BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
「沙綾、みんな夕ご飯食べてくの?」
「そんな張り切らなくてもいいって。パンの試食するんだし。あ、でも香澄は泊まっていくんだけど……」
放課後。翔たちは沙綾の家に集まって、文化祭の準備に取り掛かろうとしていた。先に翔たちを部屋に入れ、沙綾は飲み物を持ちに来ていた。
「ねーちゃんばっかズルい!おれもパン食べたい!」
「さーなも食べたい!」
「ごはん食べられなくなるよ。ほら、二人とも宿題やった?後で見てあげるからね」
「えー、つまんな~い」
弟の純と妹の紗南に泣きつかれるが、沙綾は怒ることなく優しくなだめる。
「……ごめんね、母さん。それに父さんも。最近、文化祭の準備で帰るの遅いから……」
「心配しすぎ。お母さんももう全然平気だから。ね、お父さんもいるんだし」
「そうだぞ。うちの事は気にしなくてもいいから、沙綾は自分の好きな事をやりな」
その言葉はありがたい。両親は、自分の事を本当に気遣ってくれているとわかるから。けど沙綾は、素直にその好意を受け取ることができない。
あの時から、沙綾の中には強い決意が生まれているのだから。
「……ううん。私は平気だから」
「そうか?また、中学の時みたいに友達と――」
「ごめん。香澄たち待たせてるから、私もう行かないと」
「あ、あぁ」
その後に続く言葉を拒みたくて。沙綾は強い口調で会話を切り上げて、自室へと向かう。
「…………」
もう、決めたんだ。私は、自分のわがままを通すつもりはない。そのせいで、迷惑をかけてしまう人がいるんだと、知ってしまったから。
私は、今のままで十分なんだ。
***
俺はやまぶきベーカリーには何回か来たことがある。
方向が違うし、頻繁にと言うわけにはいかないが、お世話にはなっている。パンもおすそ分けしてもらう事もあったし、一人の客としてパンを購入したこともある。まぁ、少なからず足を運んでいるわけだ。
「…………」
そんな俺でも、沙綾の部屋に入るのは初めてだった。女の子らしい部屋で、美羽や香澄の部屋にいるのとは全然違う。
あ、いや、別に香澄たちが女の子らしくないって言ってるわけじゃないぞ!?それは完全な誤解だ!
「おい、翔。さっきから黙ってるけど、もしかして緊張してんのか?」
「はっ、だ、誰が緊張なんかするんだよ」
「わかりやすっ」
有咲にだけは言われたくねーよ!お前が一番チョロいんだからな!?
「翔、何だかドキドキしてるみたい。熱でもある?」
「わざわざ触って確認するな」
「えっ、なーくんドキドキしてるの!?キラキラ!?」
「そうじゃねぇ。てか、くっつくな。有咲のところに行け」
「は~い!あ~りさっ!」
「こっちにパスするな!」
香澄の相手は有咲に任せておけばいいだろう。それに、さっきのお返しだ。存分に味わえ。
「くっ……こうなったら、牛込さんパス!」
「え、えぇっ!?わ、私なの!?」
「じゃありみりんに……ギュ~っ!」
「ひゃあっ!?///」
何と言うか……カオスな空間だな。まだここに来て全然時間経ってないのに、ここまで場が荒れるのか?
香澄はハグ魔になってるし、たえはまだ俺の胸に手を当ててるし。有咲とりみは、絶賛振り回されている。りみが一番の被害者だけど。
てか、沙綾……早くこっちに戻って来てくれ……!
