鬼灯の冷徹 異世界の転生事情と現世の妖怪退治のあれやこれや 作:イバ・ヨシアキ
原作:鬼灯の冷徹
タグ:R-15 残酷な描写 アンチ・ヘイト 転生 クロスオーバー 鬼灯の冷徹 このすば その他をクロスオーバーする予定です。
そして近年。
こと地獄においては混迷の時代を迎えていた。
この世の人口増加と文明の急速な発達。
文化の急激な変化に伴い、古から存在する妖と神は存続を悩まし、悪霊はさらに凶暴化し、拝み屋や退魔業を生業とする職種は休まる事はなく、また現世で行き場を失った妖怪や神々などの移住問題に加え、歴史の偉大なる人物の強制的な召喚戦争に、はたまた異世界の神による違法な死者の転生行為の取り締まりなど、地獄は年々にその問題を山積させていく事となる……
前代未聞の混乱と混迷を極めていた、あの世……
しかし、それらの問題は地獄を収める閻魔大王の第一補佐官・鬼灯によって収められ、あれやこれやで解決されていた。
これは、そんな問題に奔走しながらも、マイペースに解決する、とある鬼神の物語である……
イバ・ヨシアキです。
今年に復帰を希望していたのですが、色々と仕事が立て込んでしまい、中々投稿が出来ずに申し訳ありませんでした。
色々な方々からお手紙が来ていますが、お返事を返せずに申し訳ありません。
リハビリを兼ねての新連載を掲載していきます。
平成最後の夜……楽しめたら幸いです。
輪廻転生──
それは生命が一つの生を終え、新たな命として誕生する為の、世界の理である摂理の循環式である。
ありとあらゆる生命は死して、次なる命として生まれる運命を持ち、命は巡り世界はさらなる広がりを見せていくのが、解脱者や覚醒者によって知らされたこの世の生命の理でもある。
人の魂は巡り、命は循環され、世界は構築されていくと、それは日が昇り沈む、季節が巡ると、この世界の道理として組み込まれた摂理なのだ。
ゆえに、その世界の魂を勝手に持ち出す事は、ご法度であり、異世界転生とは、魂を管理する側にとっては、はた迷惑な行為でしかないのである……
暗くも暖かい空間に漂い、彼は深い眠りに落ちていた……
いつの間に寝てしまったんだろうとまどろむ意識の中で、心地よい眠りに意識を朦朧とさせていた彼。
そして唐突に、自分を呼ぶ声が聞こえてくる……
「カズマさん、サトウ・カズマさん、眼を開けてください……」
透き通るような声。
鼓膜を通し、脳裏に優しく響く声音の言われるがままに、カズマは目を開けて見ると、そこには、一人の美少女の姿があった。
荘厳な大理石造りの椅子に座り、優雅な佇まいをした彼女。
例え様がなく美少女だった。
水色の長い髪を揺らせ、蒼の双眸を持ち、彫刻像の人が理想とするプロポーションを持つ、グラビアアイドルや、名女優すらも凌駕してしまう程の、そう、人間離れした美貌の持ち主が、自分に声を掛けていた事に、カズマはしどろもどろになってしまう。
そんな彼の反応を見て、水色の髪を持つ美少女は落ち着いた声音で呟く。
「緊張しないでくださいカズマさん」
微笑み、思わずどきりとしてしまうその笑みに、カズマは思わず胸をときめかせていた。
彼のそんな反応を察した彼女の言葉は続き、
「私の自己紹介をさせていただきます。私の名前はアクア、貴方が要る世界とは違う世界……異世界とあなた方が呼ぶ、異なる世界の女神です」
「め? 女神」
優雅な佇まいでそっと言葉を呟き、紡ぐ様に言う彼女の言葉に思わず驚いてしまうカズマ。
そして彼女は続ける。
「貴方は若くして不幸にも死んでしまい、一つの生を終えてしまいました。でも貴方の生前の行いを鑑みて、貴方を異世界へと転生させてあげます。」
「い、異世界? 転生?」
声が上ずり、後ずさりをしてしまうカズマ。
そんな彼の反応を見ていないのか、女神と自称するアクアは、淡々と続け、
