閃乱カグラ 少年少女達の希望と絶望の軌跡   作:終末好きの根暗

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秘立蛇女子学園編のスタートです。

まさか半蔵編よりも先に出来るとは思いませんでしたが、何というか、半蔵編より書いてて楽しいです。

まぁ、チームとしてなら焔達が一番好きだから、別に大丈夫なんですけどね。

本当は1話で終わりたかったのですが、長くなってしまう為、話を別ける事にします。

では、どうぞ。

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秘立蛇女子学園編
第1話 蒼天(そら)(みち)


「――やあ、此方では初めましてかな?」

 

 何処かの世界、何処かの空間。

 

 その空間には無数の時計と無数の本棚、そして無数の本が存在し、そこには一人の青年が本を持ちながら椅子に腰を下ろしていた。

 

 そして、青年は自身の持っている本を開き、その内容を読み上げていく。

 

「――この本によれば、秘立蛇女子学園(ひりつへびじょしがくえん)

 

『悪は善よりも寛大である』という理念を掲げ、悪忍のみを養成している忍学校だ。

 

これより始まる物語は、悪忍である事を選んだ忍学生達の戦いの軌跡である。

 

彼等は 何を思い、何と戦ったのか。

 

悪を選んだ者達は、紅蓮の闇、そしてその先の光輝く蒼天の道を進む。

 

紅蓮の炎の少女、光の竜の青年、そして、蒼き天と醜き魔を持つ少女。

 

彼等が揃った世界では、何かが起こる。

 

そして、その道が何処に繋がっているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――それはまだ 誰にも分からない――」

 

 

 

 

 そこまで読むと、青年は本を閉じる。

 

「さて、その先の物語を知りたければ、君達自身の目で直接確めたまえ」

 

 そう呟くと、青年は何処かへ消えていった。

 

 

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 ――気がつくと、蒼鬼はそこに立っていた。

 

 彼女の目の前には、燃え盛る炎に包まれ、バラバラに崩れ去った蛇女の城があった。

 

「――えっ?」

 

 目に映った光景もそうだが、気付けば辺り一面に尋常ではない妖気が渦巻いている。

 

『――■■■■■■■■■!!!!!』

 

 

 蒼鬼は呆然と立ち尽くすが、突如として鼓膜が破けるかのような大きな爆音が聞こえてきた。

 

 それはまるで赤ん坊の泣き声の様な咆哮だった。

 

「こ、この声は?……ッ!?」

 

 蒼鬼は声の聞こえた方角を向くと同時に、突然竜巻が発生した。

 

 蒼鬼は、地面に刀を刺し何とか堪えたが、少しでも気を抜くと突風に巻き込まれる。

 

 声の聞こえた方角を見ると、視界には更に異常な光景が映った。

 

「――ッ!? あれは一体……?」

 

 城の瓦礫の中から、禍々しい紫色の光が放出し、光に釣られる様に瓦礫が浮かび上がっていく。

 

 そして浮かび上がった瓦礫は、徐々に集まり形を成していく。

 

 集まる瓦礫は人の様な形を作り、辺りには血の付着した刀が宙を舞い瓦礫と混ざっていく。

 

 そして形が完成し、それは姿を現した。

 

 

 それは天にも届こうとする巨人だった。

 

 ――いや、巨人などという表現は大きな間違いかもしれない。

 

 体からは腕とも首とも取れる正体不明の物質が何本も伸びている。

 

 ――いや、分からない訳ではない。

 あれは先程まで宙を舞っていた刀だ。

 

 しかし、体の所々が不完全で皮膚が腐って落ちるように、瓦礫がボロボロと剥がれていく。

 その巨人、いや怪人は上半身のみでまだ下半身が形成されていないのに、無理矢理立ち上がろうとしている。

 

 ――すると片足が崩れてしまい、怪人は前のめりに倒れていく。

 ついた両腕も崩れて、怪人は瓦礫に沈んだ。

 そして崩れ去った体が再び瓦礫を引き寄せる。

 

 

 舞い上がった瓦礫が怪人に吸い込まれ、小山の様な体の表面を覆う。

 

 ――そして亀の様な長い首が伸びると、頭部の口の中には、

 

「……あれは、まさか……顔……?」

 

 

 ――怨念に歪んだ人の顔が幾つも覗いていた。

 

 

 

 ……そして、突然竜巻が止むと。

 

『――■■■■■■■■■!!!!!』

 

 血が凍り付く様な爆音とも取れる咆哮が、辺り一面を貫いた。

 先程よりもハッキリ聞き取れた為、やはり赤ん坊の様な声だと感じる。

 

 ――それも、地獄で産まれたかの様な

 とても醜く、悲しい声だと。

 

『わ、わ、ワ、ワ、我は、お、お、オ、オ、――■■■』

 

「――え?」

 

 化物が自分の名前を伝えたのだろうが、ノイズが掛かったように雑音に変わり、名前を聞き取れない。

 

『……わ、わ、ワ、ワ、我は、す、す、ス、ス全ての物質を、は、は、ハ、ハ、破壊する――

 

 全ての命を奪い、し、し、シ、死、死を……

 全ての魂を、む、む、ム、無、無に……

 

 ただ、それだけの……そ、そ、ソ、ソ、存在――』

 

「……全ての命に死?……一体何を――」

 

 ――するつもりですか。

 

 そう言おうとした瞬間に聞こえた怪人から妙な言葉が聞こえてきた。

 

『お、お、お、お前は、わ、わ、ワ、ワ、我と、■、■、■、■、■■■、■■■■』

 

「え……?」

 

 しかし再びノイズが掛かり、聞き取れない。

 

『――■■■■■■■■■!!!!!』

 

「――ッ!?」

 

 そしてそれを、この怪人は気付いていないのか、或いはどうでも良いのか、蒼鬼に襲い掛かった。

 

 咄嗟に身構えようとするが、間に合わない。

 

 

 

 

 ――殺られる。

 

 

 

 

 ――そう考えた時に、意識は戻った。

 

「ッ……夢ですか……」

 

 蒼鬼は目を覚ますと時計を見る。

 

 時刻は午前四時を指していた。

 

 昨日は今日からより厳しい修行内容になると聞いたので早めに寝付いたのだが、まさかあんな悪夢を見るとは……

 

 

 

「――? あんなって、どんな夢でしたっけ?」

 

 記憶が抜けている。

 

 感情は残っているというのに、記憶が続かないとは一体どういう事だ?

