――読川尊月(監督)
「次は私の番ですね……」
「敬語ってことは柄にもなく緊張かー?」
次鋒戦を前に緊張する東横に池田が声を掛ける。
「あの咲っちが、何とかプラマイゼロっすからね。予想外っす」
先鋒戦が終わって風越女子の持ち点は104800点。もしも宮永が25000点持ち30000点返しだったと仮定する。前半戦と後半戦を合わせた一荘戦の終了時は29800点でプラスマイナスゼロだ。後半戦は原作だとヘコまされてた冷やし透華を相手に戦ったのだから悪くない結果だと思いたい。
「すまんな。作戦プランの変更は監督側の失策だ」
「いや、監督も想定外の状況で的確な指示を出してたとは思うっす」
東横もフォローしてくれてるし多くの部員も仕方ないと言った感じだが、監督として敵戦力の見積もりを原作知識に頼りすぎてたのは失策だ。有力な指標であることは間違いないが、原作知識を元に相手を侮るなんてのはやってはいけないミスだ。県予選初日にタコスが赤いマントを身に着けてないことを確認して安堵していた自らの慢心を戒めたい気分だ。
先鋒戦をまとめるなら「前半の東場で
正直なところ清澄の竹井久にしてやられた。原作随一の智将だと評価してたのに、やはり清澄を宮永咲のチームだとしか見てなくて部長のことも何処か侮ってたな。
風越女子のオーダーが先行逃げ切り型とか言われもしたけど、清澄の作戦こそ完全に逃げ切りモードだ。
次鋒戦では難しいだろうけど、もし中堅戦や副将戦で清澄が1位のまま鶴賀を飛ばせたら、大将戦を前に逃げ切り勝ちだからな……。南浦の大将起用だって南場まで凌げば守りきれるって判断なんだろうな。恐ろしい神算鬼謀の持ち主だ。
原作では全国大会でもかなり活躍してたから国内リーグのプロ雀士を目指すのも可能だろうけど、世界ランキング上位のプロ雀士の専属スタッフとかに将来なっていても不思議じゃない才媛だ。
「それに……こんな大舞台は、生まれて初めてですし……」
「たった1ヶ月でAクラス入りしたルーキーが、やけに弱気じゃないか」
「中堅と副将に先輩が控えてるんだから、東横は楽しんで来い」
次鋒の起用は、副将に比べてプレッシャーが少ないからだ。原作の鶴賀学園ほど東横の負担は大きくないからな。部員の少ない鶴賀と違って風越女子には久保コーチもいるし、特待で入った1年生を長期的に育てる余裕もある。全国ベスト8という正規雇用のノルマがあるから、県代表になったら全国大会の8月までに即戦力として底上げはするけどね。
というかツクヨミで無力化されてたから実感が薄かったけど、実際のところステルス能力って鍛えればかなり強くない?
初見だと鹿児島県個人戦代表の藤原利仙も対応できなかったみたいだしな。まあ百何十局と打って検証を重ねれば万能じゃないことも分かってきたけどね。
「そうですね。私もみんなには、もっともっと麻雀を楽しんで欲しいと思ってるわ」
「いいんっすか?」
「キャプテンと監督が言ってるんだから問題ないし」
「それに先輩の池田が多少の失点は取り返してくれるさ」
おっと久保コーチも池田を追い込むのが巧いな。逆境を与えれば跳ね返して強くなるのが池田だ。こいつもある意味で戦闘民族なところがあるな。まあ瀕死になっても与える仙豆とかはないけどな。
監督として下手な重責を背負わせるつもりはないが、応援してるぞ(優しさ)
「副将のあたしがカバーするから大丈夫だし! 東横は順位とかは気にしないで打っていいぞ」
「そうだな。気をつけるのは下手に鶴賀を削らないようにすること、そして鶴賀から高い手の直撃を受けないことだ」
「分析レポートにあった何度も続いてるビギナーズラックって奴ですか?」
「ああ、打ち筋は素人そのものだが、やけに
侮っての直撃とか、親かぶりとかでの大ダメージだけは避けろよ」
なんせ鶴賀の次鋒である妹尾佳織はゲーム版だと「役満であがる程度の能力(一定確率で役満手が来る)」というフザケた設定になってるからな。流石にゲーム設定のままの能力を持ってるなんて思わないけど、原作でも県予選と四校合宿、さらにアニメ版の個人戦と三回あった闘牌描写で「全て役満おまけに全て違う役」で和了ってるからな……恐ろしいってか、なんだよこいつ。
清澄の次鋒、染谷まこが染め手(※ホンイツ・チンイツのこと。一色手ともいう)を得意とすることは分析班のレポートと共に伝えてあるから大丈夫。なんせ分析班の中には彼女の実家が雀荘「Roof-top」だと聞いて私服で学生の客を装って通い清澄のメンツと何局か打った奴までいるからな。
