BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!七夕ですね!内容は関係ないけど!

今回もオリジナルですね。次からは本筋に戻るんで、少しお付き合い下さい。

では、どうぞ!


phrase31 伝えたい言葉

「よし、着いたぞ。ここがその病院だ」

 

美羽へのプレゼントを買いに行ってから20分ほど。俺たちは美羽の入院する病院へと到着していた。

 

平日のこの時間は、俺たちのようにお見舞いに来る人が多い。その人達に紛れるように、病院の中へと入った。

 

「みーちゃん、今何してるだろう?」

 

「どうせ病室にいんじゃねーの?」

 

「でも、ずっと1人って事だよね。ちょっとかわいそうだな……」

 

「うん。美羽もきっと……心細いと思うよ」

 

沙綾の言う通り、美羽は心細い思いをしているに違いない。俺もこうして見舞いに来るとは言え、基本的に1人の時間を過ごすことが多い。夜中に至っては、完全に1人の世界だ。

 

暗い病室で、病気を抱えながら1人過ごす時間。いつ病気が悪化するのか、この時間はどこまで続くのか。

 

その恐怖に押しつぶされそうになっているのだと思うと、のうのうと家で眠っている俺自身が情けなく感じる。

 

早く退院してほしい。いつまでも、1人ぼっちで苦しんでほしくない。

 

「それで、美羽の部屋はどこなの?」

 

「5階の東棟。その突き当たりの部屋だ。行けばすぐわかるよ」

 

「……あれ、何か聞こえる」

 

「話を聞け」

 

だが、俺の耳にもすぐに何かが聞こえてきた。しっとりとした旋律、その音に乗せて響く柔らかな歌声。

 

「これ……ギターかな?」

 

「弾き語り?誰か歌ってるよね?」

 

「……っ、こ、この声は、まさか……」

 

有咲ですら、この反応だ。こいつは間違いない。今も聞こえてくる音色は、俺が一番よく知っている人のものだ。

 

「なーくん、もしかして!」

 

「あぁ。あの弾き語り、美羽だ」

 

「「「えっ!?」」」

 

きっと、昨日と同じ場所にいるに違いない。俺は病室ではなく、ロビーを目指して足を進める。

 

そこには、大勢の観客が。患者もそうだが、今日はお見舞いに来た人も足を止めて、美羽の歌声に聞き入っている。

 

「あれが……美羽ちゃん」

 

「すごいね。歌も演奏も、全部洗練されてるって感じで……!」

 

「悔しいけど……あいつ、あんなに演奏とか上手かったんだな」

 

「美羽の演奏、ハッキリ言ってかなりレベルが高い。手元も全然見ていないし、それでいてミスもしてない。しかも歌いながらだから、普通に弾くのも難しいのに……そこにアレンジも入れてるなんて」

 

たえもこの絶賛ぶりだ。ギターに関してはよくわからないが、ここまで言わせるほど、美羽の技術は高いって事か。

 

「凄いね、なーくん。みーちゃん、キラキラしてる!」

 

「あぁ。今の美羽、何だか活き活きしているな……!」

 

そこから何曲か演奏は続き、美羽の小規模のライブは盛り上がった。時には観客からのリクエストにも応え、即興で演奏して見せるスキルも見せてくれた。

 

今はこうして、1人でライブをしているけど……もし美羽が、バンドを始めたいと言い出したのなら……。

 

「~~~~♪……ありがとうございました!今回はこれで終わらせてもらいます!」

 

終わるのが悔やまれる声が何個か聞こえてきたが、みんな拍手で美羽を称える。美羽はその歓声に手を振って応え、やがて観客も名残惜しそうにロビーから去っていく。

 

一演奏終え、疲れを振り払いながら美羽はギターを片付けだす。それを見て、俺たちも美羽の元に近づいて行く。

 

「今日も楽しかったな~……。みんな喜んでくれてたし、明日は……あっ、お兄ちゃん!」

 

「よっ、美羽。今日は演奏、聞かせてもらったよ」

 

「気づいてたよ!途中から見てたよね!あっ、あそこにお兄ちゃんいるー!って」

 

こっちに気づいていたんだな。いつ気づいたのかは知らないが、演奏しながら俺たちの事も見てたって事か。すごいな。

 

