閃乱カグラ 少年少女達の希望と絶望の軌跡   作:終末好きの根暗

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皆様、新年明けましておめでとう御座います。

今年は宜しくお願いします。……今年は。

前回の投稿が2019年11月13日、今回の投稿が2021年1月1日

……はい。一年以上になります。2020年は投稿できませんでした。大変申し訳ありません。

書きたい話は勿論沢山あったんですが、時系列がバラバラだったり、やりたいと思った展開をするにはかなり改変しないといけない部分があったりと、スランプに陥っていた一年でした。

今回の話は時系列を合わせる為に急いで書き上げ、本来の予定と比べてかなり前倒しにしています(このままだと何時までも話が進みそうになかったので)

また今回は結構視点が変わりますので、ご注意下さい。

では、どうぞ。


第6話 期末試験に向けて 前編

 ――蛇女子学園の指導は厳しい。名高い忍学校はそれだけ厳しい指導が行われる事で有名だ。その辺りに善忍と悪忍の違いは無い。

 

 例を挙げるなら、エリートの善忍校の一つに、死塾月閃女学館という学校がある。蛇女と同様に全生徒が忍学生であり、指導内容は当然、高レベルの険しい物だそうだ。

 

 善忍校は伝説の忍である半蔵の名を冠する半蔵学院を除けば、月閃、そしてとある少年が設立した創立歴2年弱の東照学院(とうしょうがくいん)が名高いが、前者は一般生徒も通う学校であり、後者に至っては全生徒が忍学生という事以外に情報が殆ど無い。

 

 一方、悪忍側の忍学校にも有名な学校はある。蛇女子学園もその一つだ。数ある悪忍校の中でも、恐らくは三本の指に入るだろう。

 

 指導が厳しい忍学校から卒業後に優秀な忍をとなる者を排出する事は珍しくない。それだけ厳しい環境で逞しい存在となっている。

 

 卒業した生徒もそうだが、ここ数年で在校する生徒達の平均的な実力は大幅に上昇している。加えて、毎年多かった死傷者の数も激減してきている。

 

 三年前にとある事件が発生した事で当時の選抜筆頭が名を挙げ続けた蛇女の名声は、一度は地に落ちてしまったが、最近はその名が再び挙がろうとしていると言われているのだそうだ。

 

 

 そして現在、その状況に大きく貢献している監督生は何をしているかと言えば――

 

 

「……35点。その、大変言い辛いですが、以前より悪くなってます」

 

「うげっ!?マジかよ!?」

「はい。前回が38点でした」

 

 

「……!や、ヤベぇ、少し心が折れそうだ……!」

「――――」

 

 

「――厳しい事を言いますが、ここで折れたら、今年も温泉旅行は諦める他ありません」

 

「! ……そう、だな。よし、もう一回頼むぜ!」

 

「はい、次は此方です」

 

 同じ選抜メンバーの籠鉄の勉強を見ていた。

 

 

 もう直始まる、期末試験に備えて。

 

 

 

**********************

 

 ――時間は数週間前に遡る。現在唯一の一年生である未来が選抜メンバーになって間も無い頃の話だ。

 

 蒼鬼は黒板に大きく『温泉旅行』の文字を書く。

 

「今日は此方、年に一度の温泉旅行についての説明になります」

 

「ふぇっ? 蛇女には旅行があるの?」

 

 他の面々は知っている様子だが、未来だけはよく分かっていない。当然と言えば当然だろう。この話は毎年していて、現在のメンバーは未来以外は経験している話なのだ。

 

 一方で未来は選抜メンバーに選ばれて間も無い。加えて、修行のペースに付いてくるのにやや苦労気味だ。

 更に言えば、鈴音や鎧威の様なスパルタ教師の念入りの指導では毎回倒れている。

 

 そんな彼女からして見れば、この学校にそんな物があるのかと思うのも当然だ。尤も、去年や一昨年は全員が今の彼女の様に各々の驚き方をしていたが。

 

 

「はい。と言っても、あくまでそれは選抜メンバーだけの特権なので、他の生徒の皆さんは温泉旅行目当てで選抜メンバーの座を狙う人もいます」

 

「えっ……」

 

 

 少し前に苦労して選抜メンバーの座を掴んだ未来は、そんな理由で良いのかと言わんばかりの表情をするが、次の蒼鬼の言葉に納得した。

 

「まぁ、狙う理由はそれぞれですし、『蛇女の修行は厳しいから癒しを求めて旅行に行きたい』と言って向かってくる人もいましたから」

 

「ああ、そういう……何か納得出来た気がする」

 

 尤も、選抜メンバーの修行内容は基本的に一般生徒よりも上だ。癒しを求めてそれ以上の過酷な環境に辿り着こうとしているというのは、些か矛盾した話なのかもしれない。

 

 未来がそんな事を考えていると、蒼鬼がわざとらしくコホンと声を出し、話を再開する。

 

「少し話が脱線してしまいましたが、この温泉旅行に行くには、どうしても越えないとならない壁があります」

 

「壁?」

 

「別にそう難しい事じゃない。よく考えてみろ。幾ら忍とはいえ、俺達の年齢的な職業は一体何だ?」

 

「年齢的な職業?学生だけど、それが……あ、もしかして壁って……」

 

