BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星   作:ティア

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どうも、ティアです!本当に久しぶりです!!

まさか1年も間が空くとは思っていませんでしたが、就活してたりそれが終わったと思ったら社会人として奮闘したり、何かと忙しかったんですよ(言い訳)

でもね、久々って事で今回いつもより文字数多めです!けど多分次の話の方が文字数多くなるのは目に見えてる(え)

そして時間がかかると思われる(いきなりの宣告)

とにかくペースを取り戻していきたい所存ですが、頑張って行こうかと思います!さて、本編に行きましょうか!


phrase56 求めた答えを解き、そして……

「……今日も、合格者は現れなかったね」

 

「そうですね、オーナー」

 

香澄たちの初オーディションから数時間後。SPACEの営業時間も終わり、俺はオーナーに呼び出されて今回のオーディションの参加バンドについてデータをまとめているところだった。

 

不合格になったとはいえ、ガールズバンド界の大切な一員。まだひび割れてない卵なんだ。そこから得られるものだって十分にあるし、データとして残すことでオーディションでは気づけなかったバンドの特徴や魅力を発見できる。

 

だからこそ、この作業だけは疎かにはできない。オーナーだってそのつもりで、補佐役も呼んで整理する事が多い。ま、こう言うのってどんな事にでも当てはまるだろうけどさ。

 

「これでは、どう転んだところでSPACEは閉めないといけないようだ。後釜を担う者もいなければ、停滞したこの現状をどうにかできる術だって持ち合わせてはいない。成川もそう思うだろ?」

 

「それは、そうかもしれませんが……本当によろしいので?」

 

「仕方がないよ。それに、この場所がなくなるからと言って、決してガールズバンドそのものがなくなるわけじゃないさ。しがないライブハウスの歴史が、ここで終わるだけ。いつかは来る、最果ての話だ」

 

「わかっています。終わる事は、何に置き換えても避けられないことは。でも……俺は、やっぱり辛いですよ」

 

終わる未来を受け入れられない。それは誰もが願う事だ。応援しているアイドルに引退してほしくない。大好きなゲームのサービスが終了してほしくない。この時間がずっと続けばいいのにと、そう願わずにはいられない。

 

飾られた時間から生まれる輝きは、とても眩しくて。眩しいけど暖かくて。それでいて……幸せになれる。

 

今の俺だってそうだ。数奇な運命から始まった女子校での学生生活だって、今ではとても楽しいと感じるようになった。多くの出会いがあった。多くの経験があった。まだ、半年も経ってないのに。

 

そんな彩られた学生生活だって、後2年も経てば終わりを迎えてしまう。始まりがあれば、終わりは来ると言うけれど。仕方がないと、割り切れと、そう簡単に言う人はいるけれど。

 

だからこそ、SPACEを閉める結末を、どうにか聞き入れるしかないんだって事も……もちろんわかってはいるけれど。

 

「今日のたえの話じゃないですが、この場所がなくなる事でショックを受ける人も少なからずいるんです。何も終わらせることはないんじゃないですか?」

 

「……わかっているさ。けど、あの子たちにも言っただろう。批判は覚悟していると。私の勝手な都合でしかないのは承知の上だが、それでも終わらせるしかないんだよ。わがままを聞いてもらう時間は……もう終わりだ」

 

「……だから、この場所を捨てると?」

 

「最善の道を選び取っただけさ。そうでもしないと、私はあの子の力になってやることができない。私以上に辛いのは、あの子だからね……」

 

「そうですか。けど……俺には、そんな言葉を口にするしかないオーナーが、一番辛いように感じてますけどね」

 

「……そう聞こえてしまうなら、私がSPACEに抱く気持ちもまだ完全には捨てきれていないわけだ」

 

二兎を追う者は一兎をも得ず。オーナーの言いたい事も、その理屈だってわかってる。今、最優先にしたい事を選ぶためには、それ以外から手を引くしかないのだと言う事も。

 

だが……それは本当に望んだ結果だったのか。SPACEが歴史あるライブハウスになったのは、それだけ創始者であるオーナーが強い思いを持っていたからじゃないのか。

 

 

そうさせてしまったのは、多分……。

 

 

「俺が……力のある人間なら、望んでもない答えを出す事なんてなかったはずなのに」

 

「それは違うな、成川。さっきも話しただろう。SPACEの経営不振の問題だってあるんだ。何にせよ、結果は変わらなかったよ」

 

「……だとしたら、俺は何のためにここにいるのかが分からなくなりそうですよ」

 

「成川が……か」

 

