BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!今月は少し忙しい……。書ける時に書かないとな!

お気に入り登録も感謝です!見てくれている人も増えて、本当に嬉しいです!

これからも頑張るので、よろしくお願いします!どうしても書きたい話が、この先にあるから……!

では、どうぞ!


phrase32 微かな胎動

「へぇ……『私の心はチョココロネ』か。なかなかいい曲じゃん、りみ」

 

「あ、ありがとう翔君。それで、この曲をクライブでやろうと思ってるんだけど……」

 

「いいと思うよ。俺は賛成だな」

 

「よかった……」

 

美羽のお見舞いに行った次の日。俺は休み時間に、クライブの事でりみから相談を受けていた。演奏する曲の事で、少し不安があったみたいだった。

 

教室の隅で、俺はりみにイヤホンを借りて、その曲を聞く。初めてと言っていたが、なかなか悪くない曲だ。歌詞も可愛いし、メロディーも明るく弾んでいる。

 

聞き終わり、イヤホンを返した時のりみは、恥ずかしそうにしていたが。

 

「香澄たちもいいって言ってくれたんだろ?」

 

「そうだけど……翔君にも聞いて欲しかったから」

 

「俺にも?」

 

「お姉ちゃんに手伝っては貰ったけど……やっぱり、私が初めて作った曲だったから。翔君の意見も、聞いておきたくて」

 

俺は曲を作ったことがないからわからないが、相当難しい話なんだと思う。詞を作り、そこに合わせるメロディーを考え、最後にそれら二つを上手く調和させる。完成するまでの工程は、かなり大掛かりだ。

 

まず詞を作る時点で心が折れそうだし、作曲だって何をどうすればいいのかわからない。それを形にして、歌にしたりみは本当に凄いと思う。

 

初めてで自信がなかったのはわかるけど、これは胸を張って誇ってもいいことだ。俺には絶対に真似できないことだからな。

 

「それに、翔君も演奏するから、やっぱり曲の事は知っててもらいたかったから」

 

「そうだな。俺も演奏……ん?」

 

「えっ?」

 

「……ちょっと待ってくれよ、りみ?今、俺の聞き間違いじゃなかったら、俺も香澄たちと一緒にクライブするって感じだったと思うんだけど」

 

「え、そ、そうだけど……」

 

そうだけど!?おい、ちょっと待て。いつ、どこでそんな話になった!?俺は全然知らないぞ!?

 

「あ、あれ!?翔君、香澄ちゃんから聞いてなかったの!?」

 

「いや、聞くも何も……今りみから初めて聞いたんだけど」

 

「か、香澄ちゃん……」

 

そうかよ、あいつの差し金かよ。突拍子もなくこんな事に巻き込んでくるのは、あいつしかいないと思ってたけどな!

 

「じ、じゃあ私から説明するね。実は、翔君にはクライブで一緒にドラムとしてライブしてほしいんだ。ミニライブだし、正式なバンドじゃないから、今回だけって形で参加してほしくて……」

 

「……その発案者は?」

 

「香澄ちゃんです……」

 

全く……。放課後になったら、香澄にきつく言っておかないといけないな。頼みごとがあるなら、早めに言ってほしい。

 

「はぁ……。何か悪いな、りみ」

 

「そんなの大丈夫だよ。こっちこそごめんね?」

 

「りみが謝る事なんてないって。で、クライブの件だけど」

 

「引き受けてくれる?」

 

「もちろんだ。ドラムできる人を探すには、時間もかかるからな。俺が臨時メンバーって事で、香澄たちに協力するよ」

 

「ありがとう、翔君!」

 

俺が承諾したのを見て、りみも満面の笑みを俺に向ける。その笑顔が何だか眩しくて、俺は気恥ずかしくなりながら、休み時間の終わりのチャイムが鳴るのを聞いていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「うぅ、痛いよなーくん……」

 

「当たり前だ!何でりみが俺にクライブの事を頼まないといけないんだよ!」

 

「ギターの事で頭がいっぱいになっちゃって……」

 

で、放課後。俺たちは有咲の蔵に集合し、早速クライブに向けての練習を始めていく。が、その前に今回の件について香澄を叱っておく。

 

「ったく……次からは気をつけろよ?それと、香澄の代わりに頼んでくれたりみにお礼言っておけ」

 

「は~い……。ありがとね、りみりん!」

 

