BanG Dream! 澄み渡る空、翔け抜ける星 作:ティア
が、今回は特別編。本編の続きではなく、あるバンドリーマーのお話をしたいなと思います。
phraseXXX 君の勇気で夢を撃つ
本当に終わってしまった。
二色交わる舞台。華やかに染め上げるペンライトが、星空にも似た景色を生み出す客席。
ポピパMyGO合同ライブ『Divide/Unite』。 新旧二大主役バンドの共演とだけあり、会場も横浜アリーナとかなり大規模。
キャパは約13000とされ、早々にチケットも売り切れ。その人気がこれだけで感じ取れる。
そんなライブに何気なく応募して当選したのは、本当に奇跡だったのだろう。しかも、これが僕の人生初ライブだった。
いつかはライブに行きたいと思っていた。でも色々なことに理由をつけ、諦めていた。
でもいつかは。それを自分の手で現実にした。誰かに背中を押して貰えたような気がした。
不安ではあったが、出会う人たちの優しさに救われた。同じ物を好きな人たちと言葉を交わせるのが嬉しかった。
開演前から会場周辺を埋め尽くすバンドリーマーたち。この人たちと一体となり、今日のライブに華を咲かせるのか。
そこからは本当に楽しかった。セトリも、演出も。何もかもが新鮮で、普段聞く曲も現地では違って聞こえる。
耳を突き抜ける大音響の衝撃。沸き立つ感動に体が動き、時間を忘れさせていく。
そして時は来た。銀テープが会場を包み、より歓声が上がる。ボルテージは上昇し、昂る熱が居場所を求めて身体中を這い回る。
でも、その熱は置き去りにされた。
舞台裏に戻るバンドメンバーたち。そしてステージ上のモニターに映し出される告知。
それが微かに熱を呼び起こすが、バラバラに会場を後にするバンドリーマーが、会場から熱を奪う。
僕はしばらく、会場を後にできなかった。係員に早く出るよう注意されても、呆然としていた。
楽しかった。でも、終わってしまった。矛盾する感覚が僕を満たす。
これがライブなのか?
ついさっきまでこの空間を満たしていた情熱は、過去となって消えていく。僕の気持ちなんて知らん顔して。
それだけじゃない。今日会った人たちとの時間も、遠くに行ってしまう。
せめて少しでも。繋ぎ止めようとする僕の思いは、臆病な心に羽交い締めにされた。一言の勇気で、まだこの熱を保てたのに。
僕は、会場を後にした。
周りを見れば、グループでカラオケや飲み屋に入るバンドリーマーたち。僕はその輪に入れず、ホテルで1人天を仰いだ。
明日になれば、僕はまた日常に戻る。そこには、同じ趣味で笑いあえる人はいない。
一人ぼっちだ。今日生まれた幸せも、次いつ出会えるか分からない。その悲しさをずっと抱えて、僕は明日を待つのか?
嫌だ。そんなの嫌だ。このまま目を閉じて、目が覚めたらまた今日の朝に戻ってほしい。
緊張して、不安で。こんな僕を受け入れてくれる場所が本当にあるのかと、それでもまだ見ぬ景色を求めたあの朝に。時間を戻してやり直せるなら、喜んでそうしたい。
でもできない。時間は否応なしに過ぎていく。日付が変わり、少しずつ僕を殺す。
嫌だ。嫌だ。その声は届かない。
嫌だ。嫌だ。何度言ったとしても。
嫌だ。嫌だ。決して、どこにも。
ーー大丈夫だよ。ーー
ふと、今日の分のガルパの有償単発ガチャを引いていないのを思い出した。
別に一日引かなくても、大して変わらない。たった1回のガチャで、何か当たるなんて都合のいい話はない。
でも、一応日課だ。引けるのであれば引いておこう。僕はガルパを起動する。
僕の推しは牛込りみ。今日参加したライブも、彼女のバンド、Poppin'Party……通称ポピパが参加していた。
臆病で引っ込み思案で。ステージに立つのも怖かった女の子。まるで僕を見ているみたいだった。
だから惹かれたのかもしれない。そんな彼女が、勇気を踏み出して成長する姿に、僕も勇気をもらえた。
自分を変えるため。さらなる自分に出会うため。一秒ごとに変わろうとする彼女に、僕は何かを感じずにいられなかった。
そうして推しになり、今まで彼女だけを最推しとし続けてきた。同じくらい推したい子も見つかったけど、それでも最推しが牛込りみであることに変わりはない。
君の勇気で始めたこともある。このライブ参加だってそうだ。僕も勇気を出して、新しい自分を見つけようとしている。
ガチャ画面に移動し、慣れた手付きで単発のボタンを押す。基本は低レアリティしか出ない。高レアリティなんて稀だ。
でも、そこにあったのはオレンジ色のサイリウム。最高レアリティである星5の誰かが確定である証拠だった。
このライブの日に、奇跡としか言いようがない。でも、僕の気持ちは沈みきっていた。
何か当たったところで、僕の望まぬ明日への運命は変わらない。
手の届く範囲に、希望はない。
なら僕は、このままでいい……。
『いまよりも大きな自分になりたくて。』
歓声と、一番見慣れたシルエットとともに声が聞こえた。一番好きだと言っていた、彼女の声が。
「……え?」
そこには確かに、りみがいた。まだ実装から日も浅い、登場したばかりの彼女の星5だった。
奇跡だ。でもどうして。今は別のキャラの星5……ピックアップと呼ばれる子の出る確率が上がっている。りみは関係ない。
それに、星5全体の出る確率の上がるフェスと呼ばれるガチャの期間でもない。
どうして君は来てくれたんだ?
