BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!今回で50話です!やったー!!

そして今回の話は記念すべき50話でやりたいと思ってました!上手く行ってよかった!

ガルパも3周年!新バンド!ドリフェス!りみりん!(え)

こんな感じですが、YouTubeでも動画投稿したりしてるので、よかったら『~ティアチャンネル~』で検索して下さい!

では、かなり前置き長くなりましたが、どうぞ!


phrase50 ホシノコドウ

「やっべー、こんなに見に来るのかよ……」

 

「目玉イベントって言ってたからな。ほとんどの生徒が集まってるんじゃないか?」

 

「うーわ、マジかよ……」

 

ついにこの時を迎えた。いつも見慣れた体育館がライブ会場へと変わり、今日のために積み重ねた努力を観客へとぶつける瞬間が。

 

生徒たちは一斉に体育館へと集まり、既にいっぱいになっている。高等部だけじゃなく、中等部の生徒も来ているからな。美羽や明日香も、どこかにいるんだろう。

 

にしても、俺もさすがに緊張するな……。これだけの人数を相手に、ドラムなんて叩いた事ない。ライブだから覚悟はしていたが、いざ目の前にすると押しつぶされそうになる圧力を感じる。

 

「お姉ちゃんもこの後にライブあるから、すぐ近くで見てるんだよね……。あ、足震えてきた……」

 

「リラックスして、りみ。また人の字飲む?」

 

「お、お願いしようかな……?」

 

するのかよ。けど、俺だって手汗が止まらないからな。気持ちは痛いほどわかる。

 

「……おい、香澄。いつまでスマホ見てんだよ。私たちの出番、そろそろだぞ」

 

「…………」

 

「ちょ、無視すんなよ。かす――」

 

「待て、有咲」

 

強引に話しかけようとした有咲を、俺は肩を掴んで止める。気持ちはわからなくもないが、今は無理に声をかけない方がいい。

 

「香澄はな……最後まで信じてるんだよ。沙綾は必ず来るって、約束したんだからな」

 

「けどよ……いつまでもそんなんじゃ、今からのライブにだって支障が出るかもしれねーぞ?」

 

「大丈夫だ。その辺りの切り替えは、香澄にだってできるはずだ。……多分」

 

「おい翔、歯切れ悪いぞ」

 

「うるせぇ」

 

香澄が沙綾を信じているように、俺だって香澄のそう言うところを信じてやらないと。ま、何かやらかしそうな気もなくはないんだけどな……。あいつの事だし。

 

「だから、有咲も少しは自分の心配しろよ?りみやたえだって、自分の事で手一杯だしな」

 

「わかってるっつーの」

 

有咲も理解したのか、これ以上は突っかからないで黙り込む。俺たちの番は次だ。その時に向けて、気持ちを集中させるために。

 

「……香澄」

 

それでも香澄は、ただじっとスマホの画面をのぞき続けていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……!」

 

私は走り続けた。髪が乱れるのも、スカートが揺れるのも、何もかもが気にならないくらいに。学校までの道のりがこうも長く感じるのは、今日が初めてかもしれない。

 

「香澄、みんな、待ってて……!」

 

こんなにも必死になって走ったのは、お母さんが倒れたあのライブ以来だ。あの時も、私の中には焦りがあった。今だって、胸を満たすのは焦燥感だ。

 

けど、それだけじゃない。同じ感情でも、その先に結びつく思いは違う。私の事を待っててくれている人が、そこにはいる。

 

 

何よりも、私自身が望んだ未来が待っている。

 

 

「見えた……っ!」

 

耳につけたイヤホンからは、昨日送ってもらった曲が流れ続けている。練習もしていないし、どうなるのかはわからないけど……それでも必死に頭にリズムを叩き込む。

 

そんな私の目の前に、ようやく慣れ親しんだ校舎が見えた。外にはほとんど生徒の姿はなく、微かに重低音が聞こえてくる。もう、ライブは始まっていたか。

 

後は、香澄たちの出番が終わっていないことを祈るだけ。約束したから。必ず戻ってくるからと。

 

 

そんな私を、待ってると。信じてくれたから。

 

 

校庭を駆け抜け、人影をかき分け、体育館へと続く通路へ。よくは聞き取れないが、まだライブ自体は終わっていない。安堵しながら、一気に走り抜けようとして……。

 

「……沙綾」

 

「……っ!」

 

私にとって、居場所「だった」存在が……並んで歩く姿を、私は見た。そして向こうも、私に気づいた。

 