「で……こいつらが俺の友達。約束通り、連れてきたぞ」

 

「おぉ……。お兄ちゃんがこんなに女の子連れてるなんて、夢でも見てるみたい」

 

「美羽!?ちょっとバカにしてないか!?」

 

それじゃあ俺が女っ気がないみたいに聞こえる。一応、俺だって女の子にモテたいと思う気持ちはある。少しはその、女っ気が……あると信じたい。

 

「翔、妹にもからかわれてるんだね~?」

 

「そう言う目で見るな、沙綾」

 

「へっ、いい気味じゃん」

 

「うるせぇぞ、有咲」

 

「有咲って……あっ、やっぱり!面白くて面白くて仕方ないひ……クククっ」

 

「いきなり笑うんじゃねーよ!もう帰りてー!!」

 

お前も早々にバカにされてるじゃねーか。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「えっと……初めましての人は初めましてですね。成川美羽です!お兄ちゃんがいつもお世話になってま~す!」

 

場所は変わって美羽の病室。愛用のギターは、ベッドの近くの壁に立てかけてある。横になっていても、すぐに手に取れる場所だった。

 

「こちらこそ、初めまして。山吹沙綾です。美羽、これからよろしくね」

 

「あっ、私は牛込りみです。翔君から美羽ちゃんの事は少し聞いているんだ。よろしくね」

 

「私は花園たえ。翔とはSPACEで一緒にバイトしてるんだ」

 

「皆さん、お兄ちゃんから話は聞いてますよ!たえさんの事は、バイトではとっても頼りになる後輩だって言ってました!」

 

「お、おい美羽!そう言うのは恥ずかしいから、俺の前で言うのは止めてくれないか!?///」

 

それですっげぇどや顔で俺の事を見てくるたえがムカつく。あくまでもバイト「では」だからな?他は……まだよくわからないし、謎が多いし、天然すぎて読み取れないし。

 

で、沙綾はここぞとばかりに茶化した視線を向けてくる。してやられてるな……。りみもニコニコと俺を見てくるし、恥ずかしすぎる。

 

「沙綾さんは実家がやまぶきベーカリーなんですよね!私、あそこのパン本当に好きなんですよ!よく買いに行くんですけど、気づいてますか?」

 

「えっ、そうなの?全然知らなかったな~。またお店に来てくれたら、常連さんって事でサービスするよ?」

 

「ぜひぜひ!そしたらもう、毎日通い詰めてやりますよ!」

 

「アハハ……美羽って、何だか香澄に似てるね。雰囲気って言うか、性格?」

 

確かに。美羽と香澄は、どことなく似ている部分があるのかもしれない。今の反応だって、グイグイ積極的に行くところは香澄っぽいからな。

 

「えっ?そうですか?」

 

「うん。私も、何だか香澄ちゃんに似てる気がするな~って思ってたんだ」

 

「つまり美羽は、香澄の分身って事だね」

 

「適当な事言ってんじゃねーよ、たえ」

 

似ていると言われたからか、ジーっと互いの事を見つめ合っている香澄たち。気持ちはわかるが、見た目の話をしているわけじゃないからな?あくまでも中身の話だぞ?

 

「つーか、あれ渡さなくてもいいのかよ?」

 

「あっ、そうだった!有咲、ナイス!」

 

「香澄さん、あれって?」

 

「えへへ、実はみーちゃんのために、プレゼントを買ってきたんだ!」

 

「本当ですか!?うわ~嬉しいな!何だろう?」

 

自分のためにプレゼントを買ってきたと聞き、美羽は声を弾ませて喜ぶ。肝心の中身を喜んでくれるかどうかだが、きっと大丈夫のはずだ。

 

「プレゼントはこのウサ――」

 

「たえは引っ込んでろ」

 

「アハハ……。プレゼントはこっちの紙袋に入ってるんだ。中、見てもいいよ?」

 

「何だろう?……あっ、これすごく可愛い!ヘアアクセだ!」

 

美羽はヘアアクセを取り出し、マジマジと眺める。目を輝かせて、上機嫌みたいだった。プレゼントはこいつで正解だったみたいだな。よかった。

 

「ありがとうございます!このヘアアクセ、大事にしますね!」

 

「それ、私が選んだんだよ。美羽ちゃんがギターやってるって翔から聞いたから、きっと喜ぶだろうなって」

 

「沙綾さん、センスありますね!香澄さんとも、バンドやってたりするんですか?」

 

「……っ!あ、え~っとね……。私、放課後は家の手伝いで忙しいから、香澄とは一緒にバンドやってないんだ」

 

 

沙綾……?何か様子がおかしかったな……?