 

 未来は真司蛇の促す様な言い回しに首を傾げるが、答えに辿り着いたらしく、確かめる様に蒼鬼を見る。

 

 

「はい、旅行前の期末試験です。試験の内容は大きく分けて二種類。座学と実技になります」

 

 蒼鬼の返答に未来はやっぱりと納得し、蒼鬼の言葉の気になった部分について尋ねる。

 

「じゃあ戦いもあるの?」

 

「勿論です。座学は純粋に筆記試験のテストをするだけですが、実技は人によって内容が異なります」

 

「個別テストって事?」

 

 未来の質問に蒼鬼は頷くと、口を動かしながら黒板に説明の為の図と文字を書いていく。

 

「その通りです。例えば、傀儡を制限時間内に何れだけ倒せるか、制限時間内に無傷でいられるか、と様々な視点で見られ、結果によってはこれで選抜クラスやその候補のクラスに入る人もいます」

 

「まぁ、確かに座学だけじゃ忍はやってけないよね」

 

「ええ。ただ、それは逆も然りです。頭を使わない者は忍の世界で生きていけない。だから知識も絶対に必要になってくるのです」

 

「……ははっ、そう、だな……」

 

 

 蒼鬼の説明に未来は納得するが、何故か籠鉄は冷や汗を流していた。その様子を妙に感じた未来は尋ね様としたが、春花が聞くなと言わんばかりに首を横に振ったので、聞かない事にした。

 

 すると、蒼鬼は一通り書き終えたのか、未来達の方を向き直る。

 

「未来さん、ここまでで気になる事はありますか?」

 

「うーん……そう言えば、試験は誰が見るの?」

 

「鈴音先生や鎧威先生を初めとした教師の方々ですが、私も試験官になります」

 

「あれ?じゃあ蒼鬼は試験を受けないの?」

 

「いえ、私も試験は受けますよ。私も生徒の一人である事に変わりはありませんから」 

 

「ふーん……あっ、そう言えば、選抜クラスで監督生の説明を聞いた時、監督生の最低条件で学園で一番の成績が要るって言ってたけど、仮に蒼鬼が満点で同じ満点の奴が居た場合はどうなるの?」

 

 と、思い出した事を尋ねた未来。蒼鬼は特に顔色を変える事無く、その質問に答えた。

 

 その返答に、未来や焔達、中でも籠鉄が凄まじい量の冷や汗を掻く事になるとは知らずに。

 

 

「その点は心配いりません。 私は皆さんと同じテストも受けますが、それとは別の個別の筆記試験を十数回行う事になっていますから」

 

「えっ……」

 

『……』

 

「ッ……!!」

 

 

 

 蒼鬼はさも当然と言わんばかりの表情でそれを告げ、籠鉄と未来以外は無言、未来は目を見開き、籠鉄は肩が震えている。

 

 すると、流石に可笑しいと感じたのか、蒼鬼は首を傾げ、未来達に尋ねる。

 

「? 皆さん、どうかしましたか?」

 

「ねえ、蒼鬼。まさか実技の方も十数回って事は……」

 

「いえ、実技は私も一度だけです。それに私の実技試験は毎回似たような物なので、それ程劇的な変化はありません」

 

「そ、そう。……よ、良かった」

 

 

 蒼鬼の説明で安堵出来た未来。幾ら監督生が他の生徒より優秀でなければならないとはいえ、余りにも過酷過ぎるのではと思い始めていた。尤も、それでも未来からしたら十分に過酷な物なのだが。

 

 ――だが、未来のその安堵も直ぐに過ぎ去る事になる。

 

 

「待て未来。喜ぶのはまだ早い」

「え?」

 

「ねぇ蒼鬼ちゃん、今回の貴女の実技の内容はどんな物だったかしら?」

 

 

 真司蛇の言葉に未来が疑問符を浮かべると、ほぼ時を同じくして春花が蒼鬼に質問を投げ掛けた。

 その質問に首を傾げた蒼鬼だが、直ぐに春花の質問に答える。

 

 

「? 確か今回は、30分の間に教師全員の攻撃を無傷で凌ぎながら半数以上を撃破するという内容でした。それから、秘伝忍法の使用回数も制限がありましたね」

 

『…………』

 

 

 こればかりは誰も何も言えない。いや、言いたい事はあるのだが、言葉が出て来ないというのが正確だ。

 

 蛇女子学園の教師は、教師とは名ばかりで指導に直接回る者は少ない。だが、決して実力が低い訳ではなく、寧ろ高いのだ。

 

 何なら選抜メンバーよりも上の者も珍しくない。特に鈴音や鎧威は教師陣でも最強で格が違う。それを全員纏めて相手をするなど、難易度が高いなどと言う物ではない。

 

 それについて言及するべく、一早く硬直が解けた春花が蒼鬼に尋ねる。

 

「えっと、蒼鬼ちゃん? 確か去年の最後の期末試験では選抜以外の全生徒を15分間無傷の状態で半数以上撃破じゃなかったかしら?それに秘伝忍法の制限も無かったと思うけど?」

 

 その春花の言葉に、流石の蒼鬼も難易度の上がり方に疑問を抱いたのか、少し弱々しい声で告げる。

 

 

