――宮永咲
「わー、テレビで見た雀荘みたいっすね」
「……いっぱい」
意外とって言うと失礼かもしれないけど、面倒見の良い池田先輩に案内されてCクラスの部員が主に使うという大部屋へとやってきた。キャプテンは部室に残って先ほどの対局を監督やコーチと振り返っている。
綺麗な新校舎の部室練からは少し離れたところにある旧校舎の大部屋には10台を超える雀卓が並べられていた。余裕を持って雀卓が置かれていた部室よりも広いはずなのに少し狭苦しく感じてしまう。
「大部屋には麻雀の入門書から戦術書もあるから自由に読んでいいぞ」
うわぁ、すごいな。かなり大きな本棚まであるよ。待ち時間に読むのだろうか、麻雀以外の漫画や文庫本も半分を締める。以前から読みたいなと思っていた本を見つけて、ふと手に取ろうとする。
「その文庫はキャプテンか弓野先輩のだな。
待ち時間に読むのは自由だが、借りて帰るなら先輩に許可を取れよ」
「麻雀の本は部のものっすか?」
「東横、上級生には敬語使えよ」
「はい、わかっ……わかりました」
「……」コクリ
「キャプテンはあまり気にしないだろうけど、あたしが代わりに注意するからな。
麻雀の本は部の物だから、自由に借りて帰ってもいい。ちゃんと返せよ」
対局してたときは分からなかったけど、池田先輩って、もしかして体育会系?口調も変わってるし!
キャプテンは優しい感じの人だから安心してたけど、風越女子の麻雀部って名門だけあって上下関係にはかなり厳しのかな?
「ま、楽しくやってく分には口出ししないし。あとの細かいことは、みはるんに任せるし」
「華菜ちゃん、今日は自分が案内して後輩に良いところ見せるって言ってたよね?」
「せっかく二年になったんだから、ちょっとは先輩面してみたかったし!」
「……まったく」
吉留先輩がツッコミを入れて、深堀先輩が呆れ顔でため息をついている。
どうやら口調のしっかりしてた池田先輩も仲の良い人と後輩の前で切り替えてるみたいだ。
やっぱり人数の多い部活になると、ある程度の規律が無いと部内が上手く回らないんだろうな。
「えっと牌譜の管理や部室の掃除などの雑用は――」
吉留先輩によると去年まで雑用をするのは校内ランキングの低い一年生の役割だったみたい。
けど福路先輩が新キャプテンになってから、キャプテン自らが部室の掃除を一人で行っていたらしい。
それだけではなく合宿の買い出しや料理、部員みんなのジャージやシーツの選択まで……。
「キャプテンがそういう人なのは一年もすぐに分かると思う」
お世話好きなとこはあると思っていたけど、流石に福路キャプテンはお人好しがすぎるよー。
「監督の発案で校内ランキングとは関係なく各部員が分担することになったから」
清掃はAとBクラスが部室をCクラスが大部屋と分担して行うそうだ。パソコンの得意な人は清掃係が免除されて牌譜の管理を任されるらしい。部員の中には他校の牌譜を集めたり、牌譜の分析を手伝ったりするマネージャー志望の人もいるみたいだ。
部員の多い風越女子麻雀部ではCクラスの部活動に関して、練習の大半が個人の自由裁量に任されている。放課後に麻雀を楽しみたいだけって感じの人も少なくない。たしかに面子にも雀卓にも困りはしないみたいだ。これなら観る専で初心者の文堂さんも名門麻雀部という肩書に気後れせず入部して、麻雀を覚えることができると思う。
強くなりたいという意欲がある部員は、校内ランキング戦に積極的に参加して順位を上げてBクラスを目指す。Bクラスからはコーチの個人指導が受けられるからだ。Cクラスの部員でもコーチにアドバイスをもらったり、ちょっとした相談をしたりもできるみたいだけど、全体の練習とは別に指導の時間が確保されるのは大きい。
「早くランキングを上げて、まずはBクラスを目指すっす」
「東横さん、初心者だけど私も一緒に頑張ります」
桃ちゃんと入門書を手にとった文堂さんが気合を入れる。
「宮永はキャプテンが言ってたように自分が1000点と思って打つようにな。
あと対木は監督が言ってたように七対子は禁止な」
「はい、がんばります」
「……むずい」
「あたしはAクラスで待ってるし!
