閃乱カグラ 少年少女達の希望と絶望の軌跡   作:終末好きの根暗

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皆様大変お久し振りでございます。

そして、新年明けましておめでとうございます。

今回は番外編、というよりは作品のストーリーの裏側になります。

漸くこの子を登場させる事が出来ました。

この章は本編ストーリー(主に蒼鬼サイド)のネタバレが含まれていますのでご注意下さい。

では、どうぞ。


虚飾ノ章
第1話 虚飾の忍


 悪忍育成の名門校、秘立蛇女子学園。

 

 その理事長室の席に座る男、理事長の道元はある書状を読んでいた。

 

 書状の内容は共同任務の依頼とその任務内容、相手の求める蛇女の人材と相手の送る人材、そして報酬について記されている。

 

「――任務内容は最高上層部の研究施設の調査及び、破壊。求める人材は監督生の忍一名と理事長推薦の一名の計二名、か」

 

 そこまで読んで、道元は溜息を吐く。

 

「よりによってこの時期にこんな話を……いや、この時期だからこそか。忍界最高の叡知を持つ者が右腕として居るというのは、それだけで厄介極まりないものだな。それに加えて……」

 

 道元は相手側が派遣する忍についての欄を見る。

 

「彼方の派遣する忍は左腕のカグラと『虚飾の忍』か。とんだ大物を連れて来るものだな。それだけこの件は奴等に取って重要と見える」

 

 

「――如何なさいますか?」

 

 

 すると、何処からか声がする。しかし、理事長室には道元以外の姿は見えない。

 

 そして道元は何処を見るでもなく、その声の主に質問の返事をする

 

 

「断れば奴等が力尽くで蛇女を従えに来るのは目に見えている。武力勝負となれば此方に勝ち目は無い。癪に障る話だが、断る訳にはいくまい。私は一度研究施設に向かう。この事は他のメンバーにも伝えておけ」

 

「御意」

 

 そこまで言うと、声の主は何処かに消えていった。

 

 

 そしてそれを確認した道元は何かを懐かしむように上を眺める。

 

「大方、『天魔(てんま)』や『東照(とうしょう)』との戦いに備えての事なのだろうが……『猿帝(えんてい)』の小僧め。『聖天』になったからと言って調子に乗るなよ。最後に笑うのはこの私だ!」

 

 

 そう言い、道元は理事長室を後にした。

 

 

 ――この日、道元の元に届いた書状。

 

 この書状が、届けられた数日後に起こる事件の幕開けとなり、後に蛇女子学園、延いては忍世界の命運に関わる内容をある事を、この時はまだ、誰も知らなかった。

 

 

**********************

 

 ある日の事。

 

 一人の少女は夢を見ていた。

 

 

 

 何処ともつかない白と黒のみが混ざる世界。

 

 そこで何かを見ていた。

 

 夢のようだが、現実とも言える。

 

 手足は動かず、声も出ない。

 

 それは何時かの●●。

 

 何時か言われた言葉。

 

 

 

 

『――貴女は●●●●を●●する者です』

 

 

 何処かで誰かに言われた言葉。

 

 

『これが貴女の道の糧となるでしょう』

 

 

 

 そう言って●は時計の様な物を渡してきた。

 

 

 ――()()()()が何時の物か、●は知らない。

 

 

 

 これは一体、何時の●●だっただろうか?

 

 いや、そもそも●の●●なのか?

 

 分からない。解らない。判らない。わからない。

 

 思い出せない。

 

 

 そう考えていると、●●は……否、世界は異なる物へと移り変わる。

 

 

 

『……人間に付く、それが貴様の選択か?』

 

『ええ。私は恩に報いる為、人を守ります』

 

『……愚かな。王が貴様を見逃すとは到底思えぬぞ』

 

 

 

 ――この●●は分かる。

 

 確か8()0()0()()()だっただろうか?