『いまよりも大きな自分になりたくて。』
大きな自分になりたい。それは彼女の生き様であり、彼女を表す言葉だ。
もっと色んな景色を見たい。知らない自分自身に出会いたい。一歩踏み出せば、今の自分にはない無限の未来が待っている。
臆病だった彼女からは、とても想像がつかなくて……。
「……あ」
そうか。そうなんだ。
これは、僕に向けた言葉なんだ。
今の僕は、昔の彼女だ。臆病で、何をするのも諦めて。変わるための勇気も持てず、無理だと分かるから嫌だと叫ぶしかできない。
でも彼女は。それが最初は、誰かから貰った勇気だとしても。自分の道を、自分の手で切り開いている。
それどころか、まだ見ぬ自分を探すために動き続けている。立ち止まっている時間は、彼女にはない。
だから今度は、僕へと勇気を与えてくれているんだ。前に進むための勇気を。
僕も臆病で、人見知りで。自分に何の自信も持てない。そんな弱い人間だ。
それでも彼女は、僕の背中を押す。立ち止まっている暇はない。前に進まなきゃって。変わるために。
私も変われたんだから、あなたも変わらなきゃって。
その瞬間、涙が止まらなくなった。
どうしてこんな僕のために。簡単に出ない星5で、僕に言葉を送るのか。
こじつけかもしれない。それでも僕には、彼女が背中を押してくれたようにしか思えなかった。
僕の中にある曲が流れ出す。『トレモロアイズ』。この星5りみが登場したイベントの表題曲だ。
どこか切なく、イベント内容にも合致した曲調と歌詞。それらが今の僕と重なる。
変わりたくない。でも新しい自分が待ってると。この曲もまた、僕に前を向かせる。
泣き続けた。この時だけは、一人だったことが幸いした。涙を止めるつもりも毛頭なかった。
弱い僕を洗い流し、彼女から貰った勇気で僕を満たす。俯いていた心は、色づき鼓動を早くする。
そして誓った。僕は次のライブ、絶対に参加する。現地で絶対に感謝を伝える。君の勇気で、前を向けたと。
頭の中で流れ続ける、トレモロアイズとともに。
✳✳✳
それから数ヶ月後。僕はポピパ単独ライブ『Poppin'Canvas』の会場に来ていた。
会場は河口湖ステラシアター。Divide/Uniteと違い、キャパは3000人と小規模。それゆえに倍率はかなり高かった。
何とか当たってくれたら。その思いで応募した結果、最速抽選で当選できた。願いが届いた。
ようやく感謝が伝えられる。この場所で、僕に勇気を与えてくれたバンドへ。
今は昼前。既にバンドリーマーの人たちが会場前に多数集まり、物販の整理券配布にも長蛇の列が。先日行われていた別のバンドのライブ時とは比べ物にならなかったらしい。
何人かとエンカもでき、談笑しながら時間を過ごす。何の曲が来るのか、聞きたい曲はあるのか。思い思いに言葉を重ねていく。
が、ここで変化が起こる。この会場は野外ライブを行うことが可能で、中の音が外にかなり漏れてしまう。
つまり何が起きるかと言うと、リハーサルの様子が完全に会場前の僕たちに聞こえてしまう。何の曲をするのか、一部ではあるが開演前に判明してしまう。
『キラキラだとか夢だとか 〜Sing Girls〜』『What's the POPIPA!?』に、まさかの『怪獣の花唄』で久々のカバー曲確定。さらにはアコギでの『キズナミュージック』と、リハーサルだけで大満足できるラインナップ。
そして最新曲の『TARINAI』で会場外のバンドリーマーたちのボルテージは急上昇。コールの声も聞こえてきた。
でも僕は、興奮する一方でどこか諦めた気分になっていた。以前僕の背中を押した、トレモロアイズのことを考えていたから。
この曲はTARINAIのカップリングとしてリリースされている。表題曲であるTARINAIは、ライブでの高揚感に相応しいアップテンポな曲だ。恐らくこのライブで披露されるのだと、何となく予想できていた。
そうなれば、同じシングルから両方の曲を披露することは難しいはずだ。来るなら片方が限度だろう。しかもライブに似つかわしい曲と、しっとりと感傷に浸らせる曲。どちらを取るかと言われたら、前者だ。
そしてTARINAIの演奏が聞こえた瞬間、やっぱりだと悟った。選ばれたのは、ライブ映えする曲。
つまり今回、トレモロアイズはない。
以前のライブで、より思い入れが強くなったんだ。可能性が低くても、来てほしいと思っていた。
この感謝を伝える場で、願わくばトレモロアイズが聞けたらと。ライブ前からずっと思い続けていた。夢よ、叶えと。
でも……ダメみたいだった。
可能性はほぼ潰えた。変えたくても変えられない。変わろうとしても、変わらないものだって確かにある。
その結果が、この演奏だった。また僕だけが置き去りにされたような気持ちだった。
披露されない曲があるのは仕方ない。今や60曲以上リリースしているんだ。そのレパートリーから選ばれるのは、本の一握り。
けど、それでも。
いや、そう思ったところで。
でも僅かに希望はあるはずだ。
そんな希望だけで何か変わるなら、何も苦労しない。
分かってる。
なら……。
でも、僕は……!