 

 昔からたまにある事だが、最近は何故か頻繁に起こる様になった為、妙に落ち着かない。

 

 何故だか悪夢に魘されて、目が覚めると悪夢の記憶が抜けているのだ。

 

「……まぁ、恐らく大丈夫でしょう。 記憶に残っていないなら、その時限りという事もあり得ます」

 

 蒼鬼はそう言って納得すると、着替えを済ませて寮を出る。

 

 

**********************

 

 ――忍の朝は早い。

 

 忍学生とはいえ、生活の基本は一人前の忍と何ら変わらない。

 

 それも、忍学生だけを養成している蛇女子学園なら尚更だ。

 

 加えて私は、選抜メンバー兼監督生という立場についているのだから、サボるなど言語道断である。

 

 そして訓練場に赴くと同時に、自分の手足に拘束の忍術を掛けて体を重くする。

 

 両手に一つずつ、両足に一つずつ水の錠を掛けるという物だ。

 

 ……誤解のない様に言うが、これは修行の一貫であって、断じて彼女の趣味ではない。

 

 こんな物を趣味にするのは、余程ドMでない限りあり得ない。

 

 それこそ二丁拳銃を使う、バレリーナ擬きの服を着た金髪のドM娘くらいである。

 

 この修行は、実戦で素早さを上げる為に必要不可欠な物だ。

 

 因みに錠は一つ150キロの重さであり、計算上彼女は600キロの重りを付けている事になる。

 

 そして、重りを付けてどんな修行をするのかというと……

 

「木偶人形達の準備も出来た様ですね。

 

――では、始めます!」

 

 そう言うと蒼鬼は走り出した。

 

 この修行は、600キロの重りを付けながら15キロを往復し、蒼鬼を狙う150体の木偶人形の攻撃を無傷で掻い潜り、更に1キロ毎に木偶人形を15体ずつ倒していくという物だ。

 

 因みに、木偶人形は蒼鬼が寮を出る前に影分身を行い、用意していた。

 

 木偶人形は主に蒼鬼と春花が強化し、防御力が上がっている他、相手の隙を狙う等のそれなりの考えを持って攻撃してくる為に、容易には倒せない。

 

 秘伝忍法を当てれば倒せなくはないが、この木偶人形は秘伝忍法の発動前や発動後を的確に狙う様に改造されている為、それも容易ではない。

 

 そして、木偶人形の1体が背後から蒼鬼に向かって飛び蹴り出す。

 

水遁(すいとん)水陣壁(すいじんへき)!!」

 

 蒼鬼が素早く印を結ぶと、蒼鬼の背後に水の壁が形成され、木偶人形の攻撃を防いだ。

 

 更に蒼鬼はクナイを出し、木偶人形に向けて構える。

 

「水遁・スイレイハ!」

 クナイから水の弾丸を発射し、木偶人形の5体に直撃、その内3体を仕留めた。

 

 残りの2体はまだ動くが、ここでも更に術を使う。

 

雷遁(らいとん)蛇雷(へびみかづち)!!」

 

 蒼鬼は飛び上がると同時に、蛇の姿をした雷を発射し、木偶人形に直撃する。

 

 当たったのは12体、その内7体を仕留めたが、残る5体には余り効いていない。

 

「――成る程。 春花さんが言っていた忍術耐性の強い木偶人形ですか……」

 

 春花は傀儡の術を使うが、その科学力もかなりの物であり、木偶人形の内の何体かは忍術に対する耐性をかなり強めたと言っていた。

 

 恐らくあの5体がその強化体なのだろう。

 

 確か以前「私の科学力は蛇女一!」みたいな事を言っていた気がするが、確かな様だ。

 

「私も多少なら機械弄りは出来ますが、まさか彼処までとは……流石春花さんですね」

 

 ――などと、感心してはいられない。

 

 空中にいる間を木偶人形が狙っている。

 

 忍術の効果が薄い以上は、体術でいくのがベストだろう。

 

 蒼鬼は愛刀の鬼刃を出すと共に木偶人形に向かって投げつけた。

 

 凄まじいスピードの為、木偶人形は飛んでそれを交わすが、それが間違いだった。

 

「ハアッ!!」

 

 蒼鬼が何時の間にか鉄球を出し、木偶人形達に叩き付ける。

 

 木偶人形達は文字通りバラバラになり、完全に動かなくなった。

 

「ふぅ――ッ!?」

 

 蒼鬼が着地して本の短い、一秒前後の溜息のタイミングを狙い、木偶人形が口からクナイを連射した。

 

 蒼鬼も流石に早いと感じたのか、一瞬だけ動揺するも直ぐに立ち直る。

 

 そしてクナイを回避すると風を使い着地する。

 

 

「……油断大敵とはこの事、私もまだまだ未熟その物ですね。

――さあ、次です!」

 

 そう呟くと蒼鬼は修行を再開した。

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 ――それから1時間後。

 

「ふぅ……何とか達成しました」

 