「う、ううん。大丈夫だよ」

 

さて、香澄も反省したことだし、ここからが本番だな。私の心はチョココロネ。その練習を始めていく。

 

楽譜はりみが用意してくれたみたいで、早速中に目を通してみる。……よし、特に難しい点はなさそうだ。これなら本番までには叩けそうだな。

 

他の譜面はまだ見ていないが、この分だとギターの譜面も比較的簡単なコードで構成されているだろう。初心者の香澄でも、何とか本番までには間に合わせられるか。

 

「じゃあまずは、各自で練習してみるか。音合わせは、一通り済ませてからって事で」

 

「そーだな。自分のパートは確認しておかないとな」

 

と言う事で、早速個人練習を始める事に。時間もそうそうないし、とりあえず全部通して弾いておきたいからな。しばらく時間を取り、俺はリズムを頭の中に叩き込む。

 

スティックを握り、邪魔にならない程度に軽く叩く。家で叩くような感覚とは違う。いつもは美羽か、俺1人で練習していたが……こんなに大勢での練習は初めてだ。

 

 

誰かと練習するだけなのに、こんなにも楽しく感じるなんてな……。

 

 

「…………」

 

時間にして、1時間くらいが経っただろうか。ある程度練習を終え、俺は何となく手ごたえを感じていた。

 

有咲もまだぎこちなさはあったものの、何とか形になっていた。まだまだ練習は必要だが、本番までにはどうにかなる。ピアノをやっていたと聞いたことがあるが、その経験が活きているのか。

 

さて、問題は……。

 

「りみりん、この楽譜どう読むの?コードが書いてあるけど、弾き方わかんなくて」

 

「え、えっと……香澄ちゃんはTAB譜の方がよかったかな?」

 

「TAB譜?」

 

この二人。いや、りみは問題ないか。本当に問題なのは、香澄。

 

音を鳴らす以前に、まず楽譜の読み方がわからない。コードも覚えたてのものしかないし、練習云々よりも、どう弾けばいいのかを覚えるところからのスタートだった。

 

そのため、楽譜を覚えるよりも弾き方を教わるところに時間がかかってしまい、まだ最後まで一通り通してもいない状況に。さすがに見かねて、俺は少し助け舟を出してやろうと身を乗り出す。

 

「押さえる弦とフレットが書いてある譜面の事だ。で、このコードだと……4弦の5フレットを押さえるって事だな」

 

「翔君、詳しいんだね」

 

「美羽の影響でな。これくらいの知識は、知らない間に覚えてたんだ」

 

「さすがなーくん!で、4弦の5フレット……うん、押さえたよ」

 

りみも大変だな……。自分のベースの練習もあるのに、香澄の事で手を焼いてしまっているんだから。有咲もその体たらくを見かねたのか、少し口をはさむ。

 

「おい、翔。いつになったら、香澄はまともに練習できるわけ?」

 

「俺に聞くなよ。こいつだって必死なんだし、長い目で見てやろうぜ?」

 

「いやいや、クライブまでもうあまり時間ねーんだぞ?そんな悠長な事言ってる場合じゃねーっつーの」

 

「それはわかってるよ。音合わせもしないといけないし、何をするにも香澄次第だ。だったら俺たちは、少しでもミスなく合わせられるように自分のパートをどうにかするしかないんじゃないか?」

 

「それは、まぁ……」

 

とは言え、譜面を読むのに二人掛かり。下手をすれば、今日の香澄の練習はそれだけで終わってしまう。

 

「次は1弦の7フレットかな?あれ、違うかも?」

 

「ううん、合ってるよ。香澄ちゃん、押さえてみて?」

 

「押さえて……と。うぅ……なーくん、指疲れてきた~」

 

「お前なぁ……」

 

ギターを弾こうとしている奴が、コード押さえるだけで音を上げていてどうするんだよ。そこから音出さないといけないし、香澄はボーカル担当でもあるから、さらに歌も入ってくるんだぞ?

