BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!ついにUAが25000を超えました!ありがとうございます!これからも頑張っていくので、応援よろしくお願いします!

ガルパも今月で3周年になり、新バンド追加が決定しましたが……楽しみです!ま、こっちはまだ1期の話なんだけどね。

では、どうぞ!


phrase49 昨日までの日々に

「何でもなくてよかった……」

 

「心配しすぎなの。お医者さんだって、ただの貧血だって言ってたじゃない」

 

「それは、そうだけど……」

 

お父さんに連れられて、私たちはすぐにお母さんを病院へと連れて行った。幸い、大事には至らないとの事で、私は何とか一安心する。

 

今はお医者さんから結果を聞いて、お母さんと二人で待合室に戻ってきたところだった。お父さんは、純と紗南を見てくれている。本当は私が二人を見るはずだったけど、私が行きたかった。お母さんの傍で、結果を聞きたかった。

 

やっぱり……心配だから。今までずっと、そう思い続けてきたんだから。

 

「文化祭も、抜けてきたみたいじゃない。さっきお父さんから聞いたわ」

 

「……うん、そうだよ」

 

「そこまでしなくてもよかったのに……。今日はお父さんもいたんだから……」

 

「ううん、いいの。私が……来たかったから」

 

私が、支えないと。体の弱いお母さんに代わって、家族を安心させないと。紗南や純にも、あの時のような恐怖を与えないためにも。そうじゃないと……ダメなんだ。

 

紗南の鳴き声が、純の悲鳴が、頭から離れない。私が自分のわがままで、バンドなんかに打ち込んだから。自分だけ楽しい思いをする事が、罪だと悟ったから。

 

そんな私を見かねて、気を遣ってくれるナツたちの思いも……私には棘でしかなかった。私のために、私に合わせてくれている。そう思えば思うほど、情けなくて。周囲の人間に、そう強要させている私が、憎くて。

 

だからバンドを止めた。楽しい時間はもう捨てた。自分だけいい気分で、周りの時間を奪ってまで得られる幸せに何の意味もない。それでいいんだって、そう思いながら。

 

 

思うしかなかった。

 

 

だって、そうでしょ?私が家の手伝いをするようになって、紗南や純が怖い目に遭う事はなくなった。お母さんも、一人で無理をして抱え込まずに、安定した日々を送っている。

 

何も悪い事なんかない。私が、私さえ我慢してしまえば。それで全てが上手くいくのなら……。

 

「……どうかしたの、沙綾?」

 

「えっ、あ……ごめん。ちょっと、ボーっとしちゃった」

 

 

もし、私がバンドの道を選んでいたとしたら。

 

 

「…………」

 

その時は、また繰り返してしまうのか。そうならないように、バンドを捨てたのに。

 

今だって、こうしてお母さんが倒れて……あの時と同じ時間が繰り返されようとしている。

 

選ばなかったから、今がある。選んでいた時、何が待っていたのかは分からない。その道の先が、どうなっていたのかも。

 

 

いくつもの夢を数えても。

 

 

見て見ぬふりをした。聞こえないふりを続けていた。

 

 

家族を、友人を、そして自分をも苦しめてしまうから。

 

 

私の選択は……結局、誰かに迷惑をかける事にしかならない……。

 

 

『それは、迷惑だとか損だとか、そんな話とは一切関係ない。そう思うのなら、それは優しさでもない』

 

 

そう思っていた。はずだった。

 

 

『できるの!何でも一人で決めちゃうのズルい!ズルいズルいズルいっ!!一緒に、考えさせてよ……っ!』

 

 

自分は楽をしたらいけないんだって、何もできないと思っていた私に、泣きながら言葉を投げかけてくれた友達がいる。

 

 

『みんな、沙綾と一緒に損したいだけなんだ。その代わりに得られるものは、どんなに苦しい事だって乗り越えられる力になる』

 

 

自分を閉じ込めて、耐える事が正しいと思っていた私に、本当の正しさを教えてくれた友達がいる。

 

あの時、私に前を向く勇気をくれた言葉が。固く鍵をかけていたはずの私の心を開いてくれた、二人の声援が。ずっと立ち止まっていた私に、力をくれる。

 

「……ねぇ、お母さん」

 

「どうしたの?」

 

「……今朝さ、どうしても今日の文化祭、見に来てほしいって言ったよね」

 