 ――1時間で何とか修行を終えられたが、やはりまだまだ甘い。

 

「秘伝忍法を5回使用し、その内1回は耐えきられ、忍術で辛うじて討伐、忍術を使用したのは優に30回以上――まだ改善が必要ですね」

 

蒼鬼は、予め容易していたノートに修行の結果と改善点を記入する。

 

「まだあと30分はありますね。 雑草抜きと花壇の花の水やりをそうですね――

 

 

 

――800キロの重りつきで行っておきましょう」

 

そう言うと蒼鬼は即座に印を結び、水の錠の重さが更に上がった。

 

「詠さんの家庭菜園のスペースは何とか頂けましたし、これくらい許して下さるでしょう。

 

――さてと、始めますか」

 

蒼鬼は雑草抜きから始めるが、これも適当には行っていない。

 

実は雑草の中には極希に、忍がよく使う治療用の薬草や猛毒の薬草が混じっていたりする為、しっかりチェックしているのだ。

 

とはいえ、呑気にチェックしていては時間が掛かり過ぎる為、これもハイペースだ。

 

それを態々、800キロの重り付きでやっているというのだから、この少女は何処か可笑しい。

 

そして、15分後に雑草抜きを終えると、今度は花壇の水やりである。

 

――しかし、またしても蒼鬼は修行を行う。

 

水やりを自分の水遁でやろうというのだから、感心を通り越して呆れる。

 

しかも、両が少ないと水やりが間に合わず、多過ぎると水浸しは愚か、花が荒れてしまう為、かなりのコントロールテクニックがいる。

 

「余り時間も無いので、慎重に急ぎます!」

 

などと、よく分からない言葉で気合を入れると、蒼鬼は水やりを始めた。

 

15分後。

 

「ふぅ……何とか時間に間に合いましたね」

 

 時間内に学園内の花壇全ての水やりを終えていた。

 

そして蒼鬼は何を基準に終わらせ様としたかと言うと……

 

「シャワーで汗を脱がして、朝食をしっかり取っておきましょう」

 

 そう言うと蒼鬼は寮に戻っていった。

 

 凄まじいまでのスケジュール修行だが、実はこれまでの修行は彼女の修行ノルマ前の自主トレの一貫でしかないのだ。

 

 蒼鬼は学園での修行ノルマを終えると、今と同等以上の修行を必ず行っている。

 

 これだけでも限界近く疲れるだろうが、蒼鬼は監督生という立場上、選抜メンバーを初めとした生徒達の強化、更には書類の整理など仕事が山積みなのである。

 

 それを嫌な顔一つせずにこなしているというのだから、彼女に頼み事など、彼女の苦労を知る者は中々出来ない。

 

 因みに修行は素早さと咄嗟の判断力、術の威力の調整などの幅広い効果を得る為、特化ではなく全体的な向上には打ってつけだったりする。

 

 無論、誰にでも出来る修行ではない。

 

 水の重りは重さを上げ過ぎてしまうと、最悪の場合は死ぬ。

 というのも、重さの調整にはかなりのチャクラコントロールが必要となる。

 

 発動中に一瞬でも気を抜けば、チャクラが切れない限り何時までも重さが上がってしまう事もある。

 

 無論逆に下がってしまう事もあるが、その場合は重りの形を形成出来ず、修行にならない。

 

 そもそもこの術自体が膨大なチャクラを必要とするのでチャクラ量の少ない者はどの道出来ない。

 

 尤も、他者に掛けてもらうという手段もあるにはあるが、それもまた術者が対象の状態をしっかり把握できていなければ対象の者が死亡する事も少なくない。

 

この修行法は、水のチャクラ性質、水の錠の重さを常に一定量に保てるチャクラコントロール、そして長時間維持の為の膨大なチャクラ、その三つを合わせ持った者が居なければ、到底不可能な物だ。

 

そして蒼鬼は、その条件の全てを満たし、自分一人の力で持続させている。

 

他の選抜メンバーは誰一人、それこそ光牙や焔であっても出来ない。

 

但しそれは、蛇女の選抜メンバーで水のチャクラ性質を持っているのが蒼鬼だけだからであり、今の選抜メンバーなら重さに差はあるだろうが、水のチャクラ性質さえ持っていれば全員出来るだろうと蒼鬼は考えている。

 

 

――そして、それから30分後。

 

「ふぅ……サッパリした事ですし、今日の朝食を取ってから昼食用の弁当を私と詠さんの二人分、

 

――それから午後の勉学に必要な物の準備をしておきましょう」

 

寮の自室のシャワーで汗を流した蒼鬼は、影分身を行い、作業に取り掛かった。

 

まず最初に朝食を食べる。

 

今日の朝食は、ハムエッグトーストとコーンスープ、林檎ジュースである。

 

と言っても、余り時間がない為、なるべく手短に食事を済ませる。

 

――そして、朝食の後は昼食の準備だ。

 

詠は今月はお金がピンチと言っていた。

 

そして、今日からは、より過酷な修行を行うと予め聞いた為、詠はお腹を空かせるに違いない。

 

そう思った蒼鬼は詠の分も昼食を作る事にしたのである。

 

――尚、選抜メンバーは全員が料理スキルを備えており、子供っぽいと見られがちな未来や好きな物が無いと言っていた日影は勿論、もやし命の詠も例外ではない。

 

それに、詠の作る料理はもやしありきりの料理が殆どではあるのだが、味は確かである。

 

そして蒼鬼の料理の腕前は、メンバー全員が舌を巻く程の物である。

 

特に以前、蒼鬼の好物である林檎を使ったフルコースをメンバーに振る舞い、全員が美味しいと声を上げ、日影と光牙を除くメンバー(特に詠)はそれはもう、幸せそうな顔をしていた事は記憶に新しい。