「お待たせ~!飲み物持ってき……って、何してるの?」
「……何か色々あって、こうなった」
「原因は翔だけどな」
「待て、違うって言ってるだろ。変な事を沙綾に吹き込むな!」
「本当かよ?緊張してたくせに?」
ここぞとばかりに弱みを狙ってきやがって……!有咲、後で覚えていやがれ。
「アハハ……。翔、緊張してたんだ?」
「女の子の家に遊びに行くことって、昔はなかったからな……」
「おい、私の家はカウントしねぇのかよ!?蔵に来てるだろ!?」
「蔵は別だろ。それに、俺はまだ有咲の部屋には入ったことないんだぞ?」
有咲の家には何回も来ているが、蔵だけしか見ていないからな。部屋には上がったことがない。
そう言う意味では、女の子の部屋にお邪魔するのは沙綾が初めてだ。りみの家にも、たえの家にも行った事はないからな。
「まぁ、話はこの辺にして、とりあえずエプロン作り始めよっか。今日の間に、できるところまで終わらせよう」
「それに、パンの試食もするんだよな」
「さーやの家のパン楽しみ~♪」
と言うわけで、俺たちは買ってきたものを広げ、エプロン作りを始める事に。それぞれ違うエプロンを担当し、ワッペンや缶バッチを縫い合わせていく。
途中で談笑したり、休憩をはさみながら、作業を進めていくこと数時間。まずはエプロンを仕上げる事に成功。これで喫茶店で使う衣装は完成したな。
が、次は喫茶店で出すパンの試食だ。タイミングを見計らったように、沙綾のお父さんがパンを持ってくる。疲れた体にちょうどよく、俺たちは喫茶店用に仕上げたと言うパンを食べていく。
持ち帰りやすいように、少し小さめに作ったとのことだが……うん。文句なしだ。味はそのままに、サイズを調整できている。沙綾のお父さんって、こんな器用にパン作れるんだな……。
それからしばらくして、今日は解散となった。エプロンは沙綾の方でまとめて、明日学校に持っていく事に。駆け足で説明したが、ま、何とか今日できる事は終わらせることができた。
「お邪魔しました!」
で、今は店の外。もうすっかり暗くなり、沙綾は見送りに出てきている。
「エプロン、いい感じにできたね~!」
「うん。これも翔のおかげだよ。翔って、本当に器用だよね」
「そうか?ありがとな、沙綾」
前に家庭科の授業でも言われたが、俺は女子の目から見てもかなり器用に物事をこなすらしい。エプロンの仕上がりも褒められたし、かなり貢献できた気がする。
「パンもおいしかった~。特にチョココロネ~♪」
「もうおなかいっぱいだ~」
「花園さんは食べすぎなんだよ……」
ま、お父さんも喜んでくれてたから、俺も何も言わなかったけどさ……。一応試食だし、もう少し加減はしてほしかったけどな……。
「てか、この後マジで山吹さんちに泊まってくのか、香澄?」
「うん。今夜は歌詞作り頑張る!」
と言う事らしいので、香澄はこのまま家には帰らずに、沙綾の家にお世話になるらしい。やる気なのはわかるが、わざわざ泊まってまで歌詞作りをするとはな……。
「てか、山吹さんが付き合う必要なくね?」
「だって、一人だと寝ちゃう……」
中学の時も、こいつテスト勉強で寝落ちしていたのを思い出す。それで翌日に泣きつかれるんだよな……。自分の勉強をしないといけなかったのに、大変だったよな……。
あ、でも待て。このままだと、またテストが近づいてきたら、教えてくれとせがまれそうだな……。うん、確実にな。
「明日休みだし、私は構わないから。今日はとことん付き合うよ?」
「本当に本当にありがと~!さーや~っ!」
「寝てたらたたき起こしてやってくれよ?」
「えぇっ!?そんな事しないよ、なーくん!」
嘘だな。そんな未来が見えたから、俺は沙綾に忠告したんだよ。
「私も翔に賛成。香澄の事だし、全然進んでなかったりしてな」
「心配なの?だったら、泊まって行けばいいのに」
「えっ!?と、泊まりとか急に言われても……」
いや待て。どうしてそこで照れるんだよ。その反応は、普通男がするものだからな?
