風越先鋒、宮永咲   作:のぶほし

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コールド・リンピッドゥ・フラワー、そして時は動き出す――


第33局 気付

――井上純(龍門渕2年生)

 

「ハッ……!!」ガバッ

 

「トーカ……」

 

「お、起きたか」

 

「おめざめ……」

 

「夢でしたか――、えっ……夢オチですの?」

 

 次鋒戦も後半が始まろうとする頃、眠りについていた透華が目を覚ました。どうやら寝ぼけてるみたいだな。

 

「先鋒戦の後半のことなら――」

 

「トーカ、夢幻ではないぞ」

 

「試合後に気を失ってたんだよ」

 

「先鋒戦の牌譜まとめたけど見る?」

 

 智紀が試合を観戦しながらノートパソコンでまとめていた牌譜を透華に見せる。

 

「しっかし後半は見事に取り返したなー。派手な和了は少なかったけど……」

 

 透華は4回ほど和了ったけど、高い手は親番の満貫くらいだった。

 

「治水の龍とはいえ、東場の風神を抑えるのには随分と力を必要としたらしい」

 

 東場の清澄が何度も高い手を作ってたから、透華が抑えなければ点差は絶望的なものになっていただろう。

 牌譜を見れば一目瞭然だが、後半戦の冷たい透華は表に出る点数以上の働きを一人でしていた。

 それでも清澄の先鋒は東場で1回和了ってるんだから、消耗は衣の言う通りなんだろう。

 

「河はずっと静穏で落ち着いたものとなると思っておったが――」

 

「こんなの……こんなの私じゃありませんわッ!! 却下ですわ!」

 

「でも後半戦の収支トップ、風越にも追いついた」ボソッ

 

「なんですか風越の先鋒(あの女)は南場の最終局(オーラス)で倍満って、そこまでして目立ちたいんですの!!」

 

 まあ透華が前半戦のオーラスで倍満ツモって和了ったのをやり返された形だからな。

 それに風越の倍満で親っ被りがなければ、龍門渕は2位で終わるはずだったからな。気持ちは分かるぜ。

 

「あの風越の嶺上使いも、まさか雪魄氷姿(せっぱくひょうし)のトーカを最後に破るとは空谷跫音(くうこくきょうおん)*。(*予期せぬ喜びのこと)

 南場が東風(こち)に暖められて薄氷と化したとはいえ、冷えた峰の上でも花を咲かせるとは――」

 

「風越の監督は後半から冷たい透華が出て来るのを予想して指示を出してた」

 

 たしかに智紀の言う通り先鋒戦の後半が始まる前、会場に風越女子の部員が指示を伝えに来てたからな。

 冷たい透華なんて公式戦だと昨年のインハイ準決勝くらいでしか表に出てないんだけど、どうやって察知したのやら。

 そういえば昨年は九州の強豪校でコーチをやってたらしいからな。あの試合を生で観られてた可能性もあったのか。

 

「たしかに風越は枕戈待旦(ちんかたいたん)*の監督の力もあるか」(*戦いの準備を怠らないこと)

 

 風越女子は当然として清澄高校からも本気でオレたちを倒しに来てるってのが伝わるな。おもしれー。

 昨年のインハイ県予選や春の地区予選が温かったから、オレたちは少し敵を甘く見てたみたいだぜ。

 

「ほんとに納得いきませんわ!!」ビビッ

 

「いつものスタイルとは全く違うから参考にもし難い……」

 

「まあ、ここぞというところで勢いづいて流れにノる普段の透華の方が、国広くんも好きだって言ってたな」

 

「はじめ? ……そういえば今は何戦ですの?」

 

「……今さっき次鋒戦の後半が始まったところ」

 

「休憩中も国広くんが心配して控室まで戻って来てたぞ」

 

「前半戦ははじめがトップで終了。龍門渕は風越を抜いて2位に浮上した」

 

「流石やればデキる子! はじめはやればデキる子ですわっ!!」

 

「鶴賀の眼鏡は素人、清澄の眼鏡も精彩を欠いてるし、風越も目立ってねえな。次鋒戦に敵はいねーよ」

 

「そうですの。やはり清澄も風越も先鋒には、ちゃんと真の先鋒(アイドル)を据えてたということですわね」

 

