BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
いや、投稿遅いよ!結局間が空いちゃった……すみません。てか、今日で投稿開始からちょうど2年なんだね。
とりあえず、今年の目標は投稿ペースを上げる……ですね()
では、どうぞ!
ロゼリアとグリグリのジョイントライブから1週間が過ぎた。
今日はSPACEのオーディション当日。目指したステージに立てるかどうか、認められ、ライブができるかどうかが決まる日となる。
ライブの手伝いの事もあり、香澄たちのやる気は衰える事を知らない。むしろ、今日に向けて念密な練習を重ねてきた。沙綾の加入で土台作りを行う事すら大変なのに、昨日の練習ではかなり完成された仕上がりを見せていた。やはり、元から仲が良かったことが響いているか。
ま、最終的に決めるのはオーナーだ。あの人の心に届くかどうかで、結果は左右するからな。
「何ボーっとしてるのかな、翔?」
「……うわぁっ!?」
沙綾がいきなり覗き込んできたことで、俺は驚いて後ろに倒れそうになる。そんな俺を見た沙綾は、面白おかしくクスクスと笑い出した。くそ、してやられた。
「いきなり脅かすなよ……」
「前にやられた分を返しただけだよ。言ったよね?覚えてなよって」
いつの話だってくらい前の事だな……。にしても、今教室だからかなり恥ずかしい。みんなこっち見てるし。
「……で、何の用だ?」
「今からお昼にしようって。みんな練習してたし、待っててくれたんだよね?」
「まぁな。俺だけで食べるのも、沙綾たちに悪いし」
昼休みの時間を削ってまで、香澄たちは最後の仕上げにかかっていた。さすがにドラムとキーボードはないから、主にギターとベース組の練習だけどな。
「んじゃ、行くか。今度は俺が待たせてしまうからな」
「あ、でもおたえは先にお弁当開けてた気が……」
「おい、マジかよ。少しくらい辛抱してくれよ」
俺は弁当を持って、いつもの中庭へと向かう。時間も限られてるし、急ぎ足になりながら。
「それで、完成度はどうだ?」
「まだ不安なところはあるけど、今日まで練習してきたから大丈夫だと思う。やれるだけの事はやってみるよ」
「それは頼もしいな。あっ、けど緊張とかは?オーディションとか初経験だと思うし、してないのか?」
「あ……それは、大丈夫とは言い切れないかも。やっぱり初めてだし、みんなだって緊張してるよ。有咲なんか、もうガッチガチなのが丸わかりだよ」
確かに目に浮かぶな……。
「でもね、香澄は何にも緊張してないって感じだったな。むしろ、私たちを元気づけようとしてくれるから」
あいつは、どんな状況でも自分を貫き通そうとする芯の強さを持っている。バンドを始めたのだってそうだ。ポピパを結成するまでには多くの障害があった。けど、あいつは真っ向から乗り越え、進んできたんだ。
その度に、香澄は周りの人を変えてきた。それだけの力が、あいつにはある。どこまでも明るく、笑顔で。躓くことはあっても、そこで怖気づいたりなんかしない。後ろを向く事なんて想像もできないくらいの前向きさが、俺には眩しく見える。
「そうか……やっぱり、香澄は香澄だな」
「香澄って、何だかんだで頼りになるよね。香澄がいなかったら、私はドラムを叩いてたかもわからないから」
沙綾だって、その1人だ。香澄の眩しさに心打たれ、またバンドの世界に戻ってきたんだ。他の3人だって、香澄がいたからここにいる。全ては、香澄の力なんだよな。
「って、何だかんだって言っちゃうんだな、沙綾。それだと、普段は香澄が頼りないみたいに聞こえるぞ?」
「アハハ……。ま、頼りにならないわけじゃない……からね?」
それはフォローでも何でもないんだよな……。
***
「あっ、なーくん来た!こっちだよ~!」
「練習終わったみたいだな。お疲れさん」
場所は変わって中庭。沙綾と一緒に向かうと、既に楽器を片付けた香澄たちの姿が。手には代わりに弁当を持ち、お昼モードに切り替えているようだ。
「ごめんね、翔君。私たちだけで練習したいなんて言い出して……」
「いいよ、りみ。ポピパにはポピパの時間も必要だしな」
「モグモグ……うん、おいしい」
「って、本当に先に食べてるのかよ。てか、会話になってねぇ」