「え、何緊張してるの?」
「うっせぇ、香澄!わ、私はそんな軽い女じゃないんだよ!じゃあな!」
結局、たえやりみも置き去りにしたまま、有咲は一人でズカズカと歩いて行った。こいつは、本当にツンデレがブレる事がないよな……。
「有咲、枕が変わると眠れないのかな?」
「アハハ、どうだろ。……でも本当、可愛いよね。市ヶ谷さんって」
「私も、たまにそう思うことあるかも」
「有咲って軽くないんだ。体重重いの?」
「知らないけど、あぁ言うのって女が男に言うセリフだよな」
「あぁ、もう!みんな揃って止めろ!全部聞こえてんだよ!」
あ、振り返った。帰るんじゃなかったのかよ、寂しがり屋め。
「面白がってからかいやがって……もう知らねぇ!」
「あ、待ってよ有咲ちゃん!」
「女の子が1人で夜道を歩いたら危険だよ」
「花園さんに言われたくねぇ!歩かせてんのは誰だと思ってんだよ!」
「それに、もう遅いし、あんまり大声出すと近所迷惑だよ?」
「なっ、ぐ……言い返せねぇのが腹立つ!」
ま、今回ばかりはたえの方が正論だしな。こいつはボケてるようで、たまに真面目モードに入るんだよな。
「じゃあ、私たちも行くね。またね、香澄ちゃん。沙綾ちゃん。翔君」
「有咲を一人にすると、悲しむから」
「わっ、私は別に、悲しいなんて何にも思ってねぇし!」
「わかったわかった。じゃあたえ、有咲の事を頼んだぞ」
「私は親とはぐれた幼稚園児かっての!っておい、花園さん!?腕組まなくていい!恥ずかしいから……ちょ、放せーー!!」
ま、半ば強引にたえに連れていかれた有咲は放っておくとして……俺もそろそろ帰ろうかな。
「じゃ、俺も行くよ。またな、二人とも」
「えっ、なーくん帰っちゃうの?」
「当たり前だろ。俺は別に、ここに残る理由もないし」
「え~?せっかくだし、もう少しいたらいいのに~!だってなーくん、家に帰っても1人でしょ?」
「まぁ、そうだけどさ……」
美羽はまだ病院だし、母さんは仕事で帰ってくるのは遅いからな……。ここしばらくは、ずっと1人きりだった。
見かねた香澄が家に呼んでくれたり、逆に俺の家に来てくれたこともあったけど……ま、それはまた別の話だ。
「そう言う事なら、うちでご飯食べていきなよ。お父さんたちには、ちゃんと説明するから」
「え……いや、でも悪いよ。いきなりだし、やっぱり俺は――」
「いいって。香澄だって泊まっていくんだし、何も迷惑なんかじゃないから。ね?」
「沙綾……」
だが、やはり返答には困る。が、そんな俺の事を気にも留めずに、沙綾は店の中に入り、両親に俺の事を伝える。すぐにOKの返事が出て、中に入るように促してくれた。
向こうも快く迎え入れてくれてるんだ。そこまでされたら、逆に帰る方が失礼だ。
まぁ、そんなわけで、俺は今……。
「翔君、ごはんのおかわりはあるから、遠慮はしないでね」
「はい、ありがとうございます」
お邪魔したばかりの沙綾の家に、またお邪魔することになってしまった。
「う~ん、さーやの家のごはんおいし~い!おかわりくださーい!」
「ちょっと待っててね。今よそうから」
「お前は限度を考えろ。それで何杯目だよ?」
「え~っと……4杯目?」
食いすぎなんだよ。人の家のごはんだぞ。もう少しセーブして食べると言う事も覚えてほしい。
「うちの料理、翔君に合っているかしら?」
「はい、とってもおいしいです」
「でしょ?母さんのごはん、すっごくおいしいんだ」
隣に座る沙綾が、母の料理をアピールしてくる。ちなみに今更だが、俺の右隣りが香澄、左隣が沙綾だ。
いつもは昼休みに一緒に食べているが、こうして人の家で食べるのはやっぱり慣れない。有咲の家の時もそうだったし。
「にしても、何か久しぶりに誰かの作ったご飯食べた気がするな……」
「お母さん、仕事が忙しいの?」
「あぁ、はい……。俺の両親、離婚してて、シングルマザーなんですよ。それに妹が病気で、今も入院してるんです。それで、ずっと働き詰めで。家に帰っても、1人になっちゃって」
ポツリと漏れた、何気ない一言。だが、俺はこんな風に食卓を囲んで、誰かとご飯を食べるなんて事、久しぶりだったからな。
何か、家族の愛情って言うのかな……。そう言うの、別に母さんから貰っていないわけじゃないんだけど……今日、俺はこの場所で感じた。
それが何だか、嬉しいようで悲しくもある。
「そう……。そう言う事なら、遠慮しないでうちに来てもいいからね?沙綾もお世話になってるし、いつでもいらっしゃい」
