BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!1日空けて更新できましたよ!

そろそろクライブに差し掛かろうとしてます!時間かけすぎだと思われそうですが、そこはまぁ……色々と理由があるんだよ。

さて、今回はクライブ前日を描く話です。何気にオリジナル。少し悲しい話になるかもしれない。

では、どうぞ!


phrase34 初めての

「クライブ、ついに明日だね。香澄」

 

「うん!今日も放課後、有咲の蔵で練習するんだ!」

 

クライブ前日。初めてのライブを目前にし、俺たちは緊張感に包まれている。まぁ、香澄は楽しそうに話題にできるあたり、そんな事なさそうなんだけどな……。

 

上手く行くかどうか。ミスしないかどうか。練習を重ねても、俺たちには経験がない。人前に立ち、押し寄せるプレッシャーと戦いながら、自分たちの演奏をやり切ると言う経験が。

 

だからこそ、どうしても不安になってしまう。小規模のライブとは言え、まだバンド初心者なんだからな。りみも有咲も、口数は少ない。たえは……知らん。けど、あいつもあいつなりに思うところはあるんだろう。

 

「……ヤベェ。さっきからずっと明日のライブの事しか考えられねぇ」

 

「うん……わかるよ、有咲ちゃん。私も、ライブって初めてだから……」

 

「まぁ、緊張するよな……やっぱり」

 

今は昼休み。天気も快晴。なのに、俺たちはとても明るい気分とは言えなかった。

 

「みんな大丈夫?そんなに思い詰めなくても大丈夫だって」

 

「そうだよ~!なーくんも、りみりんも、有咲も!明日は私たちの初ライブなんだよ!?」

 

「知ってるっつーの。だからさ、ヘマしたりしねーかって心配になるんだって」

 

「そうかもだけど!私、やっとライブできて嬉しいんだ!あの時、SPACEで見たキラキラドキドキを、やっと感じることができるんだな~って!」

 

「香澄……」

 

「そう思ったら、何だか待ち遠しくって!失敗なんてしてもいいから、今は思いっきり演奏したい気分なんだ!」

 

「「「あ……」」」

 

全く……香澄は、本当すごいな。さっきまで失敗しないかどうか、クライブが成功するかどうかしか考えてなかった俺たちの方が、よっぽどバカに見える。

 

SPACEのオーディションができるかどうか、たえを納得させられるかどうかがかかっているのに。香澄は、そんな時でも、ライブそのものを楽しもうとしていたんだ。

 

何にも縛られないで、素直な気持ちでライブに臨もうとしてる。

 

やっぱり、香澄には敵わないな。この持ち前の性格は、俺にはとても真似できそうにない。

 

「失敗は成功の元って言うし、香澄の言う通りに、難しく考えない方がいいんじゃないかな?」

 

「沙綾……あぁ、そうだな」

 

「えっ、今なんて?すっぱいは健康の元?」

 

「どんな聞き間違いしてんだよ、たえ」

 

沙綾の言う通り、俺たちは少しオーバーに捉えすぎていたのかもしれない。明日やるのは、ただのライブだ。緊張感とか、ミスとか、気にしなくちゃいけないことは、確かにあるのかもしれない。

 

けど、それだけじゃないはずだ。堅苦しく考えて演奏するライブなんか、やっていても聞いていても、楽しくなんかないはずだ。

 

香澄のように、もう少し楽しむことを意識するのも、悪くないのかもな。

 

「……で、その花園さんは何やってるの?」

 

「これ?ドラムとギターパートの音源を打ち込んでるんだ」

 

「ドラムとギター?おたえちゃん、それって何に使うの?」

 

「今日、私たち練習行けなくなっちゃったから。バイト入って」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

驚くのも無理はないが、急にバイトが入ってしまった。人手が足りなくなってしまったらしく、急遽俺とたえが呼び出されることに。

 

まさかこんな日に限ってバイトがあるとは。前日だし、最後に合わせて練習したかったんだけどな……。こればっかりは仕方ないか。

 

「ってわけだ。今日の練習は、たえが今作ったドラムとギターの音源を使って練習してくれ」

 

「えぇ~……。なーくんたちと一緒に練習したかったよぉ……」

 