 

 

「あっ、そうだ香澄さん。この前の指導役の話ですけど、私入院しちゃったから……ちょっと無理っぽいですね。力になれなくて、すみません……」

 

「いいよ、みーちゃん!ギターも大事だけど、みーちゃんの方がずっと大事だよ!」

 

「ん?指導役って何だよ?私、そんなの聞いてねーぞ?」

 

「みーちゃんにギター教えてもらうつもりだったんだ。クライブまでに、少しでもギター弾けるようになりたかったから……」

 

「香澄ちゃん……」

 

うなだれる香澄を見て、りみは優しく慰める。香澄だって、本気でSPACEのステージに立ちたいと願い、そのために努力しようとしていたんだ。来たるクライブで、それだけの実力を見せるために。

 

美羽の助力が得られないとなると、それ以外にあてはなくなる。事情は知らないだろうが、それをりみも理解したのだろう。

 

しかし……実際、どうしたものか。

 

「え?香澄、私じゃダメなの?」

 

「バカ言うなよ。クライブに向けて練習するって言ってんだぞ?花園さんは、こっち側の人間じゃないだろ」

 

「え、私……やっぱり、香澄たちの友達じゃ……」

 

「そう言う意味じゃねー!……翔、バトンタッチ」

 

「俺に振るなよ」

 

たえの手を借りたいのは山々だが、言わば面接官だ。まさか直接指導してもらうわけにもいかないだろう。

 

「でもさ、なーくん。もうこれって、おたえしか頼れる人がいないんじゃ……」

 

「それはそうだけどさ……」

 

「おたえをドキドキさせるライブだって事は、もちろんわかってるよ?でも、今のままだと全然だから……ちゃんと教えてもらって、練習して、SPACEに立てるくらいにギターが弾けるようになった姿を、見せたいんだ」

 

確かに、たえは今の香澄の立場からすれば……敵、と言うことになるのかもしれない。が、それ以前にたえは、香澄にとってギターが上手なクラスメイトであり……友達なんだよな。

 

 

友達から教えを乞うのに、それを拒む理由付けなんていらない。いや、いるわけなかったんだ。

 

 

「……香澄の気持ち、よくわかったよ」

 

「おたえ、お願いだよ。私に、ギターを教えてくれないかな……?」

 

「当たり前だよ。ギター弾いてる時の香澄って、すごく真剣で、楽しそうで……真っすぐに向き合ってる。そんな香澄の姿が、私は好きだから。いつでも協力する!」

 

「本当!?」

 

男でも恥ずかしいようなセリフ言いやがって……。一応言っておくが、ここ病室だからな?そんな会話する場所でもないからな?

 

「よかったね、香澄ちゃん」

 

「ま、いいんじゃねーの?全然できねーよりは、そっちの方がよっぽどマシじゃね?」

 

「……香澄、よかったね」

 

「りみりん、有咲、さーやも!おたえもありがとう!」

 

指導役の話も解決し、後はクライブに向けて練習するだけ。

 

曲とかについてはよくわかっていないが、りみが前に作ったオリジナルの曲を演奏することになったらしい。まだ聞いていないが、いつか改めて聞いてみたいな。

 

「な~んだ、私が指導役じゃなくても、全然よかったんだ~。ちょっと残念かも」

 

「えっ!?そ、そうじゃないよ、みーちゃ~ん!」

 

「アハハ、冗談だって。……いい友達に恵まれましたね、香澄さん」

 

「……っ、うん!!」

 

俺も香澄も、中学は地元の学校だったからな。知り合いは一人もいない。

 

香澄は、文化祭がきっかけで。俺は……色々と事情を抱えて。導かれるように、花女へと入学した。

 

人間関係も、一からのスタートだった。俺は当然だが、香澄も不安だっただろう。あの性格だが、やはり最初は緊張が付きまとう。

 

