閃乱カグラ 少年少女達の希望と絶望の軌跡   作:終末好きの根暗

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お久し振りです。

遅くなり、大変申し訳ございませんでした。

リアルが忙しくなり、軽いスランプになっていたものでして……

今回は、前回の切り方が強引過ぎたかな?と思いましたので、座学の続きを初め、蒼鬼の仕事振りや、蒼鬼の過去の一部、蒼鬼の右目のリスク、春花の株上がりなどを積めてみました。

それから今回は、人外の種族が忍の世界でどの様に捉えられているのかを現状で明かせる限り載せました。

あと戦闘シーンは無いです。

今回はシリアスが少しだけ強めの筈なのでそれなりに重くなってると幸いです。

では、どうぞ

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第3話 忍と他種族

 

 

――蒼鬼が春花に拘束されて数分後。

 

 

「――お待たせしました。 少々トラブルがありましたが、授業を再開します」

 

『……』

 

春花の拘束から何とか脱出した蒼鬼は、春花に軽い説教を行い、罰として来週までに反省文を7枚書くように指示を出すと、直ぐ様何事も無かった様に真剣な表情に戻った。

 

――しかし、どういう訳か全員が沈黙している。

 

「? どうかしましたか?」

 

『……いや、何でもないです』

 

「……?」

 

――明らかに可笑しい。

 

何か妙な事でもしてしまったのだろうか?

 

複数人が同じ態度を貫き通すなど、そうそうある事ではない。

 

それも、良くも悪くも個性的な面々の集まりである蛇女の選抜メンバーとなれば尚更だ。

 

しかし、今回は日影と光牙以外の全員が同じ態度を取り、二人も何も言おうとしていない。

 

――どうしたと言うのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

――対して選抜メンバーの心情は、日影を除いた全員が同じ事を思っていた。

 

――鬼仏を見たのだと。

 

普段は優しく温和な蒼鬼だが、笑顔のまま春花に説教する様は、それはもう恐ろしかった。

 

怒った蒼鬼の恐ろしさと来たら、思い出すだけで全身が震え、冷や汗が流れる。

 

強気な焔や光牙は勿論の事、日影も何となくではあるが、蒼鬼を怒らせてはいけないという事は理解したらしい。

 

 

 

 

――そして、怪しまれては自分達まで怒られ兼ねないと判断した未来は、蒼鬼に質問する事でこの緊張感溢れる状況の打開を試みる。

 

「そ、蒼鬼。 質問したいんだけど……」

 

「はい。 何でしょうか?」

 

――上手く言った。

 

どうやら蒼鬼の意識を逸らして怪しさを消す事には成功したらしい。

 

そう思った未来は心の中でガッツポーズを取ると共に蒼鬼に質問する。

 

この質問は本当に聞きたい事だったので、ここでしっかりと問いたださねばならない。

 

故に未来は尋ねた。

 

その発言が軽率な物とも知らずに――

 

「鬼って、何で滅ぼされたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――。

 

――――――――――――――。

 

――――――――――――――――――――。

 

 

 

 

「――え?」

 

蒼鬼は思わず目を丸くして愕然とする。

 

――自分の中の世界が止まった。

 

そんな錯覚を覚える程に思考がフリーズした。

 

訳が分からなかった。 頭が追い付かなかった。 死満津に滅ぼされた事は説明した筈。

 

一体何故そんな質問を?

 

「その死満津って忍に鬼が滅ぼされたのは分かったんだけど、当時はまだ悪忍だったんでしょ? だったら何で上層部は鬼を滅ぼす様な事をさせたのかな?って思ったんだけど……」

 

「――」

 

――ああ、そうか。

 

確かに未来さんの質問は尤もだ。

 

何故滅んだのかは説明したが、何故滅ぼされたのかは説明していなかった。

 

しかし、知っていても答えられない事もある。

 

「……申し訳ありませんが、私は理由を知っていますけど、この事は機密事項ですので――」

 

「う、うん……」

 

未来も触れてはならない部分に触れてしまった事を理解したのだろう。

 

――伝える事も出来たのだが、そんな事をすれば何をされるか分かった物ではない。

 

そして何より、蒼鬼は答えたくなかった。

 

しかし、取り合えずは一端収ま――

 

「なぁ、蒼鬼さん。 儂も聞きたい事があるんよ」

 

「? はい何です――」

 

「鬼もやけど、忍の世界で人外の種族はどんな扱いを受けとるんやろうか?」

 

「――――」

 

収まらなかった。

 

収まってほしかった。

 

しかし、まさか追い討ちが来るとは……

 

――とはいえ、相手が感情の無い日影では文句を言う気にもならなければ、自分の身勝手で日影を困らせたくもない。

 

日影も悪気がある訳ではない。

 

そう考えた蒼鬼は、重い口を開いた。

 

――そして、命令されている通りの、語りたくも無い偽りの出来事を語り出す。

 

「……そうですね。 簡単に言えば、差別対象とされている……というのが正しいでしょう」

 

「差別対象?」

 

ここで声を上げたのは真司蛇だ。

 

他種族の事を殆ど知らない真司蛇からすれば、何故そう言った扱いを受けるのか分からない。

 

それは仕方のない事だ。

 

――故に蒼鬼も、言いたくもない言葉を使いながらも説明する。

 

「……はい。 この世界には人間を初めとして、鬼、竜、そして以前にもお話しした獣人や妖怪と様々な種族が存在しています。 ――その中には、嘗て忍の敵として立ちはだかった種族だって居ますし、人間の知らない妖術や禁術、他者の心を読める、そう言った種族も存在しています。

