BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
今回でクライブ編完結!少し急ぎ足になったかもしれないけど、下手に引っ張るよりはよかったかも。
では、どうぞ!
「飲み物はジュースでよかった?」
「はい、ありがとうございます」
有咲のおばあちゃんからジュースを受け取り、沙綾はそれを一口。束の間の休息に羽を伸ばしながら、沙綾はその時を待つ。
今日は、クライブ当日だ。たえを納得させられるかどうか、その全てがかかっている。表向きは単なるミニライブだが、香澄たちの事情を知る沙綾にとっては、不安な要素が残る。
実際のところは、話の方向がずれ始めて、沙綾にもよくわかっていない状況だが。
「香澄たち、大丈夫かな……」
練習も頑張っていたと、香澄たちからは聞いている。翔も昨日はバイトだったけど、自信ありげに話していた。それでも、心配にはなってしまう。
そんな沙綾の近くでは、別の二人が談笑していた。
「先輩も来ていたんですね、クライブに」
「あなたは、戸山さんだよね。中3の」
「えっ、私の事、ご存知でしたか?」
「ふふ。水泳部の可愛い後輩だもの。部長としては覚えておかないと」
香澄に誘われて、無理矢理やってきた明日香。それに、りみのお姉さんのゆり。
まさか明日香も、所属する部の部長がこの場にいるとは思ってなかっただろう。ゆりはゆりで、この場で後輩と遭遇するとは思っていなかったが。
「お姉さんの初ライブ、楽しみだね」
「あー……。お姉ちゃん、おっちょこちょいだから……。どっちかって言うと、心配なんですけどね」
「きっと大丈夫。りみも戸山さんのお姉さんのために頑張ってるって話、いつもしてくれたから」
「そうなんですか。あぁ、でもやっぱり、妹としては心配になるんで……」
常に何か行動がぶっ飛んでいる、元気の塊みたいな姉だ。いつも接しているからこそ、誰かと息を合わせて音を作るバンドが、果たして本当に務まるのかと、明日香は心配だった。
ゆりの言葉が救いなのだが、それも不安を解消するまでにはいかない。
「わかるな、その気持ち。私も、りみの初ライブ、上手く行くかどうかハラハラしてるんだ」
「えっ、先輩もですか?」
「もちろん。可愛い妹の晴れ舞台だよ?ちゃんと見届けてあげたいって気持ちと、成功しますようにって気持ち、ちょっぴり心配になる気持ちがグチャグチャになってる」
「私と一緒だ……」
姉妹だからこそ、感じてしまう不安や気遣い。それは妹だとしても、姉だとしても関係ない。血のつながった家族の事は、やはり考えてしまうものだ。
「そう言えば、戸山さんはバンドはしないの?」
「……へっ?私、ですか?」
「うん。お姉さんの影響とかで、バンドに興味とか持ってないのかな~って。りみも、いきなりバンドするって言いだしたから」
「……それは」
バンドに興味があるかどうか……明日香の中で、その質問に対する答えは既に出ている。
人知れず、誰にも打ち明けず、今日この日まで積み重ねた思いが……明日香にはある。あの時の突き上げる衝動が、今も体中を震わせる。忘れたくても、忘れられない。
やってみたいんだ、私も。バンドを。
今はまだ、メンバーも技術もない。行動に移すには、早すぎるけど。
少しずつ前に進むために……せめて技術だけは磨いていく。
そのために、あなたに頭を下げたんだ。
美竹蘭さん。
***
ついにこの日が来た。
クライブ当日。香澄に、いや……俺たちにとっては初めてのライブだ。観客も集まりだし、少しづつ緊張感が高まりだしている。
朝も少し早めに集まり、昨日できなかった分の練習もできた。リハーサルも問題なく終われたし、今のところは大丈夫だ。大丈夫のはずだ。
と、そんな空気に包まれている中でも……たえはやってくれた。
「紹介するね。オッドアイのオッちゃんだよ」
「「おぉ……」」
「って、何でウサギ連れてきてんだよ!」
「理由ってのをたえに求めても、まともな返答はないぞ」
「それもそうか……」