そこで沙綾と出会い……有咲、りみ、たえとも出会えた。仲良くもなれた。俺たちは、本当に恵まれたものだと思う。

 

「…………」

 

 

そんな事を思いながら、俺たちはみんなの顔を順番に眺めていく。

 

 

だが……。

 

 

「沙綾……?」

 

 

ふと目にとまった沙綾の横顔は、何故か物悲しく、羨望の眼差しを向けていた……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「美羽ちゃんって、好きな事ってあるの?」

 

「やっぱり音楽は好きですね~!聞いたり、歌ったり!」

 

「へぇ~翔も言ってたけど、音楽好きなんだね。どんなジャンル聞くの?」

 

「色々ですよ!気に入った曲とかは、ギターで弾いてみたいな~って思ったり」

 

「美羽、さっきのロビーでの演奏聞いてたよ。上手だった」

 

「本当ですか!?たえさんも上手だって聞いてるんですけど、聞かせてくれませんか!?」

 

「私もおたえの演奏聞きたい!」

 

「うん、いいよ。それじゃあ……」

 

それからしばらくして、香澄たちは美羽との時間を過ごしていた。翔はトイレに行くからと、病室から出て行っている。

 

「~~~~♪ふふん、どうだった?」

 

「感想聞いてもねーのに、何をどやってんだよ」

 

「あっ、久しぶりに有咲さんのツッコミ聞けた!」

 

「それくらい別にいいだろーが!」

 

「あっ、怒った!アハハ!!」

 

「ぐぅ……!なぁ香澄!こいつをどうにかする方法って何かねぇのかよ!?」

 

「みーちゃんはいい子だよ?」

 

「……お前に聞いた私がバカだった」

 

有咲はこの有様だ。美羽にはピンポイントで笑いにハマるようで、さっきから会話に参加しないのは、そのせいでもある。

 

「たえさん、上手ですよ!様になってます!」

 

「それほどでも~。でも、美羽もすごかったよ」

 

「あっ、そう言えば……翔はドラムなのに、美羽はギターなんだ?」

 

「それは沙綾さんの言う通りなんですけど、私はギターの方が楽しくて。ドラムは、前にお兄ちゃんに叩かせてもらったことがあるんですけど……難しくて」

 

ギターとは違い、ドラムはただ叩くだけではない。左右のスティックで別々のリズムを刻まなくてはいけない。美羽にとっては、その基本動作も難しく感じたため、ドラムは断念したようだ。

 

「あ……私、翔がドラムやってるのは知ってるけど、叩いてるところは見たことないかも」

 

「お兄ちゃんのドラム、上手なんだよ?聞けばビックリするかも」

 

「あー、それなら私聞いたことあるぞ。うちの蔵に中古のドラムがあってさ。そいつを叩いて聞かせてくれたことがあったな」

 

「私も聞いたよ。ドラム叩いてる時の翔君、めっちゃかっこよかったな~……」

 

「へぇ~?かっこいい、ですか?もしかしてりみさん、お兄ちゃんに惚れてたり……とか?」

 

「え、あ、え、えぇっ!?そ、そそ、そんなの違うよ、美羽ちゃん!!///」

 

と言いながら、りみの顔は真っ赤に染まっていたが。美羽はその様子を見て、案外兄の周りには好意を抱いている人がいるのだと納得する。

 

が、それは心の中にしまい、美羽はがっかりしたように肩を落として話を続ける。

 

「そっか……。お兄ちゃんって、妹の私から見てもモテなさそうだからさ。頼りにはなるんだけど、恋愛してるって話も聞かないから。だから、そう言う人が現れてくれるといいな~って思ってるんだけど」

 

「アハハ……美羽、翔に対して辛辣だね」

 

「でも、本当の事ですからね~……。ま、これからもお兄ちゃんの事、よろしくお願いしますね、皆さん!」

 

「もちろんだよ、みーちゃん!」

 

香澄が答えたのを聞いて、美羽はニンマリとほほ笑む。とても兄の悪態をついていたとは思え愛ほどの、安堵した笑顔だった。

 

「んで、その本人はまだ帰ってこないのかよ」

 

「た、確かに少し遅いよね……?私、心配だな……」

 

「これはもしかして、病院で起こる事件……!?」

 

「なわけねーだろ、花園さん」

 

