BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!連日投稿!

今回でクライブ編完結!少し急ぎ足になったかもしれないけど、下手に引っ張るよりはよかったかも。

では、どうぞ!


phrase35 私の心は

「飲み物はジュースでよかった?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

有咲のおばあちゃんからジュースを受け取り、沙綾はそれを一口。束の間の休息に羽を伸ばしながら、沙綾はその時を待つ。

 

今日は、クライブ当日だ。たえを納得させられるかどうか、その全てがかかっている。表向きは単なるミニライブだが、香澄たちの事情を知る沙綾にとっては、不安な要素が残る。

 

実際のところは、話の方向がずれ始めて、沙綾にもよくわかっていない状況だが。

 

「香澄たち、大丈夫かな……」

 

練習も頑張っていたと、香澄たちからは聞いている。翔も昨日はバイトだったけど、自信ありげに話していた。それでも、心配にはなってしまう。

 

そんな沙綾の近くでは、別の二人が談笑していた。

 

「先輩も来ていたんですね、クライブに」

 

「あなたは、戸山さんだよね。中3の」

 

「えっ、私の事、ご存知でしたか?」

 

「ふふ。水泳部の可愛い後輩だもの。部長としては覚えておかないと」

 

香澄に誘われて、無理矢理やってきた明日香。それに、りみのお姉さんのゆり。

 

まさか明日香も、所属する部の部長がこの場にいるとは思ってなかっただろう。ゆりはゆりで、この場で後輩と遭遇するとは思っていなかったが。

 

「お姉さんの初ライブ、楽しみだね」

 

「あー……。お姉ちゃん、おっちょこちょいだから……。どっちかって言うと、心配なんですけどね」

 

「きっと大丈夫。りみも戸山さんのお姉さんのために頑張ってるって話、いつもしてくれたから」

 

「そうなんですか。あぁ、でもやっぱり、妹としては心配になるんで……」

 

常に何か行動がぶっ飛んでいる、元気の塊みたいな姉だ。いつも接しているからこそ、誰かと息を合わせて音を作るバンドが、果たして本当に務まるのかと、明日香は心配だった。

 

ゆりの言葉が救いなのだが、それも不安を解消するまでにはいかない。

 

「わかるな、その気持ち。私も、りみの初ライブ、上手く行くかどうかハラハラしてるんだ」

 

「えっ、先輩もですか?」

 

「もちろん。可愛い妹の晴れ舞台だよ?ちゃんと見届けてあげたいって気持ちと、成功しますようにって気持ち、ちょっぴり心配になる気持ちがグチャグチャになってる」

 

「私と一緒だ……」

 

姉妹だからこそ、感じてしまう不安や気遣い。それは妹だとしても、姉だとしても関係ない。血のつながった家族の事は、やはり考えてしまうものだ。

 

「そう言えば、戸山さんはバンドはしないの?」

 

「……へっ?私、ですか?」

 

「うん。お姉さんの影響とかで、バンドに興味とか持ってないのかな~って。りみも、いきなりバンドするって言いだしたから」

 

「……それは」

 

バンドに興味があるかどうか……明日香の中で、その質問に対する答えは既に出ている。

 

人知れず、誰にも打ち明けず、今日この日まで積み重ねた思いが……明日香にはある。あの時の突き上げる衝動が、今も体中を震わせる。忘れたくても、忘れられない。

 

やってみたいんだ、私も。バンドを。

 

今はまだ、メンバーも技術もない。行動に移すには、早すぎるけど。

 

少しずつ前に進むために……せめて技術だけは磨いていく。

 

そのために、あなたに頭を下げたんだ。

 

美竹蘭さん。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

ついにこの日が来た。

 

クライブ当日。香澄に、いや……俺たちにとっては初めてのライブだ。観客も集まりだし、少しづつ緊張感が高まりだしている。

 

朝も少し早めに集まり、昨日できなかった分の練習もできた。リハーサルも問題なく終われたし、今のところは大丈夫だ。大丈夫のはずだ。

 

と、そんな空気に包まれている中でも……たえはやってくれた。

 

「紹介するね。オッドアイのオッちゃんだよ」

 

「「おぉ……」」

 

「って、何でウサギ連れてきてんだよ!」

 

「理由ってのをたえに求めても、まともな返答はないぞ」

 

「それもそうか……」

 

