――竹井久(清澄高校3年生)
去年のインハイ準決勝で東東京代表の臨海女子が副将戦で最下位の合浦女子を飛ばしたのは、大将戦に出てくる天江衣を恐れたって噂だったけど間違いね。副将の相手が恐れてた本当の相手は、後半戦で本領を発揮した龍門渕透華だったのね。和と似た様な
後半戦は速度より火力を重視した波だったとはいえ、東場の優希が抑えられてしまった。特に和了れば満貫以上になっていた立直を2回とも流されたのが痛い。龍門渕が鳴いたりしなければ一発ツモになっていた手もあった。後半戦の検討を行っていると控室に先鋒戦を終えた優希が戻ってきた。
「たーだいまー、後半は何もできなかったじぇ」
「よお頑張ったのう」
「お帰り、あのメンツを相手に首位なんて大健闘よ。胸を張りなさい」
それに彼女も東場で一度も和了れなかった訳ではない。満貫をツモ和了りする意地を見せた。
間違いなく全国大会でも上位に位置するであろう龍門渕と風越女子の
本来であれば憚ることなく誇っても良い結果なのに、和のこともあってか優希も素直に喜べずにいる。
「でも部長の作戦だとサンコロの予定だったじぇ」ぐっ
(※サンコロ=3人をマイナスに沈ませてトップを取ってる状態、3人を殺すとか転がすといった意味)
「南浦さん、仮眠室に行きましょう」スッ
「別に私は眠くはないが……」
「いいから、早く」バタン
彼女が下唇を噛んだのを見て和が気を利かせてくれたのね。ありがとう。
同級生の前だと涙も流せないと思って数絵も一緒に連れ出してくれた。控室に残っているのは私とまこの二人だけだ。
自分の知らなかった幼馴染の一面に衝撃を受けてた京太郎くんも気分転換を兼ねた買い出しに行かせている。
「後半戦の龍門渕や風越女子の新入生の力は私が予想してた以上だった。
それなのに前半戦の得点を殆ど削られなかったんだから上出来よ!」ポン
龍門渕は
それにしても幼馴染が麻雀のルールを知ってたのさえ知らなかったって……可愛い子なんだから、ちゃんと目をかけてあげなさいよ。試合の途中からは「俺の知ってる咲じゃない」とか言って変貌に驚いてたけど、あの雀力は一朝一夕で身に付くものなんかじゃない。となると風越女子の監督は幼馴染の京太郎くん以上に宮永さんのことを知っていたということになる。
京太郎くんが幼馴染のことをしっかり見てくれて一緒に清澄に進学してくれば、こんなに苦労することは無かったのにと勝手なこと思う自分が嫌になる。はぁ……おっぱいばかりに視線を向けてないで、もっと女の子の細かなところに目配りしてれば、もう少しモテるのにね。
「……」グスッ
和が
「よく我慢したわね。私のこと信頼してくてありがとう」
「部長の言うことは絶対だじぇ、いつも以上の力が出せたのも言いつけを守ったからだじぇ」
波を無理やり県予選決勝に合わせるために無茶な回数の麻雀を打った。部活が終わった後もまこの家の雀荘で様々な客を相手に打った。本来であれば休息を取るべき休みの日も調整に費やした。入部した当初と違いインターハイでの勝利に照準を合わせてからは心から麻雀を楽しむ機会なんて無かったんだと思う。
だから風越女子の宮永さんが「麻雀って……楽しいよね」って言ったとき優希の肩が怒りで震えてたことに気付いた。ごめんなさい。私は無力で駄目な部長。麻雀を楽しみながら全国の舞台に皆を連れて行く力が無かった。だからこそ誰よりも我慢して頑張ってた優希を褒めてあげたかった。
「よくやったわよ!」
「うぅ……うわあああぁぁぁ」
「あとはわしらに任せんしゃい」
「そうね。作戦通り次鋒、中堅で少しでも点を増やして後の二人に繋ぐ……貴方の頑張りに私たちも応えるわ」
「ほいじゃあ、行ってくるかのー」
まこ任せたわよ。貴女にとって初めての後輩が個人戦を捨ててまで稼いだ点棒を無駄にはしないでちょうだいね。
大泣きする優希を抱きしめながら私は次鋒戦の前半を見守った。
――加治木ゆみ(鶴賀学園3年生)
「津山を先鋒に据えたのは失敗だったな」
次鋒戦に出発した妹尾を見送った後、思わず弱音をこぼしてしまう。
先鋒戦を終えた津山は控室には戻っておらず部長の智美が外の空気を吸いに連れ出して慰めているところだ。
麻雀部の実質的な仕事を取り仕切っているのは私なのだが、名目上と雰囲気的な部長は智美だ。
