第25局 初日
――竹井久(清澄高校3年生)
私の実力が全国でもトップクラスだなんていう自惚れはない。
けれど憧れのインターハイ団体戦で全国の舞台を夢見るくらいの力は自分にはあると思ってる。
金銭的な事情があったとはいえ進学先に公立の清澄を選んだのは、インハイの団体戦で全国を目指すには明らかに悪手だ。
それでも昔から私は悪い待ちの時ほど和了れるというジンクスを信じていた。
清澄の麻雀部は私が入部したときは幽霊部員が数人いるだけで廃部寸前だった。
それでも私はインターハイに出たかったし、いつか全国に行けると信じて、めげずに環境を整えて待ち続けた。
二年の間は団体戦に出場する機会は無かったけど、悪待ちの甲斐があってか今年は有望な一年生が四人も入ってくれた。
そのうちの三人が、インターミドル個人戦王者の原村和、シニアプロを祖父に持つ南浦数絵、名門風越女子からのスカウトを蹴った片岡優希。麻雀部の実績もなく私立と違ってスカウトなんか出来ない公立の清澄に、これだけの選手が集まるなんて二度と無いと思う。二年生の染谷まこを入れて、ようやく団体戦に出場できる5人が揃った。
まこは「県決勝くらいはいけるとええの」って言ってたけど、三年の私は今年が最後のチャンス。全国優勝とまでは言わないけど、全国出場の夢くらいは見させて欲しいと思ってる。
「着いたじぇ!」「着きましたね」
「南浦プロ、ありがとうございます」
「なに、孫が世話になっとるからの」
「お祖父様!」
県予選の初日、会場まで車で送ってくれた南浦プロにお礼を述べる。
最後のインターハイに向けてやれるだけの事はやった。優希はともかく、プライドの高い和と数絵は入部当初から互いにライバル心むき出しで、ぶつかり合っていた。そこで旧知の靖子(藤田プロ)に「二人をヘコませてね」と頼んだりもした。その後は南浦プロにもお願いして強化合宿を行いチームの雰囲気も良くなったし、チームワークも纏まった。
「うーわー、人多いなー」
一年生で麻雀部唯一の男子、須賀京太郎君。初心者の彼は力仕事など雑用係として部に貢献してくれている。彼の幼馴染が風越女子に進学して麻雀部にいるみたい。名前はたしか――。
「風越女子だ!」ワァアア 「あの糸目が噂の東海王者?」ヒソヒソ 「福路さーん」ハアハア
去年は県2位の風越女子。連続優勝を絶やした汚名を返上する為か、昨年のインハイで新道寺女子をベスト8に導いた若手コーチを監督に起用。動きのなかった龍門渕とは違い、県外にまで手を伸ばす積極的なスカウティング活動を行っていた。ミドルで活躍した和だけでなく、優希にまで目をつけて一緒にスカウトしたっていうんだから怖いわ。ミドル時代の牌譜だけで優希の特性に気付いたっていうなら新任の監督の見る目は確かね。侮ることができる相手ではないわね。一年生とはいえインターミドルの東海王者には警戒が必要だわ。
「咲の奴は……いないみたいだな」
「風越女子の部員は80人以上おると聞くからのー。
さっき歩いてたのは、出場選手だけじゃ」
「うぇっ!? 強豪校ってすげーな。へっぽこの咲がスタメン入りするのは無理かー」
