BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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phrase3 音楽に愛された少女

「なーくんって、本当に人気だよね~。学校出るのも大変だったし」

 

「あぁ……。今日だけで終わってくれるといいんだけどな……」

 

教室を出た後も、事あるごとに声をかけられる時間が続く。同級生だけじゃない。上級生も普通に話しかけてくる。

それが誰かとすれ違うたびに起こるから、昇降口に着くのもやっとだった。俺もそうだが、つき合わせた香澄も苦労しただろう。

 

あ……でも、香澄は途中からこの状況を楽しんでるみたいだった気がするが。金髪のお嬢様みたいな女子生徒や、ピンクの髪の少し間の抜けた先輩とも少し言葉を交わしていたからな。

 

質問攻めは大変だったが、話してみると皆いい人ばかりだ。クラスメイトも面白い人たちが多かったし、上手くやっていけそうだ。今のところは、特に心配する必要はないだろう。

 

「けど、この学校って本当に楽しいね!色んな人がいるし、私今すっごくドキドキしてる!」

 

「俺は違う意味でドキドキさせられたけどな……。女子の元気には敵わないよ」

 

やっとの思いで正門を出て、俺たちは帰路に着く。香澄とは家が隣同士だし、このまま家まで一緒に帰ることになる。家から学校までは電車で通っているため、しばらくは香澄と二人きりの時間が続くことになるな。

 

女子と並んで一緒に帰るとか、男子からしてみれば絶好のシチュエーションなんだけど……相手が香澄だからな。幼馴染だし、変に意識してるわけでもないし。向こうだって、俺の事を特別な風に見てはいないはずだ。

 

……俺なんか放っておいて、道端を歩いていた猫を追っかけて行ったくらいだしな。

 

「おい、ちょっと待てよ香澄。お前、まだこの辺りの事わかってないくせに、あんまり離れたら……ん?」

 

香澄の追いかけた猫の向かう先には、二人組の女子が。それも、俺と香澄にとっては見覚えのある姿で……。

 

「待て待て~!……あれ?」

 

「あれ、じゃないでしょ?もう。お姉ちゃんって本当子供なんだから。恥ずかしいからやめてよね?」

 

香澄に気づいた一人が、振り返って猫を抱きかかえる。そこでようやく、香澄は猫を抱えた少女が自分のよく知る人物だと気づく。

 

俺たちより年下の、どこか香澄に似た少女。物腰は落ち着いていながら、やや幼い印象を与える彼女は……クラス確認の時に香澄が『あっちゃん』と言っていた人物。香澄の妹の、戸山明日香だった。

 

「わ~!あっちゃんだ!今から帰るの?」

 

「そうだけど、大声で名前呼ばないでよ……。恥ずかしいんだから」

 

「え~?いいじゃん!あっちゃんはあっちゃんだし!」

 

「よくない。あっ、翔さんも一緒だったんですね」

 

「おう。今日から俺も、明日香と同じ学校に通うことになったから、よろしくな」

 

姉の香澄とは違って、しっかりした性格だ。姉の香澄にはツンツンした言い回しをしているが、俺にはちゃんと畏まって話してくる。別にそこまで気を遣う必要はないと言っているのだが、そこは明日香なりのモットーがあるらしい。

 

「知ってますよ。中等部にも、始業式の時に紹介がありましたから」

 

「えっ、そうだったのか?」

 

「もちろんだよ。だって、学校中でたった一人の男子生徒だよ?紹介されないはずないって、お兄ちゃん」

 

と、それまで黙っていたもう一人の少女が口を開く。明日香の抱いていた猫をなでながら、俺に屈託ない笑顔を向けてくるのは……。

 

「他人事みたいに言うなよ、美羽。こっちは会う人みんなに質問攻めにあって大変なんだぞ?」

 

「私にとっては本当に他人事だもん。それに、お兄ちゃんが自分で入学決めたんだし、私は関係ないもんね~」

 

俺の妹、成川美羽。中等部に通ってて、明日香とは同じクラスだ。ちなみに、どちらも3年。今年が中等部で過ごす最後の年になる。

 