 

そして更に、蒼鬼は監督生として、選抜メンバーを含む生徒達の勉学の指導を行っている。

 

更に言えば、蒼鬼の蛇女子学園での座学の成績は断トツである為、本人の頭脳も指導する上では全く問題がないのだ。

 

――そして、全ての準備を終えると共に、蒼鬼は寮を後にした。

 

 

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 ――そして、時刻は午前7時。

 

「――あっ、おはよう蒼鬼」

 

「蒼鬼さん、おはようございます」

 

「未来さん、詠さん、おはようございます」

 

 蒼鬼は選抜メンバーの忍部屋にて、軽く挨拶を済ませていた。

 

 焔と光牙は武器の手入れを、春花は傀儡のメンテを、日影は日向ぼっこをしている。

 

 未来と詠は、何やら小声で打ち合わせをしていて、蒼鬼に気付くと真っ先に挨拶した。

 

「今日も朝から長時間修行?」

 

「はい。 日課ですから」

 

 蒼鬼は当然の様に答えるが、未来はそれを少し心配していた。

 

 朝の修行自体は自分も欠かさず行っている為、余り強く言っても効果はないが、それにしても蒼鬼は詰め込み過ぎだ。

 

 このままでは倒れるかも知れない。

 

 そう思った未来は、少しでも彼女の負担を減らそうと説得を試みる。

 

「ねぇ、蒼鬼。幾ら何でも詰め込み過ぎじゃない?焔や光牙だって修行の量は同じかも知れないけど、アンタには監督生って立場があるんだし、もう少しくらいは楽しても良いんじゃ――」

 

「――いえ、そうはいきません」

 

「……即答。でも、どうして?」

 

 

 

未来からしてみれば、そこまで詰め込む理由はないと思うのだが……

 

「私には絶対にやり遂げなくてはならない事があります。その為には、多少の無理はしても気にしてはいられません」

 

蒼鬼は意外に頑固な所がある。

 

未来はよく知らないが、何でも先代の選抜メンバー筆頭の蛇女子学園を最強の忍学校にするという志の為らしいのだが……

 

「はぁ……キツくなったら言ってよ?

 

――私達は仲間なんだし」

 

取り合えずは、困った時にヘルプとして呼ぶようにだけは伝えておく。

 

これで少しは、蒼鬼が楽になれると良いのだが……

 

 

 

「……はい。分かりました」

 

少しだけ間があったが、取り合えずは納得したらしい。

 

そんなやり取りをした時、忍部屋のエレベーターが到着した。

 

そして中から現れたのは――

 

「あっ!籠鉄さん、お帰りなさい」

 

「よっ!今戻ったぜ」

 

選抜メンバーの一人、二年生の篭鉄という少年だ。

 

トゲのある銀髪と、頭のバンダナ、そして海の様に広い心が特徴的な少年だ。

 

鋼の術と炎の術の使い手で、自身を硬化する事も、鋼を使って相手を拘束する事も可能とする、自由度の高い術を使う。

 

因みに籠鉄のバンダナは籠鉄の持つとある能力を封じる為の物だ。

 

バンダナを外すとかなり面倒な事になるので、選抜メンバーは篭鉄になるべくバンダナを外さない様に注意している。

 

「抜忍の捕縛任務、お疲れ様でした。 籠鉄君」

 

「おう。サンキュー、蒼鬼。 でもまぁ真司蛇の方が上手くやってたんだけどな!」

 

「いえ、籠鉄君は篭鉄君で、真司蛇君は真司蛇君ですから、余り気に病む必要はありませんし、誰も気にしませんよ」

 

「そっか。サンキュー!」

 

蒼鬼の労いの言葉を素直に受け取り、眩しい笑顔で答える籠鉄。

 

籠鉄はハッキリ言えば、選抜メンバーの中でも最も懐の広い男だ。

 

困った時の相談にも乗ってくれる為、光牙以外は彼を頼りにしている。

 

「俺達が居ない間には何かあったか?」

 

「あっ、それなら、昨日の組手で焔が光牙をかなり追い詰めたよ」

 

「うおっ!マジでか!?詳しく聞かせてくれよ、未来」

 

籠鉄は焔や光牙程ではないが、かなりのバトルマニアだったりする。

 

昨日の光牙と焔の戦いに興味が沸いたらしい。

 

「マジか……凄えな焔の奴。――よし、久々に組手でも頼むか!」

 

「まぁまぁ……籠鉄さん――あらっ?」

 

戦いたい篭鉄を詠が落ち着かせると、再びエレベーターが到着した。

 

「あっ! お帰りなさい真司蛇さん」

 

「――ああ。 今戻った」

 

選抜メンバー最後の一人、三年生の真司蛇という少年だ。

 

未来と同様に紺色に近い髪、焔よりも少し短いポニーテールが特徴的だ。

 

彼は写輪眼という瞳術を持つ、特別な家系の忍だ。

 

尤も、彼の一族は数年前に殆ど滅んでしまったのだが。

 

「ねぇ、真司蛇。どうだった?今回の任務は」

 

「手応えがなかった、と言いたい処だが

 

――籠鉄がいなければ危なかったな」

 

未来が真司蛇に任務の感想を尋ねると、真司蛇は苦無を噛み潰した様な表情をする。

 

どうやら思う様な結果は得られなかったらしいが、直ぐに表情を変え、籠鉄を評価する。

 

「そ、そうか?……サンキュー」

 

篭鉄は少し照れ臭いのか、軽く頬をかく。

 

「――全員揃っているな?」

 

気付けば、忍部屋に鈴音が入っていた。

 