「そうですよ、オーナー。俺の理不尽な要求を聞き入れ、花女に入学させてくれたのは……あなたの半身となる事。オーナーの願いを聞き入れるためだったはずですよ」

 

「……その通りだね」

 

異例中の異例が認められ、俺が女子校の一員として存在し続けられている鍵は、あの子だった。俺の条件と引き換えに、課せられた使命が俺にはある。

 

 

あの病室で眠る、少女の力になる使命が。

 

 

「少しでもそばで、美羽を支えられるように……守れるように。これ以上悲しませないように選んだ道の架け橋となったのは、あなたが守りたいと願ったあの子です。俺があの子の力になる事は、今の俺の証明でもある」

 

「……そうだ。私もそれを望み、あの学校に話を持ち掛け、今に至っているんだ。あの子が元に戻ればと、赤の他人であるはずの成川にまで協力させたのだから」

 

「だったら……もう一度考え直すと言う道は残ってないんですか!?俺が結果を出さないから、愛想を尽かせてしまったとでも言うんですか!?」

 

「それは違う、成川。むしろ感謝しているんだ。私の代わりにあの子の力となってくれた。以前だって、救い出して見せると言ってくれた事……嬉しかった」

 

「なら……!」

 

「けど、私もあの子を守りたいと願う一人の人間なんだ。成川が妹の事を近くで見守りたいと願うように……私もまた、あの子のすぐ近くで力になりたい。そのために、SPACEでの責務を蔑ろにしてしまう真似だけはしたくないんだよ。大切だからこそ」

 

そう言われると、俺も納得せざるを得ない。美羽のためにと全てを投げ打って、普通とは違う異端の世界へ踏み込んだ俺と、少女のためにと全てを投げ打って、非難や失意を真っ向から受け止め少女に尽くそうとするオーナーと、何が違うと言うのか。

 

何も違わない。愛する人の傍で、親身になって寄り添っていきたい気持ちは。むしろ、今まではオーナーもSPACEでの職務もあり、時間が満足に取れないもどかしさに耐え抜いてきたくらいだ。

 

それでも簡単にSPACEを手放せなかったのは、少女と同じように大切だったから。日ごとに移り変わり、成長していくSPACEを見守っていたかったから。数多くのガールズバンドの架け橋となる時間を創りたかったから。

 

そのために、どちらかを斬り捨てなくてはいけない葛藤がオーナーにはあった。真剣に向き合いたい気持ちが両方にあるから、どちらも手にして少しでも半端な態度で向き合いたくなかった……多分、そういう事だと思う。

 

 

だから、今優先すべき方を選んだ。それが……今も病室で眠る少女だった話。

 

 

「……確かに、言い分はわかりました。やはりオーナーは、何よりもあの子の事を気にかけている事も……いや、そんなの当たり前ですよね。すみません」

 

「謝る事はないさ。傍目から見れば、私は未来ある若者の活躍の芽を摘み取っている老人でしかない。悪い部分しか目立たなくなるのも無理はないさ」

 

「ですが、そう思う気持ちがあるのなら……やはり俺は、無理にSPACEを閉める事はないと思います。まだ全てを終わらせるには早い」

 

「早いも何も……遅すぎたくらいだ。バンドへの熱を捨てきれず、SPACEに執着してしまったのは私の甘さ。なら私は、あの子を取る。ライブハウスを手放すくらい……」

 

「ここはもう、ただのライブハウスじゃない。今までここに足を踏み入れてきた人たちの……大切な『場所』になってるんです。それでもSPACEを捨てる事が正しいのだと、あの子のために尽くす道が、それしかないと思うのなら……」

 

俺はオーナーを真正面から見つめ、そして瞳に問いかける。

 

「やり切ったと、心からそう言えますか?」

 

「……その答えは、さっき出したはずさ」

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ここに理想の花園ランドを建設するの。こっちはオッちゃんの部屋。ドロちゃんは隣の部屋で……」

 

「わわ、おたえちゃん戻ってきて~!」

 

「……何やってんだよ、たえは」

 

「知らねぇ」

 

オーディションを終えた次の日。いつものように蔵に集まった俺たちは、昨日の失敗を糧に練習を始めようとしていた。

 

俺も今日はバイトもなく、美羽も寄り道して帰ってくるらしい。ショッピングモールに行くと言っていたが……そんなわけで家に帰ってもやる事がない。ならちょうどいいかと思い立ち、練習に付き合う事にした。

 

のだが……いざ蔵に来てみたら、この有様だ。ただでさえ普段からたえは手に負えないのに、余計手が付けられなくなってる。いや、悪い意味じゃないんだけどな?

