閃乱カグラ 少年少女達の希望と絶望の軌跡   作:終末好きの根暗

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蛇女子学園編2話です。

何というか時間は掛かりましたが、驚く程に執筆が進みました。

今回はまさかの2万字です。

取り合えずは、チーム戦の決着と一部の種族についての説明を書きました。

それからアンチ要素らしきシーンがありますので、ご注意下さい。

ダーク・リベリオンさん、申し訳ございません。

お詫びと言ってはなんですが、光牙を超強化させて頂きました。

亜殺喰のカグラ殺害人数を80人から400人に増やしました。

亜殺喰のプロフィールを考える内に80名でも足りないと考えて現在に至りました。

では、どうぞ

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第2話 仲間、種族、裏世界の災害

籠鉄が春花に拘束される数分前。

 

蒼鬼、焔、日影の三つ巴の戦いは熾烈を極め、誰が有利とも言えぬ状況だった。

 

蒼鬼は雷、焔は炎、日影は風の術を発動する。

 

雷遁(らいとん)蛇雷(へびみかづち)!」

 

火遁(かとん)豪火球(ごうかきゅう)の術!」

 

風遁(ふうとん)大突破(だいとっぱ)!」

 

三つの術が相殺し、3人は吹き飛ぶ。

 

一瞬の油断で勝敗は決する。

 

それを分かっている3人は、如何にして優位に立つかを考えながら戦っている。

 

「ここまで拮抗するとはな……」

 

「焔さんも蒼鬼さんも相変わらず強いな」

 

「……一瞬も気を抜けませんね」

 

3人にとっても、ここまで三つ巴の均衡が保たれるとは考えていなかった。

 

誰か一人は早々に脱落し、残った二人が戦うと。

 

しかし、現状は3人共消耗具合は同じ程度だろう。

 

こうなると、早々に決着をつけて仲間の援護に向かう事が最善の手となる。

 

仲間の到着まで時間を稼ぐという手もあるが、その場合は恐らく長時間粘らなければならない上、相手の増援が先に到着してしまっては元も子もない。

 

そう判断した3人は一斉に動き出した。

 

蒼鬼は鬼刃に風のチャクラを纏わせる。

 

「秘伝忍法・――【天空刃(てんくうじん)】!!」

 

風を纏った刀の斬撃が、凄まじい速度で焔と日影に襲い掛かる。

 

その速度は音速を越えており、ソニックブーム何て言葉では生易しい破壊力だ。

 

日影は圧倒的なスピードで難なく回避する。

 

焔は避けきれないと判断し、自身も秘伝忍法で迎え撃つ事にした。

 

焔は刀に炎のチャクラを纏わせると、その場で回転し出した。

 

「秘伝忍法・――【(くれない)】!!」

 

すると焔の周囲から炎の竜巻が発生し、蒼鬼の秘伝忍法を意図も簡単に掻き消した。

 

結果としては当然と言えるだろう。

 

紅と光牙戦で使った響は、焔が現状使える秘伝忍法の中でも最強格の技だ。

 

対して、蒼鬼の天空刃は威力こそあれど、蒼鬼の秘伝忍法の中でも精々中級格程度。

 

更に術の相性上は、炎は風に強い。

 

故に同じ秘伝忍法であっても、焔の紅が蒼鬼の天空刃に圧勝したのも頷ける。

 

更に焔は、回転を維持したまま蒼鬼の元へと向かっていく。

 

蒼鬼も迎え撃つ様に再び鬼刃にチャクラを纏わせるが、今度は風ではない。

 

「秘伝忍法・――【雷水蛇刃(らいすいじゃじん)】!!」

 

――雷と水。

 

二つの属性を合わせ持った斬撃を焔目掛けて放つ。

 

すると斬撃は、まるで生まれ変わったかの様に蛇の形へ変化し、焔に襲い掛かる。

 

「ぐああああっ!?」

 

炎の竜巻を破り、蛇は焔に噛み付いた。

 

更に蒼鬼が指をパチンと鳴らすと蛇は起爆し、焔は吹き飛ばされる。

 

水を通して雷は更に威力を増す為、流石の焔もこれにはかなりのダメージを受けた様だ。

 

「秘伝忍法・――【ぶっち切り】!!」

 

二人の隙を狙い、日影が空中から無数のナイフを雨の様に降り下ろす。

 

焔は吹き飛ばされた事で射程外に弾き出されたが、蒼鬼は射程内に入っている。

 

「秘伝忍法・――【黒刃(くろば)】!!」

 

蒼鬼も秘伝忍法で応戦する。

 

――闇の妖刀。

 

そう呼ぶに相応しい闇を纏った刀は、極めて長いリーチを持ち、日影のナイフを迎撃する。

 

日影のスピードなら回避されると予測した蒼鬼は、日影の移動範囲を狭める為に辺りの木々を狙い倒していく。

 

日影は素早い身のこなしで、蒼鬼の刀を的確に回避していくが、木々が邪魔で蒼鬼に近付けない。

 

日影も風遁か秘伝忍法を使えば状況を打破出来ない訳ではないが、ぶっち切りを除けば日影の秘伝忍法は全て近距離タイプの為、下手に近付くと蒼鬼の攻撃を受けかねない。

 

かといってぶっち切りを使おうとすれば、間違いなく空中で狙い撃ちにされる。

 

「……アカンなぁ」

 

日影は思う様に反撃が出来ない状況に立たされているのだが、それでも冷静さを失う事が無いのは、日影に感情が無いからだろう。

 

そう言う意味では感情が無くても良いが、反撃が出来ないのであれば冷静であっても意味がない。

 

日影は冷静に反撃の糸口を探しながらも回避に専念している。

 

 

 

 

――故に焔が今どうしているかを考えていなかった。

 

 

 

 

 

「――よし、そろそろ潮時か」

 

雷水蛇刃で吹き飛ばされた焔は、二人から少しだけ離れた木々に隠れ、二人の不意を突く為の準備をしていた。

 

これは光牙からの策だった。

 

光牙はマーキングした対象の位置を自由自在に入れ換える事の出来る秘伝忍法を扱える。

 

特に禁止はされていない為、チーム戦が開始する前に光牙は焔と篭鉄にマーキングをしていた。

 

光牙は、この術はチャクラを大量に消費する為、余り多用は出来ないと伝えていた。

 

故に必ず隙を突けるタイミングで連絡を入れる様に指示されていたのだ。

 

――しかし、この術には幾つか欠点がある。

 

入れ換えている間は常に光が放たれる為、敵からは丸見えになってしまう事、発動中に対象が移動不能の拘束術を掛けられていると入れ換えは可能だが、拘束されている対象も入れ換わる。

 

――例えば篭鉄が拘束の術を掛けられている時に焔と入れ換えると篭鉄の拘束は解かれるが、逆に焔が拘束されてしまうのだ。

 

――故に光牙は篭鉄にはある指示を出していた。

 

「後は篭鉄の合図次第か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「――クッソ……!」

 

「私の幻術スキルを侮っていたでしょう?

残念だけど、私の幻術は特上忍クラスまで昇華したのよ。 ――例え光牙君や蒼鬼ちゃんでも簡単に破れないわ」

 

春花の試験管で完全に動けない篭鉄は、更に春花の強固なチャクラ糸で拘束されてしまう。

 

神経が麻痺している上に拘束術まで掛けられては、最早身動きが取れない。

 

指もまともに動かせないのでは、武器を持つ事は愚か、術も発動出来ない。

 

――最早篭鉄に勝機はないだろう。

 

「――でも、まだ何かありそうね」

 

春花は優位に立っているにも関わらず、慢心せずに冷静だった。

 

故に動けない篭鉄相手でも警戒し、距離を取っている。

 

――そして春花の考えは正解だった。

 

 

 

 

(――後、もう少しだ……!)