ケージに入れられて、鼻をヒクヒクさせているのは、たえの連れてきたウサギ。俺以外のみんなは家族を招待した中で、たえだけウサギって謎チョイスだからな、本当。

 

「可愛い!おたえの家、ウサギがいるんだ!」

 

「家にはもっとたくさんいるよ」

 

「すごい!行ってみたい!」

 

「じゃ、今度遊びに来てよ。有咲にりみも、翔も」

 

「えっ、私もかよ……」

 

「おいおい、遊びに行くのはいいが、今はクライブだからな?」

 

既に準備は済ませ、開始時間を待つだけ。そして、本番の時はすぐそこに迫っていた。

 

香澄がSPACEのオーディションを受けるほどの実力に達したかどうか、たえの心を奮わせるような演奏ができるかどうか。口には出さなくても、香澄だってさすがに緊張しているのはわかる。

 

りみや有咲も、わかりやすく緊張している。この前のきらきら星の時とは、規模は小さくても状況が全然違うからな。自分たちの曲を、自分たちで演奏するんだから。

 

そんなこと考えてる俺も、普通にプレッシャー感じてる。俺のドラムを誰かに披露するのは、今日が初めてだ。りみや有咲には聞かせたが、ライブとして誰かに演奏を見せた事は一度もない。

 

そんな俺たちを見かねたんだろう。たえはこのタイミングでウサギを見せ、少しでも場の空気を和ませようとしてくれたんだな。

 

緊張も、いい意味でほぐれた。こういうさりげないたえの気遣いは、前からよく目にするんだよな。実際、そこまで深く考えていないのかもしれないが。

 

「香澄ちゃん、本番頑張ろうね」

 

「うん!りみりんも、有咲も、なーくんも……おたえも!今日はキラキラドキドキしようね!」

 

「意味わかんねぇ。……けど、やるだけやってやるよ。そのために、今日まで練習してきたんだからな」

 

「打ち上げはおしるこにしようかな」

 

「気が早ぇよ!?」

 

「ストップ、みんな。そろそろ時間だ。……行くぞ!」

 

「「「「うん!!」」」」

 

談笑はここまで。俺たちは持ち場について、楽器を構える。今になって、手汗かいてきた。

 

リハーサルもした。失敗もなかった。きっと上手く行くはずだ。俺はリズムの要だし、下手な演奏はできないからな。

 

最後に軽くチューニングだけ済ませ、準備完了。全員が整ったのを見て、香澄は声を上げる。

 

「こんにちは、戸山香澄です!今日は、クライブに来てくださって、ありがとうございます!」

 

香澄のMCが始まった。沙綾に明日香、ゆりさんも静かに耳を傾けている。オッちゃんのいるケージは、有咲のおばあちゃんの膝の上に置かれていた。

 

「今日はおたえと……さーや、あっちゃん、ゆりさん、おばあちゃんをドキドキさせます!してくださったら、嬉しいです!」

 

そのたえは、何故かこっち側にいるんだけどな。

 

「私も……このライブが初めてで、今すっごくドキドキしてます!このドキドキを、もっと感じたい……。そんな気持ちを込めて、これから1曲、演奏します!」

 

さぁ、香澄。これが、お前の夢見た舞台への第一歩だ。今日はとことん、お前に付き合ってやる。

 

「では、聞いてください!『私の心はチョココロネ』!」

 

言い終わり、香澄が俺に目線で合図を送る。俺のカウントから、演奏はスタートするからな。つまりは、俺のタイミング次第だ。

 

いや、香澄だけじゃない。りみも、有咲も、たえも。この場にいる全員が、俺に注目している。演奏の始まる、その時を待つために。

 

ヤバいな……。マジで緊張する。スティック握る手、震えてないだろうな?

 

「…………」

 

でも、こんなにも期待して見てくれてるんだ。香澄だって、俺を見てる。あいつの力になれるなら、俺は喜んで協力してやる。

 

そうだ……やってやるんだ。練習してきた事を信じて、全力で突っ走ってやる!!

 

(……1、2、3、4!)

 

俺のカウントに合わせて、香澄たちの演奏も始まった。よし、出だしはまずまず。好調ってところだ。

 

だが、カウント取ったくらいで喜んでいてはいけない。むしろここからが本番なんだからな。気を抜かず、俺はしっかりとリズムを刻んでいく。4人をリードして、音をまとめ上げていかないといけない。

 

(みんなの音、しっかり聞かなくちゃ……!)