 

「つーか、こっちが聞きてぇくらいなんだけど」

 

「何その謎現象。沙綾は知らないのか?」

 

「はっきりとは分からないけど……原因はやっぱり、SPACE閉店かな?」

 

オーディションの不合格。そこに投げつけられた、オーナーからのあまりにも衝撃を伴う発言。

 

SPACEを閉める。オーナーが直前まで隠し通そうとしていた事実は、大きなショックを与えていた。特にたえは、精神を病んでしまうほどに。

 

たえはオーナーを尊敬していたし、そんなオーナーが作ったSPACEと言う場所が好きだった。ショックも人一倍大きいのだろう。

 

「重症だな。これじゃ、練習どころじゃないんじゃね?」

 

「香澄ちゃんも来ないね。翔君、何か聞いてる?」

 

「いや……昨日も一緒には帰れなかったし、連絡も来てないから何も知らないんだよな。今日も学校があったら、何かしら話せたんだろうけど」

 

今日は休日。学校は休みだ。家は隣だからすぐに会いには行けるが、あまり強引に近づくのも悪いかと思っていた。

 

香澄だって、目標として掲げていた場所だ。始まりの音をくれた、大切な場所だったんだ。それが無くなると知って、何も動揺していないはずがない。心を痛めていないはずがない。

 

SPACEでライブがしたい。だが、そのSPACEはなくなってしまう。自分ではどうしようもない壁が生まれ、行動では何も覆せない事実に直面した時……香澄の中に燃え上がるやる気の炎は、勢いを弱めてしまったのかもしれない。

 

それに、香澄は普段は何も気にしないように見えて、実は繊細だからな……。割と周りの事は見ているし、あの性格だから素直に受け止めてしまうのもある。

 

香澄の不在。たえだって戦意喪失。この状況で、俺には何ができる……?

 

「…………」

 

オーナー……確かにあなたの気持ちもわかる。

 

けど、これだけの傷跡を残してまで完遂する事が、本当に正しい事なんですか?これで、本当にいいんですか……?

 

「おはよ~っ!遅れてごめんね!!」

 

「「「「……!?」」」」

 

勢いよく地下室の扉が開き、ギターを背負った香澄が入ってくる。落ち込んだ様子はどこにもなく、いつもと変わらない香澄だった。

 

「お、おはよう……」

 

「意外と元気だな……?」

 

「あれ?みんな暗いけど、どうしたの?さーやも有咲も、何か変だよ?」

 

ギターを床に置き、どこかぎこちなくなってしまう俺たちを気にかける香澄。目の前で手を振って、心配そうに見つめてくる。

 

「あ、あの……香澄ちゃんは大丈夫なの?」

 

「何が?」

 

「SPACE閉店の事だ。目標にしてきたのに、夢を叶える前に無くなってしまうかもしれないんだぞ?」

 

変に心配なんかしやがって。そうしないといけないのは、俺の方なんだぞ。一番辛いのは、この中でお前のはずなのに。そう明るくされると、むしろ見てられない。

 

だが香澄は、キョトンとした顔を俺に向けている。少し考え、ようやく思い当たったのかと思った矢先……。

 

「……プッ、アハハハ!なーくん、心配しすぎだよ!確かにSPACEなくなっちゃうのは嫌だけど、仕方ないよ!落ち込んでる暇なんてないよ、みんな!!」

 

いきなり吹き出しやがって……。けど、香澄の言う通りだ。残された時間は少ないし、不幸を嘆いて立ち止まっている場合じゃない。

 

 

ただのやせ我慢で、無理に気丈に振る舞ってるわけじゃない……と思うんだがな。

 

 

「それに、今日は本番のライブできる衣装を考えてきたんだよ!どう!?」

 

「これは……スケッチブック?」

 

「もしかして、それで遅くなったのか?」

 

「そうだよ、有咲!みんなの衣装考えてたら、つい時間かかっちゃって~」

 

可愛らしい衣装を着た、1人の女の子の絵だ。こいつを香澄が考えたのか。なかなかいいデザインだし、俺もちょっと見てみたい気はする。

 

「この絵、香澄ちゃんが描いたの?」

 

「うん!可愛いでしょ?」

 

「いいね!私もありだと思うな」

 

自分の世界に閉じこもって現実逃避していたたえも、身を乗り出してスケッチブックを眺めている。有咲もチラチラと遠くから見ているし、ウケは良さそうだ。

 

強いな……香澄は。さっきまで打ち砕かれていた空気を、一瞬で変えて見せたんだからな。お前だって、辛いはずなのに。

 

 