まるで気配を感じなかったが、その点は流石教師の中でも1、2を争う実力者だと言えるだろう。

 

「今日からの訓練は、個人戦ではなく連携を行う為のチーム戦を重点的に行う」

 

「チーム戦だと?」

 

光牙は首を傾げる。連携の修行は今まで何度か行った事があるが、チーム戦の経験は無かった。

 

「そうだ。お前達には3人1組のチームを3つ作り、サバイバル戦を行ってもらう。

 忍は個人の実力もだが、任務は基本的にチームで行う為、如何に連携出来るかが鍵となる。この訓練は連携力を向上させる為の物だ」

 

「……了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

「それじゃあ、皆でクジを引きましょうか。このクジの中で赤、青、白が同じチームよ」

 

全員で春花の用意していたクジを引き、チーム訳をする事になった。

 

クジには赤の印と青の印、そして色無しである白が3つずつある。

 

その結果、焔、籠鉄、光牙が赤。蒼鬼、詠、未来が青。春花、真司蛇、日影が白を引き、上手くチームに別れた。

 

「では、この3チームで競い合ってもらう。それぞれ指定場所に集合、合図があるまでは待機していろ」

 

『はい』

 

「了解した」

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 蒼鬼達、青チームの指定場所は天守閣付近にある橋だ。

 そして、3人とも集まったのを確認すると――

 

 

「――さてと、指定場所には着きましたので、勝利条件の確認をしましょう」

 

「うん。各チームに三つずつ渡された天と地と海の巻物を相手チームから奪って天と地と海の全てを揃えるか、相手チームの全滅か、だったよね」

 

「――となると、どちらの勝利条件を目指すかが鍵になりますわね」

 

 先ず最初に行うのは、勝利条件の確認だ。

 

 忍は任務開始の前に必ず何度か任務の内容を確認する。

 

 今回のルールは、各チーム毎に渡された巻物を全種類揃えるか、相手チームの全滅の二択だ。

 

因みに蒼鬼達は海、光牙達は地、春花達は天と1チームに同じ巻物が3つずつ渡されている。

 

「正直に言えば、チーム全体の戦力を考えると、強さだけなら光牙君達のチームが一番でしょう。

 

――正面戦闘では倒しにくいでしょうし、春花さん達のチームも全員が三年生です。

戦闘以外の心得もある筈ですから、奪うにしても容易ではないでしょう」

 

 そして、相手の戦力を分析し、如何に優れた策を練るか。

 

 これは一つ間違えば仲間の全滅も有り得る為、絶対に怠る訳にはいかない。

 

「じゃあ、相手チーム同士をぶつける?」

 

「……それも難しいでしょう。能力相性から考えて、真っ先に私達が狙われると思います」

 

「では、分散して不意打ちを狙いましょうか?」

 

「……不意打ちは、春花さんのチームに真司蛇君が居るので、恐らく効きません。

 

――光牙君のチームにも、焔さんや光牙君なら、戦いに集中している時を狙えば可能性はありますが、失敗して篭鉄君に捕まれば一貫の終わりです。

――ですが分散に関しては同意見です。全員纏めてやられたら、それこそ意味がありませんからね」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「…………」

 

 蒼鬼は素早く頭を回転させる。能力や実力から考えて分散は多少リスクが高いが、その分成功した時の勝率は上がる。

 

 となると、人員の配置が大事だ。

 

 

 

 ――――。

 

 ―――――――。

 

 ――――――――――。

 

 

――やはりここは

 

「お二人供、策を思い付きましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 ――蒼鬼達が策を練る一方で、春花達白チームは春花を中心として策を練っていた。

 

「やっぱり相手で特に厄介なのは、蒼鬼ちゃんと光牙君の二人ね。

 ――他の皆も勿論強いけど、能力や底の知れなさから考えても、あの二人は特別厄介よ」

 

「だろうな。それでどうする? 罠を張るにしても二人には恐らく通じないぞ。 日影も能力的に光牙との相性は悪いしな」

 

「せやな。 儂も光牙さんが相手やと、足止めも大して長続きしない気がするで」

 

 日影は愛用のナイフを使い、高速で動きながら相手を仕留める戦闘スタイルだ。

 その一方で、遠距離持ちで攻撃力も高く、更には素早さも兼ね備えた光牙は、ハッキリ言えば日影の天敵その物だ。

 

 態々挑むのは愚の骨頂。

 

 

「確かにその通りね。実力的にも光牙君の足止めは真司君がベストだとして、蒼鬼ちゃんは私と日影ちゃんの二人掛かりでいきましょうか」

 

「了解や」

 

「だがそれなら焔達はどうする?」

 

 

 

 ――すると春花は薄い笑みを浮かべる。

 選抜メンバー内では付き合いの長い真司蛇と日影は、何となくではあるが春花の考えている事が表情から見て取れる。

 今回はどうやら、しっかり対策は考えてあるという意味らしい。

 

「心配しなくても大丈夫よ。 私にも取って置きの拘束術があるから。成功すれば、他の皆も止められる筈よ。だからその代わり、そっちはお願いね」

 

「解った」

 

「了解や」

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 ――同時刻の光牙達の赤チーム。

 

「本当にこれで大丈夫なんだろうな?」

 

「当たり前だ。お前と一緒にするな」

 

「な、何だと!?」

 

「張り合うな こんな時に!!」

 

 何やら術を仕込んでいるらしい。

 しかし、焔と光牙がよく張り合う為、度々籠鉄が止めているという状況だ。

 

「……まぁ、良いだろう。私には口寄せ以外の時空間忍術は使えないしな」

 

「それでいい」

 

「ハァ……やれやれだぜ――ん?」

 