 

――篭鉄は切り札を隠している。

 

動けない上でも発動出来る奥の手があるのだ。

 

但し、バレない様に慎重に準備している為、今気絶させられでもしたら終わりだ。

 

 

 

 

――だが、春花が攻撃をしないとは限らない。

 

「早目に止めを刺させてもらうわ」

 

春花は傀儡を使い、秘伝忍法で止めを狙う。

 

「秘伝忍法・――【Heartvibration】!!」

 

春花は傀儡を抱き締めると上下に降り、前方へ向かって投げる。

 

すると、傀儡は凄まじい速度で篭鉄に向かっていくではないか。

 

更に傀儡は火花を散らしている。

 

――ここまで来れば分かる。

 

春花は傀儡を爆発させて、篭鉄に確実な止めを刺そうとしている。

 

恐らく相当な爆発が来る。

 

動けない篭鉄に回避する術はない。

 

 

 

 

 

 

 

「――出来た……!」

 

――筈だったのだが、篭鉄はギリギリのタイミングで奥の手の準備が整った。

 

春花もそれを感じ取ったのか、直ぐ様バックステップで距離を取る。

 

「秘伝忍法・――【起爆・猛炎虎】――!!」

 

籠鉄の全身を炎が包み込み、向かってくる傀儡を炎が盾になる形で防ぎ、籠鉄を拘束していたチャクラ糸も炎の熱で溶ける。

 

そして炎の一部が巨大な手の形に変化し、落としていた槍も籠鉄の元に戻った。

 

 

この術は、籠鉄が万が一動けなくなってしまった場合に備えて開発した物だ。

 

自分のチャクラの流れを強制的に加速させ、下がった身体能力を極限まで高める事が出来る。

 

この状態なら無理矢理体を動かす事が出来る。

 

とはいえ、既に幻術に掛かってしまっている場合は方向感覚を取り戻せないという点はあるが……

 

 

しかし、手が無い訳ではない。

 

見えないなら何も気にせずに力を振るえる。

 

 

「秘伝忍法・――【千両火花】――!!」

 

 

籠鉄の槍から無数の火花が迸る。

 

威力は低いが手数と速度、そして範囲は籠鉄の秘伝忍法の中でも段違いの技だ。

 

この術の欠点は、発動中は動けない上に殆どコントロールが利かない事だが、近くに誰も居ないと分かっているなら思い切り使える。

 

春花は試験管を駆使して距離を取るが、火花の一部が当たった事で忍装束は破け、春花自身も軽く火傷を負ってしまう。

 

そして目が見えずとも辛うじて聞き取れた音でそれを判断した籠鉄は切り札を使う。

 

この術も長くは持たない。

 

ならばと籠鉄は春花の足止めの為に残ったチャクラで全力の術を使う。

 

 

 

 

 

――光牙は春花が居る以上は隙を突いても完全には決まらないと予想していた。

 

故に篭鉄には春花を倒す事ではなく、春花の足止めを最優先に行う事を指示していた。

 

――そして、篭鉄の春花を止める為の切り札とは、自爆だ。

 

篭鉄の得意とする技の一つに爆破がある。

 

それを把握した光牙は、春花に妨害させない様、確実に大ダメージを与えられる自爆を提案。

 

死ぬ訳ではないが、自身も巻き込む大爆発を発生させ、春花に仲間の援護をさせない。

 

それを行うには、自身のチャクラの流れを無理矢理荒らす必要があるのだが、今は常にその状態と言っても良いのだ。

 

故にそれ程苦労する事なく、術を発動出来る。

 

「秘伝忍法・――【爆・火炎放天(ばく かえんほうてん)】!!」

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――辺り一帯、距離にして凡そ数キロが大爆発で吹き飛んだ。

 

 

篭鉄と春花も爆発と爆風でかなりの距離まで吹き飛び、双方共に大きなダメージを負った。

 

春花の忍装束は大きく破け、篭鉄に至っては気絶で忍転身が解除されている。

 

春花も装束は維持出来ているが、ダメージは決して少なくない為、回復が必要だ。

 

「――篭鉄君も無茶するわね……お陰で私も暫くは動けそうにないわ。――だけど、これは光牙君の指示なのかしら……?」

 

春花は医療忍術で傷の治療をしながら、この自爆が誰の指示なのかを考える。

 

春花は、篭鉄が仲間の為なら幾らでも体を張れる事を知っている。

 

――故に篭鉄の自爆が光牙の指示ではないかと考えたのだ。

 

「焔ちゃんなら、態々篭鉄君を犠牲にする事なく正面戦闘を望む筈だし……

――光牙君が心配ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

「――あれは!?」

 

「篭鉄さんの術やな……」

 

交戦中だった蒼鬼と日影も爆発に気付き、僅かに動きが止まる。

 

――止まってしまった。

 

 

「――秘伝忍法――!」

 

『ッ!?』

 

「――【輝迅】!!」

 

光の矢が二人を襲う。

 

蒼鬼はギリギリ回避出来たが、蒼鬼の技を回避する為に空中に飛んでいた日影は直撃してしまう。

 

「――ッッッッ!!!」

 

日影は辺りの木々ごと吹き飛ばされ、巻物を落とし掛けるが、バランスを取り、何とか回収する。

 

――だが

 

「――遅い」

 

「――ッ!?」

 

光牙は焔との戦いで使った抜き足を使用し、日影の背後に回り込む。

 

更に首筋に手刀を入れ、日影を気絶させる。

 

――そして日影が持っていた天の巻物を奪う。

 

「……蒼鬼は消えたか――恐らく詠達の所に向かったと言った処か――」

 

光牙はそう呟くと、先程の場所まで向かう。

 

 

 

――篭鉄の爆発に気を取られた他のメンバーの隙を突き、焔と入れ替わり巻物を奪う。

 

それが光牙の策だった。

 

――非情と言えるかも知れないが、勝つ為の手段としては間違っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――数分前の詠達。

 

 

「――あれは、篭鉄さんの爆発!?」

 

「何て規模なの……」

 

二人もまた、篭鉄の爆発に気を取られていた。

 

「――秘伝忍法――!」

 

そして隙を見て、秘伝忍法を発動させると光牙の全身を光が包む。

 

「――しまった――!」

 

「――ヤバッ――!」

 

それに気付いた二人は、直ぐ様距離を取ろうと動き出すが、光牙の狙いは攻撃ではない。

 

「【フォトン・シフトチェンジ】!!」

 

すると光牙が消え、代わりに焔が現れた。

 

「――え!?」

 

「何故焔ちゃんが――?」

 

再び気を取られた二人は、焔が既に秘伝忍法の体制に入っている事に気付くのが遅れた。

 

「秘伝忍法・――【(ひびき)】――!!」

 

焔は一瞬で二人の頭上に飛び上がり、炎を纏った刀を二人に叩き付けようとして――

 

――真横に吹き飛んだ。

 

 

「ガハッ!?」

 

 

 焔も予想外の事態に動揺を隠せない。

 

 よく見れば闇を纏った刀が背後から真横に自分を叩き付けた様だ。

 

 そして、闇を纏った刀と言えば

 

 

「――お待たせしました」

 

 蒼鬼だった。

 

 実は蒼鬼も時空間忍術を扱え、先程の雷水蛇刃を焔に当てた時、間接的にではあるが、マーキングしていたのだ。

 

 因みに、蒼鬼の術は飛雷神(ひらいしん)という別物である。

 

「巻物の状況は?」

 

「まだ取られてはいませんが、今の所は天と海が揃っています。後は地を得られれば此方の勝利です」

 

 

 状況を確認した蒼鬼は、少しだけ考え込むと直ぐに指示を出す。

 

「解りました。多少予定が狂いましたが、ここからは3人で行きましょう!」

 

「はい!」

「うん!」

 

 

 蒼鬼が指示を出すと、全員が強い決意を宿した眼差しで気合を入れる。

 

 対して焔は冷静に戦況を分析する。

 

 

「3対1か……流石に部が悪いな」

 

 焔はそう呟くと、木々を利用して離れていく。

 

 恐らく光牙との合流を図ったのだろう。

 

 蒼鬼はそう考えると、背後にクナイを投げる。

 

 

「蒼鬼? どうかした――」

 

「バレていたか」

 

「うわぁっ!――って、真司蛇!?」

 

 蒼鬼がクナイを投げたのは、木々を使う事で潜んでいた真司蛇に気付いたからだ。

 

 未来は思わず素っ頓狂な声を上げ、詠も声は上げていないが驚いている。

 

 唯一気付いていた蒼鬼は、冷静さを崩さずに真司蛇に話し掛ける。

 

「――どうしますか?真司君。――戦うと言うのならば受けて立ちますが、その怪我でも私達と戦いますか?」

 

 

 真司蛇は先程の詠達との戦闘で既にかなりの傷を負っている。

 

 それに気付いた蒼鬼は敢えて真司蛇に選択肢を与えている。

 

 常に死と隣り合わせの忍の世界では甘いかも知れないが、目的の天の書は既に持っている。

 

 ならば態々戦闘を行う必要はあるのだろうか?彼方とて3対1で怪我のハンデもあるのだから、勝てない事は分かる筈だ。

 

そして真司蛇は蒼鬼の言葉を

 

「――止めておく……」

 

 

 聞き入れた。

 

「お前達は3人揃っているが、俺の仲間の援護は期待出来そうにない――更にこの傷では勝ち目もないだろう」

 

 

 

 そう言うと真司蛇は、篭鉄の爆発した方角に向かう。

 

 ――恐らく、春花さんに傷の治療をしてもらう為でしょう。

 

 そう考えた蒼鬼は二人に提案する。

 

 

 

「詠さん、未来さん。――光牙君と焔さんの所に向かいましょう。あのチームは回復役が居ないので、今が攻め時です。

 

恐らくですが、真司蛇君は春花さんの所に向かったと考えられますが、私は追うべきではないと思います。

 

もしかしたら篭鉄君も居るかも知れませんが、その近くに居るであろう回復役の春花さんの所に真司蛇君が向かった以上、それは悪手です。

 

そうなると、今の内に勝負を付けなければ、真司蛇君達が回復して戦いが長引いてしまいます」

 

 蒼鬼は、二人に光牙達との決着を付けに行く事を提案する。

 

 状況を考えれば、それが最善の手だろう。

 

 

「……そうだね。今私達は天と海の二つの書を持っていて、海はまだ誰も奪われてないから、長引かせると確実に狙われる」

 

