BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!1ヶ月ぶりですね、すみません!

実はゲーム実況を始めて、その都合で上手く時間が取れなくて……。言い訳ですね、精進します(切り替えが早い)

アニメも3期が始まって、書きたい欲がどんどん高まっているんで、この勢いで書き進められたらいいと思ってます!てか、そうしたい!

では、どうぞ!


phrase47 笑顔で

「いらっしゃいませー!1-Aカフェで休憩していきませんか~!」

 

いよいよ文化祭が始まった。各クラスがそれぞれ動きを見せる中、俺たちの喫茶店も営業をスタートさせる。

 

最初はまばらだった廊下の人通りも、すぐに多くなっていく。先輩や後輩、それに中等部らしい生徒まで。中には地域の人も来ていて、校内はすぐにお祭りムードに包まれる。話には聞いていたが、かなりの賑わいだな。

 

共学の高校だろうが、女子校だろうが、こういう雰囲気は何も変わらない。文化祭になればテンションも上がるし、勉学を忘れて楽しい時間を過ごす喜びは一緒なんだよな。

 

 

……もし、この場に沙綾がいたら。

 

 

「……っ」

 

「どうしたの?翔君」

 

「あっ、いや……何でもないよ、りみ」

 

顔に出てしまっただろうか。りみが心配そうに覗き込んできたため、俺はいつも通りを装う。が、りみはすぐに目をそらすと、なぜか俯いてしまう。

 

今は喫茶店の裏方だ。表では何人かが接客をしてくれているが、この時間は裏方にいるのは俺とりみの二人だけ。スペースも限られてるし、自然と距離も近くなる。それで、悟られてしまったのかもな。

 

「……沙綾ちゃんの事?」

 

「……口であぁ言っても、やっぱりわかるか」

 

「うん……。私も心配なんだ、沙綾ちゃんの事」

 

突然の離脱。クラスメイトにとっては、不慮のアクシデント程度にしか思っていないだろう。家族の体調が悪化して、その検査の付き添いと言われたらな。

 

だが……俺たちは違う。沙綾の抱える事情を知り、今この場にいない事が何を表しているのかも一段踏み込んで理解している。

 

沙綾のお母さんに何かあった事。それで沙綾が学校を離れた事。かつての事件で戒めの楔を打ち込んだ沙綾が、何を思って離れていったのか……。

 

行きつく先に浮かび上がるのは、ただただ沙綾への心配だけ。無事に戻ってくるように、過去にけじめをつけられるように。

 

 

もう一度、バンドと向き合うために。

 

 

「今は、沙綾ちゃんのために何かできる事はない……ううん。心配するくらいしかできないと思う。でも、それが沙綾ちゃんの決めた事で、香澄ちゃんが待つって決めたなら……私も信じて待ってみる。今できる事、やってみる……!」

 

「そうか……りみ、強くなったな」

 

「えっ?」

 

「あんなに引っ込み思案で、自分に自信が持てなくて。オドオドしていたのが嘘みたいだ。自分から進んで何かしようって、できる事に全力で向き合えるのは立派だよ。変わったな、りみ」

 

出会ったばかりの頃は、話し方だってぎこちなくて。何もできないんじゃないかって、恐怖で動く事すらできなかったのに。

 

でも今は、自分の言葉でハッキリと思いを伝えて。何もできないかもしれないけど、それでも何かできるかもしれないって、やれる事に取り組もうとしている。自分から動こうとしているんだ。

 

本当、変わったよ。今のりみは強いだけじゃない。頼もしくも見える。それだけ、香澄たちと過ごした時間がもたらした変化は、大きかったんだ。

 

「そ、それは……翔君が……」

 

「うん?」

 

「な、何でもない……」

 

よく聞こえなかったが、一瞬俺の名前が出たような気がする。ま、りみが何でもないと言った以上は、深追いするとよくないよな。

 

それはそれとして……。

 

「…………」

 

どうもさっきから、おかしいんだよな。

 

「わぁ、このパンおいしー!」

 

「やまぶきベーカリーのパンです!何個でも食べられちゃいますよ!」

 

「おすすめって何かあります?」

 

「んー、メロンパンにクリームパン。チョココロネやあんぱん、ミルクデニッシュも行けるでしょ?それからそれから……」

 