 

 しかしこれは()()()()()()()()

 

 ――そうだ。

 

 これは●●●の●●だ。

 確か●は●●の味方をして仲間から――

 

 

 

 

 

『答えろ●●!●●様を裏切ったのはそれだけで赦されざる罪だ。だが、何故よりにもよって、今この時に貴様は離反する!?』

 

『今でなければ、彼等の事も●●殿の事も止められないと思ったからだ。何方かの大将が倒れれば、もう後戻りは出来ない。……いや、後戻り自体はもう出来ないのかもしれない。それでも儂は、今ならまだ最悪の事態を避けられると思った。――だから、儂は此処を離れる』

 

『……それが何を意味するのか、理解できぬ貴様ではない筈だ』

 

『ああ。解った上で儂は離れる。――さらばだ、●●』

 

『……ッ! ……待て、●●!●●!!!』

 

 ――今度は数年前の●●だ。

 

 とはいえ、これも●の物ではない。

 

 しかもこれは、誰の●●かも思い出せない上に正確な歳月も解らない。

 

 加えて、誰かの名前以外の言葉は聞き取れるが、会話している者達の顔が靄掛かって見えない。

 

 何とも忌まわしい。

 

 

 

 

 

 

『●●……●●……ごめんなさい』

 

 

 ――――。

 

『どうか私を許して下さい』

 

 また別の●●だ。

 

 ……しかし、今までのどの●●よりも近くて、それでいて遠くに感じる。

 

 ただ分かるとすれば――

 

 

 ●●の光景に映る視界で泣いている青い髪の少女に、随分と懐かしさを覚え、苦しみとも悲しみとも●●とも怒りとも思える感情らしき物が広がった事だろうか。

 

 しかしまあ、気持ち悪い感覚がする物だ。

 

 自分の物と断言できない●●、それが自分の●●であるかの様に継ぎ接ぎで繋がれているのだから。

 

 

**********************

 

 そこからも●●は続いた。

 

 光景に映る者の顔が見えない事が殆どだったが、何故か状況は理解できた。

 

 

 

『●●●よ。歴史の渦に消えるが、其之方の運命だ』

 

『おのれ、●●……!埒外なる人間如きが……!』

 

 

 例えばそれは、生まれながらに全てを兼ね備えた王が魔の神を下す瞬間。

 

 

 

『その目でよく見ろ、確りと。俺はアンタだ。未来のアンタだ!』

 

『……私もお前のように変われると? ……そんな虚言で私に夢を見せようとするのは止めてくれ……!』

 

 

 或いはそれは、未来を掴んだ若者と未来を失った若者の道が交わる瞬間。

 

 

 

 

『●●、忘れたとは言わせないぞ。お前を倒すのは他の誰でもない、この私だ』

 

『勿論、解ってるよ。●ちゃんにも負けるつもりはないけどね』

 

『フッ、そうか。だったら、さっさとアイツを倒して、二人の決着を付けるとするか』

 

『うん! ――私は死なない!』

 

『絶対に死なない!』

 

 

 

『――忍の道を極めるまでは!』

 

 

 或いはそれは、真影の少女と紅蓮の少女が肩を並べ、真紅の道を進み、異形の者へと立ち向かう姿。

 

 

 

 そうして、それを何度繰り返しただろう。

 

 目まぐるしく変化する光景を偽りの●●を辿り、何時の物だったのかを思い出していく。

 

 

 ――そして●●は、また別の物を運んで来た。

 

 

『これを持っていけ』

 

 

 ……今度はこの●●か。

 

 ●の●●だ。

 

 忘れる訳が無い。

 

 今の●の形を作った●●だ。

 

 

 

 彼は●に時計の様な物を差し出してきた。

 

 色や模様が少し異なっているが、●が差し出してきた物と同じ物だ。

 

 

『お前が()()を取り戻したいなら、それを絶対に手放さない事だ』

 

 

 そうだった。ここで彼は――

 

 

『俺はやらなければならない事がある。此処からは別々に行動する。――死ぬなよ』

 

 

 そう言って何処かへ旅立っていったのだ。

 