それなのに俺は……何もできなかったな。

 

 

「ま、まぁ悪くねーとは思うけど……もうすぐなくなるんだぞ?ライブができるかどうかも――」

 

「まだなくならない!!」

 

ダンと机に手をついて、香澄は有咲の言葉を遮るように大声を上げる。いきなりの事だったからか、有咲もだが沙綾やりみも驚きを見せる。

 

「オーディション、必ず合格する!私、頑張るから!みんなとあの場所でライブしたいから!!」

 

衣装まで考えて、くじける事なく前を向こうとしているんだ。それだけ必死だったから、懸念を生みたくはなかったんだろう。できない『かも』なんて言葉で、夢を終わらせないために。

 

その姿勢に、他の4人が何も思わないわけもなく……。

 

「……うん。やれる事、まだまだあるよね。落ち込むのは、全部やってからでも遅くないよ」

 

「そうだね。みんなとおそろいの衣装、着てみたいな」

 

「花園ランドは、ライブが終わってからにする」

 

「いや、作らせねーし!」

 

そもそも何だよ、花園ランドって。

 

「…………」

 

活力は戻った。勇気は奮い立たせた。何とか、立ち上がった。

 

けどさ、香澄。

 

「…………」

 

 

お前は、どうなんだ?

 

 

実際、お前は強い。仲間を鼓舞して、背中を押して。そうできる事は、お前の強みだ。持ち味なんだ。

 

なら、お前の背中を押してくれるのは?

 

今、お前は誰かの背中を押してやれた。そんなお前がくじけそうになって、心が折れないようにと繋ぎ止めるための力は、誰から貰ったんだ?

 

そう思うと、やはり俺には……あいつが強がってるようにしか見えない。分け与える強さではなく、自分の中の不安と戦う強さはまだ足りていない。

 

さっきもそうだ。ライブができないかもしれないかもと言う有咲の言葉を聞かないように、必死に耳を塞ごうとするように。香澄の行動は、激しさとは対照的に弱々しさを感じ取れるものだった。

 

 

それでお前は……本当に大丈夫なのか?

 

 

「で、次はオーディションいつ行くつもりなの?」

 

「今日!」

 

「「「「えっ……?」」」」

 

「……香澄」

 

大丈夫とは……言えないかもな。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「まずは昨日の件、いきなり大声を出して悪かった。謝らせてほしい」

 

それから数十分後。香澄のあまりにも強引な提案により、オーディションを受けるためにSPACEを訪れていたポピパ一行。俺も蔵で待っているだけじゃ退屈だし、ついでにその様子を見に行くことに。

 

香澄は意気揚々とオーディションに臨んでいたが、他の4人はあまり表情も優れない中での演奏を見せていた。昨日の今日で、満足な結果を残せるとは到底思えていないんだろう。それは俺だって思う。

 

課題を見つけ、それを改善してからじゃないと演奏も上手くはいかない。それに、自信にも繋がらない。自然と消極的になってしまい、それがミスを誘発する事にもなりかねない。

 

それは聞き手にも同じ。自信のない演奏からは、何も感じ取ることはできない。さすがに早すぎたのではないかと、俺は思っていた。

 

そうして迎えたオーディションだったが……香澄たちの演奏が終わった後、オーナーが謝罪の言葉を口にする。椅子に座りながらだったが、頭を下げて。

 

声を荒げてしまったのは事実だし、このままにしておくのも悪いと思ったんだろう。そこは大人の対応だ。事情を知っている俺からすれば、仕方がなかったのかもしれないが。

 

「い、いえ!私たちは何も気にしてませんから!」

 

「そう言ってくれると助かるよ。で、オーディションの結果だが……」

 

とは言え、それはそれだ。オーナーはすぐさま気持ちを切り替え、オーディションの結果の方に話を映す。

 

だが……それが本当に望んだものになると言う確証を持った者は、この場にはどこにもいなかった。恐らく、ただ1人を除いて。

 

「不合格だ。……受かる気あんのかい?」

 

「あります!」

 

「話にならない。何も足りないよ。今日はもう帰んな」

 

香澄は自信満々に答えて見せたが、周りがその気持ちについてこられていない。今のお前は、先走りすぎているんだよ……。

 

「それと、成川」

 

「えっ、自分ですか?何でしょう?」

 

「あんたもあんただ。冷やかしならいらないよ」

 

「それは、まぁ……ごもっともなんですけどね」

 

止めたところで聞く耳なんか持ちそうになかったから、香澄の好きにさせただけだ。4人が付き合ってるのも、そう言う部分が大きいんだろう。

 