「アハハ、それって全部って事?」

 

「エヘヘ~!はい、全部です!」

 

表から香澄の接客する声が聞こえてくるんだが、あんなので大丈夫なのかよ……。おすすめ聞かれて全部って、気持ちはわからなくもないんだけどさ。

 

「香澄ちゃん、何だか張り切ってるね」

 

「だな。ちょっと無理してるけど」

 

「えっ?」

 

「少し声に力入ってる。いつもより声も大きいし、無理に話広げようとしてるのが丸見えだ」

 

「それは、接客だからじゃ……?」

 

「いや、違うな。あいつも、ただ待ってるって決めただけじゃないんだよ。本当は不安で、心配で、落ち込んでるんだ。そんなに強くなんかないし、それを必死で隠そうとしてるだけなんだ」

 

自分の不安を誰かに移して、巻き込んでしまわないように。せっかくの文化祭を、楽しい記憶のないまま終わらせたくはないから。そう思って香澄は、笑顔の仮面をつけてごまかしている。

 

そうして自分を奮い立たせて、強くあろうとしているだけ。でも、俺には脆く見えてしまう。これでも、幼馴染だからな……。

 

「だから、不安なのは俺たちだけじゃない。お互いにカバーしあって、沙綾が来るのを信じて待つ。

 

「翔君……」

 

「ま、そう思ったのもりみと話してたおかげだな。ありがと」

 

「私は、別に何も……」

 

まただ。りみの方を向くと、すぐに目が合う。が、わざとらしく目をそらされる。まるで避けているように、逃げているように。

 

 

その時決まって、りみは悲しい表情を見せるんだ。

 

 

「でも、私もその、翔君と話してたら元気出たかも。ありがとね、翔君」

 

「……それで?」

 

「えっ?」

 

「りみの元気がなかったのは、それだけが理由じゃないんだろ?」

 

「……っ」

 

やっぱりか。沙綾がいない事への不安だけじゃない、どこか別の原因があるんだな。それも……俺に関係する何かが。

 

「さっきからりみの様子がおかしかったからな。目が合っても、すぐに目をそらして逃げ出そうとするし」

 

「そ、それは……」

 

「俺、何かりみの機嫌を損ねるような事したかな……?知らない間にりみに嫌われるような事してたなら、これからは気をつける。謝るよ。だから、俺に理由を教えてくれないか……?」

 

正直心当たりが何もない。りみを不快にさせるような言動もしてないし、そもそもりみを嫌いになるはずがない。

 

だとしたら、無意識に俺の言動がりみを傷つけていたと考えるのが自然だ。だが……それらしいものすら思い当たる節がない。

 

とにかく、理由を知りたい。それだけなんです。

 

「え、いや……っ、ち、ちゃうよ!?翔君はなんもしてない!そんなに思い詰めんでもええから!……はぁぁっ!?///」

 

「えっ、そ、そうか?いや、気になったし、やっぱ視線とか合わないから、思い過ごしじゃない気がしてて……」

 

関西弁丸出しだったな……。それだけ動揺して、焦ってたって事なのか。

 

「でも、ありがとう翔君。やっぱり翔君は優しいね」

 

「そうか?今日は年に一回しかない文化祭だぞ?楽しまないと損だし、何かあったら力になりたいと思ってさ」

 

「それを優しいって言うんだよ、翔君」

 

りみにそう言われたら……納得するしかないな。優しさの自覚は全然ないんだけど。

 

「……ただ、翔君が他の女の子と仲良く話してるの見てたら、私なんか場違いかなって思っちゃって」

 

「えっ?」

 

「あっ、いや、その……変だよね。私、何言ってるのかな……」

 

ポツリとつぶやいた、りみのそんな本音。すぐにごまかして、また俺から目をそらしたが、何となく事情は察した。

 

りみは、俺と話すクラスメイトと自分の姿を比べて、少し心細くなってしまったんだな。そう言う部分は、何も変わっていない。もちろん、それは悪い意味じゃない。

 

 

そして何故だか、これこそ場違いな気もするが……可愛らしく見えた。

 

 

「変じゃないさ。そう感じる事自体は、むしろいい事だ。感じて、それをどうするかを誤ると、周りからは変だと感じられるけどな」

 

「翔君……何だか難しくてわからないよ……」

 