 

 ――不思議と止めようとは思わなかった。

 

 ただ何となく、前にも同じ事があった気がする。

 

 だからなのか、●は今まで通り旅をしながら依頼を受けて報酬を貰うという形で生きている。

 

 彼が今何処に居るかは分からない。

 

 探そうとは思わない。

 

 彼を探した所で、●が何者かを知り得ない。

 

 ならば、一人でも探す。

 

 

 

 ●●の無い●が、何者であるのかを知る為に。

 

 

 

**********************

 

 

「――ん」

 

 夢から覚めた。

 

 周りを見ると、辺りは草木で覆われていた。

 

 どうやら旅の途中で寝てしまったらしい。

 

 

「また、●●を見た」

 

 

 ――自分の物ではない●●を見るのは何度目か。

 

 一瞬だけ思考を巡らせるも、直ぐに首を横に振り、その思考を止める。

 

 

「どうでも良い」

 

 100万を超えた辺りから多過ぎて考えるのも面倒になっていた。

 

 それに、見た●●の数よりも、それが一体何の●●であるのかに着眼点を当てるべきだと思う。

 

 尤も、それも考える気は無いのだが。

 

 

『おや、それは怠惰ですね』

 

「――――」

 

 

 突然、●以外の声が聞こえた。声の質からして女性だろうか?

 

 その声が聞こえた方角を見てみると、黒いスマホが宙に浮いている。

 

 その光景に溜息を吐きながらも、スマホに向けて声を返す。

 

 

「……F 何の用?」

 

『いえ、気紛れに寝坊助さんを起こしてあげようと思いまして』

 

 

 スマホ越しの声の相手はFと名乗る女性。

 

 その正体は不明だが、彼が居なくなった今では唯一の●の協力者だ。

 

 尤も、スマホ越しの会話しかした事がなく、写真なども含めてただの一度も顔を見た事が無いので、本当に女性なのかも疑わしいのだが。

 

 

「御託は良いから用件を言って」

 

 とはいえ、何も解らないのかと言われればそうでもないと答えられる。

 

 直に会った事は無いが、数年の付き合いである程度連絡する時のパターンも理解した。

 

 この場合は恐らく、

 

 

『お察しの通り、任務です。今回の任務は妖魔の討伐になります』

 

「そう。危険度(リスク)はどの位?」

 

『BB級が50体と言った所です』

 

 

 危険度(リスク)とは討伐任務における討伐対象の文字通り危険度を表している。

 

 最下級のDから最上級のXまで存在し、Bの危険度はその中では中の下と言った所であり、高過ぎず低過ぎずと言った所だ。

 

 危険度BBは五つあるBの位の中でも上から二番目の危険度に当たる。

 

 ●に取ってBBは少し強い程度の相手だ。

 

 今のままでも勝てない相手ではないが、50体居るのは流石に面倒だ。

 

 ならば、準備をするに越したことはない。

 

 

「それじゃあ、今回の分を貰える?」

 

『お安いご用です。では、始めましょうか』

 

 Fがそう言うと、スマホが白く光出す。

 

 次にする事に備えて●も目を閉じる。

 

 

『――それでは、魂の調整を開始します』

 

**********************

 

 

 何処かの森の奥。

 

 そこには無数の血と無数の屍があった。

 

 その屍は忍の成れの果てだ。

 

 

 ある者は顔が裂かれ、ある者は半身が千切れ、またある者は人の原形を留めていない。

 

 

 死体の数は数百に上り、一般人が入ってしまえば到底生き残れはしない。

 

 当然そこは立ち入り禁止区域であり、一般人は勿論の事、プロの忍でさえ大抵は門前払いされてしまう程に危険な場所だ。

 

 

 それは何故か、理由は至極単純――

 

 

 

「グルルルルル……」

 

 

 その屍の原因たる存在。

 

 

 

 妖魔(ようま)が居るからだ。

 

 

 この森は妖魔の生息地と呼ぶべき場所の一つ。

 