「全く……他にもオーディションを受けるバンドはいるって言うのに」

 

「俺も手伝いましょうか?」

 

「必要ないよ。あんたは今日休みだろう?休める時にしっかりと休めないようじゃ、まだまだとしか言えないね。そんな奴に仕事を任せるつもりもないよ」

 

「そうですか……。では、お言葉に甘えて失礼します」

 

「そうしな。こいつらの練習にでも付き合ってやるんだね」

 

俺は元々そのつもりだったんですけどね。ま、そんな事面と向かっては言えないから黙っておく。

 

香澄たちもステージを離れ、楽器を持って俺のところに戻ってきた。もう用もないし、関係ない人がいても邪魔になるだけだ。

 

「ほら、だから言ったじゃん。まだ早いって」

 

「う……で、でも次こそは……!」

 

「そんな調子じゃ、いつまで経っても合格なんてできないぞ。ただ闇雲に数をこなして認められるような場所なら、簡単に立てない場所なんて言われるわけないだろうが」

 

「そうは言っても……どうしたらいいの、なーく~ん!!」

 

人目もはばからず、俺の左腕から体を包み込むように抱き着いてくる。ギターの重みもあってよろけそうになったが、それ以上にすれ違うスタッフに見られてるのが恥ずかしい。

 

「おま、ここで抱き着くんじゃない!とりあえず場所を移して、やるなら有咲にしろって!」

 

「何でこっちなんだよ!」

 

「じゃあ有咲~!どうすればいいの~!」

 

「本当にこっちに抱き着いてくんな!離れろって!!」

 

よし、これで香澄避けはバッチリだとして……俺たちは一度SPACEのエントランスに移動した。邪魔にならないようにって理由もだが、さっきの話の続きもある。

 

「さっき、オーナーも言ってた。私たちには足りないものがあるって」

 

「足りない……何が足りないんだろう?」

 

今の香澄の、ポピパとしての課題点はそこだ。練習を重ねるだけ、上達を続けていくだけの時間からは、オーナーが求めている物は絶対に得ることができない。

 

「技術じゃねぇの?つか、いい加減離れろって」

 

「でも、見てるのは技術だけじゃないって前に聞いたことあるよ?」

 

「だったら……気持ちとか?」

 

「ま、それもわかるけどな沙綾。だとしたら、昨日の今日でオーディション受けた香澄の気持ちは全然足りなかったのかって話だろ?」

 

「それは……そうだよね。受かりたいから今日もここに来たんだし、その気持ちは確かだよね……あれ?」

 

ふと、沙綾が何かを見つける。俺も視線の先に目をやると、そこにあったのはモニター画面。天井付近に取り付けられたそのモニターに映っていたのは、さっきまで香澄たちがいたオーディション会場の様子だった。

 

SPACEではオーディションの様子をモニター越しに見学することができる。今もステージ上で4人組のバンドが演奏しているみたいだが……。

 

「あれって……CHiSPA!?」

 

「えっ、なっちゃんたちオーディション受けてるの!?」

 

まさか彼女たちもオーディションに来ていたとは。以前から受けていた話は聞いてないし、今日が初挑戦って感じか。

 

……その証拠に、全員緊張の色が表情に出ている。演奏もぎこちなく、音がまとまっていない。それでも何とか形にしようと必死になるあまり、力んで余計にリズムが崩れている。

 

結局、最後まで調子を戻せる事なく、演奏は終わった。傍目から見たら、結果は最悪。まず間違いなくアウトだと思えるだろう。演奏面を見ても、昨日のポピパの方が遥かにマシだと思える完成度だった。

 

「オーナー……どうでしたか」

 

「……そうだね」

 

だけど……多分オーナーの出す答えは。

 

「……ベースは走ってるし、ドラムは余裕がない。キーボードとギターは勢いでごまかしている」

 

「……っ、で、では私たちは――」

 

 

「やりきったかい?」

 

 

オーナーのダメ出しに、心が折れるCHiSPAの面々。だが、そんな彼女たちに対して向ける言葉は、ただ一言。

 

やりきったのかと、今の演奏を最後まで成し遂げることができたのかと、それだけを口にした。

 

「……オーナーの仰る通り、私たちの演奏はまだまだ課題が多いです。SPACEのレベルも、そのレベルに自分たちがまだ達していると言えない事も、悔しいですが感じてはいます」

 

「…………」

 

「ですが、私たちは皆……今ある自分を全部出し切りました!やれる事は……やったつもりです!!」

 

海野さんが、そして彼女の言葉に後押しされたメンバーたちが、力強くうなずく。思いは込めた、出し切ったと。何の迷いもなく言い切って見せた。

 