「仕方ないだろ。バイトはバイトだ。ほら、たえ。香澄に音源渡してやってくれ」

 

「うん。香澄、この音源を私の形見だと思って……」

 

お前は放課後何しに行くつもりなんだよ。ただのバイトで大げさなんだよ。

 

「けど、ドラムがいないのってかなり大きいんじゃね?」

 

「打ち込みの音源はあるけど……やっぱり、翔君のリズムもあるから……」

 

「まぁそう言うなって、二人とも。明日の本番前に、1回くらいリハーサルする時間もある。そこで最終確認できるし、今日は悪いが、それで我慢してくれ」

 

「そっか……うん、わかった。なーくん、バイト頑張って来てね!」

 

「お、おう」

 

香澄……不意打ち気味にその笑顔は、ちょっと反則だからな?

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「じゃあね、なーくん!また明日ね~!!」

 

「おう!そっちも練習頑張れよ!」

 

そして放課後。香澄たちは最後の追い上げにかかるべく、有咲の蔵へ。俺たちはSPACEの方へと向かい始めた。沙綾も方向が一緒のため、今日は3人だ。

 

「何と言うか……このメンバーって珍しいよな」

 

「言われてみれば、確かにそうかも。翔と一緒になることは多いけど……」

 

「私も、沙綾とこの道通るのは初めてかも」

 

クライブの練習で、りみや有咲とはよく一緒になるたえだけど……沙綾は昼休みの時にしか一緒になる事もないからな。

 

それにたえは、最近になって俺たちと行動するようになったからな。付き合いはまだ浅い。

 

「そう考えると、何だか嬉しいかも」

 

「嬉しいって?」

 

「こうして花園さんと一緒に帰るのって、何だか新鮮だから。いつもは教室とか、お昼の時間にしか一緒じゃないからね」

 

「新鮮って、私野菜なの?」

 

「知らねぇよ」

 

どんなボケだ。例えにしても、もっとマシなものがあるだろうが。

 

「けど、大変だねぇ。今日はバイトで、明日には本番……。ちゃんと休まないとダメだよ?」

 

「大丈夫。バイトはバイト。クライブはクライブだ。練習できないのは痛いけど、昨日まで何もしなかったわけじゃないんだ。きっと上手く行く」

 

「花園さんも、明日は大丈夫そう?」

 

「うん、私も大丈夫」

 

まぁ、たえに関しては大丈夫だろう。元から技術はあるからな。ミスが一番少ないのも、ハッキリ言ってたえだからな。

 

「けど、花園さんも演奏するんだね?この前は、勝負事みたいな話になってたと思うんだけど……?」

 

「香澄に誘われたから。一緒にライブしたいって」

 

「そ、そうなんだ。香澄らしいと言えば香澄らしいかも……」

 

その一言で片付いてしまう方が恐ろしいんだけどな……。

 

「ま、たえに助けられてる部分もあるし、演奏に入ってくれるのはありがたいけどな」

 

「えっへん」

 

どや顔でこっち見るな。

 

「アハハ……。花園さん、かなり重要って感じみたいだね」

 

「そうなの?私は、香澄たちと一緒に演奏できるなら、それだけで幸せだよ」

 

「それはもう少し危機感を感じてもらいたいな……」

 

「でも、私今嬉しいんだ。誰かと音を合わせる事が楽しい事だって、それを教えてくれたのは香澄。みんなと一緒に練習して、曲を弾いて。それがすっごく楽しいんだ」

 

香澄と同じように、ライブができる事が……いや、そうじゃない。誰かと音を合わせ、演奏できるだけで、たえは幸せなんだ。演奏そのものに楽しさを感じているのは、香澄もたえも同じか。

 

「1人でギター弾いてる方が、気楽だし楽しかったのに。何でだろう?今は香澄と、みんなと演奏してる時間の方が……楽しいんだ」

 

「……そうか」

 

演奏が楽しい。みんなと、音を合わせるその時間が。たえは確かに、俺たちの前でそう言った。

 

 

ただ……そこに込められた思いは、香澄の持つ楽しさとは決定的に違う。

 

 

「そっか。演奏を楽しんでるんだね、花園さんは」

 