「私たちの10倍以上ですか」「凄いですね」「清澄は少数精鋭だじぇ!」
「そうね。優希さんの言う通りよ」
でも長野の女子麻雀部で少数精鋭といえば――。
「龍門渕が来たぞ……ッ!!」オオオオ 「前年度の県予選優勝校だ!」ワーワー 「衣たんがいないぞー」ペロペロ
龍門渕透華、国広一、沢村智紀、井上純。昨年の四天王が2年になっても健在。風越女子とは違って新入生のスカウティングを行わなかったのは自信の表れか。
「オーホッホ、春の大会は駄目でしたが、夏のインハイでは目立ちますわよ!」
「あーあ……ボク目立つの苦手なんだけどな」「なにをおっしゃいますの!?」
「目立ってなんぼ! 目立ってなんぼですわっっ!」
「だからって自分が目立つ為にスタメンを変えるなよ」
「それは全国で勝つ為ですわ!」「ほんとかよ」
風越女子は緊張感を保ってたけど、龍門渕は余裕ね。全国は出場して当たり前って思っているようね。
龍門渕を倒すことだけしか考えない風越女子。他校は眼中に無い龍門渕。
「あの金髪のロングヘアー、凄い目立ってるじぇ!」
「原村さんも取材とかあるんじゃないですか」
「数絵ちゃんが、のどっちの人気に嫉妬してるじょ」「違います!」
「賑やかねぇ、貴方たち」
「試合前の緊張感が台無しじゃ」
トーナメント表を確認したけど、シードの2校とは決勝まで当たらない。また一つ悪待ちの賭けに勝ったわね。
決勝で首を洗って待ってなさい。長野を代表する私立2校の足元を公立の清澄がすくってやるから。
「では、オーダーを発表するわ。
先鋒・優希、次鋒・まこ、中堅・
「私が大将で、よろしいのですか?」
「合宿でシミュレーションした結果、この順番しかないと思ったのよね」
まずは先鋒、次いで大将に強い選手を据えるのがセオリー。副将は穴になりがち。
「副将の和で稼げるだけ稼いで、大将の数絵が守り切る。それが清澄の作戦よ!」
「わかりました。どこのポジションでもやることは変わりません」
「大将の役目、お引き受けします」
「最強の我は?」
「先鋒の優希は何時も通りね。とにかく後に稼ぐのが先鋒よ」
「稼ぐじぇー、稼ぎまくるじぇー」
「わら、点数計算できんからの」
「ただ優希と数絵の二人は
「わかってるじょ」 「理解してます」
「ま、私たち三人が決勝まで引っ張るから、二人は下手にマークされないようにね」
『あと10分で1回戦が始まります。各校の先鋒は所定の対局室に入室して下さい』
「ついに主役の出番だじぇ」
そうね。龍門渕と風越女子を倒して、主役になるのは私たち清澄高校よ。
――井上純(龍門渕2年生)
「やっぱ、先鋒がやりたかったなー」
未練がましいとは思うけど、春の大会の結果を踏まえてスタメンのオーダーを大きく変えた。
オレは先鋒(昨年)→次鋒(春)→中堅(今年)と、段々と後ろに下がってる。
「まだ言ってますの?」
「まーなー、それに狙ってた清澄の原村和は先鋒じゃ無かったんだろ?」
「うァ、とーかって原村和は絶対に先鋒って言ってたよね? ハズレたの?」
「う、うるさいですわね!