 

――特に鬼は、忍との争いでは9割以上は勝利し、戦国時代に現れたという邪神衆団、六道天魔王(りくどうてんまおう)に支えていた時期もあったと言います。

 

――どのような理由で滅ぼされたのかは言えませんが、そんな気味の悪く、醜く、恐ろしい生物である鬼が人類に害を与えると判断されても……差別されても……滅ぼされても……何ら可笑しくはないでしょう……」

 

六道天魔王(りくどうてんまおう)

 

忍の神話に伝わる六人の神とされている。

 

それぞれが人間では到底辿り着けないであろう領域に達しており、その気になれば一日と掛からず人類を滅する事が出来たらしい。

 

蒼鬼も余り知らないが、ここまでは有数の忍学校の選抜メンバーになら話しても良いと言われている為、特に問題はない。

 

――しかし自分は何て事を口走っているのだ。

 

……よりにもよって誰よりも醜い自分が、どうして他者を蔑む事が出来る。

 

そんな資格、自分にはないと言うのに……

 

「……まぁ、確かに邪神に支えてた種族なんて居たら、そりゃあ私も怖いよ……」

 

「……単なる昔話って訳でもなさそうね」

 

どうやら、未来と春花は蒼鬼の説明に幾分か納得出来る所があったらしい。

 

他の面々も、『他種族が人間に害を与えても可笑しくない存在』というイメージが頭の一部にすり付いた事だろう。

 

 

――これで良い。

 

他種族は人間に害を与える存在だという事を焔達に怪しまれない程度に教えておけ。

 

蒼鬼はそう命令されている。

 

蛇女子学園の出資者兼理事長にして、蛇女子学園の最高権力者である道元からの命令に、監督生という立場を持っていても生徒にすぎない蒼鬼は逆らう事など出来ないのだ。

 

――そもそも逆らうなんて真似をすれば、監督生の立場を解雇される事は愚か、蛇女に居る事も、姉を守る事も出来ない。

 

故に蒼鬼は、道元の命令通りに語った。

 

――途中で春花に捕まったり、言いたくない事を質問されるという事態があったが、言われた事はこなしたので特に問題はない筈だ。

 

そんな事を考えていた蒼鬼だったが、時計を見るとかなりの時間が経過していた。

 

「――では、次に学習するのは――」

 

そして蒼鬼は授業を再開する。

 

自分の気持ちなど関係ない。

 

そう言わんばかりに、蒼鬼はひたすら本心を隠しながらも授業を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――そして、午後4時。

 

「……それでは時間になりましたので、今日の授業はここまでとします。

――春花さん。 しっかりと反省文を提出して下さいね?」

 

「うっ……わ、分かってるわよ。 蒼鬼ちゃんって普段は優しいのに、こういう時は人一倍厳しく指導するわよね……」

 

「そうでなければ、とても監督生など務まりませんからね。

 

反省文は7枚ですので、お忘れなく。

 

――それから勉学も怠らないで下さいね。」

 

そう言うと蒼鬼は忍部屋を後にする。

 

「……はい」

 

春花は深く反省した様に頭を下げる。

 

そんな春花に未来が声を掛ける。

 

「春花様、大丈夫?」

 

「……まぁ、今回は少し遊び過ぎたわね……」

 

春花としても反省文7枚は結構な痛手である。

 

――反省文の内容は、監督生か教師が最低でも一人以上が確認し、見直せる余地があるかを判断される。

 

指導に関しては厳しい一面を持っている蒼鬼が相手となれば、そう簡単にはいかない。

 

 

――しかし、今現在は新術の開発に専念していたいのだから、こんな所で躓いていられない。

 

「……まぁ、気長にやってみましょうか」

 

「うん、頑張って……」

 

未来から同情のエールが送られる姿は惨めその物だが、春花は特に気にする事なく忍部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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――それから時間と場所は移る。

 

秘立蛇女子学園の理事長室まで蒼鬼は道元に呼び出されていた。

 

理由としては、授業の成果の報告と仕事の追加命令との事なので、特に表情を変える事なく蒼鬼はそれに従う。

 

「……ふむ。 上出来と言った所だろうか……監督生という立場を考えれば当然の結果だが、君の授業の成果は着々と上がっているよ」

 

「……いえ、私など――」

 

「その通りだ。 君の実力などたかが知れてる程度の物でしかない。 君は()()()()()()()()()()()であるという事を除けば、他の生徒の足元にも及ばない価値の無い劣化版の欠陥品でしかない」

 

「……はい」

 

――自分でも分かっていた事だが、やはり他者にそう言われると来るものがある。

 

しかし、それを決して口にしない。

 

口にしてはいけないのだ。

 

「――しかし、他の生徒と違い君は、自分の価値に一早く気付いている。 この点は十分に評価に値する。

 

――忍とは駒。 人外とは捨て石。 君はそのどちらにも当てはまるのだから、何も考えず、ただ私達上層部の駒として働き、捨て石として朽ち果てるまで動けば良いのだよ」

 

「……はい。 心得ています」

 

自分は価値の無い存在。

 

遠回しにそう言われているが、蒼鬼はそれを否定しようとは思わなかった。

 

蒼鬼自身も自分に存在価値は無いと思い、それを否定する者が現れても、自分がそれを許さない。

 

――蒼鬼自身が自分の事を許せないのだから。

 

そんな事を考えていた時だった。

 

 

 

――蒼鬼に取って衝撃的な命令が下る。

 

「それから、もし光牙が私に反抗する態度を見せた場合は君に光牙を始末してもらう」

 

「ッ!?」

 

「君なら出来るだろう?」

 

「……はい。 勿論です」

 

――表面上では冷静な蒼鬼だが、本心は真逆。

 

蒼鬼はかなり動揺していた。

 

逆らう態度を見せたら仲間を斬れ、忍の世界の上層部では当たり前の事だが、いざその時が来るとなればかなりキツい。

 

仲間を自分の意思で斬る。 口で言うのは本当に簡単な事だが、仲間を斬った時の絶望に、他者の大切な存在を消す事の罪深さに、果たして自分は耐えられるのだろうか?