 何とか状況が収まった瞬間、空に始の文字が浮かんだ。

 あれは、忍が仲間を集める為に使う信号弾だ。

 そして始の文字という事は――

 

「始まったか――行くぞ」

 

「っしゃあ!」

 

「勝つのは私達だ!」

 

チーム戦開始の合図だ。

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

『――日影ちゃん。そっちはどう?』

 

「まだや。誰も見当たらん」

 

チーム毎に無線を人数分渡されている。春花達は無線の通信で、常に状況把握を図っている。

 

『真司蛇君は?』

 

『まだ捜索中――いや、未来と詠を見つけた』

 

『状況は?』

『ッ……近くに光牙が居た。どうやら光牙とやり合うつもりらしい』

 

『……光牙君は恐らく気付くわね。真司蛇君。戦いに乱入して最低でも光牙君の足止め、可能なら殲滅して』

 

『了解した』

 

 状況を把握し、短時間で指示を出す春花。

 

 それもその筈、彼女は蛇女の中でもトップクラスの頭脳を持っている。

 

彼女の高い状況判断能力は、任務でも大いに役立つ事だろう。

 

「――春花さん、見つけたで。 蒼鬼さんや」

 

『他には誰か居る?』

 

「後は焔さんや。 籠鉄さんは見当たらんのう」

 

『そうねぇ――私も行くからバレたら足止めしておいてもらえる?』

 

「了解や」

 

日影が通信を切った瞬間――

 

「ハアッ!」

 

「ッ!?」

 

焔が正面から斬りかかって来た。

 

日影も飛び上がり回避する。

 

「チッ!――流石だな日影」

 

「焔さんこそ――何時から気付いとったんや?」

 

「蒼鬼がやけに余所見するからな……嫌でも気になるさ」

 

「――成る程なぁ。蒼鬼さんのお陰か」

 

「う、五月蝿い!……とにかくだ。 お前達を倒させてもらうぞ!!」

 

「――倒される気は更々無いけどなぁ」

 

日影はナイフを構える。

 

焔も六爪を構える。

 

しかし、この場に居るのは二人だけではない。

 

「水遁・スイレイハ!」

 

『ッ!』

 

二人は素早く回避する。

 

「――やはりこの程度の不意打ちは効きませんか」

 

蒼鬼もまたクナイを構えていた。

 

そして3人とも巻物を出す。

 

奪い合う為の物ではない。

 

勝負に使う為の『秘伝忍法書(ひでんにんぽうしょ)』である。

 

(しのび)転身(てんしん)!!』

 

忍転身とは、忍が持つ本来の力を発揮する為に必要な技。

 

衣装を自身のイメージした物に変換し、更にはダメージを軽減出来るという防御に秀でた能力だ。

 

無論攻撃力も上昇し、正に忍が戦う為には不可欠な能力なのだ。

 

そして3人は忍転身を終える。

 

因みに蒼鬼の忍装束は、蛇女子学園の制服を長袖にし、その上にフード付きの青いコートを重ね着し、赤いマフラーを巻いているという、何処ぞのヒロインXのコピーの少女と似た様な服である。

 

「フン。 ――行くぞ!!」

 

「望むところや」

 

「参ります!」

 

3人は一斉に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――その一方、此方は未来&詠と光牙、真司蛇の三つ巴の戦い。

 

「秘伝忍法・――【ヴァルキューレ】――!!」

 

「チッ!」

 

 

どうやら現在は連携しながら戦っている未来達が有利の様だ。

 

未来はスカートの中から黒光りする鈍器を出し、大砲を乱射する。

 

光牙は辺りの木々を上手く使い、未来の秘伝忍法を回避する。

 

火遁(かとん)豪火球(ごうかきゅう)の術!!」

 

雷遁(らいとん)竜雷刃(りゅうらいじん)!!」

 

真司蛇の火遁を光牙は竜の姿をした雷遁の刀で切り裂く。

 

「流石だな、光牙。

 

――秘伝忍法・――【千鳥(ちどり)】――!!」

 

真司蛇が左手の掌に雷のチャクラを練ると、青色の雷が真司蛇の左手に宿った。

 

「ッ!?――光遁(こうとん)影分身(かげぶんしん)!」

 

光遁・影分身は通常の影分身よりもチャクラを多用するが、その分強力な分身となる。

 

――しかし、真司蛇の千鳥は光牙の分身を容易く消していく。

 

更に凄まじいスピードで光牙に接近する。

 

光牙も素早く矢を連射するが、千鳥によってスピードが上がり、更に写輪眼で相手の動きを見極める事が可能な為、光牙の攻撃を全て回避する。

 

「ハアッ!!」

 

「ぐあっ!!?」

 

真司蛇の突きが光牙の胸部に直撃する。

 

流石の光牙もこれには応えたのか、胸部からはかなりの血が流れている。

 

――しかし、敵は自分達だけではない。

 

「秘伝忍法・――【ニヴルヘイム】――!!」

 

詠が両手のボウガンから手裏剣やクナイ、大砲を発射し、二人を狙う。

 

真司蛇は瞬時に察知し、飛び上がる事で辛うじて回避するが、光牙は避け切れないと判断し、盾を形成して可能な限り防ぐ。

 

しかし、パワータイプの詠の秘伝忍法は遠距離型でもかなりの威力を誇る為、防ぎ切れずダメージを受ける。

 

一方で、真司蛇は光牙と詠を狙おうと、火遁を構え、吹き飛んだ。

 

「――ガハッ!?」

 

 未来が真司蛇を背後からバズーカタイプの傘で撃ったのだ。

 

写輪眼は発動しているだけでチャクラを使う。その為、少しでもセーブして使わなければ消耗が激しくなる。

 