「トーカを会場から運び出すときに面妖な気配を感じたが」

 

「あのときは鶴賀の次鋒しか卓には座ってなかったはず……?」

 

「そうそう。次に国広くんが卓に着いて、最後に清澄の眼鏡が入って来て……あれ?」

 

「となれば面妖な気配の正体は残りの風越か」

 

「中継を見てもなんのオーラも感じませんわ」

 

「風越の監督は握髪吐哺(あくはつとほ)*よな。これなら全中の東海王者だという大将も愉しみだ」(*すぐれた人材を求めるのに熱心なこと)

 

 

 

――宮永咲

 

「りゅーもんさん、すごかったよ……最後にようやくカンを1回するのがやっとだった……」

 

「普通はそうそうカンなんかできないし」

 

 あの状態のあの人を相手にして他をトバせるような人が全国にはいるって監督から聞いた……。

 それに熱のこもった打ち筋を見せた清澄の先鋒さんが居たからこそ、徐々に凍った卓が溶かされて最後に何とか嶺上開花を和了ることができた。

 

 監督が相手はお姉ちゃんだと思って家族麻雀のようにプラマイゼロで終えれば良いと指示を出してくれた。

 きっと無理に勝とうとして打ったら、負けてた相手だった。そんな手強い相手が全国には沢山いる……ふふふ。

 

「……おもいだし……わらい?」ジー

 

「うん、まだワクワクが止まらなくって」ウズウズ

 

 本当は先鋒(エース)を任されたんだからトップで次鋒の桃ちゃんにバトンを渡さなきゃ行けなかった。

 そのことを控室に戻って来てから真っ先に謝ったけど、監督やキャプテンは「他校の先鋒(エース)を相手に失点しないのも先鋒(エース)の仕事」だと言って褒めてくれた。

 

「宮永さんが試合を楽しめたようで何よりです」

 

「試合前に控室を出ていくときは表情が少し固かったからな」

 

 福路キャプテンと久保コーチから指摘される。たしかに前半戦の最初は集中できていなかった。

 県予選とはいえ初めての決勝の舞台、全国へと続く大事な試合……プレッシャーを感じてたのかな。

 

「意外だな宮永でも緊張するとかあるのか」

 

「監督、宮永さんを何だと思ってるんですか?」

 

「ふえぇ……とか言いながらも最後には相手をボコってるイメージ。

 校内ランキング戦でも他を圧倒して蹂躙する姿は見事に魔王(ラスボス)だったしな」

 

「ええっ!? 監督、それは酷いですよ」

 

「健気に頑張ってエースになった麻雀部のアイドルになんてこと言うんですか」

 

「ちょっとデリカシーがないですよー」

 

 うわわ……監督の中での私のイメージが凄いことになってるよぉ。

 だって校内ランキング戦は監督に「王者である姉(チャンピオン)と戦うなら覚悟をみせろ、校内では他を圧倒して1位になれ」って言われたからだもん。蹂躙とか魔王とか表現が酷いよ。

 

 さっきの後半戦だってダメダメだった。氷の魔王(フルーレティ)によって凍らされた世界で、清澄の優希ちゃんこそが決意の炎を秘めた剣(レーヴァテイン)を武器に戦った勇者だ。私は氷が溶けた山に手を伸ばして最後に花を一輪咲かせただけの端役(サブヒロイン)に過ぎない。とても魔王(ラスボス)なんて柄じゃないよ。(※ラノベのファンタジー描写じゃなくって麻雀の話です)

 

「あながち……まちがってない」ボソッ

 

 もこちゃんまで……私なんかが魔王だったら、お姉ちゃんなんて大魔王って呼ばれててもおかしくないよ。

 それにもこちゃんだってレイドボス扱いされてるからね。風越女子だと福路キャプテンはきっと裏ボスだよ。

 

「ま、1年生が名門校の先鋒(エース)を務めるんだから初陣で緊張するのは当然だし」

 

「華菜ちゃんも春の大会で先鋒を任されたときは緊張してたもんね」

 

「春の大会はインハイの前哨戦だから、いうほどの重責は感じてなかったし!」

 