ケージに入れられて、鼻をヒクヒクさせているのは、たえの連れてきたウサギ。俺以外のみんなは家族を招待した中で、たえだけウサギって謎チョイスだからな、本当。
「可愛い!おたえの家、ウサギがいるんだ!」
「家にはもっとたくさんいるよ」
「すごい!行ってみたい!」
「じゃ、今度遊びに来てよ。有咲にりみも、翔も」
「えっ、私もかよ……」
「おいおい、遊びに行くのはいいが、今はクライブだからな?」
既に準備は済ませ、開始時間を待つだけ。そして、本番の時はすぐそこに迫っていた。
香澄がSPACEのオーディションを受けるほどの実力に達したかどうか、たえの心を奮わせるような演奏ができるかどうか。口には出さなくても、香澄だってさすがに緊張しているのはわかる。
りみや有咲も、わかりやすく緊張している。この前のきらきら星の時とは、規模は小さくても状況が全然違うからな。自分たちの曲を、自分たちで演奏するんだから。
そんなこと考えてる俺も、普通にプレッシャー感じてる。俺のドラムを誰かに披露するのは、今日が初めてだ。りみや有咲には聞かせたが、ライブとして誰かに演奏を見せた事は一度もない。
そんな俺たちを見かねたんだろう。たえはこのタイミングでウサギを見せ、少しでも場の空気を和ませようとしてくれたんだな。
緊張も、いい意味でほぐれた。こういうさりげないたえの気遣いは、前からよく目にするんだよな。実際、そこまで深く考えていないのかもしれないが。
「香澄ちゃん、本番頑張ろうね」
「うん!りみりんも、有咲も、なーくんも……おたえも!今日はキラキラドキドキしようね!」
「意味わかんねぇ。……けど、やるだけやってやるよ。そのために、今日まで練習してきたんだからな」
「打ち上げはおしるこにしようかな」
「気が早ぇよ!?」
「ストップ、みんな。そろそろ時間だ。……行くぞ!」
「「「「うん!!」」」」
談笑はここまで。俺たちは持ち場について、楽器を構える。今になって、手汗かいてきた。
リハーサルもした。失敗もなかった。きっと上手く行くはずだ。俺はリズムの要だし、下手な演奏はできないからな。
最後に軽くチューニングだけ済ませ、準備完了。全員が整ったのを見て、香澄は声を上げる。
「こんにちは、戸山香澄です!今日は、クライブに来てくださって、ありがとうございます!」
香澄のMCが始まった。沙綾に明日香、ゆりさんも静かに耳を傾けている。オッちゃんのいるケージは、有咲のおばあちゃんの膝の上に置かれていた。
「今日はおたえと……さーや、あっちゃん、ゆりさん、おばあちゃんをドキドキさせます!してくださったら、嬉しいです!」
そのたえは、何故かこっち側にいるんだけどな。
「私も……このライブが初めてで、今すっごくドキドキしてます!このドキドキを、もっと感じたい……。そんな気持ちを込めて、これから1曲、演奏します!」
さぁ、香澄。これが、お前の夢見た舞台への第一歩だ。今日はとことん、お前に付き合ってやる。
「では、聞いてください!『私の心はチョココロネ』!」
言い終わり、香澄が俺に目線で合図を送る。俺のカウントから、演奏はスタートするからな。つまりは、俺のタイミング次第だ。
いや、香澄だけじゃない。りみも、有咲も、たえも。この場にいる全員が、俺に注目している。演奏の始まる、その時を待つために。
ヤバいな……。マジで緊張する。スティック握る手、震えてないだろうな?
「…………」
でも、こんなにも期待して見てくれてるんだ。香澄だって、俺を見てる。あいつの力になれるなら、俺は喜んで協力してやる。
そうだ……やってやるんだ。練習してきた事を信じて、全力で突っ走ってやる!!
(……1、2、3、4!)
俺のカウントに合わせて、香澄たちの演奏も始まった。よし、出だしはまずまず。好調ってところだ。
だが、カウント取ったくらいで喜んでいてはいけない。むしろここからが本番なんだからな。気を抜かず、俺はしっかりとリズムを刻んでいく。4人をリードして、音をまとめ上げていかないといけない。
(みんなの音、しっかり聞かなくちゃ……!)