「うん。今の私、今まで以上にギターを楽しんでる気がする」

 

「なら、楽しみだな。そんな花園さんの演奏が。もちろん、翔や香澄たちの演奏もね」

 

俺たちの演奏を、ここで期待してくれる人がいる。それだけで、明日の本番も頑張れるような、そんな気がした。

 

「あぁ。明日は成功させる。せっかく沙綾も見に来てくれるんだからな」

 

「沙綾も一緒にライブしてもいいんだよ?」

 

「ちょ、お前勝手に話を広げるな。それはさすがにアウトだから」

 

「あ、アハハ……。私も、明日はしっかりこの目で、香澄たちの練習してきた成果を見届けるよ」

 

そうだな。たえがこっちに回ってしまったんだ。香澄がオーディションを受けるのにふさわしいかどうか、見てもらわないといけない。

 

その役回りは、沙綾に託す。俺たちは、俺たちにできる事をやるんだ。

 

「……お、やまぶきベーカリーに着いたな」

 

「いい匂い……」

 

「じゃなくて。じゃあ、俺たちはバイトあるから。時間もないし、もう行くよ」

 

「あっ、ちょっと待って」

 

話している間に、やまぶきベーカリー前に到着。久しぶりに、ここのパンのにおいをかいだ気がする。だが、俺たちはここに長居しているわけにはいかない。遅れたらオーナーに怒られるからな。

 

そう思ったが、沙綾は急いで店の中に。待っててと言われたら、無視していくわけにもいかないが……もしかして。

 

「沙綾、何しに行ったのかな」

 

「このパターンは……前にもあった」

 

「えっ?」

 

「ごめん、お待たせ!はい、これ差し入れのパン!」

 

やっぱり。前と同じように、紙袋いっぱいのパンが。慌てて選んだからか、少し紙袋がつぶれている。

 

「またこんなに……いいのか?」

 

「バイトお疲れ様って気持ちと、クライブ頑張ってねって気持ちを込めて、ね?」

 

「美味しそう……」

 

「だから違うって、たえ。ありがとな、沙綾。またみんなも喜ぶよ」

 

「どういたしまして。……翔のためなら、これくらいいつでもしてあげるのに」

 

「うん?何か言ったか?」

 

「な、何でもないよ!じゃ、私も手伝いあるから、また明日ね!」

 

それだけ言うと、沙綾は慌てて店の中に戻って行ってしまった。何か言ってたような気がしたんだが、聞き取れなかったな。

 

 

ただ……戻ろうとした沙綾の横顔は、なぜかほんのりと赤みを帯びていた気がした。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「今日の仕事は以上だ。お疲れ」

 

「「お疲れさまでした!」」

 

それから数時間後。俺たちは今日のバイトを終わらせ、控え室へと戻る途中だった。

 

スマホを見ると、香澄たちもさっき練習が終わったと連絡が入っていた。まだ詰まるところはあるが、ほとんど問題なく演奏できたとのことだ。これは明日にも期待が持てる。

 

「今日は大変だったね、翔」

 

「あぁ。香澄たちも、さっき練習終わったってさ。今帰ってるくらいだと思う」

 

「そっか。じゃあ私、着替えてくるから」

 

「おう。俺もこの服のまま帰るのは嫌だしな」

 

俺は男性用の更衣室に入り、SPACEの制服から花女の制服に着替える。他のスタッフはもう帰ったみたいで、今は俺だけが独占している。

 

「…………」

 

この制服にも、もうすっかり慣れたものだ。最初は俺自身、戸惑いや抵抗もあったけど……今は普通に、花女の一員として袖を通している。

 

他に来ている人は誰もいない、俺だけの男子用制服。女子だけの学校に入学したんだから、それも当然と言えば当然なんだけど。

 

けど……こんな制服、本当は生まれるはずなかったんだよな。ずっと女子校としてやってきたのに、いきなり男子生徒が来たんだから。それも、入った理由が個人的な問題でしかない。

 

まるで学校を私物化したような扱いだ。でも、そんなわがままが通ったのは、ある種複雑な思惑が絡み合った結果、運よくこうなったに過ぎない。

 

まさに奇跡とは、今の俺のためにあると言っても……いや、それは言いすぎか。

 