 

これ……本当に大丈夫なのかどうか、不安になってきた。

 

「はぁ……しゃーねーか。もう1回、キーボード練習するか」

 

「ごめんね、有咲。知ってるコードもそんなにないから、楽譜見ただけじゃどう弾けばいいのかわかんなくて……」

 

「ったく……仕方ない。こうなったら、最終兵器だ」

 

「えっ、ちょっと待て翔。あいつ呼ぶのかよ」

 

「最終兵器と言っただろうが。向こうもその気みたいだし、今のままだと何日かかるかわからない」

 

せっかく教えてくれると言ってくれたんだ。ここで力を借りなかったら、俺たちのクライブはこのまま終わってしまう可能性だってある。

 

だから、まぁ……気は乗らないが、あいつを呼ぶことにしようか……。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「呼ばれたよ~」

 

「おう、来てくれたな。たえ」

 

「来やがった……」

 

と言うわけで、最終兵器の登場。連絡してからすぐに、たえは来てくれた。

 

たえを納得させる勝負。それがクライブだ。当然敵だし、呼ぶと言うのも筋違い。俺も最初はそう思っていたから、代替案として美羽に助っ人を頼むつもりでいた。

 

けど、美羽が病気で倒れ、入院してしまったこと。頼れる相手がたえしかいなくなってしまったこと。そして、香澄の強い意志によって、たえが二つ返事で協力してくれたこと。

 

それらが重なり、今たえはここにいる。香澄の力となるために。

 

「もはや花園さんの立ち位置がよくわかんねぇけどな……」

 

「そう言うなよ。たえ、よろしく頼む」

 

「お任され。それで、私は何を教えたらいいの?」

 

せっかく来てくれたんだ。ボーっと突っ立っていても時間が過ぎていくだけ。早速、りみがギターの楽譜を片手にわからない箇所を尋ねる。

 

「ギター、わからなくてごめんね。教えてほしいのは、この譜面の曲なんだ」

 

「えっと……私の心はチョココロネ、か。可愛いかも」

 

「それ、りみりんが作った曲なんだよ!すごいよね!?」

 

「うん、すごいよ。今の『私の心はぜんざい』って気分かな」

 

いや、知らないから。話を急に飛ばすな。

 

「有咲、アンプ借りるね」

 

「えっ、う、うん……」

 

楽譜をりみから受け取り、曲を確認。しばらく無言で目を通した後、たえは有咲からアンプを借りてギターを準備する。

 

「……よし」

 

と、たえがギターを構えた瞬間、彼女の中で何かスイッチのようなものが入った。さっきまでふざけていたのに、それが嘘のように真剣な表情に変わる。

 

楽譜を再度チェックし、コードを軽く確認。呼吸を整えた後、たえは弦に手をかける。

 

「「「……っ!」」」

 

それは、さすがというしかなかった。俺は一度聞いたことがあったから、たえの技術は知っている。

 

だが、香澄たちは……たえが真剣にギターを弾くところは初めて目にする。すぐに曲を弾いて見せた適応力と、演奏力の高さに舌を巻く。

 

美羽の時と同様に、ギターの演奏に集中していた。それほどの演奏だった。さすが、経験者は違うって事か。

 

「すげーじゃん……。いっつもあんな感じなのに」

 

「おたえちゃん、すごい……!」

 

「お、おたえ、もう1回!動画に撮らせて!」

 

「もちろん!あ、弾く前に何かポーズとか取った方がいい?」

 

「とらなくていいっつーの!」

 

たえが来たことで、滞っていた香澄のギター練習も進みそうだ。香澄もふざけているようで、やる気はしっかり持っているからな。

 

それに……。

 

「えっ、動画撮ったらダメなの?」

 

「ポーズを取るなって言ったんだよ!香澄には言ってねー!」

 

「それじゃあ、有咲も一緒にポーズ取ろう。ほら、こっち」

 

「話聞いてたか!?」

 

「りみも、翔も。全員でポーズ!」

 

「周りを巻き込むな!話をややこしくするな!」

 

「あ、アハハ……。おたえちゃんって、かなり自由なんだね……」

 

「あぁ……。覚えておけよ、りみ……」

 

「う、うん……?」

 

 

ま、こんな感じでグダグダにはなっているけど……。

 

 

おたえが来てから、空気が賑やかになった気がするんだよな。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ねぇ、翔」

 

「何だよ、たえ」

 

「ウサギって可愛いよね」

 

「どっからウサギ来た」

 

翌日。今は昼休みだ。俺たちは先に中庭に向かった香澄たちのところに向かっている最中だった。

 

にしても、いきなりだな。さっきまで俺たちは、クライブに向けての話をしていたはずだったんだが。切り替えが急すぎる。

 

「……まぁな。フワフワしてるし、綿あめみたいだ」

 

「うん。食べたいよね」

 

「そうだな……って、はい!?」

 

今こいつ、何て言った!?おたえワールドにはもう慣れっこだ。だが……俺の耳が腐っていなかったら、ウサギを食べたいとか言わなかったか!?