「お気持ちだけでも嬉しいです。ありがとうございます」
いつも通い詰めってわけにもいかないからな。それに、いつまでも美羽が病院生活を送るわけでもない。家に戻ってくる日は来るんだから。
「でも香澄、よく食べるよね?おなかすいてたの?」
「あー、香澄はな……」
「フライドポテトと白いご飯なら、いくらでも行けちゃうんだよ!歌詞作りのために、体力つけておかないと!」
昔から、その二つだけはよく食べてたんだよな。なのに、どうして太らないのかと不思議に思ってた。ごはんは別だけど、フライドポテトは揚げ物だし。
そのくせスタイルはなかなかよかったりするし……うん。ますます不思議だ。
「だからって、大食い大会に来たわけじゃないんだぞ。あ、お替わり貰えますか?」
「え~!?なーくんはおかわりしてるのにー!?」
「お前は十分食べただろ!」
「アハハ。翔たちって、本当仲いいよね。幼馴染なんだっけ?」
「散々振り回されてきたけどな」
俺は沙綾のお母さんに茶碗を渡し、会話を続ける。クスクスと笑う沙綾に、俺は香澄の話をしようとして……。
何かがおかしい事に気が付いた。
何故か、沙綾のお母さんはニコニコしている。お父さんも、そう言えばさっきからチラチラと俺の様子を伺っているし。不審な目ではないんだけど。どちらかと言えば、興味ありげな目。
沙綾の妹の……紗南だったか。さっきから箸が止まってるし、何かを見ているようにも見える。
「……なぁ、沙綾。さっきから、みんな様子が変な気がするんだけど」
「う~ん……やっぱり?ちょっとソワソワしているように見えてたんだよね?」
「そうかな?私は何とも感じないけど……」
ヒソヒソ声で沙綾に話を振ると、沙綾も違和感を感じていたみたいだった。おかしいと思っていたのは、俺だけではなかったみたいだ。
ん?香澄?えーと、あいつはまぁ……知りません。
「……なぁ、翔にーちゃん」
「おっ?純だったか。どうした?」
だが、その理由はすぐにわかった。そのきっかけは沙綾の弟である純の手によって……。
「さっきから仲良さそーにしてるけどさ……翔にーちゃんって、ねーちゃんと付き合ってんの?それとも、香澄ねーちゃん?」
爆弾級の発言を、投げつけられたから。
***
「さ、さっきはごめんね。翔」
「い、いや大丈夫。俺は気にしてないから」
純の放った一言は、想像以上に強烈なものだった。別に付き合っているわけではないが、あんな風に言われてしまうと、嫌でも意識してしまう。
恥ずかしさのあまり、俺は撃沈。二人もそうだったのか、すぐに俯いて撃沈していた。おまけにそんな俺たちを見た沙綾のお母さんが変にいじるし、しばらく恥ずかしい時間が続いていた。
いや、本当に違うんだけどな。別に、あの二人を意識しているわけじゃないんだけど……。香澄もあぁ見えて可愛いし、沙綾に関しては文句の付け所も……って、何を冷静に分析してるんだよ、俺は!?
「で、え、えっと……歌詞の方はどう思う?今日中に終わると思うか?」
「う~ん、どうだろ?香澄次第だから、まだ何とも言えないよね……」
その香澄は今、紗南をお風呂に入れている。ついでに自分も入浴を済ませると言う、一石二鳥な手腕。最初は純も一緒に風呂に入れようとしてたけどな。恥じらいはないのか、香澄には。
あ、でも俺とは風呂に入ろうとしたことはないよな。何度も家に来たことはあっても、無頓着に風呂にまで付き合う事はなかった。香澄の家の風呂には入ったことあるけどな。
いや、わっかんねぇ。あいつの基準がどこにあるのか、全然わっかんねぇ。
「香澄がお風呂出たら、先に翔入っていいよ。私はその間に、香澄の歌詞作り手伝うから」
「本当助かるよ。飯だけでもありがたいのに、風呂まで使わせてもらえるなんて……」
「いいのいいの。遠慮なんかしなくてもいいからね?」
と言う事で、俺は風呂まで使わせてもらえる事になった。せっかく沙綾の家に残ったんだから、この際香澄たちの歌詞作りを手伝おうとは考えていたんだが……まさかそこまでしてくれるとは。山吹家に感謝だな。
「あ、ありがとな。優しい家族でよかったよ」
「ふふん。うちに悪い人なんていないよ?」
「だ、だよな。アハハ……」
こんな感じで笑ってはいるが……内心は違った。これから風呂に入るのに、心臓がうるさく高鳴って止まろうとしなかった。
……俺だって、思春期の男子なんだぞ?女子の家の風呂に入る事に対して、何も感じないわけがない。てか、本当に大丈夫なんだろうな?