「……学年が上がった分の課題だと思います」

「いや、無茶やろ」

 

 日影の反応も当然だった。蒼鬼の実力の高さはメンバー全員が理解しているが、教師陣全員を相手に出来る程自分達と力量が離れているとは思えない。当然、自分達が同じ事をすれば失敗するのは目に見えている。

 

 そう感じたが故に、真司蛇の言葉も出たのも、無理もない事だった。

 

 

「……負担のレベルが度を越しているな。それに試験官もやるとなると、負担は想像を絶するだろう。更に言えば、年々その仕事量は増してきている」

 

「……ねえ、蒼鬼、本当に大丈夫……?」

 

 真司蛇の言葉、そして自分を心配する未来の不安げな声を聞いた蒼鬼は、

 

「心配してくれてありがとうございます。 それでも必要な事ですから」

 

『……』

 

 直ぐ様浮かべた薄い笑みで、そう答えるのだった。

 

 

 

 

(……こうでもしないと、私は雅緋さんや三成君、況してや姉様の様には成れない。いや、恐らくこれでも足りていない。――だったら人の何倍も負担を背負ってでも、その負担を努力で補い、経験に変える。これが落ちこぼれである私が取れる最善の手段です)

 

 心の中でそんな事を考えながら、蒼鬼は話を戻す為に手を叩いて未来達の方を向く。

 

 

「話が脱線し過ぎてしまいましたね。単刀直入に言いますが、期末の筆記試験で赤点を一つでも取ると、その人は温泉旅行に行く事が出来なくなります。勿論、実技試験の失敗もそのまま赤点に含まれます」

 

「えっ……」

 

「一つだけでも不味いですが、万が一全てで赤点を取ってしまったら最悪の場合、選抜メンバーから外されてしまいます」

 

「ッ!!」

 

「こ、籠鉄……?」

 

 

 蒼鬼の言葉に驚いていた未来だが、それ以上に尋常ならざる事態と思わしき籠鉄の表情を見た未来は、思わず籠鉄に尋ねてしまう。

 

「籠鉄、若しかして勉強が……」

 

「……全然出来ねえ」

 

「……あっ、やっぱりそうなんだ」

 

 

 籠鉄の重々しい言葉に未来は納得がいった。

 

 

 ――日頃から脳筋寄りな思考の持ち主だと思っていたが、ここまでとは思わなかった。選抜メンバーに居るという事は、全教科赤点は免れているのだろうが、恐らくは昨年の温泉旅行には行けなかったのだろう。

 

 そして一年生である為に昨年を知らない自分以外はその結果を知っており、だからか蒼鬼も、少しだけ弱々しくなった声で説明を続けた。

 

「……取り合えず、来週は中間テストがありますから、一先ずはそちらの対策を行い、テストの成績に合わせて今後の勉強のペースを考えていきましょう。

 

蛇女では50点以下が赤点ラインに含まれますが、幸いな事に中間テストでは筆記試験しか行われない為、その間は勉学に集中出来ます。

 

勉学は歴史を初め、忍術、幻術、体術、そして人外の種族の五科目です。 私も可能な限り力を注ぎますので、全員で温泉旅行に行ける様に頑張りましょう」

 

「う、うん」

「そうね。今年こそは全員で、ね」

「まあ、せやな」

「ええ、勿論ですわ」

「当然、そのつもりだ」

 

 蒼鬼の励ましの言葉に、未来、春花、日影、詠、真司蛇は頷く。

 すると焔が席を立ち、

 

「まあ、去年の温泉旅行は充実していたからな。その後の訓練の為にも、私も本気で望む。期待していろ」

 

 そう自慢気に胸を叩いた。それを聞いた詠達は、恐らく大丈夫だと思った。唯一、豊満な胸の動きを凝視していた未来だけは聞いていなかったが。

 

 

「……俺は試験用の勉学は一人で行う。付き合うのは日頃の授業と実技試験の訓練だけだ」

 

 続いて、光牙がそう告げる。日頃から仲間との絆など辞書に無いとでも言わんばかりの態度を貫く光牙だが、協調性が皆無な訳ではない。こう言う時は頼りになる男が光牙だ。

 

 

 そして最後に残った籠鉄は、

 

「……済まねぇ、蒼鬼。今回も頼む」

 

「いえ、どうか気になさらないで下さい。これも私の仕事ですから」

 

 監督生である蒼鬼が付いて回る事になっている。昨年の最初の中間試験で籠鉄の学力が絶望的だと判明してからは、蒼鬼はテストの時期によく籠鉄に付く様になっていた。

 

 他のメンバーも、文武共に指導が上手い蒼鬼が居れば籠鉄もギリギリで何とかなるだろうと考えていた。

 

 

 

 そして、各々が己が出せる全力で取り組んだ中間試験の結果はというと、

 

 

 

 

蒼鬼

 

忍術:100点 幻術:100点 体術:100点 歴史:100点

 

種族:100点

 

順位:1位/4000位 総合:500点 前回:1位

 

 

春花

 

忍術:96点 幻術:100点 体術:74点 歴史:84点 種族:72点

 

順位:10位/4000位 総合:426点 前回:13位

 

 

光牙

 

忍術:100点 幻術:80点 体術:70点 歴史:80点 種族:75点

 