「私は止めたんだけどな……」
たえは切り替えが早すぎるのが問題なんだよな。ちょっとは待ってくれよ。
ま、それも過ぎた話だ。俺もいつまでも突っ立っているわけにもいかない。香澄たちの傍に座り、弁当を広げて食べ始める事にする。
「ほほほふぇふぁ、ひょお」
「食いながらしゃべるな、たえ。で、何だよ」
「……私、どうしても気になる事があるんだ」
「はぁ?何だよいきなり。どうせしょうもない事だろ?」
「ハッ……!翔だけに、しょうもない……!」
「……お前が一番しょうもないからな?」
てか、お前が話を脱線させるんじゃない。戻ろうにも戻れなくなるぞ。
「ま、それはそれとして……私、やっぱりあのスケジュール表の空欄がどうしても気になっちゃって」
「またその話か……。それはあのオーナーのミスって事で、話がついただろ?」
「それはそうだけど……あの人に限って、そんな事もないと思うし……。スケジュール管理だって、今までにミスしたところも見てないから……」
「買いかぶりすぎだって。ミスしない人間なんかいないぞ?」
「おっ、翔カッコいい事言うじゃん」
「遠くから茶化すなよ、沙綾」
たえはどうにも、スケジュール表の違和感を拭いきれていないみたいだな。沙綾のおかげで話は途切れたが、やはり納得はいってなさそうだ。
今日のオーディションで、何か一悶着なかったらいいんだが……。
「で、どうだ?有意義な時間にはなったか?」
「うん!ミスもほとんどしなかったし、これならオーディションも行けそうな気がする!」
「へぇ、それは心強いな。他のみんなはどうだ?」
「えっ、え~っと……」
「それは……」
香澄は自信満々に答えたが、有咲とりみはどうも歯切れが悪いな。特におかしなことを聞いたわけでもない。さっきの練習が、よかったのかどうかを聞いているだけだ。
言葉にできない、あるいはやりにくい理由がある。そして質問の内容と結び付けて考えるのなら……あぁ、なるほど。そういう事か。
だとしたら……だ。これはある意味で、香澄よりも有咲たちの方が一枚上手なのかもしれない。
そしてその答えは、非情にもおたえの口から告げられた。
「ダメかもしれないね」
「ちょ、おたえ!そんな堂々と言う事じゃねぇだろ!?」
「かもしれないけど……そうやって都合のいいようにごまかしたところで、私たちの実力が伸びるわけじゃないよ。逆にどんどん止まっていっちゃう」
「それは……おたえちゃんの言う通りかも」
どうやら、まだ本調子とはいってないみたいだな。俺だってここ最近の練習を見てないわけじゃないから、全く仕上がっていないダメダメな状態ではない事くらい知ってる。
たえが言っているのは、細かな点での調整。演奏の形になっていないからそこを修正する、と言った話ではなく、音の連携のズレ、リズムキープ、小さな演奏ミスの連続……そう言ったわずかに目立って演奏を邪魔する要因を、まだ排除しきれていないのが現状。
あのオーディションで求められるのは当然、実力だ。ただ楽器がそれなりに弾けるだけのお飾りバンドでは、何も通用なんかはしない。洗練された努力の結晶が演奏に現れる……そんなバンドを求めている。
だからこそ必要なのは、そう言ったミスを少なくすることでもある。バンドに限った話ではないが、より優れたものを見せるためには不要なものを取り除く努力も必要となるからな。
「はぁ……これじゃ、隠してても仕方ねぇな。そうだよ。まだちょっと、ミスしてしまうパートがある……」
「私も、少し焦ってテンポが速くなる時があって……」
それが有咲とりみの違和感の正体。今日と言う日を迎えながらも、まだ完成されていない自分の演奏を前にその事実をごまかしたかった……そんなところだろう。
確かにたえの言う事の方が事実。隠したところで事実は変わらない。だが……少しでも不安やプレッシャーにならないようにと、隠したい気持ちだってわかる。
だが、それ以上に俺が懸念しているのは……。
「なるほどな。で、有咲」
「何?まさか、何でできてねぇんだとか説教じゃねぇだろうな?」
「俺は鬼かよ。……手、震えてる」
「……っ」
そう、緊張だ。沙綾も言っていたが、やはり初めての経験が迫っている事から来る緊張が体には表れていた。