 

(焦ってミスんなよ、香澄……!)

 

(あんなに練習したんだもん!絶対に大丈夫!それに、なーくんもいてくれる!!)

 

バラバラの音が、1つに集まっていく。それは、1つの楽器では絶対に作り出せない魔法の音色。音を聞き、演奏に集中し、より洗練された音へと研ぎ澄まされていく。

 

みんな、目立ったミスはない。そろそろサビに差し掛かるし……最後まで落ち着いていけ。そう思いながら、4人の音に気を向けていた俺は……たえの様子がおかしいことに気づく。

 

演奏に問題はない。ミスもないし、リズムも安定している。だが、どこか別の事に気を取られているような……そんな様子だった。

 

(あ……まただ。自分の音と、みんなの音が重なっていくあの感じ……)

 

重なる鼓動の中、たえは1人何かを感じる。

 

それは、今まで感じた事のなかったもの。

 

(みんなの気持ちが音に乗って、伝わってくるみたい……。何だか、すごく楽しい。ドキドキする……!)

 

私は、ずっと1人でギターを弾いてきた。その方が気楽だったし、楽しかった。

 

周りの目を気にする事もない。自分らしくいたいだけなのに、変な目を向けられるのは嫌だったから。1人なら、そんな事もない。

 

そう思って、私は1人を選んで……いつしか、その時間の中に楽しさを感じていた。

 

 

でも、そうじゃなかったんだ。

 

 

香澄たちと一緒にギターを弾いて、音を合わせて。他の楽器の音も、そこに加わっていく。まるで、自分たちで壮大な世界を作り出しているよう。

 

楽しい。1人の時よりも、ずっと。こんなにもギターを弾くのが楽しいと思えたのは、初めての事かもしれない。

 

(もしかして今、私……!)

 

香澄たちとずっと、ギターを弾いていたいと思っているのかもしれない。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「みんなお疲れ様。すごかったよ」

 

「さーや、ありがと~!最後までちゃんと弾けたよ~!」

 

クライブも終わり、今は後片付けの最中。沙綾はまだ残っているが、明日香とゆりさんはもう帰ってしまった。

 

ゆりさんは、クライブに感化されてか、今からグリグリで集まって練習に行くらしい。明日香は……何やら用事があるみたいだが。

 

「翔もドラム、バッチリだったじゃん」

 

「おう、ありがとな。けど、緊張した……」

 

今だから落ち着いているが、終わった時には手の震えが止まらなかったからな。汗もダラダラで、心も体も疲れ切っていた。

 

「牛込さんもよかったよ。花園さんは……あれ?」

 

「おたえちゃん、さっきからずっとギター持ったままじっとしてて……」

 

「おたえ……?」

 

疲れ切っている……と言うわけではなさそうだ。演奏を終え、自分の中の気持ちを整理しているのかもしれない。

 

このクライブは、たえを納得させるためのものだ。ライブを振り返り、答えを出す時間が必要なんだろう。

 

後は……昨日言った事も考えてるんだろうな。

 

 

香澄と一緒に、バンドをやるかどうか。

 

 

「花園さんの事、気になるけど……ごめんね。私そろそろ店に戻らないと」

 

「そっか……。今日は来てくれてありがと、さーや!」

 

「私こそ、いい演奏を見せてくれてありがとう。それじゃ、また明日!」

 

店の手伝いなら仕方ない。沙綾は軽く手を振って、地下室を出て行った。

 

「にしても、成功してよかったな。ヒヤヒヤする場面はあったけど」

 

「イントロが終わってから、少し焦っちゃったかも」

 

「そこもだし……サビ始まってからの香澄の歌もな?」

 

「うっ……演奏に集中してしまって、声が裏返っちゃって~」

 

「おーい、お前ら~。ジュース持ってきたぞ~」

 

演奏で疲れ切った俺たちのために、有咲が5人分のジュースを持ってきた。俺たちは有咲からコップを受け取り、クライブ成功の記念と称して乾杯する事に。

 

「ふぃ~……。身に染みる……」

 

「有咲、おっさんみたいだな」

 

「うるせぇ。にしてもマジヤバかったな、クライブ」

 

「でも、楽しかったよね」

 

「うん!私、すっごくドキドキして、楽しかったよ!!」

 