順位:20位/4000位 総合:405点 前回:24位

 

 

真司蛇

 

忍術:92点 幻術:90点 体術:78点 歴史:80点 種族:60点

 

順位:25位/4000位 総合:400点 前回:36位

 

 

 

忍術:100点 幻術:60点 体術:82点 歴史:88点 種族:52点

 

順位:32位/4000位 総合:382点 前回:50位

 

 

日影

 

忍術:90点 幻術:74点 体術:76点 歴史:78点 種族:62点

 

順位:36位/4000位 総合:380点 前回:45位

 

 

 

忍術:80点 幻術:70点 体術:70点 歴史:70点 種族:70点

 

順位:44位/4000位 総合:360点 前回:54位

 

 

 

籠鉄

 

忍術:54点 幻術:23点 体術:58点 歴史:22点 種族:17点

 

順位:3890位/4000位 総合:174点 前回:3800位

 

 

 

 という籠鉄だけが不安を残す結果となってしまったのだった。

 

**********************

 

 

 秘立蛇女子学園では、中間試験と期末試験がそれぞれ年に三回行われ、6月の今は、一度目の期末試験が最も近い。

 

 期末試験の内容は大きく分けて二つ、筆記試験と実技試験だ。

 

 そして今、蒼鬼は分身を駆使して様々な生徒の元を見て回っている。

 

 中間試験で持ち点が200を超えていなかった者は籠鉄以外は5体の分身で纏めて見ており、50点以下の科目があった者は1教科に1体の分身が付き、五教科分で5体、更に実技試験で不安のある者や向上心の強い者が蒼鬼や鎧威の元を訪れ、厳しい修行を行っている。

 

そして実技試験対策では20体が一般生徒に、2体が選抜候補に、7体が選抜メンバーに付いている。

 

 籠鉄には特別頑丈に作り込んだ分身を送っており、オリジナルは仕事を熟し、その後に自己訓練を行っている形だ。

 

 合計で40体の分身を扱いながら自己訓練も行うのは、ハッキリ言ってかなりの無茶である。

 

 が、蒼鬼は苦労を顔に出さず、これを熟している。

 

 そんな蒼鬼を見たからか、他の生徒達も負けていられないとばかりに実力を向上させていき、着々と成果を出していた。

 

 

**********************

 

 ――単独で任務が任される事が少ない一般生徒達は、言い方は悪いが実力が低い。だが、実力が低い者は戦場でそれを補う術を持っている物だ。

 

「――今だ、斬れ!」

「――ッ!」

 

 現在、訓練場で分身の蒼鬼と戦っている生徒達も、その術を持つ者だった。

 蒼鬼の忍術による遠距離攻撃を集団で忍術の防壁を張り、防ぎ切る。その直後、パワータイプの大柄忍達が接近戦に持ち込み、攻撃を躱した蒼鬼の反撃を防ぐ為に、スピードタイプの忍がタイミングを合わせて攻撃する。

 

 そして今、蒼鬼が忍達を薙ぎ払う為に右手に持つ鉄球を使った秘伝忍法を使用しようとした瞬間、地面から蒼鬼を狙う忍が現れた。

 

 蒼鬼は跳躍でそれを躱し、空中でそのまま秘伝忍法を発動させようとするが、パワータイプの忍に鉄球の鎖の部分を掴まれ、中断される。それにより空中でバランスが崩れた一瞬を身軽な忍が突き、蒼鬼の両の手足を鎖で巻き付け、拘束に成功した。

 

 そして今、蒼鬼の最大の隙を突かんとして数名が背後から襲い掛かる。

 

 ――しかし、それだけでそう簡単に切り崩せる程、蛇女の監督生は甘くない。

 蒼鬼は頭突きで左手に巻き付けられた鎖を破壊し、解放された左手の手刀で、背後から迫った忍の一人を気絶させ、その生徒を斬り掛かる他の忍に投げ付ける。

 

 

「なっ――」

「まだ爪が甘いですよ」

 

 投げ付けられた忍に巻き込まれ、近付いていた者達は半数以上が吹き飛ばされる。運良く巻き込まれずにいた者達も居るが、その者達は急な事態に動揺している。

 

 その隙に蒼鬼は左手に刀を召喚し、両足を縛る鎖を破壊する。そして、体格からは想像できない程の力を有した蒼鬼は、大柄な忍達が複数人で掴んでいた鉄球を引き寄せ、振り回す。

 

 そして地面に勢いよく叩き付け、土煙が出来る。そこまでした蒼鬼は倒れた生徒達の方を向き、少し大きな声で告げる。

 

「どうしましたか、皆さん。もうこれで終わりですか?悪くはありませんが、今のペースだと実技試験の突破は厳しいと言わざるを得ません」

 

 蒼鬼がそう告げると、土煙から倒れていた影が立ち上がる姿が見えた。

 そして、土煙が晴れると、

 

「――いえ、まだです!」

「私達はまだ、戦えます……!」

「もっと、お願いします!」

 

 リーダー格の少女を筆頭に、少しずつメンバー達が起き上がっていく。

 その瞳からは、闘志は一切消えていない。

 その光景を見た蒼鬼は僅かに口が吊り上がる。

 