インハイの県予選は6月からだ。全国目指してるなら――」
池田先輩が急にポーズを取って言う。
「来いよ、“高み”へ」
「華菜ちゃん、それ漫画で見たやつ」
「華菜と同じエースだから、真似してみたかったし!」
麻雀部のCクラスで私は友達やクラスメイトと一緒になって、勝つための麻雀を打つ。
――東横桃子
「これ、部活なら和了ってもいいんだよね」
咲っちは少し変わった環境で麻雀を打ってたせいでプラマイゼロになるように打つ癖があるっす。
キャプテンや監督の指導もあって少しずつ改善されてるみたいっすけど……
「カン!」カッ {裏 西 西 裏}
「また
ちなみに私は見学っす。周囲が驚くほど咲っちの打ち筋はカンを多用するっす。
咲っちは「カンだけなら簡単につくれると思うけど」とか言ったけど、そんなことないっす。
「……ありえない」ボソッ
ありえないとか言ってるもこちゃんも、いつも七対子で和了る方が簡単とか言ってるから同類っす。
インターミドル東海王者のもこちゃんは新入生の期待の星っす。
それこそBクラスから始めてもおかしくない実力があるけど、順子で役をつくる訓練のためにCクラスで打っているっす。
「ツモ、
役満っすか。咲っちには、いつも驚かされるっす。
「私、役満を和了ったの初めてだ」
「そうなんっすか?」
「……いがい」
対局中に外野から思わず疑問を口にしてしまたっす。けど周囲も同じ気持ちみたいっす。
「プラマイゼロを狙ってた家族麻雀のときは、いつもはできても崩してたよ……」
何回聞いても他人の家庭事情というのは複雑怪奇っす。
「たのしい……ね」ニコニコ
「うん!」
もこちゃんも特殊な打ち筋のせいで中学時代は麻雀を打つのを避けられてたらしいっす。
だから風越女子麻雀部は大勢と沢山打てて、いつも楽しそうにしてるっす。
「私にとって麻雀はお年玉を巻き上げられるイヤな儀式だったんだ」
「……」コク
「けど風越女子の麻雀部で、みんなと打てて嬉しかった」
「かてたら……うれしい」
「ちがうよ。相手がもこちゃんやももちゃんだったから!
それにキャプテンや池田先輩と打ったときは、家族が相手のときと違って難しかったし……楽しかった!」
「なら……よかった//」
私はちょっち悔しいっす。なぜなら私にはもこっちや咲っちみたいな特別な麻雀の才能はないっす。
それなのに監督さんは、わざわざ推薦枠まで使ってまで、私を風越女子に呼んでくれたっす。
今まで全国対戦の麻雀対戦ゲームで、そこそこ強かったからって調子にノッていたっすね。
リアルの麻雀は、画面越しのゲームの麻雀とはまた違うっす。
ゲームだとポンやチーといった鳴きタイミングもナビしてもらっていたし、点数計算も任せきりだったことに気付いたっす。
けど負けて悔しいって思うたびに、麻雀が好きだってことに気付かされるっす。
咲っちやもこっちに「いつかリベンジするし!」って言ってる池田先輩じゃないっすけど借りを返さないと女が廃るっすよね。
私を見つけてくれた監督さんの見る目は正しかったっと、周囲に認められるためにも校内ランキングの上位を目指すっすよ!
三人娘の入部だけでなく風越女子の状況や部員の関係は原作と違う点が多々あります。
例えば、原作では去年まで校内ランキングの低い1年が行っていた雑用を全てキャプテンの福路が一人で担っていました。
キャプテンのお人好しを表すエピソードですが、本作ではオリ主である監督の読川が「そこで後輩は手伝うなり、分担するなりしろよ!」とツッコんで福路の練習時間を確保させました。部員が80人もいて率先して雑用を行うマネージャー志望の子とかいなかったのだろうか。
もしかするとFate/stay nightの弓道部の衛宮士郎みたいな扱いだったのかもと想像すると涙を誘います(女子高の闇)。 原作の久保コーチは部の状況をどう思っていたのでしょうか……。