「カズマさんのいた世界とは違い、貴方が転生する異世界は、今、魔王の脅威に晒され、多くの人々が苦しんでいます。」
「ま、まおう?」
「その世界を救う勇者になって、世界を救ってください。貴方には転生の特典として、望む能力を与え、または最強のアイテムも差し上げます。さあ、異世界へと転生してください!」
カズマの上ずった声をまるで聴いた様子もなく、まるで急ぎ足の様に話を進めていくアクアと名乗る自称女神。
はっきり言って、怪しさしかなかった。
そもそも、異世界転生と、何の躊躇もなく、照れや恥ずかしさ等を見せる事もなく、あっさりと異世界を進めてくる彼女の言動に、カズマは疑念しか抱けなかった。
テンプレ式の異世界転生ジャンルのライトノベル作品の神様のノリで、いきなりそんな事を言われても、はい、転生しますと、告げられるわけもない。
そしてカズマは、
「あ、あの……変な勧誘はお断りしています!」
「……はい?」
「あ、あの、うちは代々仏教で、あ、でもあなた方の教義をとやかく言う気はないのですが、いきなり、入信する様に言われても……」
変に相手を刺激しない様に、作り笑顔でとりあえず逃げ出す準備をしていたカズマ。
かつてこんな場面には出くわしていたが、またあの時みたくに逃げ出すしかないのかと、かつての逃走劇を思い出してしまう。
そう、あれはアキバへと初めて出掛けた中学生の頃。
エッチな同人誌が欲しく、アキバの同人ショップへと向かう最中に、若い大人の女性に声を掛けられてしまい、簡単なアンケートをしてほしいと、逆ナンされた気分で話をしていると、何時の間にか事務所へと案内され、強面な面々に囲まれ、絵を買わされようとしていた。
いわゆる絵画商法に捕まってしまい、1000万円もする絵画をローンで購入しろと、何も書かれていない書類に名前と血印を押されそうになったカズマ。
でも彼は持ち前の機転を利かし、絵を売る強面の面々に交渉を持ちかけた。
お金持ちの友達を紹介したいと言い、電話を借りる瞬間にそそくさと駆け出し、そのまま近くの窓をぶち破り、ビルの外へと抜け出た。
しかし彼が飛び出たビルは5階建て。
真っ逆さまに落ちた彼は、偶然に通っていたカラの段ボールを運んでいた軽トラの上へと落ち、骨折をする事はなくとも、腕をガラスで切ってしまい、血塗れになりつつも、ジャッキーチェンばりの、かつての体当たりな香港映画さながらに逃げ出し、彼を追う絵画商法の輩や、何故か不運にも巻き込まれてしまった半グレ同士の抗争や、ヤクザと闇金の抗争に巻き込まれ、それら危ない面々に追いかけられながら、アキバの街をさまよい、とりあえず目的のエロ同人誌を購入し、自宅へと戻った記憶があった……
あの時は両腕をガラスで切ってしまい、後で5針り程縫うハメになったと、苦い思い出がよみがえってしまう。
そして購入した同人誌も、たいしてエロくは無く、18禁でもなく、ただのギャグ漫画だったと、怪我をして帰っただけのセピア色の逃走劇。
また、あの逃走劇を繰り広げなければいけないのかと、身構えるカズマ。
でも……周囲を見回してみるも、逃げ出す手頃な窓は無く、ただのくらい空間だけが広がっていた。
暗室なのかと考えるも、そんな雰囲気はなく、無理矢理カーテンで光を遮った様子もなく、ただ何もない、暗転とした空間が果て無く広がっていた。
それなのになぜか、目の前にいる電波な事を平然と言う残念な美少女と、彼女の持ち物らしい椅子やテーブルと小物入れがはっきりと見え、常識では簡単に説明できない現状が広がってもいる。
なんかのトリックなのかと警戒するも、ただの高校生に、ここまでする事があるのかと、疑問が次から次へと湧き出て来てしまう。
もし自分がどこかのお金持ちの御曹司なら、ここまで凝った誘拐はうなずけるが……?