(――以前は気絶するか、意識があっても立ち上がれなかったのに、もうここまで。かなり良い調子ですね)

 

 そう思いながらも刀と鉄球を構え、己もまた気合を入れ直す。

 

「その意気です。では、まだまだ続けますよ!」

 

『はい!』

 

 

**********************

 

 蛇女子学園には選抜メンバーに次ぐ実力を持つ選抜補欠メンバーが居る。

 

 メンバー全員が一年生でありながら、選抜メンバーに匹敵する実力を持つと噂されている。

 

 そのメンバーは現在6人(・・)。その内一人は別の場所で任務中となっている。

 

 残りの5名の内3名は分身の蒼鬼を含めた選抜メンバーからの訓練を受けている。

 

 後の二名は蒼鬼の分身の一体が付いている。

 

 

「――それでは、総司(そうじ)さんからお願いします」

 

「フッ、では見せてやろう。蛇女で最も美しいこの私の技に見とれるが良い、蒼鬼よ」

 

 

 何処か挑発的な意思を感じさせるルビーの様な輝きを放つ赤い瞳。腰まで長く垂れ落ちた肌色に近く、それでいて美しい金髪。何処かキザな口調からはナルシストに当たるであろうと思える自信が感じ取れる。

 

 彼女の名は総司(そうじ)

 

 選抜補欠メンバーのリーダーであり、立場上は選抜メンバーに最も近い生徒だ。

 そんな彼女は、実際にその立場に見合う実力を持ち、そんな自分に絶対の自信を持っている。

 

 自分は強い。

 自分は美しい。

 

 そうやって自分を鼓舞する様に振る舞う彼女は、自分を卑下し続ける蒼鬼とは真逆の存在だ。

 

 故にその辺りについては蒼鬼は好印象を持っているのだが、どうも総司は蒼鬼を嫌っているらしい。尤も、噛み付いているのは光牙や焔に対しても同じ事ではあるのだが……

 

 そんな事を考えていると、大型の傀儡の大軍が総司に向かっていく。

 

 すると総司は大小の鎌の付いた鎖状鞭を取り出し、攻撃に構える。

 

 

「――秘伝忍法・鎖龍百飛閃!」

 

 すると総司は凄まじい速度で移動しながら鎖状鞭を振り回し、鎌の切っ先で次々と傀儡を仕留めていく。

 

 10、20、30と時間が経過する毎に巻き込まれる傀儡の数が増えていく。

 そして、10秒が経過した所で蒼鬼が合図を出し、総司が攻撃を止める。

 

 

「どうだ?」

 

「……倒した合計は90体。前回の57体よりもかなり伸びています」

 

「フッ、そうだろう?流石はこの私。以前よりも更に美しさに磨きが掛かっている」

 

 

 今回行っている訓練の内容は、10秒間で且つ一度の秘伝忍法で何れだけ傀儡を倒せるかという物だ。因みに秘伝忍法は連擊物という縛りを付けている。

 秘伝忍法を受ける事を前提に作られているので、頑丈さも並の傀儡より数段上だ。

 

 加えて言えば、前回よりも更に頑丈さも上がっているので、1体壊す難易度も上がっていると言える。

 それを総司は、10秒で90体破壊した。

 

 実力が向上している事は間違いないだろう。

 

 尤も、彼女がライバル視している焔や光牙は倍以上の成果を出している為、総司は表面上程は喜んでいないというのが事実だが。

 

 

 そして総司が下がった後、蒼鬼はもう一人の補欠メンバーに声を掛ける。

 

 

「それでは次に、芦屋(あしや)さん。お願いします」

 

「漸くか。待ち侘びたぞ、悪鬼よ。邪神様の加護を受けた我の力、とくと見るが良い。そしてその力に惹かれて入信を――」

「結構です」

「――したいと思った時には……って、まだ最後まで言っておらんぞ!話は最後まで聞かぬか!!」

 

「何度も言いましたが入信はしません。それよりも今は訓練に集中して下さい。待ち侘びていたんですよね?」

 

「ぐぬぬ……普段は申し訳なさげに断るというのに、こう言った時期になると用が済むまでは極端に冷たくなりおって……」

 

 

 もう一人は赤髪で可愛げのある美形――尤も、蛇女は選抜メンバーや選抜補欠を含め、全体的に顔立ちが整っている者が多いのだが――しかしその口調はどこかじじ臭さを感じさせ、壮大な態度を取っている。そんな独特なセンスを持つ赤髪の少女の名は芦屋(あしや)

 

 彼女は自分が正体不明の神の666番目の使徒だと自称する、俗に言う厨二病に近い邪神系美少女だ。ついでに言えば、選抜補欠の中で一番の変わり者としても校内で有名人だ。

 

 彼女は日頃から入信者を集めようと生徒に声を掛けて回っているのだが、入学から数ヶ月が経った現在でも入信希望者はゼロ。

 

 それもその筈、彼女はその壮大な態度から相手の神経を逆撫でするかの様な事を言ってしまい、気付いた時には手遅れというのが大半だ。

 

 そんな彼女は蒼鬼の事を悪鬼と呼んでいる。最初にそう呼ばれた時は驚いた蒼鬼だが、光牙の事を邪神と呼んだりしているので、そういう物だと納得した。

 

 