 といっても妖魔の中でも主に下級種の者達が集まる程度の場所だが、それでも危険な事に変わりはない。

 

 ――そして、森の中に潜む妖魔の一体が唸り声を上げていた。

 

 全長は5メートル程であり、牛や鹿の様な角が額に生えており、狼の様な顔かと思えば鼻はサイを思わせる角が生えている。

 

 上半身はゴリラの様な太い腕かと思えば腕の数は8本で指は7本ずつ、下半身は蜘蛛の様な足と馬の様な足がそれぞれ生えており、合計の足の数は全部で28本と非常に多い。

 

 更に蛇を思わせる長い尻尾も生えており、背中には虫の羽と思わしき物が八本生えている。

 

 まるであらゆる生物を無理矢理混ぜたと言わんばかりの容姿をした妖魔が、忌々しいと言わんばかりに一ヵ所を睨み付けている。

 

 妖魔の視線の先には、突如として灰色のオーロラが出現した。

 

 そのオーロラが通った場所は木々や草木が見ているだけで生気を失うかの様な不気味さを持っている。

 

 

 

 

「――標的(ターゲット)発見」

 

 

 その不気味な場所から一人の少女が現れた。

 

 赤紫色の髪と黒紫色の髪が左右に分かれ、両の瞳も赤と青の二色に分かれている。

 

 肌の色は美白と呼ぶに相応しく、顔立ちもかなり整っているので、美少女と呼べるだろう。

 

 しかし、その少女の瞳は自身を睨む妖魔にまるで興味が無いのか、死者の様な光を宿していない瞳で、それでいて無表情で妖魔を見ている。

 

 その態度が気に入らないのか、何を見ているか分からない瞳が気に入らないのか、妖魔は少女に向かって咆哮を上げながら向かっていく。

 

 

「ッッッ!!!!」

 

「悪いけど」

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「君に恨みも興味も無いけど」

 

ガアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「――死んでもらうよ」

 

 

 

 突進で辺りの木々を容易に葬っていく姿は、大抵の獣達を震え上がらせるだろう。

 

 しかし、その妖魔に少女は臆する事なく、興味無さげに自分の意見を伝え、左手に赤色の時計の様な物を持ちながら妖魔に右手を向ける。

 

 すると、少女の右腕が肘から先までが禍々しい闇色の炎で包まれていき、炎から狼の様な魔物の顔が現れ、禍々しい笑い声が聞こえてくる。

 

 そして炎が晴れると、少女の右腕は赤色に染まり、魔物の腕の様に複数の刺が生える。

 

 ●●秘伝忍法・――【生業(なまなり)陽狼腕(かげろうかいな)

 

 その少女の秘伝忍法は腕の力を解放する技。

 

 その腕は火花と雷を散らし、向かってくる妖魔でさえも()()()()僅かに怯んだ。

 

 そう。 文字通り()()だ。

 

「ガアアアアアァァァアアアアアアッ!!!!」

 

 妖魔は一瞬で数百メートルまで跳躍し、その高さから勢いよく豪腕を振るう。

 

 

「――――」

 

 

 少女は表情一つ変えずに右腕を真上に突き出す。

 

 そして妖魔の拳と少女の拳が衝突する。

 

 

「グッガッァァァ!!!!!」

 

「……」

 

 

 その威力で巨大な風圧が発生し、木々は吹き飛び、大地に大きな亀裂が入る。

 

 妖魔は驚いていた。

 

 少女が己とパワーで渡り合える事実にもだが、それ程の力を出しているにも顔色一つ変えない異常性にだ。

 

 実際に妖魔自身もかなりの力を込めて唸り声を上げているのだから、自分よりずっと小柄な少女が表情も変えず、声も出さない少女に違和感を感じざるを得ない。

 

 そう思った時だった。

 

 

「――グガアアアアアァァァッ!!!!?」

 

 

 妖魔の腕が吹き飛び、辺りに血飛沫が飛んだ。

 

 妖魔も突然の激痛に断末魔を上げる。

 