 故に真司蛇は飛んだ僅かの時間に写輪眼を切った。

 

しかし、今のは殆ど一瞬の出来事だ。

 

その一瞬の隙を、的確に気付かれる事なく突くとは……

 

 

 

「……随分成長したな、今のは効いたぞ未来」

 

「当たり前よ!私だって蛇女の選抜メンバーの一人なんだから!」

 

そう言うと、未来は再び真司蛇目掛けて銃弾を乱射する。

 

 今度はガトリングタイプの傘だ。

 

 威力はバズーカより落ちるが、連続攻撃で怯ませるには有効的だ。

 

 真司蛇は写輪眼を駆使し、紙一重で回避していく。

 

「――(わたくし)も居ることをお忘れなく」

 

 詠が真司蛇の背後から、大剣で斬りかかる。

 

 真司蛇も愛刀のチャクラ刀『草薙の剣』を使い防御を図るが、相手は蛇女屈指のパワーファイターの詠だ。

 

 徐々に押され始める。

 

 だが、真司蛇も手をこまねいている訳ではない。

 

「秘伝忍法・――【千鳥刀(ちどりとう)】――!!」

 

 千鳥を草薙の剣に流し、貫通力を高める術だ。

 

 詠の大剣を切り落とそうとする。

 

「秘伝忍法・――【シグムンド】――!!」

 

しかし、詠もこれを読んでいたかの様に秘伝忍法を発動する。

 

大剣を巨大化させ、更に風のチャクラを纏わせる事で、絶大な威力となる。

 

 ――そして2つの秘伝忍法が激突し、互いに吹き飛んだ。

 

 しかし、元々のパワーの差が激しいせいか、詠は精々数メートルだが、真司蛇は数百メートル先まで吹き飛ばされる。

 

 そして互いの斬撃で、詠は肩から、真司蛇は胸部から血飛沫を上げる。

 

 ――更に真司蛇は、吹き飛ばされた勢いで巻物を落としてしまう。

 

 詠は直ぐ様巻物を回収すると共に即座に医療忍術を使い、傷の治療を行う。

 

 しかし、詠は先程のダメージで光牙が暫くは動かないだろうと予想した為、一瞬だけ反応が遅れた。

 

「秘伝忍法・――【輝迅】――!!」

 

 光牙はその隙を逃すまいと秘伝忍法を放つ。

 

「秘伝忍法・――【ヴァルキューレMAX】――!!」

 

 だがそれを察知した未来が、先程とは違い一点集中型の威力を高めた一撃を放つ。

 

 光牙の秘伝忍法と相殺し、大爆発を引き起こす。

 

 未来、光牙、詠が爆発で吹き飛ぶが、全員が直撃を回避した。

 

「……予想以上に強くなったな。正直、お前達にここまで手間取るとは思ってもみなかった。これも蒼鬼との訓練のお陰か?」

 

「はぁ!?サラッと失礼な事言うわね!!」

 

「み、未来さん、一旦落ち着いて下さい。……ですが、確かに私達の成長は蒼鬼さんのお陰と言えますわね」

 

 光牙にとっては、蛇女子学園の選抜メンバーはハッキリ言えば弱かった。

 

 それは選抜メンバー筆頭の焔も例外ではない。戦った中で言えば、マシなのは真司蛇くらいだ。

 

 しかし、蒼鬼だけは自分の全力を披露せずに生徒達の育成に仙念している物だから、焔達も強くなると予想自体は出来た。

 

 ――だが、流石に幾ら何でもここまでとは予想出来なかった。

 

 焔の時と違い、二人掛かりというハンデはあるが、それを差し引いてもこの短期間の焔達の急成長速度は異常その物だ。

 

 光牙の実力は並の忍とは格が違う、下手なプロの忍よりも数段は強い。

 

 それもその筈、何故なら光牙の父親は、忍の最高称号のカグラを持つ忍を除けば、世界中の悪忍の中でも五本の指に入る実力者なのだから。

 

 光牙は子供の頃から、姉と共に命を掛ける訓練を行ってきた。

 

 それこそ光牙は年齢的にも、選抜メンバーの中の誰よりも実戦経験を積んでいる筈だ。

 

 だが、最近の焔達はそれを覆しかねない成長を見せている。

 

 故に一体どんな修行をさせたのか尋ねた。

 

 そして蒼鬼は言った。

 

 

 

 

 

 

『強くなっているのは、あくまでも焔さん達本人です。そこに私は関係ありません。

 

 

――ですが、もしかしたら仲間と一緒に修行した事も影響しているかもしれません。

人間が一人のままで辿り着ける場所はたかが知れてる。

 

だからこそ人は、家族や友、そして仲間と共に成長して強くなれるのだと、私は思います。

 

一人で強くなれる人は確かに居るかも知れません。

 

しかし、一人で居るという事は、同時に孤独に襲われ、耐え続けなくてはなりません。

 

……私も以前はそうでしたから。

 

だからこそ、今では友や仲間の有り難みを知る事が出来ました。

 

私が見た限り、光牙君は馴れ合いを好まない様に振る舞ってはいますが、時々とても寂しそうな目をしています。

 

――光牙君も、私達と一緒に修行してみてはいかがですか?』

 

 

 

 

 

 ――巫山戯るな。

 

 光牙は内心、僅かに怒りを抱いた。甘い事を蒼鬼に、そして自分の不甲斐なさに。

 

 確かに俺は強者との戦いを望むが、それは決して負けたいと思っている訳ではない。

 

 あくまで俺が望むのは、強者と戦い勝利し、俺が強くなる事だ。

 

 ――俺はあの力を制御する為に、そして妖魔共を一匹残らず皆殺しにする為に、幼い頃から姉さんと共に厳しい訓練を行い、経験を積んできた。

 

 姉さん以上とまでは言えないが、それでも成長して強くなった筈だ。

 

 だと言うのに、この現状は何だ?