(焦ってミスんなよ、香澄……!)
(あんなに練習したんだもん!絶対に大丈夫!それに、なーくんもいてくれる!!)
バラバラの音が、1つに集まっていく。それは、1つの楽器では絶対に作り出せない魔法の音色。音を聞き、演奏に集中し、より洗練された音へと研ぎ澄まされていく。
みんな、目立ったミスはない。そろそろサビに差し掛かるし……最後まで落ち着いていけ。そう思いながら、4人の音に気を向けていた俺は……たえの様子がおかしいことに気づく。
演奏に問題はない。ミスもないし、リズムも安定している。だが、どこか別の事に気を取られているような……そんな様子だった。
(あ……まただ。自分の音と、みんなの音が重なっていくあの感じ……)
重なる鼓動の中、たえは1人何かを感じる。
それは、今まで感じた事のなかったもの。
(みんなの気持ちが音に乗って、伝わってくるみたい……。何だか、すごく楽しい。ドキドキする……!)
私は、ずっと1人でギターを弾いてきた。その方が気楽だったし、楽しかった。
周りの目を気にする事もない。自分らしくいたいだけなのに、変な目を向けられるのは嫌だったから。1人なら、そんな事もない。
そう思って、私は1人を選んで……いつしか、その時間の中に楽しさを感じていた。
でも、そうじゃなかったんだ。
香澄たちと一緒にギターを弾いて、音を合わせて。他の楽器の音も、そこに加わっていく。まるで、自分たちで壮大な世界を作り出しているよう。
楽しい。1人の時よりも、ずっと。こんなにもギターを弾くのが楽しいと思えたのは、初めての事かもしれない。
(もしかして今、私……!)
香澄たちとずっと、ギターを弾いていたいと思っているのかもしれない。
***
「みんなお疲れ様。すごかったよ」
「さーや、ありがと~!最後までちゃんと弾けたよ~!」
クライブも終わり、今は後片付けの最中。沙綾はまだ残っているが、明日香とゆりさんはもう帰ってしまった。
ゆりさんは、クライブに感化されてか、今からグリグリで集まって練習に行くらしい。明日香は……何やら用事があるみたいだが。
「翔もドラム、バッチリだったじゃん」
「おう、ありがとな。けど、緊張した……」
今だから落ち着いているが、終わった時には手の震えが止まらなかったからな。汗もダラダラで、心も体も疲れ切っていた。
「牛込さんもよかったよ。花園さんは……あれ?」
「おたえちゃん、さっきからずっとギター持ったままじっとしてて……」
「おたえ……?」
疲れ切っている……と言うわけではなさそうだ。演奏を終え、自分の中の気持ちを整理しているのかもしれない。
このクライブは、たえを納得させるためのものだ。ライブを振り返り、答えを出す時間が必要なんだろう。
後は……昨日言った事も考えてるんだろうな。
香澄と一緒に、バンドをやるかどうか。
「花園さんの事、気になるけど……ごめんね。私そろそろ店に戻らないと」
「そっか……。今日は来てくれてありがと、さーや!」
「私こそ、いい演奏を見せてくれてありがとう。それじゃ、また明日!」
店の手伝いなら仕方ない。沙綾は軽く手を振って、地下室を出て行った。
「にしても、成功してよかったな。ヒヤヒヤする場面はあったけど」
「イントロが終わってから、少し焦っちゃったかも」
「そこもだし……サビ始まってからの香澄の歌もな?」
「うっ……演奏に集中してしまって、声が裏返っちゃって~」
「おーい、お前ら~。ジュース持ってきたぞ~」
演奏で疲れ切った俺たちのために、有咲が5人分のジュースを持ってきた。俺たちは有咲からコップを受け取り、クライブ成功の記念と称して乾杯する事に。
「ふぃ~……。身に染みる……」
「有咲、おっさんみたいだな」
「うるせぇ。にしてもマジヤバかったな、クライブ」
「でも、楽しかったよね」
「うん!私、すっごくドキドキして、楽しかったよ!!」