一言ずつ、ゆっくりでいい。この気持ちを、伝えないと。

 

「その理由、あの時は言えなかったから……今、話すね」

 

「……えぇ」

 

「私……もう一度、バンドがしたいんだ」

 

 

本当は、ずっと気づいてた。

 

 

私は、バンドがやりたいんだって願ってた。

 

 

「バンドがやりたくて……でも、ずっと我慢してた。あの日、初ライブの時にお母さんが倒れて、純や紗南の悲しんでる姿見て……自分だけ楽しむのは、間違ってるなって思ったから」

 

「…………」

 

「バンドのみんなも、私に合わせてくれようとしたけど……それで自分だけ楽しんでいいはずないって、そう思ったから」

 

「…………」

 

「だから、バンド止めたんだ。周りに迷惑かけてまで、続けても仕方ないって。私がバンド止めたら、誰も悲しまない。迷惑もかけない。そんな姿を誰かにさせるのが嫌だったから、私は……バンドから離れたんだよ……」

 

お母さんは何も言わず、ただ静かに聞いてくれる。ここが病院だからじゃない。私の言葉を、全て受け止めてくれている。

 

「でも、ごめんなさい……。ごめんなさい……っ!私、やっぱりバンドがやりたい!私のわがままで、お母さんにはまた一人で負担かけることになっちゃうけど……でも、もう抑えられない!我慢なんかできない!」

 

 

記憶の底の小さな声が、今確かに響いていく。

 

 

自分勝手で、どうしようもなくて。

 

 

私が自分を優先して、そのせいで迷惑をかけてしまう人もいる。

 

 

不安にさせてしまうかもしれない人がいる。

 

 

でも……これからは、欲張りでいさせてくれないかな。

 

 

ねぇ……お母さん。

 

 

この声、聞こえてますか?

 

 

「こんな私を、待っててくれる人がいるから……だから今日、もう一回バンドやるんだ。ライブもする。ここに来たのは、どうしてもお母さんにこの話をしたかったから……」

 

「……沙綾」

 

「昔の私とは違う。本当の気持ちに気づかされて、そこから逃げて諦めていた私とはお別れするために、お母さんと話がしたかった。過去にけじめをつけるために、伝える事で変わりたかったんだ……」

 

変われているのかは分からない。けど、変わるためには、お母さんと向き合わないといけない。

 

お母さんが倒れたから。お母さんに迷惑をかけたくなかったから。お母さんを少しでも助けたかったから。私がバンドから遠ざかっていた理由を作り出していたのは、全てお母さんに関係していた事だ。

 

だから……伝える必要があったんだ。

 

「……沙綾は優しいね。その優しさに、いつの間にか母さんも甘えてしまってた」

 

「お母さん……」

 

「そのせいで、大切な物まで奪ってしまってた。ダメな母さんだね……」

 

「そんな事ない!お母さんは何も奪ってない!私が選んでしまっただけ……!」

 

「でも……そうやって倒れるまで無理をしてしまって、結果的に心配させるようなことになってしまったのは、母さんの責任。倒れてしまってからも、早く安心させたい一心で、余計に無理して心配かけてしまったから……」

 

「……そんな事で負い目を感じる事なんか、何もないよ」

 

「そんな事じゃない。自分の子供の幸せを奪う親なんて、親として失格なの。だから……ごめんね、沙綾。母さん、間違えちゃったね……っ!」

 

スルリと、お母さんの腕が私の背中に回される。苦しさを感じるほどに力を込め、お母さんは私を抱きしめてきた。

 

肩に触れるお母さんの顔。そして濡れた感触。悲しさと後悔が、お母さんの震えた体から伝わってくる。後悔なんて、お母さんがすることでも何でもないのに。

 

でも……結局私は、お母さんを苦しめてしまった。私自身が、自分を殺して生きようとしたことで。その過ちに気づいて、前を向こうとしても。そうであった過去は変わらないし、その事実に傷つく人は確かにいた。

 

それこそが、迷惑だったのかもしれないって……今ならわかる。昨日までの私なら、絶対にわからなかった事でもある。

 

「グス……っ、沙綾、電話が……」

 

「えっ……?」

 

ふと、スマホが鳴っている事に気がついた。取り出して確認して見ると、それは香澄からの不在着信だった。ボイスメッセージも2件ある。

 

「これ、香澄……」

 

「香澄ちゃんから?」

 