 

それはさすがに俺も引くぞ。お前、家でウサギ飼ってるんじゃないのかよ。まさか、食用で……!?

 

「ちょ、早まるな!それはアブノーマルすぎる!」

 

「え?だっておいしいじゃん。いくらでも食べられるよ」

 

こいつ、イカれているのか。言動こそぶっ飛んでいるが、良識はあると思っていたのに……。

 

たえ、もしかしたら俺は、お前を見る目が変わるかもしれない。

 

「……お前は、ウサギに対して愛着がないのか」

 

「え?もちろんあるよ?」

 

「違う!たえがウサギに対して抱いてるものは、愛着なんかじゃない!胸に手を当てて考えてみろ!」

 

「……?はい」

 

「って、俺の胸じゃねぇよ」

 

自分の胸だ、自分の。たえの手を取って胸に押し付けてやるが、どうもピンと来ていない。

 

本当に、悪い意味でぶっ飛んでいるのか……?いや、そうじゃないと信じて、俺は熱く言葉を投げかける。

 

「ウサギは愛でるものじゃないのか?そうだろ!?」

 

「うん、そうだよ。ウサギ最高」

 

「あぁ、そうだ。だったら何でたえは、ウサギを……動物として見られない!?決して、自分の腹を満たすために食っていいものじゃないぞ!?」

 

「ひっ……!?し、翔!?何でそんな怖い事言うの……!?」

 

 

……ん?

 

 

「は?何でって……お前言っただろうが。食べたいって。いくらでも食べられるって」

 

「誰が言ったの、そんな事」

 

いや、お前だよ。

 

「てか、何か話が噛み合ってない気がするな……。お前、俺がウサギの事をフワフワしてて綿あめみたいだって言ったら、食べたいって言ってただろ」

 

「うん。だから『綿あめ』食べたいって」

 

「……は?」

 

……ちょ、ちょっと深呼吸させてくれ。

 

ス~ハ~……ス~ハ~……。

 

よし、落ち着こう。で……こいつ今、綿あめとか言ってた気がするんだけど。

 

あれ、ウサギは?何でいきなり綿あめに話が飛んで……?

 

 

『……まぁな。フワフワしてるし、綿あめみたいだ』

 

 

こいつ……『綿あめ』の部分だけ反応して、話続けやがったな!?そう言う事か!?

 

あの流れなら、絶対にウサギを好んで食べる狂人の話だと解釈してしまうだろ。こういう事があるから、たえと話すのは体力を使う。香澄以上にな。

 

「人であることを疑うところだったぞ」

 

「え?翔は綿あめ嫌いなの?」

 

「そう言う話じゃねぇんだよ」

 

「後でお弁当のおかず、何か交換しようよ」

 

「綿あめの話はどこに行った!?」

 

……本当疲れる。前後のつながりをもう少し意識して話をしてくれ……。

 

「お~い、なーくん!こっちこっち!」

 

と、気が付けば中庭に到着。ベンチに座る香澄が、俺を大声で呼んできた。中庭にいるの、俺たちだけじゃないんだぞ……。変に注目されるから恥ずかしいんだけど。

 

それに、ブンブンと手を振っている姿はまるで子供みたいだ。成長していないと言えば、していないのかもしれないが。

 

 

少なくとも、変わってはいるんだよな。

 

 

「遅かったね、翔。それに花園さんも。日直の仕事」

 

「翔が頑張ってくれたから」

 

「半分以上、俺がやってた気がするんだけどな」

 

「SPACEでも頑張ってるから、これくらい問題ない」

 

「お前はどこ目線にいるんだよ」

 

日直がどうとか言っているが、俺は日直じゃないからな?『たえ』が日直だからな?