「確かに、俺が決めたんだけどさ……。でも、俺が花女に進学するって話した時はすごい剣幕だったよな、美羽」

 

「そりゃそうだよ。だって、女子校だよ?お兄ちゃん、変態になったのかと思ったんだもん」

 

「へ、変態……」

 

「なーくん、変態なの?」

 

「お前は会話に入ってくんな」

 

そう思われても仕方ないよな。女子校に入学する理由なんて、普通の男子なら下心しかないだろう。

 

けど、俺にはれっきとした理由がある。女子校に入ってまで、やり遂げなくてはいけないことだからな。

 

「お母さんだって驚いてたし、私が部屋にいる時も何度も口喧嘩してたじゃん」

 

「そりゃな……。でも、美羽にも言っただろ?俺は家の事を考えてこの学校に進学したんだ。俺の学力で行ける高校は近くにはないし、行けたとしても家計を圧迫する」

 

「それは、確かに……」

 

「でも、花女なら最適なんだ。家から一番近いし、学力も問題ない。学費面の心配もいらないし、選ばない理由がどこにある?」

 

「まぁ、お兄ちゃんの言うこともわかるけどね……」

 

俺の家は、母さんと美羽の3人暮らしだ。父さんとは数年前に離婚していて、今は母さんが1人で俺たちを養ってくれている。

だから、家に帰ってくるのもかなり遅いし、朝も早い。実際、母さんが家にいる時間はほとんどない。たまの休みに家にいるくらいだ。

 

家事も俺たちでどうにかしてるし、贅沢が言えるような環境じゃない。家計を支えると言う理由は、あながち間違ってはいないんだよな。

 

 

俺にはそれ以外にも、理由があると言うだけでな。

 

 

「でも、それだけの理由で簡単に入学なんてできるものなんですか?だったら、他の人も入学できちゃうんじゃ……」

 

明日香め、鋭いところを突いてくるな……。こいつは少し考えて返答しないといけないか。そう思っていたのだが、

 

「だよね~。なのにお兄ちゃんは、自分の意見を押し通してまで入学できちゃうんだから。ある意味執念だよ」

 

「かもな」

 

美羽が無意識にフォローに回ってくれたから助かった。一応便乗しておいたが、戸山姉妹も揃って頷いてたし。止めろよ。俺に向けた皮肉のつもりだったのに。

 

「みーちゃんも今から帰るところ?」

 

「そうですよ。今日は家でゆっくりしようかな~って」

 

「意外だな。美羽の事だし、今日は寄り道すると思ってたのに」

 

「やだな~?いくら私でも、学校早く終わったからって遊びまわるわけじゃ……うっ、ゴホッゴホッ!」

 

「……っ、美羽!」

 

マズい、来たか。何の前触れもなく、美羽は激しくせき込みだす。咳に驚いた猫は明日香の手の中から逃げ出し、美羽は周囲に構うことなくその場にうずくまってしまう。

 

香澄と明日香も心配そうに美羽を見つめるばかり。当の本人は、苦しそうに口と胸に手を押さえて咳を続ける。

 

「大丈夫か!?確か薬は……」

 

「しの……かば……。手前の……」

 

「黙ってろ!薬なら俺も持ってる!」

 

俺は苦しむ美羽を黙らせると、鞄のすぐに取り出せる場所に入れているカプセル状の薬を手にする。今朝買った飲料水と一緒に、美羽の口の中に薬を流し込んでやった。すると、せき込む回数が減っていき、すぐに表情が和らいでいく。

 

「どうだ、美羽!?」

 

「……うん。もう大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」

 

「何言ってるんだ。美羽に何もなくてよかった……」

 

目に見えて落ち着きを取り戻し、俺は胸をなでおろす。この発作は、いつ起こるかわからないからな。

 

「みーちゃん、本当に大丈夫?」

 

「そんなしんみりした顔しないでよ、香澄さん。私ならもう大丈夫だから!」

 