「ハハ、悪い。とにかく、何も変じゃないって言いたかっただけだ。だから俺から逃げるような真似をしたって事か?」

 

「うん……。私、気が弱いし、みんなみたいに積極的じゃないから……。一緒にいても楽しくないんじゃないかなって……」

 

他人と自分を比べ、そのギャップに心を痛めてしまう事はある。ギャップって言うのは、自分と他人に目を向けていないと感じないからな。そう言う意味では、りみの感じている気持ちが全て悪いとは言い切れない。

 

それで……俺が何気なくクラスメイトとしていた会話の中にも、りみを苦しめるトリガーが潜んでいたってわけだ。だから一人苦悶していたと。

 

「何言ってるんだよ。俺はりみと一緒にいる時間、結構好きだけどな」

 

「えっ……!?す、すす、好き……!?///」

 

「音楽の話とか、バンドの事とか。そんな話ができるのは、りみだけだからな。香澄はちょっと違うし、有咲にとっては乗り気な話題じゃないだろうし。たえは……話してると疲れるし」

 

けど、りみは話していても自然と落ち着くんだよな。音楽の知識もあるし、ペースも緩やかだし。ずっと話していても、終始安定していて疲れないからな。

 

初めて会った時だって、ファミレスでかなり話し込んでしまったが、何も気疲れはしなかった。それまで全然面識もなかったはずなのに、しかも二人っきりだったのに。

 

 

早い話が、気が合ってるって感じなんだよな。

 

 

「だから、そんな自信なくすなよ。確かにりみは大人しいかもしれないけど、そこが取り柄でもあるんだ」

 

「あ……ううっ……///」

 

「前にも言ったろ?もっと自分に自信を持ってもいいって。りみは、自分が思ってるよりもいいところがたくさんあって――」

 

「し、翔君待って!す、ストップ!///」

 

と、りみがブンブンと手を振って、俺の話を遮ってくる。どうしたのかとりみを見ると、耳まで真っ赤にしながら上目遣いを見せている。その仕草に、俺の体温まで上がりそうになってしまう。

 

「そ、そんなに褒められると……その、恥ずかしいよ……///」

 

「えっ!?あ、いや、すまん!別に困らせたかったわけでも何でもなくて、ただりみが落ち込んでるのをどうにかしたかったって言うか、励ましたかったって言うか……!」

 

「い、いいの!恥ずかしいけど、翔君が言ってくれた事嬉しかったから!」

 

それならよかったんだが……。つい熱が入ってしまって、りみを困らせそうになったからな。そこは少し反省だ。

 

 

だが、別の意味での問題は、この後に起こってしまった。

 

 

「そ、それに……」

 

「それに?」

 

「……わ、私と一緒にいる時間がすっ、す、すす、す……好きって言ってくれて、めっちゃ嬉しい!私も翔君といるの、楽しいから!///」

 

「り、りみ……///」

 

あ、あれ。何だこの空気。俺、今すげぇ熱くて仕方ない。

 

りみも急に顔をそらして、このまま爆発するんじゃないかと疑ってしまうほどに顔を赤らめる。チラチラとこっちを見つめる目つきは、俺の心拍数を上げるのにそう時間はかからなかった。

 

狭い空間の中で男女が二人。しかも、互いに顔を真っ赤にして見つめ合っている。これは俺たちだけでよかったと本当に思いたい。

 

もしこの現場を誰かに見られでもしたら、変な噂が経ってしまうのは確実。交代が来るまでに、何としても平常心を取り戻さないと……。

 

「あれ?何だかいい感じの雰囲気だ。翔、告白でもした?」

 

「「……っ!?///」」

 

っておい、たえ!お前はどうしてこんなタイミングで帰ってくるんだよ!?確かに、俺たちの次に裏方を担当するのは、たえではあるんだけどさ!