緊張は練習では最も取り除くことが難しい要因だ。その場の空気、本番と言う圧力、それらがのしかかり、全身の力を奪い震えを生み出す。普段の感覚を削がれた体は、上手く言う事を聞いてくれない。
その結果、ミスが増える。震えた手では上手く弦を鳴らせない。震えた足では上手くドラムのリズムを取れない。
震えた喉では、要とも言える歌声が……上手く出せない。
「……悪いかよ。さっきから手とか足とかもう震えっぱなし。こんなにやべー緊張とか、生まれて初めてしたかもな……」
「珍しく素直だな。いつもなら、強引にでもごまかして強がって見せるのに」
「い、いいだろ別に!?私だって、強がれるのならそうしてーけどさ……」
「けど?」
「……緊張して、それでも練習しても何か上手くいかなくてさ。そんな状態でオーディションするって考えたら、ちょっとこれ大丈夫なのかって思えてきて……」
有咲は有咲なりに、自分の中の緊張とどうにかケリをつけたかったんだな。ま、それも指摘されてボロが出たって事は、やっぱり根っこの部分は有咲なんだと思って見たり。
けど……だとしたらだ。
「……なぁ、香澄。やっぱり、まだ今日は早かったんじゃないか?みんなだってまだ仕上がっていない。本番のプレッシャーだってあるし、また次の機会を狙ってみたらどうだ?」
何もこれで全てが終わると言っているんじゃない。オーディションは定期的に開催されるし、一度落ちたからと言って再度受けることができないわけじゃない。何度だって挑戦して、紆余曲折の果てに合格をもぎ取ったバンドもいる。
今の状態を見る限り、本番でもすぐにガタが来る。演奏の形にはなると思うが、納得のいく物になるかどうかは難しい。
機会を捨てる勇気も、時には必要なのかもしれない。
けど……タイムリミットがない、とは言ってないからな。
「……ううん。私は、今日のオーディション受けたい」
けど。それでも。香澄はそう言い切ってしまうやつだ。
「確かにダメかもしれないし、みんなだって緊張してるのはわかったよ。でも……それで目の前にあるチャンスから逃げるのは嫌だ!」
「香澄……」
「ダメかもしれないだけだよ!結果なんて、やってみないと分からないじゃん!それでダメなら仕方ないけど……何もしないでダメになるよりずーっといいよ!!」
栄光を掴めるかもしれない機会を失ってまで、栄光を掴めるかもしれない試練に臨むための努力は重ねたくはない。どっちにしたって行きつく先は同じだ。
だったら、香澄はその機会を見捨てない。目の前に輝きがあるなら、這いつくばってでもつかみ取りに行こうとする。
「やらなきゃ何も始まらない!このバンドだって、そんな積み重ねでできたキラキラなんだよ!!」
幼い時に見た星の鼓動に代わる何かを求めて……。そう、このバンドの原動力は、いつだってその思いから生まれているんだ。
やっぱり敵わないな……香澄には。
「……うん、いいね。香澄のそう言うところ、私は好きだな」
「ってか、元はと言えばお前がダメかもしんねーって言いだしたのがきっかけだろうが」
「あれ、そうだっけ?」
「アハハ……。でも、私も香澄と同じ気持ちかも。ここで逃げちゃったら、前の私と同じだよ」
「私も、今日のオーディションは受けたいな。失敗するのは怖いし、緊張だってしてるけど……でも、やるだけやってみたいな」
みんなの気持ちは固まった。他でもない香澄の言葉で。あれだけ緊張を恐れ、ミスに怯えていたはずだったのに。
「み、みんな~……!」
「よかったじゃんか、香澄」
「うん!よーし、そうと決まれば、今からもう一回練習だー!!」
「えぇっ!?か、香澄ちゃんまだお昼食べ終わってないよ~!?」
「お前、本当いきなりだな!私だって、まだ食べ終わってねーからな!やるなら先にⅠ人でやってろよ!?」
「そんな~っ!有咲、冷たいよ~!」
「ちょ、待て!くっつくな!暑苦しい!弁当食べさせろぉぉぉぉぉぉ!!」
***
「Poppin’Partyです!よろしくお願いします!」
そして放課後。香澄たちは緊張した面持ちでSPACEにいた。ここに来るまでも口数は少なく、不安が胸の中を支配する。だが、気丈に振る舞う香澄の姿、そして昼間の香澄の言葉もあり、思ったよりは張りつめている様子は見られない。
「……始めな」
