キャラを勝手な愛称(カッコ内に名称)で呼ぶことがありますがご容赦ください。
「熊倉先生、ご無沙汰しております」
「はー、あんたは相変わらず固いね」
「いや、だってホントにお世話になってますから!
最初の挨拶くらいは――」
電話の相手はインカレ時代の恩師である熊倉トシ先生だ。
福岡の実業団「博多エバーグリーンズ」の元監督で、僕が学生の頃は大学で講師をしていた。
麻雀心理学や麻雀コーチングなど多くのことを学んだ。
新道寺女子の事務職員という職をツテで探してくれたのも熊倉先生だ。頭が上がらない。
「プロになった同期の子たちは、ちゃらんぽらんなのにね」
「まあプロとして活躍するなら、アレくらいの強烈な個性がいるんじゃないんですか?」
「あんたは一体プロをなんだと思ってるんだい?」
ふと、プロになった知り合いの顔を思い浮かべる……。
やはり自分に足りなかったのは、アレなキャラクター性ではないだろうか?
「いえ、最近の若手プロは個性派が多いなと思ってー。
ところで電話とは珍しいですね。何かありましたか?」
「あんたインハイの後に、何処かの学校から誘いとかはあったかい?」
「麻雀部のコーチや監督とかのスカウトの話ですか?」
「そうさ。低かった前評判を本戦で見事に覆した。
白糸台の宮永照にヤラれなきゃ、決勝には行けただろうに」
「麻雀部顧問の誘いが一つだけありましたが断りました」
「どうしてだい?」
「契約期間が二年で満了と短いのが一つ。
あと教員希望なのですが、教職としての採用はできないという話だったので」
「なるほどね。だったら丁度いいね」
「教職採用の枠があるんですか? 都会じゃなきゃあ、どこでも行きますよ!」
「はー、あんた、それが理由で横浜ロードスターズの誘いを断ったのかい?」
「いや、あのときは進学が第一志望だったので……流石に」
ただ「松山フロティーラ」とかだったら悩んでたかも。
すこやんのいる「つくばフリージングチキンズ」はノーサンキューだけど。
「けど、都内の私大の推薦は全て断ったんだろ?」
「だって満員電車って怖いじゃないですか」
なんせ地元である大阪府の教員採用試験だって御堂筋線とか混むから避けてるくらいだ。
公立高校の教師ともなれば定期的に勤務先の異動があるから仕方ないね。
福岡も都会?大学は徒歩で通えたから良いんだよ!
「まあいいよ。場所は長野だね。都会嫌いのあんたには合うんじゃないかい?」
「えっ!? また長野ですか?」
「また?」
「あ、いえ……」
「さっき言ってた誘いがあった所かい。問題ないから教えな」
「インハイ長野代表の龍門渕です。
ほら、あの天江衣のいる」
「あの牌に愛された子かい。
たしかに……あんたの異能もアレと似たところがあるね」
「誘ってきた龍門渕のお嬢様は知らないみたいでしたけどね。
臨海女子にリベンジするにはコーチングの専門家も必要みたいな話でした。
超お嬢様高校みたいで教員職は求めるレベルが高すぎてーー」
「そうかい。私の方に誘いがあったのは長野の風越女子さ」
「風越ですか……たしか長野代表の常連校ですよね」
「そうさ。それが龍門渕に敗れて。連続出場記録が途絶えたのさ」
「それで強豪麻雀部の立て直しを先生に依頼ですか?」
「来年のインハイで龍門渕を破って全国出場して欲しいそうさ」
「それは流石に……無理でしょ?」
「風越に天江衣クラスの選手がいないと無理だね」
「その無茶苦茶な話をこちらに?」
「私には教員採用で麻雀部の監督を任せたいって言われたよ。
あんたにも悪い話じゃないさ」
「コーチじゃなくって監督ですか?」
「風越の麻雀部にはOGの新任コーチがいるそうさ」
「名門校のコーチを新任で引き受けた一年目に予選で龍門渕……」
「一部からは解任って話も出たらしいよ。
流石に厳しいってことで流れたらしいけどね」
「それで新任コーチを支える実績ある監督を招聘ってことですか?」
「そういうことだね」
「先生は断るんですか?」
「わたしは東北をぶらぶらしてて、やっと面白い子たちを見つけたところだからね」
「たしか……宮守でしたっけ?」
「!? ……あんた何処で聞いたんだい?」
「え、いや……あの……(原作知識だなんて言えない)」
「まだ全国的には無名のはずなんだけどね」
「これでも全国ベスト8の強豪校のコーチ代行ですから」
「ほー、それなら長野の子たちの情報も私より知ってるんじゃないかい?」
「そうですね。龍門渕に誘われて調べましたから……」
そういえば来年が咲-Saki-の原作スタート時点か。
これまで人生で原作知識が生きたことって殆ど無いんだよね。
新道寺で二年の白水哩と一年の鶴田姫子を相手にリザベーションを特訓させたくらいかな?