とにかく俺は、こうして花女に入って、目的のために動く一方で……香澄のバンドを支え、明日にはクライブの一員として、ドラムを演奏することになった。

 

「……クライブか」

 

規模はともかく、俺にとっては初ライブだ。こうして目前に迫ると、やはり緊張はしてしまう。香澄の言葉で、吹っ切れたように思ったんだけどな。

 

何よりも、オーディションがかかっているんだ。あいつは危機感ゼロだったが、俺は気が気でならないんだよ……。

 

けどまぁ、香澄のやる気は本物だ。りみや有咲も、やると決めたからには真面目に練習に励んでいた。その気持ちだって、棒に振るわけにはいかない。

 

と言うよりも、たえも香澄たちと――。

 

「翔、何してるの?もう着替え終わったよー」

 

「うわっ!?ちょ、もうちょい待て!まだ着替え終わってないんだ!」

 

「翔、着替えるの遅くない?」

 

「うるさい。ドアの前で待ってろ」

 

あいつ、着替え早くないか?いや……俺が考え事をしすぎただけか。

 

俺はすぐに制服に着替え、控え室のドアを開ける。ノブを回し、ドアを引いて開けると、そこにはギターを背負い、髪の毛をクルクルと弄って待っていたたえが。

 

……何故か、ドアに密着するくらいの至近距離にいたが。

 

「何でそんなに近くで待っていたのか、30文字以内で説明しろ」

 

「う~ん……ドッキリ?」

 

「どうして疑問形だ」

 

「翔だって質問してるよ?」

 

会話になってない。てか、このドアが押して開けるタイプだったらどうしてたんだよ。そんな待ち方されてるの知らないから、俺がドア開けた途端に思いっきり顔ぶつけてたぞ。

 

それに、そろそろボーっと突っ立ってるのもやめてほしい。黙ってたら美人だし、至近距離だと恥ずかしい。

 

「まぁいい、とりあえず行くぞ。俺が出られないから、部屋の出口で仁王立ちなんかするな」

 

「入口じゃないの?」

 

たえから見たらそうなんだけど!俺は控え室から出るんだから、出口になるだろうが!

 

「……どっちでもいい。オーナーだって、後始末とか施錠とかあるだろうし、邪魔にならないうちに早く出るぞ」

 

「りょうか~い」

 

ったく……。バイト中は真面目なのに、終わるとすぐに天然に戻ってしまう。ただでさえ疲れてるのに、帰る時もたえに振り回されないといけない。同じ電車通学だしな……。

 

「ところでさ」

 

「何だよ、たえ」

 

「翔って女の子なの?」

 

言ってる側から来たよ。俺は苦い顔をしながら、SPACEを出て歩き出した。

 

「黙ってるって事は、もしかして……!?」

 

「いや、何でだよ。呆れて何も言えなかっただけだ」

 

「だって、さっき着替えるの遅かったから。そう言うのって、女の人の方が時間かかるって聞いたことある」

 

本当かよ。適当な事言ってるだけじゃないだろうな。

 

「……俺を見ろ」

 

「えっ……?も、もしかして、ここで告白とか……?ちょっと気が早く――」

 

「違ぇよ!何でこの流れでたえに告らないといけないんだよ!」

 

「あぁ、よかった。私、そう言うのはもっと場所とか考えてほしいなって思ってるから。期待してるよ」

 

「何の期待だ。俺の告白はもう確定してるのか」

 

「プリーズ」

 

「何で英語にしたんだよ」

 

「意味は……特にないかな」

 

「ないのかよ!」

 

もうツッコミが止まらない。そもそもボケとして成立しているのかどうかも怪しいからな。脈絡とか気にしないでどんどん言いたい事ぶっこんで来るから、たえはわけわからないんだろうな……。

 

「てか、話それた!俺を見て、女子に見えるかどうか聞きたかったんだよ!」

 

「……?翔は男の子だよ?」

 

「わかってるよ!」

 

「でも、花女の制服って事は……まさか、そっち系だったり?」

 

「普通に女の子好きだよ!俺は健全な男の子だからな!?」

 

「大丈夫。翔は男の子だよ」

 

「じゃあ何で女の子じゃないかって聞いてきた!?」

 

