばたつほど、募っていく想い。耐えきれるかどうかも、時間の問題だった。
「俺は……何もできないのか」
「あなた……前にもこの病院で会ったわね?」
突如聞こえた声に、俺は現実へと引き戻される。どこか聞き覚えのある声。それは、前に一度だけ会った金髪の女の子。名前は……。
「弦巻さん、だったか」
「こころでいいわよ。翔、だったかしら」
「あぁ。……けど、何でこころがここにいるんだ?もう面会時間は終わっているだろ」
俺のような事情があるならともかく、こころにも何か事情があったりするのか?家族の身に何かあったとか……。
「黒服に頼んで、夜中まで面会させてもらってるの。美空、心配だから……」
だからと言って、そんなわがままが通るようなものなのか。権力でもない限りは……ん?今、黒服とか言わなかったか?
「……こころって、何者なんだよ」
「何者って……あたしはこころよ?」
「そうじゃなくて。名前は知ってるからさ。弦巻――」
と、そこまで言って、俺はようやく気がついた。この女の子の正体に。
「な、あんた……弦巻コーポレーションの関係者か!?」
「えぇ、そうよ?それがどうかしたの?」
弦巻コーポレーションと言えば、世界有数の大富豪じゃないか……。そりゃ、ちょっとした権力くらい持っててもおかしくない。
ってか、何で気づかなかったんだよ。深夜の病院じゃなかったら、もっと大声出していたところだ。
「……何でもない。って事は、さっきまであの子の所に?」
「えぇ。今日も、笑ってはくれなかったけど……」
俺もできるだけ、あの子のお見舞いには行くようにしている。その日何があったか、今は何が流行なのか。答えはなくても、俺は声をかけ続ける。
けど、何も心を開こうとはしてくれなくて。誰に対しても感情を閉ざして、1人の世界に沈み込んでいく。
それじゃダメだ。いつまでも、静かに時が流れていくのを病室で感じるだけの人生なんて。
その事を悲しむ人は、何人もいるのだから。
「それで、翔はどうしたの?」
「俺は、まぁ……ちょっと家族が病気でな。さっき家で倒れて、救急車呼んで……今は検査の途中だ」
「そうだったのね」
俺の隣に、こころが腰かける。ギシリと長椅子の軋む音が、暗い廊下を伝う。
「待つ事しかできないって……辛いわよね」
「……あぁ。不安とか、怖さとか、そう言うので押し潰されそうで……。今も、正直どうにかなりそうだ」
最悪の可能性しか考えられない。安心できる結果を望んでも、そう考えていたとしても、すぐに真っ黒に塗り潰される。
頭が割れそうに痛い。これは悪夢だ。現実になんて、なって欲しくない。
「大丈夫よ、翔。辛いなら、あたしがしばらく側に居てあげるわ」
「え……?」
「同じ苦しみを知ってるから……そう言う苦しい時こそ、側に居て支えてあげたいの。美空だって今、苦しんでるから……」
俺が今感じている苦痛を、こころも同じように感じている。あの美空と言う女の子が、精神的に傷を負った時に。
それこそ、こころには何もできなかったんだろう。壊れていく様を見る事しかできず、こころは……悪夢を見た。
その悪夢は、現実へと変わってしまって……。
「……強いな、こころは」
「そうかしら?あたしは、笑顔の人が増えて欲しいだけよ。そのための力をくれたのは……美空だけど」
「そうか。……俺には、そんな強さなんて何もないよ。だから、苦しんだ事だってある」
何もできない事を嘆き、そこで止まる事はなかった。こころは美空から教わった事を糧に、前に進もうとしている。
俺は……今、何かできるのだろうか。あの学校に強引に入学したとは言え、その結果何か成し遂げられたのか。
普通の青春を捨て、そうして得た高校生活。それが本当に、正しかったのか。あの苦しみへの抑止力になるのか。本当に、変われたのだろうか。
何もできなかった、あの時の自分から。
「無力だった。大切な人が、苦しんでいたのに。側で支える事ができなくて……そんな経験を、俺は前にした事がある」