オーディションの会場は、香澄たちが立ちたいと願っているステージ。そこで演奏を行い、オーナーが審査を務めることになる。
一度ステージ袖に戻って楽器を準備しながら、香澄たちは気持ちを落ち着かせていく。クライブや文化祭の時とは違う。本当のステージで演奏する緊張感が、香澄たちを掴んで離さない。
「うぅ、やっぱり緊張する~……」
「大乗だよ、りみりん!練習頑張ったんだもん!」
「そうだ、りみならやれるさ。香澄は……まぁ、緊張もしてなさそうだし、何とかなるだろ」
「ちょっと、なーくん!私だって緊張くらいしてるよ~!?」
ツッコミ入れるのはそこじゃないんだよな……。
「それで、翔は審査に回るんだよね?」
「オーナーの補佐としてな。ま、そこは与えられた仕事をこなすだけだし、ひいき目はなしだからな?」
いくらライブハウスのオーナーだからと言って、全てを独断で決めてしまっては公正な判断ができない可能性がある。そこで、審査員として補佐役を1人立てる事で複数の視点からジャッジするようにしている。
その役には、俺が前々から当たっている。過去に何度もオーディションの場には同席したし、経験はある。香澄たちには合格してほしいが、私情は禁物だ。あくまでも客観的に演奏を見せてもらう。
「変なところでミスらねーようにしないと……」
「有咲、リラックス」
「は、話しかけんなよ、おたえ。集中してんだから」
と、これ以上はむしろ邪魔か。俺はステージ袖から離れ、ステージの向かい側に椅子を置き座るオーナーの横に立つ。俺も自分の仕事に専念しなくては。
「……成川」
「何でしょう、オーナー」
「彼女たちの事、どう見ている?」
「忖度抜きでお話ししますが、いいと思います。特にあのギター……戸山香澄は、人を惹きつける力がある。誰かに寄り添い、心を揺り動かす力を持っています」
「心を……か」
「もしかしたら、彼女が……いえ、その話はまたの機会に改めて」
今はオーディションだ。それに、合否も例の話も、俺が全てを決めるわけではない。
オーナーの目にはどう映るのか。香澄たちのバンド……ポッピンパーティーが。
「それじゃあみんな、練習思い出していこうよ。準備はいい?」
「「「「うん……!」」」」
ステージに上がってきた。それぞれが持ち場に付き、真剣な顔つきでその時を待つ。
「行くよ、みんな。ワン、ツー、スリー、フォー……」
始まった。静かな入りだしから、徐々にテンポを上げて音が重なり合うポピパの新曲。このオーディションのために完成させた『前へススメ!』だ。
「…………」
けど、やはり緊張しているな。少し音に余裕がなくなっている。練習では弾けていたはずのところも、ミスが目立つようになっている。それでも演奏全体から眺めて見ると、ばらつきはあまり感じない。何とかまとまり、歌としての形にはなっている。
とは言え、形になっているだけだ。俺はまだいいが、このオーナーの事だ。どう判定を下すのかはまだわからない。
俺は成功を祈りながら、演奏が終わるのを見守る事しかできなかった。いや、俺にはそれしかできなかった。今ステージの上で頑張っているのは、香澄たちだから。
「――ゆ~め見て~いる~♪」
ピタリと音が止み、ポピパの演奏は終わった。オーナーが無言で天秤にかける中、ステージ上に立つみんなは……。
(注意してたのにミスった……)
(指、上手く動かなかった……)
(練習ではちゃんと弾けたのにな……)
(音ずれてた。足りてなかったかな、練習……)
有咲、りみ、たえ、沙綾。4人の表情が、全てを物語っていた。今の演奏では、合格するのは難しい。言葉に出さなくても、俺にはわかる。
彼女たちはきっと痛感してるはずだ。まだまだ演奏技術が足りていなかったことを。もっと練習を重ねて、ミスを減らして、本番でも緊張に負けないメンタルを身につける事も。
努力はした。それは俺も知っている。この場にいるポピパの全員は、俺以上に知っている。毎日のように蔵に集まり、音を合わせて、ミスがあれば修正して……。
でも、ダメだった。
その全てが足りなかったから。思いだけで、実力が追いついていなかったから。その結果が、今の演奏に全て現れている。
それでも、何もしないよりはマシだった。足りていなかったことを、結果で知ることができた。今日の機会を失えば、絶対に得られなかったもの。