「あれ?」
ふと、カズマは疑問をもってしまう。
なんで俺はここにいるんだろうと、すっぽりと大切な記憶が抜け落ちていた、またここに至るまでの経緯が、記憶から失われていた事に気づく。
思いだそうにしても、頭の中から記憶がすっぽりと抜け落ち、昨日の晩の事までしか覚えていなかった。
確か、何時もの様に学校から下校し、自宅へと戻り……あれ、ここから何をしたんだろう?と、記憶が抜け落ち、思い出す事が出来ない。
記憶喪失なのかと慌ててしまうが、自分がどこの生まれで、そして両親の顔や名前、学校の想い出や、初恋の最悪な結末と、そんな事は覚えているのに、何故に、ここにいるのか、その記憶だけが思い出せなかった。
なんで思い出せないのかと、次第に焦るカズマ。
でも目の前にいる青色の髪の美少女こと自称女神のアクアは、そんな彼の気持ちを気にした様子もなく、
「……あのカズマさん、私の事を変な宗教か、危ないセミナーの勧誘だと思っているのなら、それは失礼な事ですよ」
と、あくまでも女神と自称する手前、威厳を保とうと、笑顔を引きつらせながらに言う。
こほんと、咳をして、上ずりそうな声を整えながら、アクアは、
「とにかく、カズマさん! あなたはもう死んでいるのです! あなたに残されたのは、異世界に転生するか、それとも天国と呼ばれる場所に行くしかありません」
本題を進めてくる。
「え、し、死んだ?」
そのフレーズに反応して、カズマは声を返してしまう。
「ええ、最初に言いましたけど、あなたはもう死んでしまっているの!」
「ちょ、ちょっとまてよ、死んだって、どういう事だよ」
そう言えばと、彼女と最初に出逢った時に言われたセリフを思い出し、思わず声を荒げながらにカズマは、
「じゃあ、なにか? ここは死後の世界で、俺は死んでいるっていうのか?」
「ええ、貴方はもう死んで、今は魂だけの存在になっているの!」
と、大声で言えば正気を失われ、下手をすれば社会的な立場を失ってしまうかの様な事を堂々と言い放つアクアの言葉に、カズマは余計に頭を混乱させてしまう。
なんだってこの女は、こんな電波な事を言うんだと、カズマの思考は余計に困惑していく。
「魂だけの存在って……現に身体があるだろうが」
「それはあなたの魂が生前の形を作っているだけだからなの」
「……」
やはりここは変な団体の施設で、俺は自分が知らない内に記憶を混乱してしまう、何らかの薬を打たれ、攫われてしまったのだと、そう判断し、とりあえず逃げて見ようと様子をうかがう中で、
ドンっ!
と、大きな音が空間に響き、身体を揺さぶる振動が、暗がりの中を揺さぶり、カズマとアクアは硬直してしまう。
「な、じ、地震?」
「や……やばいぃ……」
慌てるカズマを他所に、何やらぬめっとした冷や汗をぽたりとこめかみに流し、アクアは絶望に表情をぐにゃりと歪ませていた。
美少女の整った流麗な顔がすっかりと崩れてしまい、瞳の色も交際が失われ、あれだけ勢い良く喋っていた口も堅く閉口し、もごもごとしながら困惑していたアクア。
「やばいやばいやばいやばいヤバイヤバイヤバイ」
何かバグったかの様な、トラウマゲームのワンシーンみたく、一言だけのセリフを連呼し、右往左往に身体を揺らしてしまうアクアは、あばばと叫びながらカズマにすがり、
「あんた、とにかく、すぐに転生して! 今すぐに生まれ変わって、異世界に行ってちょうだい!」
と、両腕をがっしッと掴みながら、大声で叫び、転生を進めてくる彼女。
「ちょ、ちょっと、いきなりなにを──」
「い、いいからぁ! はやくぅてんせいしなさいょお!」
胸倉を掴んで異世界転生を進めてくるアクアは、切羽詰まったかの様な慌てぶりを見せながら、カズマを脅しにかかって来る。
「いい、あんた異世界よ! 異世界転生!! この意味わかっているの?」