己の弱さは認めている。指摘された部分も、肯定して受け入れた。けど、それでも……演奏に懸けた気持ちだけは否定しなかった。否定させなかった。それだけ、彼女たちの思いが強かった。本物だったから。

 

その言葉にオーナーは……。

 

「……そうか、わかった」

 

「…………」

 

 

「合格」

 

 

その言葉だけで全てわかったと言わんばかりに、余計な言葉を並べ立てる事なくオーナーは告げた。彼女たちが一番待ち望んだ事を。

 

「えっ……?あ、は、はい!ありがとうございます!!」

 

至らない部分があると自覚しながらも、合格を貰えるとは思っていなかったのだろう。喜びと感動が入り混じり、4人はステージの上で泣きながら互いを抱きしめ合う。

 

よかった、信じられない、嬉しい……!積み重ねた努力が報われた彼女たちに、オーナーは野暮な言葉をかける事なく見守っていた。そんな彼女たちを見ていた、俺たちは……。

 

「やった!合格合格!すごいよ、なっちゃん!」

 

「ま、マジか……」

 

「すごいすごいっ」

 

「先行かれちゃったか~……」

 

「ま、慌てるなよ。残された時間が少ないからって、合格者を出さないわけじゃない。それはさっきのでもわかっただろ?」

 

「なら、後はこっちの問題ってわけだよな……」

 

CHiSPAの合格を褒め称え、合格者を出さないわけじゃない意向が見えた一方で、結局は自分たちに問題があったことも事実だと悟ることになってしまった。そこを否定するつもりは、香澄たちには申し訳ないが俺にはない。

 

2つのバンドを見比べた時、足りないと思うものがあった。だから合否の差が生まれた。オーナーの下した決断に、違いが生じてしまったんだ。

 

「何が違うんだろう……私たちと。ちゃんと返事できたから?曲が良かったから?」

 

「それは……」

 

たえの疑問に、香澄たちは言葉を返すことができない。自分たちに足りないものは、CHiSPAよりも劣っているものは何なのか。その答えを、見つけることができないでいる。

 

むしろ客観的に見ても、演奏の質に関してはポピパの方が上手だったと言い切れるくらいだ。それは俺が演奏の後にも指摘したからわかるだろ?

 

単純な技術なら、ポピパが上。なのに落とされた。それ以外の部分で、明らかにステージに見合わないと判断された部分があったから。

 

「……何なんだろ」

 

考えても答えは出ない。沈黙の時間が流れる中、俺も安易に言葉を出すことができない。モニターも向こうでは華やかな時間が流れているのに、重苦しい空気に包まれていた。

 

「やぁやぁ、どうしたんだい!こんなところで落ち込んで?幸せが逃げちゃうぞーっ!?」

 

「わっ、ひなちゃん先輩!?」

 

「そうとも!ひなちゃん先輩だぜ、フゥーーっ!」

 

そんな空気を軽々しくぶち壊してくるのは、キャラがぶっ飛ん……い、いや、とにかく明るい先輩。グリグリのひなこ先輩だ。

 

SPACEはグリグリ御用達のライブハウス。それに今日はライブが控えている。とは言え、さっきまではいなかったはずなんだけどな。俺たちがオーディションに夢中になっている間に、来ていたって事か。

 

「何でここに……!」

 

「ひなちゃん求めるところに、ひなちゃんあり……そう言う存在に、ひなちゃんはなりたい!なりたいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「求めてないんですけど」

 

この人は本当にライブの時とプライベートの時でキャラとかテンションが違いすぎるからついていけない。有咲の反応にも共感してしまう。すげぇ失礼な話してるって自分でも思う。こんな奴になるなよ?

 

「いいのかい、お嬢さんよぉ。せーっかくオーディションに受かるコツを教えてあげようと思ったのによぉ」

 

「何でそんな口調なんですか、ひなこ先輩……」

 

「フッ……男には、カッコつけたくなる時があるってもんだぜ、少年……?」

 

「いや、あなた男じゃないでしょ……」

 

何か香澄の方が可愛く見えてくるから不思議な話だ。グリグリのメンバーはいつも苦労してるんだろうなぁ……。

 

「細かいことは気にしない!それよりも、オーディションに受かるコツ……知りたくないかい?」

 

「はい、知りたいです!」

 

「よーし、ならデートしてくれたら教えるー!」

 

「はぁ!?」

 

「有咲、頑張って!」

 

「おまっ、何で私なんだよ!押し付けんな!」

 