そうは言っても、俺や香澄たちは美羽の事情をよく知っている。もう何年も、この発作を見続けてきているから。

 

美羽は……数年前から、心臓に重い病気を抱えている。それも、完治することが極めて難しい病気に。

 

「明日香も、ね?」

 

「わかってるけど……美羽は友達で、幼馴染だから。そんな弱ってる姿を見るのは、耐えられないよ……」

 

いつになっても、この発作には慣れない。明日香だって苦しいと思うくらいだ。家族の俺は、美羽の発作を見るたびに胸が痛くなって仕方ない。

 

「私も、みーちゃんが大変なのに、何もできないのは辛いよ……」

 

「だから、そうやって気を遣う必要なんてないですって。それに、私には魔法のおまじないがありますから」

 

「それは、音楽の事か?」

 

「うん!」

 

美羽は、音楽に関することをしている間だけは、どういうわけか病気の発作が起こらない。偶然と言われたらそれまで。だが、俺にはどうしても、偶然なんて言葉では片付けられない何かがあると思っている。

 

音楽を聞いたり、歌ったり。家では趣味でギターを弾いている。そんな美羽の姿は、とにかく元気で幸せそうだった。病気なんて最初からなかったかのように。

 

音楽を愛し、楽しんでいる美羽の事を、きっと音楽は守ってくれているのだと俺は思う。美羽は、音楽に愛されているんだ。

 

「音楽か……。何だかキラキラしてそう!」

 

「おっ、香澄さんも音楽に興味持ち始めた?この機会に、ギターとかどう?」

 

「ギター!いいかも!ちょっと考えて見よっかな~?」

 

「だったら今から家来いよ。どうせ暇だろ?」

 

母さんも家にいないし、香澄が家に遊びに来ることは普通だったしな。美羽に関しては、逆に香澄の家に遊びに行くことも日常茶飯事だったし。

 

「うん、そうする!みーちゃん、帰ったらギター聞かせてよ!」

 

「おっ、香澄さん直々にご使命ですか!これは腕が鳴りますね~!期待しててくださいよ?」

 

「もっちろん!」

 

勝手に盛り上がってやる気全開な香澄と美羽は、さっさと走ってしまった。ま、駅に行けば合流できるし、あいつらに追いつくのも面倒だ。俺は明日香とゆっくり行くか。

 

「……元気ですよね、香澄さんと美羽って」

 

「昔からな。それに振り回される俺たちって……」

 

「苦労が絶えませんよね」

 

「本当それ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「――♪ どうかな?」

 

「おぉ……!すごいすごい!何だか胸の中にドカンと響いてきた感じ!」

 

それから少し時間は流れて、今は俺の家。香澄はわかっていたが、明日香も一緒に美羽の演奏を聞いていた。曰く、暇だったかららしい。

 

美羽のギターの腕前はそれなりに高く、こっちのリクエストした曲を簡単に弾いてしまうくらい。ミスも少なく、音と一体化しているような演奏が行われているみたいだった。我ながら、ほれぼれするな。

 

香澄も体を乗り出して演奏を聞いてたし、音楽に対して後ろ向きではないみたいだ。こいつはもしかすると、香澄も音楽を始めたりして……。

 

「でしょ?音楽って、無限の可能性を秘めた生き物なんだよ。誰かを勇気づけたり、時には感動させたりね。色んな世界へ連れて行ってくれる、魔法のような物なんだ♪」

 

「みーちゃん、言ってることが難しいよ……」

 

「私は何となくわかるかも。応援ソングとか、恋愛ソングとか。そう言うのって、音楽の力ってことじゃないかな」

 

「お、さすが明日香!私の幼馴染なだけあるね!」

 

「何年の付き合いだと思ってるの?美羽の言いたい事、さすがにわかるよ」

 

ぶっきらぼうに言い返す明日香だったが、美羽にとっては嬉しかったのだろう。顔をくしゃくしゃにして、明日香に抱き着いていた。

 

「明日香~!もう超嬉しい!」

 

「うわっ、止めてよ美羽!」

 

「やれやれ。まるで香澄だな……」

 