 何故突如として妖魔の腕が吹き飛んだのか、拳を合わせた少女の姿勢を見た事で妖魔は理解した。

 

 

 

「……」

 

 

 

 少女が力を込めた結果、妖魔の腕が負けたのだ。

 

 まだ腕は6本残っているものの、妖魔は一瞬で少女の元を離れた。

 

 それを見た少女は、まるで銃を射つ構えの如く、妖魔に指を向ける。

 

 

「――」

 

 するとどうだろう。

 

 辺りの岩や小石が発光し、次々と浮遊しながら少女の周囲に集まっていく。

 

 

「――ッ!」

 

「グガアアアアアアアアァァァッ!!!!!?」

 

そして少女が指を射つと浮遊した小石の一つが妖魔の体を射ち抜いたのだ。

 

秘伝妖魔術・【魔空(まくう )烈光覇弾(れっこうはだん)

 

 自身の気と周囲の空間に存在する自然エネルギーを周囲の対象に付加する事で凶弾となり得る技だ。

 

 その速度は光速を上回り、この世のあらゆる物質を容易に貫通する程の破壊力を持っている。

 

 そして今の一撃は、今尚数を増やし続ける浮遊した無数の石の一つでしかないのだ。

 

 その中には巨大な岩も存在している為、大抵の者は妖魔に勝ち目は無いと思うだろう。

 

 

「……」

 

 しかし、少女は妖魔を撃たなかった。

 

 止めを戸惑っているのではない。その気になれば一瞬で止めを刺せるが敢えて射たないのだ。

 

 

 少女の目的は妖魔を殺す事であり、それは間違いない事だ。

 

 では、何故射たないのか?

 

 その答えは至極単純、

 

 

『――ウガアアアアアアアアアッ!!!!』

 

「来たね。作戦成功」

 

 

 突如、周囲から妖魔の群れが現れた。

 

 

 少女の目的は妖魔を殺す事に変わりはない。

 

 だが、それは一体のみという訳ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()という物だ。

 

 故に少女は戦っている妖魔を利用して他の妖魔を誘き寄せたのだ。

 

 

「……!」

 

『ギャアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 

 少女は再び魔空・烈光覇弾を放ち、頭や眼といった妖魔でも変わらない急所を小石で潰してから確実に岩で止めを刺す。

 

 しかし、数にも限界はある。

 

 妖魔の群れが80体に対して、残りの岩は20と言った所だろう。

 

 両サイドの数から見ても、四体ずつ一撃で仕留めていけばギリギリ数は足りている。

 

 

(でも、森の妖魔は一匹も残すなって言われてる訳だし、確実に仕留めるには……)

 

 

 そんな事を考えていた時だった。

 

 

「――ん?」

 

 

 妖魔の内の数体が跳躍して距離を取り始めた。

 

 すると距離を取った妖魔の背中が割れていき、中から別の妖魔が現れた。

 

 

「ピギャアアアアアアアッ!!!!」

 

「……」

 

 

 それはまるで、成長した虫のようだ。出現の仕方から見ても、脱皮直後の昆虫その物。

 

 

 そしてその妖魔は、

 

 

「ククククッ!! カカカカカカッッ!!!!」

 

「……ッ」

 

 距離にして数百メートルはあった。

 

 それを妖魔は一瞬、文字通り一秒未満の短時間で妖魔は少女の前に現れた。

 

 妖魔は少女に高速の蹴りを連発し、少女はそれを的確に防御していく。

 

 ――重い。

 

 少女はそう感じた。

 

 一秒に100発以上打ち込んでくるが、一発一発にかなりの重みがある。

 

 決して吹き飛ばされる事は無いが、それでも小さな船や低いビルであれば一蹴りで砕け散るだろう。現に辺りの木々は容易に吹き飛び、大地には巨大なクレーターが出来ている。

 

 しかし、この程度なら手はある。

 

「●●忍法・――【時流踏(じりゅうとう)】――」

 