 

「――私も賛成ですわ。真司蛇さん達が回復するのは光牙さん達も分かっている筈。となると、彼方も決着を付けたがるのではないでしょうか?」

 

「ええ。 好戦的なお二人の事を考えても、その可能性は大いにあります。

故に決着を付ける最大のチャンスです。

 

――では、行きましょう!」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

 

 そして三人は光牙達の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

一方で光牙達は既に合流していた。

 

現在は決着に備えて準備している。

 

「次で必ず決着を付ける。 だから間違っても準備を怠るなよ。 それから俺の足を引っ張る様な真似もするな」

 

「当たり前だ。 この私が戦闘準備を怠る何て事をする訳がないだろう? お前こそ油断するなよ」

 

二人は軽口を叩きながらも、決着を付ける為の最終準備と軽い休息を行っていた。

 

 

――そして、二人の動きが止まる。

 

「来たか」

 

「行くぞ、焔」

 

「ああ。 最後に勝つのは私達だ!」

 

二人は蒼鬼達の気配を感じ取り、迎え撃つ様に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――そして時は満ちた。

 

「決着を付けましょう。 光牙君に焔さん」

 

「当たり前だろ? 楽しませてくれよ!」

 

双方が相対する。

 

蒼鬼は冷静だが、焔は興奮を隠せない。

 

――だが蒼鬼は、二人に聞きたい――聞かなければならない事がある。

 

「戦う前に聞きたいのですが」

 

「――何故、篭鉄君に自爆などさせたのですか? 篭鉄君は仲間の筈でしょう?」

 

蒼鬼に取ってあのやり方は、勝つ為とはいえ正直に言えば非情だ。

 

――忍の世界では甘いかも知れないが、それでも私は仲間を大切にするべきだと思う。

 

故に二人に尋ねたのだが――

 

「――勝つ為だ――

 

――それ以外に理由は無いし、必要ない」

 

――光牙に取って忍は、任務の成功が第一であり、仲間の存在など二の次だ。

 

そしてそれは、焔も同様だった。

 

蒼鬼もそれを感じ取ったのか、小さく溜め息を吐く。

 

「……そうですか――では、始めましょう」

 

「――望む所だ」

 

――そして光牙と蒼鬼が前に出る。

 

「秘伝忍法・――【黒刃】――!!」

 

「秘伝忍法・――【輝迅】――!!」

 

光の矢と闇の刀。

 

相反する二つの秘伝忍法のぶつかり合いにより、最後の戦いの巻くが開けた。

 

 

 

 

未来が光牙目掛けてガトリングを発射すると、光牙は盾を形成して防ぐ。

 

焔が蒼鬼に斬りかかると、蒼鬼は鉄球を出現させて攻撃を防ぐと同時に焔を吹き飛ばす。

 

詠が焔に斬りかかると、光牙が光の矢を放つ事で遠距離から焔のサポートをする。

 

光牙が未来に矢を放てば、同時に蒼鬼と詠が刀と剣を使って防ぐ。

 

蒼鬼が光牙に斬りかかると、焔が刀で防ぎ、鍔迫り合いに持ち込む。

 

 

 

 

その均衡が約10分間程保たれていたが、徐々に均衡が崩れ始めた。

 

「キャアアァッ!?」

 

「――ッ!? 未来さん!」

 

長時間の戦闘で息を切らし始めた未来が、一瞬の隙を突かれて光牙の攻撃を受けてしまう。

 

察知した詠が助太刀に入ろうとするが、光牙の矢に阻まれて近付けない。

 

倒れた未来から巻物を奪おうと焔が近付くが、蒼鬼が焔を鉄球で狙い、焔は跳躍して回避する。

 

――だが、焔も只では済まさない。

 

「秘伝忍法・――【(あかつき)】――!!」

 

空中から炎の斬撃を飛ばし、蒼鬼と未来を狙う。

 

「――ッ!」

 

蒼鬼は風遁で未来を射程外に飛ばすが、蒼鬼自身は回避も防御も間に合わず直撃してしまう。

 

「うぅッ!?」

 

――蒼鬼は思わず膝を付いてしまう。

 

忍装束が僅に破け、頭からは血が流れている。

 

「ハア……ハア……」

 

流石に蒼鬼もかなりのダメージを受けた。

 

――だが、何故だか蒼鬼の傷は次第に塞がっていき、数秒の間に装束も元に戻った。

 

「秘伝忍法・――【無明斬(むみょうざん)】――!!」

 

そして直ぐに立ち上がり、焔の追撃を狙う。

 

漆黒の闇の斬撃。

 

蒼鬼は黒刃を飛ばしたかの様な秘伝忍法を放ち、焔も再び暁を放ち迎撃を試みるが、全ての斬撃が掻き消され、焔に直撃した。

 

「がっ!? ぐああああっ!?」

 

焔はバランスを崩し、地面に倒れる。

 

流石の焔も、これには今までに無いダメージを受けたのか、忍装束が大きく破けた。

 

――そして、焔が立ち上がった瞬間、焔は銃弾の嵐に襲われる。

 

「秘伝忍法・――【ビルデッヅァ】――!!」

 

「がああああっ!?」

 

未来が焔の背後から銃弾の嵐を撃ち込み、ダメージで転身も解除された為、焔は遂に倒された。

 

――だが

 

「秘伝忍法・――【輝龍一刀斬】――!!」

 

「キャアアアアァ!!!?」

 

「ッ! 未来さん!!」

 

光牙の光の斬撃が未来に直撃し、未来もまた倒されてしまう。

 

詠が光牙の隙を突いて斬りかかるが、光牙は抜き足で回避して詠の背後に回り込む。

 

手刀で気絶させようとする光牙だったが、蒼鬼の水遁で攻撃された事で失敗に終わる。

 

「ハア……ハア……詠さん。 大丈夫ですか?」

 

「え、ええ。 ……辛うじてですが」

 

蒼鬼は既に体力の限界が近い。

 

詠もそれは同様であるが、秘伝忍法をまともに受けていなかった為、まだ僅かに余裕がある。

 

――対して光牙は限界が近いというのに一瞬たりとも集中が途切れていない。

 

その点は矢張、戦闘経験の差が大きいのだろう。

 

光牙は焔の元へ向かい、巻物を回収する。

 

蒼鬼もそれを理解し、詠に指示を出す。

 

「詠さん――必ず次で決めますから、時間稼ぎをお願いします」

 

「……了解しました。 余り長くは持たないと思いますので、なるべく早目にお願いします」

 

「はい、必ず勝ちましょう!」

 

短い言葉のやり取りでも、彼女達は互いの事を信頼しているという事が分かる。

 

時間稼ぎは、信頼している相手でなければ頼み難い事だが、蒼鬼は詠に絶大な信頼を持っている。

 

詠もまた、蒼鬼なら必ず上手くやり遂げると信じているからこそ、時間稼ぎを引き受けたのだ。

 

 

そして光牙は――

 

「態々時間を稼がせる訳がないだろう」

 

冷静さを崩さずに蒼鬼を狙って矢を放つ。

 

「させませんわ!!」

 

しかし、詠の大剣によって意図も簡単に防がれ、更に詠のボウガンの攻撃を受けてしまう。

 

光牙は思わず膝を付くが、詠の追い討ちをバックステップで回避すると反撃に転じる。

 

「ぐっ……!! ならばこれでどうだ……!」

 

光牙は粒子変化で光の槍を形成して詠を狙う。

 

しかし、詠は光牙にも決して引けを取らないスピードで防御と回避を繰り返し、光牙を斬り付ける。

 

本来ならば、パワーでは詠の方が上な代わりに光牙の方が圧倒的にスピードで勝る筈だが、どういう訳かここに来て詠の能力が全体的に飛躍的な上昇をしている。

 

今までに無い程の詠の反応速度に流石の光牙も動揺を隠せないが、それも一瞬。

 

詠の間合いでは勝負にならないと判断し、バックステップをしながら矢で詠を狙う。

 

しかし、詠はそれすらも防ぎきった。

 

――恐らく火事場の馬鹿力だろう。

 

そう考えた光牙だったが、次の詠の言葉には驚愕と怒りを覚えた。

 

「蒼鬼さんに手出しはさせません。 仲間を思う気持ちが私達を強くしてくれるのです!」

 

「――ッ」

 

光牙はその言葉を聞いた時に、以前蒼鬼が同じような言葉を言っていた事を思い出した。

 

 

 

『人間が一人で辿り着ける場所はたかが知れている。

 

だからこそ人は、家族や友、そして仲間と共に成長して強くなれるのではないかと私は思います』

 

 

 

「――そんな物はまやかしだ! 強さは強さ。 それ以上でもそれ以下でもない!」

 

光牙は蒼鬼や詠の言葉に怒りを覚える。

 

仲間が居るから強くなれる?

 

守りたい物を簡単に傷付けられた奴にも同じ事を言えるのか?