「ナツ……。フミカ、マユも……!」

 

 

かつての仲間たちを前にして、私は足を止めてしまった。

 

 

「ど、どうしてここに……」

 

「文化祭ライブ、私たちも参加してるんだ。と言っても、もう出番終わっちゃったけどね」

 

ナツたちも、今日のライブに出てたんだ……。嬉しいような、悲しいような、複雑な気持ちだった。

 

「そう言う沙綾は……どうしてここにいるの?」

 

「……私は」

 

一瞬、その後に続く言葉が詰まる。今目の前にいるのは、私が音を合わせ、同じ時間を過ごしてきた仲間だったから。

 

彼女たちとの時間は、完全に過去となる。思い出として、もうあの頃のようには戻れない。それは、いい意味としても悪い意味としても。

 

だから……。

 

「あのね、ナツ。フミカ、マユも。私……」

 

私は、ずっとナツたちに負い目を感じていた。

 

彼女たちの気持ちに応える事もなく、自分の都合で背を向けて。好意を蔑ろにして、だから気まずくなって……。上手く言葉を交わせずに、今までぎこちなく距離感を保ってきた。

 

私が、奪ったんだ。みんなでライブする機会を、永遠に断ち切ってしまった。そうしないといけないって、あの時の私は思ってしまったから。

 

嫌われてもおかしくはなかった。心無い言葉を投げつけて、もっと私の事を罵倒してくれてもよかった。その方が、私だって罪悪感を感じることができたのに。

 

だから……っ!

 

 

「……沙綾、もう一度バンドやりなよ」

 

「……ナツ」

 

 

ナツがそうやって、今でも優しくしてくれる事が。マユもフミカも、笑いかけてくれる事が。

私には嬉しかった。

 

私が離れても、気まずくて距離を置いていても……ナツたちは諦めずに接してくれた事が、嬉しかったんだ。

 

「すっごく楽しかったよ、一緒に練習して、曲考えたり、バンドの事話したり。短い間だったけど、沙綾とバンドができて、嬉しかった」

 

「ナツ……っ!」

 

「ちょっと、ダメだよ沙綾。泣かないで」

 

「だって……っ、だって……!」

 

私は、本当に仲間に恵まれていた。

 

私と過ごした時間を、今でも大切にしてくれていたから。身勝手に手放しても、ナツたちは繋ぎ止めていてくれた。

 

失った時間は、もう二度と戻らない。けど、失ってしまったからこそ、分かったこともある。

 

そのなくしたものは、あまりにも大きかったんだって。取り戻したくても、今の私じゃ取り戻せないものだって。

 

だから……この涙は、決別の涙。彼女たちとは別の道を歩むと決めた、私の郷愁の涙。

 

「……私も楽しかった!みんなとバンドするの、大好きだったよ!」

 

嘘はない。でも、今の私には待っててくれる人がいる。

 

みんなと過ごした時間は、長いようで短い時間だったけど。

 

いつか戻れるのなら、また戻りたいと願うような時間だけど。

 

それでも、大切な思い出として残り続ける。これから先、何があったとしても。私の……ううん。私たちの中に、いつまでも。

 

 

私たちは、仲間だったから。

 

 

「それなら、またバンドしなよ!戸山さんたち、今ちょうどライブしてるんだよ?」

 

「香澄が……!」

 

「沙綾を待ってる人、この先にいるよ」

 

まだ、演奏が終わる気配はない。香澄たちの演奏は、まだ終わってない。ナツたちの奥にある、体育館へと続く扉を開けば、そこにはみんながいる。

 

これは儀式。過去の自分に終止符を打ち、新しい自分の扉を開くための。その扉は、自分で開かないといけない。

 

 

みんな喜んで、迎えてくれるかな……?

 

 

「あ、あの、私のスティック使って……」

 

「あっ、えっと……」

 

「ストップ、サトちゃん。気持ちはわかるけど、沙綾がスティックを受け取る相手は、もう決まってるから」

 

私の代わりに入った、CHiSPAの新メンバーか。サトちゃんって言うんだ。少し恥ずかしがり屋みたいだけど、きっと演奏は上手いんだろうな。

 

けど、私がスティックを貰う相手って……。

 

「行って、沙綾。きっちりバトン貰って、派手なライブにしてよ!」

 

……ううん。言葉にしなくても、私にはわかった。ここに来ることは、あの人だって願っていたんだから。

 

「……わかった」

 

 

今行くから。香澄。牛込さん。花園さん。市ヶ谷さん。それに……翔。

 

 

そして、さようなら。私が、CHiSPAとして過ごした時間。

 

 

「最後に……っ、最後に!一つだけ!!」

 

 

だから、ナツ。フミカ、マユ……!