「いや、異世界転生って言われても……とりあえず落ち着いて──」
「こっちは落ち着いている間がないのよぉ!」
胸倉を掴んだカズマを左右に揺らし、
「パッとしない負け組のオタク人生を薔薇色にしてくれる女神様のチート付きの、ラノベ好きの夢、理想郷、異世界転生、それがあなたの前にあるのよぉ! 変な警戒心は捨てて、早く異世界に転生してよぉ!」
と、必死に異世界転生を進めてくるアクア。
「ちょ、ちょっと待て、少し落ち着けよ」
「これが落ち着けるわけないでしょ! こっちは命が掛かっているのよぉ! さあ、早く異世界転生してよぉ!」
ガクブルにカズマを揺らし、泣き叫びながら、もう可憐な女神の姿は無く、取り乱した三枚目美少女の姿しかなかった。
「今なら異世界転生してくれたら、チート能力を三つ、いや五つ、あーもう、おおまけして10個の能力を着けてあげるし、どんな美少女もモノにできるハーレムチートや、どんな敵も倒せる聖剣だって付けてあげるから、なんなら現代知識を調べる事の出来るスマホだって付けてあげるし、ああもう、死ねって言ったら、どんな凶悪な相手も一撃で死んでしまう言霊の力もつけてあげるからぁあ、早く異世界に転生してぇよぉ!!」
息を荒くして言うアクアに、カズマは恐怖を通り越して戦慄を覚えてしまう。
そして、ばきゃッと決定的な破滅の音があたりに響いてしまう……
「あ、ああ……」
「え、な、なに? あれ?」
暗がりの沈まりに唐突に走る、光の亀裂に、アクアは固まり、カズマは言葉を失う。
そして亀裂はビキビキと空間に広がっていき、そして決定的な破裂音がパリンと響き、
「……その異世界転生、少し、待っていただけますか?」
亀裂の裂け弾けた中から、一人の鬼が現れた。
黒い着物を纏い、黒く淑やかに流れる黒髪を靡かせ、その濡れた髪に隙間から覗く一本の角を生やし、冷徹な印象を抱かせる、怜悧な眼差しを持つ、鬼としか形容できない、一人の男性が姿を現した……
「お、鬼?」
と、思わず呟いてしまうカズマ。
アクアは白眼を向きそうな程に身を強張らせ、あたふたと慌てていた。
「……水の女神・アクア様……唐突な来訪と無礼をお詫び申し上げますが、何故に私が、何の連絡も寄越さずに、無礼も承知でここに来たのかは……御存じでしょうね?」
視線だけで相手を射殺すギロッと睨みを利かす鬼の青年の視線に、アクアはびくりと反応し、あわわと声を漏らしながら、しどろもどろに取り乱していた。
何やら変な現場に巻き込まれてしまったと察するカズマ、そして先程までにアクアが言っていた事は嘘でなかったと察し、ここはもう自分の知っている、常識の通用しない場所なのだと、ようやくにカズマは理解する。
そして何よりも、尋常ではない存在が、目の前にいるが、何よりの証明だった。
水の女神と呼ばれたアクア。
でも本当に女神なのかと疑ってしまう程に、アクアは動揺を隠せないまま、
「あ、あら……ほほおずきさま……ななにかごようでござりますか、いますか? ですか?」
と、上ずった声でとりあえず返答をしようとしたのか、すごくどもった声を振り絞って紡いだ声は、言語と言うには凄まじい発音の声音と化し、何を言っているのかよく解らない程にうわずっていた。
でも一応女神のプライドからか、一般人のカズマの手前なので、これ以上無様な姿を見せたくはないのか、彼女は大きく深呼吸をし、それは凛々しくも逞しい様な姿で、噴き出ていた脂汗を引かせ、目をきりっと音が鳴る様に凛とした態度をとり、
「……鬼灯様ここは女神の聖域である空間いきなりの来訪は──」
でも、やはり動揺を隠せないのか早口でまくし立てる様に鬼灯に忠告する彼女の声はうわずりを隠せずにいた。