「ほぅ、池田は春の大会とはいえ伝統ある風越の先鋒を軽く扱うつもりか?」ジロッ

 

「にゅあ!! こ、コーチの誤解だし! みはるんに対しての言葉の綾だし」ヒェ

 

「あの卓を楽しめたんなら宮永は風越(うち)先鋒(エース)に相応しい大物だと思うよ」

 

 深堀先輩の一言に全員が頷く。楽しかった。またあの人たちと一緒に打ちたいな。

 

 次鋒の桃ちゃんも「楽しんで来い」って言われて送り出されたみたい。

 通路ですれ違ったときも肩を叩かれて「さきっちは、楽しかったっすか?」って声をかけられた。

 あのときは驚いちゃったよ。だって人通りの少ない通路なのに気配を全く感じなかったんだもん。

 桃ちゃんが「さきっちが抑えられた分はわたしが稼ぐっす」と言ってくれた。

 

 私たちの後ろにはキャプテンや池田先輩が控えているから安心して自分の対局だけに集中できる。

 そして大将のもこちゃんは団体戦に出るためだけに愛知から長野の風越女子に入学したと言っていた。

 Bクラス以上は強制参加の個人戦を監督に直談判してまで拒否するくらい団体戦に対する意気込みを胸に秘めている。

 

 私は最強(まおう)じゃなくていい、けどキャプテンが言ったように「私たちが最強」だっていうのは自然と信じることができる。それが風越女子の強み。このメンバーが精一杯やった結果で、お姉ちゃんと戦えなかったりしても後悔はしない。

 

「東横は消えるのに時間がかかってるな……」

 

「流石に決勝となると相手も手強いし」

 

「やっぱり厄介なのは龍門渕の国広一ですね。先ほどから周囲を注意深く観察してます」

 

「二本場を直撃で止めたから警戒されてるのでしょうか?」

 

「癖は出てましたけど、狙い撃ちしたわけではないので気付かれてはないかと」

 

「ステルスは消えるまでの間は高い手を作れないとかデメリットもあるな」

 

「気の抜けた場だったら東場で消えることもできるが、やはり半荘は消えるための時間が必要だな」

 

「けど前半戦をフルに使いましたから確実に消えることができてるはずです」

 

 監督やコーチ、弓野先輩を始めとした分析班が中継を観ながら桃ちゃんの様子を話し合っている。

 

 普段から影の薄い桃ちゃんが本気になって消えたらリーチを宣言しても誰も気付かない。

 ステルスモモのリーチはダマテンと同じ。桃ちゃんのステルスは私も無警戒で振り込んじゃうくらい強力だ。

 

 いつも拾ってくれた監督に恩返しするって言ってるもんね。頑張って!!

 

「此処からがステルスモモの本領発揮だし!」

 




点数の推移の目安(*点数計算などの誤りにより多少の修正の可能性あり)

先鋒戦 前半終了時点

片岡優希(清澄高校)150800 +50800 3連続Wリーチを含む5連続(+1回)和了
宮永咲(風越女子) 100300 +300 2連続+満貫1回のリンシャン拳3発
龍門渕透華(龍門渕)83500 -16500 ラスで子倍満
津山睦月(鶴賀学園)65400 -34600 焼き鳥 魔物が二人の卓とか無理

先鋒戦 後半終了時点(前後半の合計収支)

片岡優希(清澄高校)140300 -10500 (+40300) 和了は子満貫ツモ1回のみ
宮永咲(風越女子) 104800 +4500 (+4800) 和了はリンシャン拳の子倍満1回のみ
龍門渕透華(龍門渕)101700 +18200 (+1700) 4回和了ってる 高い手は親満貫が1回
津山睦月(鶴賀学園)53200 -12200 (-46800) なんとか2回和了れたけど……

次鋒戦 前半終了時点

染谷まこ(清澄高校)135700 -4600 素人さんの捨て牌のせいで焼き鳥
国広一(龍門渕)  116000 +14300 4回和了った やればできる子
東横桃子(風越女子)106000 +1200 龍門渕の連荘を阻止 振り込みはなし
妹尾香織(鶴賀学園)42300 -10900 焼き鳥 振り込み1回 役満ガチャに挑戦中
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