 

――まるで昔の自分だ。

 

 

 

だからこそ気に入らない。

 

昔の自分を思い出させる奴等が、自分と同じ道を辿ろうとしている様で……

 

――今の自分を否定しそうになる。

 

そんな事、有ってはならない。

 

それを認めてしまえば、自分の今までを否定するだけでなく、その為に切り捨ててきた者達が浮かばれないではないか。

 

だから、簡単に今の自分を変える事等出来ない。

 

「――聞き捨てなりませんわね」

 

当然、詠も納得がいかない。

 

詠は光牙に何があったのかを知らないのだから――

 

「俺を納得させたいのであれば、俺を倒して分からせてみろ!」

 

――そして光牙がそう言った瞬間、光牙の全身を白い光が包み込んだ。

 

「秘伝忍法・――【雷光・竜腕牙(らいこう りゅうかいが)】――!!」

 

腕には白い竜の鱗の様なガントレットが付き、雷がバチバチと音をたてる。

 

雷と光の属性を融合させた、所謂ドーピングタイプの秘伝忍法だ。

 

光牙に取っては、抜き足と同じく奥の手の一つでもあるが、チャクラと体力の消費が激しい上に使用後は全身に痛みが回る為、中々使う事はない。

 

しかし今は、他の何よりも蒼鬼達を倒す事に集中している為、リスクを顧みずに発動した。

 

この状態の光牙の戦闘能力は、先程までの通常時の十数倍にまで羽上がる。

 

 

――その圧倒的な力に詠は思わず息を飲むが、直ぐに我に返ると大剣を構える。

 

「俺の切り札を前にしても戦意喪失しないのだから大したものだ。 ……だがお前は負ける」

 

光牙は圧倒的な力を発動させた事で自分の勝利を確信するが、詠は決して怯まない。

 

「――この一撃に全てを賭けます――!」

 

「来い」

 

詠は飛び上がると、大剣に有りったけのチャクラを流して光牙に向かう。

 

光牙も迎え撃つ様に拳を構える。

 

「秘伝忍法・――【アースガルズ】――!!」

 

「秘伝忍法・――【雷光・双竜轟拳(らいこう そうりゅうごうけん)】――!!」

 

詠は風のチャクラを纏った大剣と光牙の雷と光のチャクラを纏った竜の化身の如き拳の衝突。

 

辺り一帯が吹き飛び、蒼鬼でさえも容易には近付けない程の爆発が発生した。

 

 

 

 

 

 

――そして煙が晴れると――、

 

転身が解かれて気絶し、倒れている詠と無傷の光牙の姿があった。

 

「その程度か」

 

光牙は嘲笑う様な視線で詠を見る。

 

――だが、背後の気配に気付き、振り返った。

 

「いいえ。 詠さんも未来さんも本当によく頑張ってくれました。

お陰様で私もしっかり準備が出来ました」

 

光牙の背後には、強い決意を宿した眼差しで光牙を睨みつける蒼鬼の姿があった。

 

「――だがその時間稼ぎの効果も、今の俺が相手では全くの無意味だ」

 

光牙は油断こそしていないが、今の状態で負けるとは到底思っていない。

 

何せ今の光牙は通常の転身から10倍以上戦闘力を上げているのだ。

 

幾ら蒼鬼でも、ここまで不利な戦況を覆せる程の手があるとは思えない。

 

それこそ蒼鬼が実力を隠していたとしてもだ。

 

「――いいえ。 無意味にはさせません。

この時間は詠さん達が作ってくれた正真正銘最後のチャンスです。

 

――だから、絶対に勝ちます!」

 

そう言って蒼鬼は光牙に向かって走り出す。

 

「やれる物ならやってみろ」

 

光牙も迎え撃つ様に矢を放つ。

 

蒼鬼は矢を回避していくと、クナイを構える。

 

「水遁・スイレイハ!」

 

無数の水の弾丸を光牙に向けて放つ。

 

その威力と速度は焔達の時とは桁違いであり、仮にこのレベルを使えば圧勝出来ただろう。

 

「秘伝忍法・――【輝迅】――!!」

 

しかし今の光牙の秘伝忍法の前では、相殺は愚か削る事も出来ない。

 

輝迅は凄まじい速度で蒼鬼に向かっていく。

 

蒼鬼は真横へ跳んで矢を辛うじて躱すも、光牙は決して手を緩めない。

 

蒼鬼が回避する事を見越し、弓を上に向けて強大な光の矢を放つ。

 

「秘伝忍法・――【閃光龍雨】――!!」

 

通常時とは比較にならない程の数の光弾が蒼鬼に向かって振り注ぎ、蒼鬼も鉄球を使いながら防御をしながらも的確に回避する。

 

しかし、避けた所を再び輝迅に襲われる。

 

――これは避けられない。

 

そう判断した蒼鬼は秘伝忍法で相殺を試みる。

 

「秘伝忍法・――【黒刃(くろば)】――!!」

 

だが――、

 

「うっ!?」

 

先程よりも威力の上がった秘伝忍法に押され始めてしまい、徐々に後退していく。

 

「――ハアアアッ!!」

 

 蒼鬼は力を込めて強引に秘伝忍法を打ち消す。 だがその動きは、光牙に十分な隙を与えた。

 

「遅過ぎる」

 

 光牙は抜き足で蒼鬼の後ろを取り、蒼鬼を殴ろうと拳を振るう。

 だが、蒼鬼は後ろを振り向かず、まるで分かっていた様に光牙の拳を回避する。

 

「――何ッ!?」

 

 流石の光牙もこれには、今までの比ではない程の動揺を見せる。

 

「――抜き足はもう効きません」

 

 そう言うと蒼鬼は光牙を蹴り上げる。

 

 そして、蹴り上げた直後にバックステップで光牙から少しだけ距離を取り、更なる闇を纏わせた刀を光牙に向ける。

 

「秘伝忍法・――【常闇の渦(とこやみ うず)】――!!」

 

「ぐっ!?――これは、闇の渦――!?」

 

すると周囲の空間から特大の闇が出現し、光牙を闇色の渦に閉じ込める。

 

この術は強いチャクラを引き付ける為、チャクラの強い者程効果が大きく、今の光牙にはこれ以上ない程に打ってつけの技なのだ。

 

「秘伝忍法・――【フォトン・シフトチェンジ】――!!」

 

しかし、光牙も負けてはない。

 

倒れた焔と位置を入れ換えると、瞬時に蒼鬼目掛けて、光刀の斬撃を放つ。

 

蒼鬼も迎え撃つ様に闇の斬撃を放つ。

 

「秘伝忍法・――【輝龍一刀斬】――!!」

 

「秘伝忍法・――【無明斬】――!!」

 

今度は相殺し、双方共に吹き飛ぶ。

 

しかし、光牙は瞬時に走り出していた。

 

対して蒼鬼はまだ倒れている。

 

「――もらった!」

 

光牙は光刀と雷の刀を構えて蒼鬼を狙う。

 

「秘伝忍法・――【雷光・双竜斬】――!!」

 

 雷の斬撃と光の斬撃を放ち、暫くして斬撃は竜の姿に変化して蒼鬼を狙う。

 

「秘伝忍法・【黒穴】――!!」

 

 しかし、即座に起き上がった蒼鬼は周囲の空間に巨大な闇を出現させ、斬撃を吸い込む。

 だが、光牙はその隙に接近し、再び二刀流で蒼鬼に襲い掛かる。

 

(……このままでは手数が足りない。 ――でも、それなら此方も手数を増やすだけです!)

 

 一方蒼鬼は、黒刃を発動しながら氷の術で氷の剣を形成、光牙に対抗する様に二刀流で挑む。

 

「お前も二刀流が使えたのか。 だが、刀と剣は似ている様で本質は違う。 質の違う武器をお前は同時に扱えるのか?」

 

「何も付け焼き刃ではありません。 これも恩師に習った大切な技です。 ――それに、扱いに慣れていないならこの場で慣らせば良いだけです」

 

「フッ、面白い……!」

 

 互いの攻撃を防ぎながらも斬り掛かり、その度に互いに防がれる。

 しかし、蒼鬼の黒刃が光刀をへし折り、氷の剣で光牙に切り傷を負わせる。

 

 光牙はならばと両腕を構える。

 

「秘伝忍法・――【雷光・双竜轟拳(らいこう そうりゅうごうけん)】――!!」

 

 光牙の特大の秘伝忍法が蒼鬼に襲い掛かる。

 

「秘伝忍法・――【氷蛇・氷壁氷渦(ひょうい こへきひょうか)】――!!」

 

 蒼鬼も秘伝忍法を発動。

 

 氷の蛇が出現し、蛇が空中で回り出すと同時に、巨大な氷の壁が形成された。

 

 光牙の秘伝忍法を完全に防ぎ切ると、蛇が光牙の回りに集まり、氷の渦を発生させて光牙を攻撃する。

 光牙もこれには驚きを隠せない。

 

 ――しかし光牙が驚いたのはそこではない。

 

「こ、この技は、姉さんの技と似ている……」

 

 

 

 この技は、光牙の姉が現役の時に使っていた秘伝忍法と余りに似すぎている。

 

 ――しかし、光牙は油断してしまった。

 

「――雷遁・蛇雷(らいとん へびみかづち)!」

 

 蒼鬼の雷遁が光牙に直撃する。

 