 

(………いや、何を今更……)

 

仲間殺しなど当の昔に犯した罪だ。

 

ただそれを、自分の意思で行うかどうかだけ……

 

 

そんな事を考えている蒼鬼だったが、道元は気にする事なく話を続ける。

 

「それから追加で頼みたい仕事があってね」

 

「……はい」

 

――どうやらまだまだ続きそうだ。

 

などと頭で考えていたが、道元の話を無視する訳にもいかないので、話を聞き終えてから今後について考える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

――そして、午後9時。

 

「それでは、失礼致します」

 

道元の話から漸く解放された蒼鬼は、理事長室から退室して寮に戻っていった。

 

「……上手く行くといいがな」

 

――そして残った道元は、自身の一番のお気に入りである酒をグラスに注ぎ、これから先の計画の事を考えていた。

 

「現在の光牙であれば、態々蒼鬼に始末させずとも私一人でどうとでも出来るが、万が一にもアレを使って計画に支障が出ては不味い。

 

――やはり光牙を確実に始末するには、蒼鬼か或は真司蛇か蒼馬がベストだろうか……」

 

そう考えていた道元だったが、突然脳に強い異変を感じた。

 

これは忍の能力の一つ、念話だ。

 

場所によってはテレパシーとも呼ばれており、自分の意思を言葉として相手の脳に直接送る事が出来る術だ。

 

『――やぁ、道元。 久し振りだね』

 

「ッ!? ……こ、これはこれは、貴方様が一体何のご用で……」

 

 道元も慌ててグラスを置き、畏まる様に敬語口調になっている。

 これだけで道元と念話相手との上下関係などは、分かりきっている。

 

 相手は道元よりも上の存在。

 

 蛇女子学園の最高権力者である道元が、これ程までに動揺する相手は一体何者なのか。

 

『蒼鬼の方はどうなっている?』

 

「あ、貴方様の指示通りに人外の種族を蔑む様に説明させ、貴方様の思惑通り、此方に逆らう様子を全く見せておりません」

 

『そうかい。 なら良かった。 彼女にはそれなりの責任があるからね。

 

――出来る限り苦しんでもらわないと』

 

 道元の念話相手は何処か楽しそうな声色で蒼鬼の苦しみを望んでいる。

 

「ほ、他にご用件は……」

 

『ああ。 そろそろ真司蛇の方も良い頃合いだと思っていたし、半蔵の超秘伝忍法書を奪え。

 

 ――そして真司蛇に苦しみを与え、万華鏡写輪眼を開眼させる。

 

籠鉄の方は時間が掛かるだろうが、今半蔵にはあの没落した竜の少年が居る。

 

かつてライバルだった彼とぶつかれば、籠鉄も次第に目覚めるだろう』

 

念話相手は、尚も変わらぬ楽しそうな声色で道元に指示を出す。

 

「……御意」

 

道元もそれに従う素振りを見せる。

 

今彼に逆らったとしても、自分如き簡単に捻り潰せるだけの力量差がある。

 

だから今だけは耐えるのだ。

 

『君から僕に報告事はあるかい?』

 

「……蒼鬼が今日の戦闘訓練で、貴方様が言っていた右目の能力を使ったようです」

 

『へぇ、そうかい』

 

念話相手の男は、やはり楽しそうな声色で語り続けている。

 

「そ、それ程までに喜ばしいでしょうか?」

 

『――ああ。 あの赤い眼は僕が彼女に仕組んだ物だからね。

 

今はまだ幻術程度にしか扱えていないが、あの眼の本当の力を知り、それを使いこなすまでに至れば、彼女は正真正銘の化物となり得る。

 

何よりも、使った代償が自分に取って過酷な出来事を夢に映すというのがたまらなくてね。

 

しかもその時の痛みも全て再現可能。

 

まぁそれは蒼鬼だけの特権なんだけど、少なくとも今日の彼女は苦しみの夢の中さ』

 

「な、成程……」

 

道元は、念話の男から蒼鬼の目に特殊な力があるとだけ聞いてはいたのだが、代償などの興味の無い事などには耳を傾けていなかった。

 

しかし、それ程のリスクがあるのなら蒼鬼を計画に使うのは避けるべきだろうか?