「だったら私はなーくんに……」

 

「来なくていいからな」

 

「何で~!?」

 

そんな小動物みたいな顔でこっちを見ても無駄だぞ。面倒だし、恥ずかしいし。……って、だからじっとこっち見るな。ウルウルするな。それに近い。いや、マジで。

 

「と、とにかく!香澄は音楽の事、どう思ったんだ!?始めようって気にはなったのか!?」

 

俺は強引に香澄を押しのけ話題を変える。香澄は膨れっ面になっていたが、俺だってあのまま向かい合っているのは少々堪える。

 

「う~ん、そうだね……。私は、音楽いいと思うな」

 

「だったら、香澄さんも音楽デビューしちゃう!?ギターなら私が教えるよ?」

 

「ありがと、みーちゃん!でも……まだ部活見学もしてないし、音楽って言っても、私の中でちょっと何か足りない気がするんだ。あの時みたいなキラキラドキドキには、少し遠いって言うか……」

 

「「キラキラドキドキ?」」

 

美羽と明日香が同時に疑問を口にする。俺たちよりも小さかったし、すぐには思い出せないのだろう。いや、もう完全に忘れてしまっているだけなのかもしれない。

 

「あっちゃん、子供の頃キャンプに行ったこと覚えてる?」

 

「キャンプ……うん。それは覚えてる」

 

「あっ、確か夜にみんなでテント抜け出して、森の中を探検したって話?」

 

「それそれ!覚えてるじゃん、みーちゃん!」

 

最初は香澄の興味本位。無理矢理俺を連れ出して、そこに美羽が便乗して。明日香は怖がっていたのに、美羽がテントから引きずり出して。

親には内緒で、結局後で大目玉くらったけど……俺はその探検で、運命の出会いを果たせたんだ。

 

「あの時、茂みを抜けた先に広がってた星空、すごかったよね!宝石みたいでキラキラしてて、星がドキドキしてた!」

 

沙綾にも話した、満天の星空。言葉では言い表せない美しさが広がり、華やかな光が夜空を彩る。隣に立つ香澄たちの事も忘れてしまうくらい、俺はその景色に見入っていた。

 

途端に何かが俺の中で弾け、胸の中に抑えきれない衝動となって満たされていくのを感じていた。興奮?感動?歓喜?その正体が何なのかもわからず、ただ目の前の世界に浸り続けていた。

 

「そうだ……!思い出した!すっごく綺麗な星を見たんだった!あんな星空見たのは、あの時くらいじゃなかったですか?」

 

「うん!私、それがずっと忘れられなくて、いつかまたキラキラドキドキしてみたいなって……!」

 

俺も、そして香澄も。あの光景を忘れることはない。だから俺たちは、探し続けているんだ。あの時の星空に近い何かを。

 

 

もう一度、あの空に会いたいから。

 

 

「それ、星じゃなくて自分の心臓の音でしょ?」

 

「うわっ、明日香はロマンがないな~。お兄ちゃんはわかってくるよね?」

 

「あぁ。俺も、いつかまた感じてみたいって思ってる。香澄と同じでな」

 

「翔さんまで……。まぁ、お姉ちゃんほどじゃないからいいですけど」

 

「私はダメなの~!?」

 

香澄の場合は、オープンすぎるんだよな。もう高校生だし、ちょっとはしっかりしろとでも言いたいんだろうな、明日香は。

寂しい目を向けてるし、明日香の考えてること当たってるんじゃないか?だったらすごいな、俺。

 

てか、さっきは美羽にくっつかれてたのに、今度は香澄が明日香にくっついているな……。明日香も若干嫌がってるし、ご苦労様だ。

 

「まぁ、音楽も一つの可能性ってことで、考えておいてもいいんじゃないか?心変わりすることだって、あるかもしれないしな」

 

「そうだね~……。キラキラドキドキすること、見つかるといいな……」

 

だが、この時の香澄はまだ知らない。運命を変える出会いは、すぐそこまで迫っていることに。

 

そこから、全てが動き出すことになることも……。

 

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