 

「あー、えっと……私ちょっと用事を思い出したから、もう少しゆっくり――」

 

「バカ、違うたえ!変な誤解するな!」

 

「おたえちゃん、これはその、何でもないよ!」

 

いや、これを何でもないで済ませるには相手が悪い。たえだぞ?香澄辺りにすぐに言いふらされそうな気がするし、ここは慎重に言葉を選んでいかないと。

 

「そうなの?」

 

「りみの言うとおりだ。少し悩みを聞いてあげただけで、決してお前が思ってるような恋愛話じゃない!」

 

「……う、うん!翔君が恥ずかしい事言うから、それでその……///」

 

「ちょ、りみ!?それは俺が悪いみたいじゃないか!?」

 

「はぁっ!?ご、ごめん翔君!そんなつもりじゃ……」

 

必死に弁解しようとしてるのに、逆に怪しさが目立ってしまう。慌てる俺たちを見て、たえはと言うと……。

 

「フフッ。仲いいんだね、二人とも」

 

「だから、お前なぁ……」

 

「大丈夫、誰にも言わないよ。でも、私だって負けてないからね」

 

「本当か!それは助か……ん?」

 

何とかたえの方が折れて、口止めには成功した。もう少し言及するかと思ってたんだが、思ったよりもすんなり引いてくれたな。

 

 

けど、こいつ最後……負けてないって何の話だ……?

 

 

「さ、疑いも晴れた事だし、張り切って行こー!」

 

「それは俺たちの言うセリフだからな!?」

 

「でも、まだ次の交代のみんなも戻って来てないし、それまではおたえちゃんと一緒に頑張ろう、翔君!」

 

「言われてみればそうだな。よし、ラストスパートだ!」

 

ここを乗り切れば、自由時間になる。他のクラスの出し物も見てみたいし、美羽のクラスにも行ってみたいからな。今朝も約束したし。

 

「なーくん、りみりん!注文だよ!あっ、おたえも戻って来てたんだ!」

 

「どんな事があっても、私は香澄の元に戻ってくるよ」

 

「スケールがデカいんだよ。それで香澄、お客さんか?」

 

「うん!伝票置いてくね!」

 

それだけ伝えると、香澄は伝票を置いてそそくさと戻っていく。始まってからずっと休みなく動いているが、大丈夫だろうか。

 

沙綾がいなくて、辛いはずなのに。だが、それでもあいつはあいつなりに頑張っている。だったら俺も頑張らないとな。

 

「で、注文は……と」

 

クロワッサンとカフェラテか。パンはすぐに用意できるし、そうなるとラテアートに時間がかかりそうか。

 

「りみ、たえ。ラテアート組の出番だぞ。俺はパン取ってくるから、その間に頼む」

 

「任された。じゃあ、私はカフェの方準備するね」

 

「えっ!?私、ラテアートあまり上手じゃないのに……」

 

とか言いながら、たえはたえで独特のセンスを発揮するんだよな……。ある意味、失敗よりも恐ろしい事が起こりそうで怖い。

 

俺はそんなやり取りを確認してから、頼まれたクロワッサンを取りに向かう。パンは全て、裏方として設けたスペースの端に置いた棚にしまってある。

 

「にしても、これだけのパンを準備してくれたやまぶきベーカリーには感謝しても仕切れないな」

 

普通にパン屋が開けるレベルの量だからな。これはもう、やまぶきベーカリー出張店と言っても間違いじゃない。と……クロワッサンも見つかったな。

 

「よし。後はカフェラテだが……お~い、りみ!どうだ?」

 

「あ、あれ?また失敗しちゃった……。うぅ、ラテアートが上手くできない……」

 

「いや、よくできてると思うぞ?少し形は崩れてるけど、これで大丈夫だろ」

 

「そ、そうかな?」

 

りみが言うほど、失敗しているようにも見えないからな。このまま出しても問題ない。クロワッサンを皿に移し、カフェオレと共に並べる。

 

 

けど、これって何だ……?

 

 

「かわいい、たぬきだ」

 

「それはないだろ、たえ。こいつはキツネだ」

 

「パンダだったんだけど……」

 

「「あ」」

 

全然惜しくも何もないな……。

 

「キツネはないよ、翔」

 

「う、うるさいな!たえだって外してるだろ!?」

 

「でも、可愛いよ。写真撮ろうっと」

 

「わぁ~!取らないで~!」

 

たえがカメラを構えて、りみの作ったパンダのラテアートを映しこむ。りみは手で隠そうとしていたが、たえがシャッターを切る方が早かった。

 

「お前、ずっとカメラ持ってるのかよ」

 

「もちろん。沙綾のために、少しでも思い出を残しておかないと」

 