 

そんな事を考えた時だった。

 

『道元。 そろそろ切るけど、しっかりと働いて役立ってくれよ』

 

「御意にございます。

 

 

 

 

 

 

――斎藤様」

 

道元がそう言うと、脳の異変が元に戻った。

 

どうやら念話が切れたらしい。

 

「――ッッ!!」

 

そして念話が切れると同時に、道元は血が滲み出る程に拳を強く握りしめる。

 

「……貴様に邪魔はさせん。 今に見ていろ。

 

 

――斎藤、貴様を何れ排除してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ――道元が斉藤との念話を行っていた一方。

 

 蒼鬼は寮の自室に戻ると、直ぐに明日の準備を済ませて睡眠に入った。

 

 しかし、蒼鬼は奇妙な夢を見ていた。

 

 蒼鬼の目に映ったのは、何処かの薄暗い森が火の海に飲まれ、次々と人間らしき存在が忍と妖魔に殺されていく光景だった。

 

 ――そして蒼鬼は、この光景を知っている。

 

 

「――これは……あの日、あの時の……」

 

 

 蒼鬼は震えながらこの光景を見ている。

 

 ――見ている事しか出来なかった。

 

『早く死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!!

 

 

 

 

――早く!さっさと!死ねやああああああああああっっっ!!!!!!!』

 

「ッッ!!!!!!!!?」

 

背後から男性の大声が聞こえ、後ろを振り向いて見るとそこには――

 

「ギャーギャー喧しいんだよ」

 

「私達の妹に手を出した挙げ句に仲間まで殺害したんだもの、無事で帰れると思わない事ね」

 

「黙れやあああああああああ!!!!」

 

大剣を持った大柄な男と赤い髪の少年、そして桃色の髪の少女が対峙していた。

 

その光景を見た蒼鬼は、目に涙を溜めて、肩を震わせている。

 

――そして、重い口を開く。

 

「……兄様、姉様……」

 

蒼鬼が見ている光景は、蒼鬼に取って忘れたくても忘れられない程の心の傷を負わせた、あの地獄の日の光景だ。

 

すると大柄な男が動く。

 

それに合わせて二人も構える。

 

「人間様に逆らうなやああああああ!!!!」

 

「――来るぞ!」

 

「ええ」

 

――そして、三人の技の衝突で竜巻が起こる。

 

「ッ! うわああっ!!!?」

 

蒼鬼はその竜巻に巻き込まれ、空中に放り投げられてしまう。

 

――そして蒼鬼は、地面に向かって真っ逆さまに落下していく。

 

「――」

 

しかし、蒼鬼は体勢を戻そうとしない。

 

蒼鬼はこう考えてしまったのだ。

 

「――このまま死ねば良い。 私何て要らない。

 

私のせいで兄様と姉様が傷付いた。

 

仲間達が死んだ。

 

兄様も姉様も傷付かずに私だけが苦しむのであれば、それがどんなに嬉しかった事か……

 

――もしもここで、死ねるなら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――本望だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そう言おうと思った瞬間、意識は戻った。

 

「――ッッッ!!!!!!!!!?」

 

そして意識の戻った蒼鬼は、あの光景を思い出したのか、恐怖で体が震えている。

 

「……また、あの日の夢……」

 

思い出すだけで全身が震え、息苦しくなり、吐き気に襲われる。

 

「……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……!」

 

――怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――怖い怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――怖い怖い怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 

 

 

今の蒼鬼の心には負の感情しかない。

 

失う事の恐怖。

 

狙われる事の恐怖。

 

奪われる事の恐怖。

 

奪う事の恐怖。

 

死なせる事の恐怖。

 

失った時の絶望。

 

奪われた時の絶望。

 

死なせた時の絶望。

 

 

 

蒼鬼の心は恐怖と絶望の底に落ちていた。

 

――それでも何とか覚束無い思考を働かせ、状況の改善を試みる。

 

「ハア……ハア……ハア……ハア……ハア……

 

……何とか一端、落ち着かないと……」

 

蒼鬼は鏡に向かい、自分の顔を覗き込む。

 

「――」

 

そして暫くすると――

 

「ウッ……!」

 

吐き気から口を押さえる。

 

 ――醜い姿。

 

 冷や汗が流れ、髪も乱れ、息を荒げ、嗚咽を吐き、目に涙が溜まり、恐怖で歪んだ醜い顔。

 

 少なくとも蒼鬼は、自分の顔を誰よりも醜い顔だと思っている。

 

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 

 

命令されたからという理由だけで、他種族の事を蔑む様な、他種族の事を差別するような、暴言を平気で吐く事が出来る自分が、醜くない訳がない。

 

 

すると、蒼鬼は唸り声を上げる。

 

「ッ! ああああああっ!!!!」

 

 

刀を召喚し、思い切り手首を切り付ける。

 

「……グッ……う……ぅぅ……」

 

大量の血が勢いよく落ちる。

 

数秒で血の水溜まりが出来た。

 

切り付けた手首は見るからに痛々しく、常人が見れば吐き気に襲われる事だろう。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ……!」

 

 

しかし、手首の傷は見る見る塞がっていく。まるで初めから無かったかの様に。

 

 

 それを見た蒼鬼は――、

 

「ッ!! ああっ! ううっ!! あああああああああああああああっ!!!!」

 

 服の袖を捲り、腕に刀を突き刺す。

 

 

更に、刺した箇所から勢いよく手首まで振り落ろす。

 

 

「……ッ……ああああぁぁっっ!!!!」

 

 

 腕は真っ二つに斬り落とされ、先程とは比較にならない程の大量の血が流れる。

 

 しかし、その傷もまた元に戻る。

 

 更に、床に落ちていた大量の血も消え、斬り落とした腕もまた完全に元に戻った。

 

 

「ッ……ッッ……!!!!」

 

その光景を蒼鬼はおぞましい物を見るかのような視線で睨み付ける。

 

「…………痛い」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

「痛いよぉ……ッ……ッッ……!!」

 