 そして芦屋は武器である巨大鉄輪を構える。

 

 

「――秘伝忍法・兇嵐陰絶輪!」

 

 

 芦屋は鉄輪を投げ付け、凄まじい速度で回転する鉄輪は傀儡の軍勢を切り裂いていく。

 

 

 そして総司と同様に10秒が経過した所で蒼鬼が止めの合図を出す。

 

 

「……倒した合計は92体。前回が50体でしたから、倍近く伸びていますね」

 

「なっ……!この私が光牙でも焔でも蒼鬼でもなく、芦屋に負けただと……」

 

「邪神様の加護を受けた我の技は正に神の技……!その進化に限界など存在しないのじゃ!……しかし、邪神様もまた進化しておられる。ただでさえあの方が我の遥か先を進んでおられるなら、我もまた腕を磨かなくてはならん!」

 

 

 特に競っていた訳ではないが、負けず嫌いの総司は芦屋に傀儡の討伐数で負けた事を悔しがる。

 

 一方で芦屋もまた自分の結果には自信を持っているのだが、彼女が目指す光牙(邪神様)との差を考えて慢心はしていない様だ。

 

 実際、選抜補欠メンバーは過去に5人掛かりで光牙に挑み、惨敗した事がある。

 

 同じ選抜とはいえ補欠と本命とでは差がある事は理解していたが、1対1なら兎も角、5対1で惨敗した事は彼女達に取って自分の非力さを知る機会となった。

 

 その闘いの後、補欠メンバーはそれぞれの思うやり方で修行を積み重ね、強くなっていった。

 

 

 因みにその後、補欠メンバーの一人が光牙に師事し、現在は監督生の蒼鬼よりも光牙から稽古を付けて貰っている事が多いのだが、芦屋を含めた一部の生徒はその生徒を羨ましがったというのは全くの余談である。

 

 ついでに残りの三人は現在、一人は任務中、後の二人は一人は蒼鬼、もう一人は春花と修行している。

 

 

 そんな事を考えていると、

 

 

「――それでは、次の訓練です。改良された傀儡100体を相手に10分生き残るか、或いは殲滅して下さい。先に言っておきますが、その傀儡は動き出すと時間になるまで攻撃を辞めません。なので辞退するなら今の内です」

 

 

 蒼鬼から新たな課題が出された。しかし、蒼鬼の言葉が癪に障ったのか、先程まで悔しがっていた総司が額に青筋を立てて反応する。

 

 

「辞退だと……?フフッ、良いだろう。ならばこの私が全て殲滅してやろう!」

 

 

 そしてその言葉を聞いた芦屋もまた反応を示す。

 

 

「何じゃと?……総司。よもや貴様、我の獲物まで横取りする気か?」

 

「早い者勝ちだ。それに芦屋、たった一度私に勝った程度で良い気になるなよ?私は同じ相手に何度も負ける程甘い女ではない。慢心していれば今回のお前の勝利が生涯で唯一になってしまうぞ?」

 

「ほう、言うではないか。……良いじゃろう。我に挑んだ事を後悔させてやろう!」

 

 

 二人が火花を散らす一方で、その光景を見ていた蒼鬼はというと、

 

(……余りやりたくはありませんが、やはり総司さんには下手に慰めるよりもこのやり方の方が合っているのかもしれませんね。……その結果、他の生徒の実力も向上するなら問題はありませんが、これは総司さんと芦屋さんだから上手くいった可能性もある。……もう少しやり方を考えてみましょう)

 

 

 と、無表情でそんな事を考えていた。

 

 

**********************

 

 

「――よし、一旦休憩だ。休憩が終わったら直ぐに修行再開だ、良いな?」

 

「……ハァ……ハァ……は、はい……」

 

 選抜補欠メンバーの中には、選抜メンバーから稽古を付けて貰っている者も居る。

 

 現在、光牙からの修行で滝の様に汗を掻き、息を切らしている少女もその一人だ。

 

 エメラルドの様な美しい色合いの緑色の髪に桜の髪飾りを付け、透き通る様な美しい紫色の瞳を持ち、持ち前の穏やかさを自然に感じさせる雰囲気を持った、小動物の様な可憐な美少女。

 

 彼女の名前は芭蕉(ばしょう)

 

 変わり者揃いの選抜補欠メンバーの一員にして、補欠メンバーで一番の常識人である。

 

 自信過剰のナルシスト、邪神教信者の厨二病、ドMの変態、人間不信の一匹狼、と言った風に実力はあるが性格に難ありというか、個性派揃いの選抜補欠メンバーなのだが、そんな中でも芭蕉はかなり常識的な部類だ。

 

 その穏やかな態度は、悪忍より寧ろ善忍にさえ思えてしまう。

 それでいて他者に迷惑を掛ける事を行わず、弛まずに努力している点は、蒼鬼も高く評価している。

 

 もう一人だけ常識的な人物は居るには居るが、世間知らずというべきか、騙されないか心配される事もある程の純粋さを持っており、任務とはいえ殆ど姿を現さない為、そう言った印象が拭えず、総合的に芭蕉が一番まともに見える。

 

 尤も、感情の無い日影を物怖じしないクールな性格でカッコ良いと思っていたりと、彼女も彼女で抜けている所が無い訳ではないのだが。

 

 

 そんな芭蕉は現在、自他共に厳しい光牙からの、これまた厳しい稽古を受けていた。

 

 稽古では毎回ガス欠になるまで追い込まれるが、それで何れだけ強くなっているのかはまだ解らない。

 

(――だけど、もっと強くなって、皆さんを助けられる様に頑張らないと!それに、日影さんや光牙先輩に追い付くには、これくらいで倒れていられない。憧れの先輩に追い付きたくて、先輩達みたいになりたくて、私は師事したんだもの!)