 ドーピング効果で、光牙の雷に対する耐性は飛躍的に増大していたのだが、油断していた為に少なくないダメージを受ける。

 

「……ハア……ハア……」

 

光牙は既に限界が近い。

 

それは蒼鬼にも言える事だが、ドーピング効果も長時間持続した為、タイムリミットは迫っていた。

 

 

 

――そして二人は、勝負を決めようと走り出す。

 

光牙の光刀と蒼鬼の黒刀がぶつかり合う。

 

――しかしドーピングのパワーの影響か、光牙が僅かに押している。

 

そして、つばぜり合いに持ち込むと同時に蒼鬼の首を左腕で掴み、地面に叩き付ける。

 

「ガハッ!?」

 

 更に光牙は畳み掛ける様に右腕で殴り掛かる。

 一方で蒼鬼は叩き付けられた痛みから悲痛な表情を見せるが、それも一瞬。

 

 ――光牙の右腕の拳を刀を持っていない左手で僅かに逸らしして回避、更にそのまま右腕を掴むと、膝蹴りで腕の骨をへし折る。

 

「ぐっ!?」

 

 更に光牙を蹴り上げ、顔面に頭突きをかます。

 

「がっ!?」

 

 今の光牙は、ドーピング効果で腕を中心に全身が強化されている。

 

 ――まさか最も強化されている腕を術無しで折るとは、微塵も思っていなかった。

 

 そう頭で考えながらも、蒼鬼が向かって来る為、光刀を形成して迎え撃とうとする。

 

 対する蒼鬼も既に黒刃を発動させていた。

 

 二人は再びつばぜり合いに持ち込むが、同じ事をしても決定打を打てないと分かっている為、即座に攻撃を仕掛けては互いに刀で防ぐ。

 

 そして、互いにバックステップで距離を取り、有りったけのチャクラを刀に込める。

 

 そして走り出し、相手目掛けて刀を向ける。

 

「ハアアアアアッ!!!」

 

「ウオオオオオッ!!!」

 

 二人は互いに刀を突き刺す。

 

 

 刺した刀には互いの血が大量に付着し、二人からも尋常ではない血が流れる。

 

 

 

 

 そして最後に立っていたのは――、

 

 

 

 

 

 

 

「……私達の……勝ちです……」

 

 ――蒼鬼だった。

 

「――ガハッ……」

 

 光牙は倒れ、転身も解除された。

 

「ば……かな……」

 

 そして光牙は気絶し、蒼鬼もかなりの疲労から思わず膝を付いた。

 

 

 

 ――この結果には理由がある。

 

 

 先程、蒼鬼が頭突きをした時に、蒼鬼は赤い右目を使って光牙に幻術を掛けていた。

 しかし、蒼鬼の幻術は特殊であり、掛けた後に時間差で発動するのだ。

 

 そして、刺し合う時に光牙の視点で、蒼鬼が本来の位置よりも僅かに遠くに居る様に見せたのだ。

 

 故に蒼鬼の方が先に辿り着き、致命傷を避けつつも急所を突く事が出来たのだ。

 

 ――しかし、この幻術はかなりのチャクラを使う上に使用後にかなりのチャージが必要なのだ。

 だからこそ、蒼鬼は詠に幻術の準備が整うまでの時間稼ぎを頼んだのだ。

 

 

 ――この幻術がなければ、勝っていたのは間違いなく光牙だった。

 少なくとも、蒼鬼はそう思っている。

 

 ――アレ(・・)を使えば完勝する事も出来たのだろうが、使えば殺し兼ねない上にそこまでして勝ちたいとは思わない。

 

 それに、そもそもあの力は大切な物を守る為に身に付けた物だ。

 その力で仲間を殺すなど、冗談じゃない。

 

 殺す事が勝利条件なら話は別かもしれないが、今回の内容であれば、仲間を殺して勝つ位なら負けた方がマシだ。

 

 

「……でも、一先ず今回は勝利しました。 巻物を頂きます」

 

 

 

 こうして、今回の修行は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

――数時間後の忍部屋。

 

「――篭鉄君。大丈夫ですか?」

 

「サンキュー、悪いな蒼鬼」

 

「……いえ、気になさらないで下さい」

 

 現在は午後の12時。

 

 忍部屋で負傷者の手当が行われていた。

 蛇蛇の医療班や蒼鬼、春花、詠は大忙しだ。

 

「でも、光牙に勝つとは驚いたぞ。今度は手合わせしてくれよな!」

 

「はい、受けて立ちます。ですがその前に、怪我を治して下さいね?」

 

「ハハッ、そうだな」

 

蒼鬼は篭鉄の治療を行いながら、軽く会話をしていた。

 

そして他の面々は――

 

「ごめんなさいね。 私がもう少し早く回復出来ていたら、まだ戦えたかも知れないのに――」

 

「春花さん。 何時までも過ぎた事を気にしとったらアカンで。 ――今は次にどうするか考えるべきやないか?」

 

「俺も同感だ。 確かに俺達が負けた事実は変えられないが、次に勝てばそれでいい」

 

春花達のチームは反省会を行いながらも、誰かを責めるでもなく次を見ている。

 

 

「……それもそうね。 ――ありがとう二人共」

 

三年生という事もあり、この3人には彼等だけにしか分からない絆があるのかも知れない。

 

 

 

 

 

――そして詠と未来

 

「ごめんね、詠お姉ちゃん。 ……私が一番最初にやられちゃって……」

 

「未来さん、気にしないで下さいませ。 私も倒されてしまったのは変わりませんし、誰も責めたりなんて致しませんから」

 

「詠お姉ちゃん……」

 

詠は選抜メンバーの中でも特に優しい。

 

落ち込み気味の未来を優しく慰める。

 

「暗い話はここまでにして――」

 

「?」

 

「もやしに付いて語り合いましょう!」

 

「えっ!?」

 

尤も、もやし関係の話題については他人を一切気にはしないが――

 

 

 

 

 

そして、焔と光牙はチームワークを高める修行で仲間を利用した為、現在は別室で説教中である。

 

 

 

 

 

 

――それから約15分後、焔と光牙が戻ってきた。

 

そして、焔は早々に篭鉄の元へ行き――、

 

――土下座をした。

 

 

 

「お、おい焔!?」

 

篭鉄は勿論、他のメンバーも動揺を隠せない。

 

「スマン! やり過ぎたのは確かだった……安い言葉かも知れんが、反省している……」

 

焔は決してふざけている訳ではない。

 

真剣に考えて、最も相応しい謝り方が土下座だと判断した為、こうして謝っているのである。

 

「す、過ぎた事を何時までも気にすんなって――ほら、俺だってもうピンピン――」

 

「! 籠鉄君、そんなに動いたら……」

 

「――痛ッッてえええぇ!!!?」

 

「……傷口が開きますよ」

 

『…………』

 

焔に大丈夫だと伝えようとした篭鉄だったが、流石に無理がある。

 

他のメンバーは呆れて声も出ない。

 

「ま、まぁそんなに落ち込むなよ」

 

「……しかし、」

 

「あっ、そうだ! そんなに謝るなら今度手合わせしてくれよ!」

 

「……分かった」

 

焔は渋々納得した様な表情で顔を上げた。

 

取り合えずは収まったようだ。

 

 

「――お前達」

 

そしてそんなやり取りをしていると、何時の間にか鈴音が現れた。

 

全員の気が引き締まる。

 

「今回の修行はお前達に取っても大きな経験となった事だろうが、敢えて言わせてもらう」

 

『……』

 

「焔、そして光牙。 私はチームワークを見せろとは言ったが、仲間の犠牲を前提にする事は間違ってもチームプレイとは言わない。

 

そして、籠鉄。 幾ら仲間の為とはいえ、お前は自分の犠牲が前提の作戦に疑いは愚か、全く反対の様子を見せていなかった。

 

仲間を信じているとはいえ、自分の出来る事を模索せずに犠牲になるのは誤った判断だ」

 

『…………』

 

「……はい。 もう少し自分でも考えます……」

 

鈴音の言葉に焔と光牙は何も返せず、籠鉄も鈴音の正論に顔を伏せる。

 

厳しい言葉ではあるが、任務の最中にどうしようもなくなって仲間を犠牲にする事と最初から仲間を犠牲にして任務をこなすのでは、似ている様で本質が違う。

 

「――確かに忍の世界では、ルールや掟を破る者はクズ呼ばわりされる。

 

だが、仲間を大切にしない者はそれ以上のクズだ」

 

『……』

 

鈴音の言葉に誰も文句を言わなかった。

 

――いや、言えなかった。

 

その言葉は、それだけの重味を持っていた。

 

「――確かに、忍の世界は常に死と隣り合わせの非情な世界だ。

 

仲間を見捨てなければ生き残れない、任務達成の為に仲間を斬る時もあるだろう。

しかし、生きる事、そして生かす事もまた、一つの強さの象徴だ。

 

 

 

 

 

――それを忘れるな」

 

 

 

鈴音の言葉にそれぞれが思う事はあったが、全員が共通している事は、一つだけだった。

 

それは強くなるという向上心だ。

 

『はい!』

 

「了解や」

 