そしてこのカメラは、たえの私物じゃない。沙綾のお父さんに借りたものだった。文化祭に出られないなら、せめて何か形にできるもので記録しておきたい。そう考えた結果がこれだった。

 

「よし、じゃあ持ってくぞ。お~い、香澄!」

 

「は~い!待ってたよ!」

 

俺が香澄を呼ぶと、すぐに戻って来てくれた。何か面白い事でもあったのか、さっき見たものとは少し違う笑顔を見せていた。

 

「はい、注文のパンとカフェラテだ」

 

「ありがと、なーくん!」

 

「随分と楽しそうだけど、何かあったのか?」

 

「面白いお客さんがいるんだ!さっきもずーっと話してたんだ!」

 

「へぇ。そいつ、どんなやつなんだ?」

 

「あそこのテーブルに座ってる子!金色のロングヘア―の!」

 

「金髪……っ、あれって……」

 

香澄に言われた通り、俺はロングの金髪の女の子を探す。ちょうど、こちらに背を向ける位置だ。

 

けど、あの後ろ姿。俺の間違いじゃなかったら、きっと彼女だ。だが、面白いって言うのが、俺の中の彼女のキャラとは少しかけ離れている。せめてこっちを向いてくれたら、判別できるんだが……。

 

「……このパンって、あの子の注文だよな?」

 

「そうだよ?それがどうかしたの?」

 

「ちょっと確かめたい事があってな。これ、俺が持って行ってもいいか?」

 

「それはいいけど……なーくん、あの子の事知ってるの?」

 

「多分な。それを確かめる」

 

俺は香澄の代わりにパンとカフェラテをトレイに乗せ、彼女の元へと向かう。回り込み、ちょうど彼女と向き合う形になって、俺は確信する。

 

やっぱり俺は、彼女の事を知っている。この顔は、見た事がある。

 

「お待たせしました。クロワッサンとカフェラテでございます。……弦巻こころさん?」

 

「え?」

 

名前を呼ばれ、キョトンとしているようだった。だが、俺の顔を見た途端、すぐに誰なのかを思い出してくれたようで……。

 

「あなた……翔じゃない!このクラスの生徒だったのね!」

 

「お、おう。久しぶり、こころ。てか、普段はこんな感じなのか……」

 

「えぇ!笑顔で楽しく!ハッピーな気分じゃないと!」

 

病院の時とキャラが違いすぎたから、内心驚いた。もっと物静かに接してくれると思ったんだが、飛びぬけて元気だ。香澄がこころの事を、面白いと言った理由もわかるかもしれない。

 

「それにあたし、文化祭好きなの!どのクラスもみーんなが盛り上がって、違った笑顔を見せてくれるんだもの!」

 

「ハハ、そうだな。俺も文化祭の雰囲気、嫌いじゃないぜ?」

 

「翔ならそう言ってくれると思ったわ!あ、これいただくわね?」

 

「もちろん。食べてみてくれよ」

 

そう言うと、こころは持ってきたクロワッサンを食べ始めた。大きな口で、モグモグと味わうように頬張る。俺が作ったわけではないが、緊張しながらその様子を見つめていた。

 

「……美味しいわ!これ、とっても最高よ!」

 

「これ、実は商店街のパン屋から取り寄せていてな。気に入ってくれたなら、俺も嬉しいよ」

 

「カフェオレも美味しいし、この喫茶店に来てよかったわ!あたし今、すっごくいい気分!」

 

カフェオレも堪能し、こころはご満悦のようだ。気に入ってくれたなら、俺たちも大満足だ。

 

「そっか。俺たちの喫茶店が、こころを笑顔にできたってわけだ」

 

「あら、翔だって嬉しそうじゃない!あたしが笑顔になって、翔も笑顔になった!みんながハッピーな気持ちになれたのよ!」

 

「俺も笑顔……ハハ、そうだな!」

 

「やっぱり、誰かが笑顔になる瞬間っていいわね!こんな気持ちになれるなら、できるなら、あたしはもーっとたくさんの人に笑顔になってほしい!それがあたしの夢なの!」

 

「いいな、その夢。俺も応援するぜ」

 

「えぇ!……でも、一番笑っていてほしいのは、この夢をくれた人なのに」

 

「あ……」

 