無名校にエースが入れば普通は先鋒になると思いますわ」
お蔭で次鋒も「とーかの後ろが良い」と国広に取られてしまった。
中堅となれば上位や下位との点差によって立ち回りを変える必要がある。
やっぱり点差の無い状態から始まる先鋒が、小難しいことを考えずに済むから一番楽だぜ。
「まさか、副将を替わったともきーの相手になるなんてね」
透華がネット最強の「のどっち」に似てると注目してる原村和は副将。
まだ大将だったら遊び相手として衣の楽しみになったんだけどな。
オレもインターミドルのチャンピオン様がどれほどのもんか知りたかったから残念だぜ。
清澄の麻雀部なんて今まで聞いたこともない無名校だし、相手の弱い所で稼ぐようなセコい作戦か。
まあオレたちには通用しないけどな。
「全国に行けば先鋒は激戦区になる」ボソッ
智紀の言う通り夏と春の二回の全国大会を通してオレたちは団体戦のセオリーを学んだ。
龍門渕のエースは衣だけど、衣が抑えられた場合は後が苦しくなる。
だから激戦区の先鋒にNo2の透華を据えた。
注目を浴びるエースポジションで目立ちたいってのもあるだろうけど、それもプラスの力にするのが透華だ。
「それに風越女子はインハイの先鋒にエースを据えるのが伝統と聞きましたわ」
「純くんも昨年はヤラれてたよね」
「くそー、思い出したわ。やっぱ先鋒が良かったぜ」
名前は忘れてねえ。風越女子のエースの名は福路美穂子だ。たしか一つ上だったから今年は三年生か。
春の大会で先鋒を務めた衣にコテンパンにされた二年の池田なんとかって奴に抜かれるような女じゃなかったはずだ。
「うぅ……完全に迷っちゃったよ……ごめんね」ウロウロ
「……まいごにも……なれてきた」スタスタ
「うぅ……もこちゃん、ひどいよぉ」グスン
すれ違いざまにゾクッと背筋が凍る。同じ様な気味の悪さを感じたのか全員が後ろを振り返った。
「白地のセーラーにピンクのスカート、風越女子の制服――」ボソッ
「春の大会で見なかったってことは一年生か」
「では、どちらかが噂の東海王者ですの?」
「衣に似た空気を感じたよ」
「どっちから感じた?」
「気のせいだと思うけど、両方から」ボソッ
「ボクも」
「ありえませんわ」
「……まさかな」
全国ならともかく、衣みたいなのが他にいてたまるかよ。しかも二人もな!!
――読川尊月(監督)
県予選の出場校は58校。それが午前の1回戦で16校に、午後の2回戦で4校に絞られる。明日が決勝だ。
原作のトーナメント表は覚えてはいないが、龍門渕と風越女子が2回戦からのシード校。
清澄も鶴賀学園も別ブロックで決勝までは当たらない。たぶん原作と大きな違いはないはずだ。
「というか、あいつらは何処で迷ってるんだよ」
お約束というか、なんというか宮永と対木がお手洗いに行ったまま行方不明の迷子だ。
もしかして原作でもよく迷子になってる宮永って先鋒に向いていないのでは?
全国大会で「先鋒が迷って対局室に入室できませんでした」とか止めて欲しい。
観客の少ない午前中に清澄か鶴賀の試合を見に行きたいんだけどなー。
記者にも東海王者に取材したいって言われたし、探すしかないか。
原村ほどじゃないけど、対木も注目されてる。風越女子が龍門渕を打倒する為に他県から連れてきた切り札みたいな扱い。
まあ宮永と東横は実績ゼロだからノーマークになるのは仕方ないね。
お、ようやく発見。
「おーい。宮永、こっちだ」
「監督ぅ~、探しましたよぉ~」タッタタッ
「……さがした」スタスタ
「いや、はぐれてたのはおまえ達の方だろ」
二人を記者からインタビューを受けていたキャプテンの福路に預けて鶴賀の試合を覗く。
先鋒は二年の津山睦月。これは原作通り。
次鋒は同じく二年の妹尾香織。手つきは初心者だけど、
ツクヨミで見ると後光が指してるぞ。ビギナーズ・ラックとか超えた何かは要警戒。
中堅は三年で部長の蒲原智美か。ワハハ。
さてステルスモモの代わりの副将は――
三年の野上葉子。って誰だよ!?
見た目はツインテールのお嬢様風。原作には登場しなかった幽霊部員か?
えっと……どうマークしよう??
あ、鶴賀の大将は「加治木ゆみ」ですよ。
野上葉子は「咲-Saki-」のスピンオフ作品『怜-Toki-』に登場するキャラです。
千里山にいる園城寺怜や清水谷竜華の小学生時代のクラスメイト(幼友達)です。
中学生の頃に大阪から長野に引っ越したという設定です。
異能持ちキャラではないので、元ネタとか知らなくても問題ないです。