 

 

「……ありがとう!!」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ありがとうございました!次は、今日のために作った曲です!」

 

俺たちのライブは、もう始まっていた。香澄も気持ちをバンドモードに切り替え、練習の成果をギターに込める。出だしは上の空で、段取りすっ飛ばしてたりしたけどな。

 

りみたちも緊張はしていたが、それでも音を外すことなくついてきている。俺も必死でドラムを叩き、演奏を支えていた。何と言っても、リズムの要だからな。それを言い出したら、ベースのりみもなんだけど。

 

と、ここで香澄の曲紹介が入るため、一旦酷使した体を休める。後ろから見ているとよくわかるが、みんな息が上がって疲れている。汗も滝のように流れ出し、スポーツでもしたのかと疑うくらいだ。

 

それだけ、このライブに思いを込めているんだ。今この場にはいない、もう1人のメンバー事を思いながら。

 

「ここにいるみんなと……それから、今日ここにはいないけど、大切な人と一緒に作った曲です」

 

沙綾は、間に合わなかった。信じて待つ。俺たちには、ただそうする事しかできなかった。それでも、これが結果だった。

 

「香澄ちゃん……」

 

「香澄……」

 

「本当は、一緒に歌いたかったです。いつか歌えたら……そのいつかが、今日だったらいいなって、約束してました」

 

沙綾の部屋のベランダから見上げた、星空の下で。そして今日、バンドと向き合おうとした沙綾と、向かい合って。

 

 

そのいつかが、今日この瞬間になる事はなかったけど。

 

 

その話が、いつになるのかもわからないけど。

 

 

その夢が、叶うのかどうかも、わからないけど……。

 

 

「信じてる。一緒に歌う事、できるんだって」

 

「「「「…………」」」」

 

 

香澄は信じている。あの日の約束は……。

 

 

「そんな気持ちを込めて、その人にも届くくらいの演奏をしてみせます」

 

 

必ず叶う。

 

 

「その人にも届くくらいの声で、歌ってみせます……!」

 

 

誰に何と言われても、それでも香澄は……信じる事を止めない。

 

 

「その人にも届くくらいの気持ちを、私たちの音色に込めてみせます!!」

 

 

沙綾と、バンドができる時を……!

 

 

 

 

「みんな……!!」

 

 

 

 

声が、聞こえた。

 

香澄の声を遮るように、一人の少女の声が体育館に響く。勢いよく開け放たれた入口に、彼女の姿はあった。

 

見なくてもわかる。けど、反射的に顔を向け、それが確信へと変わる。そこから広がっていくのは、この上ない安堵と喜びだった。

 

ずっと、待っていたんだから。香澄も、俺だって。このステージにいる、5人全員が望んでいたから。

 

 

今立っているこの場所に、彼女を迎え入れるために。

 

 

「沙綾!」

 

「沙綾ちゃん!」

 

「……ったく、遅ぇっつーの。山吹さん」

 

ステージに向かい、沙綾が一歩ずつ歩みを進める。その姿を視線から外すことなく、俺たちはここまで来た健闘を称えるように、微笑みを投げかける。

 

そして、香澄は……。

 

「……さーやっ!」

 

嬉しさのあまり、泣き笑いを浮かべていた。ステージの下に立つ沙綾へと手を差し伸べ、こちら側の世界へと引っ張り上げる。

 

沙綾は苦笑しながら、だがどこか清々しい表情を浮かべて。香澄に手を取られながら、5人の待つステージへと、ようやく辿り着くことができた。

 

 

スポットライトの当たらない、暗い暗い観客席から。

 

 

スポットライトの当たる、沙綾が経ちたかった場所へと。

 

 

「ようやく戻ってきたな、沙綾」

 

「ごめん……待たせちゃったね。こんなに遅くなっちゃって」

 

「何言ってんだよ。ここに来てくれただけで、俺たちは嬉しいに決まってる」

 

もう来られないかと思っていた。間に合わないかと思っていた。それでも、信じて待ち続けた結果がここにある。こうして6人で、ステージに立てた。

 

「やっと、自分の意志でここに立てたな」

 

