BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
「おたえをドキドキさせるって何?」
「ライブするの!私がギターで、有咲が――」
「で・き・る・わ・け!ねーだろうがぁ!!」
開幕早々、有咲の一刀両断が中庭に響き渡る。香澄はむくれっ面になっていたが、有咲の言い分ももっともだとは思う。
「とは言ってもな……。たえが出した条件だし、一応はそこを目標にしないと」
「そう簡単に言ってくれるけどな?このメンバーでライブが本当にできると思ってんのか!?香澄なんか、まだまともに演奏できねーだろ!?」
「うぇぇ~ん……ひどいよぉ、有咲ぁ……」
「な、泣き真似したところで本当の事だろ!」
SPACEのレベルの高さを知り、それでもなお努力を続けていつか立つと誓って見せた香澄。それを聞いたたえは、自分を震えさせるほどの演奏を香澄に要求してきた。
言葉なら、誰にだって何とでも言える。どれだけ熱を込めても、思いを託しても、所詮は言葉。それだけでは、力のないまやかしのようなもの。
だからこそ行動で。香澄の気持ちが確かなら、それを行動で証明してほしい。たえの考えている事は、今回ばかりは俺にでもわかる。
が……そのためにライブをするのは、現状では難しい。俺も簡単にライブをすれば意図提案したが、メンバーも3人だけだ。俺が臨時で入って、ようやく4人……。
りみと俺は経験者としても、まだ香澄と有咲は発展途上。音を合わせるところに持っていくまでにも時間がかかりそうだった。
「えっと、さっきから基準がよくわからないんだけど、もしダメだったら、そのオーディションは受けられないって事なの?」
「いや、そう言う事にはならないと思う。たえも、香澄の実力を見たいだけなんだ。沙綾の思うような事にはならないはず……だと思う」
「最後の間が不安なんだけど……」
「そう言うな、沙綾。相手はたえだぞ?100%考えがわかるような相手だと思うか……?」
「花園さんの事は、確かにあまりよくわからないし……話したこともないかも……」
そう言う事だ。俺もわかっているようで、確信めいた根拠はどこにもないからな。それが、花園たえって言う(見た目だけは)美人な女子高生なんだよ。
「おたえは面白いよ!ね、なーくん?」
「あぁ、そうだな」
面白いかどうかは、また別の話だけどな……。
『ありがと。……翔君』
昨日は最後、名前で呼んでたんだけどな。今はいつも通り、なーくん呼びか。
理由はよくわからないけど、どうしてあの時だけは、俺を名前で呼んだんだろうな……。そうする理由が、香澄にはあるって事なのか……?
「で、でも大丈夫だよね?おたえちゃんは、そんな事しないよね」
「うん。私、オーディションを受けたらダメなんて、一言も言ってないよ?」
「だったら、別に受けるも受けないもうちらの勝手……って、花園たえ!?何でいんだよ!?」
何でここにいるんだ、たえ。何の前触れもなく、しれっと会話に参加するなよ……ビビるだろ。
いつからそこにいたのか。てか、どこから湧いてきたんだ。
「えっ?だって、おたえドキドキ作戦会議だし!いてもいいんじゃない?」
良くないと思いますが。
「重要参考人」
「敵だろ!」
「いや、スパイだな」
「二人とも違うよ!友達!!」
「……っ!?とも、だち……」
何やら動きが止まったぞ。しかも胸に手を抑えている。いきなりの事だから、こいつの言動はよくわからない。
「花園さん、どうかしたの?具合でも悪くなった?」
「心臓痛いの?」
りみ……もう少し違う聞き方はなかったのか?