そう考えると俺は……何を安易に、今日は見逃せと言ってしまったんだろうか。
「……やり切ったと思う者は?」
「「「「…………」」」」
答えられない。誰も、オーナーの質問に対して何も言えない。その答えは、既に自分の中で出ているから。
ミスしてばかり。合わせるのに必死。プレッシャーに負けた。言い訳ならいくらでもできる。だが、そのことを許容して『やり切った』と胸を張って言える人は、ここにはいなかった。当然、俺も。
俺は俯き、そして悟る。オーナーの下す結末を……。
「はいっ!!」
なのに、あいつは。
「か、香澄……」
沙綾が止めようとするが、香澄はキラキラと輝く瞳を俺たちに向け、手をまっすぐに上げながら自信満々に言い切って見せる。子叔母にいる誰もが、自らの無力さを嘆き、不合格であることを察していると言うのに。
ミスは下。けど、それがどうかしたのか。今できるだけの事は、精一杯やったはずだ。だから、暗くなる方がおかしいんだ。
崩れる事のない自信を見せる香澄からは、そんなメッセージが感じ取れた。自分の演奏に、誇りを持っていた。
だが、現実は非情だった。
「……ダメだ。内のステージに立たせるわけにはいかないね」
オーナーの宣告。わかってはいたが、いざ口にされると、悔しさがこみあげてくる。いや、俺よりもあいつらの方が受けた痛みは何倍も大きいはずだ。
「成川はどう思う?」
そこで俺に振るのかと言ってやりたくなったが、仕方ない。酷だが、思った事を伝えるしかない。
「……俺も彼女たちとは付き合いがありますし、正直受かってほしい気持ちはあります。ですが、今日の演奏を聞く限り、不合格は妥当だと思います。まだ彼女たちには多くの面で足りないものがあり、それを自分のものにできて初めてステージに立てると……そんな気がします」
追い打ちをかけるように、しかも俺の口から聞かされるんだ。痛みは大きいと思うが、今だけは耐えてほしい。
有咲も、りみも、たえも、沙綾も……。
「また受けます!いっぱい練習して、何回でも挑戦します!!」
それでも、香澄は表情一つ変える事はなかった。オーナーの言葉を、そして俺の言葉を受け止めてみせた。
「何回でも……ね」
「はいっ!私、ここのステージでライブしたいです!私たちのバンドが始まったきっかけは、ここなんです!」
「香澄……っ」
どこまでも純粋で、まっすぐで。いくら周りが落ち込んでいようと、諦めていたとしても……お前は変わらない。その眩しさに、俺もみんなも勇気づけられてここまで来たんだ。
そんなお前だから、俺は……応援したくなるんだよ。目標に向かって全力で走り続けるお前を。
「…………」
だから、どこかで期待してしまう。
「その性格だけは買ってやるよ。けど……悪いね。オーディションは不合格だ。次も頑張りな」
「はい!頑張ります!!」
結果が覆る事はない。だが、オーナーの心に少しでも響くものはあった。何も爪痕を残せなかったわけではなかった。
学び取る事もあったし、次の成長には繋げられる。ただの失敗で終わらせず、次の目標にも繋げることができた。
けど……俺は知っている。一番の問題はそこにはない事を。
「……あの、オーナー」
「どうした、花園。結果に不満があると言うのなら、聞くだけ聞いてやろうじゃないか」
「いえ、不合格なのは仕方ありません。私が聞きたいのは、その……先日スケジュール表を見たんですけど、後半が真っ白で……」
「……ほう?」
やはり、何かあるとは踏んでいた。問いただすなら、第三者がいた方が効果的だからな。だからと言って、オーディションが終わったタイミングで聞くとは思ってなかったが。
「翔にも聞いたんですけど、ただのミスだろうって……。でも、私にはそうは思えない。オーナーはバンドのために全力を注ぐ人です。そんな人が、明らかなスケジュールミスをするとは思えないんです」
「……それで?」
「私に何か、隠していることがあるんじゃないですか?」
オーナーに臆することなく、たえは毅然として問い詰める。そこに何があるのかを知るために、真正面からオーナーを見据えて。
香澄たちもいる。最早、言い逃れは無理……か。
「……オーナー」
「わかっている、成川。どうせ、すぐに明るみに出る事だ。いつまでも隠し通す事でもないさ」