たった1曲だけのライブ。でも、香澄たちは全力を注ぎ、そのための練習も何度もしてきた。だからこそ、感じる気持ちは大きい。

 

成功した。それが嬉しかった。香澄たちも喜んでいるが、俺だって嬉しいんだ。やり切った達成感と、その苦労を分かち合う人がいてくれることに、俺は感謝しよう。

 

 

それはまるで、あの時の星の鼓動が見せてくれたような、興奮と感動……。

 

 

「どうだった、おたえ?ドキドキした?SPACEに立てるくらい、演奏上手になったかな?」

 

と、今まで黙っていたたえに、香澄から本題をぶつける。ライブは成功したが、まだ肝心なところは解決していないからな。

 

呼びかけられ、自分がまだギターを持っていたことにようやく気付くたえ。まずはギターを外し、それから香澄に向き合う。

 

自然と、俺たちにも緊張が伝わってくる。さっきまでの緩んでいた空気が、嘘みたいだった。

 

全ての判断が委ねられ、注目されるたえ。答えを待つ香澄にたえが告げたのは……。

 

 

「ううん。演奏はまだまだだった」

 

 

「……えぇっ!?」

 

バッサリと一刀両断する、そんな答えだった。

 

「そ、そんなぁ……」

 

「おいおい、結局ダメなのかよ!?」

 

「おたえちゃん……」

 

空気がより一層重くなり、どう言葉をかけていいのかもわからない。たえがそう思ったのなら、それは仕方のないことだ。

 

だが、まだ続きがあった。

 

「でもね。香澄たちの気持ちは伝わってきたよ。バンドと音楽に、本気で向き合ってるって」

 

「おたえ……」

 

「気持ちか……。確かにそうだな」

 

ここにいるのは、香澄を筆頭に、バンドをやってやろうと集まった人ばかりだ。りみも有咲も、今日のために手を抜くことなく練習した。

 

だから、今日も心から喜んでいるんだ。生半可な気持ちで参加している人は、ここにはいない。

 

「多分……そう言う事だからかな。みんな、すごく輝いてた。一緒に演奏してるうちに、震えちゃうくらい」

 

「えっ、おたえ……今震えたって……!」

 

「うん。香澄と演奏して、震えることができたよ。震えて、楽しくて。この気持ちをもっと、みんなと一緒に共有したい」

 

俺が心配するまでもなかった。昨日の答えは、もう出てたみたいだな。

 

「私も、香澄と一緒にバンドしたい。やらせてくれないかな?」

 

たえが自分から、バンドに入りたいと頼み込む。後は、みんながどう思うかだ。

 

「えっ!?おま、入るのかよ!?」

 

「有咲、ダメ?」

 

「うえっ、い、いや……ダメとは言ってねーけど……」

 

「私はいいと思うな。おたえちゃんがいてくれると、頼もしいな」

 

りみと有咲は(有咲は微妙だったが)、快く受け入れてくれた。後は、香澄の返事だけ。

 

「香澄はどうかな?ダメ……?」

 

「…………」

 

呼ばれた香澄は、無言でわなわなと震えていた。まさか、ダメだったのか?香澄だって、たえに入ってもらいたいと言っていたのに。

 

「香澄?」

 

「……もっちろんだよ、おたえぇ!入って、バンド!大歓迎だよ!!」

 

いや、そうじゃなかったらしい。嬉しくて、興奮のあまり震えていただけだったみたいだ。

 

「よかったな、香澄。これで4人目だな」

 

「嬉しいよ~!おたえ、これからもよろしくね!!」

 

「こちらこそ、不束者ですが……末永くよろしくお願いします」

 

「何で結婚みたいになってんだよ!?」

 

有咲のツッコミが地下室に響き、誰からと言わず笑いが起こる。香澄と、有咲と、りみと、そして……新しい仲間、たえ。

 

これで残るは後1人。ドラムだけだ。バンド結成まで、そう時間はかからないのかもしれない。

 

何はともあれ、今はメンバーが増えたことを……ただ笑って、迎え入れることにしよう。

 







1つの節目を迎え、物語は新たに動き出す。



残るメンバー。最後は、ドラムだけ。



翔が臨時で入ったポジション。その代わりとなる人は現れるのか。



そんな翔に、ある人物が声をかける。



次回「緑の風、雨の雫」
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