しかしまくし立てるかのように紡がれようとしていた言葉は、ゴンっ! と、黒い床を打ち抜く金棒の一撃に途切れ、その金棒の持ち手に両手を添え、まるでどこかの騎士が直立で、威風堂々と立つかの様に、ギロッとアクアを睨みつけていた。
その睨みに、言葉を失ってしまうアクア……
再び油汗を滝の様に流しながら、何も言えぬまま、それはまるで、問題児が体育会系の教師に睨まれているかの様な、そんな、沈黙のお説教の場面が展開していた。
そんな気まずい雰囲気の中で、なんでこんな場面に遭遇してしまったのだろうと、そして先程アクアが言った言葉はと、困惑に戸惑いつつも、鬼灯と呼ばれる鬼の男性の威圧感に抑え込まれる様に、何も言えないまま、この嫌な張り付き押すような感覚に囚われつつ、アクアと同じように汗を流していたカズマ。
そしてその重くて静かな静寂は、
「……私が、なんで、ここに来たのか……その理由を貴女に、言わなければいけませんか……」
その一言で人が殺せてしまうかの様な重い声音で呟く鬼灯の問いに、アクアはブルブルと震え出し、整った美少女の顔をひどく歪ませ、ボロボロと涙をこぼして、
「ご、ごめんなさぁい~!! わるぎはなかったんですぅう~! できごころだったんですぅう~! ゆるしてくだぁさぁい~!」
自称女神と称した美少女が、まるで親に悪事がバレてしまったかのような子どものみたくに泣き出してしまい、ぺたんと地面に座り込み、ワンワンと大泣きをしてしまう。
はっきりと言って、どこかいたたまれない、いい年をした美少女が、わんわんと泣き出すその姿に、何故か心が抉られるような気持で視線をそらしてしまうカズマ。
しかし、
「喝っ!!」
ドシンっ! と、金棒をまた黒い床に叩きつけ、無数の亀裂を走らせながら、その場の全てを制止させるかの様な、研ぎ澄まされた一声を響かせ、その声にアクアとカズマは、思わず硬直してしまう……
泣き止むと言って良いのか、それとも泣く事を止めさせられてしまったのか、ただ恐怖に引き攣った顔で、鬼灯を恐る恐ると、彼の機嫌をうかがおうとする彼女の視線に、
「……仮にも、貴女は生命の象徴でも、ある水の女神でもあるのですよ……たかが私みたいな鬼一人に、そこまで取り乱してどうするんですかぁ!」
ギロッと睨み殺すかのように叱責する鬼灯に、後ずさりしながら地面をずささと後ろに引き下がってしまうアクア。
「だぁって、鬼灯様ぁあ、すごぉくぅ、怒っているもん! ただでさえ怖い顔しているのにぃ、怒ったらぁあ、鬼みたくこわくなるもぉん!」
先程まで自分が優雅に座っていた椅子に隠れながら、鬼灯に意見を返す彼女。
だが。
「鬼なんだから仕方がないでしょ! 人が怒りん坊みたいに言わないでください!」
「あーん、やっぱりぃいこわぁい! お願いだからおこらないでぇ!」
椅子の背もたれに隠れ、泣き出すアクア。
「……なんだよ、これ……」
と、何かいたたまれない気持ちで、泣き出す女神に、それを叱りつける鬼と、そんな場面を目の当たりにしてしまった、ただの人間のカズマは、そのまま思考が停止してしまいそうな立ち眩みを覚えてしまう。
「とりあえず……佐藤和馬さん」
と、そんな中で、鬼灯はおもむろにカズマに話しかけ、
「この駄女神……失礼、女神アクアから聴かされたと思いますが、この度はご愁傷様です」
手を合わせ瞑目しながら恭しく会釈してくる。
よく見ればコスプレでとって付けたかのような角ではなく、皮膚と同化した本物の角で、彼の雰囲気も、どことなく説得力のある、何事にも真剣な面持ちがあった。
先程まで女神を自称していた彼女よりも断然に迫力がありすぎる彼を前に、カズマは、
「あ、ご丁寧にどうも」
とりあえず会釈をし、この事態を前向きに受け入れる事にした。
そして、
「あの……鬼灯様でしたっけ、その、やっぱり俺……いや、僕は死んだんでしょうか?」
とりあえず敬語と敬意をもって声を掛け、自分のこの状況を確認する為に訊ねてみると、