「ううん。私、友達って言われたの初めてだったから……」
「まぁ、あんまり言わないよね」
「俺たちも、気が付いたら親しくなってたって感じだし。面と向かって友達なんて、ちょっと恥ずかしいよな」
ストレートに友達って呼ぶことなんて、そもそもないんじゃないか?それこそ、本人の前だと気恥ずかしくてとても言えないと思う。
「あ、ちょうど花園さんもいるし……その、オーディションの事なんだけど」
「うん。何かな」
「香澄が言うには、ドキドキ?させる事が条件みたいだけど、もし花園さんがそうならなかたら、その時はどうなるの?」
「それはね――」
「てか、そんなの一々聞かなくてもいいって、山吹さん。本人来たから改めて言うけど、関係なくない?オーディションに出るも出ないも、うちらの勝手じゃん?花園さんに審査してもらう必要なんて、どこにもないと思うけど?」
有咲の言う事も一理ある。意欲があれば、オーディションを受けたらいい。一次審査があるなんて話でも、SPACEでは特にないからな。
他人にとやかく言われて決めるようなものでもない。だが、決して軽い気持ちで決めていいわけでもない。
「確かに有咲の言うとおりだな。これは、たえが勝手に言ってるだけだからな」
「なら、別にそんなの無視して、オーディション受けたらいいだけじゃん?」
「まぁな。だが……SPACEはそんな軽い気持ちで立てる場所じゃない。そうだろ、たえ?」
「うん。よくできました」
「何様のつもりだ」
俺たちの脅しに、香澄とりみは弱音にも似たうめき声をあげていた。有咲はそこまで深刻に考えてはいないみたいだったが。
「私たちはSPACEでオーディションを見てきたから、レベルの高さがわかるんだ」
「まず気持ちで負けるようじゃ、あのステージには絶対に立てない。オーディションで見ているのは、技術なんて上っ面だけじゃないからな」
香澄の意見は聞いたが、有咲とりみの意志はまだ聞いていない。バンドは全員そろってこそのバンド。1人が飛び出ていようとも、そこについていくだけの意志がないと、音なんて合わせられるわけがない。
「へぇ、翔ってそっち側なんだ。香澄側かと思ってたのに」
「俺はいつでも香澄を応援してるぞ、沙綾。けど、中途半端に挑むくらいなら、止めておいた方がいい。世界が違うんだ。周りとの違いに苦しんで、きっとバンドを心から楽しむ余裕もなくなってしまう」
上手くなりたい、合格したい。目的がいつの間にかすり替わって、張りつめてしまう。何のためにバンドをするのかも、わからなくなってしまうだろう。
それじゃあ、いけないだろ。香澄は、昔見たキラキラを求めてバンドを組んだはずだ。SPACEで立つ事『だけ』が目的ではない。
「そんなかぁ……?つーか、そもそも何であそこってガールズバンドの聖地なんだ?」
「えっとね、SPACEはガールズバンドのために作られた場所なんだ。オーナーはツアーとかもやるバンドのギターをやってて、ライブハウスの怖くて危ないイメージを壊すために、SPACEを作ったんだって」
「さすがグリグリのギターボーカルがお姉さんってだけあるな。俺が説明するまでもなかったよ」
「あっ!?えっと、その……ごめんね、翔君」
「何も謝る事じゃないよ。むしろ説明の手間が省けて助かったって感じだ」
「う、うん!じゃあ私、また何かあったら翔君の代わりに説明するね!」
どこに気合を入れてるのかは分からないが、大方りみの言ってくれたことで合っている。ガールズバンドがまだマイナーだった時期に、それを普及させようと立ち上げたライブハウス。それがSPACEだ。
一からライブハウスを作り、客やバンドを集め、ライブを行って……。SPACEができたばかりの頃は、オーナーもステージでライブをしていたことがあるらしい。
そんなオーナーの奮闘があったからこそ、今はガールズバンドが世間にも知られるようになった。その基盤は、オーナーにあると言ってもおかしくはない。それだけの立役者なんだ。
ガールズバンド規定法を作ったのも、実はオーナーが関係している。ガールズバンド委員会と言う組織に、オーナーが招集されたことがあったみたいだ。
そう考えると、オーナーの行動力って計り知れないよな……。
「そんなオーナーに認められたくて、SPACEを目指すバンドが多いんだ。だから、軽い気持ちで来るバンドもいるし、冷やかしもたまにある。中には、オーナーに会うためだけに、口実でオーディションを受けるバンドもあったんだよ」
今は少なくなったけどな。SPACEがある程度名の知れたライブハウスになったことが関係しているのかもしれない。
「オーナー自身も音楽に熱意のある人だから、当然見る目も厳しくなって。でも、オーナーの人柄を知ってるから、みんな本気でSPACEに立ちたいって思ってるんだ。わかった、香澄?」
「すごい……!私、ますますSPACEでライブがしたくなったよ!」