名前には出さなかったが、きっとあの子。今も病室で虚無の時間を重ねている、あの銀髪の女の子。

 

 

美空だ。

 

 

「……あっ、ごめんなさい翔。今度こそ楽しい話ができたのに、あたしのせいでつまらなくさせちゃうところだったわ」

 

「いや、いいさ。あの子がくれた夢が、今のこころを作っているんだ。少しくらいは、弱さを見せてもいいんじゃないか?」

 

「……えぇ、そうね。ありがとう、翔。あなたがそう言ってくれたから、少し気が楽になったわ」

 

「そっか。ならよかったよ」

 

 

「だから……あなたも、少しは弱いところを見せてもいいと思うの、翔」

 

 

「……っ」

 

こころの一言が、俺の胸に突き刺さる。それを軽く受け流せないのは、やはり俺の中で、まだ沙綾の事を割り切れていないからなのか。

 

「……俺、無理に強がってるように見えてたのか?」

 

「今の翔の笑顔は、何だか違うの。上手く言葉にできないのだけど……心から楽しめてない、のかしら」

 

「……すごいな。そこまでわかるのか」

 

「本当に心から笑顔になれる時って、声や仕草に変化があるの。あたしはいろんな人を笑顔にしてきたけど……みんな、気持ち良さそうなの。そんな空気を感じて、それが無意識に声や仕草として現れて……」

 

笑顔を見てきたからこそ、笑顔から俺を見抜いた。もちろん、俺の抱える事情まではわかっていないだろうが、何かあると感づいたのは大したものだ。

 

「それにさっきの……香澄も、ここの店員さんも。みんな、笑顔なのに笑顔じゃないの。何か悩んで、モヤモヤしてるみたい」

 

香澄って……俺たちが準備している間、そこまで親しくなってたんだな。とまぁ、それはそれとして……。

 

「……正解。これ以上は、隠していたらこころに悪いな」

 

「じゃあ……何かあったのかしら?」

 

「あまり詳しくは言えないが、クラスメイトが1人、文化祭に参加できなくなってな。その子は今日のために、ずっと頑張ってくれてたんだが……今日になって、急に来れなくなったんだ」

 

「そうだったの……」

 

「けど、俺は戻ってくるって信じてる。香澄も、きっと戻ってくるってな」

 

必ず戻ると、沙綾はそう約束した。だから俺たちも、待ってると決めたんだ。沙綾がいなくても、この喫茶店を成功させてライブに臨まないといけない。

 

 

沙綾が来ると、信じて。

 

 

「……でも、そう簡単に言い聞かせられるほど、俺もできてないからさ。香澄だって、心配で仕方ないんだよ」

 

「えぇ。その気持ちは、あたしにだってわかるわ」

 

「だから、素直に楽しめないんだと思う。クラスのみんなは、そこまで深く事情を知らないが……やっぱり、本番でいないってのは大きいと思うからさ」

 

沙綾はクラスの中心で、頑張っていた。全体を引っ張り、支えになってくれていたんだ。パンの事だって、沙綾がいなかったら実現できなかったかもしれない。何から何まで、本当によく動いてくれたと思う。

 

それが、突然参加できなくなって。一番楽しまないといけない沙綾が、非情にも楽しめなくなって。

 

前を向いて、バンドにも向き合おうとしていた、その寸前で起こってしまった、今回の出来事。過去をなぞるかのような偶然が、俺たちにも不安を与える。

 

 

沙綾は、本当に大丈夫なのかと……。

 

 

「それは違うと思うわ、翔」

 

「えっ……?」

 

「その子がいなくて、上手く楽しめない……本当の笑顔になれない。でも、そんな時だからこそ、笑顔でいないと!」

 

そんな俺に対して、こころは力強く言葉を投げかける。言い分はもっともだが、それだけで全てが解決するわけじゃない。

 

そう簡単に気持ちの整理がつけられるのなら、今こうして苦労なんかしてないんだよ。あまりにも、急すぎたんだよ。

 

 

わかっているのに、不安は募る一方だから。

 

 

「それは、わかってるけど……」

 

「その子は戻ってくるんでしょ?あたしにはわからないけど、そうなんでしょ?」

 

「……いつになるかはわからないけどな。それでも……必ず来るはずだ」

 