たえが半分ふざけたことを言ったが、トイレにしては遅い。りみの言う通り、不安は募る一方だ。

 

「わ、私ちょっと近くにいないか見てくるよ!」

 

「だったら私も行くよ、りみりん。なーくんに何かあったのかもしれないし!」

 

そう言って、二人は病室を飛び出す。香澄は右に、りみは左に向かって歩き出した。

 

「はっ、翔なんか放っておいてもいいんじゃね?別に、心配とか思ってねーし、突然意識失って、倒れてたりしたらどうしようとか思ってねーし……」

 

「心配なんじゃないですか、有咲さんも」

 

「あーもう、美羽は黙ってろ!!」

 

「あっ!私、初めて有咲さんに名前呼んでもらえた!すっごく嬉しい!アハハッ!」

 

「えっ……そうだったか?って、別にどうでもいい!」

 

「また怒った!アハハ!」

 

「もう勝手に笑ってくれ……」

 

香澄やたえを相手にするよりもメンタルを消耗し、有咲はげんなりと来客用の椅子に座ってうなだれる。その様子を見ていた美羽は、ふと視界に入ったたえと沙綾が、何かソワソワとしている事に気づく。

 

「……これは、もしかして?」

 

「美羽、何かあったの?」

 

「事件の手掛かりが!?」

 

「……もう疲れたから、花園さんの相手は山吹さんがしてやってくれ」

 

「あ、アハハ……」

 

りみや香澄だけかと思っていたが、そうではなかったらしい。その事を、美羽はニヤニヤと笑みを浮かべながら、この場にいない兄に向かって一言だけポツリと告げた。

 

「……お兄ちゃん、意外と周りが見えてないって事なんだね」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「……じゃあ、また来るよ」

 

俺の言葉に答えてくれる人は、この部屋にはいない。いや、正確に入るのだが、口を開こうとはしない。

 

例の彼女、美空と言ったか。俺は今、トイレだと偽って彼女の病室へと来ている。今日はこころはいなかったみたいで、俺一人だけだった。

 

虚ろな目を俺に向けながら、俺の話に答える事もない。受けを狙ってジョークの一つや二つ言ってみるが、反応がない。心が折れる。

 

それにしても……だ。人が一切の感情を表に出せなくなるほど、傷つくことはあるのだと痛感する。どれだけの過去をその身に背負えば、全てを殺して、抜け殻のように生きるしかできなくなってしまうのだろう。

 

そんな彼女に光を灯す事が、果たして俺にはできるのだろうか。いや、できないかもしれない。俺には。

 

俺にある力なんて、ちっぽけでしかないんだからな……。

 

「って、弱気だな……」

 

だが……きっと、あの子たちなら。そうやって、別の光に手を伸ばしたくなってしまう。

 

「……いや、それはまだ先だな。今のあいつらに、そんな重荷を背負わせるわけにはいかないな」

 

だが、その可能性に至っている時点で、俺は負けている。その誘惑に。

 

自分の不甲斐なさを嘆いて、力がないからと弱音を吐いて。こんな独りよがりのために、力を借りなければいけないことを、俺は望んでいないようで望んでいる。

 

「……そろそろ、戻らないとな」

 

ゆっくりと病室のドアを閉めて、俺は息を吐く。考えをまとめたいところだが、いつまでもトイレを言い訳にはできない。どれだけ長いんだと、有咲や沙綾あたりに笑われてしまう。

 

「……あっ!いた!」

 

……え?この声は、もしかして。

 

「翔君!」

 

「り、りみ……!?な、何でここにいるんだ?」

 

「戻ってくるのが遅いから、めっちゃ心配したんよ!翔君に何かあったら、うち耐えられへんから!」

 

「お、落ち着け。ここ病院だし、関西弁になりかけてるぞ?」

 

「え、えっ!?///」

 

待て待て、おい。探しに来るのは予想外だったぞ!?しかも見られたくない場面を、見られたくない人に見られるなんて……!

 

「で、でも翔君。どうしてこんなところに?こっちって、病室と逆方向だよね……?」

 

「そ、それはな……」

 

いや、俺の方こそ落ち着け。ここは冷静に、この場を切り抜ける事だけを考えろ。どうにかして、辻褄を合わせるためには……。

 

「ほ、ほら。みんな美羽と会うの初めてだっただろ?だから、女の子だけで話したい事もあるだろうと思ってさ。しばらくこの辺にいようかなって思ってたんだ」

 

よし、どうだ!これで何とかしのげるか!?