 

 タオルで汗を拭き取りながら、芭蕉は現在の状況の切っ掛けを思い出す。

 

 

**********************

 

 

 

 芭蕉は墨字忍法(すみじにんぽう)という特殊な忍術を扱う家系の生まれであり、その特異な忍術を初めとしたそれまでに学んだ技術を駆使して、入学後間も無くして選抜補欠に加入した。

 

 しかし、穏やかであると同時に気弱な部分を持つ彼女は、自分が他のメンバーと比べて劣っていると考えている。

 

 例を挙げるなら、自分の最大の武器である墨字忍法を満足に扱えず、肝心な時に失敗する機会があった。そう言った部分は補欠の仲間や選抜メンバー、或いは先輩達がフォローしてくれた為に事なきを得るに至っていたのだが、芭蕉はそう言った一件から劣等感を感じる様になった。

 

 それから芭蕉は、せめてこの気弱な部分を少しでも減らして仲間の役に立とうと考えた。

 

 だからなのか、どんな状況でも物怖じしない――実際は感情が無いから出来ないだけなのだが――日影に憧れる様になった。

 

 そうして新たな目標を得て修行する様になって少しした頃の事だ。

 

 

 あの日は確か、それまでと比べて強化されたという傀儡を相手にするという訓練を補欠メンバーの5人で行っていた。

 

 そして特に問題なく訓練を終えた時、

 

 

『――フン。少し強い傀儡を倒した程度で浮かれる貴様等では到底、選抜メンバー入りなど夢のまた夢だな』

 

 

 男性でありながら特例として女子校である蛇女の選抜メンバーを務める光牙が現れた。

 

 その場に居た自分以外のメンバーは面識があったようだが、自分は噂程度でしか光牙の事を知らず、直接会ったのは初めてだった。

 

 

 その時の光牙は退屈していたらしく、偶然見掛けた選抜補欠の実力が気になったのか、遊んでやると分かりやすい挑発で闘う様に仕向けた。そしてその挑発に乗った総司を含め、それぞれの考えの元、5人掛かりで挑んだのだ。

 

 結果は、惨敗。

 

 5人掛かりで尚且つ本気で挑んだのだが、掠り傷すら付けられないまま全員が圧倒されて敗北した。

 

 他のメンバー達は各々が今より強くなろうとしていたが、果たして自分はどうだっただろうか?

 

 日影と同じ様にクールでカッコ良い人だとは思っていた筈だが、あんな風になりたいとは思っていなかった気もする。

 

 そうだ、あの時は

 

 

 

 ――先輩と、仲良くなりたい、我が想い。

 

 

 

 

 もっと単純な物だった。その時の自分の気持ちを趣味の俳句という形で心の中で読み上げたのだ。

 

 あの時の想いは、今でも持ち続けている。

 

 

 

 

 光牙に師事したのは、次に会った時だった。

 

 その時は一人で訓練を行い、休憩中に偶然光牙を見掛けたのだ。

 

 

 気になって後を付けると、15人前後の生徒達が光牙を取り囲んでいた。彼女達は選抜メンバーの座を欲していたらしく、一人では敵わない為に徒党を組む形を取った様だ。

 

 しかし、光牙は危なげなく彼女達を下し、おまけに尾行していた自分にも初めから気付いていたという。

 

 

 何の用かと尋ねる彼に、オドオドしながらも偶然見掛けただけだと伝えると、彼はその場を去ろうとした。

 

 

 

 ――そんな時ふと思ったのだ。

 

 この人から忍を学べば自分はもっと強くなれるのではないか?

 

 今の自分を変えてくれるのではないか、それが無理でも自分が変われる切っ掛けを得られるのではないか?と思ったのだ。

 

 だから自分は、土下座をして稽古を付けて欲しいと頼み込んだ。そこから先の記憶は今でも鮮明に覚えている自信がある。

 

 

 勿論、そんな事をして光牙が何を言っていると視線で訴え掛けてきたのは言うまでもない。

 

 そしてゆっくりと口を開くと

 

 

『……何故俺が、態々お前に稽古をつけなければならない?』

 

『あ、あの……わ、私。強くなりたいんです!一人前の忍になりたいんです!だからお願いします!』

 

『どうして俺に?鈴音や鎧威、他の教員も居て、更には蒼鬼も居るだろう。俺ではなくアイツらから教わればいいだろう?』

 

『……それもそうかもですが、先輩の戦うお姿に私、すごい感動を受けました。先輩から教われば私も強くなれるかもしれないと思いまして』

 

 

 

 オドオドしたり、気落ちしたり、落ち着いた伝え方は出来ているとはとても言えなかったが、自分の気持ちを素直に伝えた。

 

 

 伝えてから少しの間、光牙はその場で考え込む様に無言になった。

 