蒼鬼は腕を抑えながら、小さな声でそう呟く。

 

 

 

 

 

――更に暫くすると、鏡に映る自分の赤い右目が視界に映った。

 

「……この眼は、一体……」

 

蒼鬼はこの右目が嫌いだった。

 

この目と()()()のせいで、何れだけ苦しめられてきたのか分からない。

 

この眼を使い始めてからというもの、その日の夜には必ずあの日の光景を夢で見る。

 

場合によっては数日間続く時もあった。

 

――そして能力もだが、そもそもこの眼その物が気味の悪い物なのだ。

 

仲間と違い、この目は自分だけだった。

 

他の者は全員が両目とも同じ色で、誰一人として同じ眼の持ち主は居なかった。

 

――何故自分だけが他と違う。

 

私がこの眼を持っているせいで、家族である兄様と姉様も僅かに差別を受けた。

 

――何故自分だけが周囲を困らせ、苦しめる。

 

 

 

言える事は一つだけだった。

 

「……この赤くて不気味な右目は、どれ程能力が強くても多用したくはない……使い続ければ、もっと不吉な事が起こる気がするから……」

 

この眼は危険すぎる。

 

使う度に苦しめられる。

 

一度の使用の代償が大きすぎるのだ。

 

 

 

「――」

 

すると蒼鬼は沈黙する。

 

語る事が無くなったのか、壊れた様に動かない。

 

「――ッ」

 

――暫くすると蒼鬼は、ガクンと膝を付く。

 

簡単な話、蒼鬼も限界だったのだ。

 

忍としての実力はあれど、所詮蒼鬼はまだ16歳の少女にすぎないのだ。

 

精神が何時限界を迎えても可笑しくない。

 

――そして、蒼鬼は両手を合わせると同時に目を閉じながら考える。

 

 

――これは罰だろうか?

 

醜いまま生きるなという罰だろうか?

 

他種族を愚弄するなという罰だろうか?

 

人でない物が人と共に生きてはならない、死ななければならないという罰だろうか?

 

自分だけ生きるなという罰だろうか?

 

「――分からない」

 

私は一体何処から間違えたのか……

 

もう分からなかった。

 

だからもう、願うしかない。

 

恥を承知で祈るしかないのだ。

 

――そして蒼鬼は、重い口を開き出した。

 

 

 

「――お願いします」

 

どうかお願いだから――

 

 

「どうか私を許して下さい」

 

こんな醜い心の持ち主である私を。

 

こんな穢れた魂の持ち主である私を。

 

他種族を愚弄した愚かな私を。

 

一番死ぬべきなのに生きてしまった私を。

 

醜いやり方でしか生きられない私を。

 

この世界の誰よりも弱い私を。

 

 

 

 

 

 

――そして何より

 

 

 

 

 

「気味の悪い、醜い化物である私を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――どうか許して下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

――翌日の午前4時。

 

秘立蛇女子学園の資料室。

 

現在蒼鬼は、机の上で書類の整理をしていた。

 

昨日の夜に道元から追加の仕事として、選抜メンバーを初めとした生徒達の情報を纏めておくように指示されたのだ。

 

とはいえ、これは毎月の下旬に定期的に行っている作業なので、特に問題はない。

 

――寧ろ心配なのは、蒼鬼の精神の方である。

 

結局あれから眠る事は出来なかったが、暗い顔ばかりしていると仕事に支障が出かねない。

 

そう判断した蒼鬼は、何時もの様に監督生として仕事をこなす表情のまま作業を行う。

 

蛇女子学園の全校生徒は、中等部も含めれば約8000名であり、その生徒達の過去の記録、授業や任務の成績等を一人辺り10枚で纏めなければならない。

 

つまり、約8万枚の書類をチェックしなければならないのだが、午後はそれとは別に、焔と共に中途入学者の書類をチェックしなければならない。

 

つまり、午前の間に8万枚の書類を整理しておかなければならないのだ。

 

「中等部一年の小雨砂(さうさ)さん。ランクは下忍。砂と水を使った遠距離戦法を得意とし、水で攻撃や回避、砂で防御や拘束を可能とする。

 

――一年生ながらも中等部で遠距離においては5位以内に入るなど、突出した実力者である。

 

――その反面、体術などの近距離戦法はやや苦手であり、本人もそれを自覚していて、現在は私か鎧威先生が体術指南の役を請け負う形で修行中。

 

――少しずつ体術のスキルも上がっている為、近距離の弱点を克服すれば今後の成長に更なる期待が持てる――」

 

更に書類の中には、監督生としての視点でその生徒の長所や短所、改善点や問題点、成長の見込み等を細かく書かなければならない。

 

――しかし、蒼鬼はそれを嫌な顔一つせずに黙々とこなしている。

 

同じ様な仕事は選抜筆頭の焔にも回ってくる事もあるが、ここまで多く無い上、焔は書類関係は苦手且つ嫌いだった。

 

因みに、ストイックな蒼鬼はこの状況でも重りを付けており、動きながらの修行は影分身と水分身を使い、合計10人の分身が行っている。

 

――何故態々自分を追い込む様にするのか、それは昨日のチーム戦が関係していた。

 

あの戦いで選抜メンバー全員が格段の進歩を遂げていた事を実感した蒼鬼は、分身の量を増やした上で修行の量を今までの3倍に引き上げるという危険な方法で修行をしていた。

 

――もしも、一番弱い何て事があれば監督生の立場を解雇されてしまう。

 