「……」

 

日影と光牙以外のメンバーは、全員が前向きに先に進む為の事を考えている。

 

日影も感情が無い為分かりにくいが、向上心が無い訳ではない。

 

光牙は返事こそしなかったが、頷きはした。

 

――しかし、次の鈴音の言葉で全員の気分は一気に転落する事になる。

 

「うむ、上出来だ――

 

――では、今後は蒼鬼にはこの500キロの、蒼鬼以外にはこの50キロの重りを付けてもらう」

 

『……え』

 

「――は?」

 

「無論蒼鬼には、自作の重りも最低600キロ追加で付けてもらうがな」

 

「……え?」

 

更に蒼鬼には、特別追い討ちを掛ける。

 

春花が抗議を試みるが、数秒後には後悔する事になる。

 

「す、鈴音先生。それは幾ら何でも――」

 

「……それもそうだな。

 

――幾ら何でも軽過ぎる」

 

『……えっ』

 

「――では、1トンを追加しろ。

 

――光牙と焔、詠は50キロ、他のメンバーは40キロ追加だ」

 

『え、ええええぇぇええええっ!?』

 

光牙と日影以外は思わず大声を出してしまう。

 

とはいえ、二人も驚いている。

 

「鈴音先生。 幾ら何でもそれは無茶や」

 

日影が抗議を試みる。

 

――しかし

 

「――何を言う日影。

 

この程度の重りの修行など、鎧威がやっている修行と比べれば子供の遊びだぞ」

 

『……あっ』

 

――鎧威。

 

蛇女子学園の教師にして、鈴音と互角以上の実力者である男だ。

 

――そして鎧威は最低でも、500キロ以上の重りを付けて修行している。

 

更に、その上で真司蛇や焔を上回る速度で動けるというのだから、人間離れも良い所である。

 

「――お前達」

 

ふと、蒼鬼達の背後から声がした。

 

――振り返ると後ろには――

 

「――青春しているかああぁぁー!!!!」

 

噂の男、鎧威が居た。

 

手には大きな袋を持っているが、それ以上に言いたい事がある――

 

 

 

 

――ハッキリ言おう、喧しい。

 

 

 

「が、鎧威先生。何用ですか?」

 

恐る恐る蒼鬼が尋ねてみる。

 

「――よく聞いた蒼鬼! 実は鈴音さんに重りの修行を提案したのは、何を隠そう俺だからな!!

 

――修行用の重りを大量に持ってきたぞ!!」

 

(……やっぱり……)

 

全員は分かっていた様に溜め息を吐く。

 

すると突然、鎧威は蒼鬼を呼ぶ

 

「それから蒼鬼!」

 

「は、はい」

 

「お前に渡しておきたい物があってな」

 

そう言うと鎧威は、袋から眼鏡ケースを差し出す。

 

中には赤い眼鏡が入っていた。

 

「この眼鏡は特注品でな。 500キロの重さで尚且つ、並みの忍術では壊れない程の丈夫な優れ物だ!

――お前は座学の際には、よく赤い眼鏡を付けていただろう? だったら丁度良いと思ってな」

 

「は、はぁ。ありがとうございます……」

 

蒼鬼は若干引いているが、取り合えず礼を言う。

 

「では、俺は修行中の生徒達を見てくる!」

 

そう言うと、鎧威は袋を置いて出ていった。

 

「昼食を取ったら各自休憩、午後は座学を行う

 

――蒼鬼、しっかり指導しておけよ」

 

「はい」

 

そう言うと鈴音も部屋を後にした。

 

 

 

 

――しかし座学でも500キロの重り付きとは、幾ら何でもハード過ぎる。

 

「――気が休まる時はなさそうですね……」

 

蒼鬼が軽く溜め息を吐くと、時計を見る。

 

時刻は12時30分。

 

そろそろ昼食の時間だ。

 

取り合えず、詠と未来を誘ってみる事にした。

 

「詠さん、未来さん。――宜しければ一緒にお昼などいかがですか?」

 

「うん!私は全然OKだよ――

 

――詠お姉ちゃんはどうする?」

 

未来は快く承諾してくれた。

 

――やはり過去の事が影響しているのか、誰かに誘われる事が嬉しいのだろう。

 

「――も、申し訳ないのですが、私はちょっと――お金がピンチで……」

 

一方で詠は申し訳なさそうに断る。

 

――しかし、蒼鬼には秘策がある。

 

「詠さん、大丈夫です。

 

――詠さんの分のお弁当を作ってきましたから」

 

そう言うと、蒼鬼は詠に弁当箱を差し出す。

 

「――え、ええええっ!?

 

よ、宜しいんですか!?」

 

「はい。詠さんの為に作りましたから」

 

詠が尋ねると蒼鬼は笑顔で返す。

 

本来は我慢強い詠だが、この場合は話が別だ。

 

態々自分の為に作ってくれた物を粗末するのは詠の信条に反する。

 

――何よりも一週間お昼無しはキツイ。

 

そう考えた詠は素直になる事にした。

 

「あ、ありがとうございます!

 

このご恩は何時か必ず!」

 

「いえいえ、私が好きでやった事ですので」

 

「いえ、そうはいきません!!」

 

「――で、ですからこれは――」

 

気付けば言い合いになっていた。

 

――このままでは昼休みを過ぎてしまう。

 

そう判断した未来は、二人に声を掛けた。

 

「ねぇ二人共。早く行こうよ?

 

――昼休みが終わっちゃうよ?」

 

『あっ!』

 

「……やっぱり忘れてたのね」

 

漸く思い出した二人に未来は呆れる。

 

――何故喧嘩でもないのにここまで長引くのだ。

 

と、未来は溜め息を吐く。

 

 

 

取り合えずは天守閣で食べる事にした為、忍部屋を出る事にした。

 

そして蒼鬼が出ようとした時――

 

「――ん?――あれは、光牙君と篭鉄君?」

 

距離が離れているせいで聞き取り難いが、二人が話しているのは聞こえた。

 

そして聞こえてきた言葉は――

 

「――すまなかった……」

 

「――ッ」

 

光牙の謝罪の言葉だった。

 

蒼鬼は光牙の方を向くが、既に話を終えた様で、光牙は忍部屋から出ていった。

 

「蒼鬼?どうかした?」

 

「――いえ、何でもありません……」

 

気になる所はあったが、未来の呼び掛けに反応して天守閣へ向かう。

 

――あれを使えば確められない事は無いが、態々使ってまで無理に確める必要はない。

だが、使わない代わりに蒼鬼は何となくだが、こう思った。

 

――光牙の雰囲気が僅かに変わった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

そして昼休みも終わり、午後の授業となった。

 

「全員揃っていますね?」

 

蒼鬼は赤い眼鏡を掛けて全員の前に立つ。

 

その面構えは教師達と似ている。

 

とても10台の少女とは思えない程だ。

 

――但し、眼鏡も合わせて計2トンの重りを付けている為、内心はかなりキツイ。

 

「今日は、鬼と竜について説明します」

 

「確か安土桃山時代に存在が確認されたのよね?」

 

春花の質問に蒼鬼は頷いて答える。

 

「その通りです、春花さん。

――元々は千年以上昔からそれらしき存在は確認されていたのですが、完全に存在を把握出来たのは安土桃山時代からだったと言われています

 

どちらの種族も強大で、当時の忍達も態々戦おうとはしなかったそうです」

 

蒼鬼の言葉に日影以外の全員が息を飲む。

 

安土桃山時代では、日本の忍の数はそれこそ現代の忍よりも多かったらしい。

 

――その忍達が戦いを避けるとは――

 

「一体どんな能力を使うんだ?」

 

ここで篭鉄が質問する。

 

――忍が戦いを避けるという事は、相応の能力を持っているに違いない。

 

そう考えた篭鉄は真っ先にその質問をした。

 

「竜は殆どが固有の術や性質を持ち、時空に干渉する者もいると言われています。

 

――鬼は主に自然のエネルギーを使う事に特化し、同じ術でも忍とはレベルの違う物ばかりだったそうです」

 

「うおおお!――どっちも凄えな!!」

 

篭鉄は鬼と竜の能力に驚愕しつつも、戦いたいと感じている。

 

それは焔と光牙も同様だった。

 

すると未来が口を開く。

 

「――でもさぁ、確か鬼って――」

 

「――はい……

 

 

 

――3、4年程前に――

 

――鬼は滅びました……」

 

『――ッ!?』

 

蒼鬼の言葉に日影、光牙、春花、未来以外の全員が驚愕した。

 

光牙、未来、春花は知っていた為、取り乱してはいない。

 

日影も驚いてはいるが、特に興味もないので動揺はしていない。

 

「――しかし、一体誰がそんな事を?」

 

疑問に思った焔が尋ねてみる。

 

すると蒼鬼は静かに答えた。

 

「――『鬼喰いの死満津』――

 

――嘗ては名高い悪忍でしたが、現在は抜忍となっています。

 

実力は折り紙付きで、鬼を滅ぼした者故に上層部も危険視しています」

 

「ひ、人が鬼を食べるの……?」

 

未来が僅かに震えながら蒼鬼に尋ねる。

 