「その勇気をくれたのは、間違いなくみんなだよ」

 

「そっか。なら、もう心配はいらないみたいだな」

 

沙綾の抱えていた過去も、家族との関係も。そして、バンドへの向き合い方も。全てを乗り越えた結果が、今の沙綾だ。

 

 

なら……俺は、そんな沙綾に渡すべきものがある。

 

 

「だから……」

 

手に持つスティックについた汗を拭きとり、本来あるべき持ち主の元へと送り出す。このスティックは、俺が持っていてはいけないものだ。

 

俺は代理でしかなかった。クライブの時も、今日のライブまで練習に付き合っていた時も。ただの人数合わせでしかなかった。

 

でも、今は違う。俺がいなくても、彼女たちなら大丈夫だ。互いに支え合い、音を奏でることができる。仮初の関係しか持てなかった俺よりも、ずっと素晴らしい演奏ができる。

 

本当のポッピンパーティーのドラムは……俺の目の前にいるから。

 

 

代わりに繋いでいたバトンを、今託す。

 

 

「後は頼む」

 

「任せて」

 

俺の代わりに、ドラムセットの前に沙綾が座る。スティックを握る感触を確かめ、一度深呼吸してから、懐かしむようにスティックを振り下ろす。

 

「……っ!」

 

想像以上だった。肩慣らしにと軽く叩いているはずだが、それだけでも沙綾のレベルが伺える。

 

バンドから遠ざかっていた以上、ブランクは確かに存在してるはずだ。なのに沙綾は、練習を積んでいる俺と同等に……あるいはそれ以上の演奏技術を見せ、魅了している。まだ本調子ではないだろうが、自分の手足のように簡単に叩いて見せる。

 

 

経験者だからこそ、沙綾の腕前は俺よりも高いと……そう断言できる。

 

 

「沙綾、すごい……」

 

「けど、いきなりできんの?練習とか、してないんだろ?」

 

「どうだろ。ここ来るまでに聞いてただけだし、ボロボロになっちゃうかも」

 

笑顔で、でもいつもとは違う表情で、冗談交じりに返す沙綾。でも、それでいい。

 

今ここで、香澄たちとライブをすることに意味がある。上手いとか下手とかは、何も気にしなくてもいい。失敗なんて、恐れたらいけない。今はライブをやり切るんだ。

 

「あっ、でも翔君はどうするの?沙綾ちゃんがドラムなら、もうパート残ってないし……」

 

「あ……言われてみればそうじゃん。翔、やる事ねーぞ?」

 

「カスタネットでも叩いとく?」

 

「それは有咲の専売特許だからパス」

 

「違ぇからな!?」

 

俺たちがグダグダとやり取りしているのを見て、観客も笑い出す。熱が冷めてないのはいいが、いつまでもこのままなわけにもいかない。

 

「……俺は別にいいよ。このライブは、ポッピンパーティーの初ライブだ。俺は代理とは言え、このバンドのメンバーでも何でもない。それなのに、俺がお前たちの初ライブを邪魔するわけにはいかない」

 

せっかくの初舞台を、部外者が立ち入って台無しにするつもりはない。ここから先は、お前たち5人のステージなんだ。

 

 

だから、俺は……。

 

 

「それは嫌だよ!」

 

「……香澄」

 

「私は確かに、さーやとライブがやりたいよ。でも、なーくんともライブしたいの!」

 

「お前なぁ……さっきの話聞いてたのか。俺はこのバンドには無関係なんだぞ。代理ってだけなんだぞ。そんな男が、このバンドに混じってライブしても、お前たちの初ライブに水を差すだけだからな」

 

「無関係じゃないよ!なーくんは、私たちがバンドになるまで、ずっと支えてくれたじゃん!代理でも、私たちの大切な仲間で……ポッピンパーティーの一員なんだよ!?」

 

「俺も、お前たちの……」

 

なのに、香澄ときたら……結局、そうなるんだよな。

 

「それに本当は、私なーくんと一緒にバンドやりたかったよ。けど、なーくんとライブできるのは、こんな機会くらいしかないみたいだから……今、一緒にライブしたい!」

 

「…………」

 

「だから、今だけはいてほしいの!なーくん!!」

 

それに、俺だってこのまま全てを委ねるのは名残惜しい。最後に、俺自身の心にも残るライブを。

 

「……わかった。俺も、香澄たちとライブさせてくれ」

 

「なーくん……!うん、ありがとう!!」

 

 