何とか気を紛らわせるために話をするが、どうも意識してしまう。と、沙綾が俺の事をじーっと見つめてきた後……。
「もしかして……ちょっと緊張してる?」
「……まぁ、一応男だし。女子の家の風呂に入るとか、香澄以外で初めてだし……」
言い逃れはできそうにないと判断した俺は、正直にそう答える。
「アハハ。翔、部屋に来た時も緊張してたって言ってたよね?」
「あ、あれはまぁ……やっぱ、女の子の部屋に来るとか、今までなかったし……」
「わかるよ、その気持ち。私も男の人を家に呼んだことなんてなかったから。女子校だしね。これでも緊張してるんだよ?」
いつもみたいに振る舞っているように見えていたが、心の中ではずっとハラハラしていたのか。全然わからなかった。
「でも、翔は大丈夫。何か、男の人だって思えないんだよね」
「って、おい!?それってどういう意味でしょうか!?」
「嘘だって、ごめん。でも、いつも一緒にいるから、翔は何だか変に意識しないって言うか……。いてくれるのが、当たり前って言うか……」
何となく、言いたいことはわかる気がする。男の人としてではなく、一人の友達として見てくれている。信頼しているんだ。想像すると恥ずかしいけど。
けど、少し言い回しに悪意があるような気がしてならないんですが。
「……沙綾も、そう言う恥ずかしいセリフとか言っちゃうタイプだったのか」
「えっ、い、いやこれは……その、そう言う意味じゃなくて!友達としてだからっ!///」
「わ、わかってるよ。そんなに否定しなくてもいいだろ」
「う、うん……。でも、翔は高校になってから初めてできた友達だったからさ。入学式の時に、転びそうになった私を助けてくれたでしょ?」
「あったな、そんな事。香澄にぶつかったんだよな」
だが、その出来事がなかったら、沙綾と友達に……いや、友達には、遅かれ早かれなっていただろう。
俺にとって、花女での『最初』の友達には……なれなかったはずだ。
「だから、翔とは今まで結構一緒だったからね。今更、特別意識しないって言うのかな?」
「……ふーん」
「え、そのふーんって何?」
「いや?さっきは意識してたように見えたよな~って思って」
「……っ!し、翔だって照れてたじゃん!///」
「あ、あれはもう仕方ないだろうが!?///」
あの場で平常心を貫ける奴は、きっとそう言う事にとことん無頓着な人だけだよ!さすがに俺も、気がないってわけじゃ……ってこれ言ったらまた誤解されるな。
あぁ、もう。あのガキが余計な事言ったせいで、変な空気にしかならないじゃねぇか……。どうすんだ、これ。
「さーや、出たよ!さーなの髪の毛乾かしてあげた!」
「えっ!?あ、そうー?着替え置いてあったでしょー?」
と、浴室から香澄の声が聞こえた。おかげでこの空気も吹き飛び、少しずつ冷静になっていく。今だけは、お前の事を褒めてやるぞ、香澄。
「じゃあ翔。お先にどうぞ」
「……わかった。なら、遠慮なく使わせてもらうよ」
さっきのやり取りで、俺の緊張もどこかに行ってしまったみたいだった。何の気兼ねもなく、俺はその言葉を口にすることができた。
俺は沙綾に見送られ、浴室へと向かう事にした。
夜の帳が下りる中、歌詞作りは続いていく。
何を綴るのか。何を歌うのか。
誰と歌うのか。
星空の下、交わされる約束。
その願いは、交わるのか。すれ違うのか。
次回「星の瞬きの中で」