「そうですか……」
「やっぱり、翔も何か知ってて……」
「たえ、その話は後だ」
これ以上は黙っていても仕方ない。その選択は不信感を募らせる事にしかなりえない。ならばと……オーナーが自ら口を開く決断をした。
いや、どっちにしても話すつもりではいた。この前、前もって俺にだけは話してくれたのだが……気持ちの整理がつくまでは秘密にしてくれと言われていた。皮肉にも、半ば強引に背中を押されて整理をつけたことになるが。
だったら、俺はその言葉を聞き入れるしかない。オーナーは重い口を開き、真実を語りだした。
「……花園には、まだ言ってなかったね」
「……はい」
憧れを持つ事は、立派な事だ。目標に向かって努力し、それを叶えようとする姿は何よりも輝いて見える。
香澄たちもそうだ。SPACEに立つ。そしてポピパとしてライブをする。香澄にとっては原点の場所で、バンドを通じて出会った仲間たちと一緒に音を合わせる。そのために頑張る姿を、誰が否定できるのか。
だが、そんな香澄たちに告げられた真実は……。
「SPACEを……閉めるよ」
「……え」
あまりにも重く……。
「ど、どうして、ですか……!?」
「……私には、やらなくてはいけないことがある。まだSPACEでやり切ったと、心から言えるわけではないが……仕方がない。これは、その全てを投げ打ってでもやり遂げなくてはいけない事だ」
「そ、そんな!納得できません!やり切っていないのなら、無理に閉める事なんてないじゃないですか!」
「おたえの言う通りです、オーナー!SPACEを閉めちゃうなんて……私も嫌です!」
あまりにも切なく……。
「……その声を聞くことは、覚悟している事だ。もう決めた。後戻りは……しない」
「何でですか!?オーナー、ずっとこの場所を大切に思って来たんですよね!?前にあのノートを見た時、オーナーがどれだけこのライブハウスの事やバンドの事を考えてるのか知って……っ!」
「…………」
「オーナーは、この場所が嫌いになったんですか!?SPACEを止めてまでやらなきゃいけない事なんですか!?そんなの――」
「何を……分かったような口聞いてんだい!?」
あまりにも痛ましく……。
「これは……っ、SPACEと、いやそれ以上に大切な事なんだ!たとえこの場所を捨てることになっても、あの子だけは放っておけない!私には、あの子が全てなんだ!!」
「あ、あの子……!?オーナーは、一体何を……!?」
「……っ、話は以上だ!次のバンドも待ってるんだよ!さっさと帰りな!!」
「……はい」
あまりにも、酷な話だった。
***
誰かに電話するのが、こんなにも苦痛だと思ったのは初めてだった。
連絡先にたどり着くまでが怖い。手が震えて、発信ボタンが押せない。夜の暗闇の中、スマホの明かりが不気味に輝く。
「…………」
もし、このボタンを押してしまえば、何かが変わってしまう気がして。これまでの関係が、消えてなくなってしまうような恐怖を感じて。
だから、押せない。胸の鼓動が早い。どうすれば、この焦りを止められる?
「……でも」
聞かなくちゃ。自分の耳で、真実を知らなくちゃ。その片鱗を知った今、いつもの関係はまやかしに変わってしまったから。
発信ボタンを押す。もう、吐きそうだった。どうして。それだけが頭を支配し、離れてくれない。
出なかったらいい。本気でそう思った。こんなことを言うなんて、本当は嫌なのに。誰が好んで、愛する人を疑うことができるのか。
でも……出てしまった。もう戻れない。例え自分の手で、この関係を完全に断ち切ることになったとしても。
「…………」
私は、確かめないといけない。
『あ……もしもし、みーちゃん?こんな時間に電話してくるなんて珍しいね?どうしたの?』
「……実は、香澄さんに少し頼みたい事があるんです」
SPACEの閉店。それは、あまりにも重い傷跡を残した。
目標が壊れかけ、それでもなお食らいつく少女たち。
そんな中、夢の舞台へと立つ権利を得たとあるバンドの姿を見る。
彼女たちの姿に、香澄たちは自分たちに足りない何かを求めさまよう。
そんな香澄たちを見かねて手を差し出すのは、始まりの音を生み出した少女たち。
終わりへの音が迫っているとも知らずに……。
次回「求めた答えを解き、そして……」