こういうときは私よりも、実家の仕事柄鼻が利くという智美の方が気の利いた受け答えができる。
「今さらだけど、やっぱり私を先鋒にしとけば良かったのよ」
「……そうだな。私の失態だ」
当初は千里山の幼友達たちと全国の舞台で戦いたいと考えていた葉子が先鋒を希望していた。
しかし実力があるとはいえ幽霊部員で部室に顔も出していなかった彼女に先鋒を任せて良いか私は悩んだ。
結局のところ来年には新部長として麻雀部を背負うこととなる津山に先鋒を任せることにした。
やはり先鋒は一般的にエースポジションだから箔にもなるし、他校の先鋒との戦いを経験して今後の自信や励みに繋がればと考えていた。麻雀部の将来を見据えてとのことで最終的には葉子も納得はしてくれた。それが裏目に出た。
多少の厳しい洗礼を受けるのは覚悟していたが、まさかこれほど酷い卓になるとは予想だにしなかった。
独走する清澄に対して風越と龍門渕が逆襲を行った結果、鶴賀だけがトータルで-46800点と大きく沈んだ。
「でも後半戦で和了れたのは良かったわね。前後半とも焼き鳥だったらと思うと……」
「ゾッとするな。下手をすれば麻雀を辞めることになっていたかもしれん」
「これから誰かが途中で飛ばされてでもしたら、津山さんは自分の責任だと感じるタイプよ?」
「流石に次鋒戦で飛ぶことはないと思うが……」
「妹尾さんはド素人よ。大量失点する可能性も高いわ」
葉子の言う通り次鋒の妹尾は人数集めの為に入部させられた麻雀初心者、それこそド素人だ。これまでは運良く勝ててはいたが、県予選決勝でビギナーズラックが通用するとは思えない。三校のレベルも予想してた以上だ。
龍門渕が強いのは分かっていたが、先鋒になった龍門渕透華は昨年のインハイと春の大会と全国で2度戦ったことにより力強さを増していた。風越女子は春の大会で新戦力となる2年の力を観ていたので、期待の新入生が1人増えたところで大きくは変わらないと見積もっていた。それこそスタメンに1年生が3人もいると聞いて今年は捨て石にして、来年を見据えた布陣なのかと疑いもした。
「……最悪のケースはないと思いたいが、中堅、副将と間違いなく厳しい戦いが続くだろうな」
「彼女のためにも攻めよりも守り、まずは大将戦まで飛ばないように戦うしかないわね」
「いいのか?」
葉子の麻雀は攻めのスタイルだ。全国出場に懸ける願いは鶴賀では一番強いだろう。それが守りを言い出すなんて意外だった。
「全国を諦めるなんて言うつもりはないけど、これでも今の仲間を大切に思ってるしね」
「そうか……すまないな。長野に引っ越してきたお前と友達になれて良かったよ」
「べ、べつにゆみや智美のためじゃないから!
二人は私の後輩なわけだし、幽霊部員でも先輩なんだから当たり前のことよ。
それに竜華や怜さんたちに仲間を見捨てたなんて思われたくないだけだからね!」
葉子はツンケンで素っ気ない態度を取ることがあるので昔っから誤解されがちだ。お嬢様気質で高飛車なところもあるが、身内に対しては情が深く面倒見の良い奴だ。頬を赤く染めて恥ずかしそうにそっぽ向いてるのを葉子を見て思わず笑みがこぼれた。
「なに笑ってるのよ!」
「いや、やっぱり負けたくないなと思ってな」
「当然よ。まだ私は千里山と戦うのを諦めてないですからね!!」
いちおう読川監督がオリ主なので、闘牌とは別に監督視点の戦いも書きます。
原作では選手vs選手の戦いに解説役のような形でコーチや監督が絡んで来ましたが、本作では監督sideの考えを掘り下げていきたいなと思っています。
竹井久と加治木ゆみは清澄と鶴賀における監督的な立場にある選手ですね。
正直なところ原作および神の視点を持つ読者からすると加治木ゆみの予想は甘いと思うかもしれません。実際のところ春の大会のメンバーを見て原作の風越女子くらいの戦力を見積もっていました。それ以上を学生の立場で想定しろってのは無理かと……誰かさんが原作の魔境NAGANOに東海の魔物MOKOまでぶち込んでますしね。
むしろ宮永咲さん抜きでも龍門渕と風越女子(改)を本気でぶっ倒しに来てる竹井久が凄い。
なんか書けば書くほど清澄には原作にはなかった悲壮感が増してるのが……。
原作だと県予選決勝の四校で悲壮感があったのって風越女子だけなんですよね。