監督生としての最低条件は、選抜メンバー筆頭と同等以上の実力である事と座学でトップの成績を収める事である。

 

座学の方面は予習、復習を何度も行い、トップの成績をキープし続けているのでそれほど問題点と言える物はないが、修行の方面は焔達も修行の量を大幅に上げていると聞いた。

 

更に監督生の仕事の中には、修行や勉学を同時に行ってはならない物もある為、修行の量が焔達と比べてもどうしても劣ってしまう。

 

――そう考えると、無理にでも修行の量を上げなければ焔達との実力差が開いてしまい、とても追い付けないだろう。

 

故に蒼鬼は、無謀とも言える方法で仕事と修行を同時にこなしている。

 

しかし、蒼鬼の考えは合理的ではあれど、精神状態を考えれば自分を苦しめているだけにしか見えないというのは、何とも皮肉な事だ。

 

 

「……いえ、関係ありません」

 

 

蒼鬼は作業スピードを上げて書類のチェックと整理を行う。

 

勿論、急ぎつつもミスの無いようにチェックしているので、適当には行っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして約2時間が経過し、時刻は午前6時。

 

「――同じく、二年生の魔護異血(まごいち)さん――

 

――ランクは上忍。

 

――血と呪術の扱いに長けており、中等部でも最強の実力者である――

 

――彼女は様々な種類の血を多数所持しており、血液型によって能力に変化が発生――」

 

「――あっ、蒼鬼ちゃん。 おはよう」

 

「! 春花さん。おはようございます」

 

資料の整理を続けている蒼鬼の近くに、作文用紙を持った春花がやって来た。

 

蒼鬼もそれが目に入り、作業を一時中断する。

 

――そして蒼鬼に近付き、作文用紙を手渡す。

 

「はい。 言われた通りに反省文を7枚、しっかり書いてきたわよ」

 

「! 分かりました。 ――後でチェックしておきますが、随分早いですね」

 

蒼鬼がそう言うと、春花は苦笑する。

 

「……まぁ、今回は結構反省しているというのもあるけど、今はやっておきたい事があるから、こんな所で躓いていられないって思ったのよ。」

 

「……成程」

 

春花の言葉に蒼鬼は納得した。

 

――意外かも知れないが、春花はやると決めた事を途中で飽きて止める事は滅多にない。

 

それだけ優先したい事があったのだろう。

 

 

 

すると蒼鬼は、「そういえば」と思い出した様に春花に話し掛ける。

 

「珍しいですね。 普段は傀儡のメンテナンスか人形作りが修行の殆どである春花さんが、態々資料室にいらっしゃるとは……

 

――もしや新術の開発ですか?」

 

蒼鬼がそう尋ねると、春花は得意気に笑う。

 

「ええ、そうよ。

 

――誘惑の術を越える、私の色気を最大限に活かす事が出来る新たな秘伝忍法をね!」

 

「そ、そうですか……」

 

春花の危険思考に蒼鬼は少し引いている。

 

誘惑の術とは春花が開発した所謂一種の洗脳術であり、以前の訓練でも使用し、生徒達の修行効率も僅かに上がったのは記憶に新しい。

 

しかし、誘惑の術が効きすぎた様で、生徒達の殆どが痛め付けて欲しいと語るなどの大惨事が発生した為、蒼鬼は余り良く思っていない。

 

――だが、それを春花が気にするのかと言われれば気にしないだろう。

 

だから蒼鬼も強く言うのを諦めている。

 

――すると、春花は蒼鬼の整理している資料に気付き、余りの量に口をポカンと開けている。

 

「え? そ、蒼鬼ちゃん?……もしかしてこれを一人でやってるのかしら?」

 

「? はい、勿論。監督生の勤めですから」

 

春花の質問に蒼鬼は当然の様に答える。

 

蒼鬼からしてみれば、この量は当たり前の事なのだが、嫌な予感がした春花は蒼鬼に訪ねた。

 

「ち、因みに何枚くらいかしら……?」

 

「――約2時間前から開始して開始当初は8万枚、先程約2万枚が終了したので、残り6万枚です」

 

「……」

 

「? 春花さん? どうかしましたか?」

 

蒼鬼は至って普通に答えた。

 

――しかし春花はその余りの量にドン引きした表情で無言のまま書類を眺める。

 

蒼鬼は春花の表情に「どうかしましたか?」と言わんばかりに首を傾げる。

 

そして、蒼鬼に視線を移すと大きな溜息を吐く。

 

「はぁ……蒼鬼ちゃん、相変わらずなのね……」

 

「? どういう意味ですか……?」

 

春花の言葉に蒼鬼は再び首を傾げる。

 

――すると春花は、呆れた様な表情で蒼鬼を見つめていたが、再び溜息を吐くと心配しているかの様な表情をする。

 

「前にも言ったと思うけど、蒼鬼ちゃんは詰め込み過ぎてるのよ。 先生や私達もだけど、特に詠ちゃんと未来なんかはかなり心配しているわよ?

 

――まぁ鎧威先生はともかく、鈴音先生はあまりそう言う風には見えないけど……

 

――と、とにかく。 皆の気持ちを蔑ろにしてるとは思わないけど、もう少しだけ、自分に優しくしても良いんじゃないかしら?」

 

「――ッ」

 

蒼鬼は春花の言葉に核心を突かれた様な表情をすると、途端に沈黙した。

 

「……」

 

――返す言葉がなかった。

 

未来さんや詠さん、春花さん達はよく私を心配してくれている。

 

それは分かっているつもりだ。

 

鈴音先生だって『情けと容赦は辞書に無い』と言いながらも本当は生徒の事を気に掛けている。

 

――勿論私の事も……

 

それは分かっている。

 

 

 

――分かっているつもりだった。

 

しかしそう考えると、私は皆さんに心配する必要はないと言っておきながらも、本当はただ強がっているだけなのではないか?