聞き覚えのあるイントロが、僕の耳に届いた。
「これ……!?」
周りからも歓声が上がる。これは僕の願望が強すぎるあまり生まれた幻想じゃない。確かな現実だ。
聞こえる。聞きたいと望んだ曲が。
トレモロアイズだった。
「あ……あ……!」
膝から崩れ落ちそうになった。いや、僕が踏みとどまったように思っただけで、実際には崩れ落ちたのかもしれない。
耳に伝うフレーズ。あの時と同じように、僕に寄り添い包み込む。
一人悲しく過ごしたホテル。思い出される景色に浮かぶ僕と、今の僕の姿が重なる。でも違うものもあった。
心配するバンドリーマーたち。けど、我慢はできなかった。溢れる思いは、理性で止められるほど弱くはなかった。
まだ開演まで数時間あるのに。この涙は本番に取っておかなきゃいけないのに。
でも無理だ。君から貰った勇気の曲なんだ。
叶わないと思っていた。TARINAIだけだと思っていた。二曲ともやるなんて、そんな奇跡は起きないと思っていた。
でも、君は。また僕の背中を押す。
何度も僕に勇気をくれる。励ましてくれる。無理じゃない。
ーーほら、現実になったでしょ?ーー
そんなりみの声が、僕には聞こえた。幻聴?そうかもしれない。
でも僕には。確かに聞こえたんだ。
✳✳✳
それから数時間が経った。
会場を埋め尽くすバンドリーマー。そして披露される曲の数々。
分かってはいても興奮した。目の前の演奏が、僕の腕を振るわせる。
そして待望の曲を聞き届けた。視界は滲んでいたが、最後まで僕は目を離さなかった。何があっても、この景色を忘れないために。
その後発表された武道館ライブの情報で、僕は吠えた。いや、あの場にいた誰もが声を枯らしたはずだ。
MCでまた貰い泣きし、そしてまた誓いが生まれた。次のライブも絶対に行こうと。
そうして幕が下りる。今回のライブも、過去のものになっていく。ステージから誰もいなくなり、観客も少しずつ減っていく。
興奮はしてる。その熱が無理矢理奪われ、寂しくもある。また戻りたいと願う気持ちが、胸の奥から湧きあがる。
でも、あの時とは違った。早く前に進みたい。何か始めたい。ポピパへの思いを、何か形にしてみたい。
この失われつつある熱は、僕を突き動かす原動力となる。
いまよりも大きな自分になるための。
「……だから」
会場を後にする時、僕は誰にも聞こえない声で言った。
「絶対にまた会おう、りみ」
彼女は僕の憧れで。目標で。これからも応援したいと、誇りに思う女の子。
そんな僕が、彼女の背中を見て始めたこと。ちっぽけで臆病な僕が、君の勇気で始めたことがある。
それが僕の世界を広げた。君がいたから、僕は変われた。繋がれた人たちがいる。
だから、僕は。
ライブが終わり、また日常が戻る。でも、あの日のような悲しみはもうどこにもない。
前を向く。そして僕は、パソコンの電源をオンにする。僕自身にも、スイッチを入れるように。
これからも、昔の自分を変えるために。そして彼女への愛をぶつけるために。その結果、着いてきてくれる人がいるのなら。
僕は……いや、俺は。
これからも、君の勇気で始めたこの活動を、ずっと続けていくだけだ。
「……どうも、ティアです!」
この小説……と呼べるかは分かりませんが、書いてる最中もずっと今回のライブのことを思い出し、涙していました。
諦めていた中で、目の前の会場からトレモロアイズのイントロが聞こえてきた時のことは、鮮明に思い出せます。
嘘みたいな話に聞こえる方もいるかもしれないですが、これはとあるバンドリーマーが確かに経験した話。
これからも、ポピパ推しとして活動していきます。ならこの小説完結させろって話だけどね()
では、またいつかの更新をお楽しみに。普段はYouTubeの「ティアのバンドリちゃんねる☆」におりますので。