小鍛治健夜プロとか瑞原はやりプロといった原作キャラに会ったこともあるけど……。
異能対策以外の原作知識とか雑誌「WEEKLY麻雀TODAY」レベルのネタだもんな。
「だったら来年の新入生にいい子はいないのかい?
私立の風越女子には特待生枠もあるし、女子寮もあるみたいだよ」
「監督権限でスカウトしても良いってことですか?」
「龍門渕が相手なんだから、そのくらいは必要だろうね」
原作一年生の清澄の三人組を風越に引っ張ってきたら龍門渕に勝てる?
メガネ(染谷 まこ)と部長(竹井久)の代わりに、池田ァ!とキャプテン(福路美穂子)か…‥。
あれ?思ったより悪くない面子だぞ?それに長野にこだわらず有望な一年生を得れば……。
「受けます! その依頼、僕が受けれますか?」
「なら断る際に私の方から先方さんに推薦しとくよ。
選手としての実力ならインハイ、インカレので十分だろうし。
コーチとしても若手ながら全国ベスト8の実績なら大丈夫さ」
「よろしくお願いします!」
「威勢がいいねえ。それにしても龍門渕を蹴って、風越を選ぶなんて秘策でもあるのかい?」
「それなりの策はありますが、一番は雇用条件です!」
「はー、あいかわらず堅実なのか大胆なのか分からないね。あんたは……」
後日、風越女子から正式なオファーが届いた。
ただし実績十分な熊倉先生と違って、未知数ということで条件が提示された。
事務職員としての採用で契約は一年更新。延長条件はインターハイで全国出場。
全国大会でベスト8以上の成績を残した場合にのみ教職員として採用するとの内容だった。
名門校として麻雀部の伝統がある風越は他と比べてもOG会や保護者会の力が非常に強い。
完全な外様である男性監督に対して、就任一年目から目に見える結果が求められた。
「常識的に考えたら、かなり厳しいな……」
来春に就任してから夏のインハイまでの短い期間で部を掌握し、結果を出すのは不可能だ。
だから冬休み明けから麻雀部の監督として就任できるように取り計らってもらった。
ただし監督権限でスカウトできる特待生は二つのみ。三つは欲しいって粘ったけどダメだった。
「たぶん久保コーチの風除け役なんだろうな」
風越のOGたちも全国区で活躍した龍門渕を相手に簡単に勝てるとは思っていない。
なぜなら彼女たちは全員が一年生で全国の舞台に立った。
来年の戦力は上がることはあっても落ちることはない。
下手をすれば天江衣が長野県予選に君臨する限り風越女子に勝ち目はない。
そうなれば新任である久保コーチの経歴に大きな傷がつくことになる。
久保貴子コーチは風越のOGで、選手として県大会六連覇の黄金期を築き上げた立役者の一人だ。
当然ながらOGや保護者にもシンパは多いし、コーチのキャリアも長期的に考える必要がある。
「清澄の三人娘以外に有望な一年っていたっけ……
白糸台の金髪大将(大星淡)は
阿知賀のジャージ(高鴨穏乃)と世界一(新子憧)のスカウトも無理。
かといって風越に臨海みたいな海外勢へのコネクションはないし……」
考えろ。考えろ。思い出せ、思い出せ。
「千里山の次鋒(二条泉)は、戦力としては少し弱い。
あー、なんでツテのある大阪のスタメンに新一年がいないんだ!」
あれれ~おかしいぞ~。意外と一年生で強キャラって少ない?
「有珠山に部のマスコットはやりん二世(真屋由暉子)がいたけど……
わざわざ北海道から来てくれるかなぁ、長野まで」
大阪の個人戦二位(荒川憩)が一年生なら無理にでも引っ張って来るのに!
そういえば、あのコスプレ軍団の中にも一年生がいた記憶が……。
たしかデレステに出てくる白坂小梅っぽい女の子(※あくまで個人的なイメージです)
「愛知の子で麻雀を始めて五カ月で東海王者に登りつめた……。
ってインハイの個人にも団体にも出てないはず。
ということは高校に入ってから麻雀を始めたってことは無いはずだ。
だとしたら東海王者になったのはインターミドルのとき……見つけた」
原作知識を思い出しながら、中学生大会のサイトにアクセスし検索をかける。
「対木もこ、この子だ!」
とりあえずは清澄の嶺上開花(宮永咲)が第一候補。
第二候補がSOAおもち(原村和)とタコス(片岡優希)。
そして第三候補に東海王者(対木もこ)だ。
というか清澄から一人もスカウトできなかったらアウトな気がする。
しょうがない、そんときは風越女子での正規雇用の道は諦めよう。
ステルスモモのステルス機能は転生者の記憶にも通用する。
SOAは「そんなオカルトありえません」の略。