「……それは……私にも分かりません……」

 

そして、蒼鬼は申し訳なさそうに答える。

 

――その時、蒼鬼は一瞬だけ表情が暗くなっていたのだが、余りにも短い一瞬の出来事なので、誰も気付かなかった。

 

「妙だな……」

 

焔は腕を組み、考え込む。

 

「焔ちゃん?どうかしたの?」

 

「――今気にする事ではないかも知れんが……

 

――何故忍は鬼と竜を見付けるのにそれ程の時間が掛かったのかと思ってな」

 

春花の質問に焔は表情一つ変えずに答える。

 

――確かに言われてみれば可笑しな話だ。

 

当時は既に滅びた忍の一族も居たというのだから、鬼や竜を見付ける事は不可能とは考え難い。

 

そしてその疑問に答えたのは蒼鬼だった。

 

「それについては、竜は人に化けていたから……

 

――鬼は見た目の判断がつかなかったからではないかと言われています」

 

「見た目?」

 

光牙が疑問を抱く。

 

忍の経験が選抜メンバーの中でも最も多い光牙だが、鬼については殆ど知らない。

 

――故に次の蒼鬼の言葉に驚愕した。

 

「はい。鬼の見た目は人間と瓜二つですから」

 

『――え』

 

「蒼鬼……今何と言った?」

 

「? ですから――

 

 

 

――鬼は人間と瓜二つの見た目です。 それこそ人間と隣りに並ばせても判断がつかない程に人間に酷似しているのです」

 

『えええええっ!?』

 

「なっ!?」

 

「ほう、そうなんか」

 

 

今度ばかりは驚かずにはいられない。

 

あの光牙ですら取り乱している。

 

冷製なのは、話した蒼鬼と日影くらいだ。

 

――すると、未来が慌てて蒼鬼に質問する。

 

「――で、でも、鬼って角が生えてるんじゃ――」

 

「はい。勿論生えています。

――ですが、普段は隠しているので人間と判断がつかないのです。

 

――鬼は本来の力を発揮する時に角を出現させると言われています」

 

「ぜ、全然知らなかった……」

 

未来は驚愕の連続で茫然とする。

 

「大丈夫です。それを教える為に私は居ますから」

 

蒼鬼は安心させる為に笑顔を向ける。

 

その笑顔は見ているだけで人の心を安らげる。

 

「……うん。ありがとう」

 

――事実、未来を心の底から安心させた。

 

 

 

「可愛いわね……」

 

「――え?」

 

――しかし、邪な感情を抱く者もいる。

 

「この可愛さは神がかってる――

 

――いいえ!鬼がかかってる!!」

 

「――えっ?」

 

何やら春花が興奮し出した。

 

蒼鬼は嫌な予感から離れようとするが、春花はそれを許さない。

 

チャクラ糸で素早く蒼鬼を拘束する。

 

「あ、あの春花……さん?」

 

「人形にしてしまいたいわ……!」

 

「え、えええええっ!?」

 

予想外の展開に蒼鬼も動揺を隠せない。

 

 

 

 

――こうして、波乱万丈な一日は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――とある研究所。

 

暁のメンバーである虎紅影と駆鎖薙は、とある人物に呼び出されていた。

 

――そして二人は、スーツ姿で長身、服の上からでも分かる程の筋肉、そして右目の包帯が特徴的な不気味な男に迎え入れられた。

 

 

「――やぁ、よく来てくれたね。

 

――虎紅影、そして駆鎖薙」

 

「――随分と悪趣味な部屋に呼び出してくれたなぁ……

 

 

 

 

 

――道元(どうげん)さんよぉ……」

 

「――駆鎖薙、計画の為です。我慢して下さい」

 

虎紅影と駆鎖薙を迎え入れた男の名は、道元。

 

秘立蛇女子学園の出資者にして、理事長も兼任している男だ。

 

二、三年程前に蛇女子学園の学園長である纏刃という忍が、当時の選抜メンバーの失態によって発言権を失い、代わりに強欲な政治家が蛇女の幹部に名を連ねた。

 

道元もその一人であり、莫大な資金を蛇女に投資する事で蛇女の最高権力者となったのだ。

 

蛇女に出資している者は様々で、その中でも最も多いのが大企業である。

 

道元は非常に珍しいケースで、個人で悪忍育成に協力しており、それでいて出資額は大企業と同等以上という謎の多い人物だ。

 

更に言えば、蛇女以外の忍学校にも投資しているらしく、何が目的か読めない。

 

 

 

 

 

――そして、彼等が現在集まっている場所は、道元の研究所である。

 

リーダーから道元の計画を協力する様に命じられた二人は、道元の居る蛇女へ向かったのだが、道元が見せたい物と話しておきたい事があるというのでこうして足を運んだのだ。

 

しかし研究所の中を見てみると、設備自体は良いが、辺り一帯が血の池になっており、少し遠くから悲鳴や唸り声が聞こえてきた。

 

駆鎖薙は自分で悲鳴を上げさせるなら兎も角、興味も沸かない人間の悲鳴を聞く様な趣味はない。

 

虎紅影も表情にこそ出してはいないが、内心ではさっさと要件を済ませたいと思っている。

 

「……それで見せたい物とは?」

 

「フッ……着いて来たまえ」

 

道元は得意気に笑うと、研究所の奥の部屋へと向かっていった。

 

「ここは究極の強化忍を作る為の研究所さ」

 

「――強化忍?」

 

駆鎖薙は聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 

「簡単に言えば、人体実験で通常の忍が持ち得ない力を得た忍の事さ。

 

この研究所では純粋な人体実験で超人的な実力を得た者、他種族と融合して異形の姿や力を得た者などがいる。

 

そして今日、君達を呼んだ理由は、その何人かを紹介しようと思ったからだ」

 

道元は自身の身の安全を保証する為、暁の計画を確立出来るだけの可能性を持った物を提供しなければならない。

 

恐らくだが、今回の呼び出しはその為でもあったのだろう。

 

そう判断した虎紅影は尋ねる。

 

「……実力は?」

 

紹介するという事はそれなりの実力者か、或いは計画の要になる人材という事だろう。

 

「今はまだまだ発展途上だが、後に君達と同等の存在になる者も少なくない筈だ」

 

道元の言葉に虎紅影は沈黙する。

 

それはつまり、現時点では驚異にはならないが、後に暁を裏切った場合には参戦する可能性がある。

 

であれば、ここは素直に見てみるとしよう。

 

――この機を逃せば、厄介な存在となった時に対処が難しくなる。

 

そう思った虎紅影は、あえて何も言わずに静観する事にした。

 

「ふーん……で、ソイツは?」

 

好戦的な駆鎖薙は、場合によっては好戦出来るかもしれないと考え、戦いたくてウズウズしている。

 

「着いたよ。この部屋の中さ」

 

道元に案内された部屋は、他の部屋よりも数倍は大きく、設備も整っている。

 

そして何より、他の部屋よりも血の臭いが充満し、瘴気が濃い。

 

更に辺りには、人や妖魔の死体がゴミの様に散らばっている。

 

――そして、部屋の中には一人の少年が居た。

 

「調子はどうだい?――蒼馬(そうま)

 

「――問題ありません。マスター」

 

道元が少年に話しかけると、少年は無表情に、それでいて無感情に答えた。

 

「……その少年が?」

 

「そうだ。私の忠実な僕、蒼馬だ」

 

虎紅影が尋ねると道元は得意気に語る。

 

「――ふーん……

 

――そこらの忍学生よりは随分マシだな」

 

駆鎖薙は蒼馬から感じる強さに興味を示す。

 

今戦っても自分が勝つだろう……しかし、隠してはいるが、これ程の闘気を持つ存在なら楽しませてくれそうだ。

 

――すると道元が命じる。

 

「蒼馬、今は一先ず休め――

 

――馴染むまで時間が掛かるだろうからな」

 

「――了解しました」

 

再び無感情に答えると、蒼馬は部屋を出る。

 

駆鎖薙は、蒼馬の後ろ姿を見つめながら薄ら笑いを浮かべ、握り拳を作る。

 

どうやら後に戦う事を楽しみにしているらしい。

 

「――駆鎖薙」

 

「ッ!?」

 

――すると虎紅影が駆鎖薙を睨みつける。

 

駆鎖薙は思わず身震いする。

 

恐らく駆鎖薙の考えを読んだのだろう。

 

「わ、悪かったよ……」

 

「――それで良いのです」

 

駆鎖薙と虎紅影の力関係はハッキリしている。

 

今の駆鎖薙では到底勝ち目がない。

 

故に今は、従うしかない。

 

――すると、虎紅影は道元に尋ねる。

 

「そう言えば――話とは何ですか?」

 

「怨桜血の件で面白い事が分かった」

 

「……面白い事?」

 

駆鎖薙は道元の言葉に首を傾げる。

 

「――もしかしたらだが、人数が足りずとも何とかなるかもしれない」

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――そして数分後。

 

 

 

「――という訳だ」

 

「成る程……」

 

「……ふーん」

 

道元の話を聞き終えた二人は、計画前に思わぬ収穫を得る事が出来た。

 