「だったら、笑っていないと!楽しまないと!だって……」

 

その後に続いた言葉を聞いた瞬間、俺は何かを感じた。

 

 

 

 

「その子が戻ってきたときに、翔が楽しくなかったら意味ないじゃない!!」

 

 

 

 

「あ……っ」

 

ふわりと風が吹き、俺の中を突き抜けていくような、そんな感覚だった。

 

「その子を心配して、翔が文化祭を楽しめなかったら……それはその子にとって、嬉しい事じゃないと思うの。その子だって、戻ってきたときに笑顔じゃなくなるわ」

 

「それは……」

 

「もっと肩の力を抜いて、楽しんで。戻ってくるって信じてるなら、難しく考えないで笑いましょ!そうすれば、きっとその子も笑顔になれるわ!!」

 

「笑顔に……」

 

そうか……そうだな。俺は、何もわかっていなかったのかもしれないな。こころの言う通りだ。

 

心配するのはいいが、そのせいで俺まで楽しめなかったらどうするんだ。楽しんでいるように見せていても、まだそれでも、心の底から楽しめていたかって言われたら……嘘になるのかもな。

 

戻ってくる。それがわかっている。なら、何も心配する事はない。

 

戻ってくる沙綾のために、笑顔になれる場所を用意する。それが、俺たちに与えられた、今文化祭に参加している俺たちにしかできない事だ。

 

「それじゃ、あたしはもう行くわね!そろそろ、待ち合わせの時間なの!」

 

「そっか。……ありがとな、こころ」

 

「えぇ!翔が喜んでくれたら、あたしも嬉しいわ!」

 

俺は空になった皿とティーカップをトレイに置き、席を立ったこころを見送る。少し小躍りしているこころを見て、俺は自然と笑みがこぼれる。と、

 

「あら……いい笑顔になったわね、翔!」

 

俺の方を振り返り、そう言い残してこころは教室を出ていく。俺は緩んだ口元を誇らしく思いながら、裏方の方へと洗い物を運んでいく。

 

「いい笑顔……か」

 

「なーくんお疲れ!もう交代の時間だよ!」

 

「あ、そうだったな。じゃ、後は任せるか」

 

俺は喫茶店の方を託し、エプロンを取って休憩に入る。りみもこれから休憩時間だが、既に着替えを終わらせて教室の外で待っていた。

 

香澄も、最初は休憩なしでやるつもりだったみたいだが、それはマズいと周囲から止められたんだろう。つけていたエプロンは外され、制服姿に戻っている。

 

つまり、俺と香澄、そしてりみの3人が同じタイミングで休憩に入ることになる。偶然にも、このメンバーになるとはな。

 

「お待たせ、りみりん!それじゃ、私たちも文化祭を楽しもう!」

 

「うん!香澄ちゃん、翔君、まずどこに行こっか?」

 

「どうしようかな……。なーくんは?」

 

「俺は特に決まってないし、2人に合わせるよ。てか、どのクラスがどんな出し物してるかわかってないしな」

 

高等部だけじゃなく、中等部もあるんだからな。そっちの方はよくわからないし、行き先に関しては2人に任せておこう。

 

「それじゃあ、一個ずつ回ってみようよ!その方が楽しいかも!」

 

「よし、決まりだな。じゃ、2人とも……」

 

「「……?」」

 

「今日はせっかくの文化祭なんだ。難しい事は考えないで、とにかく楽しもう!そうすればきっと、沙綾だって笑顔で戻って来てくれるはずだ!」

 

「……!うん、そうだね翔君!私たちが文化祭楽しまないと、沙綾ちゃんだって楽しくなれないよね!」

 

「よ~し!それじゃあ、まずはあのクラスからだよ!行こう、りみりん!なーくん!!」

 

「……あぁ!!」

 

香澄に手を引かれ、俺とりみは生徒に紛れて廊下を歩きだす。

 

 

沙綾の分まで、笑顔で文化祭を楽しむために。

 






こころの言葉を胸に、文化祭を楽しむ翔たち。



ここにはいない沙綾の分まで、少しずつ思い出を刻んでいく。



そして一行は美羽、そして有咲のクラスにも足を運ぶ。



楽しく過ぎる時間の最中、ついにライブ本番が差し迫る……。



次回「今だけの時間」
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