手を引くのは、それからでも遅くはない……か。

 

 

「でも翔、楽器はどうするの?私、今だけでもドラム交代した方がいいかな?」

 

「それはダメだろ。沙綾はドラムじゃないと」

 

「じゃあカスタネット一択だね」

 

「たえはどんだけカスタネット推すんだよ。どっかの誰かみたいに恥かきそうだからやめてほしい」

 

「おい、こら翔!」

 

冗談に決まってるだろうが。けど、この舞台と空気の中で、一人カスタネットを鳴らし続けるのはさすがに勇気がいる。

 

「じゃあ、翔君は何をするの?香澄ちゃんと一緒に歌う……とか?」

 

「それもありだな。けど……俺がいつ、ドラムしかできないって言ったんだ?」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「ちょっと待ってろ」

 

俺はすぐにステージ裏に戻り、例の楽器を持ってくる。今日のライブ用に学校側が貸し出していた楽器の中に、あれもあったのを見たからな。

 

確か……お、あった。俺はそれを担いで、ステージに戻る。その楽器は……。

 

「えっ、なーくん、それって……!?」

 

「おいおい、何でも弾けるのかよ?」

 

「翔、バイリンガル……!」

 

「それは違うと思うけど……翔、その楽器を弾くって事は……」

 

「そ、それって私と一緒に、ベースを演奏するって事……!?」

 

ベースだった。まだ話したことはなかったが、俺はドラム以外にもベースを弾くことができる。ギターは無理だが、ベースに挑戦したら思いのほか上手くできたって感じだ。

 

ま、他にも弾ける楽器はあるにはあるんだが……それはそれだ。けど、これなら俺も気兼ねなく参加できる。

 

「そう言う事だ。俺はりみに合わせて、ツインベースの形で演奏に参加する。りみは何も気にしないで、練習通りに演奏してくれたらいい」

 

「え、で、でも翔君……バンドに二人もベースって、大丈夫かな?それに、ベースやってるところも見た事ないし、本当に弾けるの……?」

 

「ツインベースのバンドは珍しい話じゃない。そこはどうにかなるだろ。ベースの腕前は……ここで軽く見せてやってもいいぞ。それなりに自信はある」

 

「で、でも練習だってやってないよね?」

 

「まぁな。けど、演奏の事なら、俺はずっとドラムとして後ろで音聞いてきたからな。リズムは頭に叩き込んである。それに、他のパートの楽譜にも目は通してあるからな。当然、ベースもだ」

 

そう言い切られては、りみも納得するしかないのだろう。不安そうではあったが、力強くうなずいた。

 

「だからって、練習無しでいけるのかよ、翔」

 

「やれるさ。いや、やるさ。そんな事言ったら、沙綾だってここに来るまでに音聞いただけだぞ?それで本番迎えようとしてるのに、俺が弱音吐いてどうする」

 

沙綾は入念にドラムを叩いて、リズムを確認している。成功するよりも、失敗する方が目立ってしまうかもしれない。

 

それでも、沙綾はここにいる。過去から前を向き、未来を見つめている。これから始まるライブは、その証明。

 

だったら、俺もやってやろうじゃないか。まだ人前では披露したことのない俺のベースを、このライブで見せてやる。

 

ポッピンパーティーの結成ライブ。そして俺の……最初で最後の、この5人とのライブに華を添えるために。

 

「……じゃあ、沙綾。もう行けそうか?」

 

「多分ね。そう言う翔は?」

 

「こっちも行けるぞ」

 

「自信満々だね。私はちょっと、不安なところもあるけど……」

 

「そこは気持ちで!」

 

「一緒に頑張ろうよ!」

 

たえとりみの言葉に後押しされ、沙綾もスティックを構える。俺もベースを構え、りみの隣に立つ。

 

こんな風に立つなんて、初めての事だ。けど、それも今日限りの話。香澄たちと同じステージに立てる事は、もう永遠に来ないのかもしれないから。

 

だから、楽しんでやろう。みんなで作ったこの曲を、歌い上げる事を。

 

 

この……ライブをな!

 

 

「いいぞ、香澄。行こう!」

 

「うん!えー、お待たせしました!では、聞いてください……『STAR BEAT!~ホシノコドウ~』!!」

 

沙綾のドラムが鳴り響き、曲が始まる。そこにみんなの音が続き、一つの音色を作り出していく。

 

(すごいよ、翔。ドラムだけじゃなくて、ベースも弾きこなしてる!)