「――リーダにも確認しておきましょう」

 

「そうだな……」

 

二人は今回の話を赤髪の青年にも通す事にした。

 

――すると道元が質問する。

 

「そうしてくれると此方も助かる。

 

他に此方が注意する事は?」

 

「――そうですね――

 

死塾月閃女学館と『妖魔喰いの亜殺喰』に注意しておいて下さい」

 

「ッ!……月閃に亜殺喰か――忌々しい奴等だ」

 

道元は苦虫を噛み潰した様な表情をする。

 

彼にとっても月閃や亜殺喰は厄介な邪魔者だ。

 

「分かった。此方も注意はしておこう」

 

「……なぁ――他の奴等も見せてくれよ」

 

話を終えると駆鎖薙が道元に要求する。

 

駆鎖薙としては、計画よりもそちらの方が余程気になるという物だ。

 

「――そうだな。では次は――」

 

 

 

 

 

 

 

形は違うが、目的の為に悪意と悪意は手を結ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

善は勿論、悪でさえ飲み込む程の闇は存在する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――数週間前。

 

京都の何処かにある洞窟。

 

洞窟の中は血の海になっており、辺りには人の腕や足、臓器、目、頭蓋、骨まで落ちている。

 

普通の人間は愚か、忍でさえも立ち寄りたくないと感じるであろう、不気味な場所だ。

 

更にその近くには、1人分の人影と何かを食べているかの様な物音がしている。

 

「――アア……不味い」

 

――その人影は1人の青年だった。

 

――黒いフード付きのマントを被り、左目に眼帯をした薄い金髪の青年が、妖魔の屍を椅子に座り込み、人の死体を喰らっている。

 

その死体の人間は、全員忍だ。

 

この青年は、ハッキリ言えば人を食べる事を何とも思っていない。

 

この青年にとって忍とは、弱肉強食で食物連鎖に溢れた世界だ。

 

圧倒的な力を持つ強者が勝利し、軟弱な力を持つ弱者が敗北する。

 

勝者は全てが肯定され、敗者は全て否定される。

 

自分は忍に勝った、だから正しい。

 

故に弱者が語る夢は大嫌いだ。

 

皆に笑顔でいて欲しい、殺し合いは間違ってる、本当の正義は見返りを求めない、悪が滅べば善だけの世界になる、強さも仲間も大事にしないとならない、忍とは刀と盾でなければならない。

 

――思い出すだけで不愉快になり、頭に血が上り、無性にイライラしてくる。

 

青年は残った獲物を喰らう為、立ち上がった。

 

すると突然、忍結界が発動した。

 

「――お前か」

 

青年は、特に表情を変える事なく、その相手に話しかける。

 

自分を正面戦闘で殺せる忍など、奴等を除いてそういるとは考えにくい。

 

であれば、暗殺で殺しに来るのが定石だったのだが、どうにも戦闘目的ではないらしい。

 

これ程人目に付かない場所なら、例え結界を張らずとも忍の存在に気付く者などそうはいない。

 

故に今までの忍は、忍結界を張らずに自分を暗殺しに来ていたのだ。

 

しかし今回は、まるで殺意を感じない。

 

長年の戦闘、そして抜忍になり何度も狙われる事で殺気などに非常に敏感になった為、相手に戦闘の意欲はない事が分かる。

 

そもそも自分は、この結界の主を知っている。

 

「よぉ……久し振りだなぁ」

 

――そして、青年の前に大柄な白髪の男が現れた。

 

刺のある大剣を背負い、額に大きな傷痕があり、包帯だらけの右腕、全てを呑み込む海の様な青い瞳と全てを焦がす雷の様な黄色の瞳。

 

――心当たりは1人しかいない。

 

 

 

「――死満津」

 

大剣を背負う男の名は死満津。

 

『鬼喰いの死満津』と呼ばれ、鬼族を里もろとも滅ぼし、忍の頂点カグラを15名殺害した男だ。

 

「一体何の用だ……?」

 

青年は死満津に用を尋ねる。

 

対して用もないのにこの男が態々来るとは、とてもではないが、考えられない。

 

「お前に伝えておこうと思った事があってな。 何そんなに悪い話じゃない

 

お前の新しい獲物の人材紹介さ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――亜殺喰」

 

 

死満津は青年の事を亜殺喰と呼んだ。

 

――そう

 

この薄い金髪の青年こそが、忍の頂点カグラを400人以上殺害し、2000人以上の忍を地獄に送り、暁も警戒する程の男。

 

通称『妖魔喰いの亜殺喰』である。

 

「獲物の紹介……?

 

――俺に取ってはお前もその獲物だという事を忘れてないか……?」

 

亜殺喰は獲物を見る目を死満津に向ける。

 

亜殺喰にとっては、死満津は精々顔見知り程度の感覚だ。

 

親しい訳でもなければ、態々会いに来る様な仲の良い間柄でもない。

 

故に亜殺喰は、死満津を敵視している。

 

「まぁまぁ、落ち着けって――」

 

「――そう思ってるなら消えろ――

 

――イライラするんだよ……」

 

亜殺喰は、鬱陶しいと言わんばかりに、死満津を睨みつけるが、死満津は気にしていない。

 

「――両姫(りょうき)と関係ある者だと言ってもか?」

 

「ア?」

 

――両姫(りょうき)

 

その名前を聞いただけで、先程以上の怒りが湧いてくるが、取り合えず話を聞くことにした。

 

「――誰の事だ?」

 

「死塾月閃女学館は知ってるよな?」

 

月閃女学館(げっせんじょがっかん)

 

――確か善忍最高峰の忍学校だったか。

 

「それがどうした?」

 

「――そこには両姫の妹と弟子がいる――

 

――しかも弟子は、あの黒影の孫だ」

 

「――ッ!」

 

両姫の妹。

 

ただそれだけでも殺す理由には足りる。

 

そして何より――

 

 

 

 

両姫の弟子で黒影の孫。

 

 

 

――最早理由には充分だ。

 

 

 

 

「前言撤回――感謝するぜ――

 

久し振りに殺し甲斐がありそうな奴を知れた」

 

「そうかい――じゃあ俺を狙わないでくれ――」

 

「――断る」

 

亜殺喰は死満津の頼みを一蹴する。

 

「……ああ――そうかい……」

 

死満津は盛大に溜め息を吐く。

 

――どうやら狙われる事には変わりならしい。

 

すると亜殺喰は突然咆哮を上げる。

 

「アアァァアアァァアアァアアアア!!!!!」

 

 

 

――すると辺りから空間の穴が開いた。

 

「ッ……! 相変わらず出鱈目だな……」

 

死満津が呆れていると――

 

「何とでも言え。

 

――俺は行く」

 

そう言うと亜殺喰は穴の中に消えていった。

 

 

空間の穴が閉じ、暫くは無言の死満だったが、軈て薄い笑みを浮かべる。

 

「……まぁ亜殺喰の手でアイツが消えれば、俺としては万々歳だけどな」

 

そう言うと、死満津も洞窟から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

――少しずつ、歯車は狂い出す。

 

――或いは狂った歯車が回り出す。

 

 




と、こんな感じです。

終わり方……酷かったかなぁ……

長くなり、申し訳ありませんでした。

因みに現在の蛇女選抜メンバーの実力ランキングは以下の通りです。

一位 蒼鬼

二位 光牙

三位 真司蛇

四位 焔

五位 春花

六位 日影

七位 詠

八位 篭鉄

九位 未来

但し、これはあくまでもこの話の段階です。なので幾らでもランキングは変化します。

真司蛇、春花、日影は、今の所全員がほぼ互角の実力ですが、後に真司蛇は万華鏡写輪眼を開眼するので、結構な延び知ろがあります。

詠と篭鉄も低めですが、二人に実力差は殆ど無く、未来も他のメンバーより経験が浅いだけで、決して弱くはないです。

それから蒼鬼は幻術無しでは勝てなかったと言っていましたが、実はまだ奥の手がありました。

光牙と焔の変化は原作よりも少し早めにしたいと思ったので、こう言う話になりました。

今回の光牙は、既に捨てた筈の自分を思い出させる蒼鬼が居た為に、非情に徹しようと必死になっていたのです。

それからまさかの蒼馬の先行登場です。

暁サイドも書いていて楽しいですね。


鎧威のモデルはゲキマユ先生こと――

NARUTOのマイト・ガイです。

それから鎧威は鈴音先生の事を鈴音さんと呼んでいますが、実は鈴音先生よりも年下です。

蒼鬼の闇刀はブラッククローバーのヤミ・スケヒロをモデルにしております。

蒼鬼の氷の蛇に関しては、雪泉、雅緋とかなり関係があります。

死満津のモデルは、仮面ライダー555に登場した仮面ライダーカイザこと草加雅人です。


亜殺喰のモデルは、仮面ライダー龍騎に登場した最悪のライダーとされる王蛇の変身者――

――浅倉威です。


質問、感想、誤字脱字報告をお待ちしています。


では、次回も楽しみにして下さると幸いです。

焔の仲間に対する考えを改める時期は

  • 原作より早めが良い
  • 原作と同時期で良い

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