「うん……。ごめん、お母さん。ちょっと確認してくる」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『保存されたメッセージは2件です』

 

場所を移し、私は病院の中庭に来ていた。院内だと、騒がしくしてしまって邪魔になると思うし。

 

けど、中庭か……。いつも学校の中庭で、香澄たちとお昼ご飯食べてる時の事、思い出しちゃった。今、そんな話なんか全然関係ないはずなのに。

 

 

そうやって感傷に浸るのは、香澄からのメッセージだからなのかな。

 

 

『さーや?……あっ、私、香澄だよ』

 

わざわざ名前言わなくても、知ってるよ。これは香澄からのメッセージなんだから。

 

『お母さん、どう?さーなん泣いてない?じゅんじゅん元気?』

 

もう大丈夫だよ。そんなに心配しなくても、こっちは平気だから。お母さんだけじゃなくて、純に紗南の事も気遣ってくれて……。

 

『それに……さーやも、大丈夫?』

 

「……香澄」

 

私の事まで、心配してくれるなんて。そこまで気を遣ってくれなくてもよかったのに。

 

何だか、もう一人の私を見ているみたいだった。けど、そんな風に周りからは見えていたのかな……。

 

『カフェはね、大成功!お客さん、パンおいしいって言ってくれてね!お持ち帰りする人もたくさん!えっへへ……』

 

『沙綾?香澄、沙綾に電話してるのか?』

 

『わっ、なーくん!』

 

『おーい、沙綾!元気か?こっちの事は気にすんな。しっかりやってるぞ。だから沙綾も、自分のやるべきことをしっかり果たして来い』

 

「翔まで……」

 

何だろう。翔の声を聞いたら、少し安心したような気がした。昨日の事があったから……かのかな。

 

『えっ、沙綾!?もしもーし、お母さん大丈夫?こっちは任せて!』

 

『みんな沙綾の分までがんばってるよー!』

 

『うぅ、沙綾ちゃーん!』

 

『山吹ベーカリーの曲作ったから聞いてー!』

 

『わわっ、ちょっとみんなストップ!さーや今病院だから、あんまり騒がしいとーー』

 

「アハハ……。盛り上がってるな」

 

牛込さんに、花園さん。それにクラスメイトのみんなも。賑やかで、本当に楽しそう。私もその場にいたかったけど……これは私が自分で選んだから。

 

『2件目のメッセージです』

 

あれ、1件目終わってる。こっちは何だろう?

 

『もしもし、さーや?あ、さっきはごめんね。話どころじゃなくなっちゃって……』

 

それで新しく撮りなおしたんだ。今回は、周りもそこまで騒がしくない。場所を変えたのかな。

 

『こっちは大丈夫だから!それにすっごく楽しい!だから……ライブも、がんばるよ!』

 

「香澄……」

 

『さーやに届くように、がんばるから!それから、歌詞!さーやの家に届けたんだけど、見てくれた?』

 

うん、見たよ。今朝、翔と一緒に見た。あの曲を、香澄は今日のライブでするんだ。

 

みんなと一緒に作り上げて、今日のために練習を重ねたあの曲を。大勢の生徒の前で披露する。前のクライブとは規模も何もかもが違う、今日と言う日の舞台で。

 

その舞台には、私も求められていて。『みんな』の中には、私の存在も含まれている。

 

今も、きっと待っている。

 

ううん。きっとじゃない。待っているんだ。

 

あの曲を……私と一緒に演奏する時を。

 

 

『STAR BEAT!~ホシノコドウ~』香澄らしい、その曲を。

 

 

「…………」

 

ダメだね。この思いは離せない。

 

 

もう離さない。

 

 

ずっと離したくない。

 

 

この気持ちが本物だから……自然と涙が頬を伝うんだ。

 

 

バンドへの思いが詰まった、本物の熱だ。

 

 

「行って、沙綾」

 

「お母さん……」

 

いつの間にか、お母さんも中庭に出てきていた。その隣には純と紗南、お父さんも一緒だ。

 

「沙綾の優しさは本物だね。お母さんにもみんなにも、すごく優しい。その優しさを、今度は自分に向ける番。一人じゃないんだから」

 

「お母さん……」

 

「お父さんだっているんだ。もう沙綾だけに、何もかも背負わせるような父親にはならないからな」

 

「お父さんも……」

 

「俺だって、もう大丈夫。何かあれば、助けを呼ぶくらいできるから」

 