「完全に逆効果だな、香澄には」
「ふふっ、香澄ちゃん、気合入ってるね」
「もちろん!よーし、おたえの事絶対にドキドキさせて、SPACEを目指せるバンドだって認めてもらうからね!」
意気込んだ香澄に、りみもやる気を見せる。有咲は面倒くさそうにため息をついていたが。
「でも、ライブするにしてもどこか場所ってあったっけ?」
「この辺りには、ライブハウスはSPACEくらいしかないからな……」
当然使えるはずないし、となると場所がなくなる。何か、うってつけの場所がどこかにあれば話は別なんだが……。
「うーん……あっ、有咲の蔵は?」
「何でうちなんだよ!」
「いいんじゃないかな?有咲ちゃんの家の蔵、広いから何人か入れないかな?」
「う、牛込さんまで……」
小規模のライブなら、問題はないだろう。客を呼ぶことになっても、そこまで大人数じゃなかったら行けるだろうし。
「蔵でライブ……クライブ?」
「な、なんだそりゃ……。てか、私はまだやっていいなんて一言も言って――」
「いいじゃん、クライブ!やろうやろう!」
「はぁ!?つーか、私の許可を――」
「有咲、りみりん!クライブがんばろうねっ!」
「う、うん!」
「だから私の話を聞けーーーー!!」
***
「やはり、音楽を聴いている間は心拍数も安定してますね。原因は、こちらの方でもさっぱりわかりませんが……」
「そう、ですか」
その日の放課後。俺はすぐに学校を飛び出し、ある場所に向かう。そこは、昨日美羽が運ばれた病院だった。
あれから検査が終わり、医師に告げられたのは……数週間の入院。しばらく経過観察を行う必要があると、そう判断した結果らしい。容態が悪化する事があれば、手術も考えなくてはいけないとのこと。
考えたくもない。そんな最悪の可能性にならないように、祈るしかできない。そんな自分が憎い。
だが、その中でも不幸中の幸いだったのは、やはり音楽に関する行動による病状の緩和だった。昼間も、音楽を用いた検査を行っていたらしい。
今は美羽の担当医と、応接室で直接話をしているところだ。母さんは仕事で忙しいし、こういう話は俺が聞いておかなくては。辛い事実を突きつけられないようにと、それだけを考えて。
「今のところは、何の問題もありませんね。一人でギターを弾いていたり、入院している子供たちの前で弾き語りをしていましたね。とても元気そうに」
「それならよかった……。安心しましたよ」
俺は胸をなでおろす。付き合いだから表には出さなかったが、香澄たちといた時から、美羽の事はずっと気にかけていたから。
「ただ、退院は先になりそうです。何があるか、まだわからないですから」
「具体的には、どれくらい……?」
「そうですね……。確か、花女ではもうすぐ文化祭があったはずですが……」
数週間、と言ったところか。今回は家で倒れて運ばれたことだし、あらゆる可能性を考慮してくれているんだろう。けど……。
「間に合わない……ですかね。美羽は、中学最後の文化祭なんですよ」
美羽は中三。本当は、文化祭には行かせてあげたい。それなのに、こんな形で奪われるかもしれないなんて。
「文化祭が終わるまでは、様子を見せてほしいですね……。さすがに、すぐに退院を決める事はできませんよ」
「そうですよね……。無理言ってすみません」
だが、それが美羽のためなら仕方ない。俺は喜んで、受け入れるしかないんだ。何よりも、俺は美羽が大切なんだから。
だからこそ、譲れない思いだってある。
「……俺、できる事なら美羽を一人にしたくないんです。一人きりにして、悲しませたくないんです」
孤独の中で、苦痛に耐えながら過ごす時間の重さを、俺は知っている。それは、俺がどうにかしようと思えば、どうにでもできた話だったんだ。初めて俺は、自分の無力さを痛感していた。
病気の苦しみは肩代わりできないかもしれない。けど、一人苦しみと戦い、のしかかる不安を取り除いてやることなら、いくらでもできるんだ。
だから俺は、あの時の涙だけは忘れられない。
「私たちも、妹さんの事は注意して見ていますよ。自分の辛い状況なのに、人を笑顔にする力を持っている。音楽によってね。だからあの子は、音楽に愛されているんだと思いますよ」
美羽の強さは、俺だってよく知っている。いつ病気の発作が襲い、苦しむことになるのかわからないのに、美羽はいつでも明るく振る舞う事を忘れない。
あの元気な姿は、一体どこから来るのかと不思議に思うくらいだ。
「少し、医者らしくないことを言ったかもしれませんね。そんな根拠のない話を持ち掛けて、患者を安心させようなんてね」
「いえ。たまにはフワフワした話もいいですよ。そう言うのって、人間らしさじゃないですか?」
「へぇ、なかなかいい事言いますね」
「それはありがとうござ――」
と、ポケットにしまっていたスマホが震えた。オーナーからだ。今日はバイトがなかったはずだが、何の用だ?