 

――否、その通りだ。

 

頼ってもらいたい、そして出来る限りそれに応えたい、……けど弱いと思われたくない、私はそう考えている……

 

 

 

――いくら何でも傲慢すぎるではないか。

 

 

 

ただでさえ、私は弱いと言うのに……

 

 

 

『蒼鬼! 早く行け!!』

 

 

『蒼鬼! お願いだから逃げて!!』

 

 

 

――弱いままだと、またあの時のように……

 

 

 

 

 

 

――しかし、強ければそれで全ての問題が解決するのかと問われれば……そういう訳でもない。

 

 

『ば、バ、化物……化物が……!!……あぁぁ……! 来ないでよ……!! ……死んでよ…… お願い……だから……

 

 

 

 

――死んでよ!!!!』

 

 

 

 

 

……()()姿()を見せたら……

 

――もう二度と、仲間として見てもらえなくなるかもしれない……

 

 

 

……それに、弱い者が仲間と共に力を合わせる事で、本来の実力よりもずっと凄い力を発揮できるなどと偉そうに光牙君に語っておきながら、実際の所、私は光牙君や焔さんと同じ……いや、間違いなくそれ以下だ。

 

仲間や恩師の気遣いを、私は大丈夫です、私にはやらなければならない事がありますから、などと言ってその場凌ぎの嘘を言っているだけで、本心では深く関わり過ぎて拒絶される事を――

 

 ――何よりも、自分の正体を知られ、皆さんから疎外されてしまう事を――

 

 

 ……ずっと、恐れているのだから……

 

 

弱さから拒絶されるのが怖い。

 

強さから拒絶されるのが怖い。

 

 

本心を知られて拒絶されるのが怖い。

 

 

 

……正体から拒絶されるのが怖い。

 

 

 

――私の心は、汚く、醜く、おぞましく、ドス黒い物で埋め尽くされている……

 

 

……それに私は()()()()がいつ戻って来ても良いように蛇女を強くするなんて思っているけど、所詮私は代用品でしかない……

 

――姉様ならもっと強く、上手く出来た筈……

 

 

 

 

 

――なのに、何で……

 

「ハア……ハア……ハア……!ハア……!」

 

「――ちゃん、……きちゃん、蒼鬼ちゃん?」

 

 

 

……どうして……私は……

 

 

 

「ハア……ハア……ハア……ハア……!」

 

「蒼鬼ちゃん? どうしたの!?」

 

「――ッ」

 

――蒼鬼は暫く無言のままだったが、春花の呼び掛けに気付くとハッとする。

 

「だ、大丈夫? 随分難しい顔をしてたようだから呼び掛けたけど、何度呼んでもずっとボーッとしてるままだったし……」

 

「す、すみません……」

 

蒼鬼は椅子から立ち上がり春花に謝罪する。

 

蒼鬼の様子に春花は溜息を吐くと、蒼鬼を悲痛な瞳で見つめる。

 

「……それに凄い汗よ? かなり息を荒くして、軽い過呼吸になってたわよ?

 

 

 

 

――もしかして嫌な事を思い出させちゃった?」

 

「い、いえ……そんな事は……」

 

「……」

 

「……はい、すみません……」

 

春花の質問に、蒼鬼は酷く落ち込んだ様な表情、否、落ち込んだ表情で答えた。

 

――嘘が通じない程に動揺してしまった。

 

蒼鬼に取ってそれは、疑われる可能性を見せてしまったという事に他ならない。

 

故に体が震えている。

 

――そして、それに気付いた春花は――

 

「――まぁ、誰にだって言いたくない事の一つや二つはあるものね。 蒼鬼ちゃんにもそれが有ったって何ら不思議じゃないわ。 そんなに辛い事なら無理に聞き出したりしないわ――

 

 

 

――でも、困った時は何時でも頼ってね」

 

「――えっ」

 

「当たり前でしょう? 私達は仲間じゃない」

 

「――!」

 

まるで妹を見守る姉の様に、蒼鬼に優しい言葉と優しい笑顔を向けた。

 

――そして、その笑顔は蒼鬼に取って、眩しく、輝かしく、懐かしく、何よりも嬉しかった。

 

その気持ちに嘘はない。

 

 

 

「……」

 

――しかし、蒼鬼は頷けなかった。

 

ここで頷いてしまえば、また苦しめてしまう。

 

――どうしても、蒼鬼はそう考えてしまう。

 

 

 

 

――しかし春花は、そんな蒼鬼を見捨てない。

 

「――ねぇ、蒼鬼ちゃん。 聞きたいんだけど、私達を信じる事は出来ない?」

 

「えっ!? いえ、そんなつもりは……」

 

「フフッ……まぁ、それもそうよね。

 

――それじゃあ言うけど、私達は蒼鬼ちゃんを信頼してるわ。

 

そしてそれは、蒼鬼ちゃんの方も同じ事。

 

――私達を信頼してくれるなら、私達が信頼している貴女を少しだけでも信じてあげてくれない?」

 

「――!」

 

 

 

――春花のその言葉が、蒼鬼の中の心の闇を、ほんの僅かに照らした。

 