 

俺は手伝っただけなんだが、最終的にはほとんど仕事押し付けられたし。次にバイト一緒になった時には、少しあいつをこき使ってやろう。一応、俺の方が先輩だからな。

 

「おい、翔。何か疲れてね?日直の仕事だろ?」

 

「……俺がたえといる事が、全てを物語ってるだろ」

 

「アハハ……翔君、お疲れ様」

 

こうやって心配してくれるだけでも、俺は嬉しい。ありがとな、りみ。

 

「あっ、そうだ。二人にもお願いしたいことがあるんだけど……クライブの時にお姉ちゃんが見に行きたいって言ってるんだ。来てもいいかな?」

 

「ゆりさんが?へぇ、そいつは下手なライブはできないな~?」

 

「うっ……。なーくん、何でこっち見たの~……?」

 

「気のせいじゃないか~?ま、俺は大丈夫。むしろ嬉しいよ。観てくれる人が少しでもいるんだからさ」

 

せっかくライブするんだ。観客がいてくれるなら、俺たちだってやりがいはある。けど、ゆりさんが来るのは、少し緊張するよな……。

 

「グリグリのゆりさんが……!」

 

「お、おたえちゃんは緊張しなくても……」

 

「あ、うちのばあちゃんも呼んでいいか?何か見たいって」

 

「もっちろんだよ!おばあちゃんにも見てもらおう!私もあっちゃん誘ってみようかな~?」

 

どんどん人が増えていくな。俺も……あ、美羽はさすがに来られないか。残念。

 

「あ、さーやも来て!」

 

「えっ、私?う~ん……行きたい気持ちはあるけど、時間どうだろ――」

 

「来て!!」

 

「えぇっ!?は、花園さんまで!?」

 

あまりの押しの強さに、沙綾もたじろいでいる。そこまで言われたら、沙綾も引き下がるしかなかった。

 

「わ、わかったわかった。少ししか顔出せないかもしれないけど、それでいい?」

 

「うん!ありがと、さーや!」

 

「賑やかになるね、香澄ちゃん」

 

「いっぱい見に来てくれるから、私たちも練習頑張らないと!」

 

ライブらしくなってきた。これは香澄の心配だけじゃなくて、自分の心配もしないといけないな。

 

何たって、ドラムはバンドのリズムの中心。俺がしっかりしないと、全体のリズムも狂ってしまう。

 

あいつらがしっかりと演奏に集中できるように、俺がリードしてやらないと。そのために、ミスなく叩けるようにリズムを頭に叩き込んで……。

 

「……あ」

 

「どうしたの、なーくん?」

 

「あ、いや……何でもない」

 

俺は今まで、香澄がバンドを結成できるように、そのためのサポートだけを考えてきた。脇役に徹して、実際にバンドの一員として何かを考えてきたことはなかった。

 

そうだ。俺は、バンドを外からしか見ていなかったんだ。SPACEで見てきた多くのバンドも、香澄たちのバンドも、俺が直接関係したわけじゃない。外から見て、触れたような気になっていただけだった。

 

でも、バンドのメンバーになって、中からバンドを見る事で、それまで見えていた世界とは違った視点から見つめ直すことができる。

 

 

そして実感する。バンドって、奥深いものなんだって。

 

 

こうして色々考えて、試行錯誤を重ねて、答えを見つけて……。その結果を、他のパートとの音の重なりによって一つに紡いでいく。

 

違った音が交わり、奏でられる旋律。その一部になる。たった1回のライブだけど、俺は確かに、香澄たちと音を合わせて形にする。

 

何て楽しい事なんだ。俺も、バンドをする喜びを知ってしまった。香澄のように、湧き上がる衝動が抑えきれなくなりそうだ。

 

 

けど、それは叶わない。

 

 

俺は男だ。こいつらとバンドをすることもできない。ガールズバンド規定法があるし、残りのメンバーが集まったら、それっきりだ。

 

 

 

けど……もし、俺とバンドをやりたいやつがいるのなら。

 

 

 

バンドが組める日が来るのなら。

 

 

 

そう思わせてくれた香澄と、一緒のステージに立ちたいと、俺はそう思ってる。

 

 

 

わかってる。ガールズバンド規定法があるし、決して同じステージには立てないことも。

 

 

 

それでも……そんな夢を見たい。見せてくれてもいいだろう。

 

 

 

その夢が現実になって、一緒にライブできる日が来ることを……俺は静かに願うことにしよう。

 

 

 







少しずつ成長していく香澄。そして合わさる、それぞれのメロディー。



奏でられた音に揺り動かされるように、たえにも変化が訪れる。



それは、今まで感じた事のなかった思い――。



次回「重なる音色」
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