「……何で怒ってるの?」

 

「こ、この……っ!」

 

正直、1発くらい殴ってやりたい。けど、さすがに女の子に手を出すのはご法度だ。よく耐えてるぞ、俺。

 

「でも残念だね。今日はクライブの練習、行けなかった」

 

「ん?……あぁ、そうだな」

 

いきなり話変わるんだな。それはそうと、本当に名残惜しそうに話すたえは、クライブを心から楽しんでいるみたいだった。

 

「明日が本番なのに、今日は香澄、ちゃんと練習できたかな?有咲もりみも、音源だけで大丈夫だったかな……?」

 

「たえ……ははっ」

 

「どうしたの翔?頭おかしくなった?」

 

うるさい。人が感心してるのに、マジで殴ってもいいだろうか。

 

「いや……たえが本当、楽しそうに話すからさ」

 

「だって、楽しみだから。香澄たちと一緒に演奏できるのが」

 

まさかたえの口から、そんな言葉が当たり前のように飛び出してくるとはな。今日の帰り道も、前の練習の時だって、たえは誰かと演奏する事に対する喜びを、熱く語っていた。

 

少し前なら、絶対にたえの言わないような言葉の数々。俺はその事を、よく知っている。香澄だって、きっと知らないはずの事を。

 

だって、俺がSPACEのバイトで、初めてたえと話した時……。

 

「私、そんなに楽しそうに見えた?」

 

「丸わかりだよ。知り合ったばかりの頃、お前何て言ってたか覚えてるか?」

 

「ちゃんと覚えてるよ。自分の事だから」

 

「ま、そうだよな」

 

 

「1人の時間にしか興味ない。1人でギターを弾いてる時間が大好き。他人とセッションするなんて、もってのほかだって」

 

 

そう。たえは……そう言い切ってしまうほどの、冷たい物を持っていた。

 

俺がこの言葉を聞いたのは、たえのバイト初日の時。何となく、休憩時間の時に話をしていた時の事だ。

 

確か……音楽の話題になったんだっけ。ライブの合間に、好きなパートの話になって……そこから話が広がって。

 

その時の言葉が、これだった。自分以外には、何も興味がない。表情こそ今と同じような飄々としたものだったけど、言葉には何とも言えない重みがあった。

 

淡々と言ってのけるから、それがなおさら深みを持たせた。彼女の抱えていた闇は、いつもの態度からは想像できないほどに大きなものだと知った。

 

そんなたえが、他人と音を合わせてバンドをすることが、楽しいとまで感じるようになっている。

 

嬉しい変化だった。それはきっと、香澄がきっかけとなって、心の扉を開いてくれたからだろう。

 

 

けど……俺は知っている。

 

 

それが変化でもなく、自力で扉を開けなかったわけでもない。まして、他人と関わりたくないような冷たさを秘めていた冷酷な人間だったんじゃない事を。

 

そうするしか、なかった事を。

 

「でも、本当に興味がなかったわけじゃないよ?バイト始めてすぐに、翔にだけ話したよね?私はどこか周りから浮いていて、近づいてくる人がいなかっただけだって」

 

軽く言いきってはいるが、たえの過去は悲しいものだった。

 

どこか抜けた、天然の目立つ発言。それゆえに、たえは周りと反りが合わなかった。

 

変わってる。意味不明。会話にならない……。そんな印象を持たれ続け、陰口を叩かれてきたんだろう。ただ仲良くなりたくて、自分をさらけ出していただけなのに、たえのその想いは、無情にも砕かれ続けた。

 

そんな性格が災いして、たえは1人になるしかなかった。手を伸ばしても、誰も掴んでくれなかった。1人でギターを弾く時間が好きなのも、過去の悲しい名残でしかなかった。

 

友達。たえには、そう呼べる人が誰もいなかったんだ。

 

「だからね。こんな私の事を毛嫌いしないで接してくれる香澄たちには、本当に感謝してるんだ。それに、翔も」

 

「俺も……か」

 

「そうだよ。初めて私と普通に話してくれたのは、翔なんだよ?SPACEのバイト入ったばかりで、不安になってた私に、優しく声かけてくれた」

 