「……そう」
「だから美羽には、もうこれ以上苦しんで欲しくはない。そのためなら、俺はできる事は何でもする……!」
誓ったんだ。美羽が少しでも、笑顔でいられるように。そのためにできる事なら、どんな事でやってやろうと。
例え、それが茨の道だったとしても。美羽の苦しみや恐怖に比べたら、大した事なんてあるものか。
「美羽……それが、翔の大切な人なのね」
「あぁ、そうだ。……何か似ているな。美羽と美空って、名前の響きが」
「本当だわ、よく気づいたわね?」
もしかしたら、仲良くなれたのかもしれない。美空も、音楽は好きだったと聞いている。美羽とは話も合っただろうに。
そんな彼女が……どうして、感情を閉ざしてしまったのか。俺は、その辺の話も少し聞いた。
恐ろしく、そして悲しい……。ニュースにも取り上げられる程の話だった。
けど、その話を口にするには、まだ早い。
ただ、彼女は何も悪くない。被害者でしかないとだけ……言っておこう。
「じゃあ、あたしはもう行くわ。そろそろ、黒服の所に戻らないと」
「そうか。……結局、また暗い話しかできなかったな」
前に別れた時、今度は楽しい話をしようと約束していた。俺もこころも、楽しみにしていたはずだったのに。
……その約束は、今果たされることはなかった。
「今度は、楽しい話ができるといいわね。……そうだ、翔」
長椅子から立ち上がり、出口へと歩き出すこころ。と、こころは途中で振り返り、ニッと口元を緩めて、
「翔は強いわよ。美羽のためにできる事、やれるかどうかなんて考えないで、やってみようとしてるじゃない」
「……そう言ってくれたら、嬉しいよ」
そう言い残し、こころはいなくなった。しばらく足音は聞こえていたが、それも完全に聞こえなくなった。
こころの肯定の言葉は、少しだけ頭の中に響いていた。
「……今は、何もできないけどな」
また、俺は1人になった。暗闇の中に取り残された。
待つことしかできない。こころと話していて紛れかけた意識が、1人になったことで戻ってくる。
美羽が心配で、呼び起こされた感情が、恐怖を伴って俺の胸を締め付ける。
怖い。
辛い。
痛い。
苦しい。
美羽……!
「……なーくん」
その時、ふと聞こえた俺を呼ぶ声。そこには、香澄がいた。さっきまでは、明日香たちといたはずなのに。
「……香澄」
「なーくん、こんな所にいたんだ」
「母さんは?」
「向こうで待ってる。私のお母さんたちと一緒だよ」
こころが腰かけていた場所に、今度は香澄が腰かける。フゥ……と、香澄は息を吐く。
「検査、まだ終わらないね」
「あぁ……」
「大丈夫だよ。みーちゃんなら、きっと」
「そうだな……」
「なーくん、飲み物欲しい?私、買ってくるよ?」
「……いや、今はいいよ」
次から次へと、香澄は俺に言葉投げかけてくる。周りが静かだからか、余計に香澄の声が目立つ。
その全てに、俺は気のない言葉を返すことしかできなかった。今は美羽の事だけが気がかりで、とても香澄の相手はできなかった。気を散らして、ごまかす事なんかできない。
香澄の気持ちはわかる。申し訳ないとも思っているさ。けど、ダメなんだよ。美羽が……もし美羽がいなくなってしまったら、俺はきっと立ち直れない。たった1人しかいない、大切な妹だから。
だから悪いけど、そっとしておいてほしい。美羽の事だけを考え、その無事を祈らせてほしい。優しさを切り捨てるような真似をして、本当にすまない、香澄……。
「……私、何にもできないね。誰かを励まして、勇気づけて、力になる事なんて……何も」
「香澄……?」
「みーちゃんが苦しんで、なーくんも辛いのに……私はここで何してるのかなって。一緒のように待つしかできないなんて、私嫌だ。私の成りたかった私は、そうじゃない」
声色を変えて、香澄は独り言のようにつぶやいた。俺はどう答えたらいいのかわからず、香澄の言葉を聞く一方だった。