東横が「まるでスパイとか探偵みたいっすね」とか言ってたけど、麻雀に限らず強豪クラブの情報収集は、ちょっとしたインテリジェンス(諜報活動)染みたところもあるからね。姫松の男子たちは勝つためなら、多少のえげつないことは平然とやってたな。全国出場校は互いに練習試合ができないから他校の男子に女の子を紹介する代わりにスパイをやってもらうとかね。他にも二重スパイに噓の牌譜を渡して分析を撹乱させたりとか……いろいろ。
龍門渕の国広一も昨年のインハイ、春の大会と牌譜や映像が豊富だったので分析班が活躍してくれた。原作の副将戦と違ってSOAさんもいないし、ステルスを阻止できる者はいないはずだ。全国の舞台に向けて実戦でのステルスを色々と試して欲しいとは思ってる。
――沢村智紀(龍門渕高校2年生)
「まだ透華は目を覚まさないよね?」
「医務室に連れて行かなくても大丈夫か?」
「
透華お嬢様は衣様の判断によると
「それにしても龍の逆鱗に触れれば
衣様がお嬢様の側で様子を診ながら嬉しそうに顔を綻ばせる。
後半戦は清澄の先鋒は衣様が予想してた以上に抵抗を試みたし、ずっと抑えていた風越女子の先鋒も南場の最後には花を咲かせた。お嬢様が稼いだのは18200点。後半戦の半荘では単独のプラスでトップの収支だけど、前半戦のマイナスが響いての龍門渕は3位。
「いつも通り試合の前は透華にお願いしたかったな……」
はじめは私と同じ龍門渕のお屋敷で働くメイドだけど、龍門渕に代々仕えてきた家の私と違って、中学3年の頃に連れてこられた彼女はお嬢様との距離が私よりずっと近い。私もお嬢様から普段はフランクに接して欲しいと言われているが、長年の習慣もあって切り替えるのが難しい。だからなのか自然と言葉数も少なくなってしまった。
「純くん。ごめんだけど手錠についてる最後の鍵をかけて貰ってもいいかな? そう背中の後ろの――」
「これで、いいか」
「うーん、大丈夫。やっぱり動作に制限がかかるし苦手だなコレ……」
「心配性の透華が寝てるんだから、形だけでもよくねーか」
「ズルは駄目だよ。万が一ってこともあるし、それに失った信用を取り戻すのは大変だからね……」
はじめが悲しげに目を伏せる。マジシャンを父親に持つ彼女は「手品」が得意だ。小学生時代に麻雀の大会でマジックの技術を悪用したイカサマをしてしまった前歴がある彼女を、お嬢様は再発防止と戒めのため麻雀の対局中は拘束具を身につけることを条件に龍門渕にスカウトした。本人は父親に売られたとか言ってるけど、お嬢様が彼女の父親に職を斡旋しただけだ。龍門渕の名誉を損なうような発言は止めて欲しい。
「風越はともかく清澄とは、だいぶ離されてるけどいけるか?」
「まァ、ボクがなんとか首位に追いついて、透華も安心して目覚められるようにしておくよ」
そうね。たしかに普段のお嬢様だったら「どんな相手であれ、龍門渕が3位だなんてありえないですわ!」なんて言って騒ぎ出しそうだもの。
「後ろには衣がいるんだ。無理はしなくてもよい」
「ははは、そんなんだと透華に怒らちゃうよ。じゃあ行ってくるよ!」
「おう、がんばれ!」
「がんばって」
試合会場に向かうはじめに言葉をかける。お嬢様のように自然と周囲を鼓舞するような発言や振る舞いはできないけど、それでも気持ちだけは込めて――。
「大した自信のようだったけどさ……」
「ここから私たち三人だけで1位をまくるのは難しい」
「展開次第で鶴賀が下手したら飛ぶ可能性もあるし、何も考えずに攻めれるわけでもないしなー」
私たちが勝つためには最下位の鶴賀を追い詰めないようにしながら、清澄と風越女子を削る必要がある。
「移ろう順位など所詮は仮初のこと、衣まで回ればよい」
今日ばかりは大将である衣様の力に大いに頼ることになりそうだ。
昨年のインハイ準決勝で破れたのは4人目。龍門渕は5人目まで回れば心配することはないのだから――。
後半戦を期待していた方は申し訳ない!
冷やし透華ターンは闘牌描写というより細部の点数計算や必要な役の把握などが間に合わず時間稼ぎ回となりました。毎日投稿を諦めるって手もあったのですが、それをやると勢いが止まってしまうのが怖い。そこで書けるところから書いてみる。まずは物語を進めるというのを優先しました。
ともきーは寡黙だからこそ、頭の中では色々と考えてるんだよ!って感じで。
家が代々仕えてるとかは独自設定です。同じメイドでも国広くんとの違いを出してみた。
心の中では龍門渕家に仕える忠実なメイド。どちらかというとハギヨシさん寄りだけど、年齢が近いから透華に家の外では友人のように接してと命令されている。上手に切り替えができないから寡黙。
*ちなみにアニメ版のDVD「書き下ろしピクチャードラマ」だと沢村智樹は北海道からスカウトされたことになっているらしい。私はピクチャードラマの方は見てないんで、この二次創作はアニメ版の記憶と単行本の設定メインで書いてます。