「はい、貴方は今日の午後22時25分に交通事故によって死亡されました」
「交通事故?」
少なくとも痛みの無い死では無かったのだと理解し、少し青ざめてしまうカズマ。
でもそんな彼の反応を見て鬼灯は首を傾げてしまう。
「もしやカズマさん……貴方、自分が死んだ記憶がごっそりと抜けていやしませんか?」
訊ねる鬼灯の言葉に、
「ええ、どうも死んだって言う実感が無くて……なんでここにいるのかもよく覚えていないんですよ」
「……アクアさん」
ぎっくと、ひと昔のギャグ漫画みたいな擬音を浮かせてしまうかの様に身体を揺らし、鬼灯の声に気まずそうにしながらアクアは、
「はい……」
だらだらと気まずい冷や汗を滝の様に流し、睨んでくる鬼灯に視線を合わせない様にしながら、どうやって言い逃れをしようかと思案していたが、焦りで脳がパニックを起こし、良い言い訳が思いつかないまま、
「貴女……彼に自分が死んだ経緯をちゃんと教えてはいないんですが?」
「あわわ」
ぎろりと睨みつける鬼灯の視線に、あたふたとしてしまうアクア。
必死になりながら、
「ええ、あの、ちゃんと教えてあげましたよ。でも、なんか、あの混乱している様子で」
「──いえ、死んだから転生する様に進められただけですよ」
「あー!」
誤魔化そうとしていた失態を告げ口された子供の様な悲鳴を上げながら、憤慨しながらアクアは、
「なんでバラすのよ! このチクリ!」
「な、バラすって……本当の事を言っただけだろ! それになんだよ、知らせていない事って、ちゃんと教えろよ!」
顔を真っ赤にして泣きながら食ってかかるアクアに思わず言い返してしまうカズマ。
「言えるわけないでしょ! バレない様に早く異世界に送り込もうとしていたのに! なんで、なんで、すぐに異世界に転生しないのよ、この馬鹿、童貞、オタク!」
罵倒を投げかけてくる彼女の言葉に、カズマは憤慨し、
「誰が馬鹿で童貞でオタクだ! だったらお前はさっき言われた駄女神だろうが!」
「あー、事もあろうに女神様に向かって、駄女神ってなによー 駄女神って!」
「駄女神だろう! どう見ても! さっきあんなに怒られて、ワンワン泣いて、どこが女神だ! 自称女神だろ、おまえなんか!」
「あー、人の事を馬鹿にしてぇえ! あんたなんか、絶対に異世界に転生なんてさせない──」
「やかましっ!」
「──」
「──」
二人の見苦しい喧嘩を一喝し、黙らせてしまう鬼灯の怒声が暗がりの中にこだまする。
ビリビリと震える声の振動に、思わず硬直してしまう二人。
「喧嘩をしていたら話が進みません……少しは冷静になって話をしないさい……良いですね?」
ぎろりと睨みつける鬼の眼差しを前に、
「はい」
「……はい」
正座をしながら返事を返すカズマとアクア。
鬼灯は困った様子で溜息をつき、息を整えながらにカズマに向かって、
「カズマさん……あなたは確かに今日、お亡くなりになられました……彼女を守って、ね」
「へ……」
気まずそうなアクアに視線を指し、淡々と言う鬼灯に、間の抜けた声を出してしまうカズマ。
「……あはは」
乾いた笑いを漏らしながら、暗闇にこだまする彼女の失笑。
カズマは何やら先行きの暗いモノを感じていた……
鬼灯の冷徹とこのすばのコラボを考えた、異世界転生モノをしたら面白いのかと思いました……
本当はもっと書き込みたかったのですが、読みやすさを追求してみたのですが、読みやすいでしょうか?
気に入っていただけたら幸いです。
一月中に続きを掛けたら幸いです。
また、今作の連載数話は20話となっています……
途中で停滞しなように頑張ります。
では2019年の宜しくお願い致します。
感想など頂けたら、筆者は喜びます。
返事は遅れてしまいますが、何卒に宜しくお願い致します。
では、よいお年を!