「いつも誰かに助けてもらってばっかりで、支える事なんてできなくて。もっと、なーくんみたいになりたいのに」
「俺みたいに?」
「私の事、いつも支えてくれる。力になってくれる。ずっと昔からそうだから。そんな風に、私もなりたいって思ってるんだ。本気で」
「香澄……」
「でも、全然だね。私、1人じゃ何もできない。今だって、なーくんの力になることもできなかった。私、頼らないと何もできないんだね……」
自分には何もできない。だから何かしたい。できるようになりたいと、そんな言葉だけが香澄の口からは漏れ出していく。
俺みたいに、か。
「…………」
俺にできる事なんて、どうって事なんかない。できない事の方が多くて、美羽の苦しみに寄り添う事も、あの時にはできなくて。
そんな俺が、今の香澄にどう言葉をかけてやればいい?そもそも、俺は香澄を支えてやれているだけの力なんて━━。
『翔は強いわよ。美羽のためにできる事、やれるかどうかなんて考えないで、やってみようとしてるじゃない』
「……っ!」
「なー、くん?」
俺が何かできるとすれば……それは、俺だけの力でどうにかなるものなんかじゃないんだ。
何もできないかもしれない。けど、何かできるかもしれない。
そのための原動力や勇気は、きっと━━。
「……それでいいだろ」
「えっ……?」
「1人でできる事なんて、限られるさ。何でも1人で考えて決めつけて、それで何かが解決するわけじゃない」
「でも、なーくんは……」
「俺なんかに何かできる力なんてない。支えてくれる人がいて、一緒に何かしてくれる人がいるから、行動を起こせるんだ」
誰かのために。その気持ちが、俺を突き動かしている。何もできない俺に、力を与えている。
そうだ。俺にそんな力があるのなら、美羽だって、美空だって……。
誰かの心に寄り添うって、難しい事なんだよな……。
「それに、香澄はバンドやりたいんだろ?バンドは、1人でやるものじゃない。1人で何かやろうなんて気持ちで、成り立つものじゃないはずだ。だから、周りの力も頼っていいと思うんだ」
「バンド……」
「ってか、香澄はもっと自分の行動力を考えろよ。あの行動に、救われている人だっているんだぞ?何もできない、なんて言葉が香澄にふさわしいとは思えない」
有咲、りみ、それに俺だって……。これから先だって、香澄に助けられる人はきっと……いると思うんだ。
「……そっか。ありがと、なーくん」
「お礼なんていらないさ。これくらいの聞き役なら、いつでもするよ」
「えへへ……ちょっと寒くなってきちゃった。なーくん……もう少しだけ、そっちに寄っていい?」
「あぁ、いいよ」
「ありがと。……翔君」
「え……っ!?」
香澄は俺に身を委ね、手を重ねてくる。肩にかかる香澄の温もり、そして香澄の横顔がほんのりと赤い。普段抱き着かれているはずが、どうしてこうもドギマギするのか。
それに何よりも……。
「成川美羽さんのお母さんですか?今、検査が――」
待ち望んでいた、第三者の声。看護師の声だ。検査が終わったとの報告が、俺の耳にも届く。
「悪い、香澄。検査が終わったみたいだから、俺行かないと」
「あ……うん。じゃあ私も、お母さんのところに戻るね」
触れていた香澄の温度が離れ、香澄の家族がいる方へと歩いて行く。残された俺も、検査の結果を確認するために立ち上がる。
美羽の容態はどうなのか。入院は必要なのか。美羽の事が頭の中を渦巻いている中、俺はどうしても、気になっていた。
「…………」
最後に呼んでくれた、俺の名前。普段は絶対、下の名前で呼ぶことはないのに。
「香澄……さっきのは……?」
聞き慣れた自分の名前。だが、俺にはずっと、香澄が名前を呼ぶ声が残り続けていた。
たえを震えさせるためのライブに向け、動き出す香澄たち。
オーディション。そしてSPACEのレベルの高さを、香澄たちはその過程の中で改めて知る事になる。
一方、翔は1人、ある場所へと向かう。そこは……。
次回『目指す先、その高みは』