「さーなもいるから、心配しないで……!」

 

「純、紗南……」

 

そうか、さっき私に連絡してきたのは、純だった……。怖がって動揺する事なく、むしろ冷静だった。

 

私……全然周りが見えてないね。まだまだ子供のようにしか見ていなかった。純も紗南も、私が思うほど弱くも何もなかったんだね。

 

「ね?何でも一人で背負う必要はないの。後は、沙綾の番」

 

「私の……」

 

「これからは、沙綾を待ってくれている友達のために……そして、自分自身のために、その優しさを使ってあげて」

 

わかってる。何も言葉はいらないから。踏み出す勇気は、もう十分に貰えたから。

 

「……ありがとう、お母さん。お父さんも。紗南と純も……ね?」

 

しゃがみこんで、私が順と紗南を抱き寄せる。まだ涙で顔が濡れていたけど、何も嫌がることなく、私の好きにさせてくれた。

 

「私、ちょっとだけわがままになってみるよ……!」

 

「それくらいが、沙綾にはちょうどいいのよ。さ、行っておいで。待ってる友達がいるんでしょ?」

 

 

香澄……翔……。それに、みんなも。

 

 

いつも遠くから、みんなの事をずっと見つめてた。

 

 

羨ましくて、でも届かなくて。

 

 

でも、ようやく届きそう。もう少しで届くんだ。

 

 

とっても眩しくて、バンドに対して一生懸命で……。

 

 

前向きに、いつも走ってたあなたたちに。

 

 

風に揺れた君の声は、私の心も揺らしていたんだよ。

 

 

「……うん!」

 

 

昨日、こんな私のために、家まで来てくれた人がいる。

 

 

昨日、こんな私のために、涙を流してくれた人がいる。

 

 

昨日……こんな私のために、こんな私の事を、真剣に受け止めてくれた人がいる。

 

 

眠ってた声が、思いが私を誘う。私の向かうべき場所へと。

 

 

瞼を閉じ、諦めてた夢を形にする。あなたと、みんなと。

 

 

歌いたい……奏でたい……!

 

 

「……行ってきます!」

 

 

待っててね、香澄。すぐに行くから。

 

 

昨日までの日々とは、今ここでサヨナラしたから。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

『有志ライブの時間が近づいてきました。参加バンドの皆さんは、体育館にて準備をお願いします』

 

美羽を加えたメンバーで文化祭を見て回り、ライブまでの一時を過ごしていた俺たち。そこに、校内アナウンスでライブの始まりが告げられる。

 

「……そろそろ時間だね」

 

「あぁ……」

 

ようやく来た、この時が。今日のために曲を作り、練習し、そして……いてほしい人のために言葉をぶつけた。

 

まだ、全てが叶ったわけじゃない。でも、やれるだけの事をやって、今日を迎えた。必ず来るからと、だからこそ信じて待つと決めた。その全てが、今から始まる時間へと繋がる。

 

「頑張ってくださいね、皆さん!私も、明日香やクラスのみんなと一緒に応援しに行きますから!」

 

「みーちゃん……ありがと!」

 

美羽は中等部の方へ戻っていった。俺たちも、教室に戻って楽器を準備しないとな。

 

「いよいよだな……」

 

「うん……。どうしよう、緊張してきちゃった……」

 

「大丈夫。落ち着いて演奏すれば、きっと成功するよ」

 

ライブへの緊張感は、もちろん俺だってある。前のクライブとはわけが違うんだ。数人に聞かせるだけの、軽い音合わせ感覚じゃない。俺たちの音色が、その場の空気を作り出すんだ……!

 

「……沙綾」

 

そして沙綾。お前がいないと、今日のライブは意味がない。美羽はあぁ言ってたが、これは俺たちだけで終わらせていいものじゃないんだ。

 

だから……間に合ってくれよ。

 






あの日、あの星空の下で。



一緒に歌おうと、約束した場所がある。



あの日、文化祭を直前に控えた中で。



涙を流し、想いをぶつけあった時間がある。



過去と向き合い、未来を見据え……。



一人の少女は、ようやく歩き出す。



『待ってるから』



信じて待つ友の元へと。約束の場所へと。



掴むのは、もう一度音色を奏でる二振りの木棒。



そして……。



「さーや……っ!」



少女を迎え入れる、友の手を――!



次回「ホシノコドウ」
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