「すみません、少し大事な電話が入って……」
「君も大変ですね。妹さんの事もあるし、無理だけはしないように」
無理だけは……か。そうも言ってられないんだよな。
「はい。では、美羽の事をよろしくお願いします」
俺は応接室を出て、周りに人がいない事を確認してから電話に出る。何やら騒がしいが、ライブの準備だろう。程なくして、オーナーの声が聞こえた。
「もしもし、オーナーですか」
『あぁ、成川。休みなのに突然すまないね』
「いえ、構いませんよ。何かあったのですか?」
『実は、次の休日に人手が足りなくなってね。成川には悪いが、その日シフトに入ってくれないかい?腕は見込んでいるんだ』
「もちろんです。直々に声がかかるとは光栄ですね」
仕事の連絡かよ……とは口が裂けても言えるはずがない。俺は仕方なく了承の返事を出す。ま、その分別の日に休みを回してもらえるから助かるんだけどな。
「これからライブですか?賑やかな声、電話越しに聞こえてきますよ」
『そう言う成川の方は、やけに静かじゃないか。もう家にいるのかい?』
「いえ……実は、美羽が入院してしまって……」
オーナーにはまだ話していなかったな。昨日も夜遅くだったし、オーナーに報告している時間も余裕もなかったからな。
『そうかい。具合の方は?』
「今のところは、何も。入院している人たちに、弾き語りまで見せているくらいですから」
『……そうかい』
俺は人気の少ない病院の中庭に場所を移し、話を続ける。いつまでも、病院の中で通話しているわけにもいかないからな。
「あっ……すみません。不謹慎でしたね」
『何を言うんだい。さすがに、もうそれくらいで心が折れるようなものじゃないよ』
「それなら、よかったです。言ってから、少し軽率だったかと……」
『大切にしたい人がいる気持ちは、私も十分理解している。お前も、妹の事が大切なようだからな』
「えぇ。そのために、俺はあの学校に入学したんですから」
『……なら、彼女の件についてはどうなった?』
「……それは」
『彼女』とは、あの病室にいる感情を見せない女の子の事だ。誰とも話そうとせず、いつも虚ろにどこかを見つめているだけの……悲しい女の子。
「……これから向かうつもりです。ちょうど、彼女と同じ病院に美羽は入院してるので」
『そうだったのかい。なら問題はないね』
「もちろん。何も行動を起こしていないわけではありませんよ」
『お前の頼みを聞くためにあの学校に掛け合ったのは、私だ。その代わりにと、彼女の事は任せている。動いてもらわないと、交渉が成立しないだろう』
「えぇ。ですが……なかなか進展が見られず、少し手探りの状態ではあるんですが」
どうすれば、心を開いてくれるのか。何をすれば、彼女は笑顔を見せてくれるのか。
人の心に寄り添うのって、どうすればいいんだろうな。
『そこまで簡単に済む話なら、私だって苦労してはいないさ。だからこそ、関係ない部外者にまで協力を申し出ているんだ。それこそ、お前の無茶な要望に応えるための引き合いに出すほどにな』
「……そうですよね」
だが、このまま進展がないのなら、俺は最悪あの学校にいられなくなる。それだけは、何としても避けなくてはいけない。
また、あんな事の繰り返しにはしたくないから。
『だが、時間はないぞ。お前にもお前の事情があるかもしれないが、こちらにもこちらの事情がある』
「重々承知してます」
『……ん、そうか。すまない、成川。ライブが始まる。切るよ』
こっちの言葉も待たずに、オーナーは早々に電話を切った。ライブとなると熱あるからな、あの人。
「……さて」
まずは、あの子のところに行くとするか……。
翔が動き始める中、香澄たちも動き出す。
クライブで何をたえに見せるのか。何を聞かせるのか。
悩む香澄たち。その答えを握るのは、りみだった。
一方、翔は美空、そして美羽のお見舞いの最中、ある事を提案されて……。
次回『まだ誰も知らないこの歌』