まずデート前提で話が進んでるのもどうかと思うんだが。たえも悪乗りするんじゃねぇ。

 

「はいはい、私も行く!」

 

「それもうデートでも何でもねー!てか、私は行くの決定なんだな!?」

 

「やめて!ひなちゃんを巡って争うのは止めて!」

 

ダメだ、これ。ついていけねぇよ……。

 

「ほらほら、困ってるからその辺にしなよ」

 

「ん、この声は……」

 

「あっ、お姉ちゃん!」

 

ゆり先輩もいたんだな。他の2人はいないみたいだが、後から合流でもするんだろう。まだライブの時間には早いからな。

 

「お姉ちゃんもオーディション見に来たの?」

 

「うん、刺激になるからね。勉強になる事も多いから、よく見てるんだ」

 

「ポッピンパーティーのオーディションも見てたよー!」

 

「私たちのオーディションも……」

 

足りないものを補う事に、実力や経験だけで判断して他のバンドを見るのは大違いだ。何も知らない無垢な原石だからこそ、持っている物だってある。経験を重ねたがゆえに、無意識にそぎ落とされるものだってあるからな。それは決して、落としてはならないものだと言うのに。

 

それを取り戻し、力とするにはやはり、新人の演奏を見る事が不可欠。だからこそ、彼女たちはオーディションを見るために足を運ぶんだろう。

 

ステージに立ち、実力が認められてもなお、日々精進を積む姿には脱帽だ。それも、練習を重ねた技術向上だけじゃない。他人のパフォーマンスから、時には新人の演奏からも何か学ぼうとする姿勢は見習わないといけない。

 

「……あの」

 

「うん?」

 

「何がダメだったんでしょうか。私たちに足りないものは?受かるコツは?考えても答えは出なくて……なのでその、一体何だったのかなって」

 

ふと、口を開いたのは沙綾だった。バンドとしても、学年としても先輩のグリグリに、教えを請いたいと思ったんだろう。

 

まだ幼く、拙い沙綾たちの目線からでは、見えない物だってある。技術、経験、何を取ってもグリグリには敵わない。だからこそ、彼女たちの目線から俯瞰した自分たちの姿を知っておきたい。そんなところだろう。

 

そんな沙綾の熱意ある質問に対して、出した答えは……。

 

「よーし、それじゃーまずはデートする事だね~!」

 

って、おい。その話まだ続いてたのかよ。

 

「……ってのは冗談で~」

 

冗談かい。何で内心突っ込まないといけないんだよ。会話しなくても疲れるのか。

 

てか、有咲もげっそりした顔してるけど、心の中でツッコミ入れてたんだろうなぁ……。あいつは根っからのツッコミ気質だし。

 

「一つだけヒント!一生懸命考える事!これ大事!!」

 

「一生懸命、考える……?」

 

「考えて考えて考えまくれー!それが答えを見つける唯一の近道さ!!」

 

「で、でも私たち、考えても答えが出なくて……まだ足りないって事なんですか?」

 

「そゆことだね!」

 

「けど私たち、さっき、なっちゃん……友達のバンドが合格するの見て、どこが違うんだろうって皆で考えてたんです。演奏とか、色々……でも、答えは出なくて、このままじゃダメだなって思って、だから今の私たちに足りないものの手掛かりを、少しでもほしいんです!お願いです!」

 

沙綾の言葉に後押しされ、香澄も思いをぶつける。ポピパからしたら、とにかく考えろなんて曖昧な答え、具体的な改善策が全く見いだせていない不明瞭なものだ。

 

だからこそ、少しでもいい。せめて何か改善の手掛かりとなるだけのものが掴めたら……藁をも縋る気持ちだった。

 

「じゃあ、戸山さん。私からいいかな」

 

「は、はいっ!教えてください、ゆりさん!」

 

と、ひなこ先輩に代わり、ゆり先輩が香澄に言葉を投げかける。

 

「今、ポピパが直面している問題は、バンドとしてとても大切なものだよ。だから私も、力になりたいって思うし、一緒になって考えてあげたいって思うよ」

 

「それじゃあ……」

 

「でもね、ダメなんだ。ううん、違うね。できないんだよ」

 

協力したいと願う一方で、その気持ちを形にできない。実力も経験もあるグリグリなら、答えを出す事だって簡単なはずだ。なのに、どうしてなのか。

 

きっと、香澄たちはそう言いたくて仕方ない。手掛かりすら教えては貰えないのかと。何故それが叶わないのかと。自分で考える事でしか答えが出ないのかと。けど、先にゆり先輩が言葉を続ける。

 