 そしてその口が開いた時、光牙は溜息を吐いたのだが――

 

 

 

『……いいだろう』

 

『だがな、これだけは覚えていろ。俺は此処の教員達の授業よりも、蒼鬼よりもハードだ。お前にそれが耐えられるというのなら、引き受けても構わない』

 

 

 その言葉に息を飲んだ。正直、今でもかなり厳しいと感じていたのだが、それ以上と考えて恐怖を感じたのだろう。

 

 だが、それでも自分の決意が揺らぐ事は無かった。

 

 

『どうした?怖気付いたか?』

 

 

『……や、やります!やらせてください!私、頑張ってついて行きますから!』

 

 

 そう伝えた後の光牙は、何処か穏やかさを感じさせる小さな笑みを浮かべていた。

 その時に普段からクールな彼も笑う時は笑うのだと知って、少し安心したのは秘密だ。

 

 

『――フッ、よかろう。では今から修行を始めるぞ』

 

『ふぇ?い、今からですか?』

 

「どうした?やるなら早くこい」

 

「はっ、はい!!」

 

 

 こうして、自分と光牙の修行が始まった。

 

 彼の言葉通り、それまで以上に過酷な修行ではあったが、今までより生き生きして修行に望む様になった。

 

 

 ――頑張るぞ、立派な忍、目指します。

 

 その決意の元、今でも修行を続けている。

 

 

 

**********************

 

 

 修行の休憩中ではあるが、そんな事を思い出した芭蕉は、ふとしてある疑念を抱き、その疑念を疑問にして光牙に投げ掛ける。

 

 

「あの、光牙先輩」

 

「何だ?」

 

「――先輩から見て、今の私は前より強くなっているでしょうか?」

 

「何?」

 

 

 光牙の視線が鋭くなった。当然だ。彼は本来ならする必要は無い修行を態々付けている身だ。

 

 そんな彼にこんな質問をするのもどうかと思ったのだが、もうじき期末試験だ。

 

 師事して2カ月が経とうとしている段階で変化が無いようであれば、流石に少し焦る。

 

 普段から厳しい光牙であれば、成長していないと言われるのではなかろうか。

 

 だが、それならそれでもっと修行を重ねれば良いだけの話だ。

 

 だから聞いてみたのだが、その答えは――

 

 

 

「……俺からすれば誤差の範囲だが、強くなっている筈だ」

 

「えっ?」

 

「自覚は無いかもしれんが、修行の難易度は日に日に上げている。だが、お前は少しずつではあるが消耗が少なくなっている。これは成長と言える筈だ。修行を熟す事に必死なお前はそれに気付いてない様だがな。それに、この程度ではまだまだ俺達には追い付けない」

 

「光牙先輩……」

 

 

 

 ――何故だろう。

 

 少し前までと比べて、今の彼は何処か穏やかになっている気がする。

 それに、俺ではなく俺達と言っていた。

 

 

 彼の中で何かがあったのだろうか。

 

 正直に言えば、聞いてみたい話ではある。

 

 だが、今はその疑問に対して答えを出すよりも、優先すべき事がある。

 

 

「……ありがとうございます。光牙先輩にそう言って頂けると、少しだけ自信を持つ事が出来ました」

 

「そうか。ならもう良いか?修行を再開するぞ」

 

 

「はい!」

 

 

 少し休憩した程度で疲労は回復し切ってはいないが、芭蕉の足は軽やかに光牙の元へ向かっていた。

 

 

**********************

 

 と言った風に蛇女の生徒達は各々のやり方で実力を高めていた。

 

 そして選抜メンバーで最も心配されている籠鉄はというと、 

 

 

 

「籠鉄君、ここは漢字が違います。水と氷の記入欄が逆です。確かに字は似ていますが、他の問題などを見れば気付ける範囲です。制限時間に焦らず、問題をよく見て下さい」

 

「……おう、すまねぇ……」

 

 現在、勉強で心が折れ掛かっていた。

 

 具体的には「崖っぷち」と書かれたハチマキが力無く落ちる程度には。

 

 果たして彼は乗り切れるのか?




もう言い訳できません。完全にスランプです、はい。

色々あったんですが、以前までのペースだと話の進みが遅くなり過ぎる危険があり、話を予定よりも大幅にカットしてこの話を書くに至りました。

登場済みの千歳以外の選抜補欠はこのタイミングを逃すと完全に出せなくなる恐れがあったので、急遽路線を変更して登場してもらいました。

取り敢えず、次回は選抜メンバー達の特訓の様子を書けたらなと思います。唯一選抜補欠で未登場の伊吹に関しては、次回の春花の修行の時にでも出すつもりです。

それと、蒼鬼はこう言った時期になると仕事人のモードになり、冗談も殆ど通じなくなります。その結果、この時期の蒼鬼は一部の生徒から鬼教官と喚ばれていたりします。

それから、キャラ紹介に関してはとある方から長すぎて覚えられないという意見を頂いたので、一端削除させて頂きました。

ある程度整理したら、もう一度投稿します。

それでは、皆様。

改めまして、今年こそは宜しくお願いします。

焔の仲間に対する考えを改める時期は

  • 原作より早めが良い
  • 原作と同時期で良い
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