 

そう少女が呟いた瞬間、

 

 

『グギャアアアアアアアァァァァッ!!!!!?』

 

 

 先程まで烈光覇弾の餌食になっていた妖魔達が一瞬で切り刻まれた。

 

 この技は、自分が普段乗っている時間の流れの波とは異なる時間の波に乗る事で光速をも凌駕した動きが出来る技だ。

 

 少女はその能力を使用し、何処からか自身の剣を取り出して妖魔達を斬殺した。

 

 しかし、脱皮した妖魔は辛うじて付いて来る。

 

 

「正直驚いたよ。 ――でも、ここまでだ」

 

 

 少女は剣を真上に放り投げると同時に、右腕の術を解いて脚に力を込める。

 

すると、両脚が先程の右腕と同じく、禍々しい闇色に包まれる。

 

 違いがあるとすれば、包み込んだのが炎ではなく氷であるという事位だ。

 

 そして氷が砕けると、少女の脚はまるで氷やガラスの様な美しさを持った白い美脚に変化していた。

 

●●秘伝忍法・【生業(なまなり)白凜氷牙(びゃくりんひょうが)

 

 この技は先程の右腕と同様に力を開放する為の技だが、右腕がパワーに対して両足はスピードを飛躍的に増強する事が出来る。

 

「――ッ!」

 

 少女は脚の力を開放した瞬間に走り出し、妖魔を真上に蹴り上げながら自身も上昇していく。

 

 先程まで辛うじてついて来ていた妖魔もまるでついて行けず、成す術もない。

 

 そして少女は、何時の間にか左手に時計の様な物を持ち、それを回して起動させる。

 

魔牙薙(まがなぎ)

 

 起動させた時計から音声が流れる。

 

 少女は時計を脚の近くまで持っていくと、時計は秘伝忍法書に吸収されたかの様に消え、代わりに少女の脚が白から黒に変化していた。

 

秘伝妖魔術(ひでんようまじゅつ)・――【破傷龍魔(はしょうりゅうま)氷刃壊脚(ひょうじんかいきゃく)】――!」

 

 少女がそう呟くと、先程少女が真上に放り投げた剣が少女の手に戻り、脚と同じく闇色の光を放っていた。

 

 そして少女は闇色の斬撃を妖魔に放ち、妖魔が苦しんでいる時を狙い剣を妖魔に突き刺す。

 

 更に少女の背後から闇色の龍の姿をした妖魔が現れ、少女に闇を纏わせる。

 

 すると、少女の近くから無数の氷の刃が出現し、妖魔に刺さったままの剣に誘導される様に妖魔に向かう。

 

 

「――ッ!!」

 

 

 無数の刃に刺された妖魔は既に絶命しているのだが、少女は関係無いとばかりに構えを取り、闇と氷を纏った蹴りを妖魔に浴びせる。

 

 そしてその勢いのまま地面に落下し、辺りの大地は一瞬で凍り付いた。

 

「……」

 

 少女は地面に降り立つと周囲を確認する。

 

 そして誰も居ない事を確認すると、発動していた術を全て解除して軽く溜息を吐く。

 

「――聞いてた数と違い過ぎるよ。 ……依頼を受けた時には精々体って言ってたくせに……」

 

 少女はそう呟くと術を解除した事で元に戻った時計を確認する。

 

 見てみると時計から色が消えていた。

 

「はぁ……またか。……この力、無駄なく持続すればいいのに」

 

 とはいえ、嘆いていても仕方が無いと少女は考え、妖魔の亡骸を回収して森を後にした。

 

 

**********************

 

 

 森を出ると、やはりと言うべきか、待ち伏せていたようにスマホが現れた。

 

 

『お疲れ様でした。如何でしたか?』

 

「聞いていた数と違うよ。80以上は居た。……どうせ解ってたんでしょ?」

 

『無論です。少しでも貴女が気を抜けば面白くなるかと思ったので、ダミー情報を送りました』

 

「……」

 

 