「私たちがアドバイスするのは簡単。でも、この問題は、誰かから与えられた答えを当てはめても解決しない。自分たちの力だけでしか、解決できないんだよ」

 

「私たちの、力だけで……」

 

「だから考えなきゃ。悩んで、悩んで、どうすればいいのかを考えるの。その答えは、戸山さんたち5人じゃないと出せないんだから」

 

「でも、考えても答えは見つからなくて……」

 

「それはね、見つけようとするものじゃないの。探すものだよ」

 

「見つけるんじゃなくて、探す……?」

 

どっちも似たような意味だが、その本質は違うんだろう。答えを見つけるために考えるんじゃなく、探すために考える……答えを得るって意味的には、何も変わらない気がするんだが。俺も少し混乱してきたな。香澄は大丈夫だろうか。

 

今の俺たちには見えてない何かが、ゆり先輩には見えている。きっと、ひなこ先輩にも。それも、必死に考えて探した答えがあるから……なのかもな。

 

「そう。音楽には正解なんてない。答えなんて、みんな違うよ。私たちの音楽が、ポピパの音楽と違うようにね」

 

「私たち、ポピパの音楽……」

 

「だから私は、答えを教えては上げられない。それじゃあポピパは、ポピパじゃなくなっちゃう。ポピパは、ポピパの答えを探さなくちゃ」

 

「ポピパの答えを……」

 

「それが、考えるって事……」

 

「うん。私に言えるのは、ここまでかな。後は、ポピパだけの答えを探せるように頑張ってね」

 

バイバイと手を振って、ゆり先輩はひなこ先輩を連れてSPACEを出て行った。去り際にひなこ先輩が大声で俺たちに呼びかけていたが、反応できるほどの余裕は誰も持ち合わせてはいなかった。

 

りみも沙綾も、ゆり先輩の言葉に何か突き動かされたものがあったんだろう。たえも有咲も、口にこそ出さないが表情は変わっている。受け止めた言葉の重さを、自分たちの力に変えようとしている。

 

俺も、正直感じるものはあった。バンドとはほとんど無縁だが、その世界の奥深さを垣間見た。ただ楽器を演奏し、音を出して奏でるだけでは成り立たない領域。何気なく耳にする音色の響きには、想像もつかないほどの感情や時間が積み重なっている。

 

だから人を惹きつける。興奮させ、感動させる。歌い、演奏するだけでは決してたどり着けない世界。そこに踏み込むだけの「答え」が、あの場所に立つ「答え」でもある。

 

バンドって、音楽って……やっぱりすごいんだ。

 

香澄も……さっきより真剣な面持ちになっていた。誰よりもポピパに対して思いが強く、SPACEに立ちたい思いが強いから。

 

何よりも、バンドに対する気持ちは……本物だからな。

 

 

「…………」

 

 

だから……。

 

 

少し思い詰めたように見えてしまったのは、気のせいなんだよな……?

 

 

 

 

***

 

 

 

 

あの電話は、本当なんだろうか。

 

あの話は、確かなんだろうか。

 

きっかけは何となくで、ただ私なりにどうにかしたいと抗いたかっただけだった。このまま終わるのを、見ているだけなんて嫌だった。

 

だから聞いてしまった。あの時、オーナーの部屋で話していたことを。

 

SPACEを閉じる事と同じくらい、心に重くのしかかる……翔の秘密を。

 

「…………」

 

花女への入学。そこにどうしてオーナーが絡んでいるのか。それに、話の中で出てきた謎の少女の事も。彼女の存在が、SPACEの存続を左右する理由が見えてこない。つながりが見えずに、もやもやとした気持ちだけが頭に残る。

 

そんな時に、あの電話がかかってきたんだ。

 

「…………」

 

そこで決めた。2人で一緒に。

 

「……うん」

 

SPACEの事。オーナーの言う、少女の事。

 

「確かめないと、ね」

 

そして、翔の事。

 

「ん?何か言ったか、たえ?」

 

「……ううん。何でもないよ。今はね」

 

「今はって何だよ。何か怖いんだが」

 

「大丈夫だよ。怖いのは一緒」

 

「どう言う意味だよ……」

 

そのままの意味だよ、翔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知りたくないけど知らなきゃいけない事、今から知るんだから。




その引き金は、突然引かれた。



2人の少女の疑念が、翔にとって避けがたい舞台を生み出す。



隠すしかなかった使命。そのベールは、最早くたびれた布切れのように脆く引きはがされた。



ついに翔の口から語られる、美空の真実。そして過去。



その言葉の届く先には……。



次回「へい"おんがく"ずれる」
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