 

「そ、そうだったんだ……よかった……。私、翔君がいなくて心配だったから……」

 

「悪かったな。もうちょっとマシな事言って出て行けばよかったな」

 

「ううん。翔君、私たちに気を遣ってくれてたんだね。ありがとう」

 

何とか乗り切れたみたいだな……。沙綾とかだと、言及してきそうで怖かったんだけど。

 

「余計なお節介だったか?わざわざ探しに来てくれたんだろ?」

 

「そんな事ないよ。翔君はやっぱり優しいな……」

 

「な、何かちょっと恥ずかしいな……。けど、りみも探しに来てくれてありがとな」

 

「お、お礼なんていいよ。ずっとお礼を言いたかったのは、私だから」

 

「りみが?」

 

「うん。私がバンドの事で悩んでいた時、背中を押してくれたのは、翔君だったから」

 

急に改まった口調になったりみを見て、俺は戸惑いを隠せない。だが、りみは構うことなく言葉をつづけた。

 

「周りの事を気にして、何もできないって思い込んでた。迷惑だとか、香澄ちゃんに恥をかかせてしまうとか……。そんな風にしか考えられなくて、自信が持てなかったから」

 

「…………」

 

「でも、そんな私にバンドに入る勇気をくれたのは、翔君だから。もっと自分に自信をもってって。あの時私に言ってくれた言葉のおかげで、少しずつだけど……変われた気がするんだ。あのグリグリのライブだって……」

 

香澄たちのおかげで成功した、グリグリのライブ。でもそれは、りみも協力もなかったら成し得なかったことだ。

 

最初に出会った時は、とにかくオドオドしていた女の子だった。同じクラスにいたはずなのに、言われるまで気づかないほど記憶に残らない、後ろ向きな性格の女の子。

 

でも、話をするうちに、本当は楽しくて面白くて……気の合う子なんだって気づくこともできた。内に秘めた、バンドへの思いを知る事だって。その陰に潜んでいた、葛藤を知ることも。

 

自分に自信が持てなくて、一度はバンドを辞めると言い出して。それでも、舞台度胸を見せて、自分のベースをステージの上で披露した。舞台袖から見ていたが、それがとにかく嬉しかった。

 

 

りみは、変わることができた。それを実感した。

 

 

「だから、ありがとう翔君!私を香澄ちゃんのところに、導いてくれて」

 

「大げさだな……」

 

「あれからタイミングが見つからなかったけど……どうしても、伝えたい言葉だったから」

 

伝えたい言葉……か。

 

だったら、俺にだってある。今、その言葉が生まれた。

 

「……りみ」

 

「何、かな?」

 

純白のベッドに横たわる、銀髪の少女。いつ見ても、何をしても、変わることのない少女。

 

 

でも……目の前の少女は。

 

 

「俺の方こそ、ありがとな」

 

「え……え、えっ?ど、どうして……!?///」

 

「な、何でって……お、俺も言いたかったから……だよ」

 

「翔君……///」

 

「ほ、ほら!みんな待ってるんだろ?早く戻らないと!」

 

「う、うん!」

 

何故か頬を赤く染め、瞳を輝かせて俺を見つけるりみ。その姿がいつもよりも女の子らしく見えて、焦りそうになる。照れ隠しで踵を返し、俺は顔を見られないように病室へと帰る。

 

「…………」

 

 

そんな俺の中には、焦りと羞恥以外にも、別の感情が芽生えていた。言うならば、それは……希望。

 

 

俺の言葉で、行動で、変われた人がいる。俺にそう証明してくれた人が、確かにいる。

 

 

なら、彼女だって……あの病室の少女だって、変えられるのかもしれない。

 

 

もしかしたら、俺も……誰かの心に寄り添い、動かして見せるくらいなら、できるのかもしれない。

 







美羽との時間も終わり、また日常が戻ってくる。



目指すのはクライブ。その舞台に向け、香澄たちの練習にも熱が入る。



その熱に誘われるように、心が揺り動いた人物が――。



次回「微かな胎動」

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