 

(私の音と、翔君の音が重なり合ってる……。かっこいい!)

 

(翔だって頑張ってるんだ。私だって、ドラムに集中しないと……!)

 

(翔の奴、普通に上手いじゃんか!?練習してねぇって嘘じゃねぇの!?)

 

(なーくん、すごい!よ~し、私だって!)

 

上手く弾けてるみたいだ。自信はあると言ったが、ぶっつけ本番な事に変わりはないからな。ま、それでも沙綾のドラムの方が、すごいんだけど……。

 

(沙綾のドラム、気持ちいい。音が弾んでる!)

 

(何だかドラムの音が、背中を支えているみたい……!)

 

(山吹さんも、ちゃんと弾けてんじゃん……!よし、こっちも集中!)

 

(すごいよ、さーや!なーくんとは違う……でも、安心する!それに、楽しいよ!さーや!!)

 

やっぱり、このバンドのドラムは沙綾じゃないとダメみたいだ。俺の時よりも、活き活きと音が広がっていく。

 

演奏するみんなの表情が、笑顔に変わる。とても楽しそうに、曲を紡ぎだしている。

 

沙綾、お前がドラムとして、ポッピンパーティーに来てくれて、本当によかった……!

 

 

(すっごく楽しいよ、香澄!翔!やっぱり私、バンドが大好きみたい……!!)

 

 

そんな翔の思いは、沙綾の心にも確かに届いていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

あっという間の一時だった。演奏の終わった俺の額には汗が滲み、疲労感が襲ってくる。

 

けど、楽しかった。俺以上にみんなの方が疲れているだろうが、笑顔を絶やすことはない。観客からも惜しみない拍手が送られ、俺たちの演奏を称えてくれる。その興奮の中で、俺たちはライブを成功させた達成感をかみしめていた。

 

「やった……!私、さーややなーくん、みんなとライブできた……!」

 

「気持ちはわかるけど、その前にメンバー紹介だろ」

 

「あっ、そっか。エヘヘ……」

 

有咲の冷静な一言で、香澄も喜ぶ気持ちを後回しにしてマイクに向かう。観客の方を向き、香澄は一人ずつ名前を呼んで紹介を始めていく。

 

 

自分たちの存在を、ポッピンパーティーを知ってもらうために。

 

 

「メンバー紹介します!青いギターのおたえ!」

 

 

たえはギターをかき鳴らし、クールに決めつけて見せて。

 

 

「ベースのりみりん!」

 

 

りみはちょっぴりオドオドしながら、ペコリとお辞儀して。

 

 

「あっちが有咲!」

 

 

「キーボードをつけろ!」

 

 

有咲は観客の笑いを誘い。

 

 

「そして、ドラムの……さーや!」

 

 

沙綾は、満面の笑顔で応えて見せた。

 

 

「それから、さーやが来るまでドラムを担当してくれて、さっきはベースを担当してくれた……なーくん!」

 

「って、俺も?てか、本名で呼んでくれねぇ!?」

 

まさか呼ばれるとは思ってなかったので、少しとぼけた返事になってしまった。けど、まぁ……いっか。俺の事は、全校生徒が知ってるだろうし。

 

 

「私は、ランダムスターの戸山香澄!」

 

 

ジャジャーンとギターを鳴らし、それっぽくアピールして見せて。

 

 

「ここにいるなーくんとは、もうバンドすることができないけど……私たち5人を応援してくれる、大切な仲間です!今日のライブは、とてもいい経験になりました!」

 

「……あぁ」

 

俺もだ、香澄。今日みたいなライブを、いつかまたしてみたいって。できたらいいって……本気で思えたよ。

 

 

 

「そして、私たちは!」

 

 

 

待機していた4人が、ステージの前に登場する。香澄と横一列に並んだのを確認して、俺は後ろに下がる。

 

 

「……みんな、いい顔してるな」

 

 

もう俺は必要ない。

 

 

ここから先の道に、俺の出る幕はどこにもない。

 

 

この5人だけのステージだ。

 

 

「この5人で……!」

 

 

見届けよう。そして、しっかりと焼き付けてやる。

 

 

これが、香澄たちの門出だ。

 

 

「Poppin’Partyです!!」

 







文化祭ライブを終え、翔たちにも日常が戻ってくる。



沙綾も、以前とは少し違った日常へ。



そんな沙綾には、どうしてもやるべき事があって……。



次回「ありがとうの気持ち」
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