たった1曲だけのライブ。でも、香澄たちは全力を注ぎ、そのための練習も何度もしてきた。だからこそ、感じる気持ちは大きい。
成功した。それが嬉しかった。香澄たちも喜んでいるが、俺だって嬉しいんだ。やり切った達成感と、その苦労を分かち合う人がいてくれることに、俺は感謝しよう。
それはまるで、あの時の星の鼓動が見せてくれたような、興奮と感動……。
「どうだった、おたえ?ドキドキした?SPACEに立てるくらい、演奏上手になったかな?」
と、今まで黙っていたたえに、香澄から本題をぶつける。ライブは成功したが、まだ肝心なところは解決していないからな。
呼びかけられ、自分がまだギターを持っていたことにようやく気付くたえ。まずはギターを外し、それから香澄に向き合う。
自然と、俺たちにも緊張が伝わってくる。さっきまでの緩んでいた空気が、嘘みたいだった。
全ての判断が委ねられ、注目されるたえ。答えを待つ香澄にたえが告げたのは……。
「ううん。演奏はまだまだだった」
「……えぇっ!?」
バッサリと一刀両断する、そんな答えだった。
「そ、そんなぁ……」
「おいおい、結局ダメなのかよ!?」
「おたえちゃん……」
空気がより一層重くなり、どう言葉をかけていいのかもわからない。たえがそう思ったのなら、それは仕方のないことだ。
だが、まだ続きがあった。
「でもね。香澄たちの気持ちは伝わってきたよ。バンドと音楽に、本気で向き合ってるって」
「おたえ……」
「気持ちか……。確かにそうだな」
ここにいるのは、香澄を筆頭に、バンドをやってやろうと集まった人ばかりだ。りみも有咲も、今日のために手を抜くことなく練習した。
だから、今日も心から喜んでいるんだ。生半可な気持ちで参加している人は、ここにはいない。
「多分……そう言う事だからかな。みんな、すごく輝いてた。一緒に演奏してるうちに、震えちゃうくらい」
「えっ、おたえ……今震えたって……!」
「うん。香澄と演奏して、震えることができたよ。震えて、楽しくて。この気持ちをもっと、みんなと一緒に共有したい」
俺が心配するまでもなかった。昨日の答えは、もう出てたみたいだな。
「私も、香澄と一緒にバンドしたい。やらせてくれないかな?」
たえが自分から、バンドに入りたいと頼み込む。後は、みんながどう思うかだ。
「えっ!?おま、入るのかよ!?」
「有咲、ダメ?」
「うえっ、い、いや……ダメとは言ってねーけど……」
「私はいいと思うな。おたえちゃんがいてくれると、頼もしいな」
りみと有咲は(有咲は微妙だったが)、快く受け入れてくれた。後は、香澄の返事だけ。
「香澄はどうかな?ダメ……?」
「…………」
呼ばれた香澄は、無言でわなわなと震えていた。まさか、ダメだったのか?香澄だって、たえに入ってもらいたいと言っていたのに。
「香澄?」
「……もっちろんだよ、おたえぇ!入って、バンド!大歓迎だよ!!」
いや、そうじゃなかったらしい。嬉しくて、興奮のあまり震えていただけだったみたいだ。
「よかったな、香澄。これで4人目だな」
「嬉しいよ~!おたえ、これからもよろしくね!!」
「こちらこそ、不束者ですが……末永くよろしくお願いします」
「何で結婚みたいになってんだよ!?」
有咲のツッコミが地下室に響き、誰からと言わず笑いが起こる。香澄と、有咲と、りみと、そして……新しい仲間、たえ。
これで残るは後1人。ドラムだけだ。バンド結成まで、そう時間はかからないのかもしれない。
何はともあれ、今はメンバーが増えたことを……ただ笑って、迎え入れることにしよう。
1つの節目を迎え、物語は新たに動き出す。
残るメンバー。最後は、ドラムだけ。
翔が臨時で入ったポジション。その代わりとなる人は現れるのか。
そんな翔に、ある人物が声をかける。
次回「緑の風、雨の雫」