風越先鋒、宮永咲   作:のぶほし

19 / 36
次で20局となりますが、何と時系列的には単行本の第一巻が未だ終わっていません。
久しぶりに単行本の1巻を読み直して原村和が全国優勝を目指してた理由(転校したくない)を思い出しました(汗)


第19局 合宿

――宮永咲

 

 五月の連休は、鹿児島への小旅行となった。

 本来は麻雀部は全部員の参加で県内のパークホテルで合宿が行われる予定だったけど……。

 監督が鹿児島の強豪校との練習が組めたと、急遽Aクラスの部員だけが別行動となった。

 

 明日からは合同練習だけど、夕方までの時間は繁華街・天文館通りで観光だ。

 監督は用事があるらしく、空港についてからはキャプテンに引率を任せて別行動。

 私たちだけで自由にお土産を買ったりできるのは嬉しいけど、いいのかな?

 

 麻雀部の規律に厳しい久保コーチとは逆に、読川監督は割と自由放任なところがある。

 風越女子の麻雀部では一軍のAクラスより、二軍であるBクラスの方が練習が厳しいと言われてる。

 キャプテンは選手の自主性を尊重してくれてるって言ってるけど……いつも大勢の部員を相手に忙しそうなコーチに比べて、Aクラスの担当で少人数しか見てない監督は少しサボってる感じがする。

 弓野先輩なんかは監督が来てから風越女子麻雀部の雰囲気も昔と比べて色々と変わったと言っていた。

 私はあまり堅苦しいのは苦手だから、監督がゆるい感じで助かってるのかもしれない。

 きっとコーチと監督がそれぞれメリハリを担当して丁度良いバランスを取っているのだと思う。

 

「全員、揃ってるかしら?」 「みんな、そろってる?」

 

 校内ランキング上位8人のAクラスは、三年が福路キャプテンと弓野先輩の二人。

 キャプテンは風越女子で麻雀が純粋に一番上手だ。とても優しくて面倒見の良い人だけど、すごく機械に弱かったり、天然なところもあったりする。

 弓野先輩は、本棚に置いてある文庫本の種類で気付いたけど、私と読書の趣味が近い。お昼休み図書室でもよく会ったりする。

 

「宮永は迷ってないよな」 「全員、揃ってます」 「もこもいる?」

 

 二年生は池田先輩、吉留先輩、深堀先輩の三人。

 池田先輩が監督やコーチに真っ先に意見する麻雀部の切り込み隊長というかムードメーカーで、仲の良い吉留先輩がその宥め役。そして深堀先輩がどっしりと構えていて三人で麻雀部の二年生と一年生をしっかりとまとめている。

 それに池田先輩は部活外でも仲良くしてくれてて、学内で困ってたことがあれば、すぐに助けてくれる頼れる先輩だ。部活ではキャプテンに甘えてる感じだけど、家では三つ子の妹がいるお姉ちゃんだ。池田先輩と吉留先輩には、寮暮らしのもこちゃんや桃ちゃんと一緒に街を案内してもらったこともあった。

 深堀先輩との絡みは少ないけど、勝手にお母さん的なイメージがある。一年生だと、もこちゃんが懐いていて、とくに喋ったりする訳ではないけど近くにいるのをよく見かける。また部員のなかで桃ちゃんの特異性にいち早く気づき、久保コーチに「消える」と報告したのも深堀先輩だ。監督は気付いてたみたいで、Aクラスに入ってから指導するつもりだった、深堀先輩のおかげで桃ちゃんはBクラス入りした直後から、コーチに指導され自分の特異性を意識した打ち回しを試すようになった。

 

「迷ってないです!」 「……いる」 「大丈夫っす」

 

 そして一年が私と、もこちゃんと、桃ちゃんの三人。入部したときは初心者だった星夏(文堂)ちゃんもランキングを伸ばしたけどAクラスに入れなくて一緒の合宿に行けなかったことを悔しがってた。

 私ともこちゃんはAクラス入りしてからランキング戦を除いて、桃ちゃんに教わって部室のパソコンを使ったネット麻雀ばかりしてる。ネットの麻雀は、いつもは見えてる牌が、ぜんぜん見えなかったりして。「これって本当に同じ麻雀なの?」ってくらい、いつもの麻雀と違う。もこちゃんも、ネットの麻雀だと対子が思うように集まらず「……むずい」って言って四苦八苦してる。

 でも今のままじゃ全国に行けないって監督に言われたから。涙目になりながらネットの麻雀でも勝てるよう頑張っている。ネット麻雀には「のどっち」という伝説級の打ち手がいるみたいだけど、本当に凄い人なんだろうなって思うよ。

 

 誰かと対面で打つのはホントに久しぶり。また他県の人と打つのも楽しみだ。風越女子に入ってから色んな人と打つようになって自分の世界が広がっているのを感じる。高校に入ってからは新しいことの連続。けど、そんな毎日が楽しい。

 

 私、麻雀部に入れて良かった。先輩や友達と打てて楽しい。

 けど三年生のキャプテンや弓野先輩は夏のインターハイを最後に引退する。

 もし6月の県予選で負けたらそこで終わり。そんなのは嫌だよ。

 

 全国の舞台でお姉ちゃんと打ちたい、そして全国の舞台は一人じゃなくて、みんなと行きたい。

 

 だから、やれることは、全部やってみて、みんなと一緒に――全国に行くんだ!!