 このFという女は、どうも性根が腐っているらしい。

 

 尤も、如何なる事態にも動揺しないこの女の事だ。結果も全て予測が付いていていた故の行動だろう。

 

 

『まあまあ、そうお気になさらないで下さい。忍上層部も喜んで下さるでしょうし』

 

()は『無忍(むにん)』だよ。上層部が喜ぶとか、特に興味ない。報酬が欲しい」

 

『はいはい。後で送ってあげますから』

 

「……何で急に子供扱い?」

 

『私からすれば殆どが子供みたいな物ですし』

 

「……アンタ、何歳?」

 

 

『それはそうと』

「いや、聞けよ」

 

 

 この女、やはり腐っている。

 

 一度会って心臓を刺すなり頭を撃つなり、一つでも何かしらするべきではないだろうか?

 

 そう思った時だった。

 

 

『貴女は今朝の夢で青い髪の少女を見ましたよね?』

 

「――――」

 

『そしてその少女に、これまでに無い何かを感じた。違いますか?』

 

 

 ……解ってはいたがこの女、やはり只者ではない。

 

 普段の●の心の内をこうも容易く見透かすとは。

 

 

 しかし、この得体の知れなさは何時まで経っても慣れる気がしない。

 

 

「……だったら、何?」

 

『いえ、嬉しいのですよ。そろそろターニングポイントに入ろうとしていますから』

 

「……?」

 

『以前に話したでしょう?貴女に限らず、あらゆる存在は己を大きく変え得る出来事に遭う傾向がある。その中で最も多いのが出会いと別れであると』

 

 

 それは、確かに過去に言われた事だった。

 

 何も持ち得ない●が何かを得る為にはどうすれば良いのか、それを彼女に尋ねた時にそう返されたのだ。

 

 その後、●●を探すという目的とその為の手段を得る事は出来たが、未だに目的は果たせず、空っぽである己の在り方を変える事も出来ていない。

 

 

『私はあの青い髪の少女が、貴女にとっての己を出会いになるのではないかと思っています』

 

 

 しかし、この女の予感が正しければ、まだ可能性はあるのかもしれない。

 

 性根が腐っていると思える女だが、こういった事でまで巫山戯る奴ではないのも確かだ。

 

 

「一応聞くけど、どうしてそう思うの?

 

『今はまだ話せませんが、会ってみれば解るかもしれませんよ。幸い、直ぐ会う事になるでしょうから』

 

 ……どうも、まだ話す気はないらしいが。

 

 

「そう。それで、直ぐ会う事になるっていうのは?」

 

『来ましたよ』

 

「えっ?」

 

 Fがそう言うと、 空から何かが飛んでくる。それ程大きくないが、あれは……

 

 

「……蝙蝠?」

 

 何やら手紙らしき物を持った蝙蝠が此方に向かって飛んで来る。

 

『貴女宛の手紙でしょうね。私を介さないという事は、差出人は上層部ではないようですが』

 

「それじゃあ誰だろう?」

 

『受け取って確認して見て下さい』

 

 蝙蝠が此方の側に近付いてきたので、持っていた手紙を受け取る。

 

 

「えっと、差出人は……うわぁ……」

 

『どうかしましたか?嫌いな人から手紙でしたか?」

 

「いや、苦手なだけで嫌いではないよ。内容は……」

 

 

 

 手紙を読んでいくと、その内容に顔を顰める。

 

 少しすると溜息を吐き、何も無い空間からペンを召喚し、手紙に書いていく。

 

 一通り書き終えたら、待機していた蝙蝠に渡す。

 

「はい。ちゃんと書いたから、これ宜しくね」

 

 

 手紙を受け取った蝙蝠は頷き、再び飛んでいく。

 

 少しして、●も歩き出す。

 

 

「……取り敢えず、()も行かないと」

 

『何処にですか?』

 

「差出人の居る城。行くとは書いたから、それを破る訳にはいかないよ」

 

『律儀ですね。因みに内容は何だったのですか?』

 