右も左もわからず、与えられた仕事を必死にこなしているたえを見て、俺は放っておけなかった。

 

もう少し力を抜いて、余裕を持たせて。どんな状況にも対応できるように、冷静でいなくてはいけない。俺にできるアドバイスは、たえに叩き込んだつもりだ。

 

最初はトンチンカンな事を言ってて、不思議な子だと思ってた。けど……嫌いだとか、避けたいとか。そんな風にたえを見た事は一度もない。

 

それに、さっきの冷めた言葉をバイト始めに聞いた時から、この子は悲しい奴だと思った。だからかな……放っておけなかったんだと思う。

 

何も理由なく、人を避けたいなんて思うはずない。お節介でもよかったから、俺はたえと話し続けた。独特で、面白い奴だったから一緒にいたかったってのもあるんだけどな。後は同い年だし。

 

確かに天然に振り回されて、疲れてしまう事はあるけど……たえと一緒で退屈になる事なんて、何もなかった。

 

 

早い話が、たえは俺の友達だ。

 

 

「あの時、いつも私に話しかけてくれた事……私は今でも、これからもずっと忘れない。翔はいつだって、私を変な目で見ない。自分らしくいても、何も悪く言わなかった」

 

「そんなの、当たり前だろ。たえ」

 

「その当たり前が、昔の私にはなかったから。でも、翔がいたから、私は私らしくいてもいいんだなって思えたんだ。ずっと否定されてきた自分を、ようやく受け入れてくれた気がしたから」

 

俺にとっては、何気ない気遣いから始まった。それが、たえの過去の一端を見るきっかけになって……気づけば、いつもたえに話しかけていた。

 

きっかけは単純だったかもしれない。だが、たえにとっては、それ以上の価値のある出来事だったんだ。

 

「……ったく、お前は本当に抜けてるな。そんな恥ずかしい事、よく本人の前で平然と言えるよ」

 

「翔の前だから言えるんだよ?」

 

「それを普通に言ってしまえるのがすごいって言ってんだよ」

 

「それが私だから。フフン」

 

そうだったな。良くも悪くも、それが花園たえって奴だからな。

 

「なら、明日のクライブもその調子で頑張ってくれ。たえの力は、あいつらには必要だ。俺にもな」

 

「クライブ……?あぁ、そう言えば私、クライブの話をしてたんだ」

 

こいつ、忘れてたのか。たえから始めたんだぞ、クライブの話。

 

「もちろんだよ。緊張はするけど、香澄たちと演奏する時の気持ち……もっと感じたいから」

 

「そっか……。だったら、このまま香澄たちとバンドすればいいのに」

 

「私が、香澄と……?」

 

「あぁ。香澄も上達してるとは言っても、まだまだ発展途上だ。リードしてくれる人が必要なんだよ。その役には……たえ。お前が最適なんだ」

 

クライブの間だけの関係で終わらせるには、たえは惜しい物を持っている。たえ自身も、バンドへの楽しさを見出しているんだ。悪い話ではないと思うんだけどな。

 

「話は嬉しいけど……私でいいのかな」

 

「大丈夫だ。ギターの腕は確かだし、指導も的確だ。気心知れた人がバンドに入ってくれるなら、香澄としても嬉しいと思う」

 

実際、香澄はこのクライブまでにメキメキ力をつけている。それは、たえの教え方があってこそだ。たえがバンドに加われば、バンド全体としてのレベルアップにもつながるだろう。

 

「私が、バンドに……」

 

「別に、今無理に答えを出す必要はないさ。明日のクライブで、香澄たちと本番の舞台で演奏した空気を感じてからでも、遅くはない」

 

「翔……うん、わかった」

 

それに、答えを言う相手は俺じゃない。俺はただ、たえと出会った時のようにお節介を焼いているだけだ。

 

 

たえが何を思い、何を選ぶのかは、部外者でしかない俺にはわからない。

 

 

その答えも……明日になって見ないとわからない話だ。

 

 

そんな明日は、クライブは、すぐそこまで迫っていた……。

 







来たるクライブ。初めてのライブ。



必死になって練習した日々を胸に、香澄たちは立つ。



心は震えるのか。



たえの下す決断は。



次回「私の心は」
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