 

 

 

――福路美穂子

 

 宿泊先ホテルの多目的室に用意された麻雀卓は二台。机には買ってきた飲み物やお菓子が置かれていて、待ってる間は談話ができるようにしてあります。そこに九州赤山の団体戦レギュラーを招いての合同練習。人数は二校合わせて13人。

 

「こうして、ゆっくりとお話するのは初めてですね?」

 

「そうですね」

 

 ソファーで休憩していた私の隣に座ったのは九州赤山高校の藤原利仙さん。彼女とはお互いに一年生の時から県代表にも選ばれていて、インターハイの個人戦などで対局したこともあって多少の面識があります。

 

「鹿児島に長野、お互いに団体戦の県予選は大変ですわね」

 

 私は藤原さんの言葉に頷きを返す。風越女子も九州赤山も二年前は団体戦の県代表。しかし長野に龍門渕、鹿児島に永水女子が台頭してから勢いを落とした。そう考えてみれば境遇が似ているともいえるわね。

 

「みんなも神代(小蒔)さんと何度も戦っている藤原さんと打てて良い経験になったと思うわ。

 合同練習も急な話だったのではないかしら? 付き合ってくれて、ありがとうね」

 

 読川監督からは一年生の三人と個人戦県代表クラスの実力を持つ藤原さんを必ず打たせて欲しいと頼まれていた。

 春の大会で龍門渕の天江衣を破った永水女子の神代小蒔と、鎬を削っている藤原さんとの対戦は、きっと三人にとって県予選で龍門渕と戦う上での貴重な経験となると思うわ。

 

「この合同練習は、けして風越女子の皆さんに胸を貸しているつもりはないのです。

 わたくしたちも団体戦で永水女子の後塵を拝したままで終わる気はありません。

 戒能プロに話をもらったとき、少しでも強くなれるならと思って、こちらに参加させて貰ったのですから」

 

 監督は合同練習だから普段とは違った面子で打つようにと指示を出し、ずっと大人がいたら選手同士で気軽に交流できないからと言って早々と退出した。朝食で会ったときに、かなり疲れている様子だったから部屋で休んでいるのだと思う。

 監督は知り合いの戒能プロから頼まれた用事と言ってたけど、プロを相手に徹夜で打ったりでもしたのかしら。

 

「そうね。お互いに遠慮する必要なんてないわね。一緒に頑張りましょう!」

 

 後で全国の舞台で戦うことになっても、今は互いに県を予選突破することが優先ね。

 

「それに……わたくし個人としても、彼女には負けたとは思っていません。

 そのことを夏のインターハイ個人戦では証明するつもりです」

 

 藤原さんは一つ年下の神代さんに個人としてのライバル意識も抱いてるみたいね。逆に私は天江さんに対して、それほどライバル意識というものはないわね。天江さんが個人戦に出ていないのもあるけど、年の差以上の幼さを彼女の外見から感じてしまうからかしら。

 

 私が個人として意識するとしたら姫松の中堅(エース)である愛宕(洋榎)さん。インハイ時代の読川監督に憧れた私にとって姫松の中堅(エース)というのは特別な存在だ。読川監督が風越女子に来てから今まで以上に意識するようになった。

 

 そして私は監督が来てからは、龍門渕に勝って全国出場するだけではなく全国優勝という夢を抱いている。

 

 佐之海選手という圧倒的な存在がいたから、双璧の戦いが注目を浴びたけど、インハイ男子で団体戦三冠を達成した姫松男子の戦い方は全員麻雀だった。全員が心を一つにして試合に臨んでいるのが、TV中継を見ていただけの私にも伝わるくらいだった。

 

 そんな姿に憧れて、ずっと私は個人戦よりも団体戦での栄冠を臨んでいた。

 ずっと憧れてた読川監督に選手としての栄冠だけでなく、指導者しての栄冠を手渡したい。私の手で――。

 

 団体戦は私一人の力だけでは勝てない。だから、みんなにはもっと強くなってもらわないとね。

 




やたらと高い福路キャプテンからの好感度。
そして咲には読川監督のいい加減な性格がバレてます。
読川監督はスタメンはともかく部の運営には手を抜いてます。

読川は「教師の部活動とか、時間外や休日手当も払われない時間外労働だし」と思ってます。なので麻雀部の監督は教師になるための「手段」に過ぎません。教師になったら監督の肩書が残ってたとしても専任コーチに丸投げするつもりです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。