「……分かってるでしょ?」

 

『予想は付きますが、お願いします』

 

 何故解っている事を聞きたがるのだろうか。……しかし、先程から太鼓を連打している時みたいな音が聞こえるような……まあ、良いか。

 

 

「送り主からS任務の協力要請。そして引き受けるなら城まで来いってさ」

 

『成程、S級ですか。人格のストックを一ヶ月分にしておいて正解でしたね』

 

「……やっぱり分かってたじゃん。何時もより多いとは思ってたけどさ」

 

『まあまあ、そう言わずに。それで、今回の依頼主は何方ですか?』

 

「……」

 

 ……どうせ言う意味は無いのだろうけど、

 

 

「忍の最高位であるカグラの頂点、『カグラ聖天』の一人である猿帝。アンタも知ってるでしょ?」

 

『ああ、やはり彼でしたか。ええ、知っていますよ。現状では忍界に存在する無数の組織の中で最大の戦力を誇る悪忍陣営の総大将ですね』

 

 ほら見たことか。

 

「はぁ……解ってるなら()が言う意味あった?」

 

『まあ、何人か候補は絞ってましたけど、暇潰し程度の戯れです。しかし、無忍である貴女に声を掛けるとは、中々重要な案件と見えますね』

 

「それならそれで面倒なんだけどね。拍子抜けの任務よりはずっとマシだけど」

 

 

 特に意味の無い会話をしながら、歩いて目的地に向かっていく。

 

 とはいえ、城に着いたら直ぐに任務先に行くであろう事は予想が付いたので、入念に準備をしてから向かう事にする。

 

 そもそも歩きだと時間が掛かり過ぎるし、走ると無駄に体力と『気』を使う事になるので、移動には工夫が必要なのだ。

 

 という訳で、今向かっているのは準備する場所とこの付近の空間を繋ぐマーキング地点だ。

 

 ……実は此処に来る時にもそれを使ってきたのだが、どういう訳かマーキング地点を飛ばして森にまで入ってしまった。

 

 まだコントロールは完璧ではなかったらしい。

 

 

 そんな事を考えていた時だった。

 

 

『――おや、ハイスコア更新です』

 

「……何が?」

 

『太鼓を使った音ゲーをしてたんですけど、最高記録を更新した所です』

 

「……さっきから気になってたけど、アンタずっとゲームしてたのか」

 

『貴女もやってみますか?』

 

「お断りだよ」

 

 

 どうも、この女はかなりのゲーム好きらしい。

 

 毎回毎回、何かしらのゲームの話題を振ってくる。尤も、ゲームに興味を持つ人格になった事は一度も無いので、何が楽しいのかも解らないのだが。

 

 

 ――そして数分後、漸く目的地に辿り着く。

 

『着きましたね』

 

「うん。それじゃあ行ってくるよ、またね」

 

『はい。それでは、道々お気を付けて』

 

 

 灰色のオーロラを通り抜け、目的地である武器屋に向かう。

 

「武器の貯蔵は当然として、影月(かげつ)光日(こうじつ)の力に合う物を見付けないと。後は……」

 

 ――忍の任務の中でも最高峰の難易度とされるS級の任務に挑む以上、生半可な準備ではいけない。準備し過ぎて困る事は無いだろう。

 

 辿り着く前に必要な物についての考えを纏め、戦いに備える。

 

 

 

 

 

 

 

 ――こうして、己を知らぬ『虚飾の忍』もまた動く。

 

 全ては己が何者であるかを知る為に。




という感じで新章開幕です。如何でしたでしょうか。

名前が解らない主人公ですが、その内判明致しますので暫しお付き合いして頂けたら助かります。

また、今回の話では●をかなり使いましたが、この●は主人公の一人称だったり、主人公に取って大事なキーワードだったりします。

そして改めて一言、お待たせして本当に申し訳ありませんでした。

今年は何とか月に一度の投稿を目指していこうと思っていますので。

どうか、今後とも宜しくお願いします。
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