 

俺はカグラになり、妖魔を殲滅するという目的を持っている。

 

二年前の事件以降は、余計な物は捨て去ろうと一人で修行を行ってきた。

 

 蒼鬼の言う言葉は弱者の馴れ合いに過ぎない。そう思って生きてきた。

 

 しかし今、妖魔の事を知りもしない奴等に押されているとは、情けないにも程がある。

 

 

「――だが、お前達に俺は倒せない。この戦い、勝つのは俺だ」

 

 だからこそ、光牙は蒼鬼の言葉を否定し、自分の信じる強さを貫く。

 

 もし、蒼鬼の言葉を簡単に聞き入れたら、それは今までの自分を否定する事になるのだから……

 

 

「……そうですか。――では光牙さん。そろそろ決着をつけましょうか」

 

「――望むところだ」

 

 

三人は一斉に構えた。

 

 

「――未来さん、行きましょう!」

 

「――任せて、詠お姉ちゃん!」

 

 詠と未来は同時に光牙に向かう。

 

 光牙が気付く事はないが、先程の掛け声は気合を入れたのではない。

 

 仲間への合図を出したのだ。

 

 

 

 

 

**********************

 

 ――数分前。

 

日影の援護へ向かおうとした春花の元に、唯一所在が不明だった籠鉄が現れた。

 

「悪いな、春花さん。ここで倒させてもらうぜ!」

 

「……仕方ないわね。

 

――ここは一旦、籠鉄君を倒して作戦を練り直しましょう」

 

そう言うと二人は、懐から秘伝忍法書を取り出し、忍転身する。

 

籠鉄の忍装束は、赤い鎧を羽織り、その下に白のシャツを着ていて、背中には二本の赤い槍、両手には籠手を付けている。

 

「――じゃあ、行くぜ!」

 

籠鉄は、二本の槍を抜くと同時に春花に接近。

 

即座に槍を刺すと同時に、籠鉄は違和感を感じた。

 

人を刺した手応えをまるで感じなかったのだ。

 

そしてその違和感の正体は、幾つか心当たりがある。

 

――先ず一つ目は、影分身などの実体を持った分身術。

 

しかし、本体を攻撃した時との手応えの差は、ほんの僅かしかない。

 

今の様に、相手に違和感を感じさせる程度の分身など、ハッキリ言えば焼け石に水レベルの悪手だ。

 

春花程の実力者が、これ程分かりやすいミスを簡単にする訳がない。

 

――すると突然、籠鉄は勢いよく前方に吹き飛んだ。背後から重い一撃が加えられたのだ。

 

籠鉄は態勢を立て直し、直ぐ様背後を向き直したが、既に誰も居なかった。

 

素早く動いた訳ではない。

 

春花は体術も優れているが、それでも選抜メンバーの中では、忍術や幻術無しなら下位だ。

 

そんな春花が、自分の認識出来ない程の速度で動くとは考えにくい。

 

――となると、幻術か?

 

籠鉄は即座に印を結ぶ。

 

「――解!」

 

一度幻術に掛かってしまうと、掛けられた者はチャクラの流れを荒らされ、正常な五感を奪われる。これが幻術の原理だ。

 

そしてその幻術を解くには、チャクラの流れを整える他に方法は無いが、逆に言えばチャクラの流れさえ戻せば幻術は解ける。

 

そしてチャクラの流れを整えるには、全身又は一部分のチャクラの流れをコントロールする必要がある。

 

またもう一つの手段として、他者に……即ち仲間にチャクラを流してもらい、外部からチャクラの流れを静めるという物もある。

 

そして、籠鉄は前者の方法で幻術を解こうとしたのだが――

 

「――何ッ!?」

 

何も変化が起きない。

 

籠鉄が動揺を隠せない中、再び背後から強い衝撃に襲われた。

 

しかし今度は、何か物を投げられた様な痛みを感じる。

 

そこで籠鉄は、春花の武器は傀儡の他に試験管がある事を思い出す。

 

――そして、今の攻撃を受けた瞬間に体が痺れ出した。

 

体がよろめき、バランスを失う。

 

地面に槍を刺す事で、何とか倒れる事を凌いだが、直ぐ様二撃目、三撃目と直撃し、完全に倒れてしまう。

 

恐らく、一種の神経毒の効果を持つ試験管を投げたのだろう。

 

体に力が入らず、思う様に動けない。

 

「くっそ……!」

 

「ふふっ、ごめんなさいね」

 

気付けば春花が背後に立っていた。

 

「――悪いけど、もう頂いたわよ」

 

春花の手には、先程まで籠鉄が持っていた地の巻物がある。

 

「さてと、どうしようかしら?」

 

春花は鋭い目付きで籠鉄を見つめる。

 

果たして籠鉄に打開策はあるのだろうか――?

 

 

 




今回はここまでです。

蒼鬼の忍転身後の衣装ですが、何度か模索した結果、最終的には柳生の忍転身衣装の色違い+黒タイツという形になりました。

籠鉄の忍装束は戦国BASARAの真田幸村をモデルにしており、真司蛇の忍装束はNARUTOのイタチ戦以降のうちはサスケの衣装をモデルにしております。

尚、次回ではチーム戦の決着と、蒼鬼によるこの作品の鬼、竜についての説明があります。


質問、感想、誤字脱字報告、リクエストなど、用件がありましたら何時でもお待ちしております。

では、次回も楽しみにして下さると幸いです。

焔の仲間に対する考えを改める時期は

  • 原作より早めが良い
  • 原作と同時期で良い

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