「……皆さんが、信じている私……」

 

「そう。 私達が知っている蒼鬼ちゃんは、何時でも誰かを思い、誰かの為に戦って強くなれる。

 

――誰かの悩みを聞いては力になろうとして、自分に出来る事を精一杯やる。

 

指導を頼まれたら、例え自分が忙しくても、相手の為に時間を割いて、時に優しく、時に厳しく、相手の為に指導する。

 

――そして指導した相手には、自分は強いと思える様になってほしい。

 

そんな事を思える貴女は、間違いなく――

 

 

 

 

 

 

 

――心の優しい女の子よ」

 

 

「……」

 

――幾ら何でも美化しすぎている。

 

蒼鬼はそう考えたが、口に出さなかった。

 

それ以上に考えている事があるからだ。

 

 

――仲間が信じてくれるのなら、私は自分を信じて良いのだろうか?

 

――こんなにも醜い私が、仲間という希望を持って生きても良いのだろうか?

 

 

「――勿論。 蒼鬼ちゃんが自信も希望も持てないって言うんだったら、私達だってそれを持てる様に協力するわよ。

 

――仲間って簡単な様で複雑だけど、辛い時に居てくれると、それだけで明日やその先が明るく見えてきたりするのよね。

 

――私達は忍だから甘いかもしれないけど、本当に限界だったり、追い詰められたりした時、少なくとも私の中には仲間が居たわ。

 

――蒼鬼ちゃんは、どうなの?」

 

春花は笑顔でそう語る。

 

春花の笑顔は蒼鬼に取って、眩しい光だった。

 

――そしてその笑顔を見た蒼鬼は――

 

「……はい、そうですね。 どんなに辛い時でも、皆さんが居てくれるなら、私は希望を持つ事が出来ます」

 

――気付けば、自身も笑顔で頷いていた。

 

蒼鬼自身も不思議でならなかった。

 

あれだけ曇っていた心が、ほんの僅かではあれど晴れているのだ。

 

「そうそう。 やっぱり女の子は笑顔よね」

 

春花もまた、満足そうに頷くのだった。

 

――すると春花は、近くの時計を見る。

 

気が付くと時計の針は6時30分を刺していた。

 

 

 

――随分長い邪魔をしてしまったようね。

 

何て考えると、春花は軽く手を叩く。

 

「――さてと、もう余り時間は無いわね。 私はこれから資料探しを始めるけど、邪魔してごめんなさいね」

 

「……いえ、私も少し気が楽になりました」

 

「フフッ……それなら良かった――

 

――それじゃあ頑張ってね」

 

「はい、春花さんも頑張って下さい」

 

そう言うと春花は、目当ての資料を探しに、資料室の奥に入っていった。

 

因みに、蛇女の資料室はそんじょそこらの図書館よりも十数倍は広い為、同じ部屋に居ても気付かない何て事も珍しくはない。

 

 

 

春花の姿が見えなくなると、蒼鬼は――

 

「――もしも、私の事を明かさなければならない時が来たら……」

 

その時は……

 

「どうか私を許して下さい。

 

 

皆さんが信じた私が――

 

 

 

 

 

――人ならざる者である事を――」

 

 

昨日の夜と同じ事を呟く。

 

 

 

――しかし今は、僅かな希望を持っている。

 

 

そして、蒼鬼は最後に――

 

 

 

「――ありがとう……春花さん……」

 

――小さな声で、そう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人ならざる者が人の為に戦う。

 

これは可笑しな事なのだろうか?

 

蒼き少女は人であらずとも、人の為に、誰かの為に戦い続ける。

 

果たして彼女の生は報われるのだろうか?

 

――それはまだ、誰にも分からない事だが、一つだけここに記すとするなら――

 

 

自分の為に戦う事が出来ない者に未来はない。

 

 




と、いかがでしたでしょうか?

最早隠す気を感じられませんがね……

人ならざる者である蒼鬼を本当の意味で受け入れてくれる者は居るのか?

実はこれ、結構大事な部分です。

そして今作における忍の他種族の見方はかなり厳しく、鬼や竜、妖魔なんかはかなり忌み嫌われています。

蒼鬼は仲間を蔑む様な事はしませんが、自己評価は他の何よりも低いのです。

更に、自分が居なければ良かった、自分なんか必要ないとまで心の何処かで思っています。

故に自分の事を嫌っているのです。

蒼鬼の苦しみや歪みを、少しでも上手く書けていたら良いなと思いながら書いておりました。

因みに、蒼鬼の精神はあくまで一時的にマシになっただけであり、根本的な解決には全く至っていないのです。

それから今回は声だけの登場でしたが、オリジナルキャラクターである斉藤。

今作における道元以上の諸悪の根源です。

そして、普段のドS振りからは考えられない程に優しい春花様でございます。

原作でも、実は焔達の中で誰よりも仲間思い、強さこそが全てと思っていた焔に仲間の大切さを説くなど、かなり重要な役だったので、今回も活躍して頂きました。

それから蒼鬼の仕事中に名が上がった小雨砂と魔護異血は、一応登場予定です。

因みに、次回の蛇女編はゲーム版無印やburstの半蔵編で明かされた焔の過去のエピソードを書こうと思います。

少しだけネタバレすると、蒼鬼は焔の人生を狂わせたあの男とも因縁があります。


では、次回も楽しみにして下さると幸いです。

焔の仲間に対する考えを改める時期は

